賛否両論ありましょうが、ごく一部の数値以外はあまりチートにはしませんでした。
聖教教会の総本山に於いてイシュタルとの会談を終えたハジメ達は現在そのイシュタルの先導の元、その麓にあるハイリヒ王国へ案内されていた。本人達の意思など露ほどのお構いも無しに
『何となくそうなんだろうと思ってたけど、やっぱりこの世界は宗教の方が国家よりも上の立場になるんだな。』
これは多分に厄介な世界だと言う事が実感として伸し掛かり、またしてもハジメはそう辟易とした気持ちに陥ってしまう。国家の運営にも教会が何とでも口出しし干渉もし放題だろう。それに国家の内情など知らないハジメだが、効率的にソレを運営して行く上で法制度や司法など必要不可欠なものさえも、それがこの国に存在していたとしてもイシュタルや教会の胸先三寸で捩じ曲げる事も容易であろう。
『きっと此処は政教分離原則とか無いだろうし、と言うか何それ美味しいの?が現状だろうから此方が何かイシュタルさん達にとって不都合な行動を取ろうものなら、それとなく国王さんとか貴族の人を動かしてありもしない罪状を並べ立てられた挙げ句、裁判も弁護人もなくデリートとかってのもあり得るよな。』
不味い、これは迂闊な行動は出来無いぞとハジメは気を引き締める。ハジメ達の存在の有用性の何某かをアピールしなければなるまいと。さすれば先方も此方を易々とは切れまい。とは言え教会もこの国のお偉方も基本的にはハジメ達を戦いの駒として有用活用する為に喚んだのだし、戦いに於いて使えないと判じれば即切りも有り得る。
『幾ら教練を受けるからって皆が皆一丁前の戦士になれる筈もないよな。僕なんか特に、基本インドア派だし。だったら何とかそれ以外にコレは使えるって思ってもらわないとだろうけど……はぁ、でもラノベみたいに現代文明無双とか僕には無理だよねぇ。』
聖教教会の総本山から、この麓の国ハイリヒ王国へと下る際にまざまざと見せつけられた、魔法技術の産物と思われる昇降機のスロープや、おそらくは数千メートル級の大山に居ながら高山病に罹患する事もなく無事に下山出来た事などを思い出してみて、精々自分は少しばかり手先が器用なだけで本格的な技術など持ち合わせていない。その様な自らの要素を踏まえて、ハジメは中二病が安易に憧れる異世界無双など出来ないなと結論付けて早々に諦めたのだった。この時は。
ハイリヒ王国の重鎮達によるハジメ達異世界組一行の歓待が続く。壮年の、否初老に差し掛かった頃合いと思われる威厳のある佇まいを見せる国王とその伴侶たる、その同年代にしては幾分若々しくも見え気品に溢れる王妃。そしてハジメ達より幾つか歳下と思しき、将来は間違い無く美しく成長するであろう事が両親の遺伝子より確約されていると言っても過言で無い銀髪碧眼の王女と、年の頃は人化したカンナやその友人才川と変わらぬ、背伸びしたい年頃の生意気盛りで生意気に色気づき始めた年齢程の、未だ幼き少年である王子。
その四人の王族の前に、イシュタルが日本人組の年長者であり教師である畑山愛子と生徒達の代表として天之河グループ四人とを引き連れ紹介に当たる。最後まで、否今でも本心は生徒達の戦争参加に反対しているのだろうが、この様な公の場で其れを表明することは流石に憚ったのだろうけれど、ハジメの目にも。
『うわ、畑山先生笑顔が引き攣ってるなぁ。まあだけど先生の気持ちを思えば少しは僕も、共感出来るけどね。』
彼女の本心が見て取れた。しかし現状この場で彼女の本心を、権力者達に表明する事は自らの立場を危うくする物に他ならず、畑山教諭も本心は兎も角として不本意ではあろうが現況を認知しているが故に事此処に及んではと、その思いに封をしているのだろう。権力者達から掛けられる期待の言葉に表情以外は卒なく社交辞令を以て対している。
『畑山先生、ちょっと頼り無いけど僕達の立場を慮って自分の気持ちを抑えてるんだろうな。頑張ってて下さい先生、時間は掛かるかもだけど、きっとトールが来てくれますからそれ迄の辛抱です。』
