Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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死にかけのフィオナ

 

 

 

 

骨折したゾルタンを、ヴァーデンのナストログの救護院に入院させた大雅は、一人でマルダナル・ステア渓谷を目指し、旅を続けた。

 

東に向かい、ソドン丘陵からリエドブリューネを経由し、トゥサンを目指すルートも有るが、かなり遠回りになる。

大雅は、アメル山脈を越えなければならないが、直線的に向かえるルートを選んだ。

 

ロズログといいう街に着いた。

大雅は宿屋を兼ねる酒場で、ヤルーガ河を渡る船が無いかを聞いた。

 

「店主、南に渡る船は無いか」

「ああ、それなら俺の叔父が、渡し舟をやっている。

 この店を出て、左に真っすぐ向かえば、小さな桟橋が見える。

 船は一艘しかないからな、渡し賃は一人50フロレンス、馬は200フロレンスだ。

 この宿から聞いたって言えば、渡してくれる筈だ」

「そうか、ありがとう」

大雅は、カウンターに10フロレンスを置き、部屋に戻った。

 

 

翌朝、宿を引き払うと、店主に聞いた通り、河の畔にある桟橋を探した。

そして、近くでパンを齧っている男に声を掛けた。

 

「あそこの宿の主人から聞いたんだが、向こう岸まで、馬と俺を渡して欲しい」

「あんたひとりかい。

 なら、ちょっと待ってくれ、あと一人来る予定なんだ馬も載せるにゃ板を船に引かなきゃならん。

 悪いが、手を貸してくれ}

 

 

「渡し賃は?」

「あんたが50、馬は・・・でけえな。

 悪いが、250払ってくれ。

 これじゃ、ギリギリだよ。

 馬は船に乗せる時、暴れんように頼むぜ」

 

そこへ、行商人の格好の男がやってきた。

「よう! いつものように頼むぜ」

「ドミニク、悪いが今日は、午後からだ。

 なにせ、このデカい馬と、乗客が二人、それで、いっぱいいっぱいなんだ、この船は」

 

「もう一人くらい、大丈夫だろう?

 頼むよぉ」

「ダメな物はダメだ、予約している客が1人いるし、そいつが来たら船を出す。

 戻って来るのは、午後だ。

 それからなら、乗せてやる。

 ただし、客が3人以上集まらんと船は出さん。

 どっかで、時間を潰してこい」

 

しかし、1時間経っても予約した乗客は現れなかった。

 

「なんだ、すっぽかしかよ。

 おーい、ドミニク乗せてやるぞ!」

桟橋の横で座り込んでいた男に船頭は、声を掛けた。

 

「ありがてぇ、助かるよ」

「なに、何時も使ってくれるからな。

 予約をすっぽかした客には悪いが、時間まで来ないのが悪い」

 

 

「あんた、変わった格好だね。

 俺はドミニク。

 シントラとヴァーデンの間で、行商をやってる」

 

「大雅だ。

 トゥサンに向かう途中だ」

「まさかソドンを抜けてなんて、考えて無いよね、あそこ結構ヤバいんだけど」

「いや、マルナダル・ステア渓谷を抜けるつもりだ」

 

「あー、どっちも、ヤバ目な道のりだねぇ」

「盗賊でも出るのか?」

ドミニクはニヤリと笑って、手を差し出した。

大雅は黙って、10フロレンス硬貨をドミニクに向かって弾いた。

 

「まいどあり!

 ソドンは、前の戦いで、大勢亡くなって、夜には亡霊がうようよ出るらしい。

 しかも、周囲は盗賊だけじゃなく、スコイアテルっていうエルフの厄介な奴らも出る。

 しつこいし、あいつらの矢は本当にヤバいんだ。

 リヴァーデルの方に行けば、間違いなくこいつらと揉める。

 なんたって、人間見たら速攻で殺しに来やがるからな、カマキリ虫みたいな面だが、結構力も強い。

 一方、マルナダル・ステア渓谷の方も結構ヤバい。

 山に入る手前に、盗賊の根城が有るんらしいんだが、優に100人は居るって話だ。

 一人、500フロレンスの通行料と、積み荷の半分が持って行かれる。

 断ったら、暫く牢に入れられて、奴隷に売られるか、女なら慰み物になるって話だ。

 迂回するにも、山は険しくて渓谷を通るしかない、どっちも地獄だ」

 

「なるほど、情報助かる。

 で、何処までそっちは行くんだ?」

「アトレまでだよ。

 そっちの商品は、ブルッゲで高く売れるんだ。

 で、ブルッゲで商品を仕入れて、ケラックで売る。

 ケラックで仕入れた商品を、またアトレで売るって寸法さ」

 

「結構大変だな、その仕事」

「まあ、親父から商権譲って貰ったから、頑張るしかないさ

 ただ、さっき言ったシントラの盗賊連中が幅を利かせて居ていて、結構危なくなってきているらしい。

 シントラ迄護衛してくれないか。

 金は払う」

 

「悪いが、先を急ぐ旅だし、それには応えられんな」

「な、100、いや、200出す、頼むよぉ」

「ダメだ。

 見てわかるとおり、馬もこいつしかいない、歩きに合せるなんて御免だ」

「ああっ、ケラックで仕入れの為に馬、売るんじゃなかったよぉ」

 

渡るには1時間ほどかかった。

「ではな、ドミニク、旅の安全を祈る」

「うー、仕方ない一度、シントラに寄り道して馬、借りるかぁ。

 保証金、高いんだよなぁ」

 

道は、シントラとディリンゲンに向かう道に分かれる。

シントラに向かう道は良いが、遠回りだ。

大雅は、ディリンゲンとアトレを繋ぐ道と、シントラから渓谷に伸びる交差点を目指し、ナジャムを歩かせ始めた。

 

なにより、街道を外れれば、面倒な盗賊は少ない。

盗賊は稼ぐために、街道の商人や荷車を襲う、だから街道から離れた所にあるのは、小規模なキャンプしかないのが常だ。

 

しかも、この地域にいる盗賊は、小規模なものが多い。

だから、たとえ盗賊を見かけたとしても、無下に殺す事はない。

そいつらを襲うほど、金には困って居ないからだ。

 

無論、向こうから襲って来たり、目の前で胸糞の悪い事をしていれば別だが、彼等とて、生きて行くための、手取り早い手段である事は確かだ。

 

勿論、目が合った途端、襲って来る稚拙な盗賊が殆どなのだが、今日は勝手が違っていた。

 

 

 

丁度、小高い丘陵をいつくか越え、街道までショートカットをしようとして、疎らに生える灌木の間を進んでいると、呻き声の様な物が微かに聞こえた。

 

 

「ナジャム、此処で待っていろ、遠くには行くなよ」

大雅は馬から降り、背中からAKMSを取ると、チャンバーに初弾を送るためにコッキングレバーを引く。

 

耳を清ます為に、時折立ち止まりながら音の方向を確認して行くと、幅2m程の窪みに、人の様なものが見えた、窪みの深さは1m程で、水溜りの中に、動物なのか、人なのかまで判らないほど汚れている人が倒れていた。

 

銃を構えたまま、 ゆっくりと近づいた。

其処には歳の頃20代ほどに見える女性が倒れており、呻き声は彼女の物だった。

早く浅い呼吸を繰りしている。

 

意識レベルはJCSで20、つまり身体を揺さぶったりして、少し目を開ける程度だ。

それと触っただけで解るほど高熱だ。

 

大雅は、バックパックからN99マスクと、ハリヤードニトリルグローブを取り出し装着、薄手の防護衣も身に着ける。

感染性の細菌ならまだしも、もしウイルスだとしたら危険性が高い。

 

大雅自身も此方へ来る前に、多様なワクチンを接種して来ている。

しかしウイルスは、種により多様に姿を変える物も居る。

インフルエンザなんかがいい例だ、あれは毎年の様に形を変える。

ワクチンが有効とは言えない、可能性も有るのだ。

 

大雅は、女性を窪地から抱き上げると、近くの平地へと運んだ。

体重は軽く45キロも無いだろう。

風呂に暫く入ってないのか、すえた臭いがする。

 

平たんな場所を見つけ、女性を運び、寝かせた。

 

コンバットメディックの資格を持つ大雅だが、戦闘外傷救急キット程度しか持って居ない。

感染症に関しては、精々、抗菌目薬ぐらいと、バンコマイシンが10日分ほど。

 

一先ず大雅は、外傷の有無を確認した。

右脚の脹脛には、薄汚れた布が巻き付けられていて、傷口から、矢による傷のようだ。

右足のブーツを脱がし、ぴったりとしたズボンをハサミで切っていく。

包帯も切ると、傷口が見えた。

 

良く観ると、折れた矢の鏃が残っているようで、外傷の周囲は感染症のせいか化膿し腫れている。

水を与えようとしたが、口が開かないらしく、殆どを零してしまう。

 

「高熱、意識混濁・・・開口障害・・破傷風の感染が濃厚か、最悪は菌血症の可能性も・・・」

大雅はすぐさま、動物の血液サンプルを取る為の注射器を使って採血し、その注射器をビニールパックに入れた。

また、化膿している傷からサンプルを取りプラ製のチューブに入れた。

 

「成人女性、年齢は20~30歳、高熱。

 ヘルツは120、血圧不明、意識レベルはJCSで20。

 右脚ふくらはぎに感染症を伴う矢による創傷あり、出血は無い。

 栄養状態は不明、血液サンプルと創傷部位の膿汁を送る、至急検査と指示を願いたい」

口頭で、テキストを作ると、半固定インベントリを樹脂ケースで作り、テキスト共に創傷や女性の状態を画像で送った。

 

大雅は、迷彩柄のテントを手早く張ると、その中にエアマットを持つ折り畳みベットを設える。

その間、女性をレスキューシートで包み込んだ。

 

 

2時間ほどで、回答が返ってきたのは良いが、大きなデータファイルが送られてきた。

同時に、抗破傷風ヒト免疫グロブリン注射、破傷風トキソイド注射、複合ビタミン注射、亜鉛を含む注射薬やセフェム系の抗生物質、補液類、抗痙攣薬として、ジアゼパムの注射なども入っている。

 

同時に届いたデータファイルは巨大で、どうやらビデオファイルの様だ。

 

再生してみると、破傷風による感染症で、すぐに手当てが必要とのこと。

傷の手当の他、矢じりの傷の切開と取り出し、傷のデブリドーマ、薬剤の使用方法、注意点、治療計画などがレクチャーされていた。

 

「まずは、輸液路確保か」

大雅はグラスに映し出される手順書動画を参考にしながら、女性の治療を始めた。

幸いな事に、この女性には抗破傷風ヒト免疫グロブリンが著効し、翌々日には不自由だった言語も戻ってきた。

また、他の感染も防ぐため、抗菌薬も点滴に混ぜる。

 

 

「助けて・・くれて・・ありがとう」

「まだ話しにくいなら、無理しなくていいぞ」

彼女の腕にはまだ、水分補給の為の補液バックが繋がっている。

 

