一旦日本へと帰還するトールに家族へのメッセージを託したハジメは、大迷宮最奥のオスカー・オルクスの邸宅にて、オスカーから受け継いだ能力の鍛錬を行なう事とした。また同時にユエも、トールによりレクチャーを受けた魔法の鍛錬を始めた。
「チッ。認めるのはちょっとばかり癪だが、やっぱオスカー・オルクスの魔法は凄えもんだな」
ハジメは新たに創り始めたアイテムの完成度が、それ以前までの比でなく上がっている事に驚きつつも、此処まで辿り着くまでに味わった苦労を思うと、素直に喜べないでいる。
「ん。私も、トール姉さまの魔法の凄さに驚いてる。もっと、トール姉さまに魔法を、教えてもらいたい!」
そんなハジメから少し距離を置いた場所でユエがトールから教わった魔法の精度を上げる訓練を行いながら、トールに対する敬意と自らの実力の向上に対するやる気を示す。
「フッ、そうか」
「ん!」
ハジメが車田漫画のキャラの様に口に出して“フッ”と笑うと、ユエはやる気満々な様子で力強く頷いく。二人は共にこの世界を支配するクソっタレをブチ殺して、日本へ帰る為にも強くなる事に対して貪欲であった。
そうして、トールが不在の時が四日程をハジメとユエは鍛錬と武器の開発及び消耗品の補充に充てていた。
その日の昼を過ぎた頃。迷宮の最奥の田園の上方、太陽の代わりを為している円錐状の物体付近の空間が歪が生じた。それから間髪を置かずして、その空間を割いて一頭のドラゴンが姿を露した。そしてドラゴンはその空間の歪から数メートル程前方へ進むと、その道すがらにその姿を次第に人型の女の姿へと変じて、奥手にある建物の手前にゆっくりと着地した。
「ふぃ〜っ、酷い目に遭いました」
緩やかに着地して発した一言。その言葉には心底疲れ果てたかの様な疲労感がありありと滲んでおり、丁度畑から生の野菜を拝借してそのまま丸かじりしながら屋敷へと戻って来たハジメとユエは、一体何事かと訝しみつつ彼女を迎える。
「お、おかえりトール。ずいぶん遅かったんだな。それになんだかくたびれ果てているみたいだが、どうしたんだ?」
「ん。トール姉さま、どうした?」
トマトの様な赤い実をかじりながら、ハジメとユエが問えば、トールはバサッと速攻でハジメに抱き着いた。
「ハァ〜っ。ハジメさん!ただいま戻りました」
深い溜息を吐きながらトールはハジメの胸に頭を埋めて帰着の挨拶をすると、ハジメも彼女を労るように無手の右手でトールの背中を抱いて、もう一度お帰りと声を掛ける。
「けど、本当にどうしたんだトール。相当に疲れてるみたいだが、日本で何かあったのか?」
「いえ、父様も母様もハジメさんのメッセージをとても喜んでくれましたし、カンナとイルルも元気ですよ」
そして、何故そんなにトールが疲れ果てているのか、日本で何か厄介なことが起こったのかと疑問に思いハジメはトールに尋ねてみると、どうやらそうでもなさそうな感じである。
「じゃあ何で、そんなに?」
「問題はその後です。実はここに戻る前に、私はもう一度この世界に来る前に行った世界に立ち寄ったんです」
「ああ、例の魔物の肉がすっげぇ美味い世界か……」
では何故と、ハジメが問うとトールは溜め息を吐き如何にもうんざりした様に説明を始めた。彼女の言によると、ムコーダ氏が勇者召喚に巻き込まれた世界に立ち寄った事が原因である様だ。
「はい。前に魔物肉を分けて頂いたお礼と、ついでにその世界で狩りをして肉の在庫を増やそうと思ったんですけど………もう、其処でとんでもなく面倒で鬱陶しいエルフと遭遇して、思いっきり気力を削られてしまったんですよ。あの迷惑エルフ、本当に、何度ぶち殺してやろうと思ったことか………」
ハジメに語りながら、沸々と沸き上がる苛つきにトールは蟀谷に筋を立て拳を握り込んでワナワナと震わせる。そんな鬼気迫るトールの迫力にハジメとユエは、思わず気圧されて一歩後ずさってしまったのは致し方なかろうて。
「そ、そうか。それは大変だったな。お疲れまさトール。それから、もし将来その世界に行く事があれば、俺がそのエルフをイテコマしてやるからな」
それでもハジメは、気を強く持って踏ん張り、憤懣やる方ない様子のトールを労う事は忘れなかったし、同時にこんなにもトールを疲弊させてしまった、名も姿形も知らぬ異世界のエルフに対して怒りを覚えたハジメはトールにそう約束するのだった。
