南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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ハジメ達のトータスでの活動の開始です。


第八話

 

 ハジメ達が望まずして、異世界トータスに召喚されて一ヶ月(ひとつき)あまりの時が経過しようとしていた。

 この間ハジメ達は、ハイリヒ王国騎士団長であるメルドを長とした騎士団員達から、基本的な戦闘訓練を受けており、皆着実に実力とステータスを向上させて行っていた。その成長速度はメルド団長をも驚愕させるレベルであった。

 特に天之河を中心とした生真面目な生徒達などは、騎士団からの教練の時間以外にも自己鍛錬を自らに課している事もあり、他の生徒達と比してもその伸び率は群を抜いており。

 

 「己を鍛え上げようとする心構えは立派な事だが、休める時には休む事。それも大事な事だぞ!」

 

 この様にメルドからも諌められる程である。色々とハジメとしてはウマの合わぬ人物であるし、積極的に友誼を結ぼうとは思わないが、自らが言い出した事を有言実行し高い成果を上げている“辺り”はハジメも彼に対して高く評価している。それに続くように坂上に八重樫と白崎も、天之河には若干劣るものの、それぞれの天職に関係のある数値や技能を大幅に向上させていた。

 

 しかしその中に在って、ハジメと畑山教諭の二人は他の地球組とは少しばかり違う立場に置かれていた。

 

 掻い摘んで説明すると、訓練初日に全員に手渡されたステータスプレートを確認した結果、地球組に於いてハジメと畑山教諭だけが戦闘に向いた天職では無かったのだが、特筆すべきは畑山教諭の天職であった。フィジカル面での数値こそ低いもののプレートに記された彼女の天職は作農師というもので、漢字として変換されて読み解かれたそれから判じても、農業に関連した職種だろうと言う事は生徒達にも理解出来た。

 しかし農作業など経験の無い者にはそれがどの様なモノであるのかピンと来なかったのだが、教会を始めハイリヒ王国の関係者は歓喜して畑山教諭を迎えたのだった。曰く畑山教諭の天職は王国の食糧事情を劇的に改善できる能力なのだそうだ。

 その様な事もあり畑山教諭は戦闘訓練を行う生徒達とは離れ、王国の騎士達を護衛として伴いハイリヒ王国各地を周り農業改革に従事することとなり忙しい日々を送っている。

 次いでハジメだが、ステータスプレートをメルド団長に確認してもらったところ、技能の欄に表示されていたトールとエルマから受け取ったと思しき『慈竜之愛』と『賢竜之加護』の二つが、どうにもエヒトと云う絶対の神を頂くトータスの人間族的にはあまり良く無い事の様で、下手を打つと異端者扱いを受ける可能性があるとの指摘を受けた。

 『これは拙い』とハジメは内心ひどく焦りを感じるが、それをおくびにも出さない様に注意しつつ思考を巡らす。間違ってもトール達の存在をこの世界の人に知られてはならないし、時が来るまではクラスメートや畑山教諭にもそれは同様だ。

 さて、この場をどう言いくるめて切り抜けるか。ハジメは両親より受け継ぎ鍛え抜いたオタクとしての知識と脳細胞とを、粒子加速器内の荷電粒子も斯くやと思える程にフル加速して思考する。そして、数秒間の思考の末にハジメは一つの解答を導き出した。まあ結局のところとしてはトール達ドラゴンの事は語らずに済ませ日本と云う国家の事情を説明した。

 国法により、国民は信教の自由が法を侵さない範囲で保証されている事や、それにより様々な宗教宗派が存在する事などを。そして。

 

 「なので、多分ですけど。半年ほど前に龍神を祀る神社へ、両親の仕事関係の取材がてら旅行に行ったんですけど、そこで僕を含めて家族みんなその神社の神職に御祈祷をしていただいたんです。だからこの加護と言うのはその影響だと思うんですよね。」

 

 アドリブで咄嗟に思い付いた尤もらしい法螺話をメルドへと語ったのだった。しかし、それを聞かされたメルドや騎士団員達は訝しげに首をひねり。

 

 「そう……なのか!?」

 

 疑問符を付けた『そうなのか』の一言が、メルドの口から漏れ出る。エヒトと云う絶対の神を信仰する一神教であるトータスの民には、多神教、八百万の神などという話は俄かには信じ難い様であったのだが。

 

 「あのメルドさん、南雲君の言う事は本当の事なんですよ。私達の国では仏教徒が多数を占めていますけど、世界的に見ればキリスト教徒が大多数ですし、その他にも大小様々な宗教が存在しているんですよ。まあけれど中には狂信的なカルト教団など、あまり良く無い宗教を信奉する困った人達もいるんですけど。それと南雲君が言う様に、私達の国の各地に龍神にまつわる伝承や民話や神社もありますよ。」

