オスティア城にて起きた謎の一段の襲撃事件。ロベロ侯爵をはじめ十数人の死者を出し、さらには盟主リリーナもさらわれてしまった。
「オスティアの歴史も地に落ちたものですな」
「ロベロ候・・・なんと哀れな。リキアの混乱に巻き込まれたまま・・」
「もうオスティアはあてにならん。ひとまず戻るとしよう。今のままならアラフェン候が盟主でもよいとも思えるわい」
リリーナがいないことをいいことに、散々彼女を卑下して諸侯たちは自分たちの国に帰っていった。
一方で、ロイは一つの決断を下した。
「トリアに行こうと思う」
「まてロイ。あの女のことを信じるのか?」
「いや。そういうわけではない。だが、トリア候が何らかの関わりがあると考えていいと思う。それにあの少女が言ったことが本当なら、リリーナをすぐに助けないと。このままではリキアはバラバラになってしまうしね」
シードが逸るロイを止めようとしたが、ロイの考えを聞いて納得した。
「しかしいいのか?フェレの方は」
「甘えかもしれないけど、フェレには父上がいるし、アレンやハーケン、イサドラと力のある騎士も多い。そう簡単にはやられはしないさ。だが、さっきも言ったように、リリーナを早く取り戻さないとオスティアの屋台骨を揺るがすことになる。長たる存在を取り戻さなければ、日和見していた侯爵たちがヘスマン殿の一派に流れる可能性もある」
「確かにな。こう考えてみると、トリアもそうだが、今回の事件・・・やはりヘスマンも何らかの関わりがあると考えていいな。で?メンツはどうするよ」
ロイとシードは、トリアに向かう部隊を組織する。早急に行動できる機動性と、万が一の襲撃に備えて相応の実力者であること。この両面から考え、二人はディーク、シャニー、ウェンディを連れていくことにした。
「すまないな、ランス。君だけ先にフェレに帰すことになってしまって」
「いえ、非常事態ですので仕方ありません。それにロイ様が帰る場所を守ることも、騎士としての務めでもあります」
出立前、ロイは自身の警護のために同行したフェレ騎士団副団長のランスとその小隊をフェレに帰すことにした。領主の自分がいない今、少しでも戦力は返しておきたいという考えだからだ。同じように、シードもマーカスを帰還させた。
「念のため、帰り次第国境の警備を強化してくれ。ヘスマンに同調する連中が、リリーナを擁護する俺たちにちょっかいを出さないとも限らんからな」
「お任せください。立ち直りつつあるラウスを、再び混乱に招かぬよう、全力を尽くします」
「では、行こう。トリアへ」
ロイ、シード、ディークは馬を駆り、ウェンディはシャニーの天馬に同乗し、その上空を追走していった。
軍隊として行軍すれば、オスティア城からトリアまでは、強行軍でも三日はかかる。しかし、少数精鋭の効果は大きく、一行はその日のうちにトリアに入り、日がくれるまでには城下にもっとも近い村タナマについた。しかし、村人が巻き込まれることをおそれ、ロイ達はさらに城の方へと進み、街道から少し外れた場所で野営することにした。
「ここまでは、何もなくこれたな」
「ああ。不自然すぎるぐらいな」
たき火を囲みながら、ロイとシードはこれまでの道のりを振り返っていた。
「向こうは俺たちの動向は気づいていると思うか?ロイ」
「何とも言えないが・・・。騎士団を帰還させたことが僕たちも自分たちの国に帰ったと考えてくれればいいが、そう都合よくいくとは思えないな」
「だろうな。あんな暗殺集団が仕掛けてきたぐらいだ。俺たちを泳がせていると考えるのが自然だな」
そう言って、手にしていた枯れ枝を折って、シードは火の中に放り込む。枯れ枝は火に触れるとそのまま炎に包まれていった。
「ただ・・・、さっきの村、通りすがりに見やっただけだが・・・。あそこだけでもトリアがおかしくなっていることはわかったよ」
「というと?」
「空気が、死んでいる。活気がまるでなかった。元々ここはエトルリア近辺の村々との交易も盛んで、フェレ以上に活気があった。レノス殿がオルン様の跡を継いでからの復興も順調だとも聞いていた。けど・・・」
「確かに、とてもそうとは見えなかったな。順調に言ってるなら、あんな疲れ切った顔なんかしてないだろうしな」
ロイの言おうとしていたことを、シードど言う。言ってみて、シードも思うところをいくつか感じた。
今回ロイたちは、敵に見つかるリスクはあるものの、何より早くトリアにつくために、あえて整備された街道を進んでいた。その中で、一つ違和感を感じていた。
貴族同士のゴタゴタが続いているものの、リキア地方はかなり活気がある状態である。にもかかわらず、タマナ村だけでなく、途中いくつかの村に立ち寄った時、あるいはトリアの方から向かってきた、行商人と見られる一段とすれ違いもしたが、いずれも目が死んでいた。
