相変わらず、物語の展開に文章が追い付げずに居ます。今回は取り敢えず2話続けて書き上げましたが、また間が開くかも知れませんが、良ければ読んでみてください。
窓から差し込む、朝の明るい日差しによる温もりがハジメの頬を優しく撫でる。次第に覚醒してゆく意識の中でハジメは、今自分は数ヶ月ぶりに清潔なフカフカとしたベッドの上で眠っているんだったなと、何となくそんな事をボンヤリと思い返していた。
そして、自分の口角がだらし無く緩んでいることを自覚しつつ、微睡みの中で改めてトールと再会できた喜びを噛みしめながら在りし日の己の日常に思いを馳せる。
『こうして朝の惰眠を貪っていると、トールが起こしに来てくれるんだよな………』
ハジメは両親からの薫陶が厚く行き届いた生粋のオタクである故に、その生態はご多分に漏れず徹夜でのアニメ鑑賞やプラモデル制作その他諸々、多方面に守備範囲を広げて手を付けており、そして更にはファフニール氏や滝谷氏と夜を徹してネットゲームに勤しむ事が頻繁にあり、その度に寝坊をしてはトールに起こされる事が半ば毎日の日課の様になっていた。
『あと五分』などとハジメがお約束をかますと、トールは微笑み苦笑しながら『もう、仕方ありませんね』とハジメを甘やかすのだが、それだけにとどまらずニンマリと小悪魔的に笑って、ハジメが包まる布団の侵入してはその豊満な肢体を惜しげも無くハジメに擦り寄せて、子作りを迫って来るのだ。
『……………』
あの頃のハジメは今とは違い気弱で奥手だった為に、トールからの積極的なアプローチにも恥ずかしさのあまり、アレヤコレヤと理由をつけたりして逃走を図ったものだが、今のハジメならば果たしてどうなる事やら。
『間違いなく誘惑に抗えないんだろうな、多分………』
魔物肉の影響による変異によって肉体的にも精神的にもタフさを増したが、それに反比例するかの様に恐らくは下がっただろとうと思われる、自身の性的欲求の抑制に自信を持てない、南雲ハジメ青春真っ只中の十七歳であった。オイオイ!
寝覚めの微睡みの中で、いよいよ自覚した己の欲望に少しばかりバツの悪さを感じつつハジメは、たまにはトールに起こされる前に自律的の起きるべきかとも思うのだが、久し振りのベッドと布団の柔らかさと心地よさとに睡眠欲求が勝り、もう良いやとばかりに意識を再び眠りの園に誘われるままに任せ、ハジメはその意識を手放すのであった。
『ハジメさん朝ですよ、起きてください』
と、トールの玲瓏な声で起こされるのも悪く無い、いや久し振りに彼女から起こされると言う愛すべき日常イベントをこなしたいとの欲求に従って。そのついでにトールによるスキンシップが行われた場合は、どうなってしまうのか、其処は敢えて考えずに眠るのだった。
そうして再度手に入れた眠りの園であったのだが、その心地よき時間は僅かな時間で奪われる事を余儀無くされたのだった。それは不敗の魔術師が手に入れる事が出来た働かずして生活が出来た、二ヶ月の時間が悠久の長い時と感じられる程に短い時間であった。
『…………ん………っ』
何やら身体がモゾモゾとした擽られている様な感覚に苛まれ、ハジメは眉間にシワを寄せて小さなうめき声を漏らす。サワサワと柔らかくて温かな感触のある何かに触れられ、ハジメの若い肉体は敏感に反応して精神の覚醒を迫られ。
『………うっ………』
遂にハジメは麗しき眠りの姫との甘い蜜月の刻は、敢え無く絶たれてしまったのだ。それは大胆にして不敵な闖入者による強制介入の結果であり、ハジメはその闖入者に付いて大いに思い当たる節があった。その下手人は未だハジメが目を覚ましていると言う事を知ってか知らずか、何も言わぬハジメの下半身方面から徐々に上半身へと移動しながら、手足や背中や下腹部辺りをサワサワスリスリと弄ぶ様に触れており、それは次第にエスカレートして行き、もう間もなくハジメのゴルディオンハンマーに行き着くのも時間の問題だと思われる。
