南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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お久しぶりです。


第五十三話

 

 その日の東京上空は朝から幾重にも重なる灰色の雲に覆われて、どんよりと沈んでおり陰気臭さを醸していた。これならば何時雨が振り出しても可怪しくは無い、そんな一日だったた。夕刻の灰色に落ち行く陽の朱とのグラデーションに染められた、東京都朧塚上空千メートル。

 只人には何ら変わらぬ曇り空にしか見えないだろうが、しかし魔力を持つものならば瞬間的に大気と時空間との揺らぎを見て取っているだろう。突如高空に現れた数十メートル規模の空間の揺らぎを突っ切る様に、其処を越えて現れた存在がある。それは現代社会の常識的には、この世に存在し得ぬであろう巨体と自重を持つ幻想世界の生命体であった。

 

 『ふぃ〜っ、着きました!』

 

 時空の歪から現れた巨大な生物は声帯を使わずに発した。安堵の思いの籠もったその言葉は流暢な日本語である。異界の生命体でありながら、この日本をよく知る賢き生命体。

 

 『帰ってきて早々なんですけど、パッとしない天気ですね……まあ、別に良いんですけどね』

 

 それは無法なる者に最愛の相手を連れ去られ、その相手を探し出す為の当て所ない旅路の末、二ヶ月の時を経てこの地球に帰還を果たした異界のドラゴン。

 

 『この時間なら、何も無ければ父様は家に帰っている頃でしょうかね。母様の方は、締め切りが近ければ、職場の方かも知れませんが……』

 

 その名をトール。

 

 最愛の相手である南雲ハジメと三ヶ月の時を経て再会を果たした彼女は、自身が敬愛してやまぬ彼の両親にその吉報を報告する為に単騎、日本へと帰還して来たのだ。

 

 『取り敢えずは家に向かいましょう。カンナとイルルも帰宅しているはずですし!』

 

 そうと決まればレッツラゴーと、トールは南雲家に向けて直進する。途中でその姿をメイド服を纏った人型に変化させて、己の存在を感知させぬ様に認識を阻害したままに。

 

 

 

 

 トールが南雲家に帰り着いた時、家にはハジメを除く全員が帰宅しており、皆がトールの帰りを暖かく迎えてくれたのだが、やはりハジメが彼女と一緒に帰宅していない事に僅かながらの落胆の色が、その顔に浮かんでいる様にトールには感じられた。

 玄関からリビングへと全員が移動して、改めてトールは南雲家一堂の前にて探索の結果を伝える。畏まった表情で話そうとしていたトールだったが、その態度は長続きせず。

 

 「結論から言いますね。無事とは言えませんけどハジメさんや同級生の皆さんと会うことは出来ました!」

 

 堪えきれずに満面の笑みを湛えトールは結論を伝える。すると、ハジメが居ない事に落胆していた愁と菫は腰掛けていたソファーから腰を浮かせ、カッと大きく目を見開いてトールを見るがやがてその表情に喜色が現れ始めた。

 

 「本当なのかい。トールちゃん!?」

 

 「はい!今はもうハジメさんはお元気ですよ!!」

 

 笑顔満点で応えるトールに愁と菫は、では何故トールは今一人でこの家に帰ってきたのかとの当然の疑問をトールに投げ掛ける。

 

 「その理由は今からお話しますね」

 

 二人に落ち着く様にと促すと、トールはハジメが日本に戻らなかった理由を皆に語り聞かせ始める。トータス世界のイカレポンチな似非神の腐った欲望と企みにより、拐かされてしまったハジメ達。その先の世界でハジメ達がどの様な事をさせられていたのか、そしてその中にあってハジメがどの様な目に遭ってしまったのかを。

 

 「そんなッ、ハジメがそんな辛い思いをしていたなんて!!」

 

 トータスで掴んだハジメの行く方の情報を元にトールが駆け付けた時、ハジメは片腕をと右目を失いその身は焼け爛れており、まさに瀕死の状態だった。最愛のハジメをその様な目に遭わせた迷宮の魔物も、クソッタレなトータスと言う世界そのモノも、トールにとっては許し難い殲滅対象に他ならない。母親である菫は我が子が味わった苦痛に胸を痛めて悲痛な表情を見せる。

