ロイの母親がニニアンであるという事は、後々のストーリーにも結構からむので覚えといてください。
「いったいどうしたヘスマン。ロイから何を渡された」
諸侯会議が解散となった後、早い足取りで回廊を歩くヘスマンを、ボスカーが呼び止める。ヘスマンはぴたりと止まり、ひきつった表情で封書を手渡した。ボスカーは追いついてきたビバンツとともに封書を見る。二人は目を見開いた。
「こ、これは!」
「バカな・・・なぜあの小僧が持っておるのじゃ」
二人から奪うように書状を取ると、ヘスマンは反射的に握りつぶした。
「この書状は我らにとって重要なもの・・・。故に私も自室の隠し部屋に厳重に保存してあった。・・・何者かを使って盗み取らせたに違いない」
書状を握りならワナワナと拳を震わせるヘスマン。同じようにボスカーも猛り狂う。
「あやつらめ・・・盟主という地位を得、英雄として讃えられておることいいことに、このような真似までするとは・・・勘弁ならんっ!!」
「どこへ行くボスカー」
「決まっておるっ!ロイを告発する。盗賊まがいのことまでして権力をふるうとは言語道断だ」
そう言ってズカズカと歩き出すボスカーを、ヘスマンはその肩を取って制止する。
「馬鹿者っ!ここでロイを訴えれば、我らの『計画』まで露見しかねん。私がなぜあの場でロイをとがめなかったのかわからんのかっ!」
ヘスマンの言葉に我に返ったボスカーは歯を食いしばる。
「・・・ともかく、この書状が奴の目に留まったのは事実。ほとぼりが冷めるまでおとなしくしたほうがよいのではないか?」
ビバンツの意見に二人は黙る。そしてヘスマンが口を開いた。
「仕方あるまい。私も動きすぎた。しばらくは動きを抑えねばあるまい・・・くっ」
そう言ってその場から再び歩き出したヘスマン。その顔には憤怒がみなぎっていた。
(ガキどもがぁ・・・今に見ておれ!リキアの王に誰が相応しいかを、必ず思い知らせてやるっ!!)
「それにしても大したものだ。お前もこのような手を使うとはな」
一方、反対側の回廊では、ロイとシードが歩いていた。手紙を手に入れた経緯を聞いたシードは、ロイに驚きの声を上げる。
「いや、手紙を手に入れたのは偶然だ。しかし、泥棒のような真似をしたから、ちょっと気は引けるけどね」
「ったく、そういう優しさというか、変わらないなお前は」
謙遜するロイを見てシードは苦笑する。しかし、二人の表情はすぐに引き締まったものに変わった。
「しかし、というか、やはりとみるべきか。ヘスマンはどうしても盟主の座が欲しいようだな」
「リリーナも密偵を使って調査をしていたそうだけど、決定的な証拠がつかめなかったんだ。だが、はたしてアラフェン候は謀反を考えているのだろうか」
「おい正気か?これ以上ない証拠を手に入れておいて、まだそんなことを」
ロイの言葉にシードは声を荒げるが、言葉の意味を否定する。
「そうじゃない。僕が気になっているのは『するか、しないか』ではなくて『どこにけしかける』かだ」
「どこに?オスティアではないのか?」
ロイの展望をシードは理解できずに聞き返す。ロイは自分の考えを話した。
「確かに、ヘスマン殿がリキア同盟の盟主の地位に執着していることは明らか。今回見つけたあの書状や、最近の動向をかんがみても、行動を計画していることは間違いない。だが、オスティアに謀反を仕掛けるには腑に落ちないことが多い」
「たとえば?」
「まずオスティアとアラフェンでは明らかに距離がありすぎる。斥候兵が全速で馬を走らせても五日はかかる。一領主の反乱軍が移動するとなると、秘密裏に動くには無理がある」
「だが、俺の勘じゃカートレーやトスカナは加担するだろう。そうなれば、オスティアを攻めずともその隣のトリアぐらいなら潰せるんじゃないか?トリアの領民や侯爵のレノスを人質にして盟主の座を明け渡せってな」
「確かにそれはある。だが、もう一つ気がかりなのは増設している砦の位置だ」
「位置?」