「これは、体に水分を補給するためと、薬を投与するためためだ。

 俺が取るまで外さない方が良い」

「ここは?」

 

「君は此処から300m程の所に倒れていた。

 街道からは20キロほど離れた丘陵の間の近くにね。

 足に矢を受けていたようだが、足に残っていた鏃から破傷風が感染、毒素が回り倒れた。

 足の傷は既に治療してあるが、貼ってある薄い膜は剥がさないように」

「破傷風?・・毒素?・・・何を言っているのか判らないわ。あなたは医者なの?」

 

「医者では無いが、医者と連絡を取り合って治療した。

 あのままだと、そう遠くなく、命を落とすレベルだったらしいぞ」

「私は死ぬの?」

 

「もう峠は越えた、さて、採血するから腕を貸せ」

大雅は、ほぼ空になったバックを外すと、翼状針を取り外す前に、注射器を取り付け採血する。

 

「血を抜くの? やはり医者なのね。

 瀉血にしては、少なすぎるようだけど」

 

「瀉血ではないよ。

 検査のための採血だ。

 いろいろと聞きたいことは有るだろうが、質問は後だ。

 食欲は?」

 

女性は首を振った。

「水を貰えれば、あとはおしっこがしたいの。手を貸してもらえるかしら?」

大雅は、500mlのペットボトルの口を切り、彼女に渡した。

その間、不思議な見たことも無い容器を見ながら、半分ほどを飲み、容器をしげしげと見つめている。

 

血液検査で、破傷風菌は検出する事はできない。

破傷風菌は、酸素を嫌う菌で、病巣で繁殖し、毒素を出す。

大雅の血液採取は、血液中にある毒素のテタノスパスミンを計るためだ。

まだ、毒素が残っているようなら、もう一度、抗破傷風ヒト免疫グロブリンによる治療が必要となる。

 

一週間が経った。

捌いたカモに似た鳥肉を、ひき肉にする、醤油と砂糖で甘辛く味付けし、残り少なくなったアルファ米で粥を作る。

 

「鶏肉は濃いめの味だが、食べられない様なら、残してかまわん」

「いろいろと、ありがとね。

 命を助けてくれて」

 

「単に幸運だと思えばいい、それだけだ。

 たまたま、俺が通りかかったのも幸運だし、君を見つけられて治せたことも幸運だ。

 体が問題無く動かせるまで2週間ほどかかる、それまで、大人しくしておくことだ」

 

「なんにも返せないけど、いいのかしら」

「別に利益が欲しくて助けたわけじゃない。

 まあ、どうしてこうなったかは興味はあるがな」

 

それから数日して、彼女は体を起こせるようになった。

彼女が寝ている間、暇を見て、タープを何枚か取り寄せ、簡易的に入浴場を作る。

自衛隊で有名なのは鋼管フレームを組み、その中に防水シートの簡易浴槽を組んだものだが、タープで作った簡易インベントリで届いたのは大型の樹脂コンテナだ。

人がすっぽり入れるほど、大きく満水に入れれば優に1トンは入ってしまう。

時間も有ったので、少し小型のコンテナも取り寄せ、シャワー用の設備も作る。

 

水は、幸い近くにある小さな小川が綺麗だったので、ポンプを繋ぎフィルターを通して給水した。

これに、燃料電池の温水器を繋げば、簡易な風呂が完成だ。

 

ついでに、タープを加工し、簡易なトイレも作ってある。

 

その間、ふらつく彼女を支え、簡易トイレに連れて行き用を足させ、またテントに寝せる日々が続いた。

暫くすると、ふらつきながらも、トイレが自分で出来る様になった。

 

「風呂が有るが入るか?

 ぶっちゃけ、ものすごく臭い」

そう、彼女は一度も洗った事がない犬を、濡らしたような臭いがしていた。

 

「そうよね・・えっ? 風呂?」

「ああ、簡易だが人目に触れず入れる。

 服は、代わりの物を用意しておく」

 

「入るわっ! 自分でも解るもの、酷い臭いだって。

 でもここで、お風呂? ホントに?」

「来て見ろ、自分では入れるなら入って良い。

 流石に、入浴の介護は勘弁して欲しいからな」

 

大雅は彼女を風呂用のテントに案内した。

「凄いわ、こんなの初めて。

 こんな場所で、お風呂に入れるなんて」

 

大雅は、風呂の入り方、シャンプーや石鹸の使い方、シャワーの使い方を教えた。

「いいの? ホントに?」

「ああ、出来れば入ってくれ。

 とにかく酷い匂いだからな。

 着替えは、ここに置いておく、上がったら着替えてくれ。

 あと、体を拭くタオルはこれ、体を拭いたら頭に巻くと良い。

 判らないことが有ったら、声をかけてくれ」

 

「えっと・・その・・ありがと。

 なんて呼べばいいの、名無しさん」

「そういや、言って無かったな。

 大雅だ、此方風に呼ぶなら大雅拝戸だ」

 

「助けてくれてありがとう、タイガハイド」

「いや、言い方がまずかったな。

 名は大雅だ、苗字が拝戸だ、だから単に大雅と呼んでくれればいい」

 

「わかったわ、私は、シ・・んんっ・・フィオナ・・フィオナと言うわ」

「そうか、宜しくフィオナ」

 

浴場のテントからは、歓声と艶っぽい声、それに驚きの声が上がっている。

まあ、そこは彼女の為に黙って居よう。

 

 

「ねえ! タイガー!」

「なんだ」

テントから濡れた髪の頭と、手だけを出し、女性物のショーツを、ひらひらとさせている。

 

「これ、下に履くのは解るけど、どっちが前?」

「装飾の有る方が前だ。

 判らないなら、両方に履いてみて、しっくりくる方が、前!」

 

そして、すぐにまた声が掛かる。

「これで良いの?

 この下着、凄く薄くて、心もとないんだけど」

 

「ちょっ! 下着のままで出て来るな!

 服を置いてあったろう!」

 

「別にいいわよ、トイレも介助して貰ったし、拭いてもらったし。

 今更、全部見られたって同じじゃない。

 もう、貴方の事は医者だと思う事にしたの、だから恥ずかしくは無いわ」

 

「いやいや、頼むから、恥じらいくらいは持ってくれ!

 だから、チャックを上げろ!」

 

「かけ方、判らないもの、仕方ないでしょ」

大雅は、確かに、この世界にチャックなど無い事を思い出した。

 

「む、そうだな。

 ここの部分を、ここに差し込む。

 この時、止まるまでしっかりとな、そしたら、この摘まむ部分を上に引き上げる」

 

ジーッ

とチャックを引き上げた。

 

「おおっ! 凄いわ、始めて見たわこんなの。

 もう一度やってみる!」

 

ジーッ

ジーッ

 

「これ、便利ねぇ。

 何処に有るの、こんなの」

「俺の国には普通に有る、別に珍しくも無いがな」

 

「どうだ、さっぱりしたか」

「ええ、ありがと。

 すごくいい気分よ。

 それに、とってもいい匂い。

 ジャンプーって言うの?

 あれ、凄くいい匂いがするのね」

 

「ちゃんと、二度洗いしたのか?」

「ええ、それに、リンス?

 なにあれ、髪がしっとりしてるのにサラサラ。

 それにいい匂い」

「ちゃんと濯いだのか?」

「ええ、もちろんよ。

 でも、香りは残るのね」

 

大雅が彼女に渡したのは、ロクシタンのシャンプーとリンスだ。

それも香りの強い、ファイブハーブスというブランドだ。

 

「さ、髪を乾かしてやるから、ここに座って」

大雅は、焚火から少し離れた椅子に座らせた。

 

「こんな椅子も有るのね。

 始めて見たわ」

 

「そうか? 看病している間は、ずっと俺が使ってたけどな」

「朦朧としてたもの、覚えて無いわよ。

 ちょっと、それ何?」

 

「なにって、ドライヤーだ。

 髪を乾かす魔道具だと思えばいい」

 

ドライヤーの音におびえながらも、フィオナはじっとしていた。

 

「ね、水がないかしら。

 喉乾いちゃった」

大雅は黙って、ペットボトルのキャップを開けそれをフィオナに渡した。

 

「よくよく見ると、こんなの始めて見るわ。

 ナニコレ?」

「何って、水にきまってるだろう。

 寝たきりの時も、何度か飲んだはずだが」

 

「違うわ、私が言いたいのは、この透明だけど柔らかい容器の事よ」

 

「ポリエチレンテレフタレート」

「ポッ・・なに?」

「ポリエチレンテレフタレートだ。

 略銘はPET、だからペットボトルとも呼ばれている」

 

「どこで採れるのよ、こんな材質」

大雅はだまって地べたを指さす。

 

「場所によっては、地下から黒い燃える油が出て来る。

 それを精製し、変化させ、加工するとそれが出来る」

 

「ごめん、何言ってるのか判らないわ」

「まあ、俺の所には、そういうモノが有ると、思ってくれればいい。

 そろそろ、飯が出来るが食べれるか?」

 

「ええ、お腹は空いたわ」

「食欲が出て来たなら、良い事だ」

 

大雅はメスキットに、粥をよそってフィオナに渡した。

軽く塩で味を着けた塩がゆだ。

タンパク質の補給のため、ロズログで仕入れたトラウトの塩漬けの塩抜きをしたものを焼く。

食べた感じは、日本の荒巻鮭と変わりない。

 

「ね、コレ!」

「説明は後だ、黙って食え」

「んむうっ、はぐっ」

 

後片付けをし、大雅は紅茶を入れた。

 

「おいしい・・・」

「紅茶だ。

 茶と言う木の若芽を摘み、蒸してから発酵させ、乾燥するとこういうお茶が出来る。

 初めてだろう?」

「ええ、でも、とっても落ち着く香り、もう一杯頂戴」

 

 

「さて、どうしてこうなったのか、問題無ければ聞かせて貰っても良いか。

 言いたくなければ、別に話さなくても良いが」

 

「最初は、知り合いが盗賊に連れ去られたの。

 で、盗賊の根城を何とか見つけて、忍び込んで助けたまでは良かったけど、予想外に大きな根城だったの。

 逃げる時に、右足に矢を受けたけど、引っこ抜いて逃げたわ。

 でも、仲間を殺され逆上した盗賊は、しつこく追いかけてきたの。

 だから、少し隠れて、お互いに逆の方に逃げたの。

 私はワザと、見えるように、逃げたわ。

 でも二日目の夜になっても、しつこく追いかけて来たわ。

 私は、小さな小川を見つけて、其処に隠れたの。

 盗賊が離れて行ったとき、私は疲れも有ったのね、気を失うように眠っちゃったのよ。

 その後は、覚えていないわ」

 

「なるほど、右足の脹脛から出てきたのは、この矢じりだ。

 錆びた鉄製だから、入り込んだのは、破傷風菌という、毒性の強い、目に見えない程の小さな生き物だ。

 これが体内に入ると、時として体中に破傷風菌の毒素が回り、死に至る。

 フィオナを見つけた時は、既にギリギリの状態だった。

 回復したのは、幸運と言っていい。

 あと1日、遅れて居たら助からなかっただろう」

そう言って、錆びだ矢じりを渡した。

 

