ファイアーエムブレム封印の剣~古の野望~   作:仲村哲也

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侯爵の力量

 時間軸をもとに戻す。

 レステン村に急行したロイ達の目の前で、治安のいいフェレでの出来事とは思えぬ光景が広がっていた。燃え盛る民家、逃げ惑う人々、時おり響く悲鳴。そして村中を駆け回る、リキア同盟軍の甲冑姿の騎士たち。

 

 そこでロイの視界に入ったのが、子供を抱き抱えた母親を追いかける騎士の姿だった。

「お、お願いします・・・どうかこの子だけは」

「ふん。我々に逆らった罰だ。思い知らせてくれる」

「そこの騎士っ、待てっ!」

 

 その二人の間に、ロイは馬を巧みに操って割って入った。馬が止まるとリリーナが降りて母親を連れて安全圏に走っていった。

「な、なんだ貴様ら!邪魔する気か」

「別に。リキア騎士でありながら領民に危害を加えているのが気に入らなくてね」

「なんだと?おのれ、何者だ」

「・・・フェレ侯爵、ロイだ」

 抑揚なく静かに口にした名乗りに、ロイを囲む騎士たちは身が固まる。その時、正面に立つ騎士の剣に血がついているのに気づいたロイは、身に湧き出る炎の様な感情にとらわれた。

「貴様、その剣・・・」

「え、あ、これか・・・自警団と名乗る輩を」

「斬ったのか?」

「ひっ・・・い、や、あの」

「領民を、民を斬ったのかと聞いているんだっ!!」

 怒号を発するロイに誰もが恐怖するが、全身から放たれる怒りのオーラに怖じ気づいて身動きできない。のまれそうになったことに我慢できず、騎士は開き直って言い放った。

「そ、それがなんだと・・・どうせこのフェレは我等新リキア連合のヘスマン様の統治下となる。それにたかが村人一人。斬ったところで問題ないわ!」

「・・・そうか、ならば!」

「え」

 ロイはその騎士に近づくと、帯剣していたリガルブレイドで、抜剣と同時にその首を刎ねた。呆けた表情の生首が足元に転がり、周りの騎士たちは狼狽する。

「ひぃっ!」

「わっ、あわわ!」

「民を傷つけた貴様らは、最早騎士にあらず。一人たりと逃がさず成敗させてもらうぞ!賊どもっ!!」

 彼らに鬼の形相を向けたロイは、文字通り鬼神の如く敵を次々と斬り伏せた。

 

「ロイ様、ご無事ですか!」

 そこに、やや遅れたルカが駆けつける。だが、先ほどまで温厚だった男の周りには、一撃で倒されたと思われる死体が転がっている。瞬時にそれが彼の仕業であると悟ったルカは、生まれて初めて人を見て怖いと感じた。

 そんなルカにも目もくれず、ロイはリガルブレイドを天に掲げて叫んだ。

「ラウス騎士団に命ずる!これよりレステン村に現れた『賊』を掃討する!!半数に分かれ、一方は敵を討ち、もう一方は村人の救助にかかれっ!!」

「はっ、お任せを。ラウス騎士団、参りますっ!」

 気を取り直した部下は、ロイに追従して攻撃を開始した。

 

 

 

 その頃、子連れの母親を連れて逃げるリリーナは、村人たちが避難する教会にたどり着いた。

「あそこが避難所になっているのね」

「は、はい。ですが、私は逃げ遅れてしまって・・・」

「大丈夫よ、私がついているから。さ、早く」

 そう言って母親の手を引き、どうにか扉の前にたどり着いたが、案の定扉は開かない。とりあえずノックして中の人間に声をかける。

「逃げ遅れた人を連れてきたの!開けてくれないかしらっ!」

「マンナです。お願い、開けてください!」

「おお、マンナか!」

 中から老人の声がし、閂が外される音の後に扉が開けられた。

「おおよくぞ無事で。どこにも見えないから心配しておったのじゃよ」

「ロイ様が助けに下さったのです。いま、村をお助けしていただいて・・・」

「なんと、それは本当か」

「あの、失礼ですが肩を怪我してるみたいですね」

 再会を喜ぶ二人を見ていたリリーナは、男が肩を抑えながら会話していることに気付いた。

「とりあえず中に入りましょう。よろしければ杖をお貸しいただけますか」

「あ、あなた様は・・・」

 いぶかしむ男に対してリリーナは身分を打ち明けると、二人は驚いて目を白黒させた。

 

 中に入ったリリーナは、教会内にあったライブの杖を借りて男の傷を治療した。男はこの村の村長であり、事の顛末を伝えられた。

「では、息子さんたちは、今も外で・・・」

「はい。ですが、向こうは訓練された騎士、こっちは見様見真似の付け焼き刃、果たして無事でいるかどうか・・・」

「わかりました。なんとかロイに伝えて・・・」

 