 

 「はい。ハジメさんは、そんな奈落の底で必死に戦い生き抜いたんです。でも生き抜く為に、力を得た代償にハジメさんの身体は人間のモノでは無くなってしまったんです!」

 

 「何だってっ!それでトール、ハジメはどうなってるんだ!?」

 

 ハジメのピンチと聞き、紆余曲折あれど彼の事を認めているイルルは心配のあまりに、トールにハジメの置かれた状況を問う。トールは心配無用とばかりに、イルルに落ち着く様に促し説明を続ける。

 

 「ハジメさんは生きる為に、禁断とされていたアノ世界の魔物を狩って、その肉を食べて飢えを凌いだんですが、その魔物の肉を食べた事によって、肉体が変貌してしまったんです」

 

 変貌した肉体と同様に、生き抜く為に甘さを捨て精神までもワイルドに変貌してしまったハジメだが、その心の根底にある優しさを完全に捨て去ってはいなかった。それはハジメの心の中に常にトールの存在が共にあったからたと、照れ臭そうに頭を掻きながら告げられた、ハジメのそのセリフにトールはデロンデロンに蕩けていたのだが、そこは割愛。

 

 「なんと………ハジメ……っ」

 

 ハジメが辿ったと云う苦難の道を思い、菫と同様に愁は顔を顰める。己の手の届かぬ場所で大切な息子が、もしも何かが足りなければ生命さえ喪っていたかも知れない程の壮絶な苦難。であるにも拘らず自分は何もしてやれなかったのだ。愁は思う、無力な我が身を嘆く事さえもが、烏滸がましいのではないかと、そう思えてならない。

 

 「奈落の底に封じ込められていた吸血鬼の娘と出会い、二人で力を合わせて戦って迷宮の最奥まで攻略を進めていたそうなのですけれど、その結果二人の力は最奥のガーディアンには及ばず力尽きそうになっていた所に、運良く私が間に合ったって訳です。まあ傷付いたハジメさんの治療の為にファフニールさんからいただいた、エリクサーを使いましたけど」

 

 傷付いたハジメを助け、きちんと手当てまで済ませたとのトールの説明にイルルだけでは無く皆が一様に安堵する。

 

「おおっ!ファフニールもたまには役に立つんだな。じゃあ本当にハジメは大丈夫なんだなトール!」

 

 「トールさま。ハジメと吸血鬼を助けて魔物倒した?」

 

 ハジメの無事を知ったイルルと、トールの活躍にワクワクと興奮するカンナ。カンナは好奇心を顕にトールに尋ねる。

 

 「ええ!当然。私に掛かれば、そんな雑魚なんか片手でポンってなものですよ!」

 

 「おおーっ、さすがトールさま!」

 

 「フフン!」

 

 ポフンっと、自身のふくよかな胸元を叩いて得意気なトールの答えに、カンナが称賛の言葉を送るとトールは腕を組んで当然ですのばかりに、ニンマリと北叟笑むのだった。

 

 

 

 

 「よし!それじゃあ今からハジメ達を迎えに行くついでに、私がその世界の神とかって奴をヤッつけるから案内してくれトール!」

 

 トールによるハジメの状況についての説明を終えて一息ついたところで、イルルが気勢をあげてエヒトを倒すと息巻き、トールにトータス世界への道案内を求めるのだが。

 

 「それは出来ません!」

 

 「えっ……どうしてだよトール?」

 

 「トールさま……なんで?」

 

 イルルの同行をトールは断ったのだった。その返答にイルルは勿論の事として、カンナも同様に疑問を呈す。そして口には出さなかったが、愁と菫もイルル達と同様である。

 イルルとカンナはトールと同じドラゴンであだ。イルルはトールと同年代で実力の程も近しいモノがある。ならば、ハジメ達を迎えに行くに当たり戦力としては十分過ぎると云うものだろう。

 

 「そうですね。出来ないと言うよりも、ハジメさんがそれを望んでいないと言った方が正確ですかね」

 

 「ハジメが、なんでなんだ!?」

 

 しかし、それをハジメが望んでないと言うのだから全員が疑問の思うのも当然と言うものであろう。

 