「そうなの。

 ホントにありがとう」

「なに、礼は、もう要らないよ。

 それより、盗賊の場所は覚えて居るか?」

 

「そうね、太陽と山脈の方向から言って、ここから馬で1日くらいだと思うわ。

 なにせ、忍び込んだのも夜だし、救出して逃げたのも夜だったし、はっきりしないけど」

 

「救出に向かう前に居た町の名は?」

「アトレから馬で3日東に行った所にある、サヴューという村よ」

「地図の見方は出来るか?」

「ええ、多分」

 

大雅は、A1サイズの地図を広げた。

最近は、高高度ドローンが、ちゃんと仕事をしてくれているのか、大分真面な地図が、出来るようになって来たが、街の名前や都市の名前までは判らない。

 

「いま、俺たちが居るのは、ここだ。

 俺は、ここからアメル山脈のマルダナル・ステア渓谷に向かっているところだ」

 

フィオナは、地図をじっと見つめた。

「ここが、ヤルーガ河ね。

 そして、ここがシントラだから・・・ここらへんね。

 サヴューは」

 

大雅はタブレットを取り出し、その周辺を拡大した。

「この道具の説明は後だ、とりあえず、これは拡大した地図だ。

 詳しく場所を教えてくれるか」

シリは、暫くタブレットを見ると「ここね、サヴューの村は」と話した。

大雅は、その地点をマーキングする。

 

「凄いのね、そのその魔道具、ちょっと見せてくれない?」

大雅は簡単に拡大やスクロールの方法を教えると、タブレットを手渡した。

 

「あ、見つけたわ。

 盗賊の根城は、こんな感じの形だったわ。

 間違いなくここよ、見張りの塔も同じ位置だし」

大雅はすかさず、タブレットをタップし、マーキングする。

 

「ここから村までは2日程度か、そこから直線距離で村から30キロ、馬だと1日かかるな。

 体が完全に治ったら、出かけよう」

「盗賊を潰しに?

 できるなら、サヴューに寄って、先に知り合いの無事を確認したいのよ」

 

「それで、構わないよ。

 あと、色々想う所は有るだろうが、盗賊は俺が潰すから安心しろ」

「そんな訳にはいかないわ、私だってこんな目に合せられたんだもの、あいつらは只では置かないわ」

 

「心配するな手伝ってやる、それと俺の戦いは中距離から遠距離なんだ。

 敵が見えない所から、攻撃し放題だ。

 安全に《駆除》できるさ」

 

「わたしだって、戦えるのよ。

 かなり強いんだから」

 

「ま、矢で死にかけた割には元気だな。

 その調子だ。

 だが、闇雲に突っ込んで行くのは、単なる馬鹿だぞ。

 敵の規模、状況、弱点、捕虜の有無、全て調べるには一日かかると思った方が良い。

 できるなら、数日は掛けた方が良いがな」

「あなた、私の師匠みたいなことを言うのね」

 

「ま、こういった戦いは慣れているんだ。

 一人で突っ込んで行っても、また痛い目どころか、今度は死ぬかもしれんぞ」

「それも、嫌ね。

 今回で、懲りたわ。

 でも、あの盗賊共だけは、絶対に許せないのよ。

 近隣の村だけでなく、シントラの至る所で略奪や殺しをしているわ」

 

「気持ちは、解らんでも無いが、無謀な動きは、良い結果を産まないぞ。

 確実にやるなら、先ずは綿密な下調べだ。

 そして、準備、行動はそれからだ」

「わかったわ、でも「シッ」」

 

「馬が3頭、こちらへ来たようだ。

 どうやら、お客さんのようだな」

「くそ、こんな時に・・・」

 

「まあ、任せろ」

大雅は、早々に装備を整ええた。

 

「ね、剣かしてっ!」

「悪いが、剣は持ってないんだ。

 コレで我慢してくれ」

大雅はそう言って胸のナイフを渡した。

 

「うーっ、こんな小さなナイフでも仕方ないか。

 これでも、無いよりましね。

 タイガ、どうやって戦ってきたのよぉ」

 

「病み上がりは、大人しくしてなさいって。

 言っておくが、盗賊で有っても、いきなり向かって行くなよ。

 全部ここは、俺に任せろ」

 

双眼鏡で確認すると、馬は3頭。

まだ、距離が有る為、乗って居る者の姿までは、陽炎の影響で見えない。

手には、M870MCSの18インチ銃身、銃弾は00番の9粒弾が入っている。

 

「ねえ、タイガー大丈夫なの?」

「ま、そこで、見ててくれ。

 ちょっとばかり派手な音がするが、驚かずにな。

 あと、かなりスプラッターな事態になるが、それは勘弁」

 

男たちが、馬で近づいてくる。

 

「ほう、見たこともねぇ珍妙な天幕だなあ。

 丁度いい、全部俺たちが貰ってやろう」

 

二人は、馬に乗ったまま、剣を抜いた。

大雅が警戒しているのは、背に弓を持った男だ。

男が背の弓に手を掛けた段階で、大雅のM870MCSが派手に音を立てた。

 

盗賊たちは、驚いて固まっている。

どさりと、弓を持っていた男が、馬から落ち完全にフリーズする。

 

「死にたくなければ、馬から降りて武器を捨てろ、二度は言わん」

「くっ! このぉっ!」

再び、M870MCSが派手に音を立てる。

 

至近距離での散弾、特に00番の破壊力は、凶悪とも言っていい。

向かってきた、盗賊の頭は一瞬で、割れたザクロの様になる。

 

あと一人は、すぐさま馬を返し、逃げ出した。

大雅は、ポケットからサボットスラッグ弾を給弾し、ポンプレバーを押し上げた。

そして、深呼吸して、じっくり狙う。

盗賊は既に、60mほど離れてしまっている。

 

ズドンッ

 

遠くで馬に乗った盗賊の胸から、赤い血煙が上がる、そしてそのまま落馬した。

大雅は、盗賊が乗ってきた馬に飛び乗り、すぐさま走り出した。

暫くすると、大雅は2頭の馬を連れて帰ってきた。

一頭は凄い速さで逃げて行き、追いかけるのを止めた。

 

「馬、連れて来たぞ。

 ほら、丁度いい足になる」

 

「ね、色々と聞きたいけど、今は止めておくわ。

 でも、一つだけ。

 それが貴方の武器?

 それで殺したの?」

 

「ああ、銃と言う。

 一応、殺さずに根城聞いておいた方が、良かったかなぁ」

 

「いえ、そうじゃなくて・・それも魔道具なの?

 ! って貴方、そのメダルはウイッチャーなの?」

 

「まあ、魔法は簡単な物しか使えないけどな。

 しかも、使い所が判らんと来たもんだ。

 うん、困ったもんだ」

 

「わたしにも使えるの? その武器」

「ま、無理だろうな。

 訓練も要るし、弾の数しか敵を倒せない。

 しかも、弾が手に入るのは俺だけだ。

 この世界での運用は、ムリゲーだね」

「ムリゲー?」

 

「無理なゲームって事だよ。

 つまり出来ないってこと。

 銃だけあっても、弾が無きゃ、ただの鉄パイプだ」

 

「なんか、色々と驚いて、疲れたわ」

「休みな。

 まだ、病み上がりなんだから、今は体力を回復すべきが、最優先だ」

「そうさせてもらうわ」

 

大雅は、2頭の馬を連れて、小川の下流で洗い、綺麗にしてやる。

それを嫉妬の眼差しで、見つめるナジャムが居た。

 

 

戻ってきて、すねたナジャムに角砂糖を与え、機嫌を取る。

相変わらず、ねちっこい甘え方だ、今までも若いころから馬には接して来たが、こんなに甘えて来る牝馬は知らない。

ブラッシングしてやると、気持ちが良いのか百面相の様な面白い顔になる。

 

「どうだ、明日には動けそうか?」

「ええ、馬が有ればなんとかなりそうよ。

 それより色々と聞きたいことが、山積みなんだけどタイガー」

 

「タ・イ・ガ。

 タイガーじゃない。

 そこんとこヨロシク」

 

「先ずは、貴方のメダル、見たこと無い意匠だけど、何処のウイッチャーなの?

 それに「質問は、一つずつね」」

 

「俺は、この世界の人間じゃない。

 簡単に言えば、君らから視たら異世界人だ。

 まあ、この世界では怪物や盗賊を狩って、旅をしているってとこかな。

 だから、この世界でのウィッチャーとも異なる。

 だから、ウイッチャーの様な事をしているが、この世界で言うウイッチャーではない。

 はい、次の質問」

 

「そのメダルは?」

「こちらに来た時、ちょっと変わった女魔術師と知り合いになってね、その人が作ってくれた。

 なんでも、伝説の猛獣、タイガーらしい。

 俺の世界じゃ、普通に生きてるけどね、むしろ保護動物。

 このメダル、もちろん、この世界のウイッチャーが持つ物と同じか、それ以上の機能だらしい。

 良く解らんけど」

 

「使える魔法は?」

「イグニ・・だっけか。

 これって、多分イグニッションの略だと思うんだ。

 何故、英名なのかは知らんけど」

 

そう言って、大雅は横向きにぶっ放した。

「ちなみに、使えるのはコレだけ、他にも有るらしいけど、出来てないね今の所。

 まあ、出来なくても困らんけど。

 あ、でも薪に火をつけるのは便利だけど、威力の調整が出来なくってさ。

 殆どが、消し炭に成っちゃうの、使うと。

 意外に不便だね」

 

「でも、目は替わって無いわね」

「それは人間だからだな。

 ウイッチャーは非人間族扱いらしいけど、俺にいわせりゃ人間だって人外じゃないのか、って思うぐらいひでぇ奴らも居るしね。

 意思疎通ができて、種族は違えど理解し合えるなら、問題無いと思うんだよね。

 逆に盗賊なんて、意思疎通できない事の方が多いし、あれってもしかして”人間もどき”なんじゃないかと思うくらいだからね」

 

「ぶっ、あははははっ」

シリは久々に笑った。

 

「良いわね、ぷふっ、人間もどきねぇ。

 ホントにそうよ、ところで異世界人なのは解ったけど、どこから、どうやって来たの?」

 

「地球って、呼ばれてるとこ。

 こっちの女魔術師に転移門を作ってもらって、それを渡って来たんだ。

 すごく変な感じがしたけど、体には異常がなかったな。

 でも、ずっと門を開いていられるわけでもなく、1秒から2秒程度しか開いてられなくてね、飛び込んだといった方が早いだろう。

 戻る方法は、判らん。

 ただ、門を開くには、数か月魔力が溜まるまでは無理って事は、解っている。

 一応、転移してきたところに、戻る時は行けば何とかなるかもしれない」

 

「タイガの世界はどんなとこなの?」

「俺のとこって、国が200近くも有ってさ、ずっと飽きずにドンパチやってる国とか、精神病じゃないのって思う国とか、ずっと平和で完全に平和ボケしている国とか、色々あるのよ。

 まあ、俺のとこは平和ボケ組かな、それも飛びっきりの。

 軍隊なんか、要らないっていう国民まで居るんだぜ、バッカじゃねーの?

