ファイアーエムブレム封印の剣~古の野望~   作:仲村哲也

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暗躍する影

「はぁ・・・、はぁ・・・うっ」

 一対四で始まった戦いだったが、シャニーは大粒の汗を垂らし、全身に傷を作りながら二人倒した。一人一人の実力は、槍が本職のシャニーでも互角以上に戦えている。幼いながらも百戦錬磨なのだ。下手な賊に引けを取ることはない。

 だが、目の前の剣士たちは、明らかに人間ではなかった。殺気を醸し出すどころか、呼吸ひとつしていない。何より斬られたあと、彼らは血を流しもしなければ死体ともならず、白い砂の塊となって崩れていくのだ。それが不気味で仕方なく、シャニーの体力を必要以上に奪った。

 そして三人目を相手にしているところで、シャニーは四人目に利き腕である右肩を斬りつけられた。致命傷こそないが、右の肩当ては砕け、切り傷から血が滴っている。左手で傷口を抑えながら、右手で弱弱しく切っ先を敵に向ける。

 

「ちょっとヤバいな・・・。やっぱり、引き返して、報告しといたほうがよかったかな。ハハ・・・」

 危機的状況を卑下するように、シャニーは自虐的に笑う。対して剣士たちは特に感情を見せることなく、「殺ス」とささやきながらゆらゆらと近づく。

 

 

(目がかすむ・・・腕痛い・・・もうダメかな、あたし・・・)

 目の前の剣士たちに対して、打開策が思いつかない。シャニーの思考は、徐々に悪いほうに流れていった。

 そんな時だった。

 

「伏せろっ!!」

 

 背後からの怒鳴り声に、反射的にしゃがむシャニー。その頭上を手斧が回転しながら飛んでいく。それは三人目の剣士の眉間を捉え、すぐさま砂となって崩壊している。それと同時に四人目の剣士が、飛び掛かってきたきた男の大剣に斬り伏せられていた。砂の塊から大剣を抜き、手斧を拾った男は、ゆっくりとシャニーに近づいてくる。脱力して座り込んだシャニーは、助けてくれた男を見て、目を丸くしながらつぶやいた。

「ディーク・・・さん?」

「無事か?シャニー」

 目の前の男が自分の恩師であるときちんと判断できた瞬間、堰(せき)を切ったように涙があふれ、シャニーは泣きじゃくりながら飛びついた。

「うわぁぁぁん!ディークさぁぁぁぁんっ!!」

「ったく無茶しやがるぜ。国境を越えたときにペガサスを見たからなんかと思えば。腕を上げたようだが、まだまだガキだなお前は」

「ひっぐ、うぐっ、怖かったよぉ~、死ぬかと思ったよぉ~」

「わーったわーった。いつまでも泣くなっつの。近くの村で手当てしてやるから、ペガサスに乗せろ」

 

 いつまでも泣きやまないシャニーに苦笑するディーク。やれやれと思いながら、しばらくシャニーを胸の中におさめ、頭をなでてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を少しさかのぼる。リリーナがウェンディから報告を受けていたころ、海路でフェレに帰還したロイは、エリウッドの下に駆けつけた。

「おお、戻ったかロイ。ご苦労だった」

 半身を起こしてベッド上から息子を労うエリウッド。ロイはその姿に安堵した。

「只今戻りました。父上、お加減はよろしいのですか?」

「そう心配しなくていい。ここ最近は調子がいいのだ。家督をお前に譲ってからは、休むだけの毎日だ」

「ははは。それは何よりです」

 

 しばしの談笑の後、ロイは諸侯会議でのやりとりをエリウッドに報告した。エリウッドはそれを聞いてため息をついた。

「アラフェン候がそのようなことをか」

「父上、やはり謀反はあるべきと考えたほうがよろしいでしょうか」

「うむ。決定的な証拠を手にした以上、その考えは間違いではない。だが、書状の入手経路が問題だ。これを口実にとがめても、我らにもはたから見れば非がある。両成敗で終わる可能性もある」