 

 畑山教諭がハジメの話が偽りのないものであるとアシスト、フォローする様に追加説明を加えてくれた。

 

 「ふむ。成る程な、我々の価値観や概念を絶対の物と考えてはならないと言う事か。宗教を国家として例えて考えるなら、それぞれの地方や国ごとに風土も違えば其処に住まう人の気性も違いが生まれるもの。成る程、そう考えれば君達のもつ宗教的価値観が我々のソレと違う事も納得が行くな。」

 

 それによってメルドは己の世界のあり様を、ハジメ達の言に当て嵌めて彼なりの推察を元にある程度の納得を出来た様だ。

 

 「此処にいる者達や団員には後で俺が根回しをしておくが、いいか坊主、その加護に付いては決して誰にも公言してはいかんぞ!」

 

 小声でハジメだけに聴こえる様でに耳元にメルドはささやく、一国の騎士団長の要職にありながら一人の少年の立場を保護する事を優先してくれようと言うのだから、ハジメも出会ったばかりのこの団長の人の良さに、感謝と同時に苦笑も禁じ得ない思いだ。まあメルドとしてはこの事が公となりハジメに対して教会が何某かのアクションを起こし、結果異世界組のメンタルや、やる気を削がれる可能性も考慮しての事ではあるのかも知れないのだが。

 この様な経緯の後、本格的にハジメ達への教練が開始されたのだが其処で一つの問題が生じる。それは言うに及ばずハジメの天職である『創造者(クリエイター)』という職業に付いて、トータス世界の人類には全くもって馴染みの無い聞いた事も見た事も無い職業であったが為に、その職種及び技能に対してのレクチャーを出来る者が存在しなかった。

 ただ、一つ例外としてハジメの技能の一つ『錬成』はこの世界にはありふれた鍛冶、生産職の技能であるらしく。

 

 「取り敢えず坊主は王城の鍛冶師に就いて錬成の訓練をしてみるか、俺にはよく解らんが坊主の天職は生産職に関係するものの可能性が高そうだからな。」

 

 「…そうですね。メルドさんの言う通りだと、僕もそう思います。」

 

 メルドからの勧めで、武術等の基礎訓練後のそれぞれの天職に併せた技能訓練時間をハジメは王城の鍛冶師に就いて学ぶ様になった。そうして鍛冶師の元で錬成の訓練を受けて三日が過ぎた日の夕刻。

 

 「ハッハッハ!こりゃあ参った、もうワシらではお前さんに教えてやれる事は残っておらんわッ!」

 

 美髯公とでも呼んで差し支えが無さそうな見事な髭を蓄えた、堂々たるガタイの厳ついが気の良い鍛冶師の頭領からハジメは免許皆伝のお言葉を頂いたのだった。

 勇者の天職を持つ天之河以上の魔力の数値を持っているハジメは、その豊富な魔力と元来から備えていた創作趣味も相まって、鍛冶師達からの教えを彼らが驚く程のスピードで吸収し、現在、鍛冶蔵に収蔵されていた汎ゆる鉱物その他をハジメは己の思う様に加工が施せる迄の腕を身に付けるに至ったのだった。

 

 「いえ、おやっさん達の教え方が良いからですよ。でもありがとうございます!」

 

 この僅かばかりの時間だったが、自分を鍛えてくれた職人達にハジメが感謝の言葉を伝えると、その気の良い頭領を筆頭とした職人達は皆一様にその厳つい顔を崩して、呵々大笑する。

 

 「ガッハッハッハッ!何を謙遜してやがるッ、例えそうだったとしてもたったの三日で、お前さんは俺達以上の腕前に迄成りやがったんだからな。恐れ入るやら呆れるやら、一体ワシらはどう反応すりゃいいってんだよ。」

 

 本当に気の良いオヤジさん達だなと、この三日間錬成の技術を教えてくれた職人達との時間はハジメにとって数少ないトータスに於ける、居心地の良い時間であった。なのでハジメは内心『こんな気の良い人達の日常も、戦争でこの先どう成ってしまうのか解らないんだよね』と彼らの未来について気に掛けるのだ。

 天之河では無いがハジメも僅かにだが彼らに対して何某かをしてあげたいなどと、そんな想いが心の奥底から擡げかける。しかし本来ならばそれは、その世界に存在する者達が解決しなければならない事なのだからと、その思いに蓋をして当初の方針通りに地球への帰還の為の時間稼ぎと、その時まで生き残るための生存戦略を第一義として行動する事を改めて己に言い聞かせる。