『このヤロー、黙っていりゃあ調子に乗りやがってッ!』
折角の心地よい眠りを邪魔されて蟀谷を引く付かせ、少しばかり苛ついたハジメは内心に下手人対して悪態をつく。折角の心地良い眠りの時間を奪ってくれた下手人に、銀河チョップのお仕置きの一発でも喰らわせてやらねば気が済まんと、それを喰らわせるタイミングを見計る。
『おふっ!?』
とは言えど、ハジメも若い肉体を持つ青少年である。女性のスベスベとして柔らかくたおやかな細い指と掌で弄ばれていれば、ハジメの本能がゴルディオンハンマーの発動を承認してしまう事態に陥ってしまうだろう。しかしトールと言う最愛の女性の存在がいるハジメには、他の女性にそのリビドーの赴くままにパトスを解放する訳には行かない。ハジメは心に固く決めているのだ、ゴルディオンハンマーを初めて発動承認する相手はトールだと。
そんな気持ちを抱きながら、侵入者にお仕置きを食らわすベストなタイミングを見計るハジメは、いよいよその瞬間が訪れたと感じ布団をめくり半身を起こしてチョップを喰らわせるべく、その身に力を込めるのだが。
そのタイミングで部屋の扉が大きな音を立てて開かれる音が部屋内に響き渡り、何事かとそちらに気を取られる。
「この娘は朝っぱらから一体何をやっているんですかねぇ!!?昨日の今日でハジメさんが、まだ疲れているんですから少しはお休みさせてあげようと言う心遣いの一つも出来ないんですかぁぁッ!?」
「うぎゅッ!?」
ハジメが剥がし取る筈であった布団をめくって、その下手人の着た衣服の首根っこを掴んでつまみ上げ、宙ぶらりんにした状態でお説教のお小言を食らわせるトールの姿があった。
「うみゅ〜っ、トール姉さま、痛い……」
そして、そのトールの手により宙ぶらりんの状態でシャツの襟首から、その身を左右に小刻みに揺れしているユエ。更に加えて涙目になりながらトールに痛みを訴えるユエの姿が中々にシュールな光景であった。
「あァァんッ!?ハジメさんに手を出そうとする
「ぁ、ひっ!?」
右手で掴み上げたユエを己の顔の前に持ってきて、ギロリとガン決まりの鋭い眼光でユエを睨め付けて、トールがドスの効いた声音でプラプラ揺れるユエにクンロクを入れる。その迫力がひどく怖ろしく、ユエは小さな悲鳴を漏らし冷や汗を流す。因みに今現在ユエが纏っている衣服は、迷宮攻略の際にハジメが狩った魔物の皮を鞣して作った簡易なモノでは無く、トールが自分の鱗を使って仕立てて、彼女に渡した物である。
何だかんだと言いながらも面倒見の良い気性をしているトールは、ユエの事をハジメを狙う不届き者と思っていながらも、彼女の存在があればこそハジメが今日まで生きてこの迷宮の最奥まで辿り着く事が出来たのだろうと複雑な心境ながらも、それなりに評価をしているのだ。
シルクの様な見た目の白い清楚なブラウスシャツと、純白にちょっとした意匠を凝らした、それなりにオシャレなおパンツ様のみを身に着けた格好のユエ。
しかもシャツのボタンは全て外されており、トールと比較しては些か以上に僅かな物ではあるが、それなりに存在を主張している双丘の谷間や、腹部中央にちょこんと小さな臍の穴も露わになっており、何とも扇情的な格好である。しかし今はそれもトールに襟首をつかまれ、吊るされている状態なので、シュールな事この上ない光景である。
「はっ、はは……ははは………」
自身も惰眠を妨げてくれたユエにチョップの一発でも叩き込んでやろうと思っていたハジメだったが、トールに捕まりクンロクを入れられている彼女の憐れな姿を目の当たりにし、そんな気も失せてしまい乾いた笑いが漏れで、そして。
「ハジメさん、朝食が出来るまではもう少し時間が掛かりますから、ゆっくりしていて下さいね!」
一転し、ハジメに対しては屈託の無い温かくも朗らかな笑顔で労りの言葉を掛けるトール。その表情の変わり様は瞬く間ほどの一瞬での変化であり、界隈の者が居れば『俺でなければ見逃していたね』とでも宣いそうである。
