Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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本作品は非公式のファン作品であり、CD PROJEKT REDによって承認されたものではありませんが、CD PROJEKT REDのガイドラインに沿って作られています。
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時代設定としては、ゲーム版のウィッチャーⅢワイルドハント終了後、数年経った時点から始まります。



Advanced Witcher

 

 

 

 

プロローグ

 

 

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郊外にある家賃6万3000円の1DKの安アパート。

独り者の寝床としては十分と言える、どうせ眠りに帰るだけの場所なのだから。

まあ、3万弱の住居手当が出ているので3万5千円程度の家賃だ。

年収は430万だが税や保険料を除けば330万程度だ、そこら辺は一般の公務員と何ら変わらない。

 

彼の場合生活費は一般よりずっと低い、飲み会もあまり出ないし、趣味や道楽もコレと言った物は無い。

だから溜まる一方と言える。

 

ベットサイドの小さなテーブルに置いてあるデジタル腕時計が、軽薄な電子音を奏でた。

スマートウォッチか高級な機械式腕時計が当たり前の世の中に、旧式ともいえるデジタル腕時計ひとつで生活している若者はこの男ぐらいのものだろう。

時刻は5時30分。

 

背の低いベットから腕が伸び、腕時計を取り上げると布団の中で背伸びをしながら停止ボタンを押した。

彼はベットから起き上がると、掛け布団を綺麗にたたみ枕をその上に乗せる。

別にしなくても良いのだが、そうしないとどうにもすっきりしないのは自衛官の性かもしれない。

トイレを済ませ、冷蔵庫の上に置いてある500ccのペットボトルを取り数口飲む。

ランニングに相応しいシャツとハーフパンツを履き、狭い玄関へと向かう。

 

下駄箱からニュートンのAHAというランニングシューズを取り出し、靴紐を結ぶ。

このランニングシューズはクッション性の感覚と、ねじれを防ぐとともに重心の移動をサポートしてくれ体幹のトレーニングにも最適だ。

アパートに鍵を掛け、階段を下り自転車置き場横の背の低いコンクリート塀を使い軽いストレッチを行う。

腕にはめたカシオの黒いDW-5600E-1のボタンを押し、1時間のタイマーをセットする。

 

最初は時速10キロほどで走り出すが、このスピードは決して早いわけではない。

大きな大会に出るような選手ならば16キロは超えてくるし、ランカーに至っては19キロを超える平均速度だ。

あくまでも平均なのでシティランでの信号を考慮すると感覚的には20キロほどの速度を維持する気持ちで走らないと平均時速17キロを超えることは難しい。

 

彼は、ほぼ毎日13キロのアップダウンの大きなコースを40分ほどで走り切る。

早朝の引き締まった風が頬を撫で、耳をかすめていった。

8キロほど走ったところで、腕時計をちらりと確認する。

カシオのDW-5600E-1は目立たない、軽い、故障しない、電池切れない、安いと何処かのうたい文句だが、実際、デザインは時代遅れと言っても良い。

 

この後継機種であるGW-M5610U-1という機種も出ているのだけれど、ソーラー充電で電池の消耗を気にする必要は無くなるのだが、電波時計でもある為、電波の受信状況が悪いと逆にバッテリーを消耗する結果となる。

まあ、大雅が2万超えの価格の割にメリットを感じなかった為、操作に慣れたDW-5600E-1を使い続けただけの話である。

 

しかし信頼性は、これを置いて他にないと思っている。

今どきの若い連中はこんな時計に見向きもしないが、彼にとってはどんな状況下でも答てくれる腕時計だ。

まあ、町をぶらつけば哀れみを持った目で見られることか多いが、もう10年もの過酷な生活で一度のトラブルも故障も聞いたことが無い。

 

大雅が初めて身に着けたこの腕時計は、ある恩人から貰ったものでベルトが劣化するまで彼をサポートし続け、今ではチェストの奥で静かに眠っている。

今腕に着けているのは日本に帰国してから買い求めた2本目だった。

39分後、再びアパートの駐車場に走りこんできた彼は、腕時計のボタンを押し、タイマーの残時間を確認してから時刻モードに戻した。

 

「ふぅ」

短時間で彼の呼吸は通常の速さに戻り、階段を上る。

ドアを開けても、お帰りという者も居ない玄関を通り、着ていた物をすべて乾燥までの全自動洗濯機に放り込み、洗剤を放り込みボタンを押す。

 

浴室へ入ると、最初はかなり温めなシャワーを、そして最後には熱めのシャワーを浴び10分ほどで出てきた。

頭頂部を長めに、側頭部を短く刈り上げた頭をタオルでガシガシと拭きながら、冷蔵庫のから昨日の残りのピザを取り出しオーブントースターへと放り込みスイッチを入れる。

 

タンスから、黒のボクサーショーツとカーキ色のアンダーシャツを着て、台所の端に置かれたコーヒーメーカーの電源を入れた。

このデロンギ社製のコーヒーメーカーは、エントリーモデルのマグフィニカという機種だが、全自動機である物の、しっかりとしたエスプレッソを豆挽きから行ってくれる。

 

朝にしては濃い目のエスプレッソをダブルで抽出し、そこに温めたミルクをたっぷりと入れるのが好みだ。

これは彼にとって食事用のコーヒーであり、出かける準備をしながら飲むエスプレッソはミルクを加えず、そのままダブルで出す。

デロンギのマグニフィカは豆を引き始め、部屋にコーヒーの芳香が漂う。

 

大体、いつもの朝は決められたルーチンの様に、特に意識しなくても勝手に体が動いている。

スマートスピーカーに天気予報とニュースを流させ、自己流のカフェオレに口を付ける。

温められたピザを皿に取り、手で丸めてかぶりつく。

けっして料理が苦手なわけではなく、気が向けば作ることもあるが独身男の平日の朝食なんてこんなものだ。

 

7:30分になり、中古で買い求めた金属ロッカーから迷彩服3型に着替える。

陸上自衛官という『お役人』は8:15が課業開始時刻だ、そう、自衛官は公務に携わるお役人な訳である。

課業開始前に点呼が有り、それから課業開始となるるが、大雅は元々その駐屯地では、事実上直属の上司も部下も居ない部署だ。

 

一人で点呼しても空しいだけである、単に課業開始となるだけだった。

直属の上司と強いて言えば、駐屯地の駐屯地指令である東部方面総監部幕僚長となるのだが、こんなお偉いさんが毎日業務し、点呼を掛ける訳がない。

 

もちろんきちんとした制服・制帽も支給されているが、ほとんど着たことがない。

何時もの迷彩3型だ。

 

広報という基地の外での対外業務ならば、真面な制服を着る機会も多いだろうが、暫く前に色がモスグリーンから紫紺に変わってから、誰がみても何処かのエアラインのパイロットにしか見えない。

その姿で空港をうろついていたら、民間人にはパイロットと見分けがつかないだろう。

 

小型の官給品の雑嚢と呼ばれているバックパックに財布やグローブ、個人物を入れ、デイパックを肩にかけた。

下駄箱からベルヴィル社のタクティカルブーツを引きずり出す。

このブーツは官給品ではなく完全な自腹だ。

 

けっして安いものではないが、こればかりは官給品はダメだ。

純粋な日本人と異なり足の幅が細い。

3Eや4Eの日本人サイズはどうにも幅が有りすぎて足が靴の中で横に遊ぶ。

戦闘行動において足回りの不具合は大きなハンデを背負うことなになる。

官給品も支給されているが、ムレが酷く隊では水虫製造器と呼ばれるシロモノだ。

使用するのは新兵か金が無い者だけだ。

 

手袋も似たようなもので耐久性は良いが、とても引き金を引くようには作られていない。

戦闘手袋一般用なんて迷彩が施されているだけで、一般品の薄い革手袋と変わらない。

だから手袋も自前。

多くはワークマンの手袋愛用者が多いのもそう言う理由だろう。

 

消防署の方がまだマトモな装備が支給されていると言っていい、まあ、向こうは常時戦場とも言えるが。

デイパックにつっ込んだ自腹の手袋も5.11社のタクティカルクラブで、タブレットや携帯端末がはめたまま使える。

 

走行距離15万キロを超えた9年落ちの中古ADバンに乗り、駐屯地を目指す。

しかも今の時代では珍しい5速マニュアルという仕様だがオートマと違いちゃんとメンテさえしていればまず壊れることはない。

 

彼にとって車は移動手段であり、消耗品であり単なる道具だ。

とはいっても、購入時に全てのショックやオイル類、経年で傷みやすいホース類、ベルト類は全て全交換しクラッチも全交換してある。

この先あと5年は問題なく乗れるだろう。

確かに高級車を乗り回せるほどの俸給では無いが、無理して買えない事もない。

だが、それに価値が見いだせなかった。

 

職場まで飛ばせば15分、いや飛ばさないけど。

折れかけたアンテナと雑音の混じるラジオからは、何時もの交通情報やつまらないニュースが流れている。

 

彼の所属は防衛省陸上幕僚監部運用支援情報部・別班という大きな声では言えない部門。

防衛省が存在を隠すような部署だ。

 

何をしているかというと、新規に採用する個人兵装の火器、装備のテスト、そして海外の軍隊で使用されている銃火器のテストである。

空いた時間で特科のCQCや鹵獲武器の扱い方を教官として教えている。

という事で、大雅が使い慣れているAK-47もちゃんと自衛隊にはある。

まあ、通常兵装とはされていないだけで、数十挺は保管されている。

野戦特科の連中はイザとなれば敵から鹵獲した武器を使う事も想定されている。

世界で最も多く使われているアサルトライフルは、未だにAK-47やその派生銃が占められる。

地球上でもっとも多い銃がAKとその派生銃なのだ。

 

 

IDを見せ、敷地内の指定された駐車場に車を止め、事務棟に入る。

自分の席に着きPCが立ち上がる時間を待ちながら、地内の自販機で買ってきた缶コーヒーのプルタブを開けた。

彼はメールチェックや、これからテストを行う銃器・弾薬のスペックや、その特徴を頭に叩き込む。

 

「拝戸1尉、おはようございます」

若いWAC(女性陸上自衛官)が入ってくる。

斎藤士長だ。

 