 あと、科学と言うテクノロジーは進んでいるね。

 音の速さの何倍もの速度で飛べる乗り物とか、地上を一時間に500キロもの速度で走る乗り物。

 一回で数万トンが運べる船とか、ネットといって、膨大な情報を選んで見られるインフラ、電気っていう雷の力を利用した機械や乗り物。

 この、銃も戦争で発明され、進化してきた。

 手にすっぽり入る物から、其処の薪の太さくらいの弾が一秒に60発以上撃てる銃も有る。

 病気になれば、病院で高度な治療が受けられるし即死しない限りは、滅多に死なない。

 俺の所では、国民の多くが車と言う動力を持った車を持っていて、何かの出来事は、ほぼ国民にその日の内に伝わる。

 あと、ウチの国民は美食家が多くてね、世界各国から旨い飯を求めて旅行に来る。

 ま、話してたら、夜が明けるまで話せるくらいさ」

 

「なんか、楽しそうな国ね。タイガのとこは。

 でも、なんでこの世界に来たの?」

 

「うー、言っても良いのかななぁ。

 まあ、簡単に言うと、此方の世界の女魔術師がひょんな事から、俺たちの世界に来ちゃってさ。

 で、保護した担当者とデキちゃって、永住することになったわけ。

 でもね、これってよく考えると、結構ヤバい事でね。

 そんな事が出来たら、重要な設備や機密を要する設備なんかに入られて破壊工作もできるだろう?

 だから、こっちから来られた現象を調査する必要が出たんだ。

 国の命令で、こっちに来る事に為って、色々と調べてる最中ってとこかな」

 

「んー、そうなんだ。

 で、帰れるの?」

 

「いや~、それが「努力はするけど確約は出来ない」ってやつでね。

 最悪、帰れんかも。

 ま、その時ゃ、この世界の片隅で、畑でも耕して生きていくさ。

 空気は旨いし、景色もきれい、ま、なんとかなるっしょ」

 

「タイガも大変なのね、つまり諜報員ってとこ?」

「うーん、そうとも言い切れないかな。

 スケリッジの王にも謁見したし、ケイドウェンの、ある男爵も知り合いだしね。

 最悪、帰れなかったら、頼ろうかと」

 

「そうなんだ。

 私も色々異世界の人は知ってるわ。

 もちろん、とんでもなく悪いやつも要るし、良い人も居るのよ」

 

「世界は変わっても、おんなじだよ。

 平和に過ごしている隣国に、突然侵略始める北のハゲだとか、毎日の様に兵器を隣国に打ち込んで来る、病んでる隣の国とかバカばっかり。

 いっそ、国ごと消えてくれれば俺の世界も平和になるのになぁ」

 

「ホントにね、つくづく思うわ私も」

「ま、人間、欲が有るから、戦いも略奪も無くならないからねぇ」

「平和にする方法って無いのかしら」

 

「教育だね。

 基本、教育のレベルが高いと、そう言う事は《表向き》には起こらなくなる」

 

「表向き?」

「ん、裏ではあくどい事とか、水面下じゃえげつない事で戦ってるの。

 いや、政治の裏なんかドロドロだよぉ。

 世界中の汚物集めてもあそこまで酷くはならないと思うけど、背中にナイフ隠して笑顔で握手なんて普通の世界だからねぇ。

 結局、とことん人間なんて業にまみれてるのさ」

 

「ふふ、そうかもね。

 タイガと話してると、楽しいわ」

「それは良かった」

 

「ね、村についたらどうするの?」

「取りあえずは、宿探しかな。

 できれば、風呂がある事、あとは飯が上手いとこ。

 あ、知り合いの安否確認するんだろ?

 盗賊の根城潰しもしなきゃね」

 

「わかったわ、明日は早く出ましょ」

「ま、それは明日の体調を見てからかな。

 まさか、盗賊の大群が来るとは思えないが、何日か経ったら、帰ってこない仲間の捜索が来る可能性も有る。

 ここは早めに移動した方が良いだろうな」

 

 

その夜、

「タイガ、起きてる」

「寝てるー」

「起きてるじゃない」

「何かあったか?」

 

「眠れないのよ、ね、話ししない?」

「紅茶を旨いからって何杯も飲むからだよ。

 もう、深夜だよ?

 明日そんな状態じゃ、出れないでしょうよ。

 目瞑ってりゃ、その内眠るって」

 

フィオナは大雅のテントを開け、入って来た。

「ここで、寝てもいい?」

「いきなりだね、俺、一応男なんだけど、知ってた?」

「解ってるわよ。別にそう言う人じゃ無いって、感じるからよ。

 ・・・でも、その・・」

 

「はいはい、無理しない。

 手は出しません、これでいい?」

 

「ええ!」

「そんな良い笑顔で返されてもねぇ。

 仕方ねえか」

 

大雅はくるりと横向きになった。

もちろん、シリとは反対に向いて。

 

 

結局は、朝までそのまま眠った。

目の前には、少し口を開き眠る美女が居る。

涎が口から垂れているのはご愛敬か。

ただし、左目から左顎にかけての、大きな古傷が無ければの話だが。

 

大雅は、寝袋から出ると、そっと外へ出た。

盗賊共が、ここまで来たという事は、けっして安全圏内とは言えない。

早目に此処は撤収すべきだろう。

 

「やっば、一人くらい生かしておくべきだったか」

念の為、仕掛けてある赤外線センサーを片付けながらボヤいた。

 

余り、音を立てない様、撤収を始める。

入浴場のシートを外し、適当なインベントリを作成、次々に鋼管やクランプ、シートを入れ、地球へと送り返す。

 

トイレは一度バラシ、段ボール製の簡易トイレに変える。

最後にシートを突っ込み、土に埋めれば問題ない。

後は、冷蔵庫から300gほどのウサギ肉を取り出し、小型の冷蔵庫もインベントリで送り返した。

 

熾火になってた焚火に、薪を加え火を大きくし、朝食の準備を始める。

突然、端末にポンッと赤いプレゼントマークが出る。

 

「なに、送って来たんだろ」

インベントリを開けると、其処には150gづつ透明なパックに入った、精米が入っていた。

袋にはマジックの手書きで「米の種、150g」と記されている。

 

「おお、送れる様になったんだ。

 米の種ねぇ、発芽もしないけど「種」あつかいなんだ、コレ。

 相変わらず、意味不明なインベントリだなぁ。

 じゃ、最後のアルファ米と一緒に粥でも作るか」

 

大雅は、飯盒で粥を作り始めた、煮立った段階で残ってたアルファ米100gほど追加する。

「おし、後は放置し、最後に塩でオーケーっと。

 おかずはコレで良いか」

大雅はフライパンに、ウサギ肉を適当に切り、油と一緒に居れ、醤油と砂糖で味付けする。

 

「おはよぅ・・・タイガ・・・」

「おお、朝飯はもうすぐできるから、もっちょっと待ってろ。

 小川で顔でも洗ってきな」

「ええ・・・大変! タイガ、お風呂の天幕無くなってる!」

 

「今日出発するから、片したんだよ。

 あと、天幕も1つにするから、飯食ったら片すよ」

 

「どうやって?」

「魔法で?」

「なんで疑問形なのよ」

「さあ? まあ、そう言う力が使えるって事で」

 

未だ釈然としないのか、頭を傾げながら小川へと向かった。

 

「飯食ったら、フィオナのサイズ測るから。

 足の大きさとかいろいろ」

「どうして?」

 

「フィオナの着てた服、洗ったら崩壊したらしい。

 ズボンも調べる為と、治療のために片足は切っちゃったし修復も不能。

 生地が痛んでて、縫ってももとには戻らないんだと。

 だから、代わりの服や靴、俺と似たような物を出すから、サイズ測らせて。

 解っているなら、教えてくれればそれでいいよ」

 

「体のサイズなんか、測ったこと無いわよ。

 あー解ったぁ、本当は私を触りたいんでしょ?

 ホレホレ、正直に言ってみなさい?」

 

「あのな、触りたいなら、昨夜の内にやってるだろ?

 測るのだって、今着てる服の上からでいいよ」

「そう言えば、タイガの服って、凄く変わっているわね」

「防刃だしな、打撃系の武器には弱いが、ナイフや剣では切れないぞ」

 

「またまたぁ、そんなのあるわけ・・・あるの?」

大雅は、左胸のナイフを抜くと、黙ってフィオナに渡した。

「それで、服の上から切って見な、服だからな、肌は切らんでくれよ?」

 

最初は軽く、だが段々と強く、最後にはギコギコと動かした。

「あきれた、ホントに切れないのね。 凄いわ」

「フィオナの服無いしね、どうせなら安全性が高い方が良いっしょ」

「私、これでも別にいいけど、着やすくて動きやすいし」

そう言って、濃紺にラインの入ったジャージを撫でた。

 

「それ、コケたり、立木に擦れるとすぐ穴空くからね。

 それに、刃物もで簡単に切れちゃうし防御力ゼロ。

 こっちなら、矢も通さないよ。

 当たるとそれなりに痛いけど」

「いいの? そんな魔法の服みたいなの貰って」

 

「構わんさ、そうそうブーツも左のつま先が口開いてたしな」

フィオナは大雅が出したスニーカーを履いていた。

 

「まあ、踝はガードできないけど、軽くて動きやすい靴よコレ。

 結構気に入ってるんだけど」

 

「まあ、こうしてキャンプで使う分には良いけど、旅をするには役不足だしな。

 それに、この先、戦闘や峠も超えなきゃならん。

 足元が貧弱だと、真面に動けなくなるからな。

 悪い事は言わん、変えておけ」

「うーん、なんかもったいないなぁ」

 

「馬用のパニアバックとコンテナを頼んで有るから、それに入れとけば?