 

 

 

 

 

 オルクス大迷宮の最奥。迷宮の創造者、オスカー・オルクスのメッセージと、彼が遺した神代魔法とを受け取ったハジメ達は、今後の方針について語り合った。

 その一つとして、ハジメはトールに一度日本へ帰還して心配しているであろう両親やカンナ達に、今回の一件の事のあらましを説明してもらう事を依頼し、彼女はそれを快く引き受けてくれた。

 

 「ところでハジメさん。エヒトとか言う愚物ですけど、ぶっちゃけ言って私一人でブチ殺す事は出来ますけど、手っ取り早く済ます為にもイルルやカンナにも手伝ってもらいますか。あとついでにエルマにも声をかければ、多分来ると思いますよ?」

 

 帰還するついでに、戦力の増強を兼ねてドラゴン勢をトータス世界に連れてくるかとハジメに提案すると。

 

 「いや。その申し出はありがたいんだけどな、今回の件は俺達で成し遂げたいって、そう俺は思ってるんだ」

 

 「ハジメさん」

 

 それは自分達の力で成し遂げたいと、ハジメは強い思いを込めた決意の眼差しでトールに告げる。トールは端からハジメの意思を尊重するつもりであったので、その事に異を唱える事はしないのだが、それでも彼がその様に決めたのかその理由については知りたいと思っており、その事を彼に問うと。

 

 「この世界で俺は、思わぬ形でこんな力を手に入れたけど、はっきり言って俺の力なんてトール達ドラゴンと比べたら蚊ほども無いってくらいに中途半端なものだ」

 

 「ハジメ………」

 

 一度失い、トールが持ってきてくれた薬により再生された己の左腕。その掌をマジっと見つめながら語る言葉とその思いは如何ほどのモノか。そして迷宮最奥の魔物を二人で打ち倒せなかったユエも、ハジメと同じ思いを抱えている様だ。かつては魔法の申し子と持て囃されたユエだったが、昨日目の前で目撃したトールの魔法の凄まじさにユエの自信など粉微塵に吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 「クラスのみんなを日本に帰す為にも、何よりも俺の怒りをスカッと晴らす為にもエヒトの野郎をブッ殺さなきゃ気が治まらないってのもあるけど、それよりも俺は更にその先を見据えなきゃってならないって思ってるんだ」

 

 「その……先、ですか?」

 

 内なる怒りを抑えつつも語られるハジメの決意の程は、確りとトールにも伝わった。しかし彼が言うその先とは一体何なのか、其処にトールの思い至らず、疑問は尽きない。

 トールの疑問の問い掛けに、ハジメは真剣な面持ちで静かに頷くと彼女の疑問に応えるべく話を続ける。

 

 「ああ、トールと再会した時にトールにも言った通り、俺は力もだけど寿命の方も多分相当に伸びたと思う。だからきっと、トールやユエとこれから先かなり永く一緒に居られるだろうけど」

 

 これから先、ハジメは自分と共に永く在ってくれる。その言葉とその事実はどれ程二人にとって喜ばしい事であろうか、トールとユエの口元が幸せそうにほころぶ。

 

 「今回、こうしてクソったれなヤローの企みに巻き込まれて、この世界に来ちまった訳だが、例えそれを解決出来たとしても、そんな事が今後起こらないとは言えないだろう。トールの世界だって、調和勢だの混沌勢だのが諍いを続けてるって話だったよな」

 

 「はい」

 

 少しゲンナリ気味にトールはハジメの言葉に頷く。ハジメがこの世界に連れ去られる少し前に、日本に侵入してきた混沌勢の一部勢力との諍いが起こったのは記憶に新しい。

 その混沌勢の一員と戦ったトール。その戦いを何も出来ずに見守るしか無かったハジメは、その時の事を苦く感じていた。

 

 「だから何よりも、今回みたいな事態に陥っても簡単に切り抜けられる様にならなきゃってのもあるが、もしこの先トールが混沌勢や調和勢との争いに巻き込まれる事になったら、俺はトールを一人でそんなところに行かせたく無いし、仮に行かなきゃならないってのなら俺も一緒に行って面倒事はさっさと片付けたいって、そう思ってるんだ」