彼女は、若くして自衛隊に入隊、司令部付隊に所属し、司令部の後方業務や各部隊との連絡調整を行う部署に所属している。

大雅はこの駐屯地ではたった一人の部署だが、駐屯地としても一人だけですべての業務は困難だろうとの事で、兼務ではあるが大雅の世話をするため新しく入った彼女が充てられた。

まあ、一応幹部の一人であることからしても、部下は居てもおかしくは無いが、公には公開されない仕事の内容だ。

 

「おう。おはようさん。今日も可愛いね~」

「じゃ、貰ってくれます?」

「社交辞令ですから。そこんとこよろしく~」

「ありゃ、振られちゃった。では報復にこの缶コーヒーを接収しま~す」

そういいながら、拝戸のすでに口を付けた缶コーヒーを飲みほした。

 

「おい、マジかよ。間接キッスだぞ」

「そんなこと言うの小学生かオヤジだけですよ。

 間接キッスが怖くて自衛官やってられませんから」

 

「まあいい、ところで本省から荷物届いてる?」

「ええ、たっぶりと。

 何ですかアレ、めちゃくちゃ重かったんですけど。

 腰いわしたら責任とって貰ってくださいね」

 

「それは単なる労災じゃん。ってまだ引きずんの? この流れ」

「だってWACの憧れの優良物件だもの。

 チャンスは逃さないタチなんで。

 ほらほら、小ぶりでも形の良いおっぱいですよ」

「思いっきりセクハラじゃんかよ、それ。

 で、どこに受領に行けばいいのさ?」

 

「銃器はいつもの銃器庫ですが、20mm砲弾は弾薬庫です。

 はい、明細と受け取り。

 後でラブレターと一緒なら受け取ります。

 弾薬は全弾消化してくださいね、後処理面倒ですから」

 

「ラブレター無しでもいい?」

「その場合は一尉が書類を無くしたっていうことで、シュレッダー行きになりますです」

「・・・ひでぇ」

他の隊員が出勤してきたので掛け合い漫才はここで終わった。

 

 

武器庫に行って、樹脂のガンケースに入ったダネルNTW-20と14.5mm弾のコンバージョンキットのケースを受け取る。

 

「拝戸さんも大変ですね。これって20mmでしょ?」

「そう。銃弾に20ミリなんていう弾使うおバカライフル」

「あたるんすか?」

「あたんね~だろうねぇ。で、弾は?」

「拝戸さん、陸自では20ミリは砲弾でしょ?

 だから第二弾薬庫です。14.5ミリも一緒に」

「げっ、これ担いであそこまでいくの?」

そう言って片手で上下させている。

ダネルNTW-20は銃本体だけで26kg、ケースとスコープを入れれば楽に30kgを超える。

 

海自では30mmから砲のカテゴリーとなるが陸自では20mmから砲のカテゴリーとなる。

同じ国の兵器を使う部署なのに規格が違うと事はよくある。

 

「リヤカー貸します?」

「あの筋力増強ローラーかよ、いらね。担いでく」

「じゃ、ここに受け取りを。

 はい、どうも。終わったら返してくださいね」

「あいよ」

 

彼は手にケースをぶら下げ弾薬庫へと向かった。

一度事務棟に戻り車両の借り受けを手配する。

総務を担当している曹長を捕まえて聞いた。

「ねえ、曹長。車だけど業2(※)しかないの?」

「ええ、出払ってます」

 

(※)陸上自衛隊で使用される「業務車2号」の略称。

通常は市販のライトバン車両がそのまま利用される。

一般と異なるのは車検の有無とナンバーだけ。

 

彼は仕方なく錆が浮きかけた型の古い業務車2号のキーを受け取った。

呼び名は格好いいが、要は型の遅れたADバンである。

元々広報課の車両だったものを利用した雑業務用の車両だ。

広報用の車両と異なるのはカーキ色に塗り替えられているだけだ。

しかも彼が個人で使っている物より古い年式だが、整備はしっかりされているが速度が80キロを超えると、謎のウォブリングがハンドルに出てくるという車で、駐屯地の中でも嫌われ物だ。

 

「今日は演習場に行く部隊は無いの?」

「どうして?」

「いや、装備重いし手伝ってもらおうかと」

「ないです」

「あっそ」

仕方なく、弾薬を受け取り自分の装備を取りに事務棟へと業2ADバンを転がす。

 

斎藤士長が紙をピラピラと振りながら、ニコニコしてやってきた。

「拝戸大雅1等陸尉殿~」

嫌な予感がする大雅だが、平静を装いながら答えた。

 

「な、なに?」

「一緒にドライブ行きましょう。はい、許可書」

紙には手書きで指令書とあり、発令者は斎藤士長の所属上の上長である内原3尉だ。

 

「マジ?」

「ええ、基本重火器の場合、単独での車両による運送は、火薬類の運搬に関する内閣府令第十五条の2により見張人を付けなければ、許可されません。

 ということで許可貰ってきました」

 

「これって、思いっきり様式外の手書きだよね、正式文書ですらないよね。でもって・・」

「一尉殿、自分が許可しました。 よろしくお願いしますね」

後ろから斎藤士長の上官である内原3尉が声をかけてくる。

「内原さん、これいいんすかコレ? インチキ書類でしょ?」

「まあ、そう固いこと言わずに。

 ね? 自分もお茶、安心して飲みたいじゃないですか」

 

「・・・・はい? 」

「ええ、でもミキちゃんの言ってることも正しいんで、そこんとこよろしく」

 

「じゃあ、ドライブへしゅぱーーつっ」

「はあぁ~、とっと着替えて来い。 来る以上は手伝ってもらうからな」

斎藤士長はスカートから装備に着替えるため走っていった。

 

内原3尉がすまなそうに切り出した。

「いやね、ほら、一尉が普通の部隊規則からは外れる特殊部隊なのは、知ってるんですけどねぇ、そこは察してください」

 

「・・・ふむ、脅されでもしたか?」

「ええ、雑巾間違ってポットに絞っちゃったらって言われたらねぇ」

「こえーよ」

「あ、なんならそのままお持ち帰りしても良いそうですから。

 何なら居住外泊届出しておきしょうか」

 

「いらねーよ。何WACくっ付かせようとしてんだよ。しかも火器どうすんのよ」

「ほら、WACいいっしょー? 夫婦喧嘩だってCQCバリの訓練が生きますし」

「嫌だよ、そんな殺伐とした夫婦生活。

 お前と一緒にすんな」

 

 

斎藤士長を助手席に乗せ一路演習場まで10分ほど走ったところで気が付いた。

「おい、斎藤。中帽は?」

「あ、忘れちゃった」

「しかたねーな、コレでもかぶっとけ」

そう言って彼は迷彩の中帽を渡した。

陸上自衛隊では、業務者以外の車両の運転中はこうした鉄帽または樹脂製のヘルメットである、中帽と呼ばれる物を被る規定になっている。

今回は業務車なので、規定には縛られないが、射撃を行う時は必要となる。

よって、後部座席には自分用の88式鉄帽2型が置いてある。

 

「す~っ、はぁ~っ!」

「あ、テメッ匂いなんか嗅ぐじゃねェ!

 今度やたら押し倒すっ「バッチコィ! 」・・じゃなくて張り倒すかんな。

 それと即答すんなっ」

 

しばらく走ると、斎藤が嬉々としてバックの中からコンビニ袋を取り出した。

駐屯地にあるコンビニの袋だ。

 

地内にあるコンビニは、一般のコンビとは品揃えがちょっと違う。

戦闘糧食つまりミリ飯や演習用品と衣類も置いている。

パッケージにはご丁寧に「行軍に最適!」と印刷された靴の中敷きとか「快適行軍」と書かれたソックスが売られている。

明らかに「見学者向け」の商品も有るが、下着からバックまで多種多様な品揃えだ。

ドーランなんかも普通のコンビニには置いていないが、ここには普通に何種類も置いてある。

 

「ほらっ、お菓子! お弁当もおにぎりだけど作ってみました」

「てか、おもいっきりピクニックじゃんか。

 これから大口径ブッパすんのに・・・」

絶対此奴はピクニックと勘違いしている。

 

「はい、ポッキー」そう言って斎藤士長は、口だけでポッキーを咥え大雅に顔を向ける。

「やらねーからな。 何ポッキーゲームみたいに咥えてんだよ。

 運転中だよ! 死んじゃうだろ? 事故って」

「車止めればOKですね」

「止めないからな。

 第一誰かに見られたり写メ撮られたら一巻の終わりだぞ。

 自衛官としても人としても」

 

「じゃ、そこらへんの草むらに」

「思いっきり自衛隊ナンバーついてんのに? しかもこの格好で?」

「そこで役立つ迷彩!」

「バカ言ってんじゃねぇよ」

彼の疲労感は演習場まで続いた。

射撃演習所には屋内と屋外があるが、今回は屋外だ。

 

「ほれ、これ運んでくれ。あのテーブルにな」

木で組まれた大型のテーブルに銃器と弾を運ぶ。

 

「わぁ~おっきな弾~。これが20ミリですかぁ」

「20 x 82mmと呼ばれる弾だな、本来は航空機関砲弾として開発された弾だ」

「じゃ、これを今日はズドドトって?」

 

「いや、コイツは狙撃銃なんだ。 まあ対物ライフルってやつだな。

 この銃はダネルNTW-20、アエロテクCSIR社が開発したボルトアクション式ライフルだ。

 だから連発はできない。

 個人武装用ライフルとしては最大級口径だ。

 それに20ミリ連射したら人間の力なんかじゃ抑えがきかないしな」

「シュワちゃんやってましたよ?」

「それは映画のお話! 20ミリを連射できる銃を持てたり撃てたら、その時点で人外だからね」

 

弾の大きさは薬莢も含めると小型の懐中電灯ほどもある。

このライフルは対物(20mm)、長距離狙撃(14.5mm)と使い分けるのだが、今回は20mmだけだ。

何故なら誰も26kgもあるライフル持って戦闘行動したいとは誰も思わない。

対物狙撃なら普通にバレットM82使う方が良いのは馬鹿でも判る。

俺だったら絶対に採用なんかしない。

アフリカという遮蔽物の無い見通しの場所だけで通用するという代物だ。

 