 

 『なるだけ友好的に、そしてなるだけ僕達がこの世界に有用だと権力者に思わせる様に動かないとな』

 

 そう心の内で今後の方策を練りながらもハジメは暫し職人達と談笑しつつ、互いに技術論を展開しその日の技術鍛錬は終了する。そして翌日からハジメによる、ハイリヒ王国の技術的改革が始まるのだった。

 

 

 

 

 この数日間、ハジメは訓練の傍らに暇を見つけては王城の図書館を始めとした城内の施設を見て回り気が付いた事がある。それは魔法や魔物の体内から産出される魔石の存在もあるのだろうが、技術や文明の発展具合が地球のそれと比して歪なところがあると言う事だった。

 訓練初日にメルドより聞かされた古代文明の遺産アーティファクトの様な、地球の機械文明を凌駕する品もある一方で産業革命以前のお粗末なレベルの技術しか無い物が多数存在している。

 

 「魔法の才能の有る無しによって戦闘面だけじゃ無く、生活の便にも影響してるみたいだからね。折角覚えた技能だからそれを使って地球にある物を再現してみようと思ってるんだよね。」

 

 鍛冶職人に免許皆伝を頂いた日の夜に、ハジメは遠藤に対してそう語ったのだった。天職が暗殺者である遠藤は元から有していた存在感の薄さと併せて、隠密行動にこれ以上無いと言って良い程の才能があり、ハジメは彼に個人的に情報収集を依頼していた。

 

 「成る程なぁ、確かに何気ない部分でも生活の利便性が上がれば、生活水準も上がるし、この世界の人達も喜んでくれるだろうな。」

 

 「うん。上手く行けばそれでお偉方の歓心も買えるしね。そうすれば僕らの立ち位置も盤石とはいかずとも、無碍には扱えなくなるだろうからね。まあ、あくまでも上手く行けばの話だけど。」

 

 夜食の席で交わされる二人の会話に側にいる幾人かの生徒は、あまり興味を示す事無く食事を楽しむ。訓練による一日の疲労を食事によって癒やす方が、どうやら彼等にとっては重要事項の様で檜山達小悪党組もそれは例外では無い様子で、二人の会話に茶々を入れて来る事も無く安心して密談が出来た。

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝からの合同基礎訓練の終了後の事。ハジメは日課の様に鍛冶場へと向かうと、頭領に話を通して使わなくなった一台の馬車を貰い受けると早速とばかりに、錬成の技能を以てその改良に取り掛かる。

 ハジメの行う作業工程に興味を示した職人達も、そのハジメの作業の工程一つ一つを見届けつつ、それがどの様な物かと問うてくるのをハジメは作業を行いながらも懇切丁寧に説明する。ハジメの説明に流石は技術者だけあり職人達は感心すること頻り、やがて夕刻を迎える頃にはハジメの作業も終わりを迎えた。

 

 「おおっ!?コレが坊主の世界の馬車なのか………」

 

 頭領が完成品を目の当たりにして驚愕の声を漏らし『ええ……まあ』とハジメは曖昧に返事を返す。もう既にハジメ達の地球では交通手段としての馬車は廃れてしまっているのたが、内燃機関エンジンや電動モーターさえ現状では存在しないこの世界の人に、その辺りを説明するのは容易では無いだろう。話を戻すと。

 

 「こうやって車体と車輪との間このサスペンション、ショックアブソーバを取り付ける事で衝撃を抑えて快適に乗れるんですよね。それとこの円盤状の鋼板を両側から挟み込む事で速度を落としたり停車させる事が出来ます。」

 

 手始めにハジメが作り上げたものは内側に油を封入し、ゴムの様な素材をパッキンとして油漏を抑えたダンパーに、コイルスプリングを取り付けた衝撃吸収材である『サスペンション』と、直径三十センチ厚さ八ミリ程の鋼板を両側から挟み込み制動させる『ディスクブレーキ』だった。残念ながらハジメはその挟み込む装置である『ブレーキキャリパー』の構造をあまり詳しく知らなかった為に、完成したブレーキは競技用の自転車に使われているモノのそれに近い形の物と成ってしまったのだが。

 

 「そうか、スマンが坊主。早速で悪いんだが、コイツの試運転を俺達にやらせてはもらえないか!?」

 

 ハイテンションに食い気味に試運転を願い出る頭領にタジタジとなりながらもハジメは了承し、職人達は慌ただしく行動を開始すると馬房から連れてきた二頭の馬を馬車へと連結し準備を完了させてしまった。

 

