南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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クラスメート達の一部に少しづつ変化が起こりますが、さて今後どうなって行きますことやら。
そして、試しに別作品の世界とキャラとを出演させてみました。

誤字報告ありがとうございます。


第九話

 

 さて、前回少しだけ触れたハジメの技能である『術式作成(プログラミング)』や『錬成』を駆使し、一月あまりの日々の中で作成した数々の品々に付いて触れる前に、少しばかり違う側面を描写しよう。

 基本的にハジメ達召喚組は、魔人族との抗争の助っ人としてトータスへ召喚されたのだが、クラスメートの中には天之河と坂上や八重樫と言った武術の経験者も幾人かは居る。とはいえ現代日本人故にその彼らも含めて戦場で命のやり取りなぞ経験がある筈もなく、よって騎士団より教練を受けているが、詰め込み過ぎてオーバーワークにならない様に且つまた、心身をリラックスさせるゆとりも必要であるからと、当然ながらフリータイムも設けている。

 

 これは、そんな自由時間を過ごすハジメのある日の出来事である。午前中に行われる全員参加の合同基礎訓練に於いてハジメも剣技や体術を教わっているのだが、元来が武を持っての争い事に不向きな性格が災いしてか腕前は上達している様には見えなかったし、本人もそれを実感していた。

 ハジメとしては、当初からの目標として、なるだけ戦場へと駆り出される事無く(時間は掛かるかも知れないが)トールが迎えに来てくれる時迄生き残る事を前提として動いてはいるが、物事はそうそう自分の思う様に進むとは限らない。なのでハジメは基礎訓練も真剣に取り組んでいる。

 

 「それでも、やっぱり荒事は僕には向かないのかな。みんなよりもそちらの成長値が低いし、だったら鍛冶仕事ともまた違った別の形での貢献と生存確率の向上を考えないとだけど、じゃあ何をやるかだな」

 

 そう考え導き出したハジメの解答は王室の図書館へと通い、その蔵書から必要とする情報を片っ端から学び吸収する事だった。このトータス世界の地理や風土に民族や各国の政治体制に歴史、魔物を含む生態系などを。

 その日は朝の合同基礎訓練も終わり、ハジメは珍しくクラスメート達が数人しか居ない食堂で昼食を摂りながら、図書室から三冊程持ち出した書物の内、この世界に棲息する魔物に付いて書かれた書物を読んでいたのだが。

 

 「お疲れ様、南雲君。でも食事をしながら本を読んで大丈夫なの?汚したりしたら大変じゃないかな?」

 

 そこへ現れるのはお馴染みの幼馴染み四人組。白崎香織が真っ先にハジメの元へと近づくと、その顔に朗らかな微笑を湛えて呼び掛けてくる。つい先日、馬車の改良品を国王から賞賛された際に彼女がふと漏らした「あの頃と変わらない」との一言が少しだけ気になっているハジメは彼女にそれを尋ねてみたいと思ったのだが、大勢の人が昼食を摂っているこの場では躊躇われ、今回はスルーする事とした。

 

 「……ああ、白崎さん。確かにそうだよね、忠告ありがとう。それに行儀も良く無いしね」

 

 何だか少しだけお姉さんぶった様な白崎の忠告に、ハジメは素直に謝意を言葉で伝えると彼女はふわりと柔らかな笑みで「うん」と返事を返してくれた。白崎のそんな姿を目の当たりにしてハジメは「白崎さんのこう言った、気配りとか何気ない仕草とかが男子のハートを掴んでるんだろうな」と内心に思い、人気があるのも当然だなと結論付ける。結局のところ、白崎のハジメに対する想いは残念ながら若干朴念仁気味のハジメには伝わらない様だ。

 

 「おっ!それってこの世界の魔物の図鑑だよな南雲。戦うんならそういうのも知ってて損は無いよな。けどまあソレは絵が多いから俺でも読めそうだけど、お前よくそんなモン毎日読めるよなぁ。俺なんて本なんか読んでたら直ぐに眠くなっちまうよ」

 

 「うん。僕は前衛で戦えるだけの技量も無いし、魔法も一応模索はしているけど基本モノ作り特化で攻撃にはあまり向かないからね。だからせめて知識だけでも蓄えておかなきゃって思ってさ。でも何か坂上君が本を読みながら寝落ちする姿って想像がつくね」

 