 

 だからこそ、せっかく多少なりとも戦える力を得たのならば、大切なトールと共にある為にも更なるレベルアップを図りたいと思っている理由である。

 

 「ハジメさん!」

 

 ハジメからの自分に対する想いにトールは胸が一杯になり、瞳を潤ませる。この人に出会えただけで自分は十分に幸せであり、きっとその生命が終える時が来ても、全てに満足して生涯を終える事が出来るだろう。トールは改めてそう思ったのだった。

 

 「俺にとってトールは、大切な女性(ひと)だからな……まぁなんてかな、為せば成る!南雲ハジメは男の子!ってもんさ」

 

 むんず!と右腕を横上げして力こぶを作って、イタズラっぽい笑みを浮かべてハジメが嘯くと、トールは思わずプッと吹きだしてしまった。

 

 「アハハハっ、もうハジメさんったら」

 

 「ハジメとトール姉さま、二人だけの世界を作って、ズルい!」

 

 そんな二人に疎外感を感じたユエが、少しぶーたれて、おかんむりだったのはご愛嬌。

 

 

 

 

 

 

 

 「ハジメさんってば、そんな事を言ってくれたんですよ♡」

 

 赤らんだ両頬に手を当てて、トールは身体をクネクネと左右に揺らして惚気る。その身を動かす度に、豊満な胸がプルンプルンと揺れて目のやり場に困る。非常にけしからん光景と云うヤツである。

 が、今更トールの身体的特徴に対して愁と菫が反応する事も無く、それよりも二人は別の所に食いつくのだった。

 

 「まぁ!なんて事でしょう貴方!異世界で揉まれてハジメったら漢としてすっごく成長しているみたいよ!」

 

 「ああそうだね母さん!トールちゃんが家に来たばかりの頃は、トールちゃんの事を意識してるのに、恥ずかしがって誤魔化してたハジメが、ちゃんとトールちゃんを大切な女性だって!」

 

 「ねぇ!これは私達も近い内にお祖父ちゃんお祖母ちゃんになりそうだわね!」

 

 精神的にも成長を遂げていると思われる息子の様子に二人共ご満悦な様で、まだそんな段階には至ってもいないのに早くも孫の誕生まで期待してしまう始末だ。

 

 「もうッ!父様も母様も、気が早いですよぉ!」

 

 トールも口では早いと言ってはいるが、態度や声音は満更でもないと物語っているのは御愛嬌か。

 

 

 

 

 ハジメに付いての近況報告を終えて、南雲一家はフッとひと息吐いて、遠い異世界で頑張っている我が子に思いを馳せる。平和な日本から魔法や魔物が存在していると云う、まるでファンタジックでフィクションの様な世界で、死にそうな目に遭いながらも逞しく生き抜いていると言う。愁と菫は一時帰還したトールが淹れてくれたお茶を啜って、当分再会できぬ我が子の無事の帰還を願う。

 

 「そうでした!ハジメさんからメッセージを預かっていたんでした」

 

 そうやって皆が少しまったりとしていた時にトールが、はたと思い出したとばかりに時限収納からとある物を取り出して、テーブルの上に置いた。それは卓球のボール程のサイズの美しく透き通った小さな水晶球。名刺サイズの台座に添えつけられたソレは、ユエの叔父が遺したモノや迷宮の創造者であるオスカー・オルクスのメッセージを記録として遺していたソレと同様の記録媒体である。

 

 「トールちゃん、それは?」

 

 ハジメがトールに預けたと言うソレに興味津々な愁が、早速とばかりに食い付いて質問すればトールはニパッと微笑み答える。

 

 「ハジメさんから皆さんへのメッセージです。今から再生しますね」

 

 質問に簡潔に答えて、トールはハジメからのメッセージを再生する為に水晶宮に軽く魔力を流す。トールの魔力が注入された事により水晶球が、ほんわかとした淡い光を発するとテーブルの上にぼやけた光の像が浮かび上がり、それが次第にハッキリとした映像として現れる。

