南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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本日二度目の投稿です。
これでまた、しばらく間が空きそうですが、目に留めていただければ。


第五十二話

 

 一悶着あったものの、朝食を終えた三人は迷宮最奥の探索を始めた。その迷宮最奥に存在していた物、それは意外な程に天井も高く奥行きもある広大な地下空間だった。そこには岩壁をくり抜き加工した邸宅(ハジメ達が一夜を明かした)と、広大な敷地面積を誇る農園とかつては家畜を飼っていたと思われる厩舎があり、それらの物をゴーレムらしき人形が管理運営している様だ。

 更には空間の天井には、太陽を模したと思われる光源がまばゆい光を灯し空間全体を照らし出している。しかもそれは時間の経過により光量を調整し、夜間になると完全に消灯され夜空までもを再現しているのだ。

 

 「改めて、すげぇモンだな。これならモビルスーツの一機どころか中隊規模で、なんなら整備スペースまで造って隠せそうだな。」

 

 寝室から食堂へと移り朝食を終えて、トールとユエと共に外へと移動し周囲を一通り見回したハジメの口から呟かれた感嘆。それはいわば創作系男子の憧れをまんま形として創り上げられた、地下秘密基地の如き様相を呈しており、この迷宮と空間の創造者に対しハジメは同じく創造と技術を司るものとして純粋に尊敬の念を抱いたが故のものである。

 

 「ん。」

 

 「まあ確かに人間としては良くやっているとは思いますけど、ハジメさんだって修練次第ではこれ以上のモノを創れるようになりますよ!昨日聞かせて頂いた、この数カ月間のハジメさんのお話から、私はそう評価しますよ!」

 

 ハジメの感慨にコクリと頷き簡潔に同意するユエと、出会った当初と変わらず人間に対するちょっとした皮肉を効かせながら評価を下すトール。加えてハジメに対する高い評価をも付け加える辺り、トールのあざとい一面を表しているのかも知れない。

 

 「ははっ、サンキュー。そうだと良いんだけどな。」

 

 トールの言葉に曖昧に笑いながら頷き返すと彼女は満面の笑みで『はい!』と応え、ハジメは照れ隠しに頭を掻きつつ目に入る他のものを確認して行く。そして目に入った物は壁面の一角に堂々と存在する水源。其処は滝となっており盛大な飛沫と爆音を奏でて、万有引力の法則に従い流れ落ちて一筋の豊かな流れを持つ川を形成しており、それはどこまで続くのか、行き着く先が何処なのかハジメには分からないのだが、ハジメはこの川に対して一つ思い当たる事があった。

 

 「もしかしたら、この川………」

 

 「ハジメさんもそう思いましたか?」

 

 ハジメがつぶやき漏らしたソレをトールが肯定する様に重ねると、ハジメは『ああ』と頷き返す。この迷宮の深層第一層、ハジメが辿り着いたあの川、否厳密に言うならば奈落へと墜落中に運良く流れに乗った地下水脈。

 

 「あれが、此処まで流れているのかも知れないな………」

 

 流れ行く川の水の流れ、時折その水面を元気に跳ねる魚を見つめ、ハジメは感慨深くそう述べる。あれから二ヶ月余り。長かった道程の一つの終着点にて、暫しハジメはその苦難の日々に思いを馳せる。

 

 「ハジメ、トール姉さま。早く探索を始めよう……」

 

 押し黙り過ぎ去りし日々に思いを馳せていたハジメとそれを見守るトールを現実に引き戻すように、ユエが二人に邸宅の探索をすべく促す。

 

 「おっと、そうだったな。すまんユエ。トールも行こう。」

 

 「ん!」

 

 「はい!行きましょうハジメさん!」

 

 ハジメの呼び掛けに、二人は横並びで共に返事を返す様子にトールとユエの間にわだかまりが無さそうな雰囲気を感じて、ハジメはこれから先の事を思い安心する。

 歩みを進めながら、ハジメを中心として左にトール右にユエと三人で横並びとなり、そこでハジメは右隣のユエに尋ねる。

 

 「さっきの今であれだがユエ、体調の方はどうだ、平気か?」

 

 ヤバいくらいに痙攣していたのだ、いくら神水を飲ませて平気そうにしているからと言っても、やはり心配ではある。

 