 お次は、トータスへと召喚された日を境に何故だかハジメの印象と評価とに上方修正を行った坂上が、それ以前では考えられない様な砕けた態度でハジメに話し掛けて来る。言っている事は何だかステレオタイプな、主人公のマブダチで脳筋なキャラのポジションを地で行ってる様な発言で、ハジメは返答するのに苦笑を抑える為の労力を必要とした。

 

 「成る程、後方支援を担うなら知識を蓄えるのは納得の選択だわ。流石ね、南雲君」

 

 そのまたお次は、この個性豊かな幼馴染み四人組達を締める良識人であり、苦労人ポジションに(本人としては誠に遺憾であろうが)傍目から見てもカチリと嵌ってしまっていて同情を禁じ得ない、八重樫雫オカン属性を持つ少女。しかし、そこは流石に武門の家の娘、ハジメが読み進める本から、彼が何を学ぼうとしているのかを直ぐ様理解する。

 

 「うん、ありがとう。でも八重樫さんも流石だよ、僕の意図にやっぱり気が付くよね。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、なんて軍師を気取る訳じゃないけどね」

 

 「彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し百戦。孫子の兵法の謀攻の一文ね」

 

 「うん。戦争をやるにはより正確な相手の情報を掴む事と、自国の国力や戦力を確りと把握して兵站を整えて、自分が有利に戦える戦場を設定出来ればこの上なしなんだそうだ。尤も、この世界の戦争は宗教が絡んでるし、魔法だのなんだのとあるから僕達が知る様な兵法が通用するかは解らないけだね。でも本当なら戦わないで済む方法を模索するのが一番なんだろうけどね」

 

 そしてハジメも彼女がこの国の蔵書を読み漁るハジメが何を識ろうとしているのか、その意図をこの短時間で理解した事にちょっと共感を覚えた。聞きかじりの孫子の兵法の一説をハジメが口にすれば、その一文の続きを諳んじて見せる辺り流石だと敬意を抱く。

 トータスへと喚ばれる以前からハジメは四人組の中でも彼女を最も高く評価していたし、それが間違っていないと解って自分の人を見る目も満更じゃないなと内心ほくそ笑む思いだった。のだがしかし。此処で水を差すのがお約束な声がハジメに掛けられる。

 

 「知識を得ようとしているのは良い心掛けかも知れないが、だけど南雲、君は戦う力が他のみんなよりも劣っているんだから、少しでもその力量の足りない部分を埋める為の鍛練を行った方が良いんじゃないか!もしも俺が君の立場だったら絶対にそうしているよ。みんなと共にしっかりと遅れを取らず戦える様にね」

 

 もう説明するのも面倒くさいが、それが誰かはもうお解りだろう。このトータスへと喚ばれ勇者の称号を得た、言い換えればハジメ達クラスメートと畑山教諭は、ある意味彼に巻き込まれてトータスへと転移させられたとも言える。それは天之河光輝の口から述べられた言葉である。

 

 

 「………………」

 

 時も場所も違うと云うのに以前と何ら変わらず、そのあまりにも独善的で一面的な物言いにハジメは、やはり彼はどんな時でも場所でも常にそれが平常運転なんだなと、知ってはいるが改めてそう思うと共に、では自分は今この場で彼に何と解答をすべきだろうか、或いは華麗にスルーする事が正解だろうかと数秒程惑う。まあハジメの本音を言えば華麗にとは言わないまでもスルー出来ればと思っているのだが、ソレだと単に問題の先送りをするに等しく、放って置けば今後も何かと押し付けがましい事をアレやコレやと言ってきそうなのと更に加えて言えば、天之河のステータスは何だかんだ言っても、やはり勇者として選ばれるだけあり全クラスメート達の中でもずば抜けている(魔力や魔耐と言った一部の数値では、ハジメが彼を超えている部分もありはするけれど)。なので総合的に見ても戰場に於いて、彼が戦力の要となるのは間違いが無く故にハジメとしては、願わくば天之河にはなるだけ広い視野で物事を捉えて欲しいとの思いがある。であれば此処で彼に一言言っておくべきかと、ハジメは常と変わらぬ調子で口を開く。

 

