Advanced Witcher   作:黒須 一騎

13 / 25
怪物退治と結婚騒動

 

 

 

 

「なるほど、白狼が製材所のドラウナーを倒した後に、アラキスが住み着いたって感じか?」

「ええ、2年ほどは問題が無かったけど、1年前からよ、アラキスが出る様になったのは。

 ドラウナーなら、兵士や衛士でもなんとかなるけど、アラキスはダメね。

 おかげで、製材所の人間が何人も殺され、兵たちも殺られたわ。

 以前のドラウナーの方が、よっぼとマシよ」

 

「まあ、平和な2年の代わりに、後で出てきた問題は大きかった、と言う事だろう。

 防護柵や何らかの防御は必要だろうな。

 問題は、大きくなる前に摘んでおいた方が良い、後回しにすると、付けは大きくなるからな」

「耳が痛いわ、でも確かにその通りね。

 実際、そろそろ大規模に、攻勢を掛けようかって話になってたのよ。

 まあ、それでも被害は発生するから、二の足を踏んでたのよ」

 

 

セリスは肉と野菜が入った、炒め物を口に運びながら、赤ワインを煽った。

「明日も早い、そろそろお開きにしよう」

大雅がそう言うと、残念そうな顔でセリスは「もう少し良いでしょ」と言う。

「明日は、朝から出る事に為る。

 前日の深酒は勧められんぞ、ほら、水だ、これでも飲んで酔いを醒ませ」

 

「ね、銃、見せてくれない?」

「構わないが、結構重いから気をつけてな」

大雅は、そう言うと18インチの銃身を持つM870MCSをセリスに渡した。

弾は抜いてあるので、問題はない

 

「結構重いのね」

「まあな、それでも銃としては平均的な重さだ」

「どうやって敵を倒すの?」

 

大雅は、バックから1発の弾を取り出した。

「コレが弾だよ。

 この中には飛んでいく弾頭と火薬が入っている。

 これを銃の中に込め、引金を引くと弾頭だけが飛んでいく。

 飛んで行く弾頭の速度は、音よりも早いが、離れれば離れる程、弾の速度が落ちて威力が無くなる。

 まあ、それでもこの弾は100m程離れても十分に人なら殺すことができる」

 

「銃は、この2丁だけ?」

「いや、あと数丁有るが用途も違うし、明日は使う予定はないな。

 明日持って行くのは、この二丁とサブウェポンだけだ」

「サブウェポン?」

 

「この二丁は、メインウェポン。

 サブウェポンと言うのは、この銃が何らかの理由で使えなくなったり、給弾が間に合わないとかの場合に、使用する予備の銃だ」

大雅はハンドガンのP320の弾倉を抜いてから、セリスに渡す。

 

「これも結構ずっしりするのね」

「弾を入れれば、もう少し重くなる」

「でも、さっきの弾は何処に入るの?」

「メインウェポンとは違う弾を使う、これだよ」

 

大雅はそう言うと、弾倉から1発の9ミリパラ弾を抜いて見せた。

「弾頭はこの丸い部分だ。

 こいつだけが、飛んでいくんだよ。

 後ろの方には火薬が詰まっている」

 

「結構小さいのね、これで怪物が倒せるの?」

「クマや大型の物は無理だが、17発も連続して撃てるんだ、無傷じゃすまないだろうな。

 それに人なら急所に当たれば、一発で死ぬ」

そういって、大雅は額を指さした。

 

「明日見せて貰えるのね」

「まあ、そうなるな」

 

「さ、お風呂よ!」

「では、外で待っているよ」

そういって、大雅は立ち上がろうとしたが、セリスは大雅の袖をつかんできた。

 

「一緒に入りましょうか」

「ここには、客と一緒に風呂を楽しむ風習でもあるのか?」

「まさか、夫婦か恋人同士だけよ」

「では、そのどちらでもない俺は外に行かなければな」

そう言って、大雅はするりと躱し、ドアへと向かった。

 

「もうっ! もうっ、ここまでしてるのに!

 恥ずかしいったら、ありゃしないわ!」

そんな声を聴きながら、大雅はドアに鍵をかけ。屋敷を抜けてテラスへと向かった。

空には満天の星が輝いている。

地球では限られた場所でしか見られない程の光景だった。

 

「珍しいな、ここで合うのは」

声をかけてきたのは、ヤルマールだ。

 

「陛下が、ご入浴中でね。

 こうして、部屋を追い出されて、星を見てるって訳だ」

「ふっ・・ははははっ」

「そんなに面白いか?」

 

「面白いも何も、あの跳ねっ返りが、お前に惚れて居るのは知ってるだろう、なのにお前は一人寂しく、ここで星を愛でて居るって訳だ。

 んっ? もしかして、もう相手が居るのか?」

「こんな異世界くんだりまで来る男に、女が居ると思うか?」

「なんだ、いないのか。

 なら、余計に問題はないだろう」

 

「問題大ありだわ!

 なんだって、この世界の女は、隙あらば関係を結ぼうとする?

 得体も知れぬ異世界人だぞ?」

「本能みたいな物だろうな。

 この世界の女は、けっこう貪欲だぞ。

 気を抜いたら《喰われる》からな、あはははっ」

 

「まあ、気を付けるよ。

 とはいえ、明日も早いしそろそろベットに入りたいんだが、セリスを引き取ってくれるか」

「いいぞ、任せておけ!」

鍵を受け取ったヤルマールは颯爽と向かっていった。

 

 

大雅は30分ほど星空を見て、そろそろ大丈夫だろうと、部屋に向かった。

そして、部屋の前には、丁度ヤルマールが居た。

 

「タイガ、丁度良かった。

 セリスには話しておいた、宜しくな!」

ヤルマールは、それだけを言うと、返事も聞かずに踵を返した。

 

「話? 何のことだ・・」

鍵を開け、部屋に入ると、とっとと風呂にでも入り、寝ようと思った。

風呂桶にはまだ八分目ほどの綺麗な湯が溜まっていた。

椅子を持ち出し、服をその上に置き、全裸で風呂に入る。

 

「ふぅっ! 風呂は良い・・・」

桶から出て、床の石の上でしゃがみ体を洗う。

髪の毛が短いので、ボディシャンプーで頭ごと洗っていく。

泡を落とし、再び桶に入る。

 

新しいボクサーパンツを着け、Tシャツを着る。

今日はこのまま寝ようと思い、ベットのボリュームの有る布団を捲った途端、大雅は固まった。

其処には、下着だけの、ほぼ半裸のセリスが居た。

 