「しかし、事が起きてからでは遅すぎます。アラフェン候に関しては、ある程度警戒すべきと考えているのですが」

「ああ、それでいい。だが、公にはするな。客観的な確証を得るまではな」

「はい」

 そして話はシードのことに及ぶ。

「ところで、シードは元気にやっているか」

「はい。父上の恩に少しでも報いられるよう、精進しているようです。『いざとなればいつでも俺を頼れ』とも言われました」

「そうか。…だがなロイ。お前もシードを助けてやれよ。彼に対する風当たりは未だ強い。心が折れそうになるくらいにな。心意気はいいのだが、汚名を晴らさんと無理をしすぎてはもとも子もない。できることなら、私とヘクトルのように互いを高めながら助け合い、リキアを引っ張ってもらいたいのだ」

「はい。シードは僕にとってかけがえのない友です。ともにリキアのために力を合わせます」

 

 

 

 

 父への報告を終えたロイは、自室に戻るべく渡り廊下をあるく。この日は新月の夜で、星の弱々しい光と等間隔で灯されている松明がロイの道を照らしていた。

 ふと、ロイは歩みを止めた。ため息をひとつついて、独り言を呟きだした。

「出てきたらどうだい。また何か『盗んで』きたのかな?」

 振り向かず、目だけを動かして柱に語りかけるロイ。柱の裏からは女の声がした。

「あら。そう言う態度とるわけ?謀反の証拠を見つけてきた『恩人』に対して」

「それについては、改めて礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう」

「できたら、感謝の気持ちを、形で示して欲しいんだけどなぁ〜」

 そう言った女は、柱の影からお金を意味する輪を指で作った手を差し出す。

「僕が頼んだ依頼ならそうするけど、これはあくまで君からの善意だ。悪いけど出せないな」

 わざとらしく笑いながらロイは返す。柱の女は口調を変えて質問してくる。

「…で、実際のところどうなの?あいつら、これで反乱を止めるとは思えないけど」

 

「うん。ヘスマン殿をはじめ、今のリキア同盟に不満を持つ諸侯は多いし、あの方はその筆頭だ。このまま終わるとは思えないよ」

「だったら先に叩いちゃえばいいじゃん。貴族ってホント面倒くさいわね」

「かもね。ただ、しばらくはアラフェンへの監視は強めるつもりさ。今度は情報収集を依頼したいんだけど、構わないかな」

「そう来なくっちゃ。ただ、あたしは高いわよ。いい情報届けれたら、ボーナスももらうからね!」

 

 その言葉を最後に、柱から気配が消えた。ロイは肩をすくめながら呟いた。

 

 

「無理はしないようにね、キャス」

 

 

 

 同じ時刻。アラフェン城。私室でヘスマンは誰かと面談をしていた。どういう人物かは、顔を深く覆うローブで確認できない。声色から男であることぐらいは推察できたのだが。

 

 その男は、ヘスマンに対し露骨なまでに失望の色を声で伝えた。

「…なんとまあ愚かな。秘密利に進めねばならないものを、こうも簡単にばれてしまうとは…。我が主が知ればどう思われるでしょうな」

「面目ない。まさか盗まれるとは思わなんでな…」

 

「リキアには聡明な輩が多い。くれぐれも抜かることのなきよう」

 声色からして、男はヘスマンよりも随分若い。にもかかわらず尊大な態度をとっていることから、今回発覚したクーデターについて、重要な役割を担っていると考えていい。

「貴殿にうかがいたいが、軍備はどの程度整っておられるか」

「う、うむ。わたしはもとより、カートレーやトスカナも段取りは整っている。あとはいくつかの諸侯にも意思確認しておるが…」

「ひとまず、この三候だけでも動ける、ということですな」

 

 男はならばよしと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

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