 「天之河君、前にも言ったかも知れないけど、人に対して自分の価値観を絶対の物として押し付ける様な発言は控えるべきだと思うよ。確かに君が言う様に努力を惜しまないってことは良い事なんだろうけど、人にはそれぞれに出来る事と出来無い事もあれば、やるべき事とやる必要も無い事だってあるんだ。それに僕の能力を考えると前線に出るって事自体が自殺行為も同然でさ、そんな事態に陥るって事はもうそれは負け戦の状態だよ。だから僕ならそんな事態になるんならサッサと戦場から逃げ出すほうが死ぬよりマシだと思うけどね」

 

 「無駄かな」と「出来れば伝わって欲しいな」との、天之河に対する二律背反する思いにハジメは若干の葛藤を感じながらも。みんなと共に自衛の手段としての合同基礎訓練をハジメだって受けてはいるが、それはあくまでも最悪の状況に陥った時の生存確率を少しでも上げるためにだが、ハジメからするとその様な状況に陥るくらいならば、グズグズする前に全軍でトットと撤退するべきだと考えている。そんな二人の考え方の違いもあり期待は出来ないだろうか。

 

 「なッ!!いい加減にしないか南雲ッ!そんなモノは自分の不真面目さの言い訳を正当化する為の詭弁だろう。俺達はこの世界の困っている人々を救う為に力を振るう義務があるんだ。そんな事は君だって解っているだろう!良いか南雲ッ、俺は君の為を思って言ってあげているんだぞ!」

 

 あまりにも大きな声で天之河はハジメに対してムキになって反論するのだが、その声が大きいが為だろうがこの食堂に残っていた(大半が女子)生徒達が、此方の騒動に何事が起こったのかと気になりだしたのだろうかと、ハジメ達の様子を覗き見してその場をやはり、ハジメの言葉が天之河に届く事は無く、彼はその独特の正義感を更に押し付ける様な発言を、怒気を含んだ大きな声音でハジメにぶつける。しかも自分達にはトータスの人々の為に力を振るう義務があると来た。そんなあまりにも身勝手過ぎるこれには流石にハジメも呆れざるを得ない。

 畑山教諭が子ども達の為に懸命に戦争参加を断ろうとしていたところを遮る様に、滅亡の危機にある世界を救うなどと云うヒロイズムに駆られて、己の裡から湧き出る力に酔い痴れ、戦争参加を勝手に表明しただけではないかと、勝手に此方の都合などお構い無しに呼び付けた者達を守る義務など、ハジメ達には在りもしないモノを何時の間にか在る物と勝手に脳内変換して押し付ける。

 更にはそれを、その押し付けの言葉を君の為に言ってあげているとまで言ってくるとは。結局ハジメと彼とは何処まで行こうとも常に平行線で、瞬間たりとも交わる事も無いのだろうか。しかし。

 

 『だったら天之河君。今、天之河君が言った事をこの世界の全ての人達に言いなよ。本来僕達はこの世界とは何ら関係の無い異世界人なんだよ、だけど僕達は不当にこの世界に連れて来られて不本意にも戦争に参加させられようとしているんだ。それもこの世界の人達よりも元からの基礎的なステータスが高いからとか言って。だったら、天之河君。君がこの世界の全ての人に努力して僕達地球の人間に遅れを取らない程に鍛錬して力を着けて、全人類老若男女一致団結でもして魔人族と戦う様に促したらどうなの』

 

 『そっ、そんな事が出来る訳が無いだろうッ。俺達はこの世界の力無き人達の代わりに、正義の為に魔人族と戦うんだ。なのに君は、そんな力無き人々を戦いに駆り出せと言うのか!?』

 

 困っている人々の次は力無き人々をと言い方を変えてか、しかも相手の事を何も解っていないにも関わらず正義を騙る。これは度し難いにも程があろう。ハジメは天之河のその発言に一度彼から目を背けると深く溜め息を吐き、頭を振って再度向き直る。

 

 「正義ね。あいにくと僕はこの世界の魔人族の人達には会った事も無いから何とも言えないんだけど。天之河君、会ったこともない人々の事を片方の意見しか聴かずに、その話を鵜呑みにして、実情を何も知ろうとせずに、知りもしない人を悪だと決めつけてしまって果たして良いものなんだろうか。これはある人が言った言葉だけどね「正義の反対は悪では無く、別ベクトルの同質量の正義」なんだってさ。つまりは聖教教会の掲げる正義とは別に、魔人族の人達にも譲れない、彼らなりの正義を掲げて人間族と戦っているのかも知れないよ。現状確かめようが無いからはっきりとは言えないけどね。それに力無き人々を戦いに駆り出せって言うのかってさ、そんなの僕達だっておんなじだったよね。此処で鍛練を受けるまでは単なる力無き一般人だった筈だよ」