 「ん!問題無い。むしろトール姉さまの血を飲んで、魔力が強くなったのが解る。」

 

 「えっ!?マジでか!やっぱり、なんだか少しユエから前に無い力を俺にも感じられたんだよな。」

 

 ユエは事も無げにコクリと頷きハジメに返事を返すが、その返答はあまりにも想像の範疇を超えていたもので、ハジメは驚愕のあまりアングリと口を開きっぱなしになりそうである。しかも、その結果はまるでハジメがこの世界の魔物の肉を食べた結果得た、今のハジメの状態と近しいものであり、これではまるでトールがこの世界の魔物と近い生物的な特性を持っていると言えるのではないかと、怖れに近い感情さえ覚えてしまう。

 

 「ん!」

 

 「へ、へぇ、まさかトールの血にそんな効能があったなんてな、まぁ異世界系の作品だとドラゴンの血は色んな効能が付いてるのがテンプレだしなぁ……」

 

 最も大切な女性(ひと)に対して抱いてしまった、そんな感情を払い去りたいとハジメは少し戯けた風を装って、くだらない例えを出して。

 

 「そうですね。ハジメさんに見せてもらった作品ってそう言う設定が多いですよね。まあ私の世界のドラゴン種は大抵人間にとっては毒になるんですけど、ユエの場合は吸血鬼ですし、不老不死の特性もあるし、何よりもハジメさんが与えた神水の効能のおかげで、そんな結果になったんだと思いますよ。」

 

 だが、そんなハジメの罪悪感など気にともとめずか気が付かないのか、トールはハジメの言に補足を加える。ドラゴンの血の効能やユエが元から持っていた体質と神水の効能が奏功してもたらされた、ユエの魔力強化と言う結果。

 

 「そんなモンなのか?と言うより、トールを含めて、トールの世界のドラゴンを倒せる人間なんて居ないと思うけどな。」

 

 そんな都合の良い事が立て続けに起こるものなのかと、どうにも今一つ得心が得られないハジメは気のない返事を返すのだがトールは微笑み、左腕を腰に当て右手の人差し指を立てて告げる。

 

 「実際私にもユエの魔力が上がったのは私にも解りますから、それに私達の目の前に実例がある訳ですし。」

 

 「まぁ、そう言われりゃあなぁ。じゃあ、まあそれで良いか。」

 

 トールが言う様に、ユエの魔力が上昇しているのはハジメもある程度感知できている事でもあるし、それが実例である事は間違い無いのだ、付け加えるなら自分もその分類にカテゴライズされるだろうし、そう思いハジメは納得する事にした。

 なのでこの話はこれでおしまいと締めくくるつもりでいたハジメだったが、ユエがハジメの服の右袖をクイクイと軽く揺すって付け加える。

 

 「ん。でも、ハジメ。私、トール姉まさの血を飲んだ後、気が付いたら、知らない川の辺り(ほとり)に居た。そうしたら、川の向こうに叔父様や臣下の皆が居て、私、皆の方へ行こうとしたら、皆が来ちゃだめだって、帰れって言って、そしたら私気が付いたらハジメとトール姉さまのところに戻って来てた。」

 

 「………オイオイ、そりゃ三途の川じゃあねえかッ!てかこの世界でも死んだら三途の川を渡んのかよ……」

 

 ユエから聞かされた思わぬエピソード。まさかこの世界の知的生命体も死後は三途の川を渡るのかと、日本との意外な共通点にハジメの突っ込みも切れが無い。

 

 「ん?よく分からない、私も初めての経験だったし。」

 

 「まぁ、そりゃそうか………」

 

 三途の川らしき光景を見てしまう、イコールそれは臨死体験であろう。そんな経験をそう頻繁に体験するなどほぼあり得ないと言えるだろう。実際ハジメも魔物肉を初めて食べた時に酷い苦しみを味あわされたが、三途の川の光景は見ていないのだし、ユエが答えた様によく分からないと言う返答は、マサラタウン在住の某博士でも『そりゃそうじゃ』と答えるだろう。

 

 

 

 

 

 短い道中を語り合いながら、三人による邸宅内の捜索が開始された。手分けする事無く三人で共に探索を進め、一階から二階へと上がり確認したいくつかの部屋は、鍵が掛けられているのか中に入る事が叶わなかった。