 街や宿の中じゃ使えるだろうし」

「うん、そうする」

 

「ほれ、今日の朝飯は粥とウサギ肉の甘辛焼きだ」

「うーっ、美味しそう!」

美人が涎を垂らす姿は、そうそう見られる物じゃ無いけど、リアルでやられると、ちょっと引く。

 

食器は小川が有るので、普通にメスキットだが、ウサギ肉は紙皿だ。

使用後は焚火で燃やしてしまう。

ダイオキシンなんか知った事ではない。

 

フォークを持たせたら、その便利さに驚いている。

此方の世界、スプーンは有るけど、カトラリーとしてのフォークは無い、だからプラ製のフォークだ。

 

「なに、これ。

 すごくおいしい、麦・・・じゃ・・無いわね・・」

 

「何度か食ったろう。

 米と言う、穀物だ。

 今朝、取り寄せに成功してな、朝だから粥にした」

「タイガ! お代わり!」

 

「食後に、これ飲んどけ、病み上がりに飲ませる薬だ」

大雅は、そう言って、ドリンク剤を渡した。

ラベルには、複合ビタミン薬と書いてある。

中身は、コンビニでも買える、ファイト一発の奴だ。

 

フィオナは少しだけ口をつけた。

「なにこれ、凄く美味しいんだけど、甘くて」

「そうか、でも1日に1本だけだからな」

 

大雅もパキパキとキャップを回し、封を開けた。

「これ飲む時は、お約束が有るんだ」

 

「なに、約束って」

「魔法の呪文みたいな物でな、効果が上がるらしい。

 こういうんだ。 

 『ファイトー』って俺が言ったら、フィオナは続けて『いっぱぁつ』と言うんだ」

大雅はテレビでも良く聞くフレーズを、日本語で教えた。

 

「いくぞ、『ファイトー!』」

『いっぱつぅー!』

なんか、可愛い。

二人で、ごくごくとボトルをあける。

 

途端に、フィオナの体全体が、ボウッと光る感じがした。

大雅は口を開けて驚いている。

 

「ホントだわ、凄く良く効くわね。

 体のだるさも消えたし、右足の痛みも弱くなったわ!

 びっくりよね、凄い薬だわ、もしかして霊薬なの?」

 

「い、いや。

 霊薬じゃない、俺のとこじゃ、近所の店でも普通に売ってる物だよ。

 誰でも買えるし、誰でも飲んでる」

 

”驚いたのは、こっちだ、つうの。

 これ、こっちの世界の人に飲ませちゃ、ヤバいのかな”

 

体の寸法を測り終えると、後片付けは、フィオナも手伝ってくれた。

 

「あ、トイレ、まだ使えるよね」

「ああ、片すのは最後だからな」

「行ってくるね」

「いちいち、言わんでいい」

 

その間、タイガはナジャムの鞍に、ロープで盗賊の馬を繋ぐ。

後の一頭は、フィオナに使わせるため、届いた新品のパニアバックとコンテナを取り付ける。

ついでに、フィオナ用の服も届いた。

何故か、タクティカルベストまである。

それと、市販のステンレス鋼のサバイバルナイフもある。

 

自衛隊には、官給品のサバイバルナイフや、タクティカルナイフと言う設定は無い。

必要に応じて、個人が準備する装備だ。

背中に背負う、大雅が使用しているしている、アサルトバックより少し小さ目の物が届く。

多分、身長に合せた物なのだろう。

 

「さ、テントでこれに着替えろ。

 終わったらテントを片すから」

「ええ、ありがと」

 

都合、馬を引き連れての移動は、速度が落ちる。

「そういや、背負ってるその剣、どうしたんだ?」

「これ? タイガが仕留めた盗賊が持ってた剣よ。

 なまくらだけど、無いよりましよ。

 そうだ、お金もベルトも、大切な剣まで取られちゃったのよ!

 絶対、取り戻すわ!」

 

「なんだ、一度捕まったのか?」

「ええ、逃げる途中矢が当たったときにね。

 でもまた隙見て逃げたけど、ああっ! 悔しいわっ!

 私のジルエアエルだけは、絶対に取り元さなくっちゃ」

 

「剣なんか、買えばいいだろう」

「ダメなのよ、アレは大切な人から送られた、思い出の品なの。

 それに、買ったらとんでもない金額よ。

 ああ、そういや、お金迄取られたんだっけ、ちきしょうっ!」

 

「女の子は、そんな下品な言葉言っちゃいけません」

「何よ、タイガってば、親みたいな事言うのね」

「まあ、少なくともフィオナよりは年上だぞ。

 多分」

 

「へえ、私より若く見えるるけどねぇ」

「まあな、若く見える人種の血が混ざってるんだ。

 母親は、こっちの人間に容姿が近いが、父親は黄色い肌を持った人種でね。

 ハーフなんだよ、俗に言う」

 

「人種? エルフみたいな? 寿命は?」

「あそこ迄、人間と離れちゃいないけどな。

 この黒い髪と、黒い眼は父親譲りだ。

 男は、81過ぎ、女性は88くらいまでだね平均で、中には100超える人も結構いるるよ」

「へえ、こっちより、寿命も長いのね。

 両親も健在?」

 

「とっくの昔に、死んだけどな二人とも」

「ごめんなさい」

「気にしなくていい。

 もう、15年以上昔の話だ。

 さっき言った、テロって言う無差別殺人でな」

 

「兄弟は居ないの?」

「一人っ子だったからな」

「結婚は?」

「してたら、こんなとこ、うろついてないだろ」

「確かに、うふふっ」

 

「さて、あと1時間ほどで村に着くが、どうする、このまま入るか、キャンプするか」

「このまま行きましょ。

 元気なら、雨風ぐらいなら、しのげるはずだから」

 

 

「フィオナ、振り返らずそのままの姿勢で聞いてくれ。

 後ろから、馬が2頭、付いてきてる。

 馬を引くのを変わってくれ。

 いざとなったら、馬を切り離して、右に馬を走らせろ」

 

「了解、盗賊かしら」

「さあ、どうだろな」

大雅は、腰からP320を抜くと、サイレンサーを取り付けた。

そして、フィオナの鞍に、引いていた馬のロープを渡す。

 

大雅は、ワザとナジャムをゆっくりと歩かせ、追いつかせた。

 

「兄貴、あっちの馬は偵察に出たっきり、戻ってこねぇ奴の馬に間違いねえ。

 馬具の飾りが特徴的だからだ。

 締め上げて、聞き出そう」

 

「まあ、待て。

 おい、お前、その馬は何処で手に入れた」

 

「何処って、昨日、人間モドキが襲って来たんで、殺したが?

 お前たちの仲間か?」

「剣も持たず勝てるわけねぇ、兄貴、ぶっ殺そう!」

 

ボシッ!

 

音と共に、息まいていた盗賊が馬から転げて落ちた。

頭からは血が噴き出している。

9ミリパラの拳銃に、サイレンサーが付いたものは本当に音が小さい。

市販の玩具のガスガン程度だと思えば大体近い。

 

ボシッ!

ボシッ!

 

「がああっ!

 痛てぇっ!」

サイレンサーを付けているので、大雅は構わず馬に乗ったまままもCARスタイルで狙った。

 

 

両腕を打たれた男は、剣を落とし、馬の上でうずくまる。

 

大雅は構わず、馬から引きずり落とす。

馬を降りた大雅は、銃を向けたまま、尋問を始めた。

 

「フィオナ、悪いが散った馬を捕まえて来てくれ、できるか?」

「タイガは?」

「この男を尋問する」

「わかったわ」

 

 

「さて、教えて貰おうか。

 お前たちの、根城は何処だ」

「・・・」

 

ボシッ!

無言の男の左つま先を撃つ。

 

「だああっ! くそっ!」

「次は右だ」

 

ボシッ!

 

「あがああっ!

 いうっ!

 言うから、やめてくれぇ!」

「素直に吐けば、足は撃たないでやる」

 

「なんなんだよ、ちきしょう!」

「最後だ、根城は何処だ」

 

「ここから馬で、1日行ったところだ」

「で、何故ここをうろついていた」

「サヴューの村を襲う為だ。

 俺たちは、周囲の監視だよ」

 

「サヴューは何人で襲った」

「30人だ、その内二人は俺たちと、後二人か三人が、警戒に回っている。

 ああ、痛てぇ・・・くそう・・」

 

「根城にはあと何人いる、サヴューに来た30人を除いてだ」

「50人くらいだ」

 

「根城の詳しい場所は?」

「渓谷の手前東側に、尾根が張り出した部分がある。

 そこは3方を山に囲まれてる、一番奥に城がある」

 

「人質は何人いる」

「詳しくは、判らねえが10人くらいいる」

 

「そうか、じゃあ死ね」

 

ボシッ!

男は、頭撃たれそのまま横倒しになった。

 

「タイガ、馬を連れて来たわ、一頭は早くて無理だった」

「構わないよ、だが良くない知らせがある」

 

「殺したの?」

「ダメだったか? 盗賊だぞ」

「ダメじゃ無いけど・・・聞き出せたの?」

「ああ、サヴューの村を30人、正確にはこいつらを除いて、28人が襲ったらしい。

 3人ほど、警戒に回っている奴らが居る。

 残りは、25人」

 

「大変! 急がなきゃ!」

そう言って、馬を走らせようとした。

 

「落ち着け、フィオナ。

 既に、村は襲われた後だろう。

 行っても略奪の最中か、下手すりゃ終わった後だ。

 それに、25人相手に戦えるのか?

 病み上がりの上、剣はなまくらだ」

「タイガ、お願い、手を貸して」

 

「もちろんだ、はやる気持ちは解るが、こういう時こそ、冷静に為れ」

「解ってるわ、けど・・」

フィオナの目には、怒りの火が燃えている。

美人は、怒ると怖いというのは本当だ。

 

 

「此処からは、村の南西から回りこむ。

 馬はをそこに置いて、先ずは村の状態を確認する」

 

気が逸るフィオナを宥め、移動を開始する。

既に、完全に日は暮れ、夜になっていた。

 

村からほど近い林に入ると、人間の気配がする。

「俺たちは旅をしている者だ、途中で盗賊が居たので倒したが、サヴュー村の者か?」

恐る恐る、何人かの村人が出てきた。

 

「盗賊を倒したって、本当か?」

「ああ、だが後、二、三人ほど回っているらしい。

 だから、まだ村には戻らず、ここに隠れて居ろ。

 あと、逃げられたのは何人いる」

 

「ここは女子供含めて、15人くらいだ。

 後は散り散りに逃げたから判らん」

 

「タイガ! 馬よ!」

振り向くと、一頭の馬に乗った男が来た。

 

「こんなとこに、居やがったか。

 いま、応援が「ボシュッ」・・・」

グラスを赤外モードにして周囲を探す。

200mほど先を、一頭の馬が走っていた。

 

大雅は、鞍の後ろに固定した、レミントンのM24SWSライフルをソフトケースから取り出した。

弾倉を入れ、ボルトを操作し、初弾を送り込む。

膝撃ちの態勢で、狙い静かに引金を絞った。

 

ドンッ

 

盗賊の頭が割れ、馬から落ちて行く。

「残り、23」

 

「フィオナ、悪いが、村人を守っていてくれ。

 俺は村を見て来る」

「一人じゃ無理よ!