「・・・ふうっ・・・ヤルマールが来たはずだが」

 

「来たわ、そしてこういったの「あいつを捕まえてモノにしろ」って」

「あのな、今ここで王配になる訳にはいかないんだ。

 これが知られたら、俺は首になりかねん。

 頼むから、服を着て自室へ戻ってくれないか」

 

「バレないわよ。

 それに、もう城では私たちの噂で、もちきりよ。

 兄が言いふらしてるもの」

「あんにゃろう・・・」

 

「それに」

「それに?」

 

「大きくは無いけど、形のいい胸よ、どう?」

大雅は激しくデジャブを感じた。

なんか以前にも、似たような事が有った気がするのは、何時だったのか。

 

「どうっ・・て言われてもなぁ。

 いま、縛られるわけにはいかないんだ。

 俺には調査と、女魔術師を探す使命がある、頼むよ、解ってくれよぉ」

 

大雅は思い切って泣きを入れた。

この世界に来てから、女は抱いていないが、それは地球に居ても同じだ。

ある意味、玄人の女性の方が金で決着がつく分、後腐れがない。

だが、素人さんに手を出したら、そこである意味人生は決まってしまう。

 

「別に問題無いわ、今すぐ、王配になれなんて、無理な事は言わないわ。

 全部落ち着いてから、夫になってくれればいいの。

 ね、初めてだから優しくしてね」

 

大雅は正直言って《溜まって》いた。

風呂上がりの、若い女性、それが半裸でベットの上。

出来ることなら、速攻で覆いかぶさりたい。

 

ちょっとまて、俺はセリスの年も知らない・・・これだ!

 

「一つ聞きたい、女王・・いや、セリス、今年でいくつになる?」

「それ、大事な事?」

 

「ああ、大切だ。

 女性に年を聞くのは、マナーが悪い事も判っている、だが俺は君の年さえ知らない」

「18だけど」

 

アウトじゃねーか、俺にとってはセーフとなるが。

 

 

「ん?

 エリス、教えて欲しいんだが、生まれてすぐは、何歳だ?」

「1歳に決まってるわ」

「なるほど、つまり数え年っていう計算法だな。

 俺の国だと、まだ17歳と言う計算になる」

 

「セリス、良く聞いてくれ。

 俺の国では、18歳未満は、法で結婚できない。

 そして、18歳未満との関係は法で許されていないんだ。

 犯罪となる」

 

「へえ、そう。

 でも、ここは異世界、スケリッジの国よ。

 どこでも法は、現地の物が適用されるはずだけど、それに私は《未満》じゃ無いわ。

 とっくに成人よ」

 

「子供が出来たら、どうすんのさ」

再び大雅をデジャブが襲う。

 

「もちろん産むわ。大切な次の王候補だもの」

 

セリスを納得させるには、多大な時間と手間、そして労力を必要とした。

自分の立場、地球での一般的常識、法の問題、それらを捲し立てなんとか、関係には至らない様、なおかつ女王としての権威を傷つけない様、苦労した。

 

 

朝に、セリスが部屋までやってきた。

とにかくフットワークが軽い。

昨夜は夜遅くまで、セリスの説得に掛かりっきりだったので、眠ったのが夜中の2時過ぎだ。

一度は6時にアラームで目を覚ましたが、精神的な疲れから二度寝をかました。

 

 

「もう、陽も登って居る、駆除は明日にするか?」

「昨日は、南東側が綺麗になったんでしょ?

 と言う事は、あと半分じゃない。

 さっさと、済ませましょ。

 あとは、城でゆっくり過ごしたいの、二人で」

 

 

「取りあえずは、製材所の問題をかたずけよう」

時刻は既に8時、この世界では朝と言う時間ではない。

 

「馬は、使わない。

 俺の国の乗り物を用意してある、ついてきてくれ」

 

タイガはセリスを伴い、借りたボロの小屋まで来た。

「ここって、タイガに貸した小屋よね」

「ん、ここに俺の国の、バイクと言う鉄の馬みたいなものが置いてある。

 時間が押しているので、今日はこれを使う」

 

タイガは、小屋のワイヤーロックを解除し、ドアをあけ放った。

 

「これが、鉄の馬?」

「ああ、悪いが、二人乗りでは無いが少しの間だけ、我慢してくれ」

 

本来1人乗りの陸自のバイクには、武骨な溶接でリアのキャリッジフレームにステップが溶接されていた。

此方に送ってもらう時に、念のため取り付けて貰った物だ。

 

本来、陸自で使用されるこのバイクは、市販のモデルに手を加えたもので、特に特殊な物は付加されていない。

馬力や基本的な部分は、市販車そのものだ。

しかし、塗色やリアのサブフレーム、足を保護するための前方のフレームと遮蔽版は、陸自独自の仕様だ。

 

世界各国の軍隊では、バイクは後方支援や基地間連絡など、基本的に兵站(へいたん)での利用に限られているのが普通だ。

しかし、陸自では、敵情を把握するため、小型で発見されにくいオートバイで、地上偵察を行い、詳細情報を収集する事に利用される。

もちろん、いざとなれば戦闘も辞さない。

その場合、バイク自体を防御用の障壁として、利用する訓練もなされている。

シートも市販車と変わりないので、ステップさえ有れば2人乗りは問題無く可能だ。

 

「悪いが、これを背負ってくれないか。

 足は此処に乗せて、膝で俺の腰を絞めろ。

 そう、そんな感じだ。

 あと、かなり速度は速い、しっかり腰に手を回し、離さない様に」

大雅は、背に背負っていた、タクティカルディパックをセリスに背負わせた。

 

「わかったわ」

 

最初は、馬程度の速度で走るが、どんどんと速度を上げていく。

「飛ばすから、しっかり捕まっていてくれ」

 

昨日、走ったばかりなので、飛ばすには何の問題も無い。

土と小石を弾き飛ばしながら、バイクはあっという間に製材所に着いた。

 

セリスからバックパックを返してもらい、18インチ銃身のM870MCSに初弾を送り込む。

バックパックから、3本の給弾用チューブをすぐ取れる様に差し替え、巣を破壊するためのM870MCSブリーチャーには4発の3号弾を給弾し、サイドに取り付けられたホルダーにも4発の予備弾を差し込んだ。

 

タイガは、端末を左腕のホルダーに固定すると、センサー画面を起動した。

「昨日駆除した南東側には、反応はない。

 だが、北西側にはちらほらと、動くものの反応がある。

 ここから先は、いつ怪物と出会うか判らないから、後ろについてきてくれ。

 けっして、前に出るな、出来るな?」

「ええ、解ったわ」

 

