「へ~・・・おにいちゃんすごいまりょくだねえ・・・。あたしにちょう~~だあ~いっ!!!ギャブッ!!」
まがまがしい目を向けて、エンヴィアは現れた魔導士、レイに飛び掛かる。それを鼻で笑ったレイは、手をかざして魔法を放つ・・・かと思いきや、強烈な回し蹴りを顔面に叩き込んだ。まさかの体術攻撃である。顔面に魔導士の蹴りをモロに受けたエンヴィアは、毬のように地面を弾んだ。
「フン。ガキみたいな面して得体のしれないやつだ。だが俺をそんじょそこらの闇魔導士(ドルイド)と一緒にするなよ。身一つで旅するうえでは、それ相応の動きができなきゃ話にならないんでね・・・それによ、そろそろガキのフリはやめろよ、バケモノ」
嘲笑を浮かべながらレイはエンヴィアに言い放つ。
「姿形をガキにしてあちらこちらで人間を殺しまくったらしいが・・・。どうせなら本性表しな。ここには俺たちしかいないんだからな」
レイの挑発に、エンヴィアは高笑いを響かせる。
「キャハハハハハハハハハハハハハ。・・・・ムカつくこと言うね、お兄ちゃん。そんなに死にたいのなら・・・」
笑みを浮かべながら体から黒い煙を吹きだすエンヴィア。それは次第にエンヴィアを包んでいく。
「お望み通り・・・殺シテヤルヨ。デモ、ドウセナラ・・・・」
そう言ってエンヴィアは目を光らせる。すると戦いを見守ることしかできなかったロイたちの結解が解ける。いなや駆けだしたロイとチャドが、リリーナとルゥを抱きかかえる。
「大丈夫か!リリーナ」
「おいルゥ!目を覚ませ!!」
「・・・・う、ロイ・・・」
「・・・・そ、の声は・・・チャド・・・」
二人の呼びかけに、魔導士二人はゆっくりと目を開き、口元に笑みを作る。そしてロイは目の前にいるレイに声をかける。
「しかし、レイ。どうして君がこんなところに・・・」
「フン。ただの寄り道さ。ベルンに用があるんだが、このあたりに来た途端、やけに城から禍々しい魔力が沸き出てるのを感じてな。まあ、結界張ってたけど、あの程度じゃ俺が侵入するのはわけない。ま、お前らはしばらく休んでな。このバケモノは俺の獲物だからな」
ニヤリとするレイを見て、エンヴィアは歯ぎしりする。
「グルルルル・・・ナニヨ。オマエダケデアタシヲタオセルトデモ?」
「思ってるから挑発してんのさ。・・・来な」
そう言ってレイは中指を立てて挑発する。エンヴィアはまず噛みつきにくる。対してレイは一冊の魔道書を開く。
「黒く輝く月のきらめきよ、我を介し全てを貫け・・・・ルナっ!!!」
レイがかざした右手から、黒く輝く球体が現れ、エンヴィア目がけて飛ぶ。黒い光はその胴体をすり抜けエンヴィアを悶絶させる。
「おいおい、その程度でくたばるのかよ。もう少し抵抗しな」
レイは続けざまにルナを放ち続け、その度にエンヴィアがもだえ苦しむ。
「グガガガ・・・・ナ、ナゼ・・・アタチガ、コ、ココマデ・・・」
「化石同然の状態から突然起きたお前らと、常に闇の謎を解こうと抗ってる俺とは伸びが違うんだよ!!」
「エエエエイ!!!コウナッタラホンキダシチャウゾオ!!!!」
「そうかい。だったら出す前に潰してやる。・・・言葉通りにな」
レイは手にしている魔道書のページをめくると、右手を上にかざした。
「汝の身に及ばぬ重力に屈せよ・・・・ビグラティ!!」
そう言って右手を振り下ろすと、エンヴィアの足下に不気味に光る魔法陣が現れ、その中でエンヴィアは四つん這いの状態で動けなくなる。
「ウ、ウウウ・・・・ゴ・・・ゴレブァ・・・・・ア゛ア゛・・」
