ノヴィグラドの南門に近い酒場に宿を取った大雅は、城壁の外の街を散策し情報を集めていた。
昼は大祭司広場と呼ばれる場所の商人や商店主などから情報を得て、夜には酒場を巡り情報を集めた。
ノヴィグラドで困ったのは、街に出入りする門のセキュリティで、衛兵が固めている。
どうやら通行証が無いと、通して貰えないらしい。
それが無ければ長い列に並び、許可証の申請をしなければならない。
しかも、通るのは商人だけで、なかなか許可は下りないらしい。
そんな事も有り、城壁の外側には、いくつかの小さな町の様なものが出来上がっている。
主に小さな個人商店が多いが、小さいながらも宿屋や家畜市場があり、酒場もある。
物価は決して安くはないが、物量は比較的豊富だ。
最後に大雅は宿屋と酒場を兼業している場所に戻ってきた。
「なあ、女将さん知ってたらで良いが、イェネファーいう人を知らないか」
大雅のその言葉を聞いた途端、ギラリと強い眼光で睨み返された。
「アンタ、何処でその名を?」
「いや、ちょっと知り合いが居てね、その人から聞いたんだ」
「マリアッチ、暫くここを頼んだよ」
「はい」
女将は従業員と思われる女性にカウンターを任せ、大雅の腕を引っ張り奥へと連れて行った。
店の奥の目立たない場所にある小部屋は、分厚いカーテンで仕切られ密談などに使われるのだろうか、小型のテーブルと4脚ほどの椅子が置かれている。
「最初に言っとくけど、この部屋の飲み食いは全て5倍の値段だよ。
それでも聞くかい?」
「願ったりだ」
大雅は黙って、50クラウン金貨を2枚テーブルに置いた。
女将は素早く金貨を懐に入れると、カーテンを少し開けカウンターに居るマリアッチと呼ばれた女性を呼び、エールを2つ頼んだ。
「ヴェンガーバーグのイェネファー、最近じゃニルフガードに手を貸してるって言われてる。
その魔術と力には定評があり、幅広い多様な魔術を使いこなす。
以前、この街では大規模な魔法使いの掃討が行われたんだ、魔術師たちは、船を使ってスケリッジ経由で逃げたのさ、そこから何処へ行ったかは知らない。
もちろん、白狼って呼ばれているウィッチャーも来たよ、ここにね。
でも何度か来たって程度だ、近所で騒ぎが有ったけど、何が有ったかまでは知らない。
そして、ウィッチャーもいつの間にか居なくなってた。
あたしが知ってるのはこのぐらいさね」
「その後、会ったことは?」
「此処にいた魔術師は無いね、一時期はトリス・メリゴールドも、この街に居たなんて噂を聞いたことも有ったけど、そんな話もここ数年は無いよ」
「トリス・メリゴールド?」
「なんだい、女魔術師を探しているのに、その名を知らないなんて。
いいかい、北方諸国とニルフガードが戦争をしているのは知ってるね」
「いままで2度大きな戦いが有ったって言う?」
「そうよ、その二度とも北方諸国が押し戻したわ。
トリスはソドンの丘の戦いで死んだとされる14聖人の一人とされたけどね。
実際には生きていた事が判っているわ。
まあ、生き残った9人の魔法使いの一人よね。
9人も生き残ってるんだから、噂なんてあてにもならないことが、良く解るだろ。
人はくだらない美談が好きなのさ。
本来なら英雄として優遇されるところ、ちゃっかり死んだことにして、紛争の場から姿を消したと見られているわ」
「この国には女魔術師どころか、魔術師自体が居ないよ。
多くの魔術師が拷問やら処刑やらで殺されてねぇ、この国から居なくなっちまったのさ。
なんでも船でスケリッジやシントラに逃げ出したらしいよ、もちろんコヴィリの方に逃げたのも居るだろうしね。
あと、教団の騎士団兵に聴かれたら、間違いなくしょっ引かれるから気を着けな。
ウイッチハンターは、もっと手ひどく荒くれ共と変わりないわ。
悪い事は言わないから、魔術師に関する事を聞き回るのはお勧めしないね」
「聴きたいことはいくつかある。
一つはスケリッジへの渡り方、もう一つは狼流派のウイッチャーを知らないかどうか、それに詳しい者でもいい、紹介してほしい」
「スケリッジには、港に面した通りに船員が良く使う宿屋が有るわ。
そこのマスターに船長を紹介してもらうしかないわね。
まあ、場所柄荒っぽい所だから、覚悟しておいた方が良いわ。
あと、狼流派のウイッチャーなら、ひと月ほどウチに泊まっていたわね。
えっと名前は・・・ランバートって言ったかしら。
今は何処へ行ったか知らないわ。
もう一人同じウイッチャーが、つるんでたけど名前までは知らないわね。
もっと知りたかったら、ノヴィグラド街の酒場を回って見ると良いわ」
大雅にとってはかなり有用な情報だった、黙って50クラウンの金貨を1枚差し出す。
船に乗るにはノヴィグラドの町に入らなければならない。
「ついでに聴きたいんだが、城壁内に合法的に入る方法はないか、ぶっちゃけ通行許可証が欲しい」
「500クラウン要るわ、ただしその許可証が有効なのは、このすぐ前の門だけ。
それでいいなら2日頂戴、前金で300クラウン、いま結構貰ったから残りの100クラウンと引き換えで許可証は準備できるわ」
「頼みたい」
大雅は100クラウン金貨を3枚テーブルに置いた。
「ここで入手したとは、口が裂けても言わない事。
あと、騒ぎが有った後、締め付けが厳しくなって、許可証に職業、名を記載しなければならなくなったの。教えてちょうだい」
大雅は少し考えて、女将に話し始めた。
「職業は怪物退治、名は大雅だ」
「あら、ウイッチャーじゃなくて?