 私も行くわ!」

 

「いや、一人の方が良い。

 間違っても、村人が村に戻ったり、フィオナも村には入らないでくれ、安全は保障できない」

「・・・わかったわ・・・でもちゃんと戻ってきて」

「安心しろ、これが俺の本業だからな。

 良い子で、待っていてくれ」

「もう! 子ども扱いしないで!」

 

コンテナからバックパックにドローンと予備の弾を移し、背には、AKMSとグレネード弾も念のために持つ。

 

500m程に近づき、ドローンを放った。

村の中央には、大きな焚火が炊かれ、盗賊共は略奪の真っ最中だ。

人数は予測したとおり、20人以上いる。

焚火の近くの杭に、6人ほどの女性が捕まっていた。

みな、若い女性だ。

 

大雅はドローンを戻すと、ライフルにサプレッサーを取り付けた。

そして、闇に紛れ、250mほどに近づき、大きめの木を器用に上っていく。

 

スコープを見ると、意外に明るく、村を歩き回っている盗賊が見える。

どうやら、荷車に金目の物や食料を積み込んでいる。

 

大雅は、村の外れに居る盗賊から、順次仕留めていく。

 

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

盗賊を次々と、撃って行く。

みな、ベットショットで即死し、声も上げず倒れていく。

何人かが、攻撃に気づき、周りを警戒するが、夜に紛れた迷彩を着た大雅を見つけるのは不可能に近い。

 

 

「おいっ! なんか死んでる!

 攻撃されてるぞ!」

村の中にいる盗賊はパニックになっている。

大雅の発する銃の音は、喧噪や薪の起てる音で判らない。

構わず、次々と倒していく。

 

「どこだぁ! さがせぇ!」

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

弾倉を取り換える。

 

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

パシュンッ!

 

「くそう! なんの攻撃だぁ!」

騒いでいる男も、8.58ミリの高速弾に頭を弾かれ、ザクロの様に割れて即死する。

 

「どれ、そろそろ行きますか」

大雅は、木を降り、サプレッサーを外し、ライフルを戻し木に立て掛けた。

代わりに、AKMSを取る。

バックパックから、ポーチに二発のグレネード弾を入れ、胸のホルダーに二つの30発弾倉を差し込んだ。

 

歩きながら、初弾を送り込む、警戒すべきは弓を持ってい敵だ。

だから、木の上から、あらかた弓や石弓を持っている敵を優先的に殺した。

 

「残り、8か・・」

 

「おい! おま!」

バンッ!

頭を7.62ミリで撃たれ、全て話す前に、そのまま崩れ落ちる。

 

バンッ!

バンッ!

バンッ!

ババンッ!

 

「残り、5」

 

バンッ!

バンッ!

バンッ!

バンッ!バンッ!

 

村の中を歩き回りながら、次々と殺していく。

 

確実な排除のため、ヘッドショットできない場合は体幹に打ち込み、倒れた所で頭に打ち込む。

 

 

「てめえかっ!」

盗賊にしては派手な姿の男が出てきた。

 

「お前が、この村を襲ったボスか?」

「それが、どうした!

 ぶっ殺してやる!」

 

大ぶりな剣を振りかざし、向かってくる。

全くの素人だが、剣速は其れなりに早い。

 

二度ほど躱し、タイミングを計り、大雅の方から振り上げた剣の腕にAKMSを押し当てた。

最も腕を高く上げた状態で、腕を押さえられる。

こうなると、剣は振り下ろすことができない。

そして、大雅の足は敵の金的を素早く蹴った。

足首のスナップが効いた、素早い一撃だ。

 

バシッ!

「がへっ!」

 

剣を落とし、上半身が前に伸びる。

そこに、ニーカップに守られた右膝が、顎に綺麗に決まる。

数本の歯が飛んでいった。

 

大雅は、腰の後ろからインシュッロックを二本とると、後ろ手に締め上げ、足も締め上げた。

そして、その縛った部分をインシュロックで繋ぐ。

男は、エビぞりの様な姿で、情けなくも転がされる。

 

「残り、4」

隠れたのか、逃げたのかはわからない。

 

「てめえ、その変な武器を捨てろ!

 出ないと、人質を殺す!」

二人の盗賊が、杭に繋がれた村人の首に剣を当てていた。

 

バンッ!

バンッ!

剣を延ばし、村人に突き付けていても、銃を知らない盗賊は、良い的だ。

 

「残り、2」

 

歩き回り、残りを探す。

二人は、建物の中に隠れていた。

 

取り回しの悪いAKMSを背に戻し、ホルスターからP320を取り出す。

左手には逆手にカラテルを握り、その拳を銃の下に当てた。

パンッ!パンッ!

パンッ!パンッ!

 

パンッ!

パンッ!

 

「残り、ゼロ」

 

この村は、出入口が一つしかない。

それ以外は、木の塀で囲まれている。

よしんば、どこかにで口が有り、逃げられたとしても、脅威にはならないだろう。

 

井戸の内側に隠れていた者がいた。

「おい、登ってこい」

「い、嫌だぁ!」

 

「登ってきたら、俺は殺さん」

「わ、わかった頼むから、殺さんでくれ」

男が登ってきて、助けてくれと両手を挙げた。

 

すかさず、両手両足を縛り、転がした。

良く聞くと、それは村人だった。

拘束をナイフで切り外してやる。

 

念の為、一軒づつ、盗賊が残っていないか確認をしていく。

5軒目を出て、次の家を確認しようとしたところで「うおおおおっ!」と声を上げ、剣を振りかざして来た一人が出てきた。

「うん、お疲れ」

バンッ!

9ミリパラベラムを頭に食らった盗賊は、そのまま崩れ落ちた。

 

 

全ての家や小屋を確認し、村人の所に戻り、拘束を解く。

 

「お願い、殺さないで」

「た、助かったの?」

「他の村人は?」

「判らない・・何人かは逃げたようだけど・・」

「おじいちゃんも、おばあちゃんも殺されちゃった・・・なんでよぉ!」

村人の女性はそれぞれ話し始めた。

 

 

「俺は、盗賊を抹殺しに来た。

 一部の村人15人ほどは、俺の仲間が保護している。

 連れて来るから、待っててくれ。

 あと、この拘束してある盗賊は、未だ殺すな。

 盗賊の根城の状況を聞く必要があるからな。

 根城を潰す予定だが、潰せなきゃまた襲われるぞ」

 

「殺してやりたいけど、解ったわ。

 私達で見張って置く」

 

大雅は、歩いてフィオナの元に戻った。

ライフルの回収も忘れない。

 

「タイガっ、無事?」

 

「ああ、村は片付いた。

 村人も戻って良いぞ」

 あと、フィオナが助けた知り合いは居たか?」

「ここの人たちには、居なかったわ」

 

「そうか、村には6人の娘たちが居た。

 それ以外は、気の毒だが、皆、殺されていたよ」

「そう・・・残念だわ」

 

大雅たちは村へと戻っていく。

突然フィオナが走り出した。

「リエンナ! 無事だった!」

「ええ、其処の人が助けてくれたの、なんか助けられてばっかりね、私」

 

「彼女が知り合いか?」

「ええ、リエンナよ。

 彼はタイガ、異国のウイッチャー」

「ありがとうございます助けて頂いて」

 

「ま、助かってよかった。

 だが、どうして6人だけ捉えられていた?」

 

「私たちを捉え根城に連れて行くって。

 多分、慰み者や奴隷にするためでしょう」

 

助かった村人は、結局21人、子供が5人、男が6人、後はその家族だ。

殺された村人は、18人に上った。

 

「タイガ、私許せないわ、こんなのってあんまり」

「まあな、全部は救えなかったが盗賊共をこのままにはしておけないのは確かだ。

 だが焦るな。

 確実に潰すには手間を惜しむな」

「解ってる。

 タイガ」

 

それから、翌朝には村人は荼毘に付され、盗賊共の死体も燃やされた。

村は、当然だが沈んだ空気が、蔓延している。

 

ここを使ってくれと、提供された家で大雅は、銃の整備と、消費した弾薬を取り寄せた。

 

「ね、大雅、何時に成ったら根城を潰しに行くの?」

「明日だな、まずは、状況を調べる。

 次に、捉えられている者の状況を確認、夜に一人づつ、敵を殺していく。

 明日は、山を登るから、体力を温存していてくれ」

 

「解ってるわ、いきなり攻めても二人だけじゃ勝てないって事も」

「その通り、まあ、以前にもこんな戦いは、何度もこなしてるから、安心しろ。

 なに、敵に銃が無いだけ、楽なもんだ」

 

「ね、私も銃で戦えない?」

「無理だな、50m先の的にも当たらんだろう。

 訓練無しじゃな。

 銃は強力だが、訓練無しで使える物じゃない。

 それに、これらの銃はちょっとした細工がしてあって、俺以外は撃てないようになっている。

 敵を半分ほどに減らしたら、突入するから、その時は、俺の後方を守ってくれ」

 

「わかったわ、でも少しは暴れさせて」

「構わんぞ、ただ、指示には従ってくれ。

 特に、俺と敵の間には絶対に立つな」

「ええ」

 

「で、捕らえた盗賊は、どうするの?」

「今夜、尋問する予定。

 村人のストレス発散に、最後は提供するけどな」

 

「ほら、お前さんのヘルメットだ。

 被り方を覚えろ、少なくとも矢とかは防げる。

 あと、剣やナイフが掠ったとしても安心だ」

大雅は、自分が使って居る物とおなじ、ヘルメットを渡した。

銃器に対する防御力は低いが、この世界では有数な防御力となる。

 

「けっこう、軽いのね」

「あと、これがインカム。

 耳につけて、話ができる。

 大声で、話さなくともな。

 明日使うから、使い方を覚えてくれ。

 小さな声でもちゃんと聞こえるから、大声は出さなくてもいい」

 

村人は、大雅の尋問を聞くために集まっていた。

結局、襲って来たリーダーは何も話さない。

盗賊を引きずり、村人から見えない場所に移動した。

そして、中東に居た頃覚えた拷問で痛めつけていく。

とても人には見せられない残酷な手法だ。

結局は、情報を吐いた。

 

「こいつは、もう好きにして良いよ。

 縛り首でも、切り殺しても良いし、ただし、必ず息の根を止めてね。

 殺れない場合は、俺がやるから言って」

 

生き残った、村人は手に手に剣や、ナイフを持ち、向かっていった。

朝日を拝むことは、もうできないだろう。

 

 

得られた情報は、根城の総勢は58人、内、奴隷として使って居る女性が8人、捕らえた商人が男性二人、後は偉そうな貴族が1人。

うち、30人を大雅が屠っているから、盗賊は19人ほど。

この村に来る前に殺した3人を考えれば、残りは15人から17人だ。

盗賊の馬を確認させたら、やはり間違いはなかった。

 

「敵の残りは、15人からむ17人だな。

 このぐらいの数なら、突入でも問題ないだろうが、矢を持つ者が厄介だ。

 それを、排除したら、突入しよう」

「わかったわ」

 

翌朝、盗賊を縄で引き連れ、大雅とフィオナは根城へと向かった。

 

馬を降り、尾根を登る。

「ほれ、見て見な」

そう言って、大雅は双眼鏡をフィオナに渡した。

 

「あー、居るわねぇ。

 待ってなさい、ずたずたに切り裂いてやる」

 

「先ずは、塔の見張りを、夜になったら殺そう。

 嵐でも来てくれたら、都合が良いんだがそうはいきそうにない。

 あとは見えている敵を適宜排除。

 そしたら尾根を降りて正面から突入だ」

 