 

 そしてまた何処ぞで聞き齧った言葉を一部引用して語ったが、それはうそいつわりの無いハジメの本音である。その言葉に、天之河を含めてその場に居るクラスメート達のざわめく声が聴こえる。かすかに聞こえてくるクラスメート達のざわめき声の一部は、ハジメの言葉を肯定する者もあれば否定し天之河を擁護する意見もある様だが、それはクラスメート達がハジメと天之河とで交わされる問答に、彼ら彼女らも何かしら思う所があり且つ召喚当初と比べて自ら物事や置かれた状況を考える事が出来る程には成長しているのかも知れない。余談ではあるがこの後、ハジメに影響を受けてか図書館にてこの世界の蔵書に目を通すクラスメートが幾人も現れたのだとか。

 

 閑話休題。幸いクラスメートしか居ないがざわめく食堂、そして此処は異世界で、しかも神の威光と意向とそれを伝える宗教が幅を効かせる世界である。壁に耳あり障子に目ありとは言わないが、些か以上にハジメの言動は見る者が見ればどう取られるだろうか。

 

 「ちょっと南雲君ッ、今の発言は少し拙いわよ。幸い今のこの場には私達日本人しか居ないけど、迂闊な発言は自分の身を不利な状況に追い込む原因に為りかねないわよ。それと光輝もいい加減になさい!貴方自分で言ってて気が付かないの。最初に自分が言った言葉を自分で否定している事に!?」

 

 一早くその事に思い至った八重樫が、ハジメと天之河に自重を促す様嗜める。自分の身を案じ嗜めてくれた八重樫にハジメは知らぬ間に固くなっていた表情を崩し、フッと溜め息を吐いて気持ちを改めて彼女に謝罪の意を込めて頭を下げるが、天之河の方はそうではないらしく。

 

 「だけど雫。俺はッ!」

 

 自分を正当化しようと八重樫に言い訳をしようと口を開くが。

 

 「黙らっしゃい!貴方ね。興奮し過ぎて自分が言った事も頭の中から抜け出てしまっているの!?それとも何、貴方は南雲君を格下に見ていてその彼に反論された事が不満で、彼の言葉を聴く耳を持ってないのかしら?」

 

 「ぐっ……それは」

 

 八重樫の凛として力の籠もった声音の一喝に遮られ、彼の内面心理を見抜き突いたかの様なその口説に黙らされてしまう。

 

 「天之河君。今更だけど、このトータスに喚ばれたあの時、僕達には取れる選択肢なんか無いに等しかったから戦争参加を了承せざるを得なかったと僕は思うし、君の力無き人の為に協力したいって思いも純粋に素晴らしいともね。だけどいやだからこそかな、その為には武力だけを鍛え上げれば良いって物じゃないと思うんだ」

 

 「…………………」

 

 「さっきは孫子の兵法を引き合いに出したけど、それだけじゃなくとも何も知らないこの世界の知識を仕入れる事は重要なことだよ。僕がこの数日間読ませてもらったこの世界の歴史書から気が付いた事があるんだけど。天之河君、歴史と言う単語を英語でHistoryと言うのは知ってるよね」

 

 「当たり前だ!その位の事」

 

 「うん。じゃあこれは知っているかな「History」と言う言葉の語源が「His story」直訳すると“彼の物語”であるって説。もっと言うなら“勝者たる彼の物語”かな。地球の歴史もそうだけどさ、歴史ってその時代時代の勝者によって都合良く書き換えられている面があるんだってさ。それで本題なんだけど、僕が目を通したこの世界の歴史書の記述って「何時何時、何処で何があった。勝った、エヒト様のご威光のお陰だ」みたいな記述ばかりなんだよね。それってどう言う事なんだろうね、天之河君もみんなもその辺り自分で考えてみちゃどうだろう」

 

 僕が言いたい事はこんなところだねとハジメは言葉を区切り食事を再開し、食べ終えると食器を片付けて鍛冶場へと向かうのだった。ハジメが去った後の食堂に残ったクラスメート達は、ハジメの言葉を暫し口も開かず沈思黙考。それぞれに違いはあれどもハジメの言葉を受け止め、自分の身の振り方を考える契機となった。ここに来てクラスメート達は改めて南雲ハジメと云う、クラスではある意味浮いていて見下されていた生徒が、本当は思慮深く先を見据えて行動を起こせる人物なのだと認識するに至ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全くよ、坊主が来てから一月くらいにしかならねぇてのに、この鍛冶場周りもすっかり坊主が作った品物(しなもん)の展示会場になっちまいやがったな」