 蟹穴から覗いたその部屋の中には、図書室の様に数列も並ぶ書棚や工房だと思える、工具や何某かの素材が置いてあるのが見え、ハジメは大いに興味を掻き立てられた。

 

 「よし、絶対に開かなかった部屋の鍵を探し出すぞ!」

 

 「ん。ハジメのモノ造り、また見たい。」

 

 迷宮攻略中、ハジメがアイテムを作成する過程をユエはよく見学していた。そんな彼女にハジメが、物作りに興味があるのかと尋ねると、ユエは『ハジメ、何か造ってる時、楽しそう。ハジメが楽しそうだと、私、何だかうれしい』と、辿々しく答えてくれたものだった。そのユエの言葉がハジメはなんとも擽ったく、照れくさく感じたものだった。

 戦いのなかのささやかな安らぎの一時、それを思い出してハジメはユエに優しい笑顔を向けて『そうだな、またな』と答える。そんな二人にラブコメの波動を感じ取ったトールは瞬間ムッと頬を膨らませるが、すぐに気持ちを切り替えて、元気いっぱいにハジメにアピールを開始する。

 

 「ハジメさん、ハジメさん!ハジメさんがモノづくりしているところなら私だって大好きでよ!プラモデルだって“ぴーしー”のプログラムとかしているところだって!」

 

 「ああ、そっ、うだな。うん。帰ったらまたプラモも作れるな。何だったらトールも一緒に作るか?」

 

 ムンス!と鼻息も荒くハジメに大好きアピールをかましてくるトールにハジメは少しばかりたじろぐのだが、それがトールのユエに対する牽制行動でもある事を理解しているハジメは、宥めるごとくトールにも共に創作活動はどうかと誘う。

 

 「はい!作りますハジメさんと一緒に!」

 

 トールはハジメからの誘いに笑顔で返事を返してくれ、ハジメは彼女の気分を害する事無く穏便に済ます事が出来た事に、我ながらナイスなチョイスをしたものだと心の内で自賛する。

 

 

 

 

 それでも道中いくつかの部屋には入室が可能であったのだが、大した発見も無く三人は淡々と捜索を進め、ついに邸宅の三階へと。階段を登りきり廊下から見渡すと数メートル先に扉が一つだけ設えられているのが確認できた。どうやら三階にはその一部屋だけしか無いようで三人はその扉へと向かい廊下を数メートル進んて行く。

 部屋の前に到着し、ハジメはドアノブに手を掛けて、その握ったドアノブを回した。ガチャリと音を立ててドアノブが回転する事からも、この部屋は鍵は掛けられていないと判り、ハジメは軽く力を入れて押す。

 すると重さも抵抗もほとんど感じさせずにゆっくりとハジメが押すままにドアが開き、三人はハジメを先頭に入室して行く。そして三人のが捉えたものにハジメは感嘆のつぶやきを漏らす。

 

 「……こりゃあ……」

 

 そこには直径七、八メートルの今まで見たこともない程の、精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。一体この魔法陣にはどれほどの情報が刻まれているのだろうかと、ハジメの好奇心が疼く。

 更に室内を見渡すと、魔法陣の向こう側には豪奢な椅子に座った人影が見える。だがその人影は既に骸となっていた。永い年月をこの椅子の上に晒していたのだろう。綺麗にと言う表現が適しているかは兎も角、骸は白骨化しており、黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織ってた。

 どうやらその骸は椅子に靠れかかりながら俯いた姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろうと思われる。魔法陣だけが刻まれたこの部屋で、この骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図は、ハジメは推察を進める。

 

 「あの、白骨化したヤツが生前に設置した物だろうな。この魔法陣は………」

 

 その派手ではないが風化の跡も見えない綺麗なローブを纏った遺体の主が、この魔法陣を、ひいてはこの迷宮の創造主でもあるのだろうと、ハジメは推察する。だとするならばこの骸の主に、ハジメは何とも複雑な感情を抱いてしまう。

 

 「はい、それで間違い無いでしょう。でもこの魔法陣ですけど、この世界のモノにしては、中々よく練られている魔法陣ですね。まあ、私達の世界のものと比べると、甘いですけど。」

