Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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星を渡る船

 

 

 

まだ陽が上る前、大雅は腕時計の振動アラームで目覚めた。

左手の時刻を見ると、午前5時、それは見慣れたDW-5600E-1では無いが、この世界の天測を基に、24時間計に変換してくれる機能を持っている。

地球の様に、標準時間と言う概念も無いこの世界では、唯一頼れるツールだ。

 

体の方も、大分この世界とも体の時間的な整合性が取れ、体感の時間とこの世界の時間がリンクしてきている。

ルミナはまだ毛布に包まれ夢の中だ。

タクティカルグラスを掛けると、視界の中に、転移からの時刻、日本の現在時刻が表示される。

 

小型ストーブを出し、お湯を沸かしてお茶を入れる。

夜空は少しづつ濃紺から紫色へのグラデーションに、変わって行きつつあった。

 

 

「ふぁ~・・・はよ・・・」

「起きたのか。お茶は要るか?」

「ええ、貰うわ」

 

大雅はルミナにお茶を渡すと、周りに張った電気柵を撤収し始めた。

ナジャムと借りた馬も、近くに居たのか寄ってきた。

 

馬に荷物を積み、東へと向かう。

目的地はここから1日の距離、丘陵地帯を考慮すれば30キロ程度だろう。

 

暫く行くと左手に山脈が見えてきた、幾つかの丘陵を作りながら今の場所へと繋がっているが、現在歩いている場所は少し窪地の様になり、真っすぐ東へと向かっていた。

 

大雅はナジャムを止め、二つの割れ岩の方へと振り返ってみた。

其処には前後にズレながら並ぶ割れ岩が見え、上から1/3あたりに大きな円形の穴が見えた。

再び目を前に戻すと、真っすぐに溝がづついている。

 

「なるほどな」

「え? 何がなるほどなの?」

「あれを見て見ろ、山の真ん中に穴が開いているように見えるだろう?」

「ええ、ここから見ると穴の開いた山みたい」

 

「大きな何かが、空からあの二つの岩山に当たり、岩山を崩して穴の様に見える様に削った。

 その後、この場所に当たって溝を作った・・・そう考えればこの地形の謎は解ける」

 

「星でも落ちて来たのかしら」

「その可能性ももちろんある、金属の塊の場合空気中や山に当たっても砕けない事も有る。

 隕鉄というやつだな。

 あともう一つ宇宙船の不時着だな」

 

「宇宙船?」

「星が球体で有る事は昨日話したな?

 空気や水が有るのは惑星のごく表面だけだ。

 惑星から離れると、空気も無く水は凍って固体になるか陽の光で蒸発する。

 そういう場所を俺たちは宇宙と呼ぶんだ。

 そしてそこを行く船を宇宙船と呼ぶ」

 

「タイガの世界にも有るの?」

「ああ、やっと一般的になりつつあったよ。

 俺たちが初めて宇宙に出たのは70年以上も前の事だ。

 月にも行ったし、今はもっと遠くの惑星への計画が進められている」

 

「そこで繋がるのはアイン・シーデの神話だ」

「エルフの祖が伝説の船でこの地にたどり着いたって言う?」

「その一節を知っているか?」

 

ルミナは馬に乗ったまま静かに語りだした。

「伝説の白き船に乗りて、祖はこの地に降り立つ。

 長き旅路は終わりを告げ、再び我が世の春を紡がん。

 古代エルフの神話だわ」

 

「判り易く後世に残すためにそう伝えたのだろうな。

 しかし、古代エルフがもし他の星からの移住者だったら?

 白い船が星を渡る為の宇宙船だったら?」

「・・・・だとしたら大変な発見よ!」

 

「結論を急がない方が良い、隕石の可能性だってあるさ。

 まずは先を急ごう、明るいうちに着きたい」

「ええ」

 

途中、30分ほどの昼を挟んで、夕暮れを迎える前に遺跡へとたどり着いた。

大雅はそのまま少し通り過ぎて遺跡の先を見ると、割れ岩から続いている溝はこの遺跡を最後に無くなっている。

 

遺跡を見ると何やらいくつかの噴出穴の様な物が規則的に並び、それは大雅の知っている物ではロケットエンジンの噴射口に酷似していた。

 

「ほぼ、間違いなく宇宙船だな、外皮は相当に劣化しているがセラミックだ」

大雅は胸からナイフを取り、一部をガリガリと削って確かめた。

 

「で、これがその宇宙船だとして、お宝は?」

「星間移動、つまり星を渡る船としては小さすぎる。

 これは探査艇ももしくは脱出艇と考えた方が良いだろう。

 俺の世界でも母船ごど降りるなんて計画は立てるやつは居ない。

 何故なら再び宇宙に出る必要に迫られた場合は、その必要エネルギーが莫大な物に成るからだ。

 あと、何年、下手したら何百年もかかる宇宙の旅には世代交代、食料をはじめとする自給システムが必須だ。

 そうなると最低でも数百人規模、そのインフラを支えるシステムは巨大な物にならざる負えない」

 

斜めの紡錘形とみられるその遺跡は、丁度柔らかな土の丘陵に突き刺さるようにして斜めに埋まっていた。

小型とは言っても太さは優に30m以上ありそうだし、全長は少なくとも100mどころでは無いだろう。

 

「でも、これがもし宇宙船なら、山に当たって地面を削ってここまで来たってことよね・・・宇宙船てそんなに丈夫なの?」

 

「いや、移住や調査のための宇宙船ならそんなリスクの高い着陸方法はしないさ。

 たぶん軟着陸できない理由があったんだろう。

 岩山に孔を穿ち地面を削ってなんて芸当は、危険だしそのための強度は無駄なんだ。

 この距離まで来て止まったという事は、少なくとも音の数倍どころではない速度があったんだろう。

 考えてもみろよ、知らない星に降り立つとすれば、こんな埋まった形で降りるなんてありえないだろう?

 水に浮かべる船に例えるなら、船を止めるために座礁させるような物だ」

 

「たしかにそうね」

 

大雅は船の横の方へと回って見た、1m四方のハッチの様な物が有り、その上や周囲には無数の傷が有る。しかし、深く削った物は無く、表皮1センチほどが剥がれても下に有る固い層は削れていない。

 

「ずいぶんと苦労した痕があるな」

「どう? 開きそう?」

 

「そう簡単には行かなそうだ、間違いなくこれは複合装甲というものに似ている。

 厚みも判らん、開くのに数日かかると見て言いな」

 

早々に二人は野営の準備を始めるとともに、大雅は樹脂コンテナを使い、大型の電動ドリルと有機燃料電池、それにファイバースコープを取り寄せた。

 

宇宙船の映像も送ってあるので、特に機種を指定しなくとも必要十分と思われる機材が送られてきた。

 

暗くなってきたのでライトを当て、早々にドリルの歯を当てた。

1センチほどはガリガリと結構簡単に掘り進み「なんだ楽勝じゃん」と思ったとたんギャリギャリギャリと嫌な音を立てた。

 

切削オイルを穴にスプレーし、刃を低速で当ててもなかなか掘り進まない。

ドリル刃が1本ダメになっても、削れているのはほんの数ミリ、とにかくパフォーマンスが悪い。

爆破やガス切断機も考えたが、内部が判らない以上は危険だとして止めた、結局穴を開けるだけで丸一日かかってしまった。

 

翌日には、切削屑を地球に送って分析を依頼居たところ、表皮は地球には無い窒化ホウ素のセラミック、その下が2ホウ化レニウムというレアメタルの合金であることが判明。

 

「どおりでくっそ固いわけだ」

 

穴の熱が冷めるのを待ち中へファイバースコープを入れる。

 

「窒素70%、酸素26%、二酸化炭素2% あとは希ガスと多々な炭水化合物だな。

 少しばかり炭酸ガス濃度が高いが一応無害だ」

小型の分析計から送られるデータを見て大雅は呟く。

 

「それってどういう意味?」

「まあ、人が入っても大丈夫ってことだ」

 