 前面にアンティーク調の美しいブラウンが映える質の良さそうなテーブルと、その向こうにこれまた高級そうなシックな色合いのソファ。四人くらいが楽に座れそうな、そのソファの中心に座した白髪の一人の男。その背景には背の高い本棚があり、かなりの数の書籍が綺麗に収められている事が伺える。

 その白髪の男は何を言おうかと、あれこれ逡巡している様な有様であったが、やがて意を決してたのか重かった唇が動き始める。

 

 『あぁっと……父さん母さん、カンナちゃんとイルルも判るかな。トールに聞いてたと思うけど一応、こんな身形になったけどハジメだよ』

 

 「おぉーハジメ!?」

 

 映像の中の人物が名乗るとカンナは先の話通りに変貌しているハジメに、然程大きな声では無いが驚きを隠せなかったのか確認する様にハジメの名を呼んで喝采する。

 

 『その、なんて言えばいいのか、ごめん俺の我儘で帰るのが遅くなると思うんだけど、絶対に帰ってくるから待ってて欲しい……』

 

 映像の中のハジメが戸惑いを押し殺して決意の眼差しを向けて、己の思いを告げると。

 

 「あ、貴方……あの優柔不断系少年だったハジメが、異世界に行ってワイルド系のイケメンにジョブチェンジしてるわッ!!」

 

 母、菫は歓喜に震えながら、隣の夫である愁の腕を掴んでガックンガックンと揺らし、テンションが爆上がりである。

 

 「ああ、いや、うん。なんと言うか、逞しくなったな。父親としては少し嬉しい面もあるけど、ハジメがこんな成長を遂げた理由が理由だけに、手放しで喜べないのがね」

 

 「そう……よね」

 

 父、愁もまた、息子の成長それ自体は歓迎しているのだろうが、その成長の過程で体験したであろうハジメの苦難を思うと、素直に喜べないでいるのだ。その思いを己の妻に伝えると、菫も其処に思い至り高まったテンションは萎み、勢いも弱くなる。

 

 『それと、紹介したい女性(ひと)が居るんだけど』

 

 しかし、次に続いたハジメの言葉に二人の耳がピクリと引く付き、気落ちして下に向いていた顔も上げて映像の中のハジメにもう一度目を向ける。

 

 『ユエ!』

 

 映像の中のハジメが首を左へと向けて人の名を呼ぶと、楚々とした足取りで左側から歩み寄る一人の少女の姿が。

 

 「なっ!?」

 

 ハジメの隣へと歩み寄り映像に映るのは、小柄な少女の横顔と姿。映像からでも見て取れるキラキラと輝く金色の長い髪と、あまり発育していない慎ましやかな膨らみを持つしなやかな肢体。

 清楚感の溢れる白い正装に身を包んだ少女はやがて正面に向き直ると、ハジメの膝の上にちょこんと腰掛けた。

 

 『貴女は本当に懲りないですね!今直ぐハジメさんの膝から降りなさい、そうすれば生命だけは保証してあげますよ』

 

 その途端、映像内には映っていないが、怒りに震えるトールの声が、ハジメの膝の上の少女を威嚇する。その声に少女は抵抗を試みようとするものの、ハジメに諌められ渋々とハジメの膝から降りて隣に腰掛ける。

 

 『ハジメの父様、母様、カンナちゃん、イルル、はじめまして。私はユエ……迷宮に閉じ込められていたところを、ハジメに助けてもらった。吸血鬼』

 

 そして、ポツリと静かに自己紹介を始めるユエ。その口から告げられたのは彼女が吸血鬼であると言う事実。それを聞き付けた二人は。

 

 「ロッ、ロリっ娘バンパイアキターッ!」

 

 ピクスドールの如き美貌の少女の正体を知り二人は、溢れる歓喜に大きな声を上げる。

 

 『俺は、この迷宮を探索するのにユエが協力してくれたおかげで、かなり早く攻略出来たんだ。まあ結局最後はトールに助けられたんだけどさ。でも、ユエと出会えたお陰で俺は孤独じゃ無かったんだ』

 

 そう言ってハジメはユエとの出会いと己の思いとを伝え、そして彼女の生い立ちを二人で映像の前で語る。すると、彼女に同情した両親は、エグエグと涙ぐみながら暖かな目をユエに向ける。

 

