ファイアーエムブレム封印の剣~古の野望~   作:仲村哲也

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今回はちょっとグロいです。


満月の夜襲

(結局こうなったか・・・。くそ、なんてのんきな)

 例の件がうやむやになってしまたことに、シードはいまだにイライラが静まらない。悶々とした気分で回廊を歩いていると、城の中庭の木陰にもたれかかっている男を見かけた。

(あれは・・・。あの顔の傷・・・)

 

 

 近づいていると、男は腕を組んだまま、気にもたれかかって昼寝をむさぼっていた。

 ただ、シードが立ち止ると同時に、男は目を閉じたまましゃべりだした。

「何か用かい。貴族さんよ」

「失礼だが、貴殿はかの『手負える虎』か」

「だと、したら?」

 異名で尋ねられて、ディークは片目を開く。

「俺はシード。ラウス侯爵だ。一手、願えないか」

「・・・どういうつもりだ?裏切りの腰抜け侯爵の息子が、この俺にいきなり腕試しか?」

「エリックは確かに俺の父だが・・・俺はその父に幽閉されていた。『リキアを裏切るな』と言ったらな」

 シードがそういったところで、ディークは両目を開き、シードと目を合わせた。そして一つ息を吐く。

「いい目だ。俺はあの侯爵のことは知らんが、お前はそこそこやるようだな。いいだろ」

 

 そして二人は練兵場に。訓練用の木剣を手に取り、向かい合った。

 

「いい構えだ。勝負を吹っ掛けるだけの実力はある」

「ならば、もっと感じてもらおうか」

 

 シードは先手必勝とばかりに仕掛ける。切っ先を突き出し、払う。素早く間合いを詰めて斬りかかる。

 だが、いずれもディークは鼻先でかわす。

「戦場には出たことないか。一太刀一太刀の動きがデカいぜ?」

「そうかい。これでもロイとはそこそこ互角なんだがな」

 余裕をかますディークに、シードも笑みを浮かべる。だが、次第に動きが悪くなるのはシードだ。

(くそっ!こうも軽く、あしらわれるとは・・・)

「甘いぜっ!!」

 

 一瞬だった。起死回生の一撃を狙ったスキを逃さず、ディークはシードの剣を弾き飛ばした。シードの手から飛び立った剣は、その背後で音を立てて転がった。

 

「・・・。やはり、強いな。完敗だ、ディーク殿」

「いや、お前も悪くない。トンビから生まれた鷹っていうのは、あんたみたいなことを言うんだな」

 ディークの言葉に、シードは一度顔を曇らせてからつぶやいた。

「俺は、父親とよく比べられた。それでよく驚かれた。あのヘクトル様に『本当にあの腰抜けの息子か?』ってよく言われたもんだ。まあ、俺自身もそんな自覚はあったがね。だが、俺にはこの先「裏切り者の息子」という肩書がついてまわる。だから俺は自分を絶えず磨かねばならん・・・。良ければラウスに来てもらえないか。貴殿と手合せすれば腕も磨けるし、軍の強化にもなる。金はそんなに出せんが」

「フフン。悪いな。俺はあいにくそう言うのは嫌いでね」

「ロイであってもか?」

「どうだろうな。ま、人としての器があるかどうかだ。あんたは・・・多分それなりにあるだろうよ。だからこそ自分の弱さを自覚できてる」

「わかった。ならば俺はしばらく自分の器を磨くとしよう。機会があれば、ともに戦ってみたいものだ」

 そう言ってシードは練兵場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。オスティア城では諸侯同士の懇親を兼ねた晩餐会が開かれていた。ロイたちらの本音を言えばそんな気分ではないのだが、他の諸侯にも配慮し「トリア候が病中のため」という理由できわめて簡素なものだった。

 

 外の満月はまばゆいほど輝いていた。

 

 

「いい月だな。こんなきれいな満月はそうそう目にかかれないぞ」

「あーあ、こんなタイミングで当直か。月見酒といきたいが」

 城壁にある物見やぐらの一つで、満月を眺めながら、兵士たちは背を向けあって、そんなことを口にしていた。

「ま、交代したら寝る前に一杯やるか。最近いい酒が手に入ったんだ」

「おお、それはいい。ほかの誰かも・・・・」

 そこで兵士の言葉が途切れた。

「ん?どうし」

 不審に思った兵士が振り返ったが、彼もそれ以上の言葉が出なかった。なぜならば、二人とも眉間に針を打ち込まれ、その命を終えていたからである。

 

「フン。満月の夜に暗殺とは・・・、これまた粋というやつですか」

 顔を黒い布で覆った男は、詩人のように場に浸っていた。そしておもむろに指を鳴らす。すると次々と人影が現れた。

「とりあえず、やぐらの掃除は頼みます。あと二人ほど場内を徘徊しなさい。無論、通りがかりに姿を見たものは消しなさい」

 もう一度指を鳴らすと、男の周りの人影は消えた。

 

 