うめき声を挙げて地面に突っ伏した次の瞬間、エンヴィアの身体は大理石の床にめり込み、そのまま二度と動かなくなった。まるで何かに押しつぶされたように。
あまりにもあっけない決着、そしてレイの戦いぶりに目を丸くした一同。体力がある程度回復したリリーナが、驚きの声を漏らした。
「すごい・・・。これだけの怪物を、こうもあっさりと」
「フン。こいつが分不相応の手段を使ったからさ。自分の身体に収まり切れないほどの魔力を取りこんだせいで、こいつは体中にヒビが入っていた。俺はその亀裂に闇魔法を流し込んでやっただけさ」
「分不相応、か。このような者たちでも、強力な魔力の前には無力という事か・・・」
余裕綽々と語るレイは、鼻で笑いながらエンヴィアの屍を見下ろした。許容範囲以上の魔力を有する代償であることは、以前リリーナから聞かされたので頭にはあった。故に、合点も早かった。
「で、ここを出るなら親玉を倒さないとな。いるんだろ?」
あたりを見渡しながら誰かに語るように話し始めたレイ。すると目の前に、血を思わせる赤い鎧に身を包んだ男が現れた。
「っ!アラフェン侯」
ロイはそう叫ぶ。現れたのはアラフェン侯爵であり、この内乱の『表』の現況でもあるヘスマンであった。もっとも、既に正気ではないことはロイたちも分かっている。ヘスマンの目の輝きが、トリアでの戦いを思い起こさせたからである。と、その時だった。
「ヴ・・・ヴヴヴ・・・・」
かすれ声が漏れたかと思うと、ヘスマンは突然吐血。そのまま跪くと突っ伏す。それと同時に全身から白い煙を吹きだす。その煙は、鼻を刺すようなにおいを持っていた。
「な、なんだこの匂いは・・・」
シードがそうつぶやき、嗚咽をこらえる。他の者たちも似たようなものだった。やがてヘスマンの身体に変化が現れる。皮膚、筋肉、そして骨。ありとあらゆる部位が煙とともに消えていく。やがて残ったのは、彼が身に付けていた鎧だけだった。
「フハハハハハハハハ。やはり、もうもたなくなったか。やはり、凡人はもろいな。ま、それでも、よく続きましたがね」
部屋中に響く耳障りな高笑い。言葉とともに現れた魔法陣から、声の主が現れた。
「お前は、ラストール!」
ロイは現れ魔導士を視認するや、怒りを込めた声をぶつけた。
「おやおや。これはフェレ候。オスティア侯爵もまだ生きていましたか。皆様、やはり先の大戦をくぐりぬけられたことはある。それに、ラウス候。トンビが鷹を産むとはよく言ったものですな」
「悪党に言われるお世辞ほど胸糞悪いもんはねえな・・・。遺言はそれでいいんだな」
ロイ以上に殺気を放ちながら、シードは手にした槍の穂先を、ラストールの喉笛に向ける。そのまま前に出せば、おそらく貫くだろう。
「貴様のせいで、リキアの民がまた苦しめられた。ここで終わらせようか」
続いてロイもレイピアを抜き放ち、他の面々もそれぞれの武器を手に取る。だが、次の瞬間だった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
突然、黒い閃光がラストールの周りから放たれ、ロイたちは皆吹き飛ばされ、床に激しく叩きつけられた。
「そう焦らなくてもよろしいでしょう。お楽しみは最後までとっておくものですよ。英雄殿」
ラストールは余裕の表情を浮かべ、そのまま宙に浮く。
「もうリキアではやることはすみましたからお返しします。今一度、荒れ果てた国の再興にご尽力ください。では、またいつか・・・」
「くっ!待ちやがれ!!!」
立ち上がったシードは、手にした銀の槍を投擲する。しかし、すでにラストールの姿はなく、空を切った槍は壁に突き刺さった。