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夜空に星はなく、ただ暗い空ばかりが広がっている。
そんな闇空の下で、化け物が暴れたかの様に半壊してしまった学校の屋上に三人の男達が集っていた。
一人は五条悟。最強の呪術師と呼ばれる特級呪術師である。
一人は伏黒恵。五条悟を担任に持つ、呪術高等専門学校の生徒の一人である。
一人は虎杖悠仁。この現代において、宿儺の器として覚醒してしまった青年である。
「うん、そういう訳なんだよねー。え? 僕一人でも何とかなるだろって? それはそうだけどさ、運んでもらわないとだからさ。そうそう、荷物持ち。喜久福分けるからさ、頼むよ。オッケー、じゃあねー」
「…あんた、また九遠先生を荷物運びにするつもりですか」
「だって暇してるからねー。翔にも働いてもらわないと」
「九遠先生はいつも殆どの業務やってますよね、それに加えて五条先生の任務も偶に請け負ってる」
「さて、翔は何時着くかなー」
「もう着いた。現状はどうなんだ」
音もなく、空間の揺らぎもなく。
まるで、最初から其処に存在していたかの様に。誰にも気付かれず、ずっと其処に居たかの様に。
そう思ってしまう程の、そう思わずにはいられない程の不自然さが、確かに其処にはあった。
事実、虎杖悠仁は驚愕した。
声を上げる事すらも忘れて、驚くべき出来事に体が反応する事すら忘れて、ただ静かに、そしてゆっくりとその男の方へと視線を向ける。
夜空に浮ぶ月から放たれる光によって麗しさを際立たせている金髪の髪と、まるで星星で埋め尽くされた夜空の様に美しい紫紺の瞳が特徴的な男。
フードの付いた漆黒のストリートジャケットとダブルバックルのパンツ、黒く分厚いレザー製のコンバットブーツという全身黒尽くめのファッションが、より男の存在感、印象を強めている。
何よりも―――その身から溢れ出る、絶対的な何かが、肌身を通じて虎杖悠仁の魂に染み付いた鬼を刺激させる。
この男は―――強い。隣に立つ白髪の男に並ぶ程に、強い……!!!
「やっぱ速いねー、翔。流石だね」
「御託はいい。それで、あの子供が宿儺の器か?」
「うん。実際に“視”たから、間違いないよ」
「ふむ。なら、俺も確認するとしよう」
踵を返し、虎杖の方を向いてその美しい紫紺の瞳で“魂”を見定める。
ドス黒く、鮮血の様に赤い呪いの染みが広がりつつある純白な魂が、翔の瞳に映し出される。
両面宿儺。平安の時代、即ち呪術全盛の時代に猛威を振るった呪いの王。
その器となった少年が、目の前に居る。
上層部に報告すれば、即刻、処刑という罰が下されるだろう。
何もしていないにも関わらず、ただ人を救おうとしただけにも関わらず、彼は理由もよく分からないままに死ななければならなくなるのだ。
「…どうやら、本当らしい。気の毒だな、まだ若いにも関わらず…」
「あれ? なんか俺、既に死んだ扱いみたいになってない?」
「宿儺の器だからな…すぐに処刑されるだろ」
「マジで?!」
「マジで」
「何なら執行するのは僕か翔のどちらかだろうね」
軽く笑いながら、随分と物騒な事を口にする。
だが、それもその筈だ。両面宿儺は特級に指定される呪いの王なのだから。
ともなれば、同じく特級呪術師である五条悟か九遠翔が処分を下すのは何ら不思議な事ではない。
「で、試したのか?」
「いや、今からやる所。翔もやろうよ」
「俺達二人で、か? それでは虎杖君が可哀想だろ」
「あ、宿儺じゃなくて悠仁の方なんだね」
「当たり前だ。相手は両面宿儺、指一本とは言っても呪いの王だぞ。俺やお前でも、慢心して掛かっていい相手じゃない。」
「相変わらず堅いねー、翔は。別に大丈夫でしょ」
「お前を弱いとは決して言わないが、それでも慢心はするな。呪いの王なら短時間で何をするか分からん―――だから、やるなら本気を出す」
蒼穹の呪力が奔る。軽やかだったな空気が重たく沈んでいく。
九遠翔は冷静だ。それ故に、誰を相手にしても一切の油断がない。
常に本気。相手が呪いの王であるならば尚の事、本気以上の本気を出して物事の対処に当たる。
故に、最悪の場合は虎杖悠仁を殺害してしまう可能性すら有り得てしまうのだ。
「あー…じゃあ僕だけでやるよ」
「そうか。なら、頑張ってくれ」
溢れた呪力を抑え込み、翔はすたすたと歩いて無造作に胡座をかいて地面に座り込んだ。
疲れた様に溜め息を吐き、さっさと始めてくれと言わんばかりの気怠さを醸し出していた。
「九遠先生、お疲れ様です」
「あぁ、恵もお疲れ様。大変だったろ」
「えぇ。死にかけました」
「そうか、それは災難だったな。事が終わったら硝子の所まで送ろう」
「ありがとうございます」
「気にするな。いつも事務作業や任務ばかりだからな、偶には教師らしい事をしてやりたいだけだ」
「原因の半分は五条先生ですけどね」
「まぁ、あれが悟だからな。仕方ないさ」
「そうやって甘やかすから、あの人も調子乗るんですよ」
「甘やかしてはいない。もう諦めている、というだけだ」
「あぁ…」
遠い目をする翔に、伏黒恵はそれ以上何かを言う事はなかった。
それから暫くして、五条悟による虎杖悠仁(もしくは両面宿儺)の試しは終了した。
「どうだった、悟」
「強いね。宿儺の器になったからっていうのもあるけど、あのフィジカルは虎杖悠仁本来のものだよ」
「天与呪縛…ではないな。なら、文字通り生得的なフィジカルギフテッドか」
「同時に、呪霊を容赦無く殴れる。あれは良い術師になるよ」
「そうか。また新しい後輩が出来たな」
「うん―――じゃ、翔、送ってってよ」
「またか。面倒なんだが」
「良いだろー、別に。それにさ、俺の術式よりお前の術式の方が使い勝手が良い」
「…その発言をした過去の俺をぶん殴ってやりたいな」
「自業自得でしょ?」
「違いない…
“
白い呪力が奔った次の瞬間、ふっ、と。
二人の呪術師は、最初からその場に居なかったかの様に、その場から姿を消した。