 

 「いやぁ、本当にな!それだけ坊主が教えてくれた、坊主の世界の技術やらが優れてるって事なんだろうけど、それ以上に坊主の技能が生産職にとって破格の能力だって証なんだろうな。」

 

 丹念に調えられた自らの顎髭を撫でつけながら鍛冶師の頭領が、文字面だけを読めばボヤいているかの様なセリフを吐くが、その表情と声音は実にウキウキとした陽気なものである。それは頭領と共に鍛冶場の周りを見渡す職人達も同様で、さも愉快とばかりにハジメを称する。

 

 「たはは、何かすいません。勝手な事ばかりやらせてもらって」

 

 「(なあに)、良いって事よ、坊主のおかげで俺達も武器や防具以外の物も抑えられる様になったし、それにお陰で街場の職人連中にも仕事を割り振れるようになったし、何よりも俺達が楽しんでやってるんだからよ!」

 

 此処で少々解説をしておくと、当初この鍛冶場周辺には、鍛冶師達が働く鍛冶工場と資材保管用の資材蔵に、資材の納入や完成品を出荷する為の荷馬車の駐車施設と水場としての、手押し式ポンプが取り付けられた井戸が設えられていただけであったのだが、ハジメがこのトータスで生産職としてのある程度のフリーハンドを国王より許可された事により、ハジメは自らが製作した物品のプレゼンテーションを行う為にちょっとしたモデルルーム的な建物を錬成の技能を駆使して作り上げ、その棟内に完成品を設置し来場者に何時でも商品のデモンストレーションが出来る様にしたのだった。

 以上の解説により大凡の理解をして頂けたと思うが、ハジメがこのトータスにて発現した技能を駆使して作り上げたものは、その大半が家庭用品だった。錬成の技能を用いて鋼材をスマートフォン位のサイズに加工して、同様に作り出した穂先がコンマ3ミリと極細のスタイラスペンと命名した鉄筆で、術式作成(プログラミング)の技能を駆使して各々の商品を操作する為の文字や計算式を、一文字5ミリ以下の大きさで書き込む。そうやって作成したプログラミングプレートを、やはり錬成にて作成したプレートよりも一回り大きな収納ボックスに固定設置、バッテリーや魔力の効率の良い分配の為に魔石を共に配置し、その上に各商品に合わせて操作用のスイッチやレバーにツマミが付いた上蓋を被せれば基盤を兼ねた操作盤の完成である。試しにとそれをコレまたハジメが加工して作った井戸のポンプアップによる給水システムとして設置すると、地球ではお馴染みのハンドルの開閉による蛇口を設置したのであった。

 ハンドルを開くとそれを感知してハジメのプログラミングした術式が起動してモーターの役割を果たして給水ポンプを駆動させて井戸の水を汲み上げて蛇口から放出、ハンドルを閉めるとやはりそれを感知してプログラムの動作を停止し待機状態となる。

 

 『コイツのお陰で水汲みが凄え楽になったよ、俺達見習いの若手鍛冶職人にとってコイツはありがたいカラクリだぜ』

 

 この世界には錬成と云う技能があるとは言えども、作業の内容次第では炉を使って金属を溶かしてから加工するモノもあり、それに伴い沢山の水を必要とする。水属性の魔法が使える者が居れば良かったのだろうが、残念ながらそれは居らず、その水汲みの作業は主に若手の仕事として割り振られるのが常であったのだが、蛇口を一捻りするだけで水が出るこの機能は若手の職人に大層感謝された。

 それからも幾つかの商品となる品物を作成した、それらを例として挙げるならば。王城の調理場を見学したところ火を使う料理は竈を使用していたので、異世界発明のある種の王道であるコンロや冷凍冷蔵倉庫に、だだっ広い建ぺい率や敷地面積を誇る為に掃除にも多数の小間使があくせくと働いていたので、彼ら彼女らの負担を軽くすべく給水ポンプを応用した吸引機構により塵や埃を吸い上げる掃除機に、お部屋に一台冷暖房両用のエアコンや換気扇などを作り上げた。

