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「翔ってさ、普通じゃないよね」
東京都立呪術専門学校。
其処は呪術師を育てる東京唯一の場所であり、ビルや店が建て並ぶ都会から離れた山奥に建てられた学校である。
其処には様々な部屋などがあり、学生が住む自室は勿論の事、呪術師という職業故に解剖室まである。
現在進行系で煙草を吸いながら、呪術師の死体や呪殺された死体を解剖する場所である解剖室のベンチに座る女医、家入硝子は、九遠翔に唐突にそんな酷い事を言い放った。
「口を開いて、同級生に最初に掛ける言葉がそれか? 寝不足でストレスでも溜まっているなら、今すぐ帰るが」
「こんな職業なんだ、ストレスなんか溜まりまくるよ。あと、八つ当たりしてる訳じゃないよ」
八つ当たりでないなら尚の事傷付くがな…と、翔は飲み掛けの缶珈琲を仰いだ。
中身を飲み終えたそれを跡形もなく潰して、翔はそれで、と続けた。
「異常とは、どういう事だ?」
「そのままだよ。君の精神は普通じゃない、ベクトルは違うけどイカれてる」
「イカれていなければ、呪術師なんて出来ないだろ」
「それはそうだ。けど、君みたいなのはそれよりイカれてる」
「酷い言われようだ。悲しくなってくる」
無表情なのに何言ってるんだ、と思いながら、硝子は元同級生の精神―――その異常性の事を整える。
九遠翔の精神性は、普通の呪術師とは大きく異なる。彼の精神は呪術師をする様なものではなく、本来であれば一般に紛れている極僅かな人間のそれだ。
いわゆる、生粋の善人。困っている人が居るなら誰彼構わず助け出し、どんな理由があっても見捨てようとしない。
果ては自分が代わりに何かをする始末。誰かの為になるであろう事を率先してやってのける、甘い心を持っている。
だが、そんな人間ほど呪術師は長続きしない。呪術師を続けていれば精神的な疲弊、苦痛は必ず訪れる。心優しい人間に、それは耐えられたものではない。
だが、翔はそうならなかった。今も尚、そうならないのだ。
冷静沈着が服を着ている様な者となった。しかし精神は心優しいと。
それが、あまりにも異常なのだ。普通からはあまりにも掛け離れていて、そして呪術師よりもイカれている。
故に―――九遠翔は、異常。
「だから何だ、としか思わないがな。優しい事は悪い事ではないだろ?」
「……はぁぁぁ。馬鹿だよねー、本当」
「成績は良い方だぞ、俺は。態度は悪かったが」
「そういう事を言ってるんじゃないよ」
呆れ顔を浮かべる彼女に、自分が何故呆れられているのか分からないのか、翔は不満げだった。
だが、それも仕方ないか。
唐突に異常と言われたり、馬鹿と言われたり呆れられたりすれば、誰しも不満に思うだろう。
しかし残念な事に、彼が呆れられる事も仕方ない事なのだ。
「いつか身を滅ぼすよ、その在り方は」
「その時はその時だ。もしそうなったら時間でも巻き戻す」
「本当にやりそうで恐ろしいよ、お前の場合…」
「どうだろうな。反転を応用すれば或いは、といった所だが…ん」
着信と共に、ポケットの中でスマホが揺れる。
それを取り出し、そのメールの内容を見て翔は重たい腰を上げる様にゆっくりと立ち上がった。
はぁ…と、浅くも面倒である事を察せられる短い溜め息を吐く。
これは五条が面倒事を持ってきたな、と家入硝子は心の中で合掌をした。
特級呪術師が持ってくる面倒事は、本当の意味で面倒だ。それこそ、生き死にが関係してくる程の。
翔が彼と同じく特級であるが故の連絡だが、そうであろうと面倒なものは面倒である。
とはいえ、表情は変えないのだから何とも分かりにくい。まぁ、今居るのは硝子のみだから気にする必要はないが。
「仕事が来た、行ってくる」
「行ってらっしゃい。傷負ってくるなよー」
「そんなへまをする程、弱くはないさ」
『最強』に肩を並べる『最高』の呪術師だからな。