 

 しかし、この中で最強の(魔法の技能及び魔力含め、且つ肉体能力的にも)存在であるトールは、この、魔法陣に一定の評価を下しつつも駄目だしも付け加える。

 トールの下す寸評に、まあ魔法の大家たるトールから見ればそんな評価になるんだろうなと苦笑しつつ、且つ今はこの骸に対しての感情など一旦放っておく事とし、ハジメは魔法陣の描かれた室内へと進んで行く。

 

 「ハジメ、気を付けて。」

 

 「ああ。まぁ、ここまで来て攻略者に対して不利益になる様なトラップを仕掛けてくる可能性は無いと思うけどな。」

 

 先頭となり室内へと入室するハジメに対しユエが注意喚起を促す。それに答えたハジメの言は、ともすれば注意力を欠いた迂闊な言動と言えなくも無いが、しかしハジメが言うように此処まで辿り着いた者に対して、この迷宮の創造主が今更トラップを仕掛ける様な真似をするとはハジメには思えなかった。

 が、ハジメとしても完全に気を許している訳では無く、周囲に目配せと気配感知は忘れる事無く発動している。

 

 現状、その部屋の床に設えられた状態の魔法陣からは、今のところ何の魔力の反応も感じられない。

 

 「ハジメさん。その魔法陣の中に踏み込んでみてください。この魔法陣は、中に入った者の魔力に反応して作動するタイプで間違いありませんから。」

 

 どうしたものかと魔法陣の前で思案していたハジメにトールからの指示と解説がなされてハジメはこの魔法陣の仕組みが解るのかとトールを振り返り見る。 

 

 「大凡ですけど、読み取ってみました。この魔法陣は何かの記録媒体の様ですよ。」

 

 事も無げに、この魔法陣がどの様な物かを解析してみた結果を端的にトールが伝えてくれると、解っている事だがハジメはトールの高い実力に感嘆する。

 

 「そうか……流石だなトールは。」

 

 「えへへへ、もっと褒めてくれても良いんですよ♪」

 

 ハジメからの褒め言葉が何よりも嬉しいトールは、頬を染めてテレテレとその身をくねらせて、更に褒め言葉を求める。

 

 「ああ、今はあれだが、いくらでもな。」

 

 「はい!」

 

 ニッコリ笑顔で元気に返事を返すトールと表情に変化が乏しいユエを背にハジメは魔法陣へと一歩足を踏み入れた。すると、トールが言った様にハジメの足が魔法陣に踏入り、その中央部へと到達した途端に魔法陣が反応を示した。

 眩い白光が瞬間的に爆ぜる様に部屋全体へと広がって真白に染め上げる。あまりの眩しさにハジメは目を閉じ腕で庇って光を遮る。

 その直後、何かが頭の中に侵入して来る感覚をハジメは味わう。それはまるで走馬灯のように、奈落に落ちてからの日々が脳裏を駆け巡った。

 やがて魔法陣の輝きも、ハジメの脳裏の走馬灯も収まり、目を開いたハジメの前には一見すると如何にも優男と言った容姿をした、黒衣を纏った若い男が立っていた。

 

 

 魔法陣が淡く優しい光を放ち、室内にはハジメが思っていたよりも穏やかな雰囲気に包まれている。魔法陣の中央に立つハジメの眼前に現れて立つ青年。見れば後ろの骸と同じローブを纏っており、どうやらこの青年の成れの果てが、その骸であるのだと解る。

 

 「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば解るかな?」

 

 ハジメの側に、トールとユエが寄り歩み寄り二人が並ぶと同時に、眼前の青年が語り始めた。その声は穏やかで優しい声音をしており、とてもあの忌まわしい迷宮の創造主だとは思えない。

 

 「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像の様なものでね。生憎君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか、メッセージを残したくてね。この様な形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。我々は反逆者であって、反逆者ではないということを。」

 

 技術レベルは未だ地球に及ばないトータス世界であれば、その世界に産まれた者ならば記録メディアと言った物の存在を知らないであろう。その辺りを考慮してか、記録中の青年はその辺りからの説明を始めるのだが、あいにくハジメは現代社会の技術を知る者であり、端からこれが記録された物であることは承知しており、彼の説明をいささかまどろっこしく感じる。