根城との距離は300~400m、大雅の腕とM24SWSライフルなら、スポッターが居なくとも、問題無く排除できる距離だ。

 

「今からじゃダメなの?」

「それでも良いけど、1人は出入口を固めないと、逃げる奴が出て来る。

 こちらの戦力が半減するうえ、逃げられたら、面倒でしょ。

 それに、捕らえられている人が、人質に使われる可能性も有る。

 だから、最後に人質は救出、最後は全部焼き払って終了。

 多分綺麗だよぉ夜空に赤々と燃える根城、見たくない?」

 

「いいわね、きまり・・あ、私の剣!」

「あー、なんか頭目っぽいねー殺っても良いけど楽しみは後にしよう」

「わかったわ、貴方って結構怖いわね」

「そうかな、俺の国じゃこれでも結構優しくって温厚な方だけど」

「怖い国だわ」

 

 

夜になり、大雅は交代直後の見張り要因を次々と、倒していく。

「これで、残り11そろそろ行こうか」

「待ってました!」

 

大雅はライフルをソフトケースに仕舞い、フィオナを伴って、尾根を降りて行った。

出入口には、禿げ頭の大柄な男二人が居た。

 

「フィオナ、右を殺れ、俺は左だ」

「任せて」

 

「よう、ご苦労さん。

 死んどけ」

バンッ

AKMSから発射された弾丸は、禿げ頭をザクロに変えた。

 

フィオナは、得意の短距離瞬間移動で、瞬時に切り殺した。

腕と胸を切り裂かれでは、長くは持たないだろう。

しかし、大雅はAKMSで頭を撃ち、トドメを刺す。

 

”おいおい、ズゲー隠し球、持ってるじゃん、この娘”

 

「ほっといても、死ぬわよ」

「俺んとこじゃ、訓練で確実に死んでるのを確認するか、トドメを刺さないと排除って言わないの。

 死に物狂いの相手って予想外のタフさでさ。

 これ撃ち込まれても急所以外にあたると反撃されるんだよ。

 ちゃんとそう言う記録が山ほどあるんだ。

 だから、確実に仕留めるのか《排除》」

 

「確かに、そうね。

 解ったわ」

 

銃声を聞いて、わらわらと盗賊共が湧いてきた。

「フィオナ、後は、任せた。

 やばくなったら、声かけてくれ。

 ケガだけは、するなよ。俺は弓と石弓を警戒する」

「ええ、任せなさいって!」

 

大雅は、フィオナの背後から、砦のような形状に注意し、弓を警戒していた。

フィオナは、先ほどの瞬間移動を駆使し、次々と盗賊を屠っていく。

見ていると、倒した後も胸に剣を突き刺し、トドメを刺している。

 

「残り、6だ、フィオナ」

『解ったわ、でも奥に籠城しているみたいよ』

 

「了解、ちょっと待っててくれすぐに行く」

大雅は、対人地雷を1m置きに、3重に埋設し、ワイヤーのトラップも仕掛ける。

これで、この唯一の門からは、誰も出られない。

出ようとすれば、トラップに掛かり爆死待ったなしだ。

 

「お待たせ、門に爆弾仕掛けたから、解除するまで、捕虜には門を出ないように言ってくれ」

「オケー」

「フィオナ、それを言うならもオッケーだ」

「オッケー」

「そう、それで良い。

 フィオナは右から、俺は左から二階部分に入っていく。

 タイミングを計って、同時にだ」

 

両側から急襲を受けたため、玉座とも言えない粗末だが大きめの椅子の所に敵は固まっていた。

 

5人の屈強なフルプレートの鎧を着た男たちとガタイの良い頭目だ。

 

「さあて、人間モドキ共、お仕置きの時間だ。

 お祈りの時間は済んだか、泣き喚いてションベン垂れる覚悟は良いか」

「タイガ、下品よ」

「そうか? じゃ「おくたばり下さいませ」とでも言うか」

 

「ふざけるな!

 おい、お前たち、切り刻め!」

 

「ね、フィオナ。

 この世界って、バカばっかりなの?」

「ええ、ついでにロクデナシでも有るわ」

 

「イケそう?」

「鎧相手は、ちょっときついわね、私の剣ならイケるんだけど」

「敵が動けなければイケる?」

「ええ」

大雅は、5人の鎧を着た男たちの片膝を撃って行く。

 

曲がりなりにも高速弾しかもAKMSの弾は鉄心が入っている。

本来は、鉛の量を節約するための構造だが、弾頭の軟鉄弾芯は3ミリの鉄板も打ち抜く。

薄っぺらで大雅から見れば、低品質なプレートアーマーなんて着てないのと同じだ。

 

「ほれ、後は任せた」

フィオナの体が、舞うように動く。

真面に動けないプレートアーマーを着た敵など物の数ではない。

あっと言う間に、頭目だけとなった。

 

「がぁぁぁっ!」

大声と共に、頭目はフィオナに切りかかる。

次の瞬間には、フィオナは頭目の後ろに現れ鎧ごと胸を貫いた。

 

その間、大雅は5人の鎧を着た男たちの頭を1発づつ撃ってトドメを刺していく。

 

「くたばりなさい!」

フィオナの剣は、倒れた頭目の首に深々と刺さった。

 

”あー、ありゃ、俺でも避けるのは難儀だなぁ”

 

そしてその首に何度も剣を打ち込んで行く、最後には首が落ちた。

 

 

 

「はい、お疲れさん」

フィオナはまだ肩で息を弾ませて居た。

 

「疲れるのよね、これやると、はぁ、はぁ」

 

「さて、俺は見回って、捕らえられた人を開放してくるわ。

 フィオナも、動けるなら、説明と開放を宜しく。

 とりあえず、門の前に集めて置いて」

「大丈夫よ、まだ動けるわ」

 

大雅は、高額で処分できる宝石類だけを回収した後、牢に入っている者たちを助けに向かった。

 

「あれ? ドミニク?」

「タイガ! タイガだよね!

 ああっ! 助かったあ!」

 

「なに? 捕まってたの?」

「そうなんだ、スケベ心出して、近道しようとしたら、アトレの帰り道で、捕まったんだよ」

 

「じゃ、手かして」

「それは構わないけど、敵は?」

 

「一人もいないよ、全部殺した。

 捉えられてる人や、奴隷として部屋に繋がれている人を開放したら、門の前に集めてくれる?

 あと、解放した人たちと、お宝回収宜しく。

 あと、絶対に門には近づかない事、最低、10メートルは離れてね。

 門には爆弾仕掛けてあるから、一瞬であの世行きだよぉ」

「解った、絶対門の外には出ないよ」

 

大雅は、さらに砦の中にある、金目の物を集めて行った。

有難いのは、宝石類が結構な量になった事だ。

軍資金に多すぎるという事は無いが、重量が嵩む金貨や銀貨は、そんなにありがたくない。

だから、捕らえられている人たちに還元しようと思った。

もちろん、フィオナも賛成してくれた。

 

「はい、みなさん、良く聞いてください。

 ここに盗賊の集めた金と、お宝があります。

 奪われた物は、返却しますので、正直に言ってください。

 欲をかいて嘘を言うと悪魔に呪われますからねぇ。

 それ以外で、この砦で欲しいものは持って言って構いませんが、自分たちで運んでください」

そう言って、ニヤリと笑った。

 

「あと、近隣の村から攫われた人は、こっちに集まってください。

 盗賊から、素敵なプレゼントが有ります。

 一人づつ金貨と銀貨が入った袋を持って行ってください。

 言わば盗賊からの慰謝料だと思ってください。

 金は自分で使うなり、村の復興に使うなりお好きに任せます」

 

大雅は、二人の商人の申告に基づき、奪われた物資、馬、金を返した。

もちろん、それだけでなく、金貨や銀貨を革袋に摘めて渡した。

 

 

「さて、貴方が最後だ。 

 見たところ、貴族のようだが何故ここに捕らわれてた?」

 

「私は、ヘンリー・ヴァル・アトレ。

 ニルフガードの子爵だ。

 私は、13年にも及び、ニルフガードの大使としてノヴィグラドに赴任していた。

 精力的に動き、調べ、ニルフガードに尽くしてきた。

 しかし、ポンター川での攻防も膠着、二度に置ける大敗その結果責任は私に押し付けられた。 

 結果、私はシントラの代官として封ぜられた。

 知らぬ土地では無いが、曰く付きの女王の土地は誰も統治はしたくない。

 過去のキャランセ女王は、臣民から亡国の女王と謳われ忌むべき存在となった。

 そのため、ニルフガードの統制も好意的に受け入れられた。

 もともとは、キャランセの王女であるパヴェッタ王女の夫が現ネルフガードの王、エムヒル・ヴァル・エムレイスだ。

 だが、私はあくまで敗戦の貴族に変わりはない、だからこうして、身をやつしシントラの代官として赴任した。

 だが、ついてみるとこの地方の統制は破壊しつくされ盗賊だけでなく地方の豪族が勝手に統治を始める始末、家族を呼び寄せる事も、とてもかなわぬ。

 だから、私はここで一大勢力を持つ、ここの盗賊団と交渉しようと少ない兵でやってきた。

 少ないと言っても、本来なら最低でも数百人なのだが戦争を行っている今は10人も動員できれば精々だ、多くが北方との戦争に駆り出されているからな。

 だが、結果は見ての通りだ。

 兵は殺され私は捕らえられた。

 代わりに、ここの頭目はシントラの自治権を要求する始末だ。

 これが今私が置かれている状況だ。

 なんとか、シントラの首都迄戻りたいが護衛を受けて頂けないだろうか。

 戻れたらできうる限りのことはする」

 

「なるほど、大体理解できました。

 ならば、シントラ迄の護衛は請け負いましょう、ただしこの事は誰にも内密に願います」

「構わぬ、もうほとほと国と政治の世界には愛想が尽きた。

 思えば、私をこの状況に追い込んだのは、中央から来た副官だ。

 あ奴を殺し私はノヴィグラドの家族を連れコヴィリにでも逃げつつましく生きる」

 

「まあ、人それぞれですが、上手くいくことをお祈りしますよ。

 あとは、その副官は、始末しておいた方が良いでしょうね。

 私は、いろいろな理由があり殺しのお手伝いは出来ませんが」

 

「わかった、それで構わない。

 手間をかけるが、宜しく頼む」

 

大雅は、門の爆発物を解除し、村人や商人たちを開放し、砦の至る所に、灯油を取り寄せ撒いていった。

砦が焼失すれば、再びここに根城を作ろうと思うものは居なくなるだろう。

 

「じゃ、楽しいファイヤーストームの時間です」

大雅はそう言うと、発火装置繋がるスイッチを押した。

爆発的な炎と共に、巨大な火の手が上がる。

 

「タイガ殿、フィオナ殿、感謝する」ヘンリーは二人に頭を下げた。

「別に、気にしなくていいわ、もともとこの根城は潰すつもりだったのよ」とフィオナはドヤ顔だ。

 

”まあ、殆どは俺が倒したんだけど、いいか。

 軍資金に不足は無いけど、実入りは良かったなぁ、やはり盗賊からかっぱくのが一番だな”