年齢的には教職にあるだけに、学生であるハジメ達よりも当然年嵩なのだが、経験も職業者としての貫禄も未だルーキーの域を出ないながらも自身の責務を果たそうと奮闘する彼女をハジメはその様に評する。
次いで天之河が爽やかな笑顔と耳心地と威勢の良い弁舌を以て、王家一同と相対する。その天之河の容姿と弁舌に王家と取り巻きのお偉方の間から歓声が湧き上がる。やはり劣勢にある戦時国家に於いて、信仰する神の御業により喚ばれた勇者一行のリーダー格にある男が、明朗快活にして言語明瞭に勝利を受け合うのだから、情勢に危機感を抱いていたのこの世界の人々の人心を鼓舞するにこれ以上の効果は無かろう。しかもそれが顔面偏差値的にも身体骨格の造りも極めてハイレベルな人物から齎されたものならば尚の事。
国王夫妻の長女であろう姫君も、貴族の令嬢と思われる年若き少女達も、そしてこの王城に仕える女性職員も物凄くわかり易い程に、頬を染めて潤んだ瞳で彼を見つめている事からもそれが窺える。
『凄いな天之河君。たったあれだけで現地民の人心を、ガッチリ掴んでるんだから。弁舌爽やかさにして威風堂々ってところかな。やっぱりイケメンは得だよね、ある意味何処かの惑星同盟の国防委員長から最高評議会議長になって最終的に国を滅ぼす判断を下したアレみたいだな。でもまあ天之河君はアレとは違って自分から率先して動いて見せるだけ遥かにマシだろうけど。』
次いで紹介されるのはクラスを、否ハジメ達の学校全体を通しても題すると言って差し支えのない二人の女子生徒。白崎香織と八重樫雫。
おっとりと柔らかな包み込む様な暖かな雰囲気を醸し、しっとりと艷やかな黒髪ロングヘアをサラリと棚びかせる淑やかな少女。その姿とこの世界では珍しい黒い髪も相まってこの国の高位にある男性陣も彼女に目を奪われている。しかも王族の年端も行かぬ子供である王子までもが彼女に心を奪われている。
そして女性にしては些か高過ぎとも思われる長身に、凛として鮮烈な佇まいの中に女性としての柔らかさをも同居させる少女。後頭部に一纏めに結われたポニーテールを颯爽と揺らす様は、日本で言うところの某歌劇団の男性役を思わせる秀麗さで殿方は勿論の事として、この異世界のうら若き女性達をも虜にしてしまっている様だ。
『うん。やっぱり異世界の人から見ても、二人共綺麗だと認識されるんだな。僕もまあ客観的に見て二人共、綺麗だとは思うもんね。八重樫さんは、すごく気遣いが出来る人だし白崎さんもすごく人当たりも良いし人気があるのも当然なんだろうけど。そのせいで檜山君や天之河君に妙に絡まれるから、僕的には放っておいて貰いたいんだよなぁ。』
権力者達と歓談するリア充幼馴染み四人組と畑山教諭の様子を、第三者視点で眺めてハジメはそんな事を考えていた。若干一名程の描写を省いたが、其処はご容赦願いたい。
さて、ハジメ達とハイリヒ王国の王家並びに重鎮達との会合も恙無く終り、勇者とその同輩と目されるハジメ達は各自其々に城内に個室を与えられ、夕飯までの時間をゆっくりと過ごす様にと先方より気を遣われて、お言葉とあらば有り難くとハジメは庶民が使うには豪華に過ぎるベッドへと、少しだけ躊躇はしたものの思い切ってダイブして、土日の父の家業のヘルプによる疲れと今日の出来事もあってか瞬く間に眠りの園の住人と化してしまったのは仕方の無い事であろう。そのままハジメは城内の下働きのメイドが夕食の席へと案内する為に呼びに来る迄の間眠り続けた。
「うわっ!何これ美味しい。」
女子生徒の一人が、異世界の食材により作られた料理を口にして、少しばかりはしたなくもあるが大きな声をあげる。神の使徒たる異世界の勇者達を歓待する為に催されたこの日の夕食は立食パーティー形式で開かれ、皆それぞれに興味を惹かれた料理に手を付けている。
『うん。家が洋食屋を営んでる園部さんが言うだけあるね。確かに美味しいな………でも、僕にはやっぱり、トールが造ってくれる料理の方が遥かに美味しいな。』