そのペンダントをぶら下げてるんだからバレバレよ。
狼流派でもないし、猫流派でもないわね。どこの流派?」
「虎流派とでも言っておこうか、一般民にもこれを付けているだけで解るのか?」
「ウィッチャーと依頼や仕事をした人なら、知っている人もいるかも知れないけど、一般の人なら知ら無い事が多いわ。
だって、依頼人は仕事をしてくれたら、どの流派なんて関係ないから。
でも酒場や鍛冶屋は大体知っていると見ていいわね、ウイッチャーが剣の修理や、買取りで立ち寄る事も多い場所だから。
町中で魔法は使わない方が良いわ、ウイッチハンターがあちこちに居て、すっ飛んでくるからねぇ。
流石にウィッチャーに手を出すバカは、あの事件以来居ないけど良い顔はされないわよ」
「あの事件?」
「噂程度しか知らないけど、衛兵団のお偉いさんが殺され、火を放たれた事件が有ってね。
それ以来魔法を使う者にはピリピリしてんのさ、悪いことは言わない、フードが有るなら深めに被っときな」
それから2日間、城内に入れない間、特にすることが無いため近所や城壁の入れる部分を探して暇をつぶした。
何か所か見つかったが、多くは夜に限られそうだが、1か所だけ地下通路の入り口を見つけた。
鍵は掛かっては居るが単純な鍵でピックツールが有れば何のことも無く開くだろう。
問題は何処へ繋がっているかだが、万一の脱出経路には使えそうだった。
「これが通行証よ、くれぐれも別の門から入る事は止めてね」
大雅は100クラウン金貨を1枚差し出し受け取る。
確認すると名前とウイッチャーの文字が確認できる。
なにせ、スケリッジへの船の確保が出来ていない、スケリッジからシントラへと渡れるかも不明で、最悪ノヴィグラドへと戻らなければならない可能性がある。
こういうことを検討すると無駄な労力の無い通行証は、あるに越したことは無い。
「なにをするのか知らないけど、この店の名前だけは出さないでね」
「解っている、迷惑はかけない」
翌朝、大雅は宿を引き払い、城壁内へと入った。
アングラで手に入れた通行証は問題なく、顔をちらりと見て顎で"行け"と言われただけだった。
水たまりが所々ある道を歩く。
この世界の町中でも道路は未舗装で泥と土くれだ、踏み固められ固くはなっているが決して良い道ではない。
まあ、中東ではこれよりもっとひどいところも有ったぐらいだから気にはならない。
門を入り、そのまま進むとすぐに酒場が見えてきた。
酒場や鍛冶屋、武器屋などの店はゲームでも情報収集の定番であるが、現実でもそうだ。
しかし、いきなり聞きまわる事はリスクを伴う。
店の前まで行くと、人気もおらずドアには鍵が掛かっていた。
「朝だしな、まあ仕方ない」
短い石橋を渡り、真っすぐ進んでいく。
右側からにぎやかな喧騒が聞こえてくる、どうやら広場のようだ、何人かが露店の準備をしていた。
大雅は、短いトンネルを持つ建屋を抜け、広場の角へと出た、目の前には銀行らしい看板があるがまだ開いていないのか人気は無く、鉄格子にも厚いカーテンが掛かって閉じている。
広場にある露店も半分も開いていない。
広場の中に防具屋と並んで本屋らしきものが有り、そこへ入る。
「いらっしゃい、どんなものをお探しで?」
「ウイッチャーに関する物が有ったら見せてくれ。
あと、この地方の地図が欲しいのだが」
「お客さん、何処から?」
「ケイドウェンの北の随分と田舎からだ」
「なら知っていないか。
普通都市の地図はご禁制品だよ。
売っているのがバレたら捕まっちまう。
ウィッチャーに関する書物は殆ど無くてね、以前は少しばかりは有ったんだけど、3年ほど前に売れてしまったよ。
魔女や魔法に関する本なら二階に沢山あるがね、普段はドアを閉じてるんだ。
じゃないと、また燃やされてしまうからね」
「波止場へ行くには?」
「ここを出て左、あとは道なりに真っすぐさ」
本屋を出て、言われた通り歩いていくと5分もしないうちに波止場へと出た。
ノヴィグラドの南西に位置している港は、天然の湾になっている。
古めかしい帆船が6隻ほどと、ひと際大きな軍船とみられる帆船が見える。
大きな帆船にはこの国の旗が掲げられ、周囲には衛兵や大仰な鎧を着けた兵士も見える。
目の前には港が有り、朝だというのに船乗りたちが忙しそうに作業をしたり歩き回っていた。
左手に大きな倉庫群が見える港に面した場所で、一軒の酒場を見つけた。
看板にはゴールデンスタージョンとあるが、もちろん営業時間なんて書いていない。
ドアを開けると、すぐ右側にカウンターがあり、眠そうな店員がこちらを見ている。
カウンターに立つと、ぶっきらぼうに店員は話し出した。
「食い物は、スープと黒パン、肉料理はまだ出来て無いぞ。
酒はエールから各種ある」
「エールとなにか軽くつまむ物は無いか」
「干しサンドフィシュの焼いた物ならすぐできるが」
「それでいい」
「15クラウンだ、そっちのカウンターから受け取ってくれ。
テーブルは好きなのを使ってくれ、あと揉め事は起さんでくれ」
どうやらここは午前中は、セルフサービスらしい。
大雅は5クラウン硬貨を出し男に握らせ尋ねた。
「スケリッジに渡りたいんだが、船に乗るにはどうすればいい」
「スケリッジから来た船は先週発ったばかりだ。
次の船は3日後だな」
「馬も乗せられるのか?」
「馬はわからん。
馬を乗せるのなら直接交渉した方が良い。
階段を下りた奥のテーブルに、スクルスという男がいる。
そいつが口利き屋だ。
ガタイの良い、スケッリッジ人の髭面の男だからすぐわかる」
カウンター横から、エールと皿に乗った5匹ほどの小ぶりなサンドフィッシュと呼ばれる、やけに歯の鋭い魚の干物を炙った物を受け取ると、それを持って店の奥へと向かった。
緩やかな階段を下り、広い部屋を見回すと、客は数人ほどで、奥の方のテーブルに眼光の鋭い髭面の男が、黒パンを齧りながらスープで流し込んでいた。
「ここ、構わないか」
声を掛けると男は大雅をじっと見た後、手で向かいの椅子を指した。
「実はスケリッジに渡りたい。
乗客は俺一人と馬一頭。
あとは少しばかりの荷物だ」
「運賃は1000、馬は1頭に付き600だ。
荷物は程度によるが両手で持てる程度の物なら15、それ以外は一抱えごとに20だ。
出港は3日後の朝。
金は前金で半金、乗り遅れても返却は無しだ。
嵐で出向できない場合は返金するが、港を出た場合は半金しか返金しない。
馬の世話は自分でする事。
出港の夜明け前に、この店を出て右側の埠頭2番目に係留されているヴァンデン号が船だ」
大雅は100クラウン金貨を8枚出すと男の前に置いた。
男は袋から木で出来た割符をこちらに投げてよこした。
「ウイッチャーは何か? スケリッジへでも詣でる風習でもあるのか?」
男は聞いてきた。
「俺をウイッチャーだという理由は?」大雅は聞き返した。
「なに、以前ウッィチャーに仕事を紹介してもらってな。
あと一緒に一仕事したんだよ。
白狼と言う狼流派の腕っぷしの強いウイッチャーだ」
大雅は無言で金貨を男の前に1枚つまり100クラウンを置いた。
男はにやりとすると、すぐその金貨をバックでは無く懐へとしまった。
「その男の事を詳しく教えてくれ。俺は大雅、大雅拝戸だ」
「何処流派だ? 狼とは違うようだが」
「しいて言えば虎流派かな」
「初めて聞いたな。
まあいい。
白狼は俺に、ハットリの野郎の警護を頼んでスケリッジに渡ったよ。
この街でいろいろと騒ぎを起こした為か、スケリッジに用が有ったのかは知らないがな。
その後、乗ってた船はスケリッジの海賊に襲われ座礁したって聞いてる。
ほとんどの者は死んで戻らなかった。
白狼はしぶとく生き残ったらしいがな。
ひと月後スケリッジでは大きな戦いが有った。
何処と戦っていたのかは知らんが、ニルフガード軍の戦船が多数居たらしい」
そこまで言って男は、大雅のエールを取り飲み干した。
「その後の白狼の足取りは?」
「さあね、それ以来このノヴィグラドでは、姿を見た者も居ないし噂も聞かねえ」
「ハットリという男はこの街に居るのか?」
「ああ、一頃は借金やらヴァン・ホルンと揉めたりしたが、今は落ち着いている。
まあ、儲からないと二言目には愚痴を零しやがるが、ありゃ嘘だ。
武器やら防具やら結構な金が入ってるはずだ。
なのにあのクソエルフの野郎、護衛はもう要らねぇとかぬかしやがって!」
「まあ、落ち着け。酒はどうだ?」
「酒なら・・・ねぇな」
大雅は近くに居た娘を呼ぶと、お茶をボトルに入れて持って来るように言い、同時に良い酒を1本持って来るように言った。