「あっ、はい………」
その変貌ぶりを、久し振りに目の当たりにしたハジメは、返事を返すまでに数瞬の時間を要した上に、その返答も言葉に詰まってしまっていた。
ハジメの返事に、トールは『では、朝食が出来るまではゆっくりしていてくださいね』と答えると、踵を返して部屋を後にする。その手には変わらずユエの首根っこを引っ掴んでいる。そんなユエの様子にハジメは。
『なんだか、親猫に首根っこを咥えられた子猫みたいだな』
と、その様な感想を抱き、ユエの頭に猫耳と臀部に長い猫尻尾を生やした姿を想像してしまう。先程のボタンを全部外したブラウスに下着だけを纏いぺたんと女の子座りの状態にピコピコと敏感に反応する猫耳とユラユラと揺れる長い尻尾に、手首をクイッと曲げ舌先でそれをペロペロと舐める姿を。
『えぇぃッ、散れ!煩悩退散!』
妄想したユエの、何ともエロティシズム溢れる姿をハジメは脳内から追いやるべく自らを戒めるのだった。
暫しの時間が経過し、もうそろそろ朝食の準備も出来ている頃合いだろうと、ハジメは着替えを済ませて食堂へ訪れる。其処には鼻歌まじりに朝食の配膳を行うトールと、食堂の片隅で正座をさせられ首にプラカードを下げた状態のユエがいた。
「あっ、ハジメさん!もう朝食も出来ますから、席に掛けて待っててくださいね。」
ハジメの入室に気が付いたトールが、朝食の用意をしながらもハジメを席へと促すと、それに頷いてハジメは席へと向かう。その過程で正座をさせられているユエの胸元のプラカードに書かれている文字を読むと、そこには日本語で『反省中。私は抜け駆けをして、ハジメさんにエロい事をしようとしました』と書かれており、ハジメは思わずクスリと笑ってしまい、それを見たユエが怨めしげな眼差しをハジメに向ける。
「なあ、トール。もうユエの事赦してやっても良いんじゃないのか?」
苦笑を押し殺し、努めて冷静に生真面目さを装いハジメはユエを赦しても良いのではないかと提案すると、トールは正座の状態から自分を潤んだ目で見つめているユエに一瞥をくれると、あからさまな溜め息をついて。
「まあそうですね。ハジメさんがそう言うのなら仕方ありません。」
そう言ってトールは、フィンガースナップを響かせて、ユエの胸元に掛けられていたプラカードを消し去り、彼女を解放する。
「これに懲りたら、あまり調子に乗らない事ですよ。」
「ん。」
自らを戒めていた
「ごちそうさま。ありがとうトール、美味かったよ。やっぱり俺にはトールの料理が一番だな。」
「はい!お粗末さまでした。ありがとうございますハジメさん。」
「ん。トール姉様の料理、私の国の料理長のよりもずっと美味しい。」
「ふふ〜ん!そうでしょうとも!」
朝食を終えてハジメとユエがトールへと感謝を告げると、ハジメに対しては明るく朗らかに微笑んで、ユエに対してはフフンと得意気に応えて食器を炊事場へと下げに行く。片付けられたテーブル上の清掃を受け持ち、布巾で拭き上げる。
そうしていると、ユエがトコトコとハジメの傍らに歩み寄り、ハジメの服の袖を軽く掴んで、普段と変わりない単調な声音で『ハジメ』と呼びかけて来た。
「なんだユエ?」
身長差によりハジメはユエを見下ろす形となり、テーブルを拭く手を休めて彼女の問い掛けに応えるハジメは、自身を見上げる彼女の顔が物欲しそうな表情をしてい事を見て取ると、なるほどそうだったと思い当たる。
「分かったよ、ほら。」
フッと優しく微笑んでハジメは椅子に腰掛けて、目線の高さをユエと合わせる。ユエはコクリと頷いて『ありがとう、ハジメ』と感謝を述べて、抱き着いてハジメの首すじに顔を寄せて行く。すると其処へ。
「なぁ〜にをやっているんですか、ハジメさん?それにユエも、まだ懲りていないみたいですねぇ!」
