「サンダー!!」
謁見の間ではリリーナとルゥの賢者同士の魔法のぶつけ合いが繰り広げられていた。ルゥもまた、魔道書なしで手で印を結ぶだけで魔法を発動できる技量を持っている。リリーナと比べて技の複合や強化はできないが連続で放て、追尾する力を加えることができる。魔道の障壁を身体にまとわせながら、リリーナは雨のように降り注ぐ雷を可能な限り避け続けた。
「ルゥ君!目を覚まして!」
そう叫んでリリーナも反撃。それぞれの手にエルファイアーを発動し、それを合わせて放つ。普通のそれの10倍近き火球がルゥめがけて飛ぶ。
「チィ!!」
かわすものの爆風だけでも皮膚が焼けそうになる。実際、羽織っているマントの一部が燃えた。直撃するれば消し炭になっていただろう。
「さすがですね・・・。でも、僕の手数に耐えきれますかね」
不敵な笑みを浮かべると、今度は連続で風の魔法エイルカリバーを放ってきた。
(エイルカリバーを!?くっ!)
対するリリーナもエイルカリバーを放つ。こちらは威力を増幅させた巨大な風の刃だ。ルゥの風の刃を次々と砕くが最後の風がぶつかり合ったところで霧消した。ちなみに風がぶつかるたびに周りに真空波が弾け飛び、壁や柱には斬痕が刻まれた。
「アハハ・・・さすがですね。数で稼がないと勝てないや。今のも腕を斬るぐらいの風は残ると思ったけど」
禍々しい目でルゥは自虐的に笑う。一方でリリーナは次第に呼吸が荒くなる。攻めるだけでなく、身を守るための障壁を生み出しているために、魔力の消費はルゥよりも激しい。
「でも、果たして耐えれますかね・・・。絶え間なく放たれる僕の魔法を」
「・・・甘く見ないで。私の魔力はそう簡単に尽きるほどヤワでもないわ」
嘲笑を浮かべるルゥに対して、リリーナは気丈にふるまう。
「じゃあ、仕切り直しと行きましょう。今度こそ刻んであげますよ・・・」
ルゥの右手には、風の刃が渦巻いている。
「ギガスカリバァッー!!!!」
「!!」
ルゥの放った魔法にリリーナは目を見開く。それは賢者が操る理魔法でも最上位に当たり、幻の魔法ともいわれた強力な風の魔法。いくつもの風の刃が重なり一つの巨大な真空刃となる。エイルカリバーとは比べものにはならない破壊力を持つ。
(まさか・・・これを打ってくるなんて。エルファイアーを重ねても太刀打ちできない)
風の刃が迫る中、リリーナは新たに魔法を唱える。それは研究のおり、師であるエトルリア魔道軍将セシリアを通じて異国から手に入れた炎の魔法だった。
「ボルガノン!!!」
印を結んで両手をかざすと、火山の噴火を彷彿とさせる業火の奔流が放たれる。ルゥのギガスカリバーを呑みこむほどのものだった。今度はルゥが戸惑う。
「ば、バカな、ギガスカリバーを呑みこむなど・・・ぐっ!!」
とっさに障壁を作るルゥであったが、炎の濁流に瞬く間に呑み込まれてしまった。
「うああああああああああああああああああああああああぁっ!!!」
濁流からはじき出されたルゥは、大理石の床にたたきつけられた。致命傷こそ避けたが、いたるところにやけどの跡があり、身に着けているローブも焼け焦げていた。
だが、リリーナもまた膝から崩れ落ちてしまった。馴れない魔法の反動に体が耐えられなかったのである。
(す、すごい魔法・・・全身が・・・焼けそう)
二人の魔導士が倒れる中、一つの魔法陣が現れ、その光から少女が現れた。
「きゃははは。すっごいたたかいだったねえ~。いきてるっかなぁあ~」
罠にかかった雀を見に行く農家の子供のような言葉だ。だが、この幼い姿の魔導士も、古の民なのである。
「あ、そうだ。おにいちゃん。もうたたかえないんだったらかえしてね。ちから」
そういってルゥに手をかざすと、その体から黒い煙が噴き出した。
「ふぐぅっ!!!ううう・・・」
その煙を、少女は大きく口を開けて頬張るようにして呑みこむ。全てを吸い込むと、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「うげえぇ・・・。かしてあげたちからほとんどないじゃん。じゃ、こっちのおねえちゃんはどうかなあ?」
そう言って今度はうつぶせに倒れるリリーナに近づく。朦朧とするリリーナの髪を強引に引っ張る少女。それで意識が戻ったリリーナは、目の前の少女を見て記憶がフラッシュバックする。
「あ、あなたは・・・」
目の前の少女は、自分をオスティア城から拉致し、トリアまで連れていった魔導士だった。驚くリリーナをしり目に、少女は顔を近づけてきた。
「あははは。おねえちゃんひさしぶり~。まりょくちょうだい」
リリーナが悪寒を覚える笑みを浮かべると、少女はリリーナと口づけをする。するとリリーナの全身を妖しげな光が包んだ。
「ぷっは。おくちなおしで~きた」
少女が口を話して満足げにしゃべったのと同時に、リリーナは強烈な脱力感に襲われ再び倒れた。呼吸はできるが、指一本動かすことさえできない。
「な、なにを・・・したの・・・あなた」
「えへへへ。おなかすいたから、まりょくをごちそうになったの。おなかいっぱいにはならなかったけど、とってもおいしかったよ。えへへへ。あ、あたしエンヴィアっていうの。じゃ、そこのおにいちゃんといっしょにころしてあげる」
無邪気な笑みを浮かべているが、目の前の少女が放つ魔力は尋常ではない。だが反抗する力は今の彼女にはなかった。その時である。突然、魔力のゆがみを感じた。
「えっ、えっ、なんなの~?」
リリーナだけでなく、エンヴィアも困惑の表情を浮かべる。そんな中、部屋に一つの魔法陣が浮き上がる。不気味な光を放つ中で現れたのは、ルゥと同じく緑髪の魔導士だった。
「よう。面白そうだな。じゃあ俺が先に殺してやるよ。クソガキ」