 

「どうしたのよ、ニヤニヤして」

「なに、盛大な焚火って、綺麗だなぁと思ってね」

 

 砦は、三方を岩山で囲まれているため、延焼の心配は無い、後は放っておいても、綺麗に焼失してくれる。

 

 

「さて、シントラへ戻りますか」

ヘンリー・ヴァル・アトレを伴って、道を引き返した。

 

「ちょっと、急ぎの旅じゃなかったの? タイガ

 アトレなら私が連れて行っても良いけど」

 

「まあ、話を聞くと気の毒じゃないか。

 どうせ、往復数日の程度だよ。

 懸命に働いてきたのに、ニルフガードの王は無理難題、といより単なる八つ当たりだよね。

 こりゃ、ニルフガードの皇帝も大したことないな。

 政治の世界から身を引きたいってのは身に抓まされてねぇ。

 もし、家族と一緒に北方の奥地で再起したいってなら、助けてあげたいって思ったからだよ。

 人なんて、精々ホントに守れるのは両腕に抱えられる程度のもんなんだ。

 あとは、静かに暮らしたいってなら応援したいって思うだろう?」

 

 

「なんか、タイガって優しいのか残酷なのか、良く解らないわ」

「複雑なんだよ、色々と。

 別に、その時正しいと思う事なら心のままに動けばいいんだ。

 それが出来るこの世界ってある意味、幸せだと思うよ」

「タイガの所では、そうでは無かったの?」

 

「残念ながらね。

 法律、しがらみ、風習、常識、色んなものが、それを邪魔する。

 無理を押し通せば、それは「悪」とされるんだ。

 無関係な人を、自分の我を通す為に、巻き込むテロリストなんか、そのいい例だよ。

 あいつらには、信念は有っても正義は無い。

 彼らが正義と呼んでいるのは、無関係な人たちから見たら、自分たちだけのエゴに過ぎないからね。

 話も通じないし正しく《人間モドキ》なんだよ、害獣と言ってもいい。

 でも、誰もが駆除できる物でもないんだ。

 捕まえて裁判して、法に従って裁く必要がある、犠牲が出てもね。

 面倒だし、そのコストも国民の金、でも、それが法治国家なんだよねぇ」

 

「複雑なのね」

「まあね、でも、ルールを守って生きるのには、楽な世界だよ。

 そう、羊のようにね。

 小さな幸せは手に入るけど、それさえぶち壊す戦争や紛争は、俺の国じゃ《悪》とされてるんだ」

「それも、なんだかすっきりしいけど羊の様な生き方なら小さな幸せは手に入るって事ね」

「そうだね、まあ、生きるために仕事はしないといけないけど」

 

 

 

3日後、一行はシントラの首都にたどり着いた。

帰り道は、平和な旅だった。

途中で、風呂に浸かりたいとフィオナが言い出したので、余計に1日多くかかったが、大雅も入りたかったので、文句も言わずヘンリーの手も借り、簡易ながらも浸かれる浴場を作る。

 

「感謝する、王侯貴族でもこんなところで風呂に浸かれるとは思うまい。

 いったい、何処の出なのだ?」

「ま、世界は広いって事で勘弁してください。

 ああ、コレで冷えたビールでも有れば最高なんですけどねぇ」

 

「ビールとは?」

「エールに似ていますがこちらのエールよりは数段旨いですよ。

 風呂上りにキンキンに冷えたビールなんか最高です」

「いつかは頂いてみたいものだ」

 

風呂上り、ヘンリー氏にもペットボトルの水を渡す。

「不思議な容器だ。

 ガラスでもないがガラスより透明だ。

 しかも割れんとは」

「俺んとこでは普通のもんなんですよ」

 

「タイガは異国のウイッチャーだもの、ここのウイッチャーより凄いのよ!」

「非人間族とは思えないが?」

「いや、普通の人間ですって。

 銃が有るからウイッチャーの様に人間を止める必要が無いんですよ。

 まあ、中には人間超える様なのも偶には居ますけど」

 

 

シントラについた一行は、代官が拠点としていたシントラ城へ着いた。

 

「だ、代官! 生きておられたのですか」

「ああ、君にとっては残念だろうがな。

 私を売った、借りを返しに来た」

そう言って、副官の首をいきなりはねた。

 

タイガは、事を見届けると旧シントラ王城を後にした。

後は、彼の人生だ。

以前はアトレの領主だったらしいが、業績を上げても所詮は外様大名な様扱いでつくづく嫌気がさしたらしい。

そして、明日には船でスケリッジを経由しまた船を乗り換え、ノヴィグラドを目指すという。

 

 

 

その城下の、宿では二部屋が何とか取れ、ゆっくりと過ごす。

 

『ね、タイガちょっと良いかしら』

タイガは、自分の部屋にフィオナを招き入れた。

 

「構わないが、どうした?」

「私、ヘンリー・ヴァル・アトレと一緒にノヴィグラドに行こうと思うの。

 そして、彼と彼女の家族をコヴィリまで送り届けたいのよ」

 

「ん、君が選んだ道ならそれで良いと思うよ」

「ありがと、ホントに身勝手だってのは私自身が良く解ってる。

 命まで助けて貰ったのに、何も返せてないわ。

 でも、彼の話を聞いていたら・・なんとなく実現させてあげたいって思うの」

 

「良いんじゃないかな。

 身に振る火の粉はフィオナなら自分で振り払えそうだし。

 ま、余程短慮な事や無茶をしなくて理性的に考えられれば問題は無いだろうしね。

 この人生は誰のものでもない君自身の物だ、けっして人に委ねる物でもないしこれからどう生きるか君自身が決めそして進むものだ。

 思うように、生きると良い」

 

「うん、わかった。

 ありがと、大好き!」

 

フィオナはタイガに抱き着き、ベットに押し倒した。

そして、激しくキスの雨を降らす。

 

「フィオナ?」

「抱いて!」

 

「いや、ホントにいきなりだね」

「出来れば、ずっとこうして居たい。

 ね、貴方の世界に連れて行って」

 

「・・・」

「ねえっ!」

 

「はい・・」

「どうなのよ!」

 

「フィオナ、以前言った通り俺はこの世界の人間じゃない。

 だが、自分にはしなければならない仕事がある。

 それは国からの命令でけっして安易に捨てて良い物でもない」

「ええ、解るわ」

 

「だから、俺はこの世界では安易に女性を抱かないと自分に課している」

「どうしてよ」

 

「先ずは、俺は普通の人間だ。

 交われば、子供ができる。

 俺の所での調査ではここにいる人間は俺の所の人間と変わりない。

 つまり普通に子供が出来る。

 ここまでは理解できるか?」

「ええ、ベットを共にすれば、出来るのは普通の事だわ」

 

「ならば、自分の子供がいるのにこの世界から出ていく父親をどう思う?

 生まれた子供は、どう思うだろう。

 仕事が終わったら俺は一度は帰らなきゃなならん。

 再び戻ってこれるかどうかは判らない。

 だすると子供は父親無しで育たねばならなくなる。

 俺としては我が子をそんな目には絶対にさせたくない。

 我が子なら手元で育てたい。

 だから君を抱きたいけど抱くことは出来ない」

 

「ね、ヴァル・アトレを送り届けたら私は戻って来るわ。

 その時まで時間を置きましょ。

 それでも変わって無ければ私を貴方の世界に連れて行って」

 

「わかった、ならトゥサンを訪れてくれ。

 そして、依頼板にこう出してくれ。

 『虎流派のウイッチャーへ、依頼。仕事有り』とな、それと待ち合わせ場所も書いておいてくれ」

「わかったわでも今夜は部屋に帰らないから。

 ちゃんとお風呂も使って綺麗よ?」

 

大雅はあきらめた。

戦闘の後と言うのは、性欲が激しくなる。

これは、根底に種の保存という人間の本能ともいえる。

 

人間は、戦いや紛争などの後は種を保存しようとする本能が過大に大きくなる。

日本が戦後にベビーブームが起こったのもこれが原因だ。

 

大雅は、恥を忍んで避妊具をスケリッジの一件以来取り寄せていた。

彼女が、納得してくれるのなら抱いても良いと思ったというか抱きたい。

 

「ね、大きくなってるじゃない、ダ・イ・テ」

「撫でるなよ、我慢できなくなる」

「我慢しなくて良いの」

 

 

 

 

朝だ。

カーテンの隙間から、強烈な朝日のビームを受け、目が覚めた。

ベットの隣には、顔に大きな傷のある美女が、あられもない姿、つまり全裸で眠っている。

シーツには血を含むシミの跡、大雅はボーっと彼女を眺めた。

 

”下の毛も、銀髪なんだ・・”

 

「やっちまったなあ・・・どうしよ・・」

「ん・・・」

 

フィオナが起きない様、細心の注意を払い、そっとベットから出る。

床に落ちてる、ボクサーショーツを持ち、風呂へと向かった。

昨晩、大雅が使った風呂だが朝にも入ろうと燃料電池の加温機が動いたままだ。

全裸のままゆっくりと漬かった。

 

暫く、ボーッとしていると、起きて来たフィオナがやってきた。

 

「んもう、タイガったらここに居たのね」

「起きたのか」

「私も入ろうっと、ひゃおぅっ!」

 

フィオナは、全裸のままバスに入って来る。

 

「ね」

「んっ?」

「愛してる?」

 

「まあ、気が強くて乱暴だが人情に厚くて綺麗で可愛い。

 うん、人にのろけてやりたいぐらいに好きかな」

 

「えへへ~」

フィオナが大雅の首に抱き着いてきた。

 

「ちょ、首締まってる!

 ぐへっ・・きついってば!」

 

単なる、バカップルである。

 

 

 

「ね、出来るだけ早く帰って来るわ大雅は何時くらいまでトゥサンに居るの?」

「んー、トゥサンまでは、ここから半月ってとこか。

 まあ、色々と調べなきゃならないことも有るから、暫くはトゥサンに居るだろうな。

 ま、それからがまた時間かかりそうなんだが」

 

「なら、戻ってくるまでトゥサンに居て。

 依頼板に必ず出すから多分3か月くらいでトゥサンに行けると思うわ」

 

「でも、なんで俺の世界に行く気になったんだ?」

「次に会ってから話すわ。

 でも、一度はタイガの世界に行ってみたいって言うのかな。

 未来の世界を見て見たいの」

 

「んー、確かにテクノロジーは此処より進んでるけど人間なんてそんなに変わらないぞ。

 それに、俺の所に戻るのはある程度目的が達成で来てからだ。

 多分1年半かもう少し先になる」

 

「それでも良いのよ。

 本当は、この世界が平和になればって思うけど、人を利用してやろうって思う奴しかいないもの。

 偉くなればなるほどそんなやつばかりよ、いい加減に愛想が尽きたわ」

 

 

翌日、俺はトゥサンへ、フィオナはヘンリー・ヴァル・アトレと共に、ノヴィグラドへと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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