 

 「反逆者であって反逆者では無いね、一体何の頓知やらだな。」

 

 複雑な思いの拭えないハジメが眼前の青年に皮肉を述べると、記録過ぎない筈の青年がバツの悪そうな表情を浮かべるではないか。

 コイツは本当にただの映像記録なのか、ハジメは疑惑のジト目を向けると、まぁ聴くだけは聴いてやるよと言葉を掛ける。

 

 「ありがとう。では、聴いてほしい……」

 

 まるでこの映像を観ている相手がどの様な反応を示すのかを理解しているかの、青年はそんな前置きをして語り始める。

 それは、昨日ユエが囚われていた部屋に、彼女の叔父が残した記録映像にて語られた内容と大凡一致していた。その上で更に詳しく気狂い神の所業が語られた。狂った神の己の欲求を満たす為だけに、種族の違う知的生命体同士を相争わせ愉悦に浸っているのだと。

 その真実を知り、かつての神々の血を引く遠い子孫である者たちが中心となり、人類解放の為に立ち上がり反旗を翻し戦いを挑んだのだが、結果は狂神の打倒はならず、解放戦線は崩壊してしまったと言う。

 反逆者として追われた解放者達の中心メンバー七人は、大陸各方面へと皆散り散りに別れて逃亡。そうして来るべき日に神を打倒しうる者が現れた時、その者たちに試練と戦う術を与えるべく各地にこの様な迷宮を築いたのだと言う事だった。

 

 「しかしまぁ、随分と底意地の悪い与え方だったがな。アンタ紳士な外見とは裏腹に、結構陰険なヤツなんだな。」

 

 魔物肉を喰らう事でどうにか試練を生き延びる事が出来たハジメは、皮肉たっぷりにハジメの苦労など知らず遥か昔にくたばった青年解放者、オスカー・オルクスの記録映像に毒突く。

 そして、またしても映像記録のオスカー・オルクスは、ハジメの突っ込みに対して誤魔化すかの様に右手の人差し指で頬をポリポリと掻いている。本当にコイツはただの記録映像なのかと、再びハジメが疑惑の眼差しを向ける。

 

 「……君が何者で何の目的で此処にたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかったんだ。我々が何のために立ち上がったのか。これから、君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが願わくば悪しき心を満たす為には振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを!」

 

 咳払いを一つ、オスカー・オルクスは気を取り直して最後の締めの言葉を語ると、その映像は、静かに消えて行く。同時にまたしても、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる感覚とズキリとした痛みが疾走る。それはハジメの裡にとある魔法を刻む為のプロセスである事を理解し、ハジメは耐えて受け入れる事にした。

 

 「…………ふぅ……」

 

 暫しの時間が経過した後、ハジメの脳内にオスカー・オルクスが遺した魔法を刻む儀式も終わりを迎え、ハジメは一呼吸、深く息を吐く。それと同時に魔法陣の輝きもスーッと褪せて行き、消え去った。

 

 「ハジメ、大丈夫?」

 

 ハジメの身を案じるユエが尋ねると、ハジメは頷いて、大丈夫だと答える。すると、トールが己の頭に手を掛けてぼやく。

 

 「全く勝手に余計な物を植え付けてくれましたね。神代魔法、生成魔法ですか。中々使い所は多そうな魔法ですが。特にハジメさんにはお誂向きな魔法ではありますね。」

 

 あまりにもトールの言葉に、ハジメは彼女に向き直って問う。トールもなのかと。

 

 「ええ。一応、私の世界の魔法の方が、この世界の魔法体系よりも上位ですし、この程度の魔法なら覚えられますよ。ですけど、文明とか種族とか辿って来た歴史とか、其々に違いがありますから、魔法の種別も世界に依って違いもあるんですよ。」

 

 事も無げに言ってのけるトールに尊敬を通り越して、呆れるばかりのハジメとユエだ。

 

 「ホント、魔法に関してチートが過ぎるよな、トールは。」

 

 ハジメの漏らした呆れの言葉に、ユエがコクコクと何度も首を縦に振って、それに同意する。これで漸く、南雲ハジメの長かったオルクス大迷宮の攻略は成し遂げられたのだった。

 

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