「なら、早く開けてよ」

「そう急くな。

 もしこれが宇宙船のハッチなら、爆発物を使って開くことも想定しなくちゃならん。

 もしそうなら吹き飛ぶドアに、体を持っていかれるぞ」

 

その間にも大雅はスコープに付けられた高輝度LEDランプの明かりを頼りにドアの周囲を調べた。

 

「ドアを開ける非常用レバーとみられる物がある、作動方法は不明、ルミナ、読めるか?」

スコープをルミナに渡し、確認してもらう。

 

「うーん、押す・・・・離れる・・・ダメ、後は読めないわ。

 後の文字がかすれてて読めないもの」

 

「非常用のレバーの様だな、押すことで動作するのだろう。

 あと離れろという意味だろうな、爆薬の可能性が高くなった」

 

「これで押してみたら?」とルミナはスコープを指して言った。

「いや、そのスコープの力では無理だろうな、そんな簡単に・・・」

と言った所で「押せたけど・・・なんかガラスみたいなものが割れたけど・・」

 

ピッ、ピッと微かな音が聞こえた。

嫌な予感がした大雅はルミナを脇に抱えて飛びのいた。

目の前で、ボシュッと言う音と共に、ドアパネルが数メートル吹っ飛ぶ。

 

「ふぅ・・あぶねぇ、火薬だったらお陀仏だったな。圧縮ガスか?」

 

目の前には1m大の口がぽっかりと開いている。

 

 

「ルミナ、頼むから何か動かす前に言ってくれ」

「わ、分かったわ」流石のルミナも驚いていた。

ルミナを外に待たせ、内部へと入っていく。

 

「大丈夫だ、中は狭いが入ってきて良いぞ、くれぐれも何も触るなよ」

「わかってる・・・んしょ・・・ホント狭いわね」

 

「ああ、ここは機関部みたいなところだろうな、宇宙船確定だよ」

「星を渡ったっていう?」

「いや、さっき言ったように、この大きさで星を渡るのは無理だ。

 大きさから言っても小さすぎる。

 いいとこ着陸艇か脱出艇だろうな」

 

内部はパネルや部品の様な物が散乱している、着陸時に相当な力が掛かったことは明白だ。

 

「問題はこのドアらしきものが開かない事だ」大雅はドアとみられる部分を叩きながら言った。

「さっきみたいに吹き飛ばないのかしら」

「緊急用ドアじゃあるまいし、内部にそんなものは普通は無いな」

 

ドアについている白い手のひら大のパネルに何気なく手を当てると、ぼんやりと光るだけですぐに消えた。

 

「何かしらのエネルギー源は生きているみたいだな」

「だが反応は無い、これ以上は無理か」

 

ルミナは大雅がしていたようにパネルに手を当ててみた。

すると今度はオレンジ色に光り、ゴトッと音がすると僅かにドアが開いた。

 

「ルミナ、なんかしたのか?」

「タイガと同じように手を当てただけよ。

 なんにもしてないわ」

 

「とにかく入ってみるか」

所がドアが重いのかいくら力を入れてみても開かない、ドアは数センチの隙間を開けているだけだ。

 

大雅は一度外へ出で、小型の油圧ジャッキとパンタグラフジャッキを何個か転送してもらえるよう依頼した。

 

「船のエネルギー源が回復できれば楽なんだろうが、力づくでいくしかないだろうな」

「そうね、すごいワクワクするわ」

 

「俺の世界の物語では似たお話が有るんだが、大抵の場合、碌な結果にはならんがな」

「え? 大雅の世界にもエルフが行ってたの?」

 

「いや、作り話での世界だよ。

 ただ、似たような話は神話的に残っていてね。

 正しい解釈は誰も判らんが」

「なーんだ、でも得てして神話には真実が隠されている場合があるものよ」

 

ジャッキを持ち再び船内へと移動し、ドアにジャッキを掛け無理やり開く。

真っ暗な中にLEDライトだけを頼りに、大雅が先頭になってP320を構えて入って行った。

内部は決して広くない通路だが、配管や配線の様な物が垂れ下がり、行く手を阻む。

カーゴベイの様な場所は、幾つか6角形の箱が残されてはいたが全て空っぽだ。

 

「手掛かりの様な物が有ればいいが・・・」

次のドアらしいものは見つけたが、今度はルミナが手を当ててもパネルが青く光るだけでまったく反応は無かった。

 

「これ以上進むには破壊するしか無いようだな」

「ドカンと行っちゃう?

 それならあの文字の有る所の写真撮っておいてよ」

「全部記録してあるさ」

「ならいいけど、なにか本でも無いのかしら」

 

「まあ、期待薄だな。

 俺の世界でも主流は電子媒体、つまり電気的な記録に変わっていた。

 紙なんかは珍しいものでは無いが、古い記録媒体だ」

「こっちは、逆の意味で貴重なのよね、でも目さえ見えれば読めるわ」

「そう言ったローテクの方が残る確率は高いんだ」

 

結局いくつかのカーゴペイを過ぎたが何も見つからなかった。

 

「どうする? 進むか?」

「なによ、お宝も何もないじゃない」

 

「もし、脱出したとなれば何も残ってないだろうな。

 使える物はみんな持ち出しただろうし、遺体が一つもない。

 せめて動力が戻れば何かわかるかもしれないが」

 

「もう・・・一つも実入りが無いなんて」

「そういう意味では、遺跡より何もない可能性が高いさ。

 いつまでも此処に留まってはいなかったんだろう。

 C4も持ってきたのはこれが最後だ、夜も遅いしこのドアを破ったら一度外へ戻ろう」

「ええ、なんかすごい場所に見えるのになんにもないなんて・・・せめてアイン・シーデを裏付ける何かが有ればと思ってたんだけどなぁ」

 

「脱出艇や着陸艇に、普通貴金属類や金貨は詰まんからな、まして不時着した後なら使える物は全て持ち出したはずだ」

「もう、せっかくここまで来て悔しいわ」

 

「歴史的価値は有るだろう」

「それはそうだけど、ちょっとがっかり」

 

大雅は取り寄せたラッシングベルト、チェーンブロックなどを使いドアに開けた穴からフレームに繋いだ。

 

これでドアを破壊できなければC4で破壊するしかなくなる。

チェーンブロックを回していくと、ミシミシとドアが歪みだした。

 

「ルミナ、ドアが外れた時に危険だから俺の後ろに」

「ええ、わかったわ」

 

さらにチェーンブロックを締めあげると、メキンッという音共にドアがくの字に曲がり剥がされた。

 

「意外に脆かったな、まあ、内部ドアならこんなものか」

構造を見るとうまく応力を分散する構造になっていて、全体的に強度を保っているような構造だ。

 

「さて、けっして俺の前に出るなよ」

大雅は、P320を持ちドアの奥へと入って行った。

通路の片側には居住区だったのだうか、似たようなドアが開いたままいくつも連なっている。

たまたま本の様なものを見つけたが、持ち上げようとする時点で粉になって崩れていく。

 

使い方の判らない端末の様なものも有ったが、2000年以上の間にバッテリーが死んでしまっているようだ。

 

個人用のトランクベイのような場所も見かけたが、ほとんどが空っぽで入っていてもゴミの様な物ばかりだ。

 

「ね、タイガ。なんか不気味」

「廃屋と同じようなもんだ。

 死体が無いだけマシだ。

 争いの痕はないみたいだな」

 

「何処へ行ったのかしら」

「さあな、伝説通りなら各地へ散ったのだろうな」

 

「むっ、このドアだけは生きているようだな、ルミナ、試してみてくれ」

「ドアに何か書いてあるわね・・・・ヴェ・・・ヴェローダシカ?」

 

「意味は?」

「慈しむ者とか護る者という意味に近いわね」

 

ルミナが手を当てるとコトッという音と共に少しだけドアが開いた。

大雅がドアに手を掛け、開く。

 

「よっ・・・中には・・・カプセルの様な物があるな・・・・まさかコールドスリープ?」

「なによそれ」

 

「体を損傷の無い方法で低温または凍結する方法だ。

 俺の所でも行われているが、まだ安全に解凍する方法が見つかっていない。

 だが理論上は不可能では無いが、長期の旅には不可欠な要素だ」

「数千年前の人がそんな技術を?」

 