一旦食器を下げ終えたトールが食堂へと帰って来ており、対面座位の体勢でハジメの上に跨っているユエの姿を見咎めたトールが、ゆらりと身からドス黒いオーラの様なモノを放出しながら二人を咎める。
「はっ!?とっ、トール……」
ギリギリと異音を点ててそうなぎこち無い動作でハジメは首を動かして、トール方へと視線を移す。重くドス黒く暗い、ただならぬオーラを放つトールの様子にハジメの額からは一雫の冷たい汗が滴り落ちる。今のこの状況を端から見られては間違いなく誤解を受けるだろう。案の定………
「浮気ですかぁ、ハジメさん?浮気なんですねぇ!?浮気なんですね………」
完全に誤解したトールが“クワッ”と力を込めて全開に目を見開き、浮気かと問う出来たのだが、次第にその目から光彩が消えた
「……いや、そうじゃ無いんだトール。これはだな………そう、ただのエネルギーの補給だ!それ以上の意味は無いんだ!!」
それがハジメには何よりもおそろしく、必死になってトールに弁明を図り、その様に断言するハジメの言葉に完全には納得した訳では無いのだろうが、トールの表情に精彩が戻り始め。
「ほう、エネルギーの補給。ですか?」
「ああ、トールも知ってるだろう。ユエは吸血鬼なんだが、その種族の特性として血を吸う事が本来の意味での食事なんだ。なぁユエそうだよな!」
まだ若干の猜疑心は残っているのだろうがトールは詳しい説明を求め、ハジメは包み隠さずユエの種族としての特性である、栄養を補給する為の吸血行為なのだと言う事を。そして、それを立証する為にユエにも証言を求めるのだが、しかし。
「ん。ハジメの血、途轍も無く美味♡例えるなら、シャトーブリアン。ポッ♡」
ユエは口を小さく開いて、常の如く静かな口調で自身の唇を舐めながら、如何にハジメの血の味が美味であるのかを高級食材に例えながら語る。しかもその表情は頬に紅みが差した恍惚としたものである。
「だーーッ!!何がシャトーブリアンだ!お前は異世界賢者が転生した文鳥かよッ!?そんな蕩けた顔で変な例えをすんの止めろおぉぉッ!トールが誤解するだろうがッ!と言うか第一この世界じゃあ、牛を食用には使っちゃ無いだろうがッ、王城の料理には出なかったぞ、多分!?」
まるで空気を読まないユエの両肩を、ギュッと掴んで、ハジメは高速でガクガクワサワサとユエを前後に揺さぶりながら、酷く焦り氷の様な冷たい汗をしたたらせてハジメは絶叫する勢いでユエに突っ込む。
「へぇー、そうなんですね。吸血が食事なんですか………」
トールはジト目で、如何にも胡散臭いと言いたげな表情でハジメとユエを見ながらハジメの言を反芻すると、ハジメとユエはコクコクとそれに頷き。
「ああ、そんなんだよトール。だから、誤解するなよ。」
焦りをアリアリと表した声音でトールの怒りを鎮め説得しようと懸命に言葉を紡ぐハジメであるが、トールは変わらずジト目で二人に目を向ける。そうして、幾許かの時間が経過してトールは大きく溜息を吐くと、改めてハジメとユエに向き直り告げる。
「………分かりました、じゃあ血を吸えれば別にハジメさんに限らずに、誰の血だって良いんですよね。それなら私の血を吸えば良いんじゃないですか。」
「なっ!?」
「………!?」
予想でもしていなかった。余りにも意外すぎる提案がトールからなされ、二人は絶句する。そう、髪の毛で攻撃して来るよりも意外な申し出であるのだ。まさかトールが自らの血をユエに分け与えるなどと。
「ほっ、本気で言ってるのかトール?」
「ええ!モチのロンですよ!」
驚愕に震える声でハジメが問えば、トールは左腕を腕まくりして力こぶポーズをとって笑いながら言うと、コツコツと床を踏み鳴らして靴音を響かせ二人の側へと歩み寄る。
フフンとニンマリ笑顔でユエを抱えたまま椅子に座るハジメの目を見つめる。
「いや、しかしだな………」
「バッチコイですよ!」
その顔にハジメはトールが本気で言っている事を理解するのだが、それで良いのだろうかと尚も答えを探す様に呟くき、思案する。