 その時である。扉を叩く激しい音がしたのは。振り返ると、斧のようなもので扉をたたき割ろうとしている様子が分かった。斧の歯が刺さるたびに、扉の木屑がこぼれている。外からは怒鳴り声も聞こえてきた。

 

「ま、まさか、奴らは本気でわしらを・・・」

 不安を呟く村長に、子連れの母親も恐怖の色を浮かべる。

「ここは私に任せて、二人は奥に逃げてください」

「そ、そんな・・・」

「大丈夫よ。弱い人を襲う事しかできない連中には、遅れは取らないわ」

 そう言ってリリーナはウインクしてみせる。その表情に二人は奥にある地下の隠し部屋に向かった。その足音が遠ざかる中で、リリーナはつぶやいた。

(こうなったのも、私が諸侯をまとめられなかったから・・・。その責任を果たさなきゃ)

 そう心に決めて、リリーナは扉に近づき、おもむろに印を結んだ。

 

 一方外では、騎士たちが扉を打ち壊している最中。遅々として進まない様子に隊長らしき男が怒鳴った。

「何をしておるか!さっさと壊せ」

「はあ。しかし、閂が予想以上に固くて・・・」

「自警団連中にラウスからの騎士団が合流して、我々が押されておるのだ。ここに引きこもってる女子供を人質にとって奴らをけん制するのだ」

「はっ。ん?」

 作業を再開しようとする騎士たちは、ふと焦げ臭いにおいに気付いた。

「どうした!」

「は、何やら焦げ臭いにおいが中から」

 

 次の瞬間だった。激しい轟音とともに紅蓮の炎の濁流が、騎士たち諸共扉を吹き飛ばした。誰もがあっけにとられる中、リリーナが堂々たる立ち居振る舞いで現れた。

「村人たちにはこれ以上手出しはさせない。どうしてもここに入りたかったら、私を倒すといいわ!」

 凛とした声が響き、そして誰もがおののく。先ほどの強力な魔法を見せられた後だけになおさらだ。

「ええいひるむな!魔道書のない魔導士なんぞ、丸腰にすぎんわ!!」

 いきり立って隊長らしき男はリリーナに向かって特攻する。その様子にリリーナは鼻で笑った。

「全ての魔導士が魔道書を必要とすると思わないことね。知識を重ねれば・・・」

 そう言ってリリーナは両手を上げる。すると騎士たちは不思議な光景を見る。魔道書を持っていないのに、リリーナの手は明らかに魔力を帯び始めている。それだけではない。右手は燃え盛る炎、そして左手にはまばゆい電撃がまとわりついている。

 

「こういうこともできるのよ。ヒートスパークっ!!」

 

 そう叫んでリリーナの両手が重ねられると、電撃を帯びた火球が隊長らしき男を直撃する。男は声にならない断末魔を上げ、まさに『丸焼き』となって絶命した。その死体には、おびただしい電流がなおもまとわりついていた。

 

「これ以上の抵抗、無駄って感じてくれるといいんだけど?」

 

 余裕の笑みを向けるリリーナに対し、騎士たちは手にしていた武器を捨てて投降するほかなかった。

 

 

 

 日中に始まった戦いは、日が沈んだ頃に終息を迎えた。そして戦後処理をするうちに、村の被害があらわになる。人家の多くはもちろん、収穫した穀物を備蓄する納屋、家畜小屋も多くが焼け、自警団にも多くの死傷者を出した。老人や女子供といった非戦闘員への被害が皆無だったことが、不幸中の幸いだった。

 

「本当に、申し訳ないことをした。まさかリキアの騎士が村を襲うなんて・・・」

 村長親子に面会したロイは、まず被害を食い止められなかったことを詫び、頭を下げた。

「いえいえ、こうして助けていただけただけでも、ありがたいことです」

「そうです。ロイ様がこうして駆けつけてくださらなければ、今頃は村が全滅していたことでしょう。こうしてお救いしていただけただけでも奇跡です。死んだ自警団員も、村が救われたことで浮かばれたでしょう」

 村長とアルクにそう励まされて、ロイはずいぶん救われた気がした。確かに、休息を考えなければこの村を通り過ぎていたかもしれなかっただけに、被害をある程度食い止められただけでも良しとするべきか。それに、この戦闘で捕えたリキア騎士は、ルカが尋問した結果アラフェンに与するカートレー軍の兵士だったことが発覚。そこからフェレの状況をある程度把握することもできた。ロイたちは村の復興を兼ねてシードら後発組を待ちながら、敵の情報を集めることにした。




登場人物集を別作品として出すつもりです。
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