ファイアーエムブレム封印の剣~古の野望~   作:仲村哲也

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弄ぶ連合軍

「ははぁ!粋な歓迎じゃねえかっ!」俺たちの首はそう安くねえぞっ!!」

 叫びながら、シードは襲い掛かってくる刺客たちを次々と返り討ちにする。その傍ではロイもその剣技で敵を木の葉のように斬り伏せた。

 

 リリーナたちが城に潜入しているその夜、ロイたちは連合軍の夜襲を受けた。攻撃を仕掛けたのは連合軍に雇用されていた傭兵四百人超。「首一つに突き100ゴールド、大将格の首を持って帰れば一生道楽で暮らせる金を出してやる」と鼓舞して攻撃させていたのであった。奇襲に当初はうろたえていた同盟軍であったが、先頭切って剣を振るうフェレ、ラウス両諸侯の勇敢な姿に落ち着きを取り戻し、大陸最強の称号を持つディークの存在が同盟軍側を精神的に有利にした。オージェ、ウェンディ、シャニー、ヒュウ、ランスの歴戦の猛者たちもそうだが、ラウス騎士団の部隊長であるライドとルカ、さらにレステン村から志願兵として従軍したアルクも果敢に戦い、傭兵部隊は次々と逃亡していった。ロイたちの砦からは、ほどなく勝どきが上がった。

 

「ひぃひぃ・・・なんなんだよあれ。めちゃくちゃ強えじゃねえか」

「まったくだ。金は魅力あるけど、命あっての物種だぜ」

 

 愚痴をこぼしながら戻ってきた傭兵部隊たち。ほとんどが怪我を負い、中には剣や斧を杖代わりに歩く重症のものもいる。そんな瀕死の傭兵百人余りがタニア城の城門にたどり着いたとき、満月の夜空を切り裂いて矢の雨が降り注いだ。

 

「うぎゃあ!」

「ぴげえっ!」

「げふうっ!」

 胸に、背中に、額に矢を受けて次々と倒れる傭兵たち。数が半数以下になった時に城門が開き、そこから槍をかざした兵士たちが突っ込んできた。

「死ねえっ!!」

「かくごしろっ!!」

 一直線に突っ込んでくる兵士たちに、傭兵たちは命乞いをした。

「な、なんだてめえれげ!!」

「や、やめろ俺たちゃ味方だはっ!!」

「ひぃっ!た、助けてくれっ!」

「ぎゃあっ!!」

 だがそれも空しく、兵士たちの次々と槍の餌食となる。一方で兵士たちも懺悔の気持ちを抱えながら傭兵たちを虐殺していった。

(許してくれっ!私たちだってこんな真似したくないんだ)

(だが、我らの主君と貴様らでは天秤にかけられん!!)

 ほどなくして傭兵部隊は殲滅された。手にかけたのは、タニア軍の兵士たちであった。

 

 

「そうか。傭兵どもはすべて片づけたか」

 玉座の間でふんぞり返って報告を受けたカノーブは、結果をわかっていたかのようにつぶやいた。そこに、血相を変えたミスティが、カノーブに詰め寄った。

「我がタニア軍に、友軍を始末させたそうですね・・・」

「おおミスティ殿か。ろくな力を持たぬタニア兵でも、死にかけた傭兵ぐらいなら倒せるのですなあ」

 慇懃無礼な言葉遣いに、ミスティはカノーブの頬を叩き、目に涙を浮かべて怒りをぶつけた。

「この・・・外道っ!!味方同士で殺し合いをさせるなんて、正気の沙汰じゃないわ!!人殺し、悪党、けだもの!!」

 無表情のままミスティの言葉を聞いていたカノーブは、悪魔の笑みを浮かべて言い返した。

「外道の真似をためらいなく奴らができたのは、貴殿ら姉妹の命がかかっていたからだ。『命令に逆らえば姉妹を処刑する』と言っておいただけだ。私は」

 主君に対する忠誠心をもてあそんだカノーブに、ミスティは唇をかむことしかできない。立ち上がるカノーブをなおもにらみ続けたが、目には涙が浮かんでいた。

「恨むのなら人質になるしか能のない病弱な姉君を、あるいは戦う術を持たない非力な自分を恨まれるがよい。・・・ああ、かといって妙な真似は致すなよ。姉の命を思うのならな。ハハハハハ」

 

 

 破竹の勢いで進撃するリキア同盟軍を前に、侯爵たちが失踪し孤立した格好になったカノーブは、開き直った末に常軌を逸した作戦をとった。

 タニアに対して徹底して精神的な攻撃をとったのだ。主君を人質にタニア軍の兵士たちに無理難題を押しつけ、臣下を想う主君には非道の仕打ちをさせてしまった後悔を押しつける。自分達の手中にあるのをいいことに、タニアを徹底的に嬲ることを思いついたのである。

 

「ただ負けるのなら、一つの国をボロボロにして負けてやる。フフフ、ハハハハハ」

 

 悦に入ったような狂った笑い声をあげるカノーブ。それを豹変させるような報告が彼の元に届いた。

 

「申し上げます!先ほど地下牢より連絡が!マリンダが何者かの手引きにより城から逃亡しました!!」

 

 

 

 