 『てな感じでさ、もう俺にとってユエはトール達と同様に家族として認識しているんだよ。だからこの世界の揉め事に片が付いたらユエも一緒に帰って来るつもりでいるんだ。だから、ワガママだとは思うけど、みんなにもユエの事を受け入れてもらえればありがたいと思ってる』

 

 「ああ勿論歓迎するよ!」

 

 「ええ、そうよ。何時でも帰ってらっしゃいユエちゃんも一緒にね!」

 

 愁も菫もハジメの言葉にコクコクと頷きながら、歓迎の意を伝える。映像の向こうのハジメ達には、その思いは伝わらないのだが、二人はそう言って伝えずにはいられなかったのだ。みんな一緒に早く帰って来なさいと。

 

 『父様、母様、私もハジメとトール姉さまと一緒に戦って、エヒトを斃す。そうしたらお世話になります』

 

 『じゃあ、そんな訳で、みんなも元気でいれくれよ』

 

 そうして一通りの近況報告を終えて、ハジメが結びの言葉で締め括りの挨拶をすると、ユエが其処に割って入って来る。

 

 『それと、カンナちゃん。会えるのたのしみ私、カンナちゃんのママになりたい』

 

 右手を振りながらユエは己の欲望を、ハジメの描いた似顔絵を見た日から抱いていたその想い(重い)を伝えるのだった。

 

 『バッ、お前最後くらいはちゃんと……

 

 ハジメが呆れた様子でユエに苦言を呈していたが、残念ながらその映像は中途で途切れてしまっていた。それはユエの言動に呆れたトールが映像記録を止めたからなのだった。

 

 「はは……ユエちゃん、中々ユニークな娘さんみたいだね」

 

 「そうね。でも、ドラゴンの皆と伍して戦うならそれくらいの個性は必要だわ」

 

 「だけど、母さん。ロリ系のバンパイアってだけで属性は、備えているんじゃあないかい?」

 

 メッセージも終わり、その馬でユエの個性についての議論を始める南雲夫妻。このマイペースな二人の様子にトールは内心、やっぱり二人はこうでなければと、何はともあれ南雲家にほんの少しだけでも普段の日常の風景がよみがえった事を喜ぶ。

 そんな二人を他所に、最後に名指しでママになりたいなどと宣われたカンナは、若干の背筋の寒さを感じつつもトールに尋ねる。

 

 「トールさま。ユエはちょっと変?」

 

 「いいえカンナ違いますよ。ユエはちょっとどころか、相当に変なヤツなんです。だからカンナも、あまりユエには近付かないようにましょうね」

 

 トールは左手を越しに添え腰を少し折り曲げて、右手を前に出して人さし指を立てて左右に振りながら、ほんの少しの意地悪成分を込めてカンナに注意を促すのだった。

 

 

 

 

 

 そうして、今回の役目を終えた最後にトールは南雲一家一同に、ムコーダ氏から分けてもらったオークの肉を使った料理を振る舞って、皆からの美味いぞ!の大合唱を聴き届けてから、再び異世界トータスへと赴くのだった。

 

 「では、行ってきますね。次に帰ってくる時は絶対にハジメさんと一緒に帰ってきますから」

 

 「うん。行ってらっしゃい」

 

 「気を付けてね」

 

 「はい!」 

 

 「カンナ、イルル、私が居ない間、父様と母様、そして街の事頼みましたよ」

 

 「トールさま、わかった!」

 

 「おお、任されたぞ!」

 

 挨拶を済ませて、背中の翼を展開しトールは緩やかに飛翔し星の見えない夜の暗い空にその姿を消してしまうのだった。

 

 「行ってらっしゃいトールちゃん。元気で帰ってくるんだよ」

 

 「ハジメ達の事お願いね」

 

 夜空に消えたトールに向かって、もう一度南雲夫妻は彼女の身をを気遣い、トールにそう呼び掛けるのだった。

 




トールちゃんの一時帰宅のお話でした。
最近になって新たにまた高評価頂き感謝です。
その中で、他のヒロインに付いての質問を頂いたのですが、現在のところ未定です。
皆それぞれに魅力的なキャラなので無碍には出来ないとは思っているのですが。
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