「リリーナと僕で集めた情報だが、増設された砦はほとんどが北東に集中している。ヘスマン殿の言うように、サカとベルンの国境ばかり。オスティアを攻めるとしたら、アラフェン領の南西に作らないか?」
「・・・・。確かに。仮に俺(ラウス)やお前(フェレ)に攻め入るにしても、そっちに砦を作らないのは疑問だな」
「いずれにせよ、この案件はもう少し外堀を埋めてからだ」
そう言ってロイは歩みを早める。対してシードは歩みを止める。違う行動をとったシードをロイは振り返る。
「シード?」
「ロイ。無茶は禁物だぞ。何かあったら俺をどんどん使ってくれ。俺はお前たち親子に命を助けられた。同じ領主という立場ではあるが、お前の忠臣のつもりでもいる。必ず助ける」
「・・・。ああ、頼りにしているよ」
「へぇー。やっぱロイ様かっこいいなあ」
その頃、オスティアの市街地から離れた小高い丘。その頂上でリリーナは休息していた。ここに彼女を連れてきたのは、天馬騎士のシャニーだ。彼女は先の動乱で傭兵団の見習いとしてリキア同盟軍に参加。数多くの戦いを重ねた末、正式な天馬騎士と認められ、今はオスティア騎士団に雇われ、リリーナの外出の伴として活動している。政務に追われ、休息の時間が十分に取れないリリーナにとって、シャニーは気軽にこの丘に連れて行ってくれるありがたい存在だ。リリーナの母フロリーナも天馬騎士だった縁もあって、二人は動乱のころから貴族と傭兵の垣根を越えた親友のような間柄だ。二人は今夕焼けに照らされ始めた丘の草原に、仰向けに寝転んでいる。諸侯会議の顛末を聞かされたシャニーは、改めてロイを賞賛した。
「リリーナ様っていいよね。あんな人がそばにいるんだから」
「うん。もっと小さい頃は、ぼんやりしててちょっと抜けていて、まるで弟みたいだったのに、いつの間にかすごく頼もしくなっちゃって。ほんと、頼もしい人よ」
「でもいいんですか?あたしとこんなとこでしゃべってないで、ロイ様のところに行けばいいのに」
「別にいいのよ。ロイだって忙しいし、私のことであまり気を使ってほしくないから・・・」
そう言ったリリーナの表情は、どこか寂しげでもあった。
「ねえリリーナ様。最近、笑ってる?」
「え?」
「うん。あたしの思い違いならいいんだけど、リリーナ様、最近すっごい我慢してる。それで、あんまり笑わなくなってる。今はそういったけど、ほんとはロイ様ともっと一緒にいたいんじゃない?」
覗き込むように聞いてくるシャニーから、リリーナは顔をそらす。しばしの沈黙の後、一瞬風が吹き抜ける。それからおもむろにつぶやく。
「シャニーには・・・敵わないな。私が思ってること、全部ばれちゃうんだもん」
「・・・」
「会いたいよ。今も。侯爵としてやらなきゃいけないこと、盟主としてやらきゃいけないこと・・・全部捨てて、ロイとずっと一緒にいたいよ」
「・・・」
シャニーはただ黙ってリリーナの話を聞いている。いつの間にかリリーナの瞳には涙がたまっている。
「私は・・・お父様みたいに、みんなを引っ張ることなんてできない・・・。時々押しつぶされそうになるの・・・・私じゃなくても、リキアはやっていけるんじゃないかって」
「そんなことないよっ!」
次第にネガティブになっていくリリーナを、シャニーは全力で首を振り、リリーナに顔を向けさせる。
「あたしが言っても信じられないだろうけどさ、オスティアはリリーナ様じゃなきゃダメだよ。リリーナ様はどんな人でも、みんなのことを信頼してくれてるし、本当に想ってくれてる。そんな人じゃなきゃ誰もついてこないよ。ボールス将軍やバース将軍、ウェンディさんにオージェさん、それにあたしやロイ様だって・・・。リリーナ様がいるからみんな頑張れるんだよ!」
必死に励ますシャニー。シャニーもまた、涙を流している。
「だから・・・そんなに自分を責めないで。あたしたちをもっと心配させて。つらかったり苦しかったらどんどん吐き出して。ね」
「・・・うん。ありがとうシャニー」
黄昏の下で、二人は泣きながら笑った。
なんかシャニーすげえ美味しい役どころだな。これは完全に作者設定です。