タイガは簡単なハンドサインを教えた。

しゃがめ、止まれ、敵だなどの基本のハンドサインだ。

 

少し歩くと、怪物はすぐに見つかった。

止まれのサインを出し、二本の指で自分の両眼を指し、人差し指を怪物に向ける。

其処には、1体のアーマーアラキスが居た。

セリスはコクンと頷く。

 

この世界ではアーマーアラキスは強敵の一つだ。

とにかく硬く、一体に対して槍を持った兵が10人ほど掛からないと仕留められない。

しかも、そのうち何人かは大怪我や毒による損耗覚悟だ。

セリスには大きな緊張が感じられた。

 

「これを耳の中に入れろ、こうやって揉んで耳の奥に入れるんだ」

「これは?」

「耳栓だが、銃は大きな音がする。

 耳を傷めない為だ」

「タイガは?」

「慣れているし、周りの音も重要な情報だからな、慣れたら外してもいい」

「わかったわ」

 

そこから背を低くし、アーマーアラキスに近づいていく。

既に距離は30m程だ。

セリスはしゃがめの際を見て、タイガのすぐ後ろでしゃがんだ。

彼の肩越しに、禍々しいアーマーアラキスが、何かを食べているような姿が見える。

 

だが、アーマーアラキスはこちらに背を向けている。

既に大雅は銃を構えているが、撃ってもダメージを与えるのは難しい。

 

大雅は、銃を構えたまま、口笛をピュッウと吹いた。

とたんに、アーマーアラキスはこちらを向き、探し始める。

 

ズドンッ!

 

M870MCSの銃口から、音速を超える速度でサボットスラッグ弾が発射された。

そして、アーマーアラキスの胸元から入った銃弾は、重要な器官をずたずたに引き裂き、変形しながらそのエネルギーを開放した。

主要な重要器官を破壊されたアーマーアラキスは、そのまま、しゃがむように地面に伏せ、そしてゆっくりと横倒しに倒れていく。

 

近くに居た、アラキス4体も次々と撃ち殺していった。

 

「と、まあ、こんな感じだな」

「凄いのね、銃って。

 撃つのは難しいの?」

 

「撃つだけならできるが、当てるのは訓練しないと無理だな。

 取り扱いを間違えると、仲間を打ってしまったり、へたすりゃ自分を撃ってしまう。

 剣や槍より、はるかに取り扱いが難しい」

大雅は、消費した弾丸を1発づつ給弾し、最後にチャンバーへと給弾した。

これで、発射できる発数は9発となる。

 

「ね、タイガ。

 巣というか、卵は壊さないの?」

「卵隗の破壊は、成虫を全て倒してからだ。

 今潰しても、途中で他の個体に襲われたら、ピンチだろう?」

「そうね」

 

結局、5匹のアーマーアラキスと16匹のアラキスを始末する。

卵隗も6か所に上った。

大雅は、木に小型のスプレーで、蛍光塗料を使いマーキングしていく。

「タイガ、それは何してるの?」

「帰り道と、卵隗の場所をマーキングしているんだ。

 さて、もう少し奥に進むぞ、この先も確認しておきたい」

 

結果、暫く進んでもアーマーアラキスどころか、アラキスの姿も見えなかった。

時刻は昼だ。

 

「ここで、休憩しよう」

大雅はメスキットとコンロを取り出すと、紅茶のティーバックを取り出した。

ペットボトルの水を開け、お湯を沸かす。

 

「初めて嗅ぐ匂いね。

 お茶なの?」

「ああ、俺の国ではポピュラーなものだな。

 チャノキという植物の若芽を摘んで、蒸気で蒸して発酵させ、乾燥したものだ。

 口に合うようなら、後で取り寄せるよ」

 

紅茶は、ティーバックのままでは、インベントリによる取り寄せは出来ないが、茶葉単体だとなぜか薬草扱いになり、取り寄せる事が出来た。

未だに、その理由とジャッジは理解に苦しむ。

 

「これは・・美味しいわ」

「まあ、庶民でも安く手に入る物だからな」

「こっちには、無いのかしら」

「さあ、どうだろ。

 原産は南の方だが、探せば有るかもしれないな」

 

「タイガの国では、元々有ったの?」

「いや、1300年ほど昔に大陸から伝わったとされている。

 今では国内で栽培されているけどな」

「私、この香りが好きだわ」

 

大雅は、ジャガイモを、蒸かした物を持ってきていた。

それに、塩と少量のオイルを掛け、セリスに渡す。

「へえ、こうして食べるとジムニャックも結構おいしいのね」

「ああ、芋はそう呼ぶのだったな」

「ええ、昔に南方から伝わったと言われているわ」

 

 

「どれ、帰りには卵隗を潰していくか」

「ええ、これで問題は無くなるわ」

 

M870MCSブリーチャーにこめられた散弾で、次々と卵隗を潰していく。

 

「一応、周囲をぐるっと見回して行こう。

 南東は昨日駆除したから、異変が有ればすぐわかる。

 駆除と言うのは、時間と手間が掛かるんだ」

「そうね、でもこれだけ潰せば暫くは問題なさそう。

 明日には、兵士たちを派遣して、アーマーアラキスの殻を取りに来させなきゃ」

 

「そういや、食器やボタンなんかにするんだっけ?」

「ええ、その原料として高く売れるのよ、コレだけの数が有ればかなりの金額になるわ」

 

帰り道では、もっと飛ばせとはしゃぐセリスを宥め、安全運転で帰った、それでも20分とかからずケイアトロール城についてしまった。

 

「先に戻っていてくれ、後片付けをしてから城に戻る」

「わかったわ、早く来てね」

 

 

翌日は、招聘された兵たちとともに、ナジャムに乗り、製材所へと向かった。

貴重なアーマーアラキスの殻を回収するのと、周囲の安全確認のためだ。

ついでに、大雅は赤外センサーを回収していく。

 

「タイガの旦那ぁ、周囲は問題ないようだ。

 虫共の卵も見えねぇし、気配もねぇ。

 来月には、ここで作った木材で柵を作るらしいから、木こりを戻しても良いかもな」

「その様だな、一応見張りは、暫くの間立てた方が良いだろうし、アラキスの方の処理は時間が掛かりそうか?」

 

「まあ、持って来た台車が一台だけだから、今日は1体分運んで終わりだな。

 あとで、王と族長に人と台車を出す様に、頼んでおくつもりだ」

 

 