「お待どうさま。100クラウンだよ」
大雅は50クラウン硬貨2枚と10クラウン硬貨を3枚を娘に渡した。
「あら~、ありがとね美男子さん、用があったらいつでも言って。
スクルスの旦那なんか一度もくれたことないのにさ」
「さあ、俺の驕りだ。
よかったら一杯やってくれ」
「おうっ、悪りいなっ」
大雅はスクルスの前に、ずいっと封を切っていないボトルを押し出した。
「こりゃぁ、この店で一番いい酒じゃねぇか、いいのか? ほんとに」
「ああ、かまわん。
所で白狼について詳しく知るのは、そのハットリと言う男だけなのか?」
「ハットリは元々10年ほど前にこの街に住み着いてた男だ。
白狼が知り合ったのはこの街でのことだ。
それより詳しい事、は栄光の門の近くにある酒場で聞いてみるといい。
そこのオーナーがダンディリオンという男だが親しいらしい。
チャラけた野郎だがな。
俺が知ってるのはこのぐらいだ」
「そうか、助かった」
「あんた白狼を追ってるのか?」
「いや、白狼は単に会ってみたいだけさ。
用があるのは女魔術師イェネファー」
「なら、この街は外れだな。
3年ほど前に、ほとんどの魔術師はこの街から出たって話だ。
白狼もそれからとんと姿を見てねぇ」
「3年前に何が?」
「どうやら、この街の顔役と白狼が揉めた。
この街には4人の顔役が居たんだが、そのうち1人が命を落とし、もう一人は乞食に落ちぶれた」
「それに白狼が絡んでいると?」
「俺はそう見てる、一人は浴場を経営するルーヴェンという男、もう一人はホアソンと言う男だ。
どちらも裏では碌でもない商売をしていた。
この騒ぎのせいで、フランシスは地下に潜ったままだし、クリーヴァーでさえ滅多に顔を出さなくなった。
それに加えて永遠の炎教団だの、戦争だの碌な事がねぇ」
そこまで聞くと大雅は席を立ちあがった。
「出港は三日後の夜明けだ、乗り遅れても返金は無しだから忘れんなよ」
背中から掛けられる声に、右手を軽く上げ大雅は酒場を後にした。
「次はハットリと言う鍛冶屋か?」
途中何軒かの出店に聞きながら、なんとかハットリが営むらしい鍛冶屋へとたどり着いた。
店先に竈と金床が置いてある様式は、この世界では良くあるらしく、店の前ではエルフと思われる痩せた男が鎚を振るっていた。
「少し邪魔するぞ」
「中に防具や武具が置いてあります。
これを打ったら今日は終わりなんで、少し待っててくれるかい」
大雅はこの世界の武具つまり中世の武具を見て回った。
地球では装飾品としかならない武具もここでは実用品だ。
一振りの両手剣を取ってみるが、ずっしりと重くこれを振るにはかなりの胆力が必要な事だろう。
「それは旦那にはちと無理かな、かなり重い剣でね。
両手剣ならこちらがお勧めだよ」
そう言いながら壁にかけてある剣を示した。
「聞きたいことが有ってここを訪ねた。
すまないが剣を買う予定は無くてね」
「・・・旦那、ウィッチャーでしたか」
「狼流派のウイッチャーを探している。
名はゲラルト」
「彼なら良く知ってるも何も、この店がやってこれたのも彼のおかげだよ。
まあ、あまりぱっとしない結果だったけど。
取り敢えずはやっていく事が出来ている。
で? 彼の何が知りたい?」
「今、どこに居るか知りたい」
「うーん、スケリッジに渡った後は2.3度来たけど、その後はとんと姿を見ないね」
「何時頃の話だ」
「もう3年にもなるよ。
彼に贈った剣をまだ使ってくれていると嬉しいんだがね。
そういや、剣はどうしたんだい? 宿にでもおいてきたのか?」
「まあな、街中でならこれで足りるし、それ以外にも武器は持って居る」
「研ぎでも銀のかけ直しからなんでもするから、お安くしとくよ。
で、何処の流派? 見たことないメダルだけど」
「まあ、虎流派とでも名乗っておこうか。
他のウイッチャーは来た事有るのか?」
「1年ほど前に狼流派のランバートってのが来たな。
あと猫流派がたまに来るよ、剣に銀のかけ直しとかで。
それよりその胸の短剣、見せてもらってもいいかい?」
「これが気になるのか?」
大雅が使っているのはロシア、メリタ社のカラテルというナイフだ。
映画なんかで見られるコンパットナイフよりは少し小型で半分は両刃になっている幅広のナイフでCQCでも活躍する。
大雅が得意とする戦闘スタイルは拳銃のC・A・Rスタイルにコンバットナイフを合わせたものだ、狭いく入り組んだ通路や複雑なブラインドが多い場所での戦闘に特化している。
大型のコンバットナイフはそんなシチュエーションでは取り回しが悪く使いにくい。
良く、小説で「ナイフは銃より早い」という一節を見かけるが、あれはある意味正しく、また間違っている。
単独でなおかつ1対1のクローズドコンバットでは正解だが、1対多、多対多では対応の仕方やチームの組み方、戦闘スタイルさえ異なってくる。
CQBでは相手を即死させない限り、反撃を受ける可能性が常にある。
米国の実戦データでも胸部に致命傷を受けた敵が前進し、刃物で反撃し味方を殺傷する敵がいることを報告している。
これはたとえ致命傷を受けていても10~15秒は完全な随意活動をするに十分な酸素が脳にある事を意味する。
よく映画やゲームでは撃って倒れた敵をそのままにして、後から反撃を喰らうという、ある意味お約束のマヌケな映像が見られるが、実戦では余程余裕が無い限りはあり得ない。
死亡を確認するか、止めを刺さない限りは「排除」とは呼べない。
反撃の要因は確実に排除するのが実戦だ。
どの国の兵士でも必ずこの訓練が有る。
大雅が愛用するカラテルと呼ばれるコンバットナイフは、こうした状況であらゆる方位に対抗でき、幅広で肉厚のナイフは自衛隊内部では使用できない物の、長年相棒として戦ってきた信頼できるバディとも言える。
大雅は、左胸のシースからナイフを引き抜くと、指先でクルッと反転させハットリに渡した。
受け取ったハットリは舐めまわすようにナイフを見て行く。
「身が厚く見たことも無い形だ・・・投げるにも向くバランスだが、突く切るに特化したナイフだね」
ハットリは近くのテーブルから真っ白な砥石を取り出すと、刃をシェーピングするように擦り砥石を確認している。
「ものすごく固い・・・これを打った人は?」
「さあ? それ、俺の所では普通に売られている軍用ナイフだぞ」
「それにしてもすごい・・・7割が両刃なのは初めて見た」
「まあ、その方が使い道が広いしな」
「材質はただの鋼ではないな・・・」
「さあ、鋼の種類までは知らん。俺はただ買っただけだしな」
大雅は70%がクロム、16%がモリブデン、残りがバナジウムとシリコンという組成を知ってはいたが、それを言ってもこの世界で理解されるとは思えなかった。
そう、このナイフは一切鉄を含んでいない、良く勘違いされる鉄を含むクロムモリブデン鋼とは全く違う。
「なあ、これを売ってくれないか」
「だめだ、こっちじゃ手に入らないからな」
実はこのナイフだけは大雅個人の私有物だ。
自衛隊でも使っていないし、日本に入って来る量も少ない、すぐに再入手できるとは限らないうえ、この材質がこの世界で作れるとはとても思わない。
「とても残念だ、いつかそんな鋼で剣を打てたらと・・」
そう言いながらナイフを返してきた。
「ゲラルトの事が知りたいのなら、ローズマリー・アンド・タイムという酒場を訪ねて見るといい。
もしかしたらゲラルトを良く知る者に会えるかもしれない。
南門のすぐ近くだよ。
それより団子を食べていかないか。
最近は近所の婦人を雇って、午後から団子の店を開いているんだ」
「団子は是非改めて来させてもらうよ」
これ以上情報も得られそうにないので、大雅はその足でローズマリー・アンド・タイムへと向かった。
昼近くのせいか店はドアが開かれ、中年のおばさんが、柄の短い箒で掃き掃除をしていた。
「店主はいるかな」
「お客さん、店はあと1時ほど後ですよ。まだ仕込み中で」
「それでもかまわない、酒を飲みに来たのではなく店主に会いたい」
「ダンディリオンさんなら月に数回顔出すていどですけど、ゾルタンさんならもうすぐ来ますよ。
まあ、帰るのも早いんですけどね」
「それまで待たせてもらっても?」
「構わないですけど・・・じゃあ、端の方で良いなら」
そう言って彼女は店内へと入れてくれた。
店の中は、煙草の残り香や、アルコールの匂いが染みついていた。
暫くすると掃除を終えたらしく、女給と思われる女性が小奇麗な前掛けをしてやってきた。
「折角来たんだ、何か飲んでくかい?