「はぁ、どうするかな。」
そう言ってハジメは、トールから視線を外してトールの顔をマジマジと見つめているユエの様子を窺う。果たして彼女はどう思っているのだろうか、その表情の乏しい顔からは彼女の思いを読み取る事が出来ない。
「構いませんよ。さあユエ、ガブっと来なさいキバット!」
そんなユエの前にトールが左腕を差し出すと、ユエはトールの左腕をマジマジと見つめてゴクリと生唾を飲み込む。そして、ハジメへと向き直りユエは。
「ハジメ。私、トール姉さまの血、飲んでみたい……ゴクリ。」
トールの血を飲んでみたいと、表情こそさして変化は見えないが、彼女のその目にはキラキラと好奇の光に輝いている。
「マジかよ………はぁ〜っ、分かったよ。だったらそうすりゃ良いさ。」
「ん!」
トールが自ら提案し、ユエがそれを望んでいるのだ。ならばハジメにこれ以上何を言えるだろうかと、溜め息を吐いてハジメは彼女達の望むに任せる事として告げると、ユエは跨がっていたハジメから飛び退いてトールの元へと歩み寄り。
「…………」
背の低いユエがトールを見上げる形で伺いを立てる様に見つめてると、微笑みを崩さずにトールは頷く。そしてユエは。
知りたかった。単騎で次元の壁を越え、自分の知らぬ強大な魔法を操る異世界の偉大なドラゴンの血の味を!その味は如何ほどのものなのか、味わってみたいッ!その素敵な好奇心がユエを行動させたッ!
「!」
カプっとユエは差し出されたトールの腕に慎重に唇を触れさせ、そしてゆっくりとトールの肌に牙を突き立てた。そして、静かに少しずつユエはトールの血を吸い始める。
「ッ!!」
ゴクッゴクッと喉を鳴らして二度嚥下してトールの血を深く味わい、そしてユエの目が大きく“クワッ”と見開かれた。その背景には雷鳴が轟く。
「!!!」
これ迄に味わった事の無い、そして例えようの無い、この世のもの共思えない美味しさにユエは一気に、そして一心不乱にトールの血を貪る様に吸いだした。その白皙の美貌を誇る
そうして数十秒。ユエは存分にトールの血を貪り食る様に飲み続け、ようやく満足してトールの腕から口を離した。
「ぷはぁぁっ…ハァ、ハァ……快感っ♡」
ユエは腰が砕けた様に崩折れてペタリと床に座り込み、最高の美酒に酔いしれたかの様に赤く染まった頬に、両手を当てて途切れ途切れに荒い息を吐いて快楽に酔いれ蕩けきっている。
その姿を目の当たりにし、トールのドラゴンの血が不死の吸血姫を虜に、骨抜きにしてしまう。ハジメはそこまでのモノなのかと戦慄を覚える。
己の身の裡を駆け巡り続ける快感の波に酔いしれるユエであったが、しかしその快感は長くは続かなかった。
「………ぅぐぅっ!?」
快楽に蕩けきりハートマークさえもが浮かんで見えるような瞳が、突如としてグワッと見開かれたかと思えば、それに併せるかの様に朱に染まっていた面貌も色を失い青白く褪せて行き、苦悶の色に満ちた表情へと変わって行く。
「グブッ!」
そして、苦悶のうめき声を漏らしてユエはバタリと床に倒れて、小刻みな痙攣を起こし始めた。まるでヤムチャしやがっての様な格好でピクッ、ピクッと痙攣するユエに、あまりにも突然で唐突な状況の変化にハジメは慌ててユエの傍らに駆け寄り、必死な様子で彼女に呼び掛ける。
「……………」
「おいユエッ!?しっかりしろ!」
身体を痙攣させ上手く呼吸も出来ていない様子のユエに、呼び掛けつつその状況を確認する。その時、そんな二人の様子を見ていたトールがその顔を暗色に染めて嘯いた。
「ふふふ……勝ったッ!第三部完ッ!」
呵々大笑し、まるでヒーローを策略に嵌めたヴィランの如く勝利を宣言するトール。ハジメは顔を上げて、悪役ムーヴをかますトールに向き直って『嘘だろう、まさかトールがユエを信じられない』と、そんな目を彼女に向ける。
「私の毒を飲んだのですから、ただでは済みませんよ。フフン!」