「ちょうどいい、スポッターやってくれ」

「えっ、やったことないですけど。訓練もしたことないし」

「基本的なことは教えてやる。

 ほら、射場の端っこに吹き流しがあるだろ。あれ見て」

 

「今は45度くらいですね」

「吹き流しっていうのは規格が決まっていてな。

 45度なら風速4M、60度なら6M、75度では8Mとなる様に作られている。

 形や大きさが異なっても同じように考えていい。

 つまり吹き流しを見ればおおよその風向と風速が判るってこと」

「へぇ、勉強になります。一尉殿」

 

「・・で、続けるぞ。

 スポッターの役目はこの単眼鏡で風向と風速を告げ、ターゲットの状態を見ながら射撃のOKを出す。

 終わったら射撃の成否をスナイパーに告げる、それがスポッターの仕事だ。

 まあ、射撃修正までしろとは言わんから気楽にやってくれ」

 

「質問、スナイパーもスコープで見ているのに射撃の成否を告げるのは何故?」

 

「大型のライフルに成ればなるほど反動が大きく、スコープの像も大きくぶれる。

 特に長距離狙撃で高倍率のスコープを使う場合、射撃後に同じターゲットを見続けられている事は稀だ。

 だからスポッターが確認するのさ。

 撃ちそこなったときすぐに次弾が撃てるようにな」

射撃の準備をしながら彼は説明を続けた。

 

「よって、スポッターにはスナイパーと同じ技量かそれ以上が必要とされる」

「でも狙撃の場合は現場に吹き流しなんて立てられないですよね」

「無論だ、まさか戦場のど真ん中に吹き流しを立てるバカは居ないからな。

 その時は木の葉が風で飛ぶ速度、方向。

 木の揺れ方や鳥の飛び方から判断するんだが、現実は難しい。

 だから、旗が有ればそれを、無ければ陽炎を参考にするんだ。

 陽炎が真っ直ぐ立ち上っていれば風速0に近く、45度に流れると風速6マイル(約2.7メートル)、流れが水平に近いと風速12マイル(約5.36メートル)以上といったように予測できるな」

 

「私そんな器用な事できたら特殊作戦群に居ますって」

「まあ、当然だ、今日は吹き流しの角度と方向だけでいい。

 銃の調整なら厳密に行う必要があるが、今日は実際の使用感とか反動その他のフィールドテストだからな。

 しいて言えばターケットに当たらなくたっていいわけだ」

「了解!」

斎藤士長が単眼鏡をもって左側についた。

 

「斎藤、もっと下がれ。

 そこはマズルブレーキからのホットガスが当たるぞ。

 それと俺のテッパチかぶってゴーグル付けとけ」

「すごいんですか?」

 

「20ミリになると場合によっては火の粉が飛んでくる。

 雷管の燃え残りとかな。

 目に入ったら失明の可能性もあるぞ。

 だから襟元もしっかり閉めろ」

「一尉はどうすんですか?」

 

「俺はバリスティックスグラスだよ、あとは迷彩のワークキャップ」

「へえ、そんな官給品もあるんだぁ」

「自前ですよ、じ・ま・え。知ってんでしょ? こんなの支給してくれる訳ないだろ?」

「ですよねぇ~、予算が増えたと言っても貧乏には変わりないし。

 ちなみにこの弾1発おいくらで?」

 

「日本円で3000円ほどらしい」

「え?じゃあ、海自なんかのCIWSだったら・・・」

「あれはこれと規格が違ってな、一発8万円だ。1秒間撃ったら600万円だな」

「お金かかる訳ですよね」

 

「まあな。

 陸自で使ってる155ミリは12万くらいだが、海自の127ミリの誘導砲弾だと300万ぐらいするらしいぞ」

「うわっ、たっかー」

「そんでもミサイルより安いさ。

 ほら富士の演習で撃ってる誘導弾なアレ、1発5000万だぞ」

 

「あーそれ知ってる。

 くっそ高いの。

 写真でしか見たことないけど。

 ちなみに海自が使ってる魚雷って高いの?」

「短魚雷で1発3億ぐらいかな。都心の高級マンションの最上階が買えるな」

 

「もったいないなー」

「火薬や信管には使用期限みたいなものが有ってな、消費しないとダメなんだ。

 古くなると不発や動作不良の原因となる。

 だから、演習や訓練で使わないとイザッて言う時に使えないじゃお話にならないからな」

 

後ろにある緑の旗を赤の旗に変える。

これで射撃場は実弾発砲しているという目印で、レンジ内には立入り禁止となる。

 

「大きな音がします。ご注意ください!」

斎藤士長がふざけて富士演習場のアナウンスをまねた。

 

右側にあるボルトハンドルを左に回し遊底のロックを解除、そのまま引くと3発入っている弾倉から1発の20ミリ砲弾が上がってくる。

そしてそのまま押し込み再び右に回して遊底をロックする。

 

「風向9時、吹き流し15度。いつでもどうぞ」

「いくぞ」

 

ズドン!

 

図太い轟音が発生し、マズルブレーキからガスが排泄されると同時に銃身だけが後退する。

周囲2Mほどの地面からは土煙が上がる。

 

「ペッ、ペッ・・土が口にぃ~」

「ははっ、そりゃ口開けてりゃ入るわな」

「うぇ~ん、ひどいよお」

「ついでだ続けていくぞ、風向と風速!」

 

20発ほど続けると大体この銃の性格が判ってきた。

反動はM82よりはソフトだ、だが銃身の後退機構によるスプリングと油圧のショックアブソーバが無ければ骨に損傷を起こしてもおかしくない。

 

まあ、反動のエネルギーが時間展開されただけで減っている訳ではないが。

20 x 82mmでこれなのだから、午後からテストする予定の20 x 110mmのテストは気が重くなる。

20 x 110mmを使用するにはバレル、レシーバーなどの組み換えが必要となる。

予定試射数は10発。

 

組み換えは昼を兼ねて行った。

士長お勧めの明太マヨおにぎりを頬張る。

 

「だぁ、反動きっつ」

「弾着バラけてますねぇ。ど真ん中に行かないっすよ」

「どうだ撃ってみるか?」

「いいんですか?」

 

「内緒にな」

「いぇい!」

斎藤士長は大雅に教えてもらいながら、伏射の姿勢を取った。

 

「もっと足広げて」

「いやん、エッチ」

「テッパチでなぐんぞ。開くのは股じゃねえ、足だあし!」

「こう?」

 

「で、靴の内側からつま先で地べた踏ん張る。

 肩にしっかりとストックを押し付けろ」

「うみゅ」

「ストックのハンドルを左手でしっかり握る。

 もっと・・・そう。

 右手はグリップに、まだトリガーに指かけんなよ」

 

「風向や風速は考えなくていいから撃ってみろ」

「いきます!」

 

ズドンッ!

マズルブレーキからフラッシュが噴き出る。

 

「ふみゃぁっ! す、すごい! てか、肩痛っ!」

「まあ、そうなるな。

 体を銃に対してもっと斜めにした方が楽になるが、それには体幹の筋力が必要だ。

 それにお前の体重じゃ抑えきれん」

「知ってるんですか? 私の体重」

 

「見た目で55~56ってとこだろ、ちょっとぽっちゃり」

「女の敵発見、撃って良いですか、というか撃ちますよ」

「やめてくれ、半身が吹っ飛ぶ」

「そんなに威力有るんですか?」

 

「7.62ミリだって、至近距離から頭撃たれたら、頭のほとんどが吹っ飛んで皮しか残んねーよ。

 20ミリなら多分霧散すんじゃね?

 手でも足でももげるだろうな、体なら大穴空くし、掠っただけで死んじゃうよ」

「出血多量待ったなしですね」

「その前にショック死だな。

 太い血管を通じてショックが全身に回るからな」

試射を終え、レポートを書くためのメモと片づけを行った。

 

駐屯地に戻り武器庫に銃器と空薬莢を返却。

事務棟に戻った。

 

退勤時間までレポートを纏める。

これで明日は楽が出来る。

 

 

明日は拝戸の仕事の一つである教育隊の訓練の講師役だ。

どうせ時間を持て余すだろうとの有り難くも迷惑なお言葉から、特科新兵のCQCの基礎を訓練する役目だ。

CQCとは言ってもレンジャーの様な本格的な事ではなく入門編程度だ。

翌日、CQCの訓練の講義を行っていた。

 

「で、あるからして、CQCに必要な技能は繰り返しの訓練と前方180度の注意力だ。

 少しでも反応が遅れれば死ぬこととなる。

 質問は?  ・・・・なければ次回は実習だ。全員体育館で行う。以上」

 

 

教練を終えデスクのある事務棟に戻ると、斎藤士長が声を掛けてきた。

デスクが近いため、伝言や行先を尋ねられるらしい。

 

「一尉、中野指令が呼んでますよ。

 戻ったら出頭してほしいって。

 何やらかしたんですか」

「なんで、やらかした事前提なんだよ。まあ、いいか」

 

大雅は管理棟に向かった。

指令とは言っても陸将補という超エリートだ。

 

「拝戸大雅一等陸尉 入ります!」

部屋に入ると50過ぎだが眼光の鋭い将官がデスクで何か書いていた。

 

「そこに座って少し待っててくれ。すまんな」

「いえ、かまいません。失礼します」

姿勢を正してソファにすわった、背もたれにはもたれないのが礼儀だ。

 

指令は電話を取るとどこかへかけ始めた。

押したボタンの回数から内線であることが判る。

 

「彼がきましたよ」

中野基地司令、つまり中野陸将補という雲の上の存在が立ち上がり拝戸の向かいに座った。

 

「拝戸一尉、忙しい所すまないね。 実は会ってほしい人が来てるんだ」

ドアを叩く音がする、時間からして結構近くに居たのだろう。

「どうぞ」

 

中野指令が立ち上がった為、拝戸も一緒に立ち上がる。

ドアの方を見るなんてことはせず、真っすぐ姿勢を正した。

 

「紹介しよう。 彼は三塚内閣調査室事務官。

 こちらが拝戸大雅一等陸尉です」

 

無帽なので腰を10度に倒し礼をする。

俗にいう10度の敬礼というものだ。

 

「こうして会うのは初めてですね。

 あなたが保護されたとき担当したのが私でした」

「と、いいますと?」

「貴方含めご家族がテロに遭い、4年以上に及ぶ行方不明。

 やっと保護されたときは16歳の直前でしたね。

 我々も最大限の努力をかけて探してはいたんですがね。

 その調査と帰国を担当したのが私です」

 