食い物はまだ出来ないけど、木の実と乾し魚を炙った物なら出せるよ」
「じゃあ、エールと木の実を」
「あいよ、10クラウンだよ」
大雅はポケットから5クラウン硬貨を2枚出すと女給に渡した。
この世界のエールつまりビールに似た酒だが、地球のビールとは全く違う。
発泡酒のクソまずい代物を、温いまま微発砲にしたようなもので、喉越しも悪い。
「お待ち」
女給が陶器で出来たビアジッョキに似たコブレットと、木皿の乗ったナッツをテーブルに置いていった。
薄暗い店内で、エールを舐めながら、地球で言う所のピーナッツに似た食感のナッツを齧る。
ピーナッツに似た木の実は、異様にデカい。
姿かたちはピーナッツで味もそのままなのだが、大きさがウズラの卵ほど有る。
それ以外の木の実は、何のアルカロイドが含まれているか判らないので手を出さない。
なにせ碌に窓も無いので、唯一開かれているドア横の小さな窓から通りを眺めた。
暫くするとがっしりとした体つきだが、身長は140cmほどのモヒカン刈りで髭面の男がやってきた。
ドワーフと呼ばれている、成りは小さいがれっきとした戦闘種族だ。
「白狼を探しているってのはお前か?」
「白狼と言うより、彼からイェネファーという女性を紹介して貰いたくてね。
俺は大雅という」
「俺はゾルタンという、ドワーフだ」
ゾルタンと名乗るドワーフは同じくエールを女給に頼んだ。
「で、タイガとやら。
おめえさんはなんでイェネファーに会いたいんだ?
アレはゲラルトにぞっこんだぞ」
「言っておくが、色恋沙汰ではない。
イェネファーの魔法の力を借りたいだけさ」
「ほう。確かにイェネファーの魔力はすげえ。
それは認める。
だが、その程度の実力は結構いるぞ、フィリパ、トリス、まあ一癖も二癖もある連中だがな。 おめえさんの口からは本音が見えねぇ、何が目的だ?」
大雅は少し迷った末、事実をゾルタンに話すことにした。
「実は俺は此処つまりこの国の者ではない。
いや、この世界の者ではないといった方が正しいか。
とにかく、まったく異なる世界からやってきた。
目的はこの世界との交易や国交の為の事前調査と言うと判り易いだろう。
この世界に来るには、この世界のある魔女の力を借りてやって来た。
しかしゲートが安定せず、このままでは俺は元の世界に帰れない可能性もある。
そのゲートを安定させるため、魔女の力が必要っと言う訳だ。
ここまではいいか?」
ゾルタンは少し考えると、グビリとエールを煽り、こう言った。
「その話が本当なら、場所を変えた方が良いな。
ここでは人の目や聞き耳が多すぎる」
そういうと、大雅について来いと言わんばかりに指をクイッと動かし、階段の方へと誘った。
3階まで上ると右側に有る部屋に通された。
「お前さんは確かに初めて見る顔つきだ。
南方や北方にもそんな顔立ちは居やしねぇ。
ところでこっちの世界の魔女と言っていたが、名は?」
「サブリナ・グレヴィッシグ」
「ずいぶん前に荷馬車の車輪に縛り付けられ、火あぶり処刑にされたと聞いているが?」
大雅はエード・グリンヴェールの女魔術師であるアリツィア・ノヴァックに説明した時のように携帯端末の映像を見せた。
「・・こりゃ驚いた。生きていたとはな。
こりゃ信じるしかあるまい。
ふーむ・・・よしっ、決めた!
お前さんに付いて行ってやる。
2日、いや、3日くれ。
旅の準備をしなきゃならん」
「いや、居場所を教えてくれれば自分で探すさ、というより知っているのか?」大雅は答えた。
「そりゃねえだろう?
