転生扇さん   作:ぺーぱー

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こんちゃ。今回の話、下手したら間違いだらけになってる可能性があるので、適宜修正されるかもしれません。


第4話

「……ッ、速いな、やはり」

  

 振るわれた刃が、扇の腕に一筋の傷を刻みつける。

 天与の暴君。呪力から完全に脱却したが故の、フィジカルギフテッド。

 歴代禪院家の中でも屈指の実力者。星漿体を巡る一件で、覚醒した五条悟の手によって半身を吹き飛ばされ、この世を去った筈の暴君は。

 その魂の強度故か、呪詛師・オガミ婆の降霊術によって再び呼び戻された後、同呪詛師の制御権を完全に乗っ取ることに成功。

 記憶を失ってもその本能故か、その場にいた術師との闘いを求めて暴れ回るバーサーカーと化した。

 

 現状、この場にいる術師で暴君の相手が務まるのは扇のみ。七海や真希では、勝利を収めるどころか彼の攻撃一つ満足に目で追うことなく、その生涯に幕を下ろすことになるだろう。

 故に、二人を早期に逃がした扇は、一対一で暴君と対峙する事になっていた。

 

「チッ、攻めきれねえ」

「……貴様の動きは、既に見切っている。そう簡単に我が首を獲れるとは思わぬことだ」

 

 暴君が放つ呪具を用いた変幻自在の攻撃を、扇は防ぎ切って見せる。

 扇が放つ炎、その剣技を、暴君は完全に見切って見せる。

 

「おい爺さんよ、その腰につけた刀は使わねーのか? 明らか今使ってるやつよりそっちのが良いだろ」

「戦闘中にお喋りとは随分と余裕だな」

「あ? ……ッ!」

 

 暴君の腹に、一文字の傷跡が刻まれる。

 落花の情を転用した高速の居合。神速の域に達するその一撃は、如何に天与の暴君と言えども初見で防ぎ切れるものではない。むしろ此処は、致命傷を躱してみせた暴君の方を褒めるべきであろう。

 扇が持つ特級呪具・村正を使用しないことに不満を感じていた甚爾。しかし、この傷を受けたことにより、彼のボルテージは最高潮にまで高揚する。

 

「中々やるじゃねえか、爺さん。そんじゃ……」

 

 暴君が不敵な笑みを浮かべた、次の瞬間。

 先の扇のものを遥かに上回る、凄まじい熱量を誇る炎が、二人を焼き尽くさんとばかりに殺到する。

 

「禪院家の剣士に、フィジカルギフテッド? 何故奴がこの場に……呪詛師の術式か? いや、それを考えるべきは今ではない、か」

 

 不意打ちにも関わらず擦り傷一つ無く自身の炎を躱してみせた二人の術師を前に、油断なく構える火山型の特級呪霊。

 漏瑚が、この場に現れた。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 呪霊の中でも最上級。花御、陀艮と比べても一段と強く、夏油傑の皮を被った誰か───羂索であっても、そう簡単に仕留め切れるものではない。

 並の一級ならば、瞬殺。特級であったとしても、場合によっては敗北を喫しかねない、そんな規格外。術師としての区分分けで見ても、特級に該当し得る例外───それが、漏瑚という呪霊である。

 

「火礫蟲は通用せん、か」

 

 天与の暴君は、その圧倒的なまでのスピードを以て。禪院扇はその身に刻みつけられた技術を以て、漏瑚が放つ小型の虫型呪霊を完全に捌いてみせる。

 並の一級が複数人居ようと容易に一蹴出来るこの技が通用しない、と言う事実に、漏瑚の中で天与の暴君は元より、扇に対する警戒度を一段上昇させる。

 

「……強いな」

 

 現在、渋谷に結集した術師で漏瑚を確実に祓い切れる、と断言できるのは、封印された五条悟のみ。

 乙骨憂太は海外、九十九由基は各地を放浪している為行方が知れず。直毘人やその他地方の特別一級術師等、地方に留まる有力な術師も数多い。

 とはいえ、その有力な術師たちの中でも一際飛び抜けた実力を持つ扇がこの場に居ることは、呪霊側にとってあまり喜ばしいことではない。

 

「……む?」

 

 直後、漏瑚が疑問の声を挙げる。まるで、子が行方不明になっていた親を見つけたかのような反応。天与の暴君───伏黒甚爾は、扇と漏瑚を捨て置き、全速力でその場を離脱した。

 

「追わなくても良いのか、術師。アレが暴れれば、貴様らにも尋常ではない被害が出るだろう」

「アレは、既に"伏黒甚爾"だ。で、あるならば…最早、私が自ら奴を斬り捨ててやる必要はどこにもない」

 