「そうでしたか、ありがとうございます」

「ご両親は残念でしたが、今こうして再びお会いできてほっとしています」

「いえ、あの時はありがとうございました」

3人ともソファへ腰を下ろし、三塚が話し始めた。

 

「貴方が些か特殊な環境に置かれ、育ってきたことは聞いています。

 12歳でテロリスト、まあ、現地では聖戦士の炎と呼ばれる武装集団に拉致され、各種の武装訓練を得て中東地域の紛争にも参加したこと。

 テロリストグループの壊滅に伴い、この地域を脱出、保護を求めるかと思いきや、貴方は年齢を詐称し複数の国家の傭兵として参加。

 15歳にして再び中東に戻りテロリストの生き残りを惨殺」

三塚はテーブルのお茶を一口飲むと続けた。

 

「父を日本人に母をスペイン人に持つあなたは、語学に堪能で英語どころかアラビア語、スペイン語、ロシア語、ポルトガル語、ポーランド語、イタリア語など複数の言語に堪能。

 日本に帰り戸籍を復活してからは、高校の夜間部に入るも大検をクリアした時点で防衛大学に進み、幹部候補生学校をトップの成績で卒業。

 特殊作戦群に入ったのち、僅か半年でS記章を取り現在に至る。

 本来なら自衛官として採用順位が下がる家族に外国人を持つ人貴方は、それさえも無視できるほどの優秀な成績を残しました」

再び三塚はお茶を口にした。

 

「そのあなたを見込んで、お願いしたい仕事があります」

 

「そこまでご存じなら、霞が関の仕事なんか務まらないのはご理解いただけますか」

大雅は少しばかりむっとしていた。

 

「ええ貴方にお願いしたいことはデスクワークではありません。

 とても危険で厄介なお仕事です。

 いえ、たぶんあなたにしか出来ないと考えています。

 受けていただけますか」

 

「内容をお聞きしても?」

「残念ながらここですべてをお話することは出来ません。

 でもきっと失望させるような仕事ではない事をお約束しましょう」

「荒事ですね」

「ほう、何故そう思われました?」

 

「自分の過去を良く知ってる事からして、警察、公安、自衛隊も公式には動かせない事案、しかも語学力に言及することで対象は国外。

 外国がらみの問題解決というところでしょうか」

 

三塚は中野の方を見ながら言った。

「ねえ、中野幕僚長さん。 この人ウチにくれません?

 自衛官に埋もれさせておくのもったいないです。

 国家の損失ですよぉ」

 

「彼はウチとしても虎の子なんだが、お断りしますよ。

 彼のホームはここだ」

 

「さて、話を戻しますが、拝戸さん、

 貴方にはとある国外へ飛んでいただくことになります。

 ここでの任務は調査と書籍の入手、諸国の時局調査と資源の予備調査となります。

 数年前の状況まではある程度判っていますが、情報取得時点では大規模な紛争があり状況は不透明です」

 

「中東ですか?」

「いいえ、この地球上ではありません。

 環境が非常によく似た別世界。つまり異世界とでも呼んでもいいでしょう。

 この世界はゼムリアと呼ばれています。

 この事実は国内でも限られた人員に絞られています」

 

大雅は何を言ってるんだという顔で三塚を見た。

 

「まあ、当然その反応は想定されたものです。

 いえ、普通の人ならばごく当たり前の反応でしょう。

 しかし、これからお話しすることは国家機密それもかなり高度かつ重要な内容となります。

 これからお話しすることは国家公務員法第100条の適用を受けます」

 

「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。でしたっけ」

「ええ、さすが拝戸さん。

 その通りです。適切な時期、時代までいかなる理由が有ろうと公開は出来ません。

 それを理解した上でお受けいただけますか?」

「自分は自衛官です。日本を守るという命題に沿うものであれば全力を尽くすのが務めです」

 

「ふぅ。助かります。

 実は断られたらどうしようかと思ってました」

「で、詳細は?

 まさかその異世界とやらに潜入しろとか言うんですか?」

 

「察しが早くて助かります、その通りです。

 かの世界は、地球で言うところの16世紀から18世紀あたりの文化と技術力をもった世界で、化石燃料などによる産業革命までは至っていません。

 現在判っているところでは、ニルフガード帝国という強大な国家の他、北方に多数の国家群が存在し、剣と魔法とモンスターが跋扈するファンタジー世界を思い浮かべて頂ければ、最も近いでしょう」

 

喉が渇くのか三塚はペットボトルの水を中野から貰っていた。

三塚の蓋を開栓する音が部屋に響く。

 

「我が国は、3年前に外国人とみられる女性を保護しました。

 この女性は年のころ20~30歳程度、容貌はヨーロッパ系で目の色はダークブルー、髪の色は赤毛でした。

 彼女が保護された場所は大仙陵古墳の近く大阪の堺市でした。

 町を古風なドレスで歩いていた処を警官に保護されたのです。

 しかし、全く言葉が通じずポーランド語らしいということが判ったのが6日後でした」

 

「彼女の話ではゼムリアの世界から転移した先が、たまたま地球の日本だったとのことです。

 あ、ゼムリアというのは向こうの古い言葉ーの呼び名で、一般的には使われていないようです。

 まあ、意図してここへやってきたのではなく、処刑されそうになった時、隙をついて転移したのだとか。

 本当はゼムリアの世界内で転移するはずが、何らかの力でこの地球へとゲートが開いてしまいました。

 ゲートがなぜ日本の古墳に開いたのかは幾つかの予測は立っていますがまだ確証までの物は得られていません。

 なにせ魔法転移と呼ばれる謎技術ですから。

 日本政府は将来的にこの世界の国交と資源の輸入を目論んでいます。

 最近の厳しい外交と経済状況は拝戸さんもご存じでしょうが、マスコミで言われているほど、日本の経済基盤も資源基盤も盤石には程遠いのが現実なのです」

 

「で、その剣と魔法の世界に飛べと?」

 

「ええ、話によれば向こうの命の値段はデフレ状態、つまり非常に安い物のようです。

 推定人口は星全体でも1億にも満たないでしょう。

 進化度合いに比べて地球より少ないのは、大型の有害危険生物や種族間の紛争が元と見られています」

 

「火器の携行と補給は確保できるのでしょうか。

 自分は体術とナイフぐらいは使えますが、その世界で魔法や大型危険生物には、対抗は無理と考えます」

 

「それは問題ありません。

 ある方法が開発され地球ではテストに成功しています。

 もし、その方法が使用できなかった場合、すぐさま戻っていただくことになります。

 銃火器については品目の制限は基本ありませんが、170kg程度が転送限界の様です。

 まあ、部品にバラせば送る事は可能ですが、装甲車などは無理でしょう。

 なにせフレームだけでも500kg超えますので。

 単品重量が170kg以下では物質に起因する制限はありますが、大きさの制限はありません。

 ただし、現在もテストと改良は続けていますが、食料や大きな生物などは転送できないようなのです。

 モンスターへの自衛についてはもちろん、銃火器の使用は無条件で許可できますが、知的生物に対してはやむ負えない場合を除いて避けていただきます。

 もちろん正当防衛には許可されますが、こればかりは無条件とは言えません」

 

「まあ、当然でしょうね。

 というよりそんな物が開発されていたこと自体驚きました」

 

「ええ、これが有れば兵站や戦術が変わっちゃいますしね。

 まあ、それは置いといて。

 治安の悪い場所には、小規模の盗賊などが跋扈しているようです。

 これに対しては制限を全面解除します。

 隷属的立場も含む市民、国に属する兵士や国家要員、国や地域の重責の立場にある人たちとのイザコザは極力避けてください。

 どうしても必要な場合は、最低限度としてください」

 

「それはスネークミッションと理解しても?」

 

「ええ、それに近いですけどそこまで厳しいものではありません。

 スネークミッションだと行動の制限が大きすぎて目的自体を阻害します。

 ですから、向こうの社会に溶け込める行動をしてください。

 目的は、日本が将来どの国と国交を結べば良いのかの基礎調査です。

 できるだけ多くの地域、国を調べてほしいのです。

 ただ、それでは膨大な時間が必要となります。

 最優先の調査はゲートが安定して構築できない原因に対する事です。

 各国の情勢調査や資源の予備調査は2の次と考えていただいて構いません」

 

「現地との連絡方法と協力者は?」

 

「連絡方法は転移装置を介した伝達となります。

 リアルタイムでの連絡方法は望めません。

 食料や現地通貨は現地で調達していただくことになりますし、換金できる転送物があれば必要経費として送れます。

 協力者については今のところ決まっていません、というよりそれを構築することが任務の一つです。

 ただ、望ましいと思われる職種というか、人々は固有名詞までは判っています。

 最初はこの人たちとの接触、協力依頼できる関係を作る事が先決でしょうね」

拝戸は姿勢を正すと三塚に聞いた。

 

「自分が適任であるという理由と手法は理解しました。

 つまり極秘裏なミッションでなおかつ武器弾薬以外は自力でなんとかしろと言う事ですね」

「すみませんがそうとしか言えません。

 ただし、それに見合うインセンティブを用意します。

 まあ、限度は有りますが金銭でも昇進でも。・・・最後に一つだけ」

 

「なんです?」

 

「最悪、死亡した場合も含まれますが、なんらかの理由でこちらに帰ってこれなくなる場合も想定しなければならないことです。

 これに関しては貴方はこちらの世界で公務中に殉職という扱いとなりますが、詳細は一切公表されません」

「韓国に漂着した2014年の内閣府職員のゴムボート変死事件と同じですか」

 

「書類上、拝戸さんあなたは陸自に籍を置いたまま、内閣調査室つまりCIRO(サイロ)への出向となって頂くことになります。

 各種危険手当から諸々の諸手当、いろいろと付きます。

 それと、現地で入手した物品は、日本に持ち込む場合は税金が掛かりますが、制限は有りません。

 危険物質や兵器武器などは別ですがね。

 まあ、食料を手に入れるための労働対価は、あくまでも現地法に法った処理をしていただければ政府は関与しないという事です。

 時間裁量も自由ですが、安否確認として、最低1週間に1回は転移ボックス経由での報告や連絡をお願いします。

 あと、盗賊・野盗等につきましては、現地では人権が存在しません。

 この処遇については、お任せします」

 