地球には無い(探せばあるのかも知れないが)食材と、地球の物と近しい食材とが使われている異世界の料理に最初のうちは戸惑いを見せて居たものの、一度口にしてみれば思いもよらぬ味わいが口内を満たし感嘆の声を上げるクラスメート達。
しかしそんな中に在ってハジメの思いは、出逢ってからまだ一年にも満たないにも関わらず、完全に家族として認識している大切なドラゴンの少女の事を思うのだった。
この日の正午を回って間もなく、突然連れ込まれた異世界トータスにて、この世界を何も知らぬ儘に少しでも生存確率を上げるべく方策の思考を続ける事により、些か精神が疲弊してかハジメはもしかすると軽いホームシックに掛かっているのかも知れない。
「……あっ、あのさ南雲。」
一人会場で、物思いにふけるハジメの元に女子生徒が近づいて来てハジメに声を掛けてきた。それは先程この料理を美味しいと評していた女子生徒『園部優花』だった。
「……うん?何かな園部さん?」
突然自分の前に現れ話し掛けてくる彼女をハジメは訝しむ。何でも無い様に、彼女の要件を聞こうと問い返すハジメだったが、その内心では彼女を警戒している。
「えっとさ……さっきはありがとう。」
しかし、ハジメの警戒心を他所に彼女はハジメに対して感謝の言葉を述べるのだった。
「うん?」
この彼女の感謝の言葉にハジメは戸惑ってしまう、はてと。一体自分が彼女に何をしたのかと。ハジメが疑問を感じていると彼女はハジメの表情から見て取ったのか、園部はハジメに対する感謝の理由をクスリと微笑んで説明する。
「あの、教会でさ。南雲がイシュタルさんに色々と問いただしてたでしょう。何ていうかさ、あの時天之河君の言葉で皆浮かれてノリで色んな事をすっ飛ばして戦争に参加する気になってた私達に、南雲はちゃんと現実を知らせる為にあんな事を言ったんだよね。」
「ははっ、それはどうかな。」
「誤魔化さなくて良いんだよ。私さ、困ってるこの世界の人を助けたいって言えた天之河君も凄いって思ったけど、ちゃんと現実を見て先の事を考えてる南雲の事も凄いって思ったんだよね。あと遠藤と一緒にイシュタルさんの話を聴きながら、コレからどうするか話し合ってたのもね。」
「………………」
「だからありがとう。私達に考える切っ掛けをくれてさ。」
そう言って園部は小さく手を振ってハジメの側から離れて行く。彼女がハジメに伝えてくれたその言葉を聞き、ハジメはそれを嬉しいと思った。あまり期待をしていなかったクラスメートの中に、彼女の様に自分の言葉を確りと受け止めてくれた人が居たと言う事を。
「それと、何でトールさんみたいな綺麗でカッコいい人が南雲の事を大切に思ってるのかもね。」
振り返り、ウインクと小さくペロリと舌を出し戯けた調子でそう誂って園部優花は今度こそハジメの元から去って行った。
「なんだ、これは!」
芸術の巨匠の言葉でお馴染みのセリフを呟いたのは、このハイリヒ王国が誇る騎士団長『メルド・レギンス』の口から漏れ出たものだった。
何故彼の口からその言葉が吐いて出てしまったのか、それを語るには先ずは少し時を遡る事となる。それは、ハジメ達がこの異世界トータスへと転移させられた日の翌朝から始まる。
一夜明けた翌日の早朝、早速ハジメ達地球組に対する訓練が開始される運びとなったのだが、ハジメ達にその訓練を施してくれる教官にまさか騎士団長自らが就任するとは、その事実に皆驚きを隠せない様子だ。
「なあに、この世界を救うべくエヒト様が遣わした勇者様御一行を、其処いらの凡百なんぞに預けるわけにもいくまいよ。それこそ政治的、対外的にもな。」
明け透けにメルドはハジメ達に対してその様に事の顛末をサラッと暴露してくれた。成る程納得だなと内情を理解し、皆もメルドの言に頷くのだった。
勇者として召喚されたとは言え、ハジメ達が長い間戦争を経験していない国家の民であるが故に、戦いに関しては素人であると言う事はイシュタルからハイリヒ国王にも伝わっており、ならばハジメ達を鍛え一刻も早く戦地へ赴かせられるレベルに仕立て上げるには、やはり王国が誇る最高戦力たる騎士団長に教育係を任せるが適任であろうと、トップ会談にて決せられたのだった。と言うよりも、イシュタル教皇がエヒト神より召喚の信託を受けた事を王国に告げた時点で首脳会談が行われ、その場で勇者の教導官には地位と実力を兼ね備えた者、即ちメルド団長を宛てる方針で決していたのだが。
