揃わぬ同盟
エレブ大陸全土を巻き込んだ「ベルン動乱」の終結から1年が経った。
敗戦国となったベルンは、西の大国エトルリア王国によって一度は解体の憂き目にあうも、現在は先王ゼフィールの妹ギネヴィアを新たなる女王として再興の道を歩みだしている。
ベルン軍の侵攻で最も甚大な被害を受けたサカ地方は、「灰色の狼」の異名をとるクトラ族ダヤンを中心に複数の部族が結束し、交易都市ブルガルの再建にいそしんでいる。同じく多くの被害を受けたイリア地方も、傭兵騎士団団長ゼロットの下で戦乱で荒れた地域の復興を行っている。
そして、動乱終結の立役者であり「若き獅子」とたたえられたフェレ公子ロイは、父エリウッドより爵位を継いで正式にフェレ侯爵となり、故郷とリキア地方東部の復興に励んでいた。
今回の動乱で多くの諸侯を失ったリキア同盟は、一時期エリウッドが盟主代行を務め、動乱終結後には前盟主ヘクトルの愛娘で、オスティア侯爵の地位を受け継いだリリーナを新盟主とし、ロイ他各諸侯の跡取りたちによる若い領主たちによる連合国家として歩み続けていた。
しかし、臣下を分け隔てなく信頼するあまり、結果としてクーデターを招いてしまったリリーナに対する不信感は年長の諸侯に多く持たれ、またロイの活躍に対する羨望により、結束とは程遠い状況が続いていた・・・。
「アラフェン候、今一度お聞きしたい件がございます」
オスティア城の謁見の間にて、月に一度の諸侯会議。その席上、議長席に座るオスティア侯リリーナは、アラフェン候ヘスマンに毅然とした態度を向けた。
「おおリリーナ殿。気の強きその瞳は、先代のヘクトル様とよく似ていらっしゃりますなあ」
先代の弟であったヘスマンは、年齢は三十三とリリーナよりも一回り近く離れている。まるで子供をほめるように、リリーナにお世辞を言った。
「はぐらかさず、私の質問に答えていただきたく思います。また、無断で砦を増設しましたわね」
きつく問いただすリリーナに、ヘスマンは悪びれることなく答えた。
「それが何か。あの動乱からまだ一年。世界は未だ平穏を取り戻してはおらん。リキアとサカの国境にある山脈には、たちの悪い山賊が徒党を成しておりましてな。わが領土の治安維持に、砦はいくつあっても足りることはありませんのでなあ」
「治安に熱心なのは結構です。しかし、そのために近隣の民衆から資材、人材を必要以上に徴収していると聞いています。それに、聞けば砦は修復を含めれば二月に一棟建っているとか。そのように急がれる理由をお聞かせ願いたいですわ」
「ですから治安のためと申しているではないか。民の力を借りておるのも、将来的に砦を築いたほうが、民のとっても理があるからだ。自分の暮らしを守るためにつながるのだから、今少々負担を課すのは仕方のないことだ」
「失礼ながら、リリーナ様は少々疑り深いのではあるまいか?よもやヘスマン殿が、貴殿への謀反を画策しているとでも言いたげじゃ」
そこに横槍を入れてきたのは、カートレー候のビバンツ。先代のおじにあたり、年齢は五十半ばと盟主代行を務めていたエリウッドよりも年上である。白髪交じりのビバンツは、嫌味たらしく小言を呟く。
「動乱の轍を踏むまいと、謀反を警戒されるのはなかなか殊勝であるが・・・。これからリキアの未来を共に築こうという同志たる我らに、そのような目を向けられると、いやはや・・・ホホホ」
嘲笑を浮かべて、ビバンツは一人の諸侯に目を移す。その視線を感じた若い諸侯は、顔に嫌悪感を浮かべる。
「・・・ビバンツ殿。なぜ俺を見る。まるで俺の方が謀反をたくらんでいるとでも?」
「いやはや・・・すまぬなラウス候シード殿。いかに俊英とされる貴殿でも、所詮はあのエリックの倅じゃ。つい見てしもうての。ホホホ」
「俺はあの男と一緒にしないでもらいたいっ!俺はこのリキアに刃を向けるなど断じてしない!!」
「シード、落ち着け。この席は言葉を荒げる場ではない」
「・・・悪いな。ロイ」
ビバンツの言葉に我慢ならなかった若い諸侯は、語気を強めてテーブルを叩いて立ち上がる。隣に座るフェレ候ロイは、なだめながら着席を促す。それで冷静さを取り戻した彼は、ロイに詫び席に着いた。
彼の名はシードと言い、歳はロイやリリーナと同じ十七歳。動乱の際、盟約を裏切ってベルンに帰順したラウス候エリックの実子である。だが、エリックと違い、彼はオスティアの学問所でもロイとともに俊英とたたえられ、亡きヘクトルには「お前と同じ時を過ごせれば、リキアは安泰だ」と言わしめるほど。先の大戦においても、謀反をもくろむ父を翻意させるべく説得していたが、アラフェンでの一戦を前に重罪人を収監するグライゼル処刑場にて幽閉されていた。ロイ率いる同盟軍がオスティアを解放した折に助け出され、エリックの罪を償わせようと処罰を求める他の諸侯から、「ヘクトルが認めた若い力を見捨ててはならない」とエリウッドが擁護。その後はリキア西部の治安維持の役割を全う。動乱終結とともにラウス侯爵となった。