「つまり無条件に排除しても問題無いと?」

 

「ええ、現地でも有名な場合は、賞金が出る事もあるようですが、捕まっても有無を言わさず死刑が普通の様です。

 かなり危険な世界です、地球で言えば紛争地の真っただ中と言っても過言ではないでしょう。

 くれぐれも、日本、いえ、この世界の命の価値観は通用しないとみてください。

 そう言う意味も有って、貴方に白羽の矢が当たったわけです」

 

「その転移ボックスとやらは、いつでも使用は可能ですか」

「ええ、時間が1日24時間とは限りませんし時差も判っていません。

 こちら側は24時間対応する予定ですが、こちら側との連絡は最大6~8時間のタイムラグが発生することはあり得ます。

 まあ、こういった基本調査も今回の調査の一つなんですが」

「出発は?」

 

「今すぐ、と言いたいのですが、3カ月間、向こうの世界から来た女性にも協力いただき、現地語や風習、言語も含め社会の基本構造や装備の習熟、現地通貨や各種度量の換算などトレーニングして頂いた後に、行って頂くことになります。

 もちろん火器の習熟は必要ないでしょうが、貴方が希望すれば問題無いよう取り計らいましょう」

 

「携行火器の制限は無いとおっしゃいましたが、西側だけでなく東側の火器も?」

「ええ、できうる限り沿いましょう。

 ただし、BC兵器や核兵器はできません。

 一応国内には無いことになっていますから」

 

「弾薬の制限は?」

「ありません。

 ただ転送量の制限から1回に送れる量の制限はあります、

 向こう側で拠点を作れれば備蓄も可能です」

 

拝戸はソファで1分ほど黙り込んだ。

 

「わかりました、お受けいたします」

「拝戸1尉、本当にいいのか。

 聞くに非常に危険が伴うミッションのようだし、しかも単独ミッションだ。

 いまなら引き返せるぞ」

中野指令が大雅に問いただした。

 

「はい、最後に自分から三塚さんに一つだけ」

大雅は三塚の目をしっかりと見て話した。

 

「なんでしょうか」

「自分が何らかの理由から、撤収したいと思った場合は出来るのでしょうか」

「ええ、全力は尽くしましょう」

 

 

それからの出来事は怒涛の様だった。

出向命令書の受け取り、駐屯地での仕事の受け継ぎ、机の整理。

一番大変だったのは斎藤士長が朝礼で泣き出してしまったことだ。

あまつさえ、一緒に転属させろと胃を抑える上官に食って掛かる始末。

 

拝戸は表向きには米軍との交流派遣となっているが、実際は違う。

再び帰ってこれないことも想定され、身辺を身綺麗にした。

アパートを解約し、私物や不要な物はレンタルの貸倉庫に放り込む。

これは、万一の事が有った場合、政府が処理してくれる。

 

自家用車は中古車屋へ売り払った、車と言うのは碌に乗らず屋外でほったらかしだと、すぐに動かなくなる。

拝戸は複雑な気持ちで駐屯地で後にした。

 

4日後、大きなダッフルバック一つで北池袋の駅を出て、不動産の担当者と待ち合わせていた。

流石に迷彩服ではないが、黒のジョブスシャツと呼ばれるハイネックのシャツに安物のジャケット、黒のチノパンにワークブーツといういで立ちだ。

自衛官を思わせる官給品は何一つ身に着けて居ない。

 

「拝戸さん、拝戸大雅さんでしょうか」

「はい、私です」

「あ、私、政府から依頼を受けたベストステイの坂田と申します。

 マンスリーマンションのご案内です」

 

「あ、よろしくお願いします」

「場所は永田町になります。タクシーでご案内しますので、ご一緒にどうぞ」

坂田という女性に案内された場所は、永田町のある路地の賃貸マンションだ。

 

「ここは、よく政府の関係者様もご利用いただいています。

 セキュリティもチキンとしてますし、ほらあそこにコンビニ、マンスリーですので最低必要限の設備も入っています。

 こちらがカードキーとなります。

 無くしますと実費となりますのでご注意ください」

引き渡し確認が終わると早々に帰っていく。

僅か3カ月間の賃貸となるが、ゼムリアに行った後は解約される。

 

すでにサイは投げられた。

やっと落ち着き、風呂でも入ろうかと思ってた頃、個人携帯に電話がかかってきた。

 

『三塚です。今宜しいですか?』

「はい、問題ありません」

 

『明日に打ち合わせというか顔合わせが有るんですが、10時に内閣情報調査室のある内閣府庁舎に来てください。

 IDはマンションの郵便受けの封筒に入って居るはずですから』

「判りました」

『そうそう、スーツと靴は持っていますよね』

 

「1着だけですが」

『それで結構です。

 迷彩服だと、ちょっとばかり目立ち過ぎですから。

 言い忘れていたので心配しました』

 

翌朝、少し早めに起き、ランニングを済ませた。

早朝の都会はまだ眠っており、早めに切り上げコンビニで弁当を買い朝食を済ませる。

 

帰りに郵便受けにカードキーを近づけ、内容物を確認する、いつ入れたのかわからないどうでもいいチラシ数枚と、宛名に拝戸大雅様と書かれた差出人の無い封筒が入っていた。

 

開けると大雅のIDで、首から下げられるようになっている。

所属には「内閣府」とだけ書かれた顔写真と名入りのIDだけが入っていた。

 

「重要書類がこんなんで良いのかよ、なんか釈然としないな」

内閣府庁舎はマンションから歩いて10分、拝戸の足だと6分ほどだ。

身長185センチ、体重80kgの大雅は俗に細マッチョと呼ばれる体形で、体脂肪がほとんど無く、6パックに割れた腹筋と、しなやかだが強靭な筋肉でおおわれているが、スーツ姿ではわからない。

 

履き慣れない革靴と肩のあたりに馴染まない背広を感じながら庁舎へと向かう。

1万ちょいの安スーツだ、着心地が悪いのか良いのかは判らない。

なにせ、今までスーツなんてモノに手を通したことは無かったからだ。

 

 

入口でIDを見せると、ロビーで三塚が待っていた。

「お待たせしました」

「いえいえ、時間通りです。場所は地下ですので」

 

地下の小会議室には、すでに何名かの男性と一人の女性が居た。

男性は特徴の無いというか、どこに居ても簡単に紛れ込めそうな特徴の無い人たちだ。

しかし、女性は真っ赤な髪色の美人で、IDには三塚サブリナと記されている。

 

「え~、ご紹介します。彼が陸自から出向の拝戸大雅さん。

 こちらは右から三塚サブリナ、大山猛さん、湊正光さん」

「三塚サブリナです。

 すぐに判るから言っちゃうけどタカシの妻よ。

 向こうの世界の情報や行動をサポートするわ」

 

「僕は内調の情報分析官の大山だ。

 まあ、分析といっても多岐に渡るんで、その交通整理役と思ってくれればいい。

 情報関係の窓口となる」

 

「自分は湊正光。君と同じ陸自からの出向で三尉、普段は朝霞に居る。

 担当は兵装の手配や転送の実務。

 まあ補給担当だな」

「拝戸大雅です、よろしくお願いします」

 

「さて、この4名で今回のミッションはスタートします」

 

それから、向こうの世界に行くまでの大まかなタイムスケジュールや、異世界の基本的な情報を確認し合い、午後からは特別管理秘密取扱者研修に自分とサブリナさん、湊さんが出席した。

特別管理秘密取扱者研修は3日間で明日も明後日の昼まで続く。

大切な事ばかりだが、大雅は眠気と戦っていた。

 

数日後、隣にある第八庁舎へと移動した。

 

「ここが第8庁舎にある我々のミッションルームです。

 基本ここに私だけでなく大山さん、スタート時は朝霞に湊さんが詰めます。

 まあ、あと1人か2人は増えるかもしれませんが、スタートはこの体制です」

 

新しい「事務所」に付随した12帖ほどの会議室でミーティングが始まった。

 

「さて、今日はかの世界の危険生物と対策についてです。サブリナ頼むよ」

 

「わかったわ、まずはこのイラストを見てちょうだい。

 この生物は現地ではドラウナーと呼ばれている怪物で湿地帯や水辺に好んで巣を作るの。

 巣の周囲200mから500mをテリトリーとして基本的には魚や小動物を餌としているの。

 テリトリーに入った場合、はじめは様子をうかがっているけど、警告の叫び声が聞こえたら危険。

 数頭から15頭ほどの群れを作っているわ。

 主な攻撃手段は鋭い爪による引っ掻きと咬みつき。水の中は彼らのテリトリーで泳ぎは水性動物並みの運動能力、動きも早いし単独ではウィッチャーか魔術師でないと対抗できないわ。

 まあ、兵士でも多少の腕が有る者は1対1なら対抗できるわね。つぎは・・・・」

 

いろいろなイラストのモンスターを見ていると、中にはまるでゾンビとも思えるようなものもいて大雅はうんざりしてきた。

 

「じゃ、ここいらへんで昼だし休憩にしようか。

 ケータリングも届いてますんで、昼食費はあとで月末に纏めて清算します」

「大雅君、質問がほとんど無いけど問題無い?」

 

「いや、問題だらけですよ。

 弱点は属性オイル塗った剣だとか、火の呪文とか・・なんだかねっていう。

 実際銃火器効くかどうかも判らないし、ワイバーンやバジリスクなんて、小ぶりなドラゴンじゃないですか。

 それ銃程度で落ちるんでしょうかね」

 

「大雅、ワイバーンやバジリスクは矢でも何発か当てれば落とせるわ、魔力が付与されたものならなおさらね。

 それに戦うとなれば地上に降りてくるのよ」

 

「勝てる気全然しないっす、サブリナさん。

 でもあの大きさで飛べるってことは体重軽いのか?」

「こっちの単位で、300キロぐらいかしら」

 

「それはおかしいな、それなら飛行速度が時速200キロほど無いと飛べないし、速度自体は鳥と変わらんなら体重30キロ以下じゃないと無理だ」

焼売を飲み込んで湊が言った。

 

「それはわかっているわ、彼ら飛竜種は魔力も利用して飛んでいるの。

 だから同じ魔力のアードという衝撃魔法やイグニという火魔法、矢でも落ちるのは飛行の魔法が阻害されるからね。

 当らなくとも魔法で落ちるって言うのは、そういう理由が有るの」

サブリナさんが返した。

 

「でも拝戸君は人間で魔力を持ってないぞ。

 魔法も打てないし、銀の剣も振れない」

今度は大山さんが聞く。

 

「そこはこの世界の武器の力に期待ね。

 ビデオでみたけどグレネードやショットガンなんて、下手なウィッチャーの使うものより爆発力はあるわ。

 だいたい鉄の塊の中に火薬を仕込むなんて向こうじゃ考えないもの。

 あの威力は侮れないわ。

 うーん、ここの焼売おいしいわね」

サブリナは美味しそうに焼売を口に放り込んだ。

 

「そうそう、大雅の魔法はどうするの?