「あり得るさ、俺の所にも説明のつかない遺物や遺跡がたくさんある。

 潰えた文明も数多い。

 高度な文明でも意外に脆いものさ」

「でもなんでそんな高度な文明なのに、それを失ってしまったの?」

 

「高度な文明を維持するには大きなインフラが必要だ。

 巨大なエネルギー、動力、素材や原材料、それをコントロールし利用する能力、とれが欠けても同じ生活は維持できない。

 この船が今の所俺たちに何のメリットも無いのと同じだよ。

 これが維持で来ていたら、怪物や人間なんかは太刀打ちできなかっだろうよ。

 しかし、何かが足りなくて文明を維持できなくなった。

 その後1000年以上も経ってこの星の生活に馴染んだんだろう。

 天体の合とやらで急激に増大した怪物がそれを加速したんだろうな」

 

「じゃあ神話は正しかったていう事?」

「さあな、それを調べるのがお前さんの仕事だろう?」

 

「いずれにしても、生きてはいないだろうな、2000年以上も前の人だ。

 見たところ動力も何も動いていないようだ。

 もしかしたら墓の代わりなのかもしれん、先を確認したらいったん出よう、もうすぐ夜だ」

「そうね、今日はここまでにしましょ」

 

二人は、船外へ出るとその近くでキャンプを張った。

 

大雅は破壊したドアの一部や、内部の小物を集め地球へと送った。

今後の追加調査の有無に関しては、地球からの回答次第だという他ない。

 

キャンプの準備を手早く行い、今日の資料としてプリントアウトを始めた大雅は、ルミナからいろいろと質問を受けていた。

 

プリンターに繋がれている小型の燃料電池や、同時に行っているバッテリーへの電源に大きな興味があるようだ。

 

「俺の世界で多くの物は、バッテリーと呼ばれる電気を溜める物を利用している。

 このタブレットと呼んでいる端末もそうだし、俺が掛けて居る目を覆っているグラスもそうだ。

 魔法が無い代わり、科学と言う学問が発達したことは以前にも話したが、加速度的に科学は発達してきた。

 ここでは離れた相手と話をしたい場合、どんな手段が有る?」

 

「そうね、時間が掛かっても良いなら手紙ね、但し着かない可能性もあるわ。

 あとは鳥を使った伝達、これは伝鳥を飼っているか、飼っている人に頼むしかないわね。

 アルド・カレイには有るけど、距離が有れば有効な手段だわ、後は魔術師ならメガスコープが使えるけど、全員が持って居るとは限らないし、一般には利用を公開している人はいないわ。

 魔力の問題も有るし」

 

「俺の世界では、瞬時にあらゆる人と連絡が取れる。

 よほど貧困者でない限りはな。

 丸一日あれば星の裏側にまで行くことが出来る。

 だが決して精神的にも豊かかと言われれば疑問が残る。

 いつもどこかで戦争をしているし、同じ部族や国の中で戦争をしているところも有る。

 国によっては貧富の差も大きい、俺が住んでいた国では年間1900万トンもの食料が無駄に捨てられる一方、年間300万人以上が世界で餓死している。

 物が有るからと言って幸せだとは限らないいい例だよ。

 その物を自分の物にするため命を削って働く、遊ぶ暇も無くな。

 これのどこが幸せかと疑問に感じるときも有る。

 不便でも精神的に満ち足りていれば幸せな物さ」

 

「それには同意できるわ。でも飢えと戦うよりは、まだ幸せよ」

 

翌朝、早くから船の調査を再開した。

先へ進むと、外角が潰れ土砂や瓦礫で埋まっていた。

ここまで進んでも得られる物は無く、学者であればいろいろな事が判るかもしれないが、明らかに地球の物と異なるのは判るが、全体的に宇宙船なのかもと判る程度だ。

 

居室が有るという事は、ある程度の期間居住する事を示しているのだが、それ以上の事は解らなかった。

なにせ、前方と思われる部分が潰れ破壊されているからだ。

地球からの指示で、幾つかのサンプルや物品を転送する。

 

「これ以上は何も無いようだな」

「せっかくここまで来て、苦労して入り込んで何も無し?」

 

「神話を裏付ける物が見つかっただけでも良かったじゃないか。それが本業だろう?」

「そ、そうなんだけどさ・・・何となくガックリ」

 

「さて、街に戻るか」

「ええ? もう?」

「この船体以外には何も見つからないしな。

 たぶん全て持ち出されたんだろう、生きるためには」

「そうね、ここはまた後で調査する必要があるわね」

 

帰り道は何もなく、2日後の午後にはアルド・カレイに到着し、ルミナの家で残りの写真をプリントアウトした。

 

「今日はどうするの?」

「どうって?」

「泊まる所よ」

 

「宿を探してみるが、無かったら野宿でも構わんしな」

「そう、意外とあっさりしているのね」

 

ルミナは革袋から宝石をいくつか取り出すと大雅に出してきた。

「報酬はこれでいいかしら」

「十分だ、いいのか?」

「ええ、まだ沢山あるし」

 

「換金はどうしている?」

「デュート通りに入って3本目の路地の角に宝石商があるの。

 バリダスブラザース宝飾店という店よ。

 信頼が置けて公正な価格で引き取ってくれるわ。

 現金が入用?」

 

「現金を必要な場面は少ないが、宿や食事でな。

 ただ、大量に換金はしたくない、硬貨は重いしな」

 

事実大雅の懐は現金が少なくなってきており、宿と飯代で精々10日ほどのものだった。

使用できないフロレンスやオレンの金も結構あるが、ここらでは支払いを断られることも多い。

 

「其処では換金もできるのか?」

「両替は銀行ね、宝石店の筋向いにあるわ」

 

「では、ここでお別れだ。

 そのうちまた会えたら調査の結果でも教えてくれ」

「ええ、いい旅を」

 

ルミナはドアの柱に背をもたれさせたまま、じっと大雅が去っていくのを見つめていた。

 

「これでいいのよ・・・・さ、お風呂でも入ろっと」

 

 

 

 

ルミナと別れ、大雅は街の掲示板へとたどり着いた。

碌な依頼が無い事は平和な証拠だが、ウイッチャーにとっては仕事が無い事を意味する。

しかし、それ以前に今日の宿探しが課題だ。

そこへ掲示板の一つに広告を見つけた。

 

「ふむ、各種治療薬はエルヴィラ薬店まで。

 デュート通り63番・・・宝飾店の近くだし当たってみるか」

 

大雅は夕暮れとなり始めた街の中をナジャムを曳きながら歩いて向かった。

 

「ここだな」

看板はまだ新しく、新しい店舗の様だ。

既に店の中には黄色い明かりが灯っている。

 

「こんにちわ」

「あら、いらっしゃい!

 ようこそ当店へ。

 胃の痛み、肩腰の痛みから頭痛まで。

 よく効く傷薬は如何?」

 

中には年の頃、30ほどの女性がカウンター越しに居た。

 

「そうだな、ここでの支払いはフロレンスやオレンでも可能か?」

「うーん、不可能じゃないけどできればクラウンが良いわ。

 向かいの銀行まだやっているから行って来たら?」

 

「いや、手持ちが無いわけでは無いが・・・では、これで買える分の主だった薬草をくれないか、紙紐に名前と用途を書いて付けてくれると有り難い」

そう言って大雅は100クラウンほどを革袋から出して渡した。

 

「それは構わないけど、全部一つずつでいいの?