 「このレバーを引くとワイヤーが引っ張られてブレーキが掛かるんですけど、いきなり強く引っ張らないで下さいね。それをやると馬の方に影響を与えて馬がバランスを崩したり、最悪怪我をさせたり馬車自体が転倒したりするかもですから。」

 

 馬車の操作席に設けられたサイドブレーキレバーの様なブレーキ装置の使用法を運転者となる頭領に手早く伝えると、飲み込みの早い頭領はそれだけでハジメが伝えた注意事項の意味を理解して頷くと、ハジメの下車を確認すると馬に手綱を当てて試運転を開始し。一通りの乗り味を確認し終えて頭領は驚く。

 

 「オウォォッ!何てもの作り出したんだよ坊主ッ、コイツは凄えぞ。何て乗り心地だよ、乗り味がすっげぇ柔らかいんだよぉ!この馬車がコレ一台なんて勿体無い話しだぜ。」

 

 ブンブンとハジメの両手を掴み興奮のあまり振り回しなから叫ぶ頭領の大絶賛の声に、ハジメは目論見の第一段階が成功した事に胸を撫で下ろす。更には職人達からこの馬車の量産化や技術の拡散を請われるのだが、ハジメはそれを快く了承した。これにより技術者達のハジメに対する評価と好意はうなぎ登りのカンスト状態、更には王族にもこの乗り心地の良い馬車の話は瞬く間に伝わり、国王自らがハジメに対して謝辞と共に可能なれば他にも発明品の制作をと、直に依頼される運びとなったのだった。

 

 「すごいね南雲君。戦いの訓練ばっかりの私達と違って、人の暮らしの役に立つ仕事で評価されるって。優しいんだね南雲君、あの頃となんにも変わらないんだね。」

 

 謁見の間に於いて、国王よりのお言葉を頂戴し終えてその元を辞したハジメに白崎香織が、まるで自分自身が国王に賞されたかの様に喜色に満ちていながらも、何処か奥ゆかしさを感じさせる優しげな声音で声を掛けて来た。常ならば此処で更に天之河一派が加わりハジメにアレやコレやと御高説を垂れるのだが、流石に国王の御前とあっては彼もTPOを弁えてかそのような事は無く、この場に参集した生徒達や貴族や高官の面前で事を起こすのは憚られたのだろうか。内心その事にハジメはホッと安堵するのたが、白崎が口にした言葉の真意を測りかねる。

 あの頃だとか変わらないとか、まるでずっと前から白崎がハジメの事を知っているかの様に言われてしまえば、普段の彼女と天之河達との関係を知っている故に積極的に関わりたく無い部類に入る人物なのだが、その辺りの事情を聞きたくなってしまうのだが。

 

 「そっ、そうかな?でもありがとう白崎さん。でも僕ちょっと急ぐからごめん。」

 

 そう、他人行儀に儀礼的な謝辞を述べると足早に彼女の元を去る。まあ実際彼女とは他人だし、天之河は置いても檜山を始めとした男子連中や、このトータスでは国王の長男である生意気そうな王子までもが彼女に当てられている事もあり。三十六計逃げるに如かずと、白崎との接点を持つ事をハジメは遠慮すべきだと考えていた。多少の申し訳無さを感じつつも。

 

 「あっ!?南雲君、まっ……」

 

 香織は背を向けて去って行くハジメに手を突き出し声を掛け呼び止めようとするのだが、その声にハジメが振り返る事は無く歩を進め謁見の間を後にして行く。後を追い掛けて行きたいと彼女は思うのだが、ハジメが急いでいるのは理由があるのだろうと思うと、香織は追い掛ける事を躊躇うのだった。

 

 

 

 

 「おやっさん、今日も鍛冶場を借りますね。」

 

 謁見の間を後にしたハジメは、何時もの様に鍛冶場へと足を運び頭領へと声を掛けると、頭領はじめ職人達は一人の例外も無く快くハジメの来訪を歓迎する。

 

 「おう、今度は一体どんな物を作るんだ坊主!俺達も見学させてもらっても構わないか!?」

 

 サスペンションやディスクブレーキシステムを作り上げた事から、頭領はハジメの腕前に大きな期待と絶大な信頼を抱くに至っており、歓迎を持って迎え入れる。

 

 「はい。構いませんよって言いたいところなんですけど、新しいモノを作る前に僕の技能の確認とか検証とかやっておきたいんですよ。でなきゃ頭の中に構想はあってもソレを形にできるか解らないですから。」

 

 ハジメは後頭部を掻きながら鍛冶師達にそう断りを入れてると鍛冶師達は残念がるが、少しばかり申し訳無さを感じつつも鍛冶場の一部を借り受け自分の技能についての考察を始める。