毒を飲んだ。その言葉にハジメは直ぐ様思いが至った。それは、トールが南雲家で暮らし始めて数日の事。南雲家の家事を請け負う様になったトールが夕食のテーブルに饗したのは、丸焼きにした大きな肉の塊だった。
『私の尻尾の丸焼きです!』
そう言って食卓に上がったのは、ジュワジュワと油の弾ける音をたて香ばしい香りを放つ大きな塊肉。その見た目のインパクトの強烈な事、これ以上は無しと言う程のソレを前にハジメは、食うべきか食わざるべきか躊躇いを見せる。
しかし、ハジメと違い両親は好奇心いっぱいのキラキラとした目に嬉々とした光を宿して丸焼きをロックオンしている。オタクとしてハジメを英才教育して来た両親である。
異世界物ではお馴染みの未知の食材であるところのドラゴン肉の丸焼きを、目の前に食べる気満々であり、今すぐにでも齧り付かんばかりにワクワク感丸出しである。
『大丈夫ですよ。ちゃんと毒抜きはしていますから♪』
その両親とは違い、躊躇うハジメに掛けられたトールの言葉。更に加えられた『毒は抜いてある』の一言に、ハジメはいよいよ此れは大丈夫と言うトールの言葉とは真逆だろうと、冷や汗を垂らし拒否権を発動するべきだと判断するのだが、しかしそれを聞いた両親はハジメとは逆に嬉々として大皿のうえに載った尻尾肉を食すべく切り取りに掛かった。
『えっ、だって毒を抜いているんだったら大丈夫たろ?』
『そうよハジメ。それに多少毒が残っていたとしても、そんな珍味を彩る物はある種のスパイスよ!』
そして早速とばかりに食べ始めた両親が、躊躇うハジメに平然とそう言って、ナイフで切り取りフォークに刺して口に入れ。アニメ食戟のソーマや、古いところではアニメ版焼きたてジャパンや、アニメ版ミスター味っ子の味皇も斯くやと言わんばかりの『美味いぞお』リアクションを披露する。
それ程までに美味いのだろうか、見た目はあまりよろしく無い焼きたての塊肉をハジメは凝視する。そしてならばと、そんな両親に釣られる様にハジメも、喉をゴクリと鳴らしてトール肉を切り分けて小皿に移し、意を決して口にしてみた。
「そう言やあの時、俺達一家は今のユエみたいになったんだったな。」
ハジメは思い出した。あの日食べたトール肉は、口に入れた瞬間に口内全体に旨味が広がり、そのあまりにも美味しすぎる味に南雲一家は忽ちの内に、トールに饗された彼女の尻尾の肉を食べ尽くしたのだった。そして、彼女は毒は抜いたと言っていたが、それは完全では無かったのだった。
「食い終えた後、暫くして俺達も僅かに残っていた毒の影響で、こんなふうに痙攣起こしたっけな。」
そう言ってハジメがトールに目を向けると彼女は胸元で両手を組んで、悪びれた様子も無い。そんな彼女にジト目を向けながらもハジメはユエの容態に対処すべく、腰のポーチから神水を取り出してユエの口に含ませる。
そうして暫くすると、神水の効能が効き始めてユエの容態も安定するものの意識の方はまだ戻らない。ハジメは力なくグッタリと横たわるユエを両手で抱きかかえてトールに向きなおると、何故そんな凶行に走ったのか問い質した。するとトールは。
「だって、ユエばっかりズルいですよ!」
瞳を潤ませ強張った表情で、トールはハジメに強い声で訴える。その言葉にハジメは彼女に向けていた咎める様な目を解く。その言葉にハジメは、ハッとし言葉に詰まる。
「トール、俺は………」
あの日この世界に、巫山戯たクソ神エヒトに召喚され、家族と引き離された。その間トールはきっと必死に懸命に自分を探し続けてくれたのだ。その事をハジメは離れていても確信しており、トールが来てくれるまで絶対に生き残る事を第一義として行動した。文字通りに死にかけもして苦労もしたが、当初の目標どおりにトールとの再会も叶った。
「私は三ヶ月、ずっとハジメさんと会えなくて寂しかったのに、ユエはずっとハジメさんと一緒にいて、ハジメさんに沢山甘えて、私だって……」