こうして知り合ったんだ、それにこう言っちゃなんだが、この国はもうダメだ。
炎の教団だか何だか知らんが、国王が宗教カブレでめちゃくちゃだ。
そろそろケツ捲って旅にでも出ようかと思ってた所だしな」とゾルタンは言った。
大雅にとって有難迷惑だが、ゾルタンは頑としてイェネファーの居場所を大雅には教えなかった。
「会いたくば連れて行け」と言う事らしい。
ゾルタンと連れ立って、波止場のスクルスの所へと向かった。
「ゲラルトの所に行くにはテメリアを越えて南へと向かわんといかん。
ルートは2つ、一つはポンター川に沿って東へと行き、ハッゲかフロットサムの辺りから川を渡ってエランダーを経由、マリボーを抜けてリエドブリューネからベルヘイブンを通る道だ。
長旅となるだろう2カ月は掛かるとみていい。
もう一つはここノヴィグラトから船に乗ってスケリッジへ渡る、そしてシントラ行きの船に乗ってマルナダル・ステア渓谷を通るルートだ。
陸路は距離が長い上に、戦が起これば暫く近づけん、大きく迂回する必要もあるだろう。
海路は楽だが時化で足止めされる可能性も有るが、そんな時は数日待てばいい、目的地までは1カ月程だ」
説明するゾルタンの言葉を聞きながら大雅は地図をゴーグルに写していた。
「なるほど、イェネファーが居る場所はアメール山脈の南ってわけだ。
結構な距離だな」と大雅。
「なんだよ、土地勘が有るのかよ」とゾルタン。
「なに、地図をみながら聞いてただけさ。ほら」
大雅はそう言って携帯端末にこの地方の地図を表示させた。
もちろんサブリナの持って居た地図を電子化したデータなのだが、当然拡大や縮小も自在だ。
「すごいなその魔道具は、ならばもっと南の方の地図はあるか、アメール山脈より南のだ」とゾルタン。
「いや、残念ながら持って居ない。
この地図もサブリナが持って居た地図を写したものだしな」と大雅。
「昔はこの街の本屋にも売ってたんだが、禁書扱いとやらで全て焼かれて無いしな。
もしかしたらスケリッジへ行けばに手に入るかもしれん。
で? 海路でいいんだな」ゾルタンは端末から目を大雅に向けて言った。
「ああ、すでに前金は一人分だが払ってある。金が足りると良いが」
「お前さんに負担はかける積りは無いぞ。
これでも名高いローズマリー・アンド・タイムの共同経営者だぞ」とゾルタンは憤慨しながら言った。
波止場へ向かうと、この世界では大型とされる船が見えてきた。
大雅は右側の埠頭2番目の船の所へと行き、船員にスクルスは何処かと尋ねた。
「スクルスの旦那なら、いつもの酒場に居るじゃねーかぃ。
居なかったら西埠頭の喧嘩博打場にいると思うよ」
「タイガ、手分けして探そう。
俺は喧嘩賭博場へ行ってみる。
お前は酒場を頼む」ゾルタンはまだむっとした表情で話した。
「判った、ではここで落ち合おう」
大雅が酒場へ向かうと、早々にチップを弾んだ女給がやってきた。
「いらっしゃい、旦那。
今度は夕飯かい?
でもそれにゃちょっと早いかねぇ」
「スクルスは居るか」
「スクルスの旦那ならいつもの喧嘩博打場さね。
それより旦那。
なんか食べるか飲んでってよ」
「悪いな、まだ腹は減って無くてな。
教えてくれた礼だ」そう言って大雅は彼女に10クラウン硬貨を渡した。
「あんがとね、旦那。
また来ておくれよ、脚くらい見せてサービスするから、きっとだよ」との声に送られながら埠頭の西側へと足を向けた。
喧騒とした声と、怒声、罵声で喧嘩賭博の場所はすぐに分かった。
「さあさあ、今度はスケリッジのスクルスとドワーフのゾルタンの戦いだぁ!
掛け金は10クラウンから、さあっ張った張ったぁ!」
大雅は会然とした、なぜ二人が戦っているのかは別として、ゾルタンはスクルスに会いに行ったはずだ、それも船に乗る為に。
それが喧嘩賭博の舞台に何故立っているのか、大雅は理解に苦しんだ。
「二人とも何故戦っている?」投げかけた言葉に二人は同時に答えてきた。
「体がなまって来ててな、ちょとした運動だ」
「このスケリッジ人に礼儀を教えてやろうとな」
暫くの殴り合いが続いた後、最後はゾルタンの金的蹴りがスクルスに決まり、勝負は決した。
「スクルスに乗船の交渉に来たんじゃなかったのか」大雅はまだ息の荒いゾルタンに聞いた。
「ああ、だがドワーフは馬小屋と一緒だとぬかしやがった」
「・・・・まさか値切ったのか?」と大雅。
「・・・まあ、初めての交渉には値切るのが普通だろう」とゾルタン。
そこで七転八倒していたスクルスが立ち上がると、ゾルタンは賭けの元締めから掛け金を受取りスクルスに押し付けた。
「さあ、約束の金だ。
これで文句はあるまい?
次に、馬小屋なんてぬかしたら、玉潰してやる」とゾルタン。
「さて、戻るかタイガ。
準備をしなくちゃな」そういってスタスタと歩き出したゾルタンの後を追いかけた。
ローズマリー・アンド・タイムへと戻ると、着飾ったアンカー髭を生やした優男が居た。
「よぉっ! 珍しいじゃないかダンディリオン。
ちょうど良かった、ちと相談が有るんだが」ゾルタンがその優男を捕まえて話し出した。
「珍しいね、僕もだよゾルタン、上の部屋に行こう。
で? こちらの変わった格好のお方は?」
「紹介しよう。タイガだ。異国の兵士だな」とゾルタン。
「おお、それは珍しい是非話を聞かせてもらいたいところだ、ささ、上へどうぞ」とダンディリオンは芝居が掛かった動きで二人を誘った。
「と、その前に食事がまだでね、ちょっと待っててくれるかい?」ダンディリオンは給仕をしていた女性と2.3言葉を交わすと戻ってきた。
階段を3階まで登ると大きなドアが二つあった。
その右側のドアのカギを開けると二人を招き入れた。
「二人とも昼食はまだだろう? 付き合ってくれたまえ。
そうそう、程度の良いワインも有る。
ワインと食事! これこそが至福の時間だ」
「食事も良いが先に話しておくことがある」とゾルタン。
「ふむふむ、何事かな」
「タイガと一緒に旅に出る事になった。
理由はタイガをイェネファーに会わせる為だ」とゾルタン。
「今はトゥサンだっけ?
たしかゲラルトも一緒だよね。
ま、収まる所へ収まったという事かな」とダンディリオン。
とたんに、ゾルタンはしかめっ面をして「その名を出すな!