結局、アーマーアラキスの殻の処理は、夕方までかかった。

アーマーアラキスの足を一本貰い、解剖してみた。

これは、地球でもよく見た事が有る。

カニの足にそっくりな肉と、構造だ。

毒が有ると、聞いていたが、試しに、少量取って、熾火で焼いたみた。

 

「匂いと言い・・カニ・・・だよな・・これ、でっかいけど」

インベントリを作成し、パックに詰め、地球に成分分析を依頼する。

1時間ほどすると、結果が帰ってきた。

 

「カニ肉と非常に似通った組成か・・、成分で毒素や、問題となるタンパクは無し、食用可・・・おいおい、マジかぁ。

 食えんのかよ、こいつ」

 

いきなり、大量に食べるのは、流石に気が引けるので、少量、焼いたものを食べてみる。

普通に、タラバガニの味と、プリプリとした身が旨い。

少し、塩ッ気が少なめだが、焼いても、蒸しても旨いだろう。

 

海や河川に住む、甲殻類と言うのは、基本陸地に住む昆虫類と生態や構造が非常に似通っている。

言わば、甲殻類は海の中に住む昆虫の一種と言ってもいいだろう。

大きさは異なるが、ヤシガニだって、よく見れば昆虫に非常近い事が解る。

だから、アラキスが食えないっていう、理由は毒を使った攻撃をしてくるために、体全体に毒が有ると、思い込んで居るのだろう。

世界的に毒魚として有名なフグだって食う日本人、その血が騒いだ。

 

1時間経っても、体調には変化がない。

後は、アレルギーの問題だが、カニでもアレルギーを起こす人が居る。

甲殻類アレルギーだ。

 

周りの者は、アラキスを焼いて食う大雅に驚き、ドン引きである。

そして、その目は完全に怯えていた。

 

「おい、あいつ・・アラキス食ってるぞ・・」

「良く死なないな」

「流石、ウイッチャーだ

 やっぱり、人間じゃねぇ」

 

城に戻ると、早々にセリスがやってきた。

 

「製材所の方は、片が付いたようだよ。

 あとは、アーマーアラキスの殻の回収だが、何日かかかりそうだ。

 あとで、報告が来るだろうから」

「ええ、ホントに助かったわ、これで作業が始められるわ。

 あと、今日は馬で行ったの?」

 

「ああ、兵たちと一緒だし、アラキスの処理をする者も、一緒だったからな。

 それに、あの馬は乗ってやらないと、拗ねるんだ」

「明日からはどうするの?」

「明日も念のため、製材所に行くよ。

 ちょっと確かめたいことも、出来たんでな」

 

 

「そう、私は仕事が有るからで掛けられないわ」

 

翌日、大雅はは製材所から離れた所で、やっとアラキスを見つけ、仕留めてから足を2本ほど製材所に持ち帰った。

そして、兵たちが昼飯の為、使った熾火で足を焼いていく。

 

「うん、旨いな。

 おい、食ってみないか?

 けっこう、旨いぞコレ」

兵に、勧めて見たが、顔を真っ青にして逃げていく。

 

「なんだよ、こんなに旨いのに」

 

日本で新鮮なカニを鱈腹食おうなんて言う、金持ちは別として、大雅はカニなんてボーナス時に買う、カニ缶ぐらいの物だ。

其れより、はるかに旨いアラキスを食わない手はない。

 

「うおっ、ここにきて、こんな最高の食い物が有ったなんてなぁ」

 

翌日、大雅はバイクをインベントリから地球へと戻した。

その後、数日はセリスの依頼の燃料電池による、湯沸かし器の設置とセットアップ。

その余剰電力による、全個体電池を持つ、LEDランタン供与などたっぷり、数日を要した。

 

だが、城に居る間、きまって夜になるとセリスが部屋にやって来る。

それには流石の大雅も、危機感を覚える。

特にここ数日は、ボディタッチとかスキンシップが増えてきている。

なんだって、この世界の女は肉食系なんだろう。

 

セリスには少し遠出すると言って、ナジャムに乗り、東へと向かった。

時折、ならず者や盗賊が現れるが、M870MCSにこめられたナンバー3(3号弾)の一発で、大抵、蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。

この地域の盗賊は、食う為にやっていることが多い事が、幾つかの根城を潰して解った。

3号弾一発で散ってくれるなら、安い物だ。

 

暫く行くと、山間の間に洞窟を見つけた。

入口には、古代エルフの神殿とは、また意匠の異なる装飾が見られる門が有った。

半分朽ちかけた石段を下りて行くと、ホールの様な場所に出る。

床からは大きな石筍がいくつも立ち上がり、古い時代につくられたことは解る。

 

宝箱がいくつか見られるが、全て開けられており、中身は空か、入っていても石ころだった。

2.5mほどの段差がある場所を見つけたので、ディパックを下ろし、アイスピッケルを取り出す。

ロープでディパックを繋ぎ、思いっきり飛び上がった。

二度目の跳躍で、上にピッケルが届き、手の力だけで縁を登る。

あとは、下にあるディパックをロープで引き上げるだけだ。

 

進んで行くと、数体の怪物たちが居たが、M870MCSのサボットスラッグ弾で簡単にケリがつく。

結局進んで行っても、海岸線に出るだけだった。

山を登るのも面倒なので、再び洞窟に戻り、洞窟を抜けて小さな村に戻ると、ナジャムもその周囲で草を食んでいた。

ここスケリッジは海に囲まれているせいか、とにかくドラウナーが多い、しかも、本土のドラウナーより狂暴で容姿もエグく生臭い。

 

そのまま東に向かい、湖のほとりでキャンプする。

念の為、大きめの木の幹にスパイクを打ち込み、ハンモックで寝る。

夜の食事は、途中で見つけたアラキスの足だ。

 

道らしい場所に出たので、そのまま進むと、寂れた岩場だらけの海岸へとでた。

数名の人を見つけ、話をしようと試みたが、ここらに居る盗賊と同じで、全く会話が成り立たない。

まるで、人間の姿をしたドラウナーと大差ない。

AKMSで、サクサクと殺していく。

喰えもしないから、アラキス以下だ。

 

盗賊たちの根城を漁っても、出てきたのは僅かに数百クラウン。

さして、見る物も無いので、少し南下する。

海岸線に打ち上げられたのか、それとも解体場として利用されたのかはわからないが、巨大な海獣の骨が至る所で見られる場所に出た。

 