 かわった注文ねぇ。

 でも薬草学の知識が無いと危ない物も有るわよ?」

 

「薬草や薬を集めていてな。

 標本にするだけだ、自分や人に飲ますわけじゃない。

 安心してくれ」

 

「なら、簡単に用途と用量を書いておくわね」

「助かる。ところで人探しをしているんだが教えてくれないか」

 

「どんな人?」

「女魔術師だ。この街に居ると聞いていたのだが」

 

「お客さん、今はタイミングが悪いわ。

 戦争は止まっているけど、戦いが終わったわけじゃなくにらみ合いが続いているだけ。

 それに伴ってレダニアから兵士と共に、永遠の炎教団とやらも入ってきているの。知ってた?」

手を動かしながらエルヴィラは大雅に言う。

 

「戦争の状況は聴いているが、魔女を迫害しているという教団か?」

「ええ、さすがにここでは大ぴらな動きは出来ないけれど、魔術師たちはかなり警戒しているわ」

 

「率直に聞くが君は女魔術師ではないのか?」

「とんでもない。私は薬草医よ。

 女魔術師なんかじゃないわ」

 

そこへドアを荒々しく開け、入って来る男たちが居た。

 

「おうっ! エルヴィアってのはアンタか?」

「そうですけど、な、なんですか、ドアはもっと・・」

「やかましい! ここいらは俺たちのシマなんだ。

 ここで商売するとなっちゃ月に100クラウン出しな」

 

「そ、そんな話って!

 それにちゃんと私は商業組合に正規にお金をはらって店を・・」

「ごちゃごちゃうるせーんだよ!

 こういう輩から守ってやる代わりに金を出せって言ってるんだ!」

そういって、大雅を指さした。

 

「お客さん、すみません、これ持って外へ」

エルヴィアは大雅に商品の入った布袋を押し付けると小声で言った。

 

「俺はこの店の客だ。

 失礼にもほどが有るぞ下っ端」

「なんだとっ! やんのかてめぇ!」

 

「いいだろう。表へ出ろ、店に迷惑だ」

三人の男たちと共に、大雅も店を出た。

 

「さて、お前たちの根城に案内しろ」

大雅はふてぶてしく言い放つ。

 

「おい、このままタダで済むと思ってんのか!」

「正しく、弱い犬ほどよく吠えるな。

 キャンキャン吠えてねぇで、とっとと飼い主の所へ案内しろ」

 

右側の男が殴りかかってくる、大雅は少し後ろにスウェーし躱すと後頭部を持ち、左膝を鳩尾に叩き込んだ。

大雅のコンバットパンツには、強化カーボン製のカップをベースにして、表面に厚いゴム層を持つニーガードが着いている。

 

これを叩き込まれた男は声も出せず、黄色い胃液を履きながらそのまま崩れ落ちた。

少なくとも数本の肋は折れているはずだ。

運が悪けりゃ膵臓か脾臓が破裂しているだろう。

 

左側の男も殴りかかって来たため、少しだけ後ろにスウェーしながら左手で相手の手を躱した。

同時に敵の左手首を掴み、自分の方に瞬間的に引き込んだ、敵は抵抗するため体を反射的に引いて反射的に踏ん張るが、相手の戻る力を利用して自分が前に出た。

同時に敵の右足に自分の左足を引っかけ、敵の体のバランスを崩し、自分の前に出る力を利用しながら男の顎に掌を当てた。

 

足が完全に浮き上がり、右手で頭部を地面へと打ち付ける。

土の地面だから死ぬことはないだろう。

 

「ぱぎゃっ!」

奇妙な声を上げながら歯が数本吹き飛ぶ、男はそのまま白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「てめぇ、変な動きをしやがる」

「フェアバーン・システムという。

 CQCの基本だよ、と言っても判らんだろうが」

 

「てめぇ! ぶっ殺してやる!」

「テンプレ応答、乙! 正当防衛頂き」

 

最後に残った男は腰から剣を抜き、右側に構えた。

大雅も左胸のコンバットナイフを抜き、手とナイフを腰より少し上の位置に置き軽く腰を落とした独特のスタイルだ。

 

CQCについてはフェアバーン・システムはもとより、システマも日本に帰る前に叩き込まれており、加えて日本で開発されたゼロレンジコンバットも融合した独特のスタイルだ。

ゼロレンジから2m程の距離までは大雅の完全なコンバットレンジに入る、特に近くなればなるほど敵にとっては厄介な存在となる。

 

男とのコンバットレンジは、相手の腕と剣の長さに体の向きや角度を考慮すると2.3m、如何に相手の懐に入り込むかで勝敗が着く。

 

「死に晒せっ!」

男は声を上げて大雅の左わき腹に向かって剣を振ってきた。

大雅にしてみれば甚だ素人の攻撃である。

声を上げることしかり、判り易い剣の軌道、筋力に合わない重い剣故の遅い剣速。

動体視力に優れた大雅から見れば、ため息が出るほど素人である。

 

大雅は一歩踏み込み、振って来た剣の右手首を抑えると、そのまま後方へと空中を回転し右足の先で顎を蹴り上げた。

 

パキャンと言う音と共に、相手の歯が数本飛び白目を剥く、続けてもう一度鳩尾へとトウキックを叩き込む。

因みに大雅のコンバットブーツは、つま先にカーボン樹脂のカップが入っている米軍仕様である。

 

大雅は男たちから剣を届かない場所へと放り投げ、ナイフを仕舞い男たちを引きずって寄せた。

男たちの親指をクロスさせ十文字にインシュロックで締め上げ、細いロープでつなぐ。

もちろんロープはただの物では無く、中に細いワイヤーが編み込まれている、小型の刃物を持って居たとしても切る事は不可能に近い。

 

近場に有った柄杓に馬用の木桶から、薄汚れた水を掬うと男たちにぶっかけた。

 

「・・ううっ・・ちきしょう・・」

「いでぇ・・・くぞっ・・」

「けぼっ・・ごほっ・・」

 

「目が覚めたか阿呆ども」

大雅は男たちの剣を地べたに突き刺し、柄に両手を当てて言った。

 

「さて、お前たちのアジトに案内してもらおうか」

「けっ! クソ野郎! だれが ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 

大雅は剣で応えた男の指を1本切り落としていた。

「頭は悪いとは解っていたが、耳まで悪いのか?

 なんか障害者を虐待している気分になってきたぞ。

 もう一度だけ言う、アジトに案内しろ、嫌ならここで死んでもらう」

そう言って、別の男の指も切り落とす。

 

「ぎゃああああっ!」

 

「さあ、とっとと立て、歩け」

男たちはしぶしぶ立つと北へと街の中を歩き始めた。

 

300mほど通りを歩き、路地を左に入ると小さい広場に入った。

「その建物が俺たちのアジトだ」

 

「よし、入れ」

「はいれったって、縛られてちゃドアが開けらんねえよ」

「足があるだろ? 蹴りゃいいじゃないか」

 

「どうなったってしらねぇぞ」

先頭の男はドアを蹴ると、中から「なんだぁ?」と幾人かの男たちが部屋から出てきた。

すかさず、大雅はハンドガンで頭を撃ち拭いていく。

 

「はい、ご苦労さん。死んでいいよ」

連れて来た男たちも次々と撃ち殺した。

マガジンの残弾数は10発、左腰のフォールディングマシンガンであるFMG-9のポーチベルトのベルクロを外しておく。

 

「な、何の音だ! てめえはっ!」

「ボスはお前か?」

CARシステム特有の構えでP320を構え、1階の部屋に敵が居ない事をすばやく確認し、階段を上った。

 

「誰だてめぇはっ! どうやって殺した!」

「こうやってだよ」

 

パンッと言う音と共に、男の額に穴が開き後頭部に大きな穴が空いた。

9mmパラの場合、ヘッドショットでも脳幹を撃たなければ一撃で仕留める事は難しい、これがアサルトライフルなら、頭部への被弾は余程の幸運が無い限りは即死への致命傷だ。

拳銃弾のエネルギーは精々500ジュール程度、弾速も音速が精々だ。

 

一方、AK47だとエネルギーは2000ジュールを超える。

弾速も、音速の2.2倍を超える秒速750mと早い。

こんなので至近距離からヘッドショットを食らったら頭なんて半分飛び散る。

弾の衝撃波で、7センチぐらいの穴が瞬間的に出来、一瞬にしてミンチになる。

だが、拳銃弾の場合、体幹に当たっても余程重要臓器か動脈に当たらない限り、失血するまでは動ける。

 