「はい………はぁ〜っ、やっぱりハジメさんは私の癒しです」
ハジメのその宣言にトールはキラキラと目を輝かせて、再びハジメの胸に飛び込むとスーハーと彼の匂いを嗅いで、その表情をデロデロに蕩かし、ハジメは苦笑しつつトールの頭を撫でながら、美しい金色の髪の感触を楽しむのだった。
「むぅ。トール姉さま、ハジメに甘え過ぎ!」
そんな二人にユエはむくれっ面でトールに不満をぶつけ、自身もハジメに抱き着いてトールと同じ様にハジメの匂いを心ゆくまで嗅ぐのだった。
一方その頃。ハイリヒ王国の王城の一角では。
オルクス大迷宮への再トライを終えて、王城へと帰還したハジメのクラスメイト達は、ベヒモスを相手取り圧倒的な実力を見せつけたトールの凄さに感化され、以前以上に真剣に訓練に打ち込み始めていた。
心を折られ戦う意思を失った、ごく一部の生徒を除いてだが。
その日の訓練を終え、王城の食堂にて夕飯を頂いている生徒達。その一角の席に着いた、とても華のある美少女と云う形容さえもが薄っぺらに思える程に美しい二人の女子生が、互いに向き合って仲良く食事を摂っていた、のだが。
「はッ、何ッ!今何かッ!?」
絹の様に光を受けると輝きが映えるサラサラで
「どうしたのよ香織、突然変な声を出して?」
突然に、素っ頓狂な声を上げた相方に、艷やかで長い黒髪を後頭部で一本のポニーテールに纏めた、対面の少女にも劣らぬ美少女と言うよりは美形と形容するのが相応しい、凛とした佇まいの少女が食事の手を止めて問う。
「今、ハジメ君とトールさんがイチャイチャしてるッ!私には分かる。ラブコメの波動を感じるのよッ!」
南雲ハジメに想いを寄せる白崎香織は確信を持って、そう断言する。手にしていたスプーンの柄を手のひらのなかでギュッと押し曲げてしまうくらいに力を込めて。
「はぁ………この娘は突然何を言い出すのかと思えば………はぁ」
幼なじみの発した妄言に八重樫雫は自らの額に手を当てて首を振り、付き合っていられないとばかりに深く溜め息を吐く。雫とて、あの日奈落にてトールを見送った日からハジメが生存している可能性は高いと信じてはいる。しかし、いくら何でも香織の様に変な超感覚を身に着けて、ハジメの危機?を察知する様な奇特な特技の持ち合わせもなければ、それを信じる事など出来はしないと言うものである。
「私が知らない何かが、起こっている気がするの!ねえ雫ちゃん。早くしないとハジメ君の貞操が危ないんだよ」
何の罪もないテーブルに“バンッ”と力強く両の掌を叩き付けて、香織がハジメのピンチであると力説するのだが、言われた方の雫からすれば、本当に何言ってんだコイツな気分である。
仮に香織が雫の知らない超感覚で何某かを感じ取っているとしても『だから、何をどうしろと』ってなものである。現状の自分たちの実力では、ハジメが落ちてトールが降りていった奈落の底で、おそらくは存在していると思われる更に怖ろしい魔物を相手取って、戦って生き残って行けるだけの力は無いのだから。
それは香織自身も重々承知の事である。だからして、彼女は一刻も早くハジメの元へと進撃して行ける実力を身に着けられる様に、訓練に勤しもうと言いたいのであるのだが、感情が先走り過ぎている香織の思いは親友には伝わらずなのである。しかも厄介な事に。
「ああ、もうッ!分かった(分からないけど)から、その後ろに浮かんだパワーある
燃え滾る香織の熱い思いを具現化したかの様な、恐ろしい形相の般若面を被った女性型の半透明な
そんな状況をみかねて気配り上手な雫さんは、憐れな罪なき(一部除く)クラスメイト達の身を慮り香織を嗜める。
「うぅ〜っ……分かったよ雫ちゃん」
不承不承の体で、むぅっと口を尖らせながら香織は雫の言葉に従って、自らが発現させたパワーある
その後もクラスメイト達は強くなるべく訓練に励むのだが、はたして香織がハジメとの再会が叶うのは何時になるやら。
王国の王城でクラスメイト達が夕食を摂っていた頃、ハジメ達もまた迷宮内の隠れ家にて、日本より帰着したトールお手製の夕飯を腹一杯に味わっていた。その夕飯も終わり、ひとっ風呂浴びて屋敷のベッドへと倒れ伏したハジメは。
「ああ、ああ、うひぃ〜っ。ああッそこそこッ!」
昭和の時代からのお約束、回転する扇風機の前で『我々は宇宙人だ』の様な声をあげていた。
「ハジメさん、ずいぶん疲れが溜まってたみたいですね」