ここも、嫌と言う程ドラウナーが居る。

昔、北海道では大量にニシンが取れた。

冷蔵や冷凍技術も無く、輸送手段が限られた時代の話だ、大量のニシンはもったいない事に、その多くが肥料に変わった。

こいつら、肥料とかにはならない物なのかと、ドラウナーを駆除しながら、今度は西に道を取った。

 

結局、廃墟の城しか無かったが、ここにはカタカンと呼ばれる人型の怪物が居た。

だが、一発のサボットスラッグ弾で頭は吹き飛び、無残な姿を晒した。

宝箱の様な物はいくつかあったが、全て中身は空で、めぼしい物は無い。

結局、数日を掛けて鉱山を抜け、島の北中部へとでる。

 

ここまでくれば、後は北へ道なりに進めば、ケイアトロールへと戻れる。

結局、一週間をかけて得られたものは何もなかったが、景色は十分に楽しめた。

そんな時、ゾルタンから無線にコールが入った。

 

『タイガ、聞こえるか、聞こえてたら応答してくれ』

「タイガだ、何かあったか?」

『今、ケイアトロール城に戻ったんだが、お前が出かけていると聞いてな。

 いつ頃帰れる?』

 

「そうだな、特に何もなければ、後1日という所まで、戻ってきている」

『そうか、戻った早々、面白い話を聞いたもんでな』

「なんだよ、面白い話って」

『まあ、帰ってからのお楽しみだ。

 ふはははっ』

 

「用が無いなら切るぞ」

『まあ、そう言うな。

 こんな愉快な話、酒を飲まずに語れるかってんだ。

 待っているからな、早く帰ってこい、わはははっ』

 

無線は、一方的に切られた。

「何だったんだ、いったい」

 

翌日、ケイアトロール城まで後2時間ほどの所に来たついでに、怪物の駆除をした製材所に寄ってみる。

作業員がせっせと働き、新しい作業小屋も出来ていた。

常駐していた兵士に聞いてみると、あの後は怪物の姿は一度も見ていないらしい。

 

「タイガ殿、式はいつやるんだ?」

「式? 何のことだ」

「何の事って、女王との結婚式だろう」

「しらんぞ、そんな話。

 何処から聞いた」

「何処って、スケリッジ中で噂だぞ。

 女王が、やっと身を固めるって」

 

大雅の脇に冷や汗が流れる。

「ナジャム、走れ!

 頑張れば、角砂糖好きなだけ食わせてやる!」

ナジャムはそれを理解したのか、走り出した。

スタミナが切れない様、大雅が押さえてやらなければならない程だ。

 

城の入口には、ゾルタンとセリスが待っていた。

ナジャムに水と飼葉を与えるよう、近くの兵士に頼み、箱に半分ほどの角砂糖を渡し、ナジャムにあげるよう話す。

 

「良く帰ったな! 色男!」

「いったい、どういう事だ、ゾルタン」

 

「タイガ、話したい事が有るの。

 一緒に着て頂戴」

 

セリスは緊張した面持ちで言った。

そして、足早に城の中へと向かった。

 

ついていった先は、大広間だ。

其処には、各一族の面々、そしてもちろんセリスの兄のヤルマールも居た。

 

「おお、帰ったか兄弟!」

「ちょっとまで、ヤルマール、何の話だ」

「何って、日取りの話だろう」

 

「よし、先ずはどんな話になっているのか、教えてくれ」

ヤルマールは、セリスが大雅と良い中になり、セリスもまんざらでないこと。

ヤルマールと、もう一人の族長の息子をノシて、力量も十分な事。

女王との結婚なら、その取り決めの為、一族を集めたことを話した。

 

「だから兄さん、何度も言ってるじゃない!

 私と、大雅は何もなかったの!」

 

「だが、セリス。

 遅くまで部屋で一緒だったと聞いてるし、風呂だって入ったんだろう?」

「彼は、外に出ていたわ!

 はいはい、誘いました!

 でも抱いてもらえませんでした!

 これでいい?!」

 

「本当か、セリス」

「ええ、大雅にもっと自分を大切にするように、説得されたわ。

 確かに、私も拙速だとは思っているわよ」

 

「よしっ、今からすぐにセリスを抱け、タイガ」

「何を考えているのか判らんが、妹とは言え女王だろう。

 一族の方々には申し訳ないが、ヤルマールの早とちりと、暴走が招いたことだ。

 私とセリス女王の間には、何もない。

 後日、この騒ぎの詫びは入れさせて頂く、今日の所は、お引き取り願いたい」

 

「なんだ、呼びつけて置いて、この茶番は」

「そうだな、酒の肴にもなりゃしない」

「また、ヤルマールの早とちりかよ、いい加減学習しろって」

「無駄足じゃった様じゃな、ヤルマール、後で話が有る」

 

「ごめんなさい、大雅。

 こんな事に為って」

「いや、悪いのは俺もそうだ。

 女王でもあるにかかわらず、失礼千万、ご容赦頂きたい」

 

「なあタイガ、そのうち女に刺されっぞ」

「頼む、ゾルタン、今は混ぜっ返さないでくれ」

 

「本当にセリスを抱いて無いのか?」

「ねえよっ! 抱きたかったよ、で、死ぬほど我慢したさ!

 はっきり言って、何度押し倒そうかと思ったよ。

 だが、俺は命令でここに来てるんだ、それも国のな。

 だから、命令は、どんな事が有っても、遂行しなきゃならん。

 ここで、落ち着くわけにはいかないんだよっ!」

 

「・・わるかった・・・タイガ」

「まあいい・・ヤルマールに、悪気かないことぐらいは解る。

 だが、火消しはちゃんと頼むぞ。

 出なきゃセリスが可哀そうだ」

 

微妙な雰囲気になり、一同は各々の部屋へと戻った。

 

「まあ、タイガ。

 来週には船も出るんだ、しばらくしたらセリスとヤルマールの熱も冷めるだろう。

 だから、そう凹むな。

 こんな時は、これだ」

 

そう言って、ゾルタンは、蒸留酒の瓶をドンとテーブルに置いた。

「むしゃくしゃする時は、飲むに限る!」

 

ゾルタンは何処から買って来たのか、魚の干物を肴に飲みだした。

 

「なあ、結局セリスは抱いてないんだろ?」

「当然だろう、国交がないとはいえ、女王に手を出したら、国際問題になりかねん」

 

「ゲラルトならホイホイ乗っかってたと思うがな。

 まあ、逃げ方も上手いんだろうと思うが」

それからしばらくは、ゲラルトの女遍歴が、酒の摘みとなった。

 

「でな、ダンディリオンの話じゃ、トリス‣メリゴールドも、一時期はも恋人同士だったらしい。

 本人は、記憶を失ってたなんて、言い張ってるがなぁ」

 

「良く刺されねぇなゲラルトは」

「まあ、それを歌にしてるダンディリオンも昔は、女癖が酷くてな。

 何度か刺されてるはずだ」

 

「いったい、ダンディリオンって何者なんだ?