そのため、拳銃の場合、如何にヘッドショットが取れるかどうかが、勝敗を決すると言っても良い。

CQBで勝つためには、初弾を体幹、足などに当て行動を止めてから、ヘッドショットを次弾で狙うのがセオリーとなる。

 

映画の様に行動を止めただけで、次の標的に向かうなんてことは無い。

もちろん、相手を殺したくない場合や、チームで突入している場合なんかは異なるが、単独でのCQBの場合は、反撃の危険性を完全に排除してから、次へ向かうのが正しいセオリーだ。

これは、たとえどんな銃を使うときでも同様だ。

 

良く映画では、相手が至近距離のショットガンで吹っ飛ぶ描写があるが、あれも完全な妄想だ。

スラグ弾でも体がちょっと揺れる程度で、まして00バックでもバッと9か所に穴が開くだけだ。

もし、ショットガンの弾が相手を吹き飛ばすほどのエネルギーを持って居たら、撃ったこちら側も同じだけの威力で吹き飛ばされなければ、エネルギーの法則は成り立たない。

 

部屋の中は外見に比べて豪華だ、床には絨毯のようなものが敷かれ、机も立派な物が置かれている。

椅子には驚いた様子の禿げ上がった男が驚いた様子で座っていた。

 

「アンタがボスか?」

銃の構えを解かず大雅は聞いた。

 

「よくも仲間を殺してくれたな。この落とし前は」

パンッ

机の上の燭台を吹き飛ばした。

 

「アンタの御託を聞きに来たんじゃない。

 なに、簡単な話さ。エルヴィラ薬店だが俺の庇護下に入った。

 今後は手を出すな。

 意味が分かるか?」

 

「どういうことだ」

「アンタとこの若い衆が金を撒き上げてたんだよ。

 知らないなんて聞く耳はないぞ。

 それともその男みたいに、頭に孔を開けられたいのか?」

 

「わかった・・・もうあの店には手を出さん・・・これでいいか」

「あと、慰謝料だな、つまり迷惑料だ。

 たまたま俺が店に来ていたんでな、店主を怖がらせた上、俺の手を煩わせた。

 慰謝料を払ってもらおう」

 

其処へ、ドタドタと階段を上がって来る音が聞こえた、足音から数人とみられる。

大雅は素早く立つと、ドアの陰に隠れ、P320をホルスターに戻し、左腰からFM-9を抜き出した。

展開用のスライドを動かした途端、シャコッと言う音と共に、手の中にサブマシンガンが展開される。

見慣れない者にとっては、一瞬で銃が現れたように見えた。

 

剣を突き出すように入ってきた男の鳩尾に、右足のつま先を叩き込んだ。

そして、素早く襟首をつかみドアの横へと移動する。

 

「うつ伏せになってじっとしてろ、手は後ろで組め。動けば殺す」

「・・げほっ・・わかった」

 

「全員、剣を捨てて上がってこい。

 敵対行動を摂れば即刻殺す。

 一人残らず全員だ」

 

上がって来たのは4人の男たちだ、如何にも粗暴さが表れた格好だ。

 

「武器は全て捨てろと言ったはずだが?」

大雅は最後の男が腰のあたりから、短剣を袖口に隠した所を見逃さなかった。

 

「何のことだ。武器は持ってねえ!」

 

パンッ!

 

「ぎゃあっ!」

 

大雅はトリガーを指切りで1発発射した。

弾丸は、腕に当たり袖口に隠していたナイフが落ち、床へと刺さる。

 

「次は無い。

 もう一度言う、全ての武器を捨て、床に腹ばいに成れ。

 手は頭の後だ」

 

男たちは次々と床に伏せた。

 

「さて、交渉再開だ。返事は?」

「わかった、それで手を打ってくれるんだな」

 

「どうせ、酒場や賭博で設けているんだろ?

 いちいち店まで手を出さなきゃ見逃してやる。

 だが、報復行動に出た時や、改善されなかったらここにいる全員、あの世へ行ってもらう。

 理解したか?」

「・・わかった・・・商業組合にでも雇われたか・・・・胸糞悪いが条件を飲もう」

 

「残念ながら外れだ」

 

パンッ

 

先ほどナイフを出そうとした男の頭を撃ち抜く。

男は痙攣と共に息絶えた。

 

「余計な詮索は止めた方が良い。

 間違えるたび一人ずつ殺していく。

 今後一切街の店から金を巻き上げるのは止めろ」

「わかった。ほら、金だ1200クラウンある。

 これで手を打ってくれ」

 

どさりと机の上に、大きめの革袋が置かれた。

男の一人に金を持たせ、エルヴィアの店へと戻る。

 

「エルヴィア、騒がせたな。

 これは商品の代金と、こいつらが迷惑料を払いたいらしい」

「無事なのは良かったですが、これは多すぎます」

そういって、50クラウンほど革袋から摂ると、大雅へと戻した。

 

「そうか、じゃあ残りは迷惑料だ」

大雅は200クラウンほどつかみ取り、残りを突き返した。

 

「あと、全ての店からこいつらは手を引く。

 二度と顔は見せる事は無い、おい、そうだな?」

大雅が言うと男は震えながらガクガクと頷いた。

 

「よし、行っていいぞ」

大雅がそう言うと、男は大慌てで店から出て行った。

 

「さて、邪魔をしたな。

 俺の名は大雅だ、なにかあったら掲示板に指名で出してくれ。

 念のため3カ月ほどは、その金で用心棒でも雇うと良い」

「ちょっと、この街を出て行くの?」

 

「換金したらな・・」

「まるで嵐みたいな人ね、また近くにでも来たら寄ってよ、珍しい薬草でも用意して待ってるわ」

「そうだな、よろしく頼む」

 

 

大雅は店を出で筋向いにある、バリダスブラザース宝飾店と看板のある店へと向かった。

「いらっしゃいませ、本日はどのような物をお求めでしょうか」

 

鉄格子の向こうから銀行の窓口みたいに、声をかけて来た剥げ男が声をかけてきた。

 

「宝石を換金したい」

「では、これにどうぞ」

大雅は、革袋の中から小粒な物だけを集めた革袋を取り出し、布を張ったトレイの上にザラリと開けた。

 

「ほう、品質は良いようですな。では拝見」

男は一つ一つ、見ながらメモを取っていく。

「そこに座っているから、鑑定が終わったら教えてくれ」

大雅は、ベンチに腰掛け10分ほどこれからのルートについて考えていた。

 

「お客様・・・宝石鑑定のお客様!」

「あ、俺か?」

 

「はい、鑑定が終わりました。

 買い取り金額はこれになります」

そう言って男は、4633クラウンと書かれた紙を見せてきた。

 

「ふむ、いいだろう」

「ありがとうございます、では代金はこちらです」

トレイに出された金貨を大雅は数えながら革袋に仕舞った。

 

「そうだ、この街に女魔法使いは居ないのか?」

「残念ながら聞いたことはございません。

 なにせこういうご時世ですから」

 

「以前は居たのか?」

「5年前までは居たようでございますが、戦争がはじまり姿を消したと聞いております」

「そうか、邪魔をしたな」

 

 

大雅の懐には換金も含め7000以上のクラウンが有った。

これでしばらくは旅で困ることも無いだろう。

アルドカレイから西に道なりに入り、国境となる峠を超え、レダニアへと入りゲリボルという街を目指した。

 

途中で1泊の野宿をし、峠に入る手前でバン・セイドという比較的小さな町だが活気のある街で宿を取る事にした。

ちょうど掲示板があるため覗いてみた。

 

「相も変わらずドラウナーだらけだな、報奨金も20クラウン? 安過ぎだ」

ナジャムを曳きながら、少し歩くと「山兎亭」と看板を掲げた酒場を見つけた。

 

 

店の横にある馬止にナジャムを繋ぐと、早々に10歳にも満たない年の男の子が寄ってきた。

「馬の世話は如何です旦那さん」

 

「ここの店の馬丁か?」

「ええ。ほら」

そう言って、子供は木札で作った店の看板の図柄が入った物を見せた。

 

「水と燕麦を与えてくれ、いくらだ」

「5クラウンです旦那さん」

 

大雅は、ポケットに入っていた硬貨を出すと5クラウン渡した。

そして、店主と思われるカウンターへと近づいた。

 

「店主、何か食うものとエールをくれ。

 それと1泊頼みたい、部屋は有るか?」

 

「豆と羊のシチューだ、

 エールと一緒なら5クラウン、泊は15クラウン、お湯は無いが裏に井戸がある。

 厩舎と世話が必要なら合計18クラウンだ」

 

「馬止に子供がいたから5クラウン払ったが?