『でも騎士団長ともなれば、戦いや日々の鍛錬以外にも仕事は多々あると思うんだけど、その辺は大丈夫なのかなメルドさん?』
王国や教会がその様に、自分達に配慮するのは当然の事ではあるのだろうがとハジメとしても理解はしているのだが、他人事ながらも心配するのだが当のメルド本人が。
「むしろ面倒な雑事を副長に押し付ける理由ができて助かった!」
などと豪快に笑い飛ばして言うものだから『何だかなぁ心配して損した気分だ』とその一言に、ハジメは溜息を吐きたい気分にさせられたのたが、それに続きメルドが口にした言葉。
「ええいッ、コレから共に轡を並べて戦う戦友となる者に一々敬語なぞ使えるか!」と豪快に笑って言い放ち、一頻り笑った後に彼はハジメ達に向かい姿勢を正すと深く頭を下げて「すまない」と謝罪の言葉を口にする。
「俺達ハイリヒ王国の、否このトータスの人間が魔人族に対して劣勢にあるばかりに、関係の無い君達を巻込む事を一人の人間として謝罪する。」
そう言い終えてメルドは姿勢を正すと、地球組一同を見渡して更に付け加える。
「こんな言葉が免罪符になるだなどと俺自身思ってはいないし、これは単なる俺のエゴに過ぎないが……この教導期間の間に俺が君達に教えられる事はすべて伝えるつもりでいる。魔人族との戦に勝利し君達が無事に故郷に戻れる様に、俺は全力を尽くすつもりだ。故に厳しく接する場合もあるだろうが、どうか容赦を願いたい!」
その言葉に、この場に参じた一同は俄かにざわつき始める。しかも騒つくのは地球組だけでは無くメルド配下の随伴の騎士団員達もである。
そのメルドの言葉に騎士団員がエヒト神に対し不敬ではないかと口々に呟くのだが、それに対しメルドはキッと眼を剥いて彼等を一喝する。
「貴様ら何を騒ついとるかッ!今も言ったであろうッ。元はと言えば我らトータスの者達が不甲斐無いばかりに、エヒト様は彼等を遣わしたのだっ!結果、それ故にこの異界の者達に俺達は迷惑を掛けてしまっているのだ、違うかッ!ならばこの客人達を鍛えるのは勿論の事として、当然俺も貴様等も彼等と共に戦える様に尚一層日々の訓練に励むべきだろう!」
部下を叱責するメルドの言葉にハジメは思う。このメルドと云う人物は、このトータス世界へと拉致されてから出会った現地人、数は少ないが出会った人の中で最も誠実な人なのだろうと。自らの力不足を確りと認識したうえで、自身が属する世界が抱える問題に全く関係の無い異世界の者達を巻き込む事を悔い謝罪して見せる。しかも神の意志が絶対の宗教至上の世界でソレをやってのけたのだから、その言葉に嘘は無いとハジメは彼を信頼に能う人物だと認めるのだった。
しかし、とは言えどメルドをしてもエヒトと云う神への信仰心自体を捨てている訳でも無かろうし、もし仮にイシュタルにより神託としてハジメ達に取って不利益な命を下した場合は、彼はその命に躊躇いはするだろうが、その命に否とは言えぬだろうとも思う。
『一個人としては信頼に値する人なんだろうけど、神様が絡むとどうなるか分からないしな。完全に信用する事は出来無いだろうね。』
ハジメは部下達に持論を以って諭すメルドに対しその様な印象を抱きながら彼らの様子を観察する。
メルドの言葉に、騎士達は暫し言葉に詰まった様に息を飲む。おそらく騎士達は彼の言葉を通して、自らの誠の思いと信仰心と己の力量やこの世界の現状とを顧みているのだろうか。ハジメに彼らの心の内を見通す事など出来はしないが、暫しの黙考を終えたと思われる彼らの表情が先程迄とはガラリと変化した事を見て取る事は出来た。そしてこの場にいる騎士達を代表し一人の男がメルド団長に一礼しメルドとハジメ達へと告げる。