 とんでもない情報を持っている様だし、やけに情報通だ」

 

「ああ、今じゃカミさん貰って、腰を落ち着けちゃいるが、若い頃、いやちょっと前までは、吟遊詩人やって各国をめぐってたんだ。

 その時の知り合いが各地に居て、今でもマメに情報交換はしているらしい。

 まあ、一応あいつも貴族だしな」

 

「はあっ!? あれが?」

「正式な名前はジュリアン・アルフレッド・パンクラッツ・ド・レタンホーヴ子爵。

 数年前、家督を継いでまっとうな貴族様だ。

 笑えるだろ?

 ダンディリオンやヤスキエルなんて名は、芸名やペンネームみたいな物だ。

 アレでも結構音楽の腕は良くってな、以前は宮廷で演奏する音楽家もやっていた。

 戦争が始まってからは、トンとお呼びがかからないらしいがな」

 

「芸術家肌には、あるあるの話だな」

「だが、交渉術には、長けているぞ。

 実際、あいつが損をした話なんか聞いたことがない。

 ラトヴィット王さえ、一目置いていた、まあ、女癖の悪さが足を引ったが」

「なんだ、そりゃ、ははっ」

 

「タイガ、お前はどうなんだ?」

「どうって?」

「女だよ、経験は、なんぼなんでもあるんだろ?」

「まあな、人並みにな」

 

「初めての浮いては幾つの時だ」

「ああ? それ聴くのかよぉ」

「当然だ、俺も話すから言ってみろ」

 

「まだ、俺が13の時だ。

 ある紛争地域で、一派の中で戦闘員、つまり兵士みたいな仕事をしていた。

 その子は、グループのリーダーの一族の娘だったんだが、リーダーが戦死してな。

 家族を失った上、叔父であるリーダーを戦いで亡くし、戦いに自ら飛び込んできた。

 その時、面倒を見たのが俺だった。

 結局、大規模な戦闘で、大勢が死に、彼女もその一人だった」

「重てぇ・・悲劇だな、そりゃ。

 その子が初めてか」

 

「ああ、だが結局彼女は、肉片になってしまったよ、俺の目の前でな。

 それから俺は、戦闘員を止めた。

 彼女が死んだ原因が、別のグループのトップリーダーが俺たち囮として、売った事が解ったからだ。

 良く良く調べてみると、俺の両親をテロで殺したのも、そいつだった。

 だから、俺はヨーロッパに渡り、色々な戦闘、訓練を傭兵をやりながら必死で覚えた。

 15になり、傭兵を止め、再び紛争地域に戻った。

 そして、ワザとトップリーダーが見える所に入り込み、惨殺したんだ。

 殺したのは100人じゃ利かない。

 グループの重鎮、主だったメンバー、みんな600キロのC4で吹っ飛ばしてやった。

 辛うじて生きていた、そいつを救命処置し、3日間苦しめてやった。

 最後に、反応もなくなったそいつに、45口径を眉間に叩き込んだ、7発全弾だ。

 そして、俺はヨーロッパに舞い戻り、傭兵に再び入ろうとしたところで、母国の外交官と会った。

 特に、目的も無い俺は、そうして母国に戻り、兵士を養成する学校を出て、今こうやって兵士の端くれをやっているってことだ」

 

話した、大雅はストレートで酒を煽った。

 

「なんか、悪い事、聞いちまったな。

 すまん」

「気にするな、もう昔の話だし、終わった事だ」

 

 

 翌朝、起きたのは、昼近くなってからだ。

ゾルタンも、ベットで鼾を掻いている。

後は、数日釣りをしたり、ドラウナーやハーピー、セイレーンを駆除して終わった。

 

そして、出航の日、セリスやアヤルマールの見送りを受け、俺とゾルタンはスケリッジを離れた。

 

 

 

 

船に乗って3日目、事態は急変した。

どうやら、嵐の気配があり、本来の目的地であるシントラの港ではなく、ヴァーデンのナストログという街の港に入港するようだ。

 

「まあ、ちっと距離は有るが、嵐に会って沈むよりはいいさ」

ゾルタンは気楽に言う。

 

「そうだな。まあ、数日予定が伸びるが、大差ない」

 

「タイガ、ここで、少し骨休めだ。

 まだ、地面が揺れている気がする」

「船に、酔ったんだろう。

 流石の俺も気分がすぐれない」

「ああ、ひでぇ波だったからなぁ」

 

幸いに、結構いい宿が取れ、別々の部屋でゆっくりと休む。

 

「なあ、タイガ、お前さんはこの世界の状況をどう見る?」

「本来、俺はそれを言うべき立場じゃ無いが、個人的意見としては、そんなにひどいとも思えん。

 俺のとこでも、400年位前までは、同じような物さ。

 それ以降、世界的な戦争が二回、何時もどこかで戦争に近いものは、ずっと絶えたことが無い。

 だが、大量破壊兵器が無いだけ、まだマシかもな。

 俺のとこは、地上に小さな太陽を作ることまで、やっちまったんだ。

 しかも、それが世界中に数万発ある。

 世界が何度か滅んでも、余る程な。

 結局、相互破壊という枷がかかり、どの国も使えなくなってしまった」

 

「良く、そんなにあって、使われないな」

「俺の国、二発も落とされてるけどな。

 世界で、唯一のさの兵器の被害国だよ。

 その二発で、20万人以上が死に、16万人以上か後遺症を含むケガをした。

 女も、子供も年よりも関係なくな、無差別の殺戮だよ。

 この街なんか、一発で何も残らないだろうな」

 

「ひでぇ話だ。

 科学っちゅうのも、進んでも良い事ばっかりじゃねえんだな」

「使い方だよ、例えば、ナイフがあるだろう?