「物証・・・つっても人間の表情だけだが、トリアは間違いなく何かが起きている」
「そして、レノス殿も何らかの関わりがある」
二人がそう確信した時だった。二人に背を向けてあえて話に加わらなかったディークが、急に立ち上がり、周りを見渡した。
「どうした、ディーク」
「・・・・。あっちの方で物音がした。ちょっと見てくる」
そう言ってディークは森のほうへと向かっていった。そしてすぐさま大声が飛んできた。
「おいっ!しっかりしろっ!!」
ロイはシードに女性二人に声をかけておくよう告げると、ディークの後を追う。そこでは、全身血まみれの男を抱えるディークの姿があった。
「これは、ひどいな。・・・ん?」
血だらけの男の首元の、光るものにロイは気づいて男は近づく。それを見て、ロイは目を見開いた。それはオスティアの密偵が持つ特別なペンダントである。
「君はオスティアの者か!」
「あ、・・・・な・・・た・・・さまは」
「・・・ロイ」
「!!・・・・フェレ・・・候・・・様」
「いったいどうしたんだ」
「と、トリアには・・・・行っちゃ・・・だ・・・グフォッ!!」
「大丈夫か!しっかりし」
「無理だ。・・・死んだよ、こいつは」
吐血して頭(こうべ)を垂れた男になおも呼びかけるロイを、ディークは止めた。
「彼は、トリアの方から来たみたいだな」
「ああ、そんでもって、トリアは相当・・」
そうつぶやきながらおもむろに立ち上がるディーク。
「やべえみたいだなっ!!」
そして跳びあがるとすれ違いざまに人影を斬った。斬られた人影は倒れるとともに白い砂となって崩れ落ちた。来た方向から、剣と剣がぶつかり合う音がした。
「チィッ、気味悪いもんだな。無表情で襲われるって、もんわっ!!」
シードはそう叫びながら剣を振るい、敵を倒す。
「シャニー、ウェンディ、大丈夫かっ!?」
「ご心配なく、シード様。やっ!!」
ウェンディはそう返して、槍を敵に突き刺す。
「前はドジふんじゃったけど、もう怖くないんだからねえっ!」
そう言って、シャニーも敵を斬り裂いた。そこにロイとディークも加わった。
「やはり来たか。なおさらトリアに急がないとな」
「そいじゃ、こいつら片づけたら、さっさと行くとすっか」
謎の集団から受けた突然の夜襲。しかし、個々の力量は比べるべくもなく、敵は次々と砂となっていく。もう少しで終わりそうな瞬間、逸るロイの集中が途切れた。
(早くトリアに向かわなければ・・・。待っていてくれ、リリーナ)
「ロイッ!後ろだっ」
シードの叫びに気付いて後ろを振り返った時、すでに刺客が短剣をロイの喉元を狙っていた。
(しまった、後ろを・・・)
「レイズっ!!!」
誰もがロイの死を覚悟した瞬間、誰かの声が森の奥から響き渡り、声のした方角から青白い閃光が飛んできた。それは刺客を捉えると、雷にも似た音を立てて刺客の身体にまとわりつく。電撃から解放された刺客は、黒焦げとなった後砂になった。
「いやあ危機一髪でしたねえ」
そんな軽い感じで声をかけてきた男に、最初に気付いたのはシャニーだった。
「ヒュウさん?なんでこんなとこにいるの?」
「おお、シャニーちゃん。イリアの婆ちゃんちは居心地が悪くてさ。修行も兼ねて放浪の旅だよ」
そう言って紫の長髪をした魔導士は笑った。そしてヒュウはロイの前で跪いた。
「お久しぶりですロイ様。すっかり侯爵の顔ですね」
「ヒュウ、ありがとう。おかげで助かった。それにしてもこんなところで会うなんてね」
「しかし、こいつらは一体・・・。それにロイ様こそ、こんな夜更けになんでトリアなんかにいるんですか?」
事情の知らないヒュウに、ロイはことをすべて打ち明けた。
「リリーナ様がねえ・・・」
「いるかどうかは分からないが、今はとにかくトリア候に会わなきゃいけない。それでここにいるんだ」
「なるほどねえ。なんなら俺もご一緒していいっすかね」
「え?でも・・・」
「いや実は、ちょっと路銀が尽きちゃって。傭兵として就職活動中だったんでね」
「あんたねえ・・・。この非常時にどういう理由なのよ」
頭をかくヒュウにシャニーはあきれる。だが、シードは二つ返事だった。
「いいだろう。ロイ。彼にも来てもらおうか。リリーナを拉致したのが魔導士である以上、こっちもいないに越したことはない」
「そうだな。・・・危険かもしれないが来てくれないか。礼金もそれなりに出すよ」
「昔お世話になった人を助けに行くんだ。格安で大丈夫っすからね」
かくして、ヒュウを加えた一行は、一路トリア城へ向かった。
シードがどういう男か、何となく説明しておきます。
外見ですが、髪型は聖戦のセリス、性格は知力の高いアイクといった感じです。
クラスは烈火でいうところのロードナイト。剣と槍を使いこなします。