ベッドの上にうつ伏せに寝転んだハジメの身体を、トールの指が丁度よい塩梅の力加減で這い回り、ハジメを性的な刺激とは違う快楽を与えているのだ。
「ういぃ〜っ、ああ、マジで気持ちいいよトール。ふぅ〜っ最高だ〜ぁ」
その心地良さにハジメは表情筋が完全にトロトロに蕩かされ、このままスライム化してしまうのではなかろうかと言う具合である。うつぶせ状態のハジメを見下ろしている形になっているので、その表情は見えないが、その声の蕩け具合からハジメが本当に喜んでいてくれている事が伝わり、トールは益々張り切ってハジメを甘やかす。
「そうですか。では、もっともっとハジメさんを気持ちよくしちゃいますよ!なんでしたら性的な意味でも♡」
ハジメを甘やかし、ふくよかな膨らみと尻尾をフリフリしながら、トールはハジメを誘惑しつつ自らの欲望を口にする。
「ああ、そうだな。将来的には勿論そうしたいんだが、今はまだな」
彼女の欲望に蕩けながらもハジメは真面目に答える。ハジメ的にもその誘惑に乗りたい気持ちは大いにあるのだが、今はエヒトをブチ殺す事を優先したいのだ。それに何よりも。
「え〜っ、私的には何時でも構わないんですけどね!」
「ハハハッ。まあ何と言うか、ダモスレスさんにも挨拶をしなけりゃだしな」
トールを娶るならば、彼女の父親である終焉帝ダモクレスに正式に挨拶をし、男としての筋を通したいのだ。これで案外ハジメには古風なところがあるのだった。
「は、ハジメさんッ♡」
ハジメの真剣な想いにトールは感激のあまりその瞳の縦長の瞳孔に何時しかハートのマークが浮かんでいた。しかし。
「うむ〜っ。トール姉さまばっかりハジメとイチャイチャズルい。私もする!」
二人のそんなイチャラブ具合いに一人取り残されたユエは、プンスカとご機嫌斜めにむくれ、仲間外れになる物かとベッドに横になったハジメの足の上に飛び乗って、トールと一緒にハジメの下半身、臀部から太腿辺りをまさぐり始める。
「なっ!?おい、ユエっ、ちょっ!」
「何をやってるんですか!退きなさいユエっ!」
突然のユエによる強制介入に、ハジメそれが妙に擽ったく、トールはハジメと二人でのイチャイチャタイムを妨害され、強くユエに退く様にと迫るのたが。
「わたしだって、マッサージ出来る。得意!」
負けじとユエはトールに言い返す。そして実際に言うだけあって、ユエに下半身を弄られているハジメは、次第にユエの手技がトールのそれと比しても劣る事が無いと知った。
「おうっ!?マジか。ユエ、本当に上手いな。今はまだ実感は薄いが、足の疲労が取れていってる感じがするぞ!言うなればエシディシの鼻ピアスの解毒薬を飲んだ直後のジョセフみたいなもんだな」
その気持ちよさに歓喜の声を上げるハジメに、ユエは得意気な顔でニヤリと笑ってトールを見やる。
「むふぅ!!このくらい私にかかればお茶の子さいさい」
「おのれぇ!ユエの癖に生意気な!」
そして、ユエの口から吐いて出たひと言に対抗心を燃やしてトールがスネ夫チックなセリフを吐く。
「ん。私も、トール姉さまに、負けられない。私だって、性的ご奉仕も出来る!」
そして互いに暫し目線を合わせて、フッと笑う。一見いがみ合っている様に見える二人だが、根っこの部分では波長が合うのかも知れない。ユエははじめからトールに対して敬意を抱いていたし、トールの方も自分が教えた幾つかの魔法を習得し始めているユエを認め始めていた。
そうして、三人の姦しい一時は案外楽しく過ぎてゆく。
一夜が明けてトール監督の元、ハジメとユエの訓練が始まる。ハジメは武器や各種アイテムの製作と並行して、トールから近接格闘戦技を学び、ユエは変わらずトールから魔法を学ぶ。そうして一月の時をオスカー・オルクスの邸宅で過ごし。ハジメとユエはトールとの再会の日から更に実力を増し、いよいよオルクス大迷宮を出立し本格的に偽神エヒトをブチ殺すべく旅立つ日を迎えるのだった。
「………」
邸宅の前の広い庭の前で、三人は一月以上の時を過ごした邸宅を眺める。ハジメとしては、この迷宮で碌でもない目に遭ったが、いざここを去るとなれば感慨深い思いも込み上げて来るのか。
「どうしましたかハジメさん?」
「ん?ああ、まあ何というかな。イカれた裏切り者のお陰で、あの橋から墜落して死にそうな目に遭って、魔物の肉を喰っちまって肉体も作り替えられて」
「ハジメさん………」
「ハジメ………」