 離脱の瞬間。暴君の目が、確かに"伏黒甚爾”の物になっていることを。禪院扇は、その目で捉えていた。

 天与の暴君として、であれば、彼は扇にとって呪霊と変わらない、ただの討伐対象にしかなり得ない。

 しかし、伏黒甚爾として、であれば、また話は変わる。

 

「……何を言っているのか理解できんが。まぁ、良い」

 

 漏瑚に、甚爾のトップスピードに追いつく手段はない。

 何かに執着するような様相だった点から、恐らく直ぐにこちらに戻ってくることはない。そして何より、目の前で構える男に隙を見せれば、即座に致命傷を負わされかねない危険性がある。

 で、あるならば、漏瑚が取る行動は一つ。

 

「さっさと死ね、術師」

「老爺1人すら満足に捌けん愚物。弱い犬ほど良く吠えるとは、まさにこのことよな」

 

 漏瑚の炎を高速のバックステップで躱す扇。術師ゆえの性根の腐り方か、皮肉が入る隙間すらない直球の罵倒を返すのも忘れない。

 

「……ッ、貴様、いつその剣を抜いた!?」

「さてな」

 

 禪院扇は、決して術式がウリの術師ではない。

 五条悟の無下限呪術は当然のこと、ドブカスの投射呪法、釘崎野薔薇の芻霊呪法、使い勝手の問題で言えば禪院真依が扱う構築呪法にも劣りかねない。

 そんな扇を特別一級まで押し上げた一因。それは、どんな状況からでも繰り出すことができる、神速の抜刀。それに加えて、彼が所持する特級呪具、村正。

 落花の情を転用した其れよりも一段早い。扇自身の呪力を介さない、完全な技術によって繰り出される一撃。

 五条悟を以てして、"無限がなく、尚且つ事前に情報もなければ普通に首チョンパされて負ける"と言わしめたその攻撃は。

 当然、漏瑚といえども初見で見切ることは不可能。 

 

「ぐッ……。だが、見破ったぞ! 貴様の狙いは腕か!!」

「私としては、叫ぶ前に身体を動かすことをお勧めしておこう」

 

 それ以前、数度の攻防。そして村正での居合を経て、扇の狙いが自身の腕であることを看破した漏瑚。

 だが、一手遅い。

 扇が振るう村正は片腕を跳ね飛ばし、返す刀で術式を使えず、抵抗する術を持たないまま漏瑚の胴を切り裂く───筈であった。

 

 扇の刀は、漏瑚の腕の約九割を切り裂いていた。あと少し振り下ろすことができれば、漏瑚の腕は胴体となき別れ、宙を舞うことになる。

 そんな最中、漏瑚がとった行動は腕部への呪力集中。特級呪霊として、花御や陀艮、真人をも上回る呪力量を誇る漏瑚がそれを行えば、如何に達人が操る特級呪具とてそれを切り裂くことは容易でない。

 

 とは言え、このまま力を込められれば、その膠着も数秒と経たないうちに崩壊する。

 

「───領域展開」

 

 漏瑚が選んだ行動は、領域展開の掌印。

 村正の使用中に一度も術式を使用した、目眩し付きの攻撃を扇が行わないことから、恐らく何かしら"呪力"に関する制約が設けられているのだ、と。さほど強くない術式の起動すら躊躇うほどであれば、相応の呪力を消費する落花の情を張られることは恐らくない、と。

 そう当たりをつけたが故の、この行動。

 

「蓋棺鉄囲山!!!」

 

 扇が漏瑚の片腕を切断し、領域の維持が不可能になり崩壊するまでの数瞬。

 フレーム単位でしか表せないであろう、そんなとても短い時だとしても。

 それは、老骨1人を焼き尽くすのに十分なものである。

 "領域展開"という行為が成立した時点で、この勝負の決着はついていた。

 

「…………死んだ、か。禪院扇。呪術界随一の剣豪、その称号に恥じぬ、強き漢であった」

 

 数フレームの刹那。仮に領域の展開が少しでも遅れていれば。仮に扇が万全の状態で、剣速が普段通りのものであれば。仮に漏瑚の読みが外れており、扇が落花の情を使用できていたのならば。仮に─────────。

 今回は偶然、ツキが自分にあっただけ。場合によっては、ここで果てていたのは自分であった。

 類い稀な強敵である───。そう認めた相手への手向けの言葉を残した漏瑚は、強まる宿儺の気配を察知し、その場を急足で離れていった。

 




強さの指標として
甚爾>=漏瑚>扇ぐらいで考えてます。

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