 来週当たりから始めないと、間に合うか?」

三塚がサブリナに聞いた。

 

「ええ、わかってるわ。

 それじゃないとアレ使えないものね」

「俺、魔法使うんです?」思わず大雅は聞いた。

「使うというより、馴染むっていう方が正しいわね。

 ほら、弾薬なんかの転送に使う判定坑イン・・・なんだっけ、えーっと」

 

「半固定インベントリね」

夫が正した。

「そうそう、日本語って難しいわね。

 その半固定インベントリは、こっちの世界と向こうの世界をゲートを使わずに、繋ぐ唯一の方法なんだけど、微弱でも魔力の匂いというか流れが必要なのよ。その訓練」

 

「俺に魔力あるんでしょうか?」

「私たちからしたら、向こうの人間より弱いけど。

 まあ、馴染ませればなんとかなると思うわ」

 

「ご都合設定?」

「ちょっと、メタな話じゃないの。

 向こうの人間でも魔術師になる前はただの人間よ、魔法は自分の力を使うものではなく、魔力の流れを感じコントロールする手法なの。

 一部化け物級は存在するけど、内包している魔力なんて誰しも似たり寄ったりよ。

 ようは使い慣れているかだけ。

 こっちは環境魔力自体が薄いから大変なの」

 

翌日からは、各種モンスターに対抗する手法の検討が行われた。

 

「岩トロールはとても固く、剣は弾かれるわ。

 弱点は頭、首、胸部と腹部ね。

 そこは柔らかく剣も通るの。

 魔法ならばどこ撃っても聞くけど物理攻撃なら今言った場所ね」

 

「背中などの岩に見える部分は実際に岩なのか?」

大雅が画面を見ながらサブリナに聞いた。

「岩の様に見えるけど触ってみるとツノみたいな感触ね。

 でも飛竜種の鱗の様な硬質な感じはしないわ」

 

「キチン質や最悪象牙質かもな、どのみち生体物質か」

「こっちの銃でなんとかなりそう?」

「ああ、固さが象牙質と同程度なら、いけると思う」

 

「じゃ次はレイスなんかの対応だけどごめんなさい、こればかりは全く対抗策が思いつかないわ。

 ウッィチャーや魔法使いの場合は対抗できるけど」

「でも物理攻撃してくるってことは、物質化しているってことだよな」

「ええ、レイスが実体化するのは攻撃する瞬間だけ」

「接近戦闘か、どう見ても遠慮したい相手だな」

大雅はスクリーンに表示させているレイスのイラストを見ながら言う。

 

「そうね、レイスはその場所に縛られている事が多いから、避けて通れば問題ないわ行動範囲は30リーチ・・じゃなくって20mぐらいだから」

「次は・・・」

 

 

大方の有害危険生物に対する説明が終わった後、大雅が持って行く兵装の検討となった。

どの道、個人兵装なので大雅自身が兵装を検討した。

 

現代の主流である5.56ミリは、甲殻を持つ生物に対して、あまり効果が見受けられない事、7.62ミリが使える64式小銃では、耐久性と信頼性に問題がある、部品がポロポロ落ちる小銃なんて極限状態では使いたくない。

 

最も多用するだあろう小銃、つまりアサルトライフルに大雅はAKMSを選んだ。

折り畳みストックを持つこの銃は、多数の国でコピー品が作られるほど有名だ。

AK-47の派生として生まれたこの銃は、重量が銃弾込みでも4kg程度と軽い。

折り畳みストックも銃身と直線的に作られており、AK-47みたいに「フルオートでの2発以降は空に向かう」なんてことも少ない。

 

モジュラーマウントも付いているし、暗視スコープやサプレッサーも取り付け可能だ。

ゲームなどでは、サプレッサーを使用すると弾速や威力が落ちる表現があるが、あれはウソ。

殆どの場合、同じかわずかではあるが弾速が上がる。

 

影響が大きいのは、連射速度で、マシンガンなどは連射速度が速くなる。

連射が早いMP-5なんかでは、笑えるほど早く変わってしまう、それゆえ反動のコントロールも難しくなる。

3点バーストも新兵のための機能で、ベテランなら指切りという打ち方で、好きなようにコントロールできる。

連射を続けるような使用法をしない限りは壊れない。

 

音速を超える初速を持つ高速弾の場合、サプレッサーの消音より弾自体から発生する衝撃波の音が大きい。

この銃は初速が780m/sという音速の2倍以上のため消音効果はあまり高くなく、どちらかというとマズルフラッシュを低減させる効果が主体だ。

 

地球世界で現在主流な5.56mm弾頭の高速弾は、対象が人間だけだから通用することで、大型の熊などには、急所にあたらない限り1発で動きを止めることは出来ない。

 

しかも、ケプラーや特殊樹脂層を持つ複合繊維のプロテクターを持っている相手に対しては、損傷が与えられないことが多くなってきている。

最近ではテロリストでさえ、プロテクターは標準装備だ。

アメリカじゃ強盗でさえ装備している。

こうしたアーマープロテクターの進歩により、5.56mmには限界がある事が判って、再び米軍が7.62mmを採用したこともそれが原因だ。

 

AKMSという銃は、AK47と比較してかなりの合理化が計られている。

外観と基本構造、操作方法以外の共通点を探すことは困難であると言っても過言ではない。

スリングスロットもハンドガードの前側押さえに移動し一体化していることからAK47のように金具がガスブロックに当たり、金属音を立てる事がなくなっている。

 

もちろん欠点が無い訳では無い、集弾率はあまり良くなく、2.5~8MOA

 

※MOAとは角度の単位のことであり、1MOAは距離100ヤード(91m)で1インチ(2.54cm)の集弾を意味します。

つまり0.5MOAは距離100ヤードで0.5インチの集弾、距離200ヤードで1インチの集弾となります。

一般的なアサルトライフルの集弾率は概ね2~3MOA

AK47-III型は命中精度を2.5~8MOAと認知されており、これは約6.35~20.32cmの集弾率。

 

集弾率は銃だけで決まる物ではなく弾の精度によっても大きく異なる。

大雅が使用するのは米国で製造された7.62×39弾で、同じく米国で作られたAKMSのコピー品だ。

この組み合わせの場合、MOAは2以内に収まり、最新式の5.56mmの銃には劣る物の、十分な性能と言える。

 

これに大型生物用、集団戦闘用としてGP-34グレネードランチャーを用意した。

AKMSの銃身の下部に取り付けられる。

40mmグレネード弾は薬莢が付いておらず、発射薬もグレネード弾本体に内蔵されているなど、ロケット弾もしくは迫撃砲弾に近い構造をしている。

 

よって排莢も要らず、発射速度が速い割には反動が少ない。

威力半径9MのVOG-25PMまたはVOG-25M榴弾を使用し、雪面や水面を含むあらゆる面に対しても確実に起爆する。

炸薬量68gという世界屈指の装薬量による被害はハンドグレネードの倍近くに達する。

VOG-25PMは、跳躍榴弾で着弾後に衝撃で跳躍用の火薬に点火され、0.5~1.5mk高さに跳躍してから炸裂する。

射程は400m、被害半径は9mと強力だ。

 

PDW(パーソナルディフェンスウェポン)としては、出来るだけコンパクトな物が欲しい。

そこで選んだのはマグプル社のFMG-9だ。

9ミリパラ弾を使用するフォールディングマシンガンで、折りたたんだ状態から0.35秒で初弾が装填されると同時に展開、即座に射撃が可能となる。

 

折りたたんだ状態では幅26センチ程度で、上部のキャリングハンドルを除いた高さは9センチほどだ。

パンツのヒップポケットにも十分入る。

展開時は50センチを超える銃床付きのサブマシンガン形状となる。

 

内部機構はグロック17を踏襲しているため、セミ\フルの切り替え可能で、重量は500gと下手なハンドガンより軽い。

17発の実包をフルに装填しても870gと非常に軽量だし、銃身は6.5インチで初速は380m/sを超える。

17発のマガジンを取り付けたまま折りたためる。

 

大雅は特注のヒップホルスターを使いコンシールドキャリー(外から見えない小型武装)としても利用する。

通常はドロップレッグ レッグホルスターという、ズボンベルトやピストルベルト等に上部フックを掛け、太腿にロックバンドで固定して装着している。

 

このほかにも、EPSマウンティングシステムベルトの一つSARSウェポンリテンションシステム。

これは、アサルトライフルなどの小銃を胸部前面に固定するアイテムで、銃にはソケットを装着し、銃を固定したい装備にマウントを装着する。

マウントにはロック機構があり、一旦固定した銃は脱落しない。

これにより銃をすぐに使えるように保持しつつ、両手を自由に使うことが可能となる。

 

ハンドガンにはSIG SAUER P320を選択した。

米軍でも正式採用されているアースイエローの銃だ。

サブマシンガンと弾を共用したいためと重量が833gと軽いことから選定した。

それでも弾倉にフルに実包を装填すると1kgを超えてくる。

最初はグロック17も考えたが、タクティカルグローブを使用した際にトリガーガードに指が入りずらいことからP320となった。

装弾数は17+1発。

主に近距離の対人を想定している。

 