「一人で孤独だったけど、あの部屋でユエと出逢って、そのおかげで独りぼっちじゃなくなって、迷宮を一緒に攻略して行ったんだよな。まあ色々あったが俺も強くなれたし、ユエもいてくれたから何とか最下層まで到着出来たけど」
階層を下る事に、その階層に生息する魔物を斃して肉を喰らう。そしてその魔物の技能を掻っ攫い、己の血肉とし体得して強化される。だが、それによりハジメの肉体は人間を逸脱してしまった。それはある意味では幸であり、ある意味では不幸な事でもあった。
「だが、最下層の門番には敵わなかったんだよな」
「ん。でも、危ないところにトール姉さまが来てくれた」
しかし、それでも二人の力は最奥のガーディアンには及ばず、二人の命がまさに風前の灯となったその時、トールが迷宮の最奥までたどり着いてくれて、二人は一命を取り留めたのだ。
「ああ。本当にトールには感謝しかないよな」
「ん。トール姉さま、感謝」
二人が親愛の念を込めてトールへの感謝を口にすると、トールはそれが嬉しくもむず痒く感じたのだろうか、少し顔を赤らめながら『当然の事をしたまでですよ』と嘯く。彼女の照れ隠しな態度に苦笑しつつ、ハジメは語りを続ける。
「トール、ユエ。二人が居てくれたから俺は、此処まで来れたんだ。この迷宮の攻略を早期に進められたのは、ユエが心身共に力になってくれたからだし、この世界に拉致られ奈落に落ちて、一人で孤独だった俺が正気を保っていられたのは、トールがきっと迎えに来てくれるって、そう信じていたから………」
トールとユエへの、心からの感謝の言葉を二人の顔を見据えて真摯に伝える。
「ん。それは私も一緒。ハジメが私を見つけてくれた。だから、私も一人じゃ無くなった」
永い年月の間、唯一人自由を奪われ密室に幽閉され、死ぬ事も出来ずに孤独に耐えるしか無かったユエ。その孤独の牢獄から自分を救い出してくれたハジメに、感謝以上の想いを抱くに至っている。
「ええ、どんな事があろうと、私は絶対にハジメさんを見つけ出しますよ。あの日死にかけていた私を、ハジメさんが見つけてくれた様に」
ユエと同じく、トールも神の軍勢相手に単騎で挑み敗北。その身に神剣を突き立てられ、ただ緩やかに訪れる死を受け入れていたところをハジメに見つけてもらい、南雲一家にその命を救われ、恩義と情愛を感じ、以降ハジメと南雲家の皆の為に共に生きる道を選んだのだ。
「そうだな。実際にトールはそうしてくれて、今此処にいるんだよな。本当に良く来てくれたよトール。ありがとう……」
「はい!」
ハジメからの感謝の言葉と優しい微笑みに、トールは朗らかな声音で答える。しばし二人は暖かな眼差しで互いを見つめる。そうしてハジメは次にユエにもトールと同じ様に優しく微笑んで、その目を向け感謝を伝えた。そしてもう一度オスカー・オルクスの邸宅を見やり、すぅっと息を吸って大きな声で呼ばわる。
「じゃあなぁッ、オスカー・オルクス。アンタが遺した物は、俺達が全部貰っていくからな。この迷宮でさんざっぱら酷ぇ目に遭った慰謝料代わりだ。安心しろ、クーリングオフなんかしないからよ。だから、あの世でケチくせぇ文句なんぞ言うんじゃ無ぇぞ。」
遥かな昔に死んでしまっている、この邸宅の所有者にしてオルクス大迷宮の創造者であるオスカー・オルクスにハジメ流の別れの挨拶を告げる。
この邸宅に遺されていたオスカーが創造したアイテムを、ハジメはこれまたオスカー謹製の指輪型の空間収納(宝物庫とハジメが命名)に根こそぎ、掻っ攫うように収納していた。このくらいやっても罰は当たるまいと、あくどい笑みを浮かべてハジメは嗤いながら収納した。トールもユエも首を縦に振って頷きハジメの作業を手伝ったものだ。
「よし。そんじゃあ、マジで行くとするか」
言いたい事を一通り言ってハジメは踵を返し、共に旅立つ二人に呼び掛ける。
「はい!」
「ん」
二人もハジメに返事を返してハジメの後について行く。朗らかに微笑み軽やかに歩みを進めるトールと、表情こそ変わらぬものの、その瞳に未来への希望の輝きを映すユエ。
日本への帰還を目指し、三人の旅が此処から始まる。
当作と並行して、ガンダム系の二次創作を始めた関係でただでさえ遅い投稿頻度が更に遅くなってしまっております。
よろしければ【悲報】昭和のおばちゃん、宇宙世紀に転生したと思ったら、最推しの姉だった【あんまり過ぎる】もお目通し頂ければ幸いです。