 そしてこのエアコンと換気扇もまた、熱の籠る鍛冶場や調理場で職務に励む職人や料理人達に大いに歓迎を持って迎え入れられた。

 

 「どうせなら坊主が作ったモノを大勢の人間に見せられる様な催し会でも出来れば良いかもな」

 

 ハジメがもたらした地球の技術を模した産物の恩恵に現状最も預かっている頭領が呟いたその一言が切っ掛けとなって、鍛冶場周辺には件のショールームが設えられるに至ったのであった。それが二十日程前の事で、早速とばかりにノリノリでハジメも職人達も行動を起こし、ショールームに必要となる大まかな形と規模を算出しハジメの錬成によって瞬く間にショールームの駆体と外装が建ち上がり、その後手早く給排水管や内装も整えられた。

 

 「まさか、一日も掛からずに建物が出来るなんて、一夜城もビックリだよ。錬成の技能って凄いんだな」

 

 ハジメと友人関係にあり時折鍛冶場に顔を出している遠藤が、前日には存在していなかったショールームを目の当たりにし呆気に取られながら呟いた言葉がそれであった。しかしながら、遠藤は錬成の技能を凄いと言うがそれは、クラスメート達の中でも最も高いチートレベルの魔力量を持つハジメであるから一夜城よろしく、コレだけのモノを建ち上げる事が出来たのであって、並のレベルの錬成技能ではそうはいかない。

 

 「本当にねぇ。南雲が居たらもう大工さんとか工事の人とか要らないよね、ていうか私もこのコンロとか使ってみたいし」

 

 「うん。私達って魔人族と戦う為にこの世界に喚ばれたけど、こうして南雲君や愛子先生が戦うだけじゃなくって、人の暮らしに役立つ物を作ってるって思うと何だかホッとするよね」

 

 同様に、自主訓練を終えた園部優花や白崎香織をはじめとした女子生徒達も口々にショールームの出現に感嘆の声を上げつつ、ハジメの作り出した製品を楽しそうに触らせてもらっている。それは、望まずして喚ばれてしまった異世界に於いて、切り離されてしまった現代文明の一端に触れる事が出来る歓びの想いも多分に含まれているのだろう。

 

 「ありがとうみんな。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」

 

 これまでクラスメート達と、あまり友好的な関係が築けていなかったハジメだが、この異世界で少しずつだが自分を認め評価してくれる人が現れはじめた事をハジメは何とも面映ゆくも嬉しく感じていた。その後も幾人かの女子生徒から、あんな物やこんな物は作れないかと問われ懇願されてしまい、タジタジとしながらも検討してみると約してその場を治めるのだったが。

 

 「チッ!気に入らねぇ」

 

 「ああ、ちょっとモノ作りが上手だからって、イイ気になり過ぎなんだよな。あんま調子に乗らない様に一遍シメとくか?」

 

 相も変わらず、地球に居た頃と全くの同様にハジメを見下し悪態を吐く輩も当然の様に存在する。それが誰かは言わずもがなだろうが、勿論それは檜山達小悪党組である。己が日本に居た頃から散々に見下して来たハジメがこのトータスにて一芸に秀で頭角を現してくれば、その嫉妬心が急角度の上昇カーブを描こうと言うもの。そんな感情をぶつけようとの思いから小悪党その一がハジメにちょっかいを掛けようと下卑た笑顔で提案し小悪党その二も同様に仄暗い悪人ヅラで同意するが。

 

 「けどさ檜山、今南雲に手を出すのは不味いんじゃね?アイツこの国の国王とか貴族とかに発明が認められてるみたいだし、迂闊に手ェ出したらこっちがヤバい事になるかもなんじゃねえか?」

 

 しかし小悪党その三は、その一やその二と違い多少は状況が見えている様で、下手な動きは自らの立場を悪くする結果となろうと諫めるが。

 

 『チッ!言われなくたって、そんな事ぁ解ってんだよッ!』

 

 檜山は苛つきを顕に右手で髪をガリガリと掻きむしりハジメを一瞥すると、肩を怒らせその場を去って行く。ハジメに対し何も出来ない事に小悪党共の負の感情はいや増すばかりだった。

 

 そんな人間模様を展開しつつもハジメの作り出した地球の文明の産物のトータス対応版は、現地の人々にも大いに受け入れられハジメのもとには連日貴族達や街場の商人達からも、それらの商品の作成依頼が舞い込む事となった。

