ファイアーエムブレム封印の剣~古の野望~   作:仲村哲也

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臆病風

 ロイ達のサンタルス奪還。その衝撃は瞬く間に連合軍を震撼させた。その日から彼らには暴風が吹き荒れた。

 臆病風という暴風が。

 

 

 

 カートレー軍が駐留する砦のひとつ。そこでは兵士たちが、リキア同盟軍の強さをうわさしていた。

 

「サンタルスが墜ちた・・・。あそこには千ぐらいの騎兵がいたんだろ?」

「いくら分散させてたからって、たった一日で奪い返されるなんて」

「ロイ様はエトルリア王国の騎士軍将と互角の剣術、リリーナ様は魔導軍将が『天才』と言いきった程の賢者・・・よくよく考えるとただ者じゃねえ」

「それによ、むこうにはな、あのディークがいるんだってよ!」

「ディーク!?」

「『大陸最強』の!?そんなのがいるのかっ?」

「・・・勝てっこねぇ」

「聞けばよ、ロイ様もフェレの民が傷つけられたってんで、連合の兵士を皆殺しにしてるんだとよ」

「た、確かに・・・誰も逃げてこねえ・・・」

「・・・」

 

 

 新月の夜。誰もが寝静まった砦の裏口が、その夜に静かに開いた。そこから一人、また一人と、兵士たちが「手ぶら」で外へ出た。その砦の隊長が気づいた時は遅かった。

 

「き、貴様らどこへいく!まだ退去命令は出とらんぞ!」

 隊長の叫びも虚しく、兵士たちは次々と闇夜に消えていく。激昂した隊長は、逃亡兵の一人を斬り捨てたが、逃げようとする兵士たちの目付きが変わった。

「な、なんだお前たち。私をどうす、う、ぐぁ!や、やめ!」

「邪魔するな!俺達はもう終わりなんだ!死にたかねえんだよ!!」

「グワッ!」

 

 隊長は血迷った兵士たちに殺害された。止める者がいなくなった砦からは、臆病風に吹かれた兵士たちが次々と消えていった。

 

 

 

「な、なんじゃと!?我が兵士たちが・・・」

 

 翌朝報告を受けたカートレー侯ビバンツは、自軍の恥に言葉を失った。三つの砦のうちの一つ、そこにいた三百強の兵士が逃亡したのである。この数は、カートレー軍全体の二割に迫る。逃亡の事実共々大きな問題であった。

 

「ビバンツ殿、貴殿の私兵はとんだ役立たずではないか!これでは話にならんぞっ!」

 当然この失態はヘスマンのもとにも届き、さっそくヘスマンはビバンツを叱責する。そしてトスカナ侯ボスカーは、ビバンツを鼻で笑った。

「ふん。所詮は老いぼれの私兵。一度臆病風に吹かれればこのザマだ。しかし、これ以上ロイどもを図に乗らせぬためにも、小規模のうちに叩くべきだな」

 そう言ってボスカーは、ヘスマンに進言した。聞いた瞬間、ヘスマンは明らかに戸惑った。

「トスカナ全軍でロイ達を潰す、だと?」

「おうよ。これ以上グダグタしていても埒が開かん。フェレの希望ともいえるロイどもを、少数勢力のうちに潰しておくのさ」

「し、しかし、カートレーの戦力が大幅に減った今、これ以上戦力を分断させるわけには・・・」

 開戦当初は一万騎の兵力を有していた連合軍だが、サンタルス地方制圧にまず千、タニアの監視にニ千の兵力を割き、フェレ騎士団との戦闘で千の兵を失った。カートレーが戦力としての計算が立たなくなった今、現状連合の兵力は五千余り。ここでトスカナ軍ニ千がロイ討伐に向かうとなれば残り三千。それでもフェレの三倍ほどの戦力を有してはいるが、包囲することが難しくなり、撤退という選択肢も出てしまうのである。

「向こうの戦力は確かに小規模かも知れんが・・・個々の力量は明らかに秀でている。得体もはっきりしておらん。なあボスカー、考え直してくれんか」

「心配せんでもよい!フェレの小倅ごとき、この俺が叩き潰す!」

 そう鼻息を荒くして、ボスカーは古城を出撃、タルシアン村に向かった。

 

「なんということだ・・・これでは勝てるものも勝てん」

 一人残されたヘスマンは、そう頭を抱えてぼやいた。完璧だったはずの作戦が頓挫し、ここへ来て離反や分裂というトラブル続き。ヘスマンの脳裏に、自分の末路が思い起こされた。

 なんとか打開策を探すが、思いつくのは負け戦ばかりだ。リキアを転覆させかねない大罪を犯しているという自覚のせいか、思考はネガティブ一辺倒である。

(リリーナとロイをトリアで始末できなかったことが全てだ。降伏しようが抵抗しようが、アラフェン家の取り潰しは間違いない。我が軍が領民を傷つけたことにロイは激昂しているらしい・・・軽くても流罪、だがリリーナもリキア同盟の在り方を示すべく、鎮圧の暁に私を処刑するだろう・・・もはや私は助からんのか・・・)