「しっ、失礼いたしました団長。団長の仰る通りであります。我らにもっと力があれば、確かにエヒト様の御心をお騒がせたてまつる事も、勇者様方にご迷惑をお掛けする事も無かったでありましょう。なれば我ら一同も団長のお言葉通り、粉骨砕身し、一層の鍛錬に励む所存であります!」
騎士団のその誠実な態度に、生徒達の大半は表情に暖かな笑みを浮かべているが、一部の捻くれ者やハジメの様に事態の推移を観察している様な者などは、推して知るべしと言ったところか。
「うむ、その意気やよしだ!」
破顔一笑、メルド団長は大きく頷いて部下たちを見渡して言うと、その考えを改めた部下達を褒める。
「勇者様方、大変お見苦しいところをお見せし誠に申し訳ありませんでした!」
メルドの言葉に団員達はふっと表情を和らげるが、直ぐにそれを改めてハジメ達に一礼し声を大にして謝罪の言を述べる。その彼らの態度にハジメは内心に、メルドの時と同様に感心する。そして思うのだった。
神と教会、この宗教を至上としている碌でもない世だからとして、その世界に生きる人全てを見下す様な事は決してすまいと。ただ同時にこうも思う、この世界に長居するつもりなど微塵もないので必要以上に、この世界の人間に肩入れする気もないのだがと。
しかし、そうでは無い者もいた。
「いや皆さん、どうか頭を上げてください。俺達は何も気にしていませんし、それに俺達の世界にはこんな言葉があります『義を見て為さざるは勇無きなり』と。要するに、困っている人を目の当たりにして手を差し伸べ無い者は勇気を持たない者だって意味です。俺はそんな人間にはなりたく無いッ、だから俺はこの世界の人達の手助けをすると決めたんです。そう言う訳ですから俺っ、俺も皆さんと一緒に戦える様に訓練に励み、そして強くなったら貴方達と共に皆を守る為に戦います!」
言わずとも知れているだろうが、それは天之河光輝に他ならないのだが。彼の言う事は一個人としては極めて真っ当なモノで、何一つ混じりっ気の無い善意のみの純度百パーセント、純粋仕立てで構成されたモノであり、メルド含むトータス世界の人々もそれをヒシと感じ取ってか、感激の面持ちも顕に共に戦おうぞと誓い合う。
極短いクールダウンタイムの後、騎士団から、畑山教諭含む地球からの召喚組全員に一枚の小さなプレートが配られた。何でも神代から伝わる『アーティファクト』と呼称される、失われた技術によって造られた代物だと云う事だ。その名を『ステータスプレート』と言い、その中でも比較的容易に生産が出来て身分証明書代わりに使われているそうだ。
「うぅ、何か解っていても自分の身体に針を刺すなんて気が引けるんだけど………」
「……うん、だよねぇ……」
自分のステータスをプレートに刻むためには、自分の血を一滴プレートに滴られる必要があるのだが、その為には自らの皮膚の何処かしらに傷を付けなければならず、それに躊躇う者も。そんな一部の生徒の会話する声がハジメに届く。
「確かにだよね。でもヤラなきゃ始まらないし、覚悟を決めてと。」
実はハジメもその一人だった。しかしと、小さく呟いた先の言葉通りに彼は左手人差し指の先端を渡された針でチクリと刺す。
プックリと指先に、ささやかに溜まる赤い液体のドーム。それをハジメはメルド団長の説明通りに、右手に持ったステータスプレートの中心に刻まれた魔法陣に一滴落とした。
「ステータスオープン!」
ハジメは自分の血が魔法陣に行き渡った事を確認し、これまた説明通りにステータスオープンと呟く。すると手の中のステータスプレートは淡い輝きを放ち、その輝きが収まると。
「なんだこれは!?」
かつて『芸術は爆発だ!』と唱えた日本の偉大な芸術家の十八番を口に出して驚いてみせた。先に言われた通りに、ハジメのステータスプレートには彼の詳細な能力値が表示されていたのだが、それの意味する所をハジメは考察し始めた。因みにその数十分後には、ハジメのステータスを確認したメルドが同じセリフを口にするのだが、其れは置いておこう。
『何と言うか、よくもまあ僕の趣味とか技能とかが上手い事表れていると言うか……』