 この店の木札を持って居たんで、てっきりここの丁稚なのかと」

「あんのっ、クソガキ!

 悪いな、旦那ちょっと待っててくれ」

 

店主が慌てて外へと飛び出した。

耳を引っ張られながら、先ほどの子供が引きずられてきた。

半分涙目だ。

 

「ほれ、旦那に5クラウン返しな。あと、木札を出せ!」

 

大雅は、店主を留める様に手を出して言った。

「まあ、店主。そのぐらいにしてやれ。相手は子供だ」

「すんません、お客さん。5クラウンはお代から引いておきます」

 

「店主の息子か?」

「ええ、剣が欲しいって、こんなことしやがるんでさ」

 

「小僧、なぜ剣がほしい、ナイフぐらいなら解るが」

大雅は、隣に座らせて理由を聞いた。

 

「去年、母ちゃんがドラウナーにやられてさ。

 その時剣が有ったら母ちゃんが死ななかったと思ったんだ」

「武器と言うのは、持って居ただけでは使い物にならんぞ、精々自分の手を切るのがオチだ」

「でもっ!」

 

言い返そうとする子供に大雅は右手の手のひらで制し、だまって左胸のコンバットナイフを抜いてカウンターの上に置いた。

 

「持ってみろ」

子供はおずおずとナイフを握った。

 

「重いだろう?

 それでも小剣より小型のものだ。

 だが、れっきとした戦闘用の武器だ。

 それを抜いたときは、己の命を懸けて戦うときだ、殺さなければ殺される。

 武器を持てば強くなるなどとは思わない方が良い。

 武器を扱うにはそれなりの技術、そして力が必要だ。

 そして勝つには信念がなければ勝てない。

 そのどれも今のお前にはどれも無い。

 強くなりたければ、親父さんを手伝いながら力をつけろ。

 力仕事を進んでやれ、素早くこなせ、それが出来て初めて下地ができる」

 

「う・・・うん」

そう言って、子供はポケットから先ほどの5クラウンを出してきた。

 

「それは、お前にやろう。無駄遣いせず溜めて置け」

とたんに、子供の顔は明るくなった。

 

「済まねぇな旦那、エールは驕らせてもらうよ」

「気にするな、だが馬の世話は頼むぞ。

 明日腹ペコの馬だったらしりっぺたに・・・」

 

「尻っぺたを?」

「こいつをブッ刺す」

そう言ってにやりと子供の手から取り上げ、くるりと回し胸のシースへと収めた。

 

「ほら、店を手伝え」

そういって、スツールから下してやる。

 

少しすると、食事とエールがテーブルに置かれた。

大雅は、さっさと食事を済ませ、鍵を受け取るとケースとバックを持って、早々に部屋へと引き上げた。

 

朝、朝食を済ませ、宿を出ると横道から、ナジャムを引いて出て来る宿屋の息子を見つけた。

「あ、おはようさん、旦那。

 たっぷりと燕麦と秣、それと水をやったよ。

 すごく大きな馬だね」

 

「おう、良く鞍を付けられたな」

「親父がやってくれたんだ、おいらじゃ届かないし腹帯のベルトも締められないしね」

それもそうだなと、大雅は鞍を点検し、腹帯や鐙の具合を見ていく。

もし緩んでいたらシャレにならない。

 

「じゃあな、小僧。

 強くなれたければ何事も一生懸命になれ。

 特に家族を守りたかったら余計にな。

 あと、生き残るためにはしたたかに、臆病になる事だ」

「臆病に?」

 

「ああ、臆病だと何事にも慎重で、きちんと準備もするだろう?

 なめてかかった時ほど負ける。世の中そういうもんだ」

「わかった!」

「達者でな、機会が有ったらまた会おう」

「うん!」

 

 

ナジャムを曳き街の門へと着くと馬へと乗り、一路西へと歩かせる。

今日中には峠に入る手前まで進みたい。

 

途中で何台かの連なる荷馬車を追い越し、峠の手前にある小川の横の広場を、今日のねぐらに決めた。

丁度テントを張り終え、焚き木を組んでいると、先ほどの荷馬車の一行が入ってくる。

 

「すまねえ、旦那ぁ、一緒にキャンプ張らせてもらって良いか?」

荷馬車を警護しているらしい男が、馬に乗ったまま声をかけてくる。

 

「ああ、かまわん」

大雅はこれを見越して、広場の端の方にテントを張っていた。

 

「よし、馬車を止めろ、違うこっちじゃない、そっちだ!

 お前たちは天幕の準備だ、お前とお前は竈の準備、あとは交代で警護だ」

 

女性2名、女とは言っても腰に剣を差し武装している。

商人らしき風体の男が2名と御者が3名あとは、警護らしき軽鎧と剣をぶら下げた男たちが5名、大雅は喧騒をよそに食事の準備を進めた。

 

「騒がしくして済まねぇな。旦那」

「なに、ここから先は野盗どもが出る峠だ。

 人数が多ければ野盗どもも近寄るまい。お互い様だ」

 

「確かに、で、あんたは旅の人かい?」

「ああ、ノビィグラドにな。そっちは?」

 

「アルドカレイに資材を届けた後の帰りだ、荷物は安物の布や干し肉ばかりだがな。

 レダニアじゃ戦争のせいでなんもかんも不足してやがる。

 こうして、帰り荷で稼がなきゃ赤字なんだと」

 

「資材って戦争のか?」

「いや、永遠の炎教団の教会用の資材さね、燭台とか、飾りとかだな」

 

「それなら、教団の衛士が付きそうなものだが」

「いや、なんか足りなくて、俺たち傭兵家業に回って来たってことだ。アンタは?」

 

「しがない怪物退治が仕事だ」

「ウイッチャーか? 剣を二本持って居るって聞くが」

 

「剣はこれだけ、怪物退治はするがウイッチャーじゃない」

そう言って大雅は左胸のコンバットナイフを見せた。

 

「それで狩るのか?」

「まさか、自殺行為だろ。

 使うのは銃だ。

 火薬を使って金属の礫を撃ちだす。

 それで怪物を殺すのさ」

 

「へえ、初めて聞く武器だ。強いのか」

「熊ぐらいなら簡単な物だ。

 ドラウナーなんか1発で良いし、グリフィンだって簡単だ」

 

「へえ、その武器見せてもらって良いか?」

大雅は少し考えると、AKMSの弾倉を抜き傭兵の男に見せた。

 

「結構重いな、礫の大きさは?」

大雅は弾倉から1発の弾を抜いて見せた。

 

「俺の所では7.62ミリ、ここいらの単位で言えば0.3プースほどの大きさだ」

「こんなもんで殺せるのか? 熊が」

「ああ、十分にな(急所に当てればだが)」

 

 

 

会話は他愛のないものだった、しかし事件は深夜に起きた。

 

テントの生地が大きく音を立てる。

既にテントの外の気配で完全に目は覚めており、近くにあるコンバットナイフのストッパーを外してた。

詰めても2人用のテントは、パニエバックやケースで一杯一杯だ、とてもハンドガンは使えないしもみ合った際に暴発の危険性さえある。

 

ジ、ジジッ!