誰かに聞かれたらこの国では不味いぞ」と言った。
「大丈夫だよ、この部屋は傍聴を不可にする魔道具が有る。
まあ、金は掛かったけどね」とダンディリオンが笑いながら言った。
「そのトゥサンはアメール山脈の向こうなのか、というのは自分が持って居る地図では南はアメール山脈までの地図しか持って居ないんだ」と大雅。
「まあ、そういうこった。
ほら見ろダンディリオン。
お前さんの口が軽いせいで、タイガに行き先がばれちまったじゃねーか。
どうしてくれる?」とゾルタン。
「それは別として、ここに戻ってくるのかい?」とダンディリオン。
「それは判らん。
なにせ今は良いが非人間族には、日々暮らし向きが厳しい国になって来ている。
この国じゃ贋金が横行する始末だ。
まだテメリア北部とエイダーン北部で持ちこたえては居るが、レダニアが落ちるのも時間の問題だろうな。
俺はその前にここを出る積りだ」とゾルタン。
「まあ、僕の商売も場合によっては一時的に下火に成っちゃうかもなあ。
でも今のところは好調だしね。
プリシラはとてもじゃないが、さすらいの吟遊詩人には向いていないしな、僕はここでもう少し頑張ってみるよ。
だけど共同経営者の件は、そのままにしておいてくれないかい。そうして置けばまたいつか話を聞かせてくれるだろう?」とダンディリオン。
「ああ、お前さんがそれでいいならな。
いつかまた会おう、友よ」とゾルタン。
ダンディリオンは立ち上がると、壁の一部を開け巧妙に隠された金庫から、ずっしりとした拳二つほどの大きさの革袋を持ってきた。
「これを持って行ってくれないか。
中身はフロレンス金貨が入っている。
最近ではクラウン金貨なんか信用できないからね」とゾルタンに渡した。
「いいのか? こんなに」とゾルタン。
「気にしないでくれ、と言うより共同経営者としての取り分だからね、正当な報酬だよ。
というのも最近どうにも南方からの物の流れが悪くってね。
使い道が無いと言うのも本音だよ」とダンディリオン、意外とちゃっかりしていた。
こうしてゾルタンと旅をすることとなった大雅は、今借りている宿を引き払い、ローズマリー・アンド・タイムへとやってきた。
ゾルタン曰く「置いて行かれちゃたまらん」との事でローズマリー・アンド・タイムへと宿を変えたのだが、どの道同じ船に乗る事に成るのだ。
もちろん、ゾルタンを振り切って陸路を行くという手も有るが、判っているのは「ゲラルトとイェネファーはトゥサンに居る」ということだけ。
公爵自治領の首都だけあって、探すには骨が折れそうなことも確かだ。
そんな訳で大雅は翌日、丸々1日する事が無くなったわけでもなく、市中の雑貨、本屋に通い、地球から指示の有った物品を購入していた。
その費用だが、日本円に換算し大雅個人の口座にプールされるという事だ。
その本屋も間もなく店を閉め田舎に引っ込むとの事で、中に置いてある書物はまばらだった。
特に本については購入が多く、手持ちの資金はすぐに底をついた。
ゾルタンに教えてもらった銀行は、大祭司広場にあり大雅が立ち寄った本屋のすぐ近くだった。
この銀行は各国の通貨両替だけでなく、貴金属の取引、宝石の買い取りもしてくれるとの事で、まだ残っていた宝石の半分をフロレンスに替えた。
テメリアのオレンやレダニアのクラウンを持って居てもクソの役にも立たない、明日には船に乗るのだから。
因みに、スケリッジではどの国の通貨でも使用できるらしいが、クラウンはご時世からかなり買いたたかれる、つまり割高になってしまうとのこと。
まあ、贋金を作る段階で国としては終わっている。
金本位制どころか、地金による金属貨幣をすべての国が採用している事は中世と変わりない。
その中で贋金が流通することは、経済が既に破綻している事を示している。
金額は結構な物になった、贋金が横行するこの国でクラウン金貨は下落の一途を辿っている。
第三次紛争が始まる前に、既に半額の価値まで下がり、大きな商人や銀行は既にフロレンス金貨やオレン金貨への決済へと移行しつつあった。
なのに王政府はなんの手も打たないまま、いやむしろ放置しているフシさえあった。
大雅は、屑宝石に近い小ぶりな物を換金依頼したが、それだけでも数万フロレンスに成るという。
金貨に換算しても重くなるだけなので、口座を作ってはと持ち掛けられたが、それは断った。
と言うのは大雅はこの世界では何の身分を証明できる物は無く、口座を作るには無理があったからだ。
そんなやり取りをしている所へ丁度ゾルタンが訪れた。
「タイガ、銀行なんかで何してるんだ?」
「いや、手持ちが少なくなったんで、フロレンス金貨に両替しようとしていた所だ。
そっちは?」
「ああ、金貨が重いんでな。
預けに着たところだ。
ここヴィヴァルディ銀行は、シアンファネリ銀行の系列なんだ。
ここに口座を持って居れば、テメリアだろうがニルフガードだろうが換金できる。
もちろんこれから行くスケリッジにも銀行がある。
シアンファネリ銀行の支店がな。
口座は持って居て損はないぞ」とゾルタン。
「そうしたいところだか・・・」
「判ったみなまで言わんでいい。
俺が保証人に成れば口座は作れる、そうだな頭取」とゾルタン。
「もちろんだゾルタン。
じゃあ、奥に入ってもらってもいいかな」とヴィヴァルディ銀行の玄関に立っていたドワーフは銀行の窓口の横のドアへと向かった。
「なあ、ドワーフ馴染みだから言うが、何故ああやって玄関の傍に今でも立っているんだ?
頭取なら奥でデンと構えてりゃいいだろう」とゾルタン。
「なに、一日中立ってるわけでも無いさ、なにせここは紛争中の国だ。
昨日金持ちでも、今日は借金まみれなんてザラにある。
そんな顧客の状態を見分けるには重要な仕事だよ。
それにこれは俺様の趣味でもあるがな、道行く人を見ていると、こいつは間もなく口座を作りに来そうだなとか、借金している奴がそろそろ限界で逃げ出しそうだなとか判るんだよ。
このご時世だ、融資の焼き付きを避ける事は事業の肝だ、だから資金の潤沢なうちにシアンファネリ銀行と提携したのさ」銀行家は答えた。
何枚かの書類にサインした後、大雅の口座が完成した。
「これがあなたの口座証明書だ。
再発行は出来ないから無くさないようにな」と銀行家は大雅に銀色のチェーンが付いた穴の開いたメダルを差し出した。
「それが通帳になっているんだ。
特殊な魔法が掛かっててな、個人の特定と口座管理のキーになっている。
これが無いと面倒な書類手続きが、毎回必要になる、持ってて損はないぞ」そう言いながら、ゾルタンはポケットから同じようなチェーンが繋がったメダルを見せた。
「ところで、宝石の換金がご希望なら、ここで換金しておいては如何かな?
この国では宝石や地金の価値が上昇している。ここで換金するとお得ですぞ」
大雅は、銀行家の意見に従い全て換金する事にした、どうせ遺跡調査で得たあぶく銭だ。
持って居ても地球で換金するのは得策ではない。
大雅は遺跡の古代金貨や宝石類を出したが、騒ぎになりそうな大粒の宝石だけを残した。
隣ではゾルタンが唖然としている。
「すごい量だな。俺の資産が霞むぐらいだ」とゾルタン。
「一山当てたんでな、怪物共には手こずったが、手付かずの遺跡調査の報酬だ」と大雅。
「どんな物でも物には変わりませんぞ、それが余程の違法な物でない限りは。
さて、査定に明日まで掛かるが、これはお預かりしても?」
「構わんが、今査定できる物については1万フロレンスは現金で、残りは口座へ頼む」と大雅。
「判りました、では古代金貨ははっきりとしていますので、それを両替しましょう。
メダルをお預かりしようかの。