ハジメは其処に記された自分の能力を表す文字と数字を眺めて独り言ちていると、メルド団長が大声で皆へと呼び掛ける。
「全員見れたか、説明するぞ。まず、最初にレベルがあるだろう、それは各ステータスの上昇と共に上がる………」
ザッとメルド団長がステータスプレートや能力などの基本的な条項を解説してくれた、そして一通りの説明を終えるとハジメ達全員のステータスを確認したいので一人ずつプレートを見せてくれと言う。
「此方としてもお前達一人一人それぞれの技能によって、それに合った訓練の内容を考えなければならないしな。基本は長所を伸ばし短所を埋めて行くと言う方針だ。」
成る程確かにそうだろう。魔力が高く魔法への適性高く、だが剣技や格闘への適性が低い者に剣技中心に教えるよりも魔法関係の能力を引き伸ばす方が育成効率も高かろう。
なのでメルド達の言う事は尤もだとハジメ達も理解し、天之河達を筆頭に進んで自らのステータスプレートを提示する。
「おおっ!コレは!」
天之河のステータスプレートを確認したメルド団長が歓喜と驚愕の入り交じったハイテンションな声を発する。それだけ彼のプレートに刻まれた数値や技能が、団長であるメルドさえもが驚く程のモノだったのだろう。
「流石に勇者様だな、レベル1でステータスオール三桁とは恐れ入ったぞ!技能も普通はニ、三程なんだがなぁ……コイツは規格外過ぎるってものだぞ。しかし共に戦うならばコレ程頼もしいモノは無いぞ!」
メルドの言葉に天之河は照れ臭そうに頭を掻いて『そうですか、はははっ……』と満更でも無さそうだ。
そして、続くクラスメート達も昨日イシュタルが言っていた様に、地球人がこの世界の人間の数倍の力を持っているという言葉が真実であると言う事を証明する結果を呈す。
そして、最後にステータスプレートを提示したのはハジメだった。それを見たメルドの口から出た言葉が先のハジメの呟きと同じだったのだが、そのステータスと言うのが以下の通りだ。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル1
天職∶
筋力:30
体力:30
耐性:35
敏捷:20
魔力:250
魔耐:180
技能∶錬成・
ハジメのステータスプレートを確認し戸惑うメルドにハジメは『ですよねぇ』と心の内で同意を示す。
おそらく中世ヨーロッパレベルの世界観だと思われるこの世界に、コンピュータ等が存在しているとは思えない故に、メルドがプレートに記されたハジメの天職や技能の大半を理解出来ないのも仕方が無かろうと。
しかし、そんなハジメのプレートを読み進めていたメルドだが、とある項目に目を付けて「うむ」と唸るとハジメにこう告げた。
「大半の技能の意味は解らんが、しかし凄いな竜の加護とは。まだこの世界に訪れたばかりの人間に伝説の竜人族の加護が宿るとはな!」
どうやらメルドはハジメの技能の項目にある、慈竜之愛・賢竜之加護に触れてそう言ったのだろう。メルドのその言葉から察するに、この世界には竜人族なる者が存在するのか或いは存在していたのだろうか。
「ここ数百年、竜人族が人間族と接触したと言う報せは無いんだが。うぅむ、もしかするとハジメの遠い祖先にはこの世界からハジメ達の世界に渡った竜人族がいて、その者の遠い子孫がお前の家系なのかも知れないな!?」
メルドなりにこの世界の常識から照らし合わせて推察し彼はそう言ったのだろうが、それは残念ながら的外れな発言で、
『いいえ違います。トール達と出会ったのは、まだ一年足らず前ですから、あしからず。』
ハジメは声に出さず、心の内でメルドにそう突っ込むのだった。
天職や技能に付いては、予想されていた方もあろうと思いますが、ハジメが両親の手伝いをしているのならば、こう言った能力になるのではと思いまして。
魔力や魔耐の高さや、毒耐性が付いているのも予想が付いていたと思いますが、毒に対してはやはりトール肉が原因ですね。
暫くトールとハジメが合流しないので、番外的にトールの異世界探訪編として他作品の異世界転生や異世界転移作との邂逅とかアリでしょうか?