「くそったれ・・・一体いつになったら、ケリがつくんだよ」
苛立ちながら、シードは銀の剣で刺客の首を刎ねる。だが、目の前の敵は自分が、あるいは仲間がどうやられようと、表情をほとんど変えることなく矢継ぎ早に襲ってくる。
「おいディークよ、まだいけるか?」
「そりゃこっちの台詞だシード。ただ、武器はそろそろやべえかもな」
表情こそ笑みを浮かべてみせるが、ディークが操る鋼の大剣は刃こぼれだけでなく、刀身にも小さなヒビが目立つ。足元には、見る影もなくなった壊れたトマホークが転がっていた。
「シード様、あたしたちも、まだいけるよ・・・ゼェっゼェっ」
「槍も斧ももう使い物にならない・・・しかし、リリーナ様を助け出すまで、私は倒れるわけにはいかない・・・」
肩で息をしながらシャニーも強がってみせ、ウェンディも折れそうな気力をもう一度振り絞る。
「はぁっ、はぁっ、俺ももうひと踏ん張りといくぜ。せっかく手に入れた異国の魔導書だが、こうなりゃ大盤振る舞いだ」
ニヤリと笑って、ヒュウは再び魔導書を開いた。
「くらいな、マグラスター!」
ヒュウが魔法を唱えると、大きな火の玉が上空に舞い上がり、ある程度上昇したところでそれは八方に弾けた。エルファイアー並の火球が敵に次々と降り注いだ。
「うらぁっ!」
「でえぃっ!」
そしてシードとディークが討ち漏らした敵を斬りふせていく。ヒュウが操る魔法は、威力は高いが発動までにやや時間がかかるもの。それを連発できているのは、ウェンディとシャニーの警護があってのものだ。
「レイズっ!」
続いてヒュウは青白い閃光を連射。射抜かれた敵は次々と電流を帯びて崩れていく。
効率よく撃退し続けたところで、シャニーが一つの異変に気づく。
「あれ?ヒュウさん。さっきのマグなんとかって魔法は、もう撃たないの・・・って、あ!」
「ハハ。残念シャニーちゃん。マグラスターもレイズも今ので弾切れ。魔導書は燃え尽きちまったよ」
そう言うヒュウの足元には、灰になった魔導書の成れの果てが落ちていた。
「あと残ってんのはこのフィンブルだけだ。これが終わっちまったら、俺はほぼ丸腰だ」
一方で・・・
「なっ!?」
「ディーク!?」
「っくそが!」
もう何人斬ったかわからない。そんな中で遂に大剣が真っ二つに割れた。シードは気遣うが、ディークは強引に殴り付けて敵を倒した。
「そろそろ・・・マジでやべえかもな」
「先にあんたのが折れたか。ま、俺もそろそろ限界だな」
武器を失い、次第に追い詰められるシードたち。もし城内での戦いが長引いていれば、彼らの命運はここで尽きていただろう。
そのころの城内。玉座の間。
部屋の中央で安らかに眠るシードの傍らで、いつまでもその手を握るリリーナに、ロイはただ頭をたれていた。
「リリーナ・・・すまない。僕は、ヘクトル様に続いて、二度もリリーナの大切な人を守れなかった・・・本当に、ごめん」
「・・・謝らないで、ロイ。だって、レノス様・・・こんなに安らかに・・・う、う・・・」
レノスを救い出せなかったことを悔やみ続けるロイと、その死を懸命にこらえてロイを励ますリリーナ。その様子がラストールには滑稽に映った。
「フフ、ククククク。リキアに混乱を招いた人間を仕留めたというのに、なぜいつまでも悔いているのですか?自業自得の男を思いやるなど、なるほど。これでは盟主としてだらしないと言う他ない」
「ラストール、貴様・・・」
嘲笑を浮かべるラストールに、ロイは生涯見せたことのないような、鬼の形相を向けて立ち上がる。
「ククク。あなた方がここでしんでくれればよかったのですが、最低限のことができたのでよしとしましょう。リリーナ様の魔力を大量に含ん吸魔蝋とともに、私は退散するといたしましょう」
「待て!逃がすものかっ!」
裂帛の気迫でロイは猛然とラストールに迫る。だがレイピアの切っ先が触れる寸前、ラストールは姿かたちを消した。
『フフフ、ロイ様。あなた様の絶望はこれからなのですよ』
最後にそう捨て台詞を残して。次の瞬間、トリア城が轟音とともに激しく揺れだした。
「?」
そのころの城の外。万事休したかに思われたシードたちだったが、襲い掛かってきた兵士たちの動きが止まった。いぶかしんでいるうちに、彼らは次々と崩れ始め、シードたちの周りは砂浜と見間違うほどの白砂があふれかえっていた。それと同時に、トリア城が崩れだしたのだった。
「な、ロイっ!!」
シードが気づいてそう叫んだときにはもう遅かった。それほど大きくはないトリア城は、あっけないほどに崩落。瞬く間に瓦礫の山と姿を変えたのであった。誰もが最悪の結果を予想した中で、砂塵の中から、人を抱き上げて歩く人の姿があった。白煙が晴れ、その顔が現れたとき、誰もが安堵の表情を浮かべた。