 これで、料理も作れるが武器にもなる。

 火だって、風呂を沸かしたり、穀物を煮炊きできる。

 だが、家に火を放てばどうだ」

 

「たしかに、そうだな」

「勿論、その兵器も使い方次第で、エネルギーを産む施設も作れる。

 爆弾みたいに、一気にエネルギーを開放するんじゃなくて、コントロールしながら少しづつ反応させるんだ。

 すると、小指の先ほどの物質から、ここから見えるだけでは、足りないくらいの木と同じエネルギーが取り出せる」

 

「すげぇ世界だな、その内、月に迄行っちまうのかも」

「人が月に行ったのは、俺の世界じゃ60年以上も前の事だぞ」

 

ゾルタンは、ポカンと大雅を見つめた。

 

 

 

ナジャムとゾルタンの馬は、未だに海が荒れ、船から降ろせてない。

なぜなら、岸と船に渡す、渡し板が掛けられないからだ。

それでも翌日には、大分荒れは収まり、ゾルタンと連れ立って港に来ていた。

最初に、大雅がナジャムを曳いて、船を降りる。

それにもかなりの注意を要した。

 

船酔いをしたのか、ナジャムはぐったりとして元気がない。

それでも、嬉しそうに角砂糖を頬張るナジャムに、ほっとした。

とんだけ、角砂糖が好きなんだ。

 

 

「旦那ぁ、無理だって!」

「大丈夫だ、一気に乗ったまま下りりゃ、何とかなる!

 と、ドウっ! こら、暴れるな!」

 

ゾルタンは、円を描く様に暴れる渡し板の上を、馬に乗ったまま一気に降りようとしていた。

「ゾルタン! 無理するな! 落ちるぞ!」

「大丈夫だ! そりゃっ! 行け!」

 

ゾルタンは、馬の尻を叩くと同時に、わき腹を蹴った。

8mほどの渡し板に馬事ごと、乗ったまでは良いが、丁度真ん中で大きな波が来る。

馬は、下の水に恐れをなしたのか、あろうことか板の上で立ち上がってしまった。

「うわわわわっ!」

ゾルタンは足を滑らせた馬と共に、岸と船の間に落ちて行く。

 

「ゾルタンっ!」

下を見ると、其処には波に見え隠れする岩が見える。

 

「人が落ちたぞぅ!

 ロープ持ってこーい!」

「浮きだ、浮きもってこい!」

大雅は、すぐさまリュックを下ろし、その下に付けられていた、30mのザイルを自分のベルトに接続した。

 

そして、一方を波止場の船を繋いでいる太いロープに固定し、船と岸の間に飛び込んだ。

しかし、飛び込んだは良い物の、波が荒い上、船と岩はぶつかりそうな迄近づいては離れるといった事を繰り返す。

大雅は、大きく息を吸い、水の中に潜った。

そして、何とかゾルタンを見つけたのだが、このまま浮上しては船と岸の間に挟まれてしまう確率が高い。

 

大雅は、意を決して腰のベルトに繋いだ、ロープを切った。

そして、一度深く潜り船底を超え、反対側の側舷へと上がった。

岸は、馬が人ごと落ちた為に、大騒ぎになっている。

大雅は、大声で叫び助けを求めた。

 

「おーい! 誰かいるかぁ、沖側の側舷だあ!」

「待ってろ、すぐにロープを持ってくる!」

 

ゾルタンは呻きながらも、呼吸は問題ないようだ。

「ゾルタン、しっかりしろ。

 もうすぐ引き上げてやる」

 

結局、岸の方までロープを回し、4人でロープを引き上げる。

「タイガ・・・たすかっ・・・あううっ! 痛いてぇ!」

「痛い所は、何処だ」

「右足だ! 腿の所が痛てぇっ!」

 

 

ゾルタンは大急ぎで、救護院に運ばれた。

 

「右足、大腿骨が折れてます。

 一部骨は、辛うじて繋がっていましたが、暫くは歩けないでしょう。

 幸い、骨が筋肉を傷めたりしていませんので、比較的な治りやすい状態です。

 現在は、足を引いて固定しています。

 くっつくまで、ひと月は動かさない方が、良いでしょう。

 その後は、少しづつ動かして行けば、問題無いですな」

 

大雅の見立ても大体同じだ。

薬で眠っているとの事なので、ひとまずは、宿へと返った。

ゾルタンの馬は、可哀そうな事に溺れてしまったらしい。

 

ゾルタンの為に、地球と相談し、痛み止めや骨の回復を助ける薬剤を取り寄せた。

骨折と言うのは、大抵、発熱を伴う。

三日後には、ゾルタンの熱は引き、医者から投薬された薬で、朦朧とはしていたが、会話は可能だった。

 

「すまねえな、タイガ。

 こんな事に為っちまって」

「気にするな、アレは事故だ。

 馬は死んでしまったが、命が助かっただけ儲けものだと思え。

 あと、俺の所から薬を取り寄せた。

 医師には、話してあるから今日からこっちを飲んでくれ」

 

大雅は痛み止め、骨折の回復を補助する薬の服薬方法と、使って良い量を詳しく説明した。

翌日のゾルタンは、上機嫌だ。

 

「いやー、タイガ。

 お前んとこの薬は凄いな。

 痛みは、消える訳じゃ無いが、大分楽だ」

 

「1か月は、右足を動かすな。

 その後は、多少痛くても動かすんだ、でないと筋肉がやせ細ったり、動きが悪くなる」

 

「どのくらいまでかかる」

「骨がくっつくまで、ひと月、それまでは入院だ。

 その後、少しづつ動かしながら、元の体になるよう動かすんだ。

 元通りまでは4月以上を見込む必要がある」

 

「わかった、残念だがトゥサンには、タイガ一人で行ってもらうしかないな。

 治ったら、後を追う」

 

「いいのか?」

「当たりまえだ、こんな下らんことで、タイガの行動に支障が有っても意味はない」

「大丈夫なのか、一人で」

「ガキじゃねえんだ。

 あと、無線というモノは、トゥサンと此処では使えるのか?」

 

「ちょっと距離が有りすぎるな、山脈の辺りまでなら余裕で届くが、間に山脈が有るから、其処を越えたら届かんだろう」

 

「なら仕方ない、大人しくしている。

 一応、治り次第、俺もトゥサンに向かうが、もし、早めに用事が終わった、迎えに来てくれ。

 街の依頼板にはタイガ宛で、書置きを残して置く」

「わかった、それなら、一番最後に日付も入れておいてくれるとありがたい」

「おお、なるほどな、解った」

 

 

結局、大雅は3日程たってもまだ、ナストログに滞在した。

地球から、ファイト一発で有名な、ドリンク剤を取り寄せた。

 

「今日から、毎朝、これを1本だけ飲んでくれ。

 旨いからと言って、何本も飲むと、逆に毒になるから、注意な」

「霊薬か? ゲラルトも飲んでいたが、普通の人が飲めば毒だって聞いたんだが」

「霊薬とも違う。

 回復を助けてくれる薬だ。

 とりあえず、飲んだみろ」

 