 しかし流石にそれだけの大仕事がハジメと王城の鍛冶師達だけで賄える筈もなく、冒頭で語った様に街場の職人達にも技術を開放し、仕事を割り振る事で対応が出来る様になったのだった。尤も、それらの機械を作動させるための心臓となるプログラムは現状ハジメにしか作成が出来ない事から、ハジメは忙しい日々を送っている事に変わりはないのだが、其処に変化があるとすればそれは連日のプログラム作成によってハジメの技量が上がり、書き込める術式も初期よりもかなり小さく書き記せるようになり、よりコンパクトにして多様なモノを作ることが可能となっていた。

 そして因みにハジメが作成した商品の中で最も大勢の支持を得たモノは何か、それはシャワー洗浄機能付きの“トイレ”であったと明記しておこう。それは世界でも有数の甘やかされたお尻を持つ民族日本人が、長年ブラッシュアップを行ってきたシャワー洗浄機能付きトイレが、遠く離れたこの異世界の人々にも受け入れられた証だった。

 

 

 

 

 

 どこまでも続く青い空に処々浮かぶ白い雲の下、遠くに視える山稜と点在する小さな森林と広々とした草原に、其処を我が物顔で好き勝手に飛び跳ねる数匹のカエルの姿があった。そう、カエルであるのだが、そのカエルの縮尺がどうにもおかしかった。その身の丈はおそらくは二メートルを越えているだろう。そんな巨大カエルがまるで重力の影響を感じさせない程にピョンピョンと飛び跳ねているのだ。これを異常と言わずして何を異常と言うのかと、それをハジメが見れば造物主に一言物言いを付けたいと思うだろう。もうお解りだろう。此処はハジメ達が召喚されたトータスとは違う、別の異世界。

 それは置き、その草原にカエル以外にはもう一組、三人の年若き男女の姿があった。一人は長く美しい水色の髪をたなびかせる、青を基調とした衣装を身に纏いし恵まれた見事な肢体を持つ美しい女性と、もう一人は人の顔を模した様な特異なトンガリ帽子を被り赤いワンピースの衣装に黒いマントを羽織っており、赤い瞳と片目を眼帯で隠し、片手に魔法使いの持つ様な杖を掲げた、お世辞にも女性らしいとは言えない痩身の小さな少女。如何にもあの病を患っていると思われる少女だ。

 この二人の女性はその顔立ちからも明らかに日本人とは違う民族であることが伺える。そしてもう一人。緑色を基調としたジャージに身を包む、一見冴えない感じの黒髪と凹凸の乏しい目鼻立ちの、ハジメと変わらない年代だと思われる少年の姿。

 どうやらその少年と少女達は、この草原で猛威を振るう巨大なカエルと対峙している様だ。青髪の美女とジャージの少年が牽制役を引き受けてか、縦横に動き駆け回っており、魔法使いのコスプレの様な衣装の少女が杖を掲げている姿から、何やら強力な魔法を発動させている最中であり、二人はその時間を稼いでいるのだと推測される。

 魔力やマナを感じ取れるモノなら理解できるだろうか、少女の掲げる杖から空高くに立ち昇り収束されてゆく巨大な魔力を。その魔力はやがて、そう時間をかけずして臨界を迎えようとしていた。

 

 「二人共ありがとうございます。準備は整いました!危険ですので下がってください!」

 

 魔法使いの少女が二人の仲間にそう告げると、慌てた様子で少年と美女とは巨大なカエルの元からの逃走を開始する。それを見届けた魔法使いの少女は、その幼さの残る口から力ある言葉を紡ぎ始める。

 

 『黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!

踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。

万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法』

 

 少女の言葉に併せて、轟々と渦巻く魔力の波濤が一点に集約されて臨界点に達したその魔力を、グッと力を込めて杖を掲げた腕を前方と突き出し、そして叫ぶ。

 

 『エクスプロージョン!』

 

 エクスプロージョン。爆発、爆裂を意味するその言葉の通りに、その魔法は草原を跳ね回る巨大なカエルを一掃する為に放たれたのだろう。

 

 だが、しかし。

 

 その魔法がカエル達に届く事は無かった。何故ならば、その魔法が大地へと到達する前に、その爆裂の魔法が落ちようとしていた空間にまるでタイミングが合わさったかの如く、突如として開かれた異空間ゲートとも呼ぶべき空間より現れた一頭の巨大なドラゴンにブチ当たってしまったのだから。

 

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