「ふう・・・しかし、相変わらずトリア候は病弱のようだな。諸侯ともあろうものが、気がすぐれぬという事で会議からさるとはの」

「然様ですな。あのようなものがリリーナ様と血縁にあたるというのだから信じられませぬなあ」

 晩餐会を中座し、部屋に戻るロベロ侯爵とその従者。彼らは不幸にも、あの男と出くわした。

 

「む?何者だ?」

「・・・城の兵か。端によれ。ロベロ候のお通りぞ」

 従者の叱責に耳を貸さず、オスティア兵の男は顔を伏せたまま近づいてくる。

「白き満月には、赤き鮮血がよく似合いますよ」

 そう言って男は侯爵と従者の間を通り抜ける。

「・・・クヒェ」

「・・・カフォ」

 二人はそんな音を漏らして崩れていく。喉笛をぱっくりと切り裂かれた二人は、夥(おびただ)しく鮮血を吹きだしていた。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 それが偶然松明のふもとだったために、偶然ついてきていた侍女が一部始終を目撃。悲鳴を上げた。静寂を切り裂く悲鳴は、晩餐会が開かれている部屋にまで届き、場を静まり返らせた。しばしざわめいた後、血相を変えたオスティア兵士が、会場に駆けこんできた。

「申し上げますっ!!回廊にて、ロベロ侯爵様が殺されておりますっ!!」

「なんですってっ!?」

 兵士の報告に、リリーナは血相を変えて立ち上がる。

「一体どういうことだ」

「侵入者か?詳しく話せ」

「は。では、誰がやったのかを・・・・お教えいたしましょう」

 急ににやついて、飛び込んできた兵士は腕を広げる。そして立ち上がるのと入れ替わりで、事情を聴きに来た入り口にいた兵士二人が、首から血を流しながら倒れた。男の両腕には爪状の刃物が鈍く輝いてた。

 目の前の後継に貴族たちはおののき、卒倒する淑女もいた。

「そうお騒ぎにならなくともよいのですよ。私が欲しいのは・・・・あなたなのですから」

 そう言って男は刃先をリリーナに向ける。

「いかん!ウェンディ、シャニー、リリーナ様を」

 守れ!ボールスがそう言おうとしたときには、男はすでにリリーナの目の前まで跳んできた。

 

 そしてそれを阻む者が、レイピアで男の爪を受け止めた。

「さすがはリキア一の剣士。お見事な腕前で」

 余裕の表情を浮かべながら、男は後ろに下がる。ロイはリリーナと男の間に立ち、切っ先を男に向けた。

「貴様・・・一体何者だ」

「フフフ。とりあえず、バルグという名を持っています。フェレ候。美しき盟主とともに若き獅子の首も頂戴しましょう。・・・・・キィィィィィィィェェェェェェッ!!!!!」

「うっ!!」

 奇声を上げて飛び掛かってくるバルグにロイはわずかに反応が遅れ、左の頬を斬りつけられた。

「く、速い・・・・」

「おや?頬ですか。首を裂いたはずなのですが、ネェェェェェェェェェッ」

「やぁっ!!」

 入れ替わる二人。ロイは右肩を斬られてひざまずく。

「ぐぅっ!!」

「ロイっ!」

「おやおや。今度は肩ですか。では次こそ首を・・・・」

 そこでバルグの言葉が止まった。自分の身体に異変を感じたからだ。バルグは自分の身体を見る。

「おや・・・。いつの間にか・・・・」

 バルグの右わき腹にはレイピアが突き刺さっていた。無造作に引き抜き投げ捨てたが、バルグは無表情だった。そして次第に白い砂となって崩れていった。目の前の事実がよくわからず、誰もが唖然とする。シャニーを除いて。

「こ、こいつ・・・あたしがこないだ相手した剣士と一緒?」

 すると突然目を焼くような閃光が現れた。それが収まるとリリーナの目の前には、一人の少女が立っていた。あっけにとられたリリーナに、その少女はつぶやいた。

 

「おねえちゃん、いっしょにきて~」

 無邪気そのものの口調だったが、その少女に尋常でない魔力を感じたリリーナは、反射的に魔力の障壁を作る。だが、信じられないことが起きる。少女の手のひらから水のようなものを吹き出し、それがリリーナの身体にまとわりついた。

「な、なにこれっ!?」

「それねえ、まりょくにはんのうするの。あたしおねえちゃんをいけどりにきたの」

「貴様、リリーナ様に何をっ!」

 そう叫んでボールスはリリーナに飛び掛かる。だが、少女は開いている手をボールスにかざすと、そこから衝撃波を放ってボールスを吹き飛ばした。

「ボールスっ!う、くぅっ!!」

「リリーナっ!!」

 ロイの叫びもむなしく、リリーナにまとわりついた物体は、そのまま彼女を包み込み、シャボン玉のような形となった。その中でリリーナは気を失っていた。それは少女とともに宙に浮かぶ。

「まてっ!リリーナをどこへっ!!」

 呼び止めるロイに、少女は無邪気に答えた。

「れのすってひとのとこ~」

「何だってっ!?」

 意外な名前にロイは目を見開く。

 

 再び部屋を閃光が包み、リリーナと少女の姿は消えていた。

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