ジッパーの使い方が判らないのか、力任せに開く様にしているのだろう、耳障りな音がする。

入って来たのは、20歳ほどの若い男で、商隊を護衛していた傭兵の一人だ。

 

本人は忍び足のつもりだろうが、音で手に取るように丸わかりだ。

タクティカルバックパックから、AKMSを取り外そうとして結局取れず、バックパックごと抱えてテントを出て行く。

 

大雅は、既に開けてあったシュラフを出て素早くブーツを履いた。

ベルヴィル社のタクティカルブーツは、サイドジッバーと脛をベルクロで止める米軍のシールズにも採用されている物だ。

物の数秒も有れば履ける。

 

ナイフでテント入口とは反対側を切り裂き、外へ出ると男はやっとバックからAKMSを取り外した所だった。

タイガは”やれやれ、また新しいテントを送ってもらわねば”と思いながらテントを出る。

 

「止まれ! そこまでだ!」

突然男はこちらに銃を向けて来た、しかし大雅は慌てなかった。

AKMSの弾倉からは全ての弾は抜き取ってあり、空の弾倉が付けられている。

 

「うるせえっ! この武器は俺のもんだ!」

その騒ぎを聴きつけたのか、他の傭兵共も起きてきた。

 

「なにやってる、フロウ! いっつも問題起こしやがって!」

傭兵のリーダーらしき男が声を掛ける。

 

「いいだろ、こいつの武器が強力だってのは夕べ聞いてんだ。

 見ろよあいつは丸腰だぜ。勝ち目はねえっ!」

「バカな事は止めろっ!

 お前のやっている事は盗賊と変わりねぇ!

 そいつをさっさと返すんだ!」

 

「うるせぇっ! どいつもこいつも、チンケな金でこんな苦労なんかしてられるか!

 おれはコレで一旗揚げるんだ」

 

大雅は、ヤレヤレと首を振り、リーダーらしき男に聞いた。

「こいつは、バカなのか? いや、バカなんだな」

「まあ、問題をしょっちゅう起こすバカだ。

 すまんな。

 フロウ! 言ったはずだぞ、今度問題を起こしたら追放だと」

 

「追放結構! 俺にはこの武器が有る!」

 

大雅は落ち着いた声で再びリーダーに話した。

 

「俺の場所では銃を向けるという事は、殺されても文句は無いという事だ、殺しても構わんな」

「出来れば殺さないで欲しいんだが、こんな奴でも俺の甥っ子なんだよ」

 

「それは難しい相談だな。

 現に俺の天幕から盗み、こうして銃を俺に向けている、許容できるものではない。

 この原因は当然リーダーであるおまえにも有るはずだ」

「返す言葉もねぇ」

 

「さて、坊主。

 銃をそっと置いて後ろへ下がれ。

 3つ数える間待ってやる」

フロウと呼ばれた男は、構え方も判らないのか腰のあたりに銃を構えている。

 

「ひとつ・・・・ふたつ・・・・みっつ」

大雅は、P320を抜きながらカウントし、スライドを曳き初弾をチャンバーに送りむ。

 

パンッ!

 

銃弾が相手の右足に当たるとともに、駆け出し、トウキックで顎を蹴り上げる。

もちろん手加減してだ。

それでも相手は簡単に沈む、倒れる前にAKMSを奪い取る、すかさずP320を起きて来た傭兵たちに向けた。

 

 

「・・うおおおぉぉっ! フロウをっ!」

リーダーとは違う傭兵が剣を振り上げ向かってきた。

パンッ、パンッ!

 

頭に2発の9mmパラを受けた男が崩れ落ちる。

「さて、全員動くな。

 死にたくなければな」

 

「ジョアン、取り囲めば「だまれっ!」・・」

別の男の声を打ち消すようにリーダーの男が黙らせた。

 

「全員、武器を捨てろ。ナイフもタガーも一つ残らず全てだ。

 武器を隠し持ってた場合は、その時点で俺が殺す」

「わかった、おい、

 お前ら武器を全て捨てろ」

 

「でもようっ!」

「いう通りにしなければ、俺が殺すと言った!」

 

ガチャガチャと地面に捨てられる剣やタガーの音が響く、騒ぎを聴いて商隊の御者や商人も起きてきたようだ。

 

「これでいいか」

「足で武器を遠ざけろ」

傭兵たちは言われた通り、足で武器を遠ざける。

 

「すまねぇ、これでいいか。

 アンタの武器を盗ったのは悪かった。謝る」

「盗ったんじゃないだろう?

 そいつが切り掛かって来た時点で盗賊だ。

 盗賊は皆殺しに遭っても文句はないはずだ、違うか?」

 

ジョアンと呼ばれたリーダーは、地面に座った。

「わかった、そいつと俺の命で勘弁してくれ」

 

「まっとくれっ! お願いだよっ! その人を殺さないで!」

「メリタ!」

 

「アタイの旦那を殺さないでおくれよぉ、お願いだから!」

遠巻きにしていた商隊から一人の女が進み出てきた。

 

「メリタ、黙ってろ。

 これも俺がフロウをちゃんと教えてやれなかったからだ。

 こうなった責任は俺にある」

「あああ! あんたぁ!」

 

大雅はいい加減イラついていた。

起こされた挙句、三文芝居に出て来るような進行に、脱力感さえ感じる。

 

P320をホルスターに戻すと、AKMSに新しい弾倉を叩き込みコッギングレバーを引く。

 

バババババ・・・バンッ!

空に向けて、フルオートで10発ほど打ち出した、もちろんサプレッサー無しの発砲だ。

一瞬にして大音響が響き、直後静寂が訪れる。

 

「全員の武器を集めろ。ロープでひとまとめにするんだ。

 全員よく聴け、武器は10ハロン(約2km)先に置いておく。

 お前たちの出発は陽が出てからだ。

 もし、俺を追ってきたリした場合は、此処にいる全員を例外なく殺す。

 顔は全員記憶したから、どんなに逃げても無駄だ」

 

その後、大雅は弓の弦は全て切り、矢は折らせ、武器を纏めロープで繋ぐと、全員を馬車とは反対側へと下がらせ、商隊の荷馬車にあったロープで全員を数珠繋ぎにした。

大雅の撤収中に矢などを射かけられないようにだ。

 

ナジャムに全ての荷物を載せると、跨って最後に言った。

 

「俺はお前たちを10ハロン先から殺せる、ゆめゆめ復讐しようなどとは思わない事だ。

 ついでに教えてやるが50人ぐらいで来ても殺す手段と自信がある」

 

大雅はそう言い捨て広場を後にした。

 

「パドロを埋めてやろう」

傭兵リーダーのジョアンが口を開いたのは陽が山間から日が昇ったころだった。

大雅の銃を奪おうとしたフロウという男は、夜明け前に意識を回復したが、大量の出血のため既に意識は無かった。

 

「これでは助からないな。

 楽にしてやった方が良い」

傭兵メンバーで年かさの男が言う。

 

「こうなったのもフロウのバカのせいだ!

 俺たちだけでなく全員を危険にさらした! 殺せ! そんなヤツ」

生き残ったもう一人の若い傭兵メンバーが言い放った。

 

「ちょっといいかね」

商隊護衛の依頼主がジョアンに厳しい顔で迫ってきた。

 

「なんです?」

「私は護衛として君らを雇った。それも5名分の約束だ。

 だが帰りはこうして護衛が3名となった。

 この埋め合わせはどうするつもりだ」

 

「わかった、2名分の報酬は要らない、これでいいか」

「それだけではない、雑婦として加わっている君の奥さんの身柄は、ブラヴィケンに着くまではこちらが預かる。

 途中で盗賊や怪物が現れ、逃げ出されては敵わんからな」

 

「すまない、こうなったのも俺たちのせいだ、なにが有っても必ずブラヴィケンまで護衛する」

「そう願いたいものだね!」

 

商人の言う事ももっともだ、メンバーがバカをやったことで怒らせてしまい、あまつさえ2人もメンバーが死んでしまった。

ジョアンの心の内には傭兵団を解散する決心が出始めていた。

 

最近の傭兵家業は戦争の為思わしく無く、じり貧が続いていた。

普通、戦争が始まれば傭兵家業は儲かると思われがちだが、兵士崩れや脱走兵が多く、傭兵家業をしている者が増えた割には、敵となる盗賊も増え護衛などの仕事の料金が割に合わなくなってきている。

 

結局のところ、戦争が傭兵に与えたことは料金のデフレでしかなかった。

兵士崩れは食うために安い料金でも受け、傭兵のレベルは下がり、商人たちは一層安い金で雇おうとする。

 