ゾルタンはキャップを開け、クンクンと匂いを嗅ぎ、少し口に含んだ。

「む、甘い・・・しかも・・旨い」

そして、ごくごくと一気に100ccを飲んで行く。

 

「ふう、まるで果実水だな」

「だが、効果はある。

 でな、もっと効果が上がる、呪文が有る。

 試してみるか?」

 

「ああ、教えてくれ、でも俺みたいに魔法が使えなくても、効果が有るのか?」

「勿論だ、俺の国じゃ、60年以上前から売られていて、効果がある」

「よし、教えてくれ」

 

「本来は、二人でやるんだが、一人のバージョンを教える。

 良く聞いててくれ。

 《ファイトー!》って言ってから、飲む、そして《いっぱあぁつ!》と叫ぶ」

 

何度か練習し、ゾルタンは二つの言葉の日本語をモノにした。

翌朝から、ゾルタンの病室から《ファイトー!》《いっぱあぁつ!》の声が響いたのは、言うまでもない。

 

「では、確かに受け取りました」

大雅は退院までの治療費として、3万フロレンスを金貨で払った。

この世界には、保健などと言うのもが無い、金がない場合は、治療が受けられないか、放り出されるだけだ。

 

「あの、一つお聞きしても?」

医師が、控えめに聞いてくる。

「答えられる事なら」

 

「ゾルタンさんの病室から、毎朝、知らぬ言葉が聞こえてくるのです。

 我々も、不気味だし、看護をするご婦人も怯えております。

 なんでも、貴方に教えて貰った言葉だとか」

 

其処へ、《ファイトー!》《いっぱあぁつ!》の声が聞こえた。

「ほら、あれです!

 アレッ!」

 

「ああ、それは薬の効果を上げる言葉だ。

 この言葉は、あの薬だけに有効な呪文のような言葉でね。

 他人には影響がないから、放っておいて問題はない」

「そうでしたか、で、その薬は、どんな効用が?」

 

「今回の目的は、骨折後の体力低下時の改善だな。

 ほかにも、肩・首・腰又は膝の不調、疲れやすいとか、身体が重い・身体がだるい、肌の不調にも効く。

 病中病後の体力低下時とか、発熱を伴う病気にも効く。

 大抵の病気やケガ、食欲がない場合にも良い。

 ただ、気を付けて欲しいのは、、それで病気が治る訳では無い。

 病気が治る助けをする薬だと思って欲しい」

 

「なるほど、良く解りました。

 試してみたいので、幾つかお譲りいただけませんか」

「どんな患者の」

 

「富豪のご家族ですが、殆どものを食べず、酒を飲みを繰り返したため、最近では手足のしびれや痛みが有ります。

 なにせ、ご高齢なため、治療が捗々しくなく、薬も色々試してみたのですがダメでした」

 

「わかった、其れに効く薬は、多分別のモノになる。

 今日は持ってきていないので、明日持ってこよう。

 あと、ゾルタンも飲んで居るのは、普通の人が飲んでも、問題無い。

 一日1本の量をきちんと守ればな。

 試してみてくれ」

そう言って、大雅は10入りの一箱を医師に渡した。

 

宿に帰り、本国と連絡を取ると、症状はビタミンB12不足の可能性が高い事、禁酒とVB12製剤の投与が推奨との回答だ。

そして、届いたのは「がんばるみんなへ ホップステップ、ステップ、商品名」のドリンク剤だった。

 

翌日、大雅は50本入りのそれと、50本入りのファイト一発をもって、救護院を訪ねた。

 

「いやーもう、凄いですあの薬!

 実に、元気になっちゃって!

 是非できるだけ、譲ってください!」

そう言って、金貨の山を出してきた。

大雅は、50本入りの《がんばるみんなへ》と、同じく50本入りのファイト一発を渡すと、金貨の山から10万フロレンスを取った。

 

「ありがとうございます!

 ありがとうございます!

 コレで治せます!」

「いや、治るかどうかは保証できないが、過度な飲酒は改めさせるべきだ。

 でないと、別の病気で死ぬだろうしな」

 

あまりにも、ぼったくり過ぎかと考えた大雅は、後2つの段ボール事渡す約束をして、宿に取りに来るように言った。

どうせ、大雅の懐は痛まない。

 

「ゾルタン、調子はどうだ?」

「ああ、痛みも殆ど無くて、調子いいぞ、足以外はな。

 で、何時発つんだ」

「来週には発とうかと思っている」

 

「そうか、じゃまた会える日を楽しみにしている」

「ああ、今はしっかり怪我を直してくれ。

 ところで、ゲラルトとイェネファーは、トゥサンの何処の辺りに居るんだ?」

「こっちから向かうと、トゥサンの中央部にボークレールと言う大きな町がある。

 その北にある、コルヴォ・ビアンコ葡萄園という所が、二人の住んでる場所だ。

 ボークレーから馬で2時間くらいの所だ。

 会ったら、二人に宜しく伝えてくれ」

「わかった、必ず伝える」

 

ナストログを発つ日、最後にゾルタンの所に顔を出した。

 

「今日発つよ」

「ああ、下手すりゃ命がなくなってたって、聞いたよ。

 何人も岸と船の間に落ちて、死んでるらしい。

 ありがとうな、タイガ、お前は恩人だ」

「なに、気にしなくていい、友達だろ?」

「ああ、親友だ。

 旅先、気をつけてな」

「ああ、今度は元気な姿で会おう」

 

 

廊下を歩き、救護院を出ようとすると、医師に呼び止められた。

 

「ああっ、丁度良かった!

 痺れと痛みの患者!

 治りましたよ!」

「そうか、それは何よりだ」

 

「で、物は相談なのですが、あと、どちらも、10箱ほどお譲りいただきたいのです。

 もちろん、お金は払います!」

大雅は少し考えて、空き部屋を貸して欲しいと、応えた。

 

空き部屋の、中に大きな木箱を持ち込み、インベントリを作り、都合20箱のドリンク剤を取り寄せた。

 

「これで、全部だ。

 残念だが、渡せるのはこれが最後だ」

「判りました、ここに50万フロレンスあります。

 足りないのは解っていますが、なんとかこれで・・・」

「構わない。代わりにゾルタンに良くしてやってくれ」

「勿論です」

 

風に乗って《ファイトオー!》 《いっぱぁーっ!》と聞こえてくる救護院を後にした。

やっちまった感が、切ない。

 

”後で、バレたら、ごめんなさいすれば良いか”

 

大雅は、馬上の人となった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。