 この世界の人間には、それがどの様なモノなのか皆目検討もつかないハジメの天職『創造者(クリエイター)』に加えて技能の『術式作成(プログラミング)』『術式付与(インストール)』『術式削除(アンインストール)』『術式改良付与(アップデート)』であるが、現代の地球に暮らす多数の人間にはそれも大凡の検討がつくだろう。

 しかしコンピュータなどが存在しないこの世界に於いてそれらの技能の能力を使うにはどの様な方法で行うのか、それが目下のところ大きな問題であり、ハジメは自分に与えられたステータスプレートを眺めつつ独り言ちる。

 

 「こっちの世界の人達には僕達の様に、このプレートの文字が漢字やカタカナのルビは見えて無くてこの世界の文字に当て嵌められて見えてるんだよね。」

 

 この世界に喚ばれた事により、おそらくは自動的に初期装備の様に与えられた言語理解の技能。その技能のおかげでハジメ達はこの世界の文字の読み書きも出切れば、人間との会話も可能で何不自由無くコミュニケーションを取れているのだが、逆に此方の世界の人達には漢字やカタカナと言った日本語の読解は無理な様だ。だからメルドはハジメのそれらの技能の意味を理解出来なかったのだろう。

 

 「プログラミング=術式作成ってどう考えても、魔方陣とかを独自に思う様に作れる技能だよね。」

 

 この世界にも(かつてハジメが日本にて真ヶ土翔太少年と共にトールとルコアから魔法についてのレクチャーを受けた事があったのだが)トール達の世界同様魔法や魔方陣などが存在してる事は既に知る所だが。

 

 「この世界の魔法とか術式とかってトールやルコアさんに教わった事と比べて、やたらと面倒だし無駄も多いみたいなんだよね。」

 

 ハジメがぼやいた様にトール達から学んだそれと比して、この世界の魔法は著しく使い勝手が悪いと言うのがハジメの実感を伴った感想である。メルド達騎士団からの教練で学んだ事だが魔法にはそれぞれの属性があり、その属性の技能を持つ者ならば僅かな呪文の詠唱によって発動出来るのだが、その属性を持たない者が使うとなると一々長ったらしい術式を紙や何某かの媒体に書き込まねばならなかった。

 

 「だからソレを作り上げるには、この世界の術式じゃ無くて、トール達に教わったやり方で作った方が効率が良い物を作れる可能性が高いよなぁ。」

 

 考察を進めるハジメは一つの解答に行き当たるのだが、其処に一つの問題が浮上するのだった。ソレはトール達から学んだ魔法陣に刻まれた異界の文字や文様や図形の意味がハジメにはサッパリと理解出来なかった事だ。

 

 「トールとルコアさんの話によると、書き込む文字や文様の一つ一つに意味があって、それに魔力を込める事で魔法が発動するんだっけ?」

 

 だが、地球には魔法を発動する為のマナが存在していない為に、一部の自らの体内でマナを生成出来る者で無ければ、おいそれと大きな魔法は使用出来無いと、ハジメと翔太にトール達は教えてくれた。因みに余談だがトールはその例外に当て嵌まり自らマナを生成出来るが、カンナはそれが出来ない為にマナ生成のために彼女の属性でもある雷のエネルギーを得る為に南雲家のコンセントから、バッテリー充電の様に電気エネルギーの補給を必要としている。

 それは置いて、ハジメは技能プログラミングを行う為の考察を進める。そして辿り着くのはハジメ達にとっては馴染深い文字。即ちそれは。

 

 「漢字はカタカナやアルファベットと違って表意文字だから、その一つ一つに意味があるしその組み合わせで文章の作成を極めて短く出来る利点があるよね……うん。取り敢えずダメもとでやってみるかな!」

 

 ハジメはその思い付きを実行するのだった。最初に試しにと王家から自由に使用して構わないと許可された上質の紙と魔物から取れる魔石とを用いて実験を行い、結果それは見事に功を奏した。

 

 「行ける!行けるぞ!」

 

 ハジメはその結果にグッと拳を握り締めて喜びの声を上げる。その結果を元にどの様な資材を用い、どの様なモノを製作して行くのかに思考を巡らせるのだった。そしてハジメが何を作り上げて行くのか、それは次回の講釈で。

 




前回のハジメの天職と技能の開示によって、何となく今回の展開を予測出来た方も多いのではないかと思いますけど。原作でも後にバイクや四駆に飛行艇や潜水艦まで作り上げるハジメ君ですし、原作と違い初期値から魔力高目のハジメ君ならこんな事直ぐに思い付きそうだなと。
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