 頭を抱える彼の前に、突然魔法陣が浮かび上がる。その中から現れたのは、今彼が最も罵声を浴びせたく、それでいて泣きつきたい人物だった。

「ら、ラストール!き、貴様いままで・・・」

「おやおやヘスマン様。どうされましたか?ずいぶん憔悴されておりますが、何かありましたかな?」

「何かありましたかな・・・だと?ふざけるな!貴様らがあの二人を始末しなかったせいで、我が野望が暗礁に乗り上げたのだぞ!よくもまあいけしゃあしゃあと・・・」

「フフフ。ずいぶんお怒りのようですが、顔は違いますな。安堵の色が濃いですぞ」

「うぐぐぐ・・・」

 ラストールの言う通り、ヘスマンの今の感情は、怒りよりも安堵の方が勝っていた。それほどまでに彼は追い詰められたのである。

「・・・で、どうするのだ?何か切り札でもあるのか」

「ええ。いくらか。しかし、いくつかしてもらいたいことがございます」

「言え」

「よいのですか?あなたに賛同したお二方が危うくなるかも知れませんが?」

「・・・構わぬ。もうあの二人はあてにならん。王となれるのなら、最早手段は選ばぬ!」

 その時のヘスマンの表情に、ラストールはほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。シード様、連合軍のボスカー候がこちらに向かってるとの情報が入りました」

「真っ直ぐか」

「はい。このタルシアン村に向かってるとのことです」

 ライドからの聞かされた情報に、シードは思わずほくそ笑んだ。

「情報というのはつくづく重いもんだな。なるほど、オスティアが強いわけだ。こうしてみると密偵はしっかり抱えとかねばならんな」

「あんまりいい気はしないわ。相手の見えないところまで見てるみたいでね」

 リリーナが苦笑したところで、ロイが本題に入った。

「さて、ここからが問題だ。サンタルスを取り返したことで、間違いなく戦況は変わる。現に連合軍側に離反や意見のズレが生まれつつある。ただでさえ膠着したこの状況で、好戦的なボスカー殿が動かないわけがない。友人であるヘスマン殿が止められなかったとなると・・・ボスカー殿の頭には血が上りきっているな」

 そしてロイはトスカナ軍を撃破することを決め、村の南にある街道に誘い込む作戦を立てた。リキア同盟の各諸侯が抱える騎士団は、オスティアを除いて騎馬兵を軸として構成している。だがこのサンタルス地方の地形は山や森が多く、騎馬兵が行軍するには必然的に陣形が細長くなってしまう。ロイ達は防衛線を築いて迎え撃つ策を講じていた。

 しかし、リリーナがこれに異を唱えたのである。

「でもロイ、それでは時間がかかりすぎるわ。もっと早く決着をつけられないかしら」

「リリーナ?」

「だって、これは単なる諸侯間の小競り合いじゃないわ。数千の兵力が動いているのよ?時間を浪費してたら、エトルリアが介入しかねないわ」

 リリーナの指摘に、ロイは我にかえった気になった。よくよく考えれば、これはリキア地方だけの内戦であり、他国にその動向を感づかれる訳にはいかない。再興中のベルン王国はともかく、先の動乱ではほとんど被害のなかったエトルリア王国はその余力は十分にある。

「うっかりしていたな。確かにエトルリアのことを考えていなかった。今リキアが二分していることを知れば、つけこめる力を持っているからな」

 そしてロイは、リリーナの進言を受け入れ、作戦を練り直す考えを示す。そのやりとりを見ていたシードは思わず苦笑した。ロイは戸惑いながら尋ね、リリーナは頬を赤らめて怒った。

「どうしたんだシード、急に笑い出して」

「ま、まさか・・・また私たちのこと」

「いやすまん。だがリリーナ、勘違いしないでくれ。別にお前たちの・・・まあ、笑ったのは確かだが、あの親にしてこの子供ありと思ってな」

 言って、シードは遠くを見つめるようにつぶやく。

「武勇に優れ、エトルリアとベルンの二大王国と対等に渡り合う外交力を持ったヘクトル様の血を、リリーナは見事なまでに持ち合わせている。ロイにしてもそうだ。領主としてあるべき姿が目の前にあり、しっかりとそれを受け継いでいる。・・・だからこそ思うのだ。ベルンの先王ゼフィールがいかに憐れだったかをな」

「憐れ・・・!」

 シードの言葉の意味を図りかねたリリーナが首をかしげるが、すぐに思い立った。ゼフィールが「生まれ変わってしまった」いきさつを。

 

 大陸全土を巻き込んだ戦乱を巻き起こし、今では狂王としてその名を遺しているゼフィールであるが、王としての才覚は王子のころから秀でていた。それを父王デズモンドは疎み、憎み、果ては暗殺を画策した。人の見にくい部分に失望したゼフィールが戦乱を起こす源泉となっていたのが、実のところ、子の秀でた才覚に対する肉親の嫉妬だったのである。それをいつぞや人から人へと伝え聞いたシードは、ふとした時に自分と重ね合わせるのである。

「だが、改めて思った。このリキアはお前たちが率いるべきだと。それだけの器がお前たちにある。俺たちラウスは、全力で支えるつもりだ。よろしく頼むぞ。『国王ご夫妻』」

 最後の最後で冷やかしを入れ、二人は互いに顔を赤らめながら、リリーナはむくれ、ロイは苦笑した。

「もう・・・。どうして最後に冷やかすのよ」

「シード、不謹慎だぞ」

 

 そんな三人に、訳の分からない知らせを、ルカが持ち込んできたのである。

 

「シード様!、ロイ様!、リリーナ様!、おかしなことが起こりました。こちらに向かっていたトスカナ軍が・・・消息を絶ちました!」




次回は登場人物集を書きます。
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