「フン。威勢だけは立派なものだが、貴様は本来死刑となっていた身。立場をわきまえるんだな」
高圧的にシードを叱責するのはトスカナ候ボスカー。ヘスマンとは公子時代から付き合いがあり、何かとヘスマンをかばうような態度を取り、年下の人間を絶対に認めようとしない。シードと同じような態度をリリーナにも向ける。
「リリーナ殿。貴殿も少々失礼が過ぎるぞ!オスティアと違って、アラフェンはベルンとサカといった情勢が落ち着いておらぬ国々と隣り合っておるのだ。自分の領土を守るために、いちいち許可を出しては間に合わんというもの。貴殿の危惧は浅慮に他ならぬ」
「・・・・」
口惜しそうに押し黙るリリーナを見て、得意げになったヘスマンはここぞとばかりに参加者を前にして演説を始めた。
「しかし、内乱を招いた公女と、父親の反乱を止められなった謀反人が諸侯会議にいるというのはいかがなものかな?若いことは悪くないが、やはり同盟は我々が支えねばなりませんなあ」
「然様(さよう)。我々年長の者が支えながら、リキアの未来を描こうではないか」
「ホホホ。頼もしき事じゃ。此度の盟主も、良き諸侯に囲まれておろうのう。エリウッド殿も病の身をおして同盟を守ったかいもありましょうなあ」
ボスカーとビバンツも続き、主に年配の諸侯たちが賛同するように拍手を送る。一方で若い諸侯たちはそのふるまいに不信感を見せるも大きく反論できないでいた。その中で、若い諸侯が一人笑った。ロイである。
「ヘスマン殿、結構なご演説ですが、あくまでも盟主はオスティア候であって、あなたではないことをお忘れなきよう。いささか、その立ち居振る舞いがみっともなく思われます」
「おお。恋人や学友がなじられるのが、癪に障りましたかな『英雄』殿。ですが私は本当のことを言ったまでです」
ヘスマンは反省の色を微塵も見せずロイにも見下すような目線を向ける。わざわざ英雄と言い、慇懃無礼なふるまいをやめようとしない。ロイは咳払いし、棚上げされていたリリーナの質問を振り返る。
「お聞きしていると、ヘスマン殿は領土の強化にずいぶん尽力されておられる。オスティア候の懸念はどうあれ、同じ領主として民を思う気持ちは見習いたいものです」
「ふふふ。それはどうも」
「ですが・・・。私はいくつか不穏なうわさを耳にします。孤児院を営む知人からは、最近傭兵が入れ替わり立ち代わり城を訪れるそうですね。それに、保有する兵の数を大きく上回る武具を購入されておいでだそうで」
「これはこれは、聡明な貴殿とも思えぬ。我がアラフェンは先の大戦でベルン軍の主力部隊によって壊滅的打撃を受けた。戦争が終わったからと言って、突然兵が増えるわけでもない。それに戦前から交易の地として栄えたのだ。片田舎のフェレよりは財力に余裕があるのでね」
「なるほど。では・・・」
そう言って、ロイはおもむろに一つの封書を取り出した。
「ヘスマン殿に見ていただきたいものがあります。これを」
「拝見しよう」
ロイから差し出された封書を、尊大な態度で受け取るヘスマン。おもむろにその封を開け、中の紙を取り出す。折りたたまれたそれを広げ、中身を目にした瞬間、ロイの顔つきは変わり、ヘスマンの顔からはみるみるうちに血の気が失せ、ひきつっていった。
「ロイ殿・・・。これをどこで」
毅然とふるまおうとするが、身は震え顔からは汗が吹き出し、狼狽しているのが見て取れる。
「『さる筋』より、先日私に届けられたものです。ヘスマン殿の字であると思ったので」
「さる筋・・・とな」
「砦を建てるのが民を守るためというのなら、その書状について弁明をうかがいたいのですが、よろしいですか」
いつの間にか、主導権はヘスマンからロイに移っていた。ロイは目でリリーナに合図を送り、リリーナが追い打ちをかける。
「ヘスマン殿。その書状には何が書かれているのですか?」
「い、いえ。ここで話すほどの、ことでは・・・」
先ほどまでとは一転、歯切れの悪い回答。ヘスマンの変わり様に、ボスカーとビバンツも戸惑う。
「ヘスマン殿。今日は疑いの目を向けたこと、同じリキアの民として相応しくありませんでしたわ」
「い、いぃえ、めっそうもない。お国を憂える気持ちはよくわかります故・・・」
「ですが、無断で砦を増築したこと、これは二度目。次報告を怠れば、盟主として罰を与えます。よろしいですね」
「はは。委細、招致いたしまして・・・」
最後はすっかりリリーナに従順となったヘスマン。議会はここで幕引きとなった。
キャラクターの親のカップリングについては、基本的に小説「ファイアーエムブレム烈火の剣~封印の剣 エレブ動乱」になぞらえています。ただし、覇者の剣との絡みは一切ありませんのでご容赦を(タニアも地名だけ出てきます)