諸経費は口座から差し引いておこう」
銀行家は大雅の古代金貨とメダルを預かると、別室へと消えていった。
待っている間、ゾルタンはいろいろな事を聞いてきた。
やれ、お前の世界ではどんな仕事をしていたのかとか、どんな酒が有るのかとか。
お前の武器はどんな武器なのかとか。
そんな話をしている内に銀行家は戻ってきた。
「先ずはメダルをお返ししますぞ。
それとフロレンス金貨で1万、残りの139万6千3百22フロレンスは口座に入っている」銀行家は計算書と共にトレー乗ったフロレンス金貨を大雅に渡してきた。
都合、140万フロレンスが大雅のこの世界での全財産となった。
フロレンス金貨はフロレンス大金貨が13枚、これは1枚が10万フロレンスだ、さらに1万フロレンスの価値が有るフロレンス中金貨が、1000フロレンスの価値が有る金貨がとなり、100フロレンスの小金貨、50と20フロレンスの大きさが異なる銀貨、そして10、5、1フロレンスの銅貨となっている。
大雅は1万フロレンス分を適宜小銭に振り分けて貰い、それを革袋に仕舞い、首からメダルを掛け懐に仕舞った。
「そういや、そのメダル。
ゲラルトの持って居た物と少し違うが何派なんだ?」とゾルタン。
「エード・グリンヴェールの女魔術師でアリツィア・ノヴァックという者が作ってくれた。
ウイッチャー家業の切っ掛けになった」そういって虎の顔を意匠したメダルを首から外し、ゾルタンに見せた。
「良い作りだな。
銀のボディに何か中に仕込んであるのか、これだけでもすごい価値だ」横から見ていた銀行家が言った。
「確かにゲラルトが持って居たメダルとは少し違うがこっちの方が恐ろし気な顔だな。
シリは腰のベルトに着けていたが」とゾルタン。
「シリ? 女のウイッチャーなのか?」と大雅。
「まあ、この先は道すがら話そう。じゃましたな」と大雅を外へと連れだした。
ローズマリー・アンド・タイムへと戻った二人は、3階の左側の部屋へと戻ってきた。
明日まで大雅が借りている部屋だ、このローズマリー・アンド・タイムでは最も良い部屋で、ダンディリオンの妻であるプリシラが結婚するまで住んで居たという。
「ところで、先ほど言っていたシリと言う女ウイッチャーと言うのは?」と大雅はゾルタンに聞いた。
「間もなくダンディリオンが夕飯と酒を持って来るだろう、飯でも食いながら話そう」とゾルタン。
暫くすると店の女給を伴ってダンディリオンがやってきた。
「すまないけどドアを開けてくれないか、店主自らが食事を持ってきたんだ」ドアの外からダンディリオンの声が聞こえた。
ダンディリオンは両手に酒とカップを持ち立っていた、後ろには女給が大きな皿を持って重たそうにしている。
「さ、それをテーブルにおいてっと、あとは残りを運んできておくれ」
ダンディリオンはワインと思われる濃い赤の酒を各々のコップに注ぐと、自ら声を上げて言った。
「二人の旅に幸多からんことを!」
大雅もカップを持ちあげ、ゾルタンの方を伺いながら目の高さへと掲げた。
二人は一気に飲みだしたが、なにせ素性の判らない酒、一気に飲むのには気が引けた。
「ゲラルトの農園で作られたワインだが、お口に合わなかったかな?」
ダンディリオンはそう言うと自分とゾルタンのカップにワインを注いだ。
「いや、実はあまり酒を飲まない口でね、ワインの良しあしも良く判らないんだ。すまない」と大雅は申し訳なさそうに言った。
「気にする事は無いさ、なあゾルタン」とダンディリオン。
「ああ、酒は好き好きだしな。
俺様もきつい蒸留酒よりワインの方が好きだ、ドワーフどもと飲むと、すぐに蒸留酒となるから翌日がきつくてかなわん」とゾルタン。
「ところで、その目に着けているのは眼鏡かい? それとも変装・・にしちゃ透明だが見たことも無い作りだな」とダンディリオン。
大雅は、目を保護する機能、いろいろな情報を映し出す魔法具の様な物だと話した。
「麗しき女性の下着姿が見えるとか、その人間の本性が見えるとかかい?」とダンディリオンが言った言葉にゾルタンが噴き出す。
「いや、そんな機能は無いが、映し出す機能は映像の表示や地図の表示なんかだな」実際には赤外モードにすれば薄着などは透けて観えてしまうが黙っておいた。
また、暗視機能も黙っておくことにした。
「映像?」
「ああ、戦いの映像とか人と会った時の記録だな」
大雅が答えるとダンディリオンはすぐさま「是非見せていただけないか!」と食いついてきた。
大雅は、コカトリスや怪物たちとの戦い(駆除?)の記録を選択すると、タクティカルグラスを外しダンディリオンに渡した。
「うおっぉぉ! すごいっ!! わあっ!」
急に静かになったり、騒いだりしながらダンディリオンは映像に夢中だ。
「ところで、ゾルタン。
そのシリという女ウィッチャーについて、教えてくれないか」
「ああ、いいとも。
その前にまずは腹ごしらえだ。アンタも食ってくれ」とゾルタン。
どっしりとした重さのワインを口にしながら、大雅はチキンの丸焼きに見える物に手を付けながらワインを飲んだ。
映像が一周したのかダンディリオンは興奮した様子でタクティカルグラスを返してきた。
「凄いよタイガ! こんなものは初めて見た! 是非歌にしたいんだが!」
大雅は公に出来ない行動だからと、せめて国交が樹立するまで伏せてくれるよう頼んだ。
「判った、それは約束しよう」
その後、女給がパンやら煮物の様な物を持ってきて、テーブルは一杯になった。
彼女が出て行くとゾルタンは話し出した。
「シリの本名はシリラ・フィオナ・エレン・リアノン。
シントラのキャランセ女王の孫娘だ。
キャランセ王女の娘パヴェッタ王女の娘が彼女シリラだ。
パヴェッタ王女はニルフガードへと嫁ぎ彼女が生まれた。
父親は現ニルフガード皇帝のエムヒルだ。
しかし父親の当時の皇帝ファーガス・ヴァル・エムレリスはシントラ王国に戦争を仕掛け、シントラを陥落させた。
この戦争でキャランセ女王は亡くなり、パヴェッタ王女もまた海難事故で亡くなった、幸いシリは戦火に燃える町から命からがら逃げ延びた。
逃避行を手助けしたのは、ウィッチャー、リヴィアのゲラルトだ」ゾルタンは静かに話し出した。
「其処からは僕が話そう。
詳しくゲラルトから聞いているからね」とダンディリオン。
「ケイア・モルヘンに身を寄せたシリは、仲間のウィッチャーらと共にシリにウィッチャーの訓練を積ませながら、彼らなりの教育を施したんだ。
でもさすがに死亡率7割を超える「草の試練」には参加させなかった。
ウィッチャーは男と決まっているためだよ。
その為トリスメリゴールドという女魔術師がケイア・モルヘンに呼ばれたんだ。
しかし、ウィッチャーたちの粗雑な教育に見かねたトリスは、普通の教育を施すため、シリをエランダーのメリテレ寺院に通わせることを提案した。
シリは時折、不意に現れるトランス状態、摩訶不思議な予言、シリが強力な力の媒介たる<源流>である証拠だとトリスは断言した。
かくてシリはケイア・モルヘンを離れメリテレ寺院へと移った」そこまでを話しダンディリオンはワインで喉を湿した。
「しかし彼女の心に刻まれたシントラの悲劇は、生易しいものではなかった、毎日のように続く悪夢、あの子は日々沈んでいった」
「なるほどPTSDか、兵士でも発症する心の疾患だな」大雅は答えた。
「PTSD?」とダンディリオン。
「俺の所では心的外傷後ストレス障害と呼ばれている。
自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因だ。
一応治療法は確立されているが時間と手間がかかる。
すまない話の腰を折った。続けてくれ」大雅は答えた。