そして、至近距離で効力を発揮するショットガンも外せない。

選んだのは、M870MCS 14インチ銃身 タクティカルストックだ。

チョークを持たない為、1発弾のスラッグ弾も使用できる上、00バックショット(俗に9粒弾)も近距離兵装としては強力だ。

直径8.38mmの鉛玉が飛んでくのは撃たれる側にとって脅威としか言いようがない。

威力も決して低くはなく、50m以下でも十分な殺傷能力を持つ。

 

 

そんな業務が1週間ほど続いた後、サブリナは薬草などから作った秘薬を持参してきた。

 

「これは私たち達魔法使いが最初に飲む秘薬なの。

 味は酷いけど我慢して飲んでね」

 

そう言ってサブリナは紫色と茶色が混ざったような色の液体が入ったガラス容器を出してきた。

 

「いかにも健康に悪そうだな。使用期限なんか大丈夫か?」

「5年ほど前に作ったものだから大丈夫よ。

 これを飲むと眠くなるからそこのソファで横になって」

大雅は元々薬は苦手だった。

瓶を開けると腐葉土の様なすえた匂いがする。

 

「ううっ~」

「ほら、一気に。味わっちゃダメ」

量は100ccほどだが大雅はこれほどまずい物を口にしたことが無かった。

 

「・・・おぇっ・・・」

「吐いちゃダメ。それ最後の秘薬なんだから。こっちじゃもう作れないんだからね」

 

なんというか心底から嫌悪感がこみ上げるような味だ。

体が心底からブルブルと震えが来るくらい不味い。

暫く椅子に座りテーブルに突っ伏していると、眠気が出てきた。

ソファに横になり、いつ眠ったのか判らなかったが、気が付いたときは夜が明けようとしていた。

体には誰かが掛けてくれたのか毛布がある。

 

「・・・夢を見ていた? しかし・・・・」

夢とも現実ともつかない奇妙な夢を見ていた気がする、しかし起きた途端記憶の領域から急速に消えていた。

 

吐き気も収まり、頭もすっきりしている。

大雅は毛布をきちんと畳みソファの端に置いた。

顔を洗うためにトイレへと向かった。

 

顔を洗いすっきりしたところで、腹が減っていることに気が付いた。

こんな時間に開いているのは、牛丼屋かコンビニくらいのものである。

大雅はコンビニでサンドイッチを2つとウーロン茶を買うと、一旦マンションへと戻り、歯磨きとシャワーを済ませた。

3カ月もこの暮らしなら、替えのスーツやワイシャツを買わねばなぁと考えながら再びスーツに袖を通す。

 

ネクタイは窮屈なのと急遽購入した安物の為ヨレヨレになっていた。

まあ、これは良いかと、ベットの上に放り投げる。

 

完全に夜が明け、かつて狂信者集団が毒ガス事件を起こしたという方向を見る。

何か白いぼんやりとした霧のような物が見えるが、都会で霧とは珍しい。

そんなことを考えながらぼんやりしていると、出勤する時間が近づいた。

足早に歩くスーツ姿の中をゆっくりと歩く。

 

現在の職場に着くと、大山と湊は出てきているが、三塚とサブリナはまだの様だ。

缶コーヒーを開けながら、必要装備のメモを書いていると二人が出てきた。

 

「皆さんおはようございます。

 さて、早々ですが、今日は拝戸君の持っていく装備の一つで、キーアイテムとなる半固定インベントリの確認と、拝戸君が使用できるかどうかの確認です」

三塚は楽しそうに切り出した。

 

「タイガ、体調は如何かしら」

「いや、特にこれといった変調は感じないな」

「それは結構。じゃ、みんなこれを見てちょうだい」

 

サブリナは引いてきた小型のスーツケースをテーブルの上へと引き上げた。

中を開けると、プリズムの様な物が3個と5センチ四方の金属と思われる箱、それにスマホの様だがメーカーの判らない携帯端末の様な物を取り出した。

 

「これが半固定インベントリのセットになるわ。

 この四角い装置はメインコントローラーでこの携帯端末から操作できるの。

 転送は転送空間の設定をこのプリズムで指定することにより、メインコントローラーを含め4か所設定すると、その閉鎖空間をインベントリ内として認識するの。

 ここまでは良い?」

 

「3点ではできないの?」

湊が聞いた。

 

「出来ないことは無いけれど、凄く効率が落ちて転送重量は1kgにも満たないわ。

 それと転送時は座標が移動しないことが重要なの。

 つまり船や馬車で移動しながらの利用はできないわ」

「で、これを使用するには魔力との馴染みが必要だってことか」

 

「ええ、これと同様な物が朝霞駐屯地に置かれるの。

 こちらは親側みたいなもので小型のプレハブ状の箱が準備されるわ。

 ただし、プレハブに入っても、向こう側の空間キャパシティが少ない場合は転送は失敗するの」

「それって、大きさを合わせる必要が有るってこと?」

大雅が聞き返す。

 

「いいえ、だだ単に転送失敗だけ。

 転送する側より転送される側のキャパが大きい必要があるの。

 だから向こうで転送を受ける場合、転送前に大きさを確認すること。

 逆に向こうから転送を受ける場合は大きくしておけば問題ないわ」

 

「次に伝送手順は、転送空間内に転送する物を入れて空間を閉鎖。

 空間は密閉空間でなくとも大丈夫よ、1%ぐらいの隙間は無視されるから。

 閉鎖したらこの携帯端末で転送を指示」

サブリナはスーツケースにプリズムとコントローラーを置き、スーツケースを閉じた。

 

三塚は電話を取り上げどこかへ掛け「送ってくれ」と一言だけ言うと電話を切った。

「作られたどちらかのインベントリに物がはいると携帯端末にプレゼント箱の絵が出るの。

 それをタップすると・・・・はい、青くなったでしょ?

 この状態で閉鎖空間を開けると‥‥」

スーツケースの中にはテディベアが入っていた。

 

「あら可愛いわ、だからこっちの世界って好きなのよね。なんでもかわいいもの」

拝戸もインベントリの設定から、転送の送受テストを行い、問題なく運用できることを確認した。

 

「これで火器の兵站は可能となったけど、食料なんかは無理なんだよな」

「ええ、ただその境界は曖昧なの、たとえば大雅に飲んでもらった昨日の秘薬は、瓶に入っている状態だと送れるのよ。

 つまり「秘薬」で「食品」ではないという認識ね」

 

「じゃ"砂糖"は送れないけど化学物質としての「サッカロース」ならOKと言う事か?」

「そういうこと。

 魔法世界から来た私にとっても、意外な事実だったわ。

 塩も"食塩"としてならダメだけど"塩化ナトリウム"という化学物質ならOKなのよねぇ」

 

「胡椒なんかは?」

未発達文明での食生活は厳しい、せめて塩と胡椒ぐらいは欲しかった。

 

「粉となっているコショウの場合は、だめね、食品の概念だから。

 でもなぜか粒状態の"ペッパーシード"としてなら出来ちゃうのよ。

 コショウは食品だけど、ペッパーシードは、単なる実を乾燥させたもので、薬扱いになるみたいね。

 生の実や種はダメだったけど」

 

「訳わからん」

「私もよ、これについては追試が必要ね」

「ところで、俺の場合、秘薬で使えるようになったけど、こっちの世界はだれが飲むんだ?」

「飲まないわよ、こっちの方には魔力を充填した魔石を使うから。

 それに最悪私が居るしね」

 

「三塚さん、可能であればサブリナさんも一緒に行った方が早いと思うんだが」

大雅は三塚に聞いた。

 

「まあ、そう思われますよねぇ、普通。

 実はサブリナ、妊娠しているんです。

 妊娠中の転移は危険の予測が付きません」

 

「私から説明するわタカシ」

少し顔を染めたサブリナは目を閉じて説明を始めた。

 

「向こうの世界での魔術師やウイッチャーは、生殖能力を失うとされているの。

 実際、魔術師の子供が出来たって話は無いしね。

 でも女魔術師の場合、生理はあるの、5年に1回ぐらいだけどね。

 もちろん普通の女性は毎月あるわよ。

 だから、女魔術師は自分の子供ってあきらめている訳。

 でもこちらへ来たとたん毎月来るのよねぇ、面倒だけど。

 それでもしかしたらって考えた訳よ。

 もしかしたら「できない」んじゃなくて「できる機会が少ない」んじゃないかと。

 で、タカシに頑張ってもらった結果、出来たってわけ。

 今、3カ月よ。

 それに言って無かった? 処刑されているのよ。

 そんな人物がウロチョロしてたら間違いなく追われる身ね」

 

「処刑は気の毒だが、子供が出来たのはおめでとさん」

「だな」

「おめでとうございます」

皆、お祝いを言う。

 

「と、言う訳でしてねぇ、サブリナを危険に晒す訳にはいきませんし、あくまでも民間協力者ですから。

 それにこちらの世界としての目で、情報収集する両面から拝戸君に白羽の矢が立ったという事です。

 サブリナの話では、湿地帯に可燃性のガスが見られる地方もあるようで、これがもし地下ガス田、ひいては油田である場合、日本のメリットは非常に大きなものとなります」

 

「いきなり話が生臭くなってきたな」

「多かれ少なかれ国の考える事なんて同じ様な物です。

 まあ、資源調査の方は、あまり注力しなくともOKです。

 どのみち本格的な調査でないとはっきりしませんし、現在は石炭、石油、天然ガスなどの可能性がある場所の、ピックアップだけでも十分ですから」

 

「とは言っても専門家じゃないから、油田とか希少金属や貴金属の調査については素人なんだが」

「ええ、向こうの世界から送ってもらう鉱物資料から、ある程度推測できますから、こちらから指示を出します」

 

それからは、持っていく装備の手配や、特注装備の依頼。

銃火器の習熟の為、演習場へ通ったり、現地語をサブリナに教えてもらっている間に時間はすぐに過ぎ去った。

季節は、ちょうどこれから初夏にはいろうとしている時期だ。

サブリナが言うには、季節は日本の北海道に近いらしいが、そんなに寒冷化しないらしい。

 

「で、三塚さん転移する場所は何処でするんです? まさかここ?」

「それは無理です。場所は大阪の大仙陵古墳です」

「もしかして前方後円墳の?」

「ええ、世界三大墳墓の一つ、その中でも最大規模の墳墓です。

 現在は宮内庁が管轄しており誰の立入も認めてません」

 

「私も3年ぶりよね。

 まさか、地球のこの国の王族の墓だとは思ってもみなかったわ。

 くたくたに成るまで土を魔法で掘って、やっと外へ出たと思ったら、川だし。

 泳いで渡ったら全く知らない世界だったのよね。

 お腹はすいてるし、眠いし、怖いし、煩いし、嗅いだことない匂いがするし」

 

「どうしてこの地に?