だが、トールはどうだったのだろうか。以前からトールはその想いを自分に伝えてくれていた。そして自分もこの世界で、彼女と切り離されて、己の心の内を、トールへの想いを自覚したのだ。実のことろハジメは初めでトールと出逢ったあの日、人間態を取ったトールに一目惚れしていたのだが、努めてそんな感情に蓋をしていたのだ。
その間に、ハジメはこの世界で生き抜く為に必死に足掻いて来たのだが、その最中にユエと言う、心から信頼を置ける行動を共にする仲間を得る事が出来た。だから、辛さも苦しさも共に分かち合って、今日まで生きて来られたのだ。だが、トールは一人孤独に自分を求め続けてくれた。
「そうか………ごめんトール。俺が、こんな世界に連れてこられたせいで……心配も淋しい思いも、沢山させちまったんだな。」
その事実に思い至りハジメはトールに対し申し訳の無さを感じた。意識の戻らぬユエを椅子へと座らせてハジメはトールの前へと歩み寄り、彼女の頭にそっと手を置いて、労りと愛情を込めて優しく撫でる。
「ハジメさん。私………」
トールはまるで人に撫でられる猫の様に両目を閉じてハジメにされるがまま、気持ち良さそうにハジメの手の感触を堪能しているのだろうか。何時しかその頬には、朱に染まっていた。そして。
「ごめんなトール。」
トールを抱きしめて、ハジメは彼女の背をポンと優しく叩いてその身を離し、彼女の肩に両手を置き、そして真面目な顔をトールに向け。
「俺も配慮が足りなかったな。でも、トールだって一年以上地球で暮らしてるんだからさ。少し面倒だとは思うし、人間とドラゴンとの価値観の違いもあるだろうけど、だけどやっぱり、やって良い事と駄目な事は弁えて欲しいんだ。」
「ユエも、日本に帰ったら……いやもう俺の中ではユエも南雲家の一員なんだよ。だからさ、これからも多分何かと衝突する事もあるだろうし、まぁそれは構わないけど、トールにもユエを家族の一員として接して欲しいんだ。」
真摯に彼女に向き合い謝罪と、己の思いと彼女への願いとを伝えた。最愛の彼女へ。
「それに、昨日今日の態度からユエがトールの事を慕ってるって、トールだって解るだろう。」
「……はい、不本意ではありますけど。」
「ユエと出会って直ぐにさ、聞かれたんだよ俺の色々な事を。それで俺はユエに日本の事や暮らしの事とな家族の事とか、色んな事を話したんだ。勿論トールやカンナちゃん達ドラゴンの事とか、みんなの似顔絵を描きながらな。そうしたらユエのヤツ、トールの似顔絵を見てユエはさ、トールの事、すごく綺麗だって言ってたよ。それからまぁ、何だかんだと話したら……トールに敬意を抱いたみたいでな。それからカンナちゃんのママになりたいだとか言い出したりしてさ。」
ほんの一月ほど前、錬成技能により造った拠点でハジメの事を知りたがったユエに語った事をハジメは掻い摘んで説明し、トールはテーブルの椅子に腰掛けて眠るユエに目を向けて呟く。
「だから、ユエは私の事を姉さまなんて呼ぶんですか………」
未だ彼女に対する複雑な想いは消えはしないが、その瞳は幾分か柔らかい物になっている事を見て取りハジメはホッと安堵の溜め息を一つ吐いて、クスッと微苦笑する。
それから暫くしてユエは目を覚ますのだが、目覚めたユエは自らの変化に驚く。それはこれまで以上に自身の身の裡の魔力が強化されている事を自覚したからだった。ハジメがこの迷宮の魔物の肉を食べた事により、肉体や魔力の強化がなされた様に、ユエもまたトールの血を飲んだ事により魔力が大幅に上昇したのだ。
余談として付け加えるが、後日ステータスプレートを入手したユエは己の技能に、毒耐性【大】が生えている事を知るのだった。
グダグダな展開で申し訳ありません。
なるだけトールを嫌な女の娘にしたくは、無いのですが、漸く再会できたハジメの側に、彼にべた付く別の女が居れば嫉妬心が刺激されるのも、仕方ありませんよね。
ですので、トールさんがユエを完全に受け入れるには今少し時間が必要なのだと思われます。