「無事か、宿儺の器」
特級呪霊である花御と交戦する虎杖悠仁・東堂葵両名の下に、救援として禪院扇が駆け付ける。
禪院随一、単純な実力では当主を凌ぐと言われるほどの特別一級術師。それも頗る相性の悪い炎の術式を持った扇の到着。
ただでさえ虎杖・東堂相手の攻め手にかける花御にとって、これほどの凶報は五条悟の襲来以外に存在しないと言って過言でない。
「器じゃなくて虎杖悠仁ね! えーっと……」
「禪院扇だ。貴様らの救出に来た」
「禪院ってーと、伏黒の」
「御託は後だ。逃げるがいい、宿儺の器、京都校の術師。奴は特級、未だ未熟な貴様らが相手取れるほど甘い相手ではない」
「ふっ、安心するがいいMr.禪院。俺もブラザーも、あの呪霊を相手取って足手纏いにならない程度の実力はある。撤退戦にせよ、一人よりは三人で戦う方が生存率も上がるだろうさ」
「……私は教育者ではない。貴様らのことは一術師としてみなす。死ぬ時は勝手に死ね」
「「上等!!」」
自身に迫る植物を刀身から噴き出す炎で焼却し、その隙に虎杖と東堂が懐を取ろうと試みるも、花御の操作した植物に阻まれる。
『禪院扇……! 私の術式とは相性が悪い……!』
植物が扇に襲いかかり、扇がその植物を焼き払う。
流石に花御も特級、その物量に対し、扇は防戦一方を強いられている。単純な呪力の総量は、花御が大幅に上回っている。いかに扇の術式の呪力消費量が少なかろうと、イタチごっこを続けていればいずれ戦況は花御に傾く──これが、1対1であるならば。
「おらァッ!」
『宿儺の器、それに入れ替える術式を持った術師……流石に分が悪い』
虎杖と東堂の打撃をまともに食らい続ければ、いかに特級の装甲を持つと言えども消耗は免れない。禪院扇の底が見えない以上、下手に攻撃を食らい続けるのは愚策が過ぎる。
と、なれば。花御に残された一発逆転の手段、それは"領域展開"。
現状問題なのは"東堂・虎杖・扇の3名が健在であること"であり、彼らの中から一名でも欠けた状態であれば、暫しの膠着の後、火力、攻撃手段の引き出しに勝る花御が勝利を収めることになる。
扇には領域対策の秘伝・落花の情があり、虎杖には宿儺という最大の不確定要素がある為、領域を張ったとて一瞬で仕留め切れるかは怪しいところ。
それまでに五条悟が襲来してしまえば、その瞬間に花御の命は尽きる。
『……領域展……ッ!?』
呪詛師によって張られた、対五条悟用の帳が上がる。
戦闘による高揚感からか、それとも仕留め切れる自信があったが為か。領域を張るべく手印を組もうとした花御は、一瞬にしてそれを解き、逃走に全力を注ぐ。
『五条悟を相手にするほど、驕ってはいない』
「ざけんなッ! 何がしてえんだよテメェは!」
激昂し、いまにも飛びかからんとする虎杖。
咄嗟に止めようとした東堂だが、彼が声をかける前に扇が一言。
「死にたくなければそこを動くな、器」
「何で止める!」
「巻き込まれるから、だ。──五条悟。術師にとっても、呪霊にとっても、奴は正しく天災よ」
木々を薙ぎ払い、大地を抉り。
先までの攻防を嘲笑うかのような、正に規格外の一撃が放たれる。
花御が逃亡に成功したのか、それとも規格外の一撃──茈に巻き込まれ、祓われたのか。
どちらにせよまともに喰らえば肉片一つ残らないであろうことから、それを確認する術はもはや存在しない。
「……ふん」
特級呪術師。呪術界におけるイレギュラー。枠から外れた番外の存在。問題児共の巣窟。
その全員が単独で国家転覆を成し得る能力を持つ。現存する全ての一級呪術師を集めて尚、そのうちの一人を倒すことすら、傷一つをつけることすら叶わない。
かつて自身が憧れ、目指した極地。落伍者として扱われた自分でも、その局地に辿り着けるのだ──と。
在りし日、叶いもしない妄想を広げていたことを思い出させられる。
「何を呆けている。戻るぞ、器、京都の術師。今頃、他の学生共は貴様らの安否に気を病んでいるだろう。疾く顔を出してやれ」
「あっ、そーか。アイツらまた俺が死んだって思ってるかも知れねーのか。んじゃあ先行くわ! また後で!」
先に一人駆けて行く虎杖。貴様も早く戻れ、と、東堂に目線をよこす扇。
歴戦の猛者らしく、特に殺気を込めているわけでもない普通の視線にも、特有の威圧感が存在する。
しかし、流石東堂も、百鬼夜行にて特級を祓った経験を持つ猛者。それを意に介すことはなく、不適な笑みを携えて扇に質問を投げかける。
「なに、一つMr.禪院に質問をしたいと思ってな」
「なんだ。手短に済ませろ」
「──どんな女がタイプだ?」
「ふん、なんだ。そんなことか。──貴様の望む回答とは少し異なるかもしれないが」
──我が妻に、娘二人。仮に周りがどう思っていようとも。あやつらが私にどのような感情を抱いていようとも。奴らは永遠に、私の宝よ。
だれだこいつ