元から護衛や有害生物駆除を生業としていた傭兵にとっては死活問題だった。

いっそまだ仲間に分配できる金が残っている内に、幕引きをするべきなのかと考えていた。

 

夜明けまではまだ2時間ほど有る、馬車を引き連れての移動は、馬単体での移動より遥かに速度が遅くなるため追いつかれることは無い。

大雅はナジャムを常歩(なみあし)でゆっくりと歩かせた。

 

常歩と言ってもナジャムの様な大型馬では時速8キロほどを稼げる、商隊とは16kmのアドバンテージがあり、足行きの遅い商隊とは距離が離れるばかりだ、追いつくことは不可能といえよう。

 

道は峠へと差し掛かり、勾配もきつくなってきた、ここから先峠を含むエリアは盗賊にとって恰好の狩場となる。

一人旅に対して盗賊が大挙して襲ってくることは無い、しかし盗賊でも何処にも入れてもらえない半端者や仲間とイザコザを起こす輩というものは何処にでも居る物で、そんな奴らが利害関係だけの数人の盗賊グループとして出て来る事も多い。

 

こんな奴らが狙うのが1~2人ほどの通行者だ。

もちろん返り討ちに合う場合も有り、けっしてリスクは低くない。

少人数の旅人というのは、それなりに腕の覚えが有る者が多いからだ。

 

リスクから言ったら集団で対応する盗賊団の方が余程低い。

高価な物を持って居るか否かは運次第だが、時には高額な商品を持った者も居るため、バカには出来ない。

 

峠の天辺まであと5kmほどに差し掛かった場所で、案の定、2人の如何にも盗賊然とした風体の男たちが道へと躍り出てきた。

 

「さて、恨みはねえが、有り金と荷物、ついでに馬を置いて行ってもらおうか」

「身ぐるみ剥がれないだけ、マシだと思えぎゃはははっ」

 

大雅はナジャムを停め、ポンポンと二度尻を叩いて降りた。

"近くに身を隠して居ろ"の指示なのだが、ナジャムはすぐに覚えた。

最近では、叩かなくても状況判断さえできる様になってきている。

こいつは本当に馬なのだろうか、もしかしたら馬にそっくりな別の生き物なのかもしれない。

 

事態が終わると、ちゃんと隠れていた処から出て来るのだ。

ナジャムは岩陰へと入っていく、もちろん周囲を注意しながらだ。

 

こういう手合いは、話をしても無意味だ。

ただ、根城があるのなら潰しておきたいのと、時には宝石や貴金属などの高額な強奪品があるので、出来れば回収しておきたい。

時には怪物退治より儲かるのだ。

 

大雅はわざと銃は抜かなかった、敵との距離は20m、何かあってもすぐにP320を抜ける大雅にとっては問題の無い距離だ。

 

それより気になってたのが、後ろの方に居るもう一人の盗賊だ、まだ藪に隠れては居るが、飛び道具を持って居る可能性が高い。

矢を通さぬ服を着ているとはいえ、アーマーが無い部分に当たると青あざ程度は出来る。

矢の持って居るエネルギーは90ジュール前後、つまり22ショートと呼ばれる最も小型で弱い拳銃弾ほどの威力がある。

 

地球では未だに原始生活を営むセンチネル族という部族は接触してきたセスナやヘリを何度も矢でハリネズミの様にしている。

矢だからと言って舐めると痛い目に遭う。

 

盗賊の一人が剣を抜き切り掛かってきたが、その男の右手を引きつつ、足を払いながら相手の顎に手を当て、そのまま地面へと叩きつける。

相手は足をまだ宙に浮かせたまま、後頭部を叩きつけられ失神するが、引いた右足をそのまま横に居たもう一人の盗賊の顔にハイキックで叩きつけた。

 

右足にすぐ軸足を変え、男の後ろに回り、コンバットナイフを首に当て、相手の左腕を極める。

ちょうどそこへ1本の矢が飛んできて深々と盗賊の胸に刺さった。

大雅は着矢と同時に男を離し、すぐさま道の横にある藪へと飛び込みながらP320を抜き、初弾をチャンバーへと送り込む。

 

姿勢を低くしながら、敵のいた場所へと進んでいった。

あと20mという所で、左ひざから下を地面に着く匍匐前進に切り替える。

自衛隊でいう所の第一匍匐という姿勢だ。

時折止まり、周囲の音に耳を近づけると微かに荒い呼吸音が聞こえ木々の隙間から微かに姿が見える。

 

"敵を視認・・・"

男は弓に矢を掛けたまま、引かずに前方を注視している。

 

そのまま回り込み男の後ろに出ると、コンバットナイフを左手に持ち、頸椎の後へと差し込んだ。

ヒトは頸椎を破壊されると、瞬時にその下、つまり首から下の神経が動かせなくなる。

 

悲鳴さえ上げれず崩れていく男をゆっくりと下に下す。

男の目は恐怖に怯え大きく見開かれていた、当然だ首から上はまだ動かせるのだ、脳もまだ生きている。

死ぬのは呼吸が止まって数分後だ、それからゆっくりと酸欠で死んでいく。

 

まだ、盗賊が3名とは限らない、できるだけ音は立てたくなかった。

 

そのまま低い姿勢で、藪で倒れている男の様子を伺う。

最初に倒された男が失神から目覚めたのか、ゆっくりと起き上がった。

 

「ちきしょ・・・何が・・・お、おい。大丈夫か?」

もう一人の仲間の矢が当たった男は、当たり所が悪かったのか息絶えている。

 

「くそっ! どこへ行きやがった!」

ガンガンと痛む頭と、フラフラする体をなんとか立て直し剣を拾い上げた。

 

「どこだぁ! 出て来やがれっ!!」

 

後から回り込んだ大雅のナイフが首に当てられた。

 

「動くなよ? 剣を離せ」

静かだが有無を言わさぬ口調で、大雅の声が耳元で響く。

 

カラリと男の手から剣が落ち、大雅は足で離れたところへと蹴り飛ばした。

 

「さて、根城に案内してもらおうか」

「わ・・わかったから殺さねぇでくれ」

「そりゃ、お前次第だ。さあ、歩け」

 

道から横のけもの道へと入り、100m程斜面を登ると木の枝と布で作った簡易テントが見えてきた。

大雅はすぐさまナイフで盗賊の首を掻き切る、生かしておく理由がもう無いからだ。

 

キャンプを漁ると、金貨や金目の宝飾品だけを取るとキャンプを後にした。

「やっぱりシケてるな、ま、こんなものか」

 

道へ戻るとナジャムが嬉しそうに近づいてきた。

尾は上がり足はパッサージュだ、人で言えばルンルンスキップ状態と言ってもいい。

 

「ああ、わかっている。コレだろ?」

大雅はそう言って、ポケットに入れられたジプロックの袋から2個ほどの角砂糖を取り出した。

 

幸せそうにボリボリと角砂糖を食むナジャムに跨ると峠の頂上へと向かう。

ここから先はいつ盗賊が出てきてもおかしくない、いや居ない方がおかしい。

しかし、馬1頭の旅人は身なりによっては無視される。

労の割には実入りが少ないうえ、盗賊側も無視できない反撃に食らう場合も有るからだ。

 

彼らは藪や岩に身を隠しこちらを伺っている事は、いくつもの視線を感じる事から判っている。

しかし、人数も判らない、地の利が向こうにある状況下で喧嘩をしかける事はいくら大雅でも面倒だった。

 

賊を襲わなければならないほどひっ迫はしていないし、なにより攻撃してこなければ関与するするつもりもない。

世の為とかそんな偽善的な正義など、持ち合わせては居なかった。

 

さして眺めの良くもない峠を越え、大雅はレダニアへと入った。

ここから先は永遠の炎教団の根城であり、軍や衛兵だけでなく教団の私兵も敵となる可能性がある。

大雅は、さっさと通り過ぎノヴィグラドへと抜けていくつもりだ。

 

 

紛争や教団の支配により荒廃した町や村を抜け、ノヴィグラドへと着いたのはそれから7日経っての事だった。

 

 

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