 いえ、言いにくければ構いませんけど」

大雅はサブリナに聞いた。

 

「私、向こうの世界では、王に仕える相談役だったの。

 国の名前はケイドウェン王国、その王のヘンセルト王に仕えていたの。

 もともと魔術協会の評議員でもあった私は、ヘンセルト王に招聘されたの。

 それも無理やりに近い形で。

 だから私は、おもいっきり我儘を言ってやったわ。

 だって、戦術や戦略も判らない私に相談されたって、それで?

 という気持ちだったの。

 エイダーンとの戦争で父は、駆り出されそのまま帰ってこなかった。

 もちろん何の保証もなかったわ。

 母も重なる飢饉と、私を育てるため体を壊し間もなく亡くなったの。

 それから旅をしていた女魔術師に拾われ弟子となり、たまたま適性があった私は魔術師協会の中で力を付けていった。

 そんな中で王の目に留まるのも、時間の問題だったのでしょうね」

 

サブリナはお気に入りのカフェモカを一口飲むと続けた。

 

「エイダーンとの何度目かの戦いで、ローマークを巡る戦いに駆り出されたの。

 司令官は無能で、敵味方入り乱れる状況まで追い込まれたの。

 とにかくもう全てが嫌だった。

 戦いも怒号も血や肉の焦げる匂いも・・・みんな無くなってしまえばいいと思ったの。

 だから私は持てる力の全てで、広域魔法を放ち火の玉を降らせたの。

 結果は三千の兵士が敵味方関係なく、戦闘不能となりローマークは奪われたわ。

 私は軍の裁判にかけられ有罪、火あぶりの極刑が下されたの。

 ひどくない?」

 

「碌な事にはならない、そんな気がしていた私は、事前に若い女の死体を準備して、幻惑の魔法をかけ身代わりとしたわ。

 兵士たちに引きずられ燃やされる彼女には、ちょっと悪いと思ったけど、生き残るためには必要だった。

 私は夜の闇に紛れ、北へと向かったの、故郷の方へとね。

 子供のころ、近寄ってはならないとされていた遺跡へとたどり着き、そこで転移ゲートを開いたの。

 初めて見る遺跡だったけど、魔力の流れがとても強くって、これなら遠くへ飛べるって思ったわ。

 通常、ゲートの構築は明確な方向と場所を指定するの。

 疲れ果てていた私は、そんな基本的な事も忘れ、ゲートを開いたときに、本来ならオレンジ色の光が見えるはずのゲートが、紫色の光を放っているとも気付かずに飛び込んだわ。

 で、たどり着いた先がこの地だったの」

 

そこからは私が話しましょう。

三塚がサブリナの眼差しを受けて話し出した。

「彼女がたどり着いた先は、大仙陵古墳の石室でした。

 2つの石室のうち大きな方に転移したわけです。

 通常ここはご存知のように宮内庁の管理下に置かれ、一般民はおろか政府関係者でも立入りは制限されています。

 残りの力を使ってなんとか石室から出た彼女は、ずぶ濡れ、疲労困憊の状態で、向陵公園でベンチに座っている所を保護されました。

 言葉も通じず弱り切っていた彼女を警察は保護し、外務省や政府機関の各局に協力要請が出されました。

 なにせパスポートもなく、コスプレ紛いの古風なドレス一つ、持っていたのは、数枚の地球には存在しない、意匠の金貨や銀貨だけ。

 怪しげな薬の様なガラス瓶が数本。不法移民や旅行者とも見えず、その扱いに困っていました。

 内調に話が来たのは、彼女が保護されてひと月ほどたってからです」

三塚はサブリナのカフェモカを受け取り一口飲んだ。

 

「彼女が古風なロシア語かポーランド語に近い言葉を話すと判ってからは、状況は明らかになりました。

 事案は正式に内調に引き継がれ、私が担当となりました。

 彼女の話す内容から多くの場所や時代、あらゆる地域の情報を調べても合致するものは無く、一つの結論に我々は到達します。

 衣類や持っていた物の放射性炭素測定の結果などからこの地球いや銀河系の物とは合致しない事が判りました。

 つまり彼女はこの地球上の場所ではないところからやってきたと。

 現在日本の状況は南シナ海ルートの不安定化により、喉元を押さえつけられた状態にあり、一触即発の状態が続いています。

 ロシアからの原油だけでは同じ東側ですので、万一の供給不安は付きまといます。

 そこでセカンドオプションの一つとして、彼女の世界の資源や流通ができないかと検討しています。

 それがあなたが行く理由です」

 

「ならば外交官を送った方が早いだろうに」

「普通の世界ならそうでしょう。

 しかし、かの地は大規模な紛争中で、なおかつモンスターが跋扈する状況です。

 話を聞くに文明は、発達途中でなおかつ命の値段はデフレ状態。

 まして現在は公式に動けない状況です。

 国交を結ぶにしても、慎重な調査と根回しが必要です。

 サブリナの話から大まかな事は判っていますが、現在はそれからすでに5年、状況も変わっていると思われます。

 ゲートを開いていれる時間も数秒、本来はある程度安定しているはずがこの状況は何らかの理由があると思われ、その調査に人員を送り込み調べる必要があったのです」

 

「なるほど、理由はわかった。

 だが一人では出来る事は限られる。

 時間も掛かりそうだしな」

「ええ、向こうではまず協力者を探してください。

 イェネファーという女性です。

 その女性は、魔術師なのですが3年前はノヴィグラドと言う場所に居たようです」

 

「ただ、私たち魔術師はゲートで自由に移動できるの。

 そこに常にいるとは限らないわ」

「ええ、ですからとりあえず探すのは、女魔術師となりますねぇ。

 食料の兵站ができないことから、オレンと呼ばれる通貨を準備しました、まあ、精巧な偽造ですが金の含有量や組成は同じです。

 貴方にはこれで初期調達をお願いします。

 調査期間が長いのもこうした難しい状況からの理由です」

 

 

 

そしてついに転移ゲートを潜る時がやってきた。

大仙陵古墳の石室へと入り込み、そこでゼムリアへのゲートを開く。

周囲には学術調査という事だが、それにしては厳重な警戒だ。

三塚、サブリナ、そして大雅の三人は特設のゲートを通って大仙陵古墳の石室へとたどり着いた。

 

「ここが大仙陵古墳の石室なのか、良く利用許可が下りたな」

「本来、此処は天皇家の個人的墳墓とされています。

 ですから、普通はこんな事態は決して許可されなかったでしょう。

 ですが、サブリナが転移できたという事は、他の誰かが転移して来る事はあり得る事です。

 そう言った事情から、今回のミッションは許可されました。

 いや~苦労しましたよ。

 宮内庁とすったもんだで、1年もかかりましたから」

 

「こんなに、がらんとしてたんだ」

「ええ、かつては副葬品や石棺が有ったのですがね。

 今回の件で搬出され保管処理に入っています。

 くれぐれも壁には触らないでくださいね、貴重な文化遺産ですから」

まさか、一般民の目につくところで装備する訳にも行かないので、石室の中で装備を装着していく。

 

何が有っても良いようにと、フル装備の状態だ。

装備は総重量30キロを超える。

背中には7.65ミリのアサルトライフルであるAKMS、それとショットガンのM870MCS、14インチ銃身でタクティカルストックを付けたものだ。

左腿のホルスターにはマグプル社のFMG-9というマシンガンが17発の9mmパラベラムと共に、コンパクトに折りたたまれている状態で入っている。

アサルトライフルに取り付けるグレーネードや弾薬、ドローンはフジコーワ工業社製のモジュラーサイズコンテナの中だ。

 

服装も自衛隊装備とは異なるものだ。

クリプテック社のハイランダー迷彩を施したタクティカルスーツは、アラミド繊維の1.4倍以上の防刃強度を持つスペクトラ繊維をベースとしてスペクトラガード繊維(ファイバーグラスとステンレス線にスペクトラ繊維を巻き付けたもの)が数本おきに織り込まれている完全な防刃仕様だ。

 

それにタクティカルベスト、調光レンズ付きでスマートグラス機能を持つタクティガルグラス、弾道着弾点計算機内臓の中長距離狙撃手用高密度ポリカーボネート製ウォッチ。

 

足はベルヴィル社のタクティカルブーツで固めてある。

頭はEXFIL社のタクティカルヘルメットで防弾機能は無いが、軽く各種のアタッチメントが取り付けられるピカティニーレールが付けられている。

米軍でも特殊部隊に採用されているものだ。

 

器材ととりあえずの物資を収容したコンテナは、キャスターがついていないので、ラジオフライヤーワゴンのようなものに縛り付けられている。

これを引きずってゲートに飛び込むのだ。

 

「さて、拝戸大雅君よろしく頼みますよ。

 無事で帰ってきてくれることを信じます」

「ええ、では行ってきます」

「じゃ、ゲートを開くわよ、開いたらすぐに飛び込んで」

「了解した」

 

カートのハンドルを握りしめ、腰を落とす。

サブリナが小声で呪文を唱えるとドンッという空振と同時に紫色の窓が開いた。

一気にその中へとカートを引きずって飛び込んだ。

 

俺の長い物語はこうして始まった。

 

 

 

 

 

 

 




ウィッチャーⅢの世界は、ゲーム版と小説版さえ異なるなど、なかなか題材にし難い事も、この二次小説が少ない要因かもしれません。

実際、書くに際してかなりご都合主義も盛り込まねば、成り立たない等、苦しい展開も有ります。
時代背景も、地球の18世紀ごろなのですが、ゲーム版では見る限り16世紀~17世紀ごろに感じるのも、魔法と怪物と言う二つの要素を異世界ともいえる、この世界に溶け込ませるための物だったのでしょう。

大まかなプロットは出来ておりますので、完走は出来るのですが、読者様の反応が少ない場合には、短めで終わるかもしれませんが、ご容赦の程。
因みに、残酷描写や流血描写が有りますので、R15指定とさせて頂いております。
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