「ロイ、大丈夫か!」
「ご無事でしたか、リリーナ様!」
すぐさまシードとウェンディが駆け出し二人を迎える。
「みんな。心配かけてすまない。リリーナは魔力を吸い出されているが、命に別状はない・・・」
「そうか。それで、トリア侯爵は」
シードの質問に、ロイは顔を伏せた。そして静かに首を横に振った。その心情を察したシードはあえて問い詰めはしなかった。そのときである。
「おい、東の空から何か飛んでくるぞ!」
そう言ったディークが指差した方向を全員が見る。それが何かを認知できたときに、真っ先に叫んだのはシャニーだった。
「あれは・・・お姉ちゃん!?」
飛んできたのは一騎の天馬騎士だった。天馬はところどころ傷を負っており、乗っている騎士も、背中に矢を受けたまま、息も絶え絶えに飛んでくる。やがて一同のもとに崩れ落ちるように着陸した。
「ティトお姉ちゃん!!どうしたの!?大丈夫っ!?」
「ティトっ!?どうしたんだ、何かあったのか?」
シャニーとロイはあわてて駆け寄り、ティトを抱えあげる。だが、うつろな彼女の目に危機感を感じたリリーナがヒュウに聞いた。
「ねえ、杖何か持ってない?」
「え、リライブの杖ならありますが、大丈夫ですか?俺がやりましょうか?」
「大丈夫。杖で癒すくらいなら」
リリーナはそういってヒュウからリライブの杖を受け取ると、ティトにそれをかざす。今にも死に絶えそうだったティトの顔色に生気が戻っていった。
「・・・うっ」
「お姉ちゃん、シャニーだよ。わかる?」
「・・・シャニー?あなた」
「良かったあ・・・」
姉が意識を取り戻したことに安心して、シャニーは脱力して座りこむ。そしてロイはティトに聞いた。
「ティト。フェレでアレンと一緒に暮らしている君が、どうしてここにいるんだ。それも、こんなに傷だらけになって。・・・まさか!フェレで何かあったのか!?」
天馬騎士のティトは、シャニーの姉であり、フェレ騎士団の団長であるアレン将軍とは恋仲にある。その関係もあって、今はフェレにて天馬騎士団の一個小隊を率いている。
ロイに問い質されたティトは、落ち着きながらも切羽詰まった表情で訴えた。
「ロイ様、驚かれるかもしれませんが・・・アラフェン・トスカナ・カートレーの連合軍が、・・・フェレを攻撃してきました!」
「何だとっ!!」
ロイが声をあげるよりも早く、シードが驚きの声をあげ、リリーナも手を口に当てて驚愕している。
「・・・どういうことだ?あのオスティアでの襲撃、その晩餐会には三人ともいた。あれからまだ三日しか経っていない。一番近いカートレーから仕掛けたとしても、早すぎる。まさか、諸侯の合図もなしにか」
戸惑うロイはアラフェン侯爵たちの行動を予測するが、ティトは否定する情報を伝える。
「いえ。部下に偵察させたところ、敵の本陣にはアラフェン候ヘスマン、トスカナ候ボスカー、カートレー候ビバンツの姿もあるということです」
「とはいえ、このままほうっては置けんな。ロイ、ラウスに来い。そこである程度立て直さないか」
シードの提案に、ロイは賛同する。そこにリリーナも加わった。
「待って二人とも。私も行くわ」
「でもリリーナ、君にはオスティアが」
ロイが止める前にリリーナが強く出た。
「反乱が起きてしまった以上、私にも責任があるわ。エリウッドおじ様には、動乱で私に代わって盟主としてリキアをまとめてくれていた。その借りを今返したいの」
「リリーナ・・・」
レノスを失った悲しみを押し込めて、凛とした瞳を向けるリリーナに、ロイは説得をやめた。それを合図にシードは指示を出す。
「ティト、といったか。お前はロイを。そしてシャニーはリリーナをラウスに連れて行け。マーカスにこの護符を渡せばラウス軍を意のままにできる」
「わかった。シード、君はどうするんだい?」
「ディークとウェンディをつれてオスティアに行き、少し兵を借りてから戻る。リリーナ、お前の意を部下連中に伝えておくぞ」
「ええ、お願いするわ。ごめんなさい。使い走りみたいなまねをさせて」
表情を曇らせるリリーナに、シードは鼻で笑って返した。
「気にすることはない。エリウッド様に対してのご恩返しの思いはよくわかるからな」
そう言ってからリリーナに近づいて耳元でささやく。
「大事な人間と、離れる時間はもういらんだろ?」
「!!」
そのささやきにリリーナが赤面したことを気に留めず、シードはオスティアに馬を走らせ、二頭の天馬もラウスに向けて空を駆った。
そのうちキャラクター図鑑なんてのが必要でしょうか。意見あればお願いします。