 ほどなくしてその知らせはミスティにも知らされた。そして部屋の天井を見上げた。

「・・・これは、リリーナとロイによるものですか」

 言葉をかけた天井からは男の声が返ってきた。

「そうです。ただ、これによってあなたの立場を危うくするかもしれませんが、わが同盟軍はタニアを、そしてあなたを必ず助けます。信じていただけますか」

 完璧に助け出すことは難しい。しかし、必ず奪還して見せる。男の言葉に、ミスティは腹を括った。

「・・・わかりました。その言葉信じます。姉上を・・・助けていただき、ありがとうございます」

 

 そう言葉をかけた天井からは、既に人の気配が消えていた。

 

 

 

「ぎゃあああああっ!!!」

 玉座の間で火だるまになる男の絶叫が響いた。彼は当身を喰らわされて気を失っていた当時の門番である。カノーブは男が連れてこられるや、エルファイアーで焼き殺したのである。

 

「おのれリキア同盟軍・・・。こうなればより苦しめてやろう。このカノーブ、ただでは決して死なんぞっ!!」

 

 

 

 

「そんな残酷な・・・」

 一方、リリーナに助けられたマリンダから、ロイは敵の蛮行の詳細を聞き絶句していた。

「ちっ、胸糞悪い。だが、そんな作戦を平気でやらせてるってのは、それだけ相手は追い詰められてる。・・・決着までは近そうだな。ロイ」

 吐き捨てたシードだったが、彼の言うように連合軍はもはや虫の息である。強引な力押しでも勝てそうな勢いではある。

 しかし、同じように声を失っていたリリーナは、だからこそ慎重に行くべきだと指摘した。

 

「でも、そこまで残酷になったのなら、もう何をしでかしてもおかしくないわ。私達の攻撃に合わせて、街を燃やしたりとか・・・」

「あるいはタニア軍の兵士に、タニアの民を殺させたりな。・・・もしかしたら、もう何か動いてるかも知れんな」

 シードの展望を聞いてロイは考えを巡らせる。確かにそれくらいのことをしてもおかしくないことぐらいは推測がついた。

「ちょっと危険かもしれないけど・・・いくつか手を打っておくか。リリーナ、すまないがディークを呼んできてくれないか。あとオージェも」

 

 

 その後、砦から城を出る影があった。それらは空が白みががるころ、朝の靄(もや)に隠れながら街に向かっていった。

 

 

 

 翌朝、ロイはフェレ騎士団三百騎を率いてタニア城の麓まで進軍した。対峙するように陣を敷いたロイは、腕組みをしてタニア城を見上げた。

「さて・・・。ここまで来たら敵はどう出るだろうな」

 そう考えたときだった。 城門の上に設けられている物見に人影が現れた。年の頃は五十手前ぐらい。その男はその位置から文字通りロイを見下すように言い放った。

「私はリキア連合軍の軍師、アラフェン家宰相のカノーブである!貴様はリキア同盟の者か」

「いかにも。リキア同盟軍将軍、フェレ侯爵ロイだ」

 ロイもまた負けじと、威風堂々と名乗る。そんなロイをカノーブは鼻で笑った。

「おお、我らが英雄殿か。我が城に何用かな?」

「降伏を勧告に来た。今すぐタニアを解放してもらいたい。これ以上無駄な血は流したくない。そもそも貴殿らの目的はオスティアでありフェレであったはず。なんの関係もないタニアを、これ以上巻き込まないでもらいたい。勧告を受け入れるなら、盟主たるオスティア候に最大限の嘆願をすると約束する」

 ロイの言葉を聞き終えて、カノーブは突然笑い始めた。

「フフフ、ハハハハハっ!降伏?嘆願?片腹痛いわ。かの動乱で大国エトルリアを傘下に収めた程の英雄にしては、ずいぶん浅はかな取引だな。タニアを解放せよとは、なんともおかしな話だ」

「どういう意味だ」

「意味か・・・フフフ、では教えてやろう!やれ!」

 カノーブが左手で合図するや、城壁に次々と柱が起き上がる。それを見て、ロイは言葉を失った。

 起き上がったのは、人間が縛り付けられた十字架だった。それも十数本の全てが女や子供といったか弱い者ばかりだった。

 ロイは驚きを押し込め、あくまで冷静に聞き返した。

「・・・あれはなんの真似か、カノーブ殿」

「見ての通りだ、英雄殿。我々の命令に応じないときは・・・」

 指を鳴らすと、槍を持った兵士が一人の男の両脇に立って、槍の穂先を男に向けた。

「皆がこうなる!」

 そしてかざした左手を降り下ろすと、男が槍で貫かれた。

「ぎぃやぁああっ!!・・・ガフっ」

「ひぃ!」

「きゃあっ!」

 男が事切れるのを目の当たりにした女子供は目をそらし、悲鳴を漏らして青ざめる。ロイは思わず叫びそうになったが、そこでも歯を食いしばって冷静に努める。

「貴様・・・なんという」

「安心されよ、英雄殿。今始末したのはタニアの者ではない。先のサンタルス防衛戦で、逃げることしかできなかった腰抜けよ」

「斥候を手にかけたのか・・・なんと愚かな真似を」

「愚か、とな。猛将の血を引きながら、またもリキアに混乱を招いた小娘を擁護することと、さして変わらぬぞ。おっと、もう一人忘れておったぞ。ククク」

 再びカノーブが指を鳴らし、十字架が起き上がる。そこに縛られていた人物を見て、今度ばかりはロイは声を上げた。

「なっ、ミスティ!」

「ククク。この娘の命が惜しくば我らの要求をのんでもらおうか」

 

 カノーブの策略に、ロイはただただ歯を食いしばった。

 

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