「まあ、そんな状態のシリを救ったのがイェネファーだった。
イェネファーは、シリに魔法の使い方を教え始める。
始めこそ反目し合っていた2人だったが、徐々にその間には絆が芽生えていったんだ。
そう、彼女にとっては姉妹の様な関係がイェネファーなんだよ。
まあ、ゲラルトは父か兄の様な関係だと思ってれば正解だな」ダンディリオンはそう語った。
「ニルフガード帝国はシリを保護しなかったのか?」大雅はダンディリオンに聞いた。
「北方諸国への侵攻を目論むニルフガード帝国を牽制するため、王たちはシントラの大火を生き延びた<源流>の少女シリラを巡って暗躍を続けていたんだ。
それはシリが古代エルフの源流〈古の血〉を持つと見られていたからだ。
イェネファーはシリを母校であるアレッザの魔法学校に在籍させ、魔法の使い方を学ばせようとしていたんだ。
それほど魔法の腕はひどい物だったらしい」答えをゾルタンが話した。
「そうだね、僕もその前後彼女の近くに居たんだけど、ゲラルト曰く〈魔力は莫大だがコントロールが全く効かないサマムの様な物〉と言っていたねぇ」とダンディリオン。
「サマムって?」大雅は聞いた。
「サマムっちゅうのはウィッチャーが使う小型の爆弾だ。
作り方は門外不出、湿気り易く取り扱いには気を使う。
まあ、使う事を前提にしなきゃ、作り置きは無理だってゲラルトは言ってたな、強さはちょっとした魔法並みだドガーーーンッ!ってな」
「ふむ、グレネードみたいな物か」ふと大雅は呟いた。
「やっぱり持ってるのか?」とダンディリオン。
「そりゃそうだろう、でも暫く使ってないなら湿気って使えないだろうがな」とゾルタン。
「俺の世界では普通に使われているよ、手で投げるものも有れば、道具を使って撃ちだす物もある。
金属容器に密閉されているから雨の中だろうと水の中だろうと関係なく爆発する」そう言って胸に1個だけ付けてあったM67破片手榴弾をテーブルらゴトリと置いた。
心なしか、ダンディリオンとゾルタンが椅子に座ったまま距離を取り始める。
「安全ピンを抜いて手で投げる。
爆発すれば半径2.7ファゾム(5m)以内なら人間は致命傷を受け、15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する」大雅はM67を取り上げ説明した。
「今は安全なんだな?」とゾルタン。
「もちろんだ、このピンを抜かない限りはな」そう言いながら胸にM67を戻した。
「安心しろ、既に50年以上も使われ安全が確立された武器だから安心していい」そう言うと二人はやっと椅子を基の位置に戻した。
「で、そんなにひどかったのか? シリの魔法の腕は」とゾルタンはダンディリオンに聞いた。
「らしいね、火の魔法を放つと森が全焼とか、防御の魔法では自分も閉じ込められて2日も飲まず食わずだったとか」とダンディリオン。
「最終的には、再びシリはケイア・モルヘンに戻ったんだ。
シリが襲われそうになった時、異世界に転位したらしい、そうして何年か過ぎだが、彼女を匿っている古代エルフの一派と対立する別の古代エルフの一派が彼女の力を欲し、この世界を巻き込んだ紛争に発展した。
そして、その戦いがスケリッジの北で行われた」ダンディリオンは続けた。
「まあ、そこらについては皆口が重くってな」ゾルタンは暗い顔をした。
「そういや、ゲラルトもゾルタンもあの戦いについてはあまり話してくれないが、どうだったんだい?」とダンディリオン。
「まあ、あまり思い出したくないんだが、俺たちがワイルドハントと呼ばれる連中との一戦だな。
辛うじて退けたがらしいが結構な被害だったらしい。
ヴェセミルはゲラルトにとっても師であり父の様な存在だ。
シリにとってもな。
多数のワイルドハントと呼ばれる一派は、古代エルフの連中の一派だ。
いくつかの派が有ってな、シリを保護していたのは穏健派の一派だ。
その穏健派と対抗するのが武闘派の一派だ、それがワイルドハントの正体だ。
あのクソエルフ共はまだ13にもならないシリを狙って攻めてきた。
突然の侵攻で防ぎようがなかったらしいが、シリはその時古代エルフの所へ飛んでいたんだ、単独でな。
いろいろあって、エルフの穏健派が保護し匿っていたらしい。
しかし、かの地でも穏健派と武闘派の戦いが激しくなり、穏健派は元の世界、つまりこの世界にシリを戻した。
保護付きでな」ゾルタンは淡々と語った。
「ゲラルトもシリを探す旅に出た、つまり彼女はワイルドハント、北方諸国の王たち、ニルフガードと三方から追われていたってわけだ。
そしてワイルドハントはシリを奪うべく、全戦力で攻勢を仕掛けてきた。
これに対抗したのがゲラルトとその仲間たち、そしてゲラルトが説得したニルフガードの戦力だ。
ゲラルトはエムヒルからシリ捜索の依頼を受け、スケリッジの北で戦いが行われた。
激しい戦いだったが、最後はゲラルトがクソエルフの首を落とし決着がついた。
しかしそれだけで事は終わらなかった。シリはクソエルフ共が世界を渡るときに利用している塔を破壊するため単身塔へと乗り込みその力を解放した。
どんな魔法使いもかなわない激しい力だ。
それ以後彼女の行方は分からない」ゾルタンは言い終えてワインを煽った。
無言の時間が部屋を支配した。
大雅にとってもシリの生きた経歴には、憐憫の情を禁じ得ない。
「・・・表向きにはな」とボソッとゾルタンは言った。
「! 生きているのか、あの子は!」ゾルタンに掴みかかるようにダンディリオンは迫った。
「ああ、今は女ウイッチャーを稼業としている。
シリの腕は剣だけなら、ゲラルトの一撃を上回る。
とても素早く重い一撃だ。
剣士としても一流だが、恐ろしいのは一瞬にして背後を取る能力だ。
だがな二人とも良く肝に銘じてくれ。
この事がエムヒルの耳に入ったり、公に成ったら再びシリは追われる日々になる。
せめてエムヒルの時代が終わるまでは、秘密にしておくべきだろう。
あの子は生まれながらに悲運の道ばかりだった、いまやっと女ウイッチャーとしてだが、幸せな生きがいのある道を生きている。
誰にもこれを奪う権利なんてない。
これを知っているのは俺、ゲラルトとイェネファー、そして今話したお前たちだけだ。
だからこそゲラルトとイェネファーの居場所も伏せておく必要があった」とゾルタン。
「誓おう、決して口外しないとね。
もちろん戯曲にもしないさ。
でもエムヒルが失脚したり死んだら別かな」とダンディリオン。
「俺も決して口外はしないよ。
これでも自分の国では政府の人間だ信頼してくれていい。
話してくれて助かったよ、ゾルタン」と大雅。
「ああ、ついでに言っておくがシリはとびっきりの美人だ。
惜しいことに顔に大きな傷はあるがな。
間違ってもシリに下手なコナ掛けたら、ゲラルトとイェネファーを敵に回すことになる。
つまり女魔術師の数人、狼流派の全ウィッチャーを敵に回すことになる、気を着けろよタイガ」とゾルタン。
「ああ、わかってる。
イェネファー女史の心証を悪くしたら俺のミッションも崩壊するからな」と大雅。
いよいよスケリッジへの船旅の朝、旅支度をした大雅とゾルタンは夜も明けぬ星空を見上げながら船へと乗船した。
もちろん大雅の馬であるナジャムも一緒だ。
船倉にある馬房とは言えないほどの狭い所なのは致し方無いが、大きな体を丸めて寝ているナジャムは寝て過ごす事を選択したようだ。
「お前には辛いだろうが、数日の辛抱だ。
しっかり走らせてやるから着くまでは大人しくしてくれ」
ナジャムは解ってるよと言いたげに、一声「ブルッ」と鳴いた。
7日後、海は凪いだまま何事も無くスケリッジの港へと到着した。