Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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マルナダル・ステア渓谷越え

 

 

 

大雅は、3日かけて再びマルダナル・ステア渓谷に入る手前の、サヴューの村へと戻ってきた。

ここは少し前に、大規模な盗賊の略奪と殺戮で、廃村になりかけた村だ。

もちろん、廃村になるか否かは、これからの村人の頑張りに掛かっているが、峠を越えて来る商人や旅人が既に見られた。

まだ、あの惨劇から1週間ほどしか経っていないのに、この世界の人は生命力が地球とは異なる事を思い知らされる。

 

 

「あ、ウィチャーさんだ!」

普通、ウィッチャーは、忌み嫌われることが多い。

何故なら、金に汚く、自分が襲われない限りは、金にならない事には手を出さない。

その風潮が長年続いたせいで、この世界のウイッチャーに対する評価は《有用だが、忌むべき生き物》としての評価を浴びている。

 

長い寿命、特徴的な目を持ち、社会の需要によって生まれて来たのに、それを利用しながらも毛嫌いする。

何処の世界も、代り映えしない身勝手さと、己とは異なる物を排除しようとする性質は、変わりないのだなと思った。

 

 

「よう、変わりないか」

「ええ、おかげで、平和なもんよ。

 墓の数は増えちゃったけど、これからずっと立ち寄るお客が増えれば、なんとか生きて行けるわ」

「そうか、それはなによりだ」

 

「もうすぐ、日が暮れるし、今日は此処に泊っていけるでしょう?

 宿代わりに、ウチ使ってよ、安くしとくからさあ」

なかなかに、逞しい。

 

 

「いや、先を急ぎたいのでな、有難いが、ここには様子見に立ち寄っただけだ」

「そうかい、残念だけど、気が変わったら声をかけて頂戴」

 

「ん、達者でな」

 

なにか嫌な予感がした大雅は、サヴューの村を通り過ぎ、マルダナル・ステア渓谷へとナジャムを向けた。

渓谷とは言っても、けっして緩やかなものではなく、つづら折りの様に険しい岩や谷を迂回していくルートだ。

 

馬車が通るためには、直線距離の何倍もの距離を行かねばならない。

地球の様にトンネルで無理やり繋げる力技などというモノは無い。

 

山の天気は変わりやすいと相場は決まっている。

案の定、風が吹きはじめ、ポツポツと雨が降り出す。

 

 

「む、低気圧か?」

タクティカルグラスに気圧の情報を出す。

確実に、朝より気圧は低下し始めている。

このまま峠を越えるのは、危険だ。

 

仕方なく、大雅は雨具のポンチョを被り、ナジャムを歩かせた。

馬にとっても荒天は決して楽な移動では無い。

体は冷えるし、これから先は峠にはいり、さらに気温低下と険しさは増す。

 

暫く行くと、洞窟が見えてきた。

天候が悪化する前に、ビバークを兼ねた休息を取った方が良いと決断した。

 

 

天然の洞窟には、野生動物だけでなく、もちろん人も居ることが多いが、この世界の場合、高確率で怪物が巣くっている場合も有る。

 

中には何かが蠢く気配がした。

AKMSを取り出し、1発のVOG-25M榴弾をグレポンに押し込む。

大型獣の場合、AKMSの7.62mm弾頭なぞ、いくら体幹に打ち込んでも止めることは出来ない。

ナジャムを入口に待機させて、奥へと進む。

 

中には1匹の岩トロールが居た。

彼らは、本来暗い所を好む、それは太陽の光が苦手である事は言うまでも無いが、好天の場合動物たちの行動が活発になり、あまり動きの速くない彼らにとっては、獲物が少なくなることを意味する。

 

彼らの狩は、獲物が通る道でじっと蹲り、岩に擬態する。

そして、不用意に近づいたウサギや鹿を捕獲する方法だ。

 

そして、誰が教えたのか、彼らは煮炊きを行うようになった。

知能の高いチンパンジーやゴリラでさえ煮炊きはしない。

しかし、火を通した食物は消化が良く、栄養価が高くなることを本能的に知り、彼らは人間と同じように獲物を煮炊きし食事を摂る事が多くなった。

そう言う意味では、人間に最も近い非人間族と言える。

大雅にとってエルフもドワーフも人間と言える。

会話中枢を持ち、コミニュケーションが取れる事は、人間との共同生活が可能であることを意味する。

 

 

「ニンゲン、ヨクキタ。

 ヒ、タイテナイ、ナゼキタ」

 

岩トロールが、歯をむき出して言う。

此方にとっては怒りの混じった威嚇にしか見えない。

 

転移前の説明では、意思疎通ができる個体も居ると聞いた。

この岩トロールは、その一匹なのだろう。

 

深呼吸をして、できるだけ脅かさない様ゆっくり話しかけた。

 

「外の嵐を避けて、ここへ入った。

 もし、邪魔ならすぐ出て行く」

 

「カマワナイ、クイモノ、アル。

 クイモノ、クウ、ネル。

 カワリニ、ムギ、オイテイケ」

 

ん? 食べ物を提供する代わりに麦を要求しているのか?

 

 

「麦は無いが、代わりになる物はあるぞ」

「ムギ、ホシイ。

 スコシマエ、シタカラ、ニンゲン、コナイ」

 

人間と何らかの取引か、購買をしているのだろうか?

 

「麦は無いが、もっとうまい穀物ならある、それでどうだ」

「ムギヨリ、ウマイ。

 ゴロンゴ、クッタコトナイ」

 

「ならば、食わせてやる。

 だから、この洞窟に明日迄いても良いか

「ムギヨリ、ウマイナラ、イイ」

 

交渉の成立だ。

 

 

「では、火を借りるぞ」

奥には、ちょっとした竈が有った、

石を積み上げた簡素なものだが、鍋には湯が沸いていた。

 

怪物にカテゴライズされるこの生物が、鍋を所有していることに驚いた。

 

 

大雅は、鍋のお湯を見て、バックパックから米を取り出し、10袋程入れていく。

そして、近くにあった、薪を追加した。

 

大きな鍋なので、一升ほど入れたが、問題無いだろう。

ぐつぐつと煮えだしたころ、塩を入れ、火を少し弱めにする。

後は、このまま30分ほど煮れば、焚かなくとも粥が出来る。

 

ゴロンゴを見ると、涎で岩の床には涎の水たまりが出来ている。

 

「もう少し、煮れば粥は出来る。

 麦よりははるかに旨いから、楽しみにしろ」

「ゴロンゴ、マツ。

 デモ、ハラヘッタ。

 ナンニチモ、タベル、ナイ」

 

「ああ、俺も腹が減ってきた。。

 麦は、もうなくなったのか?」

 

「ムギ、モウナイ。

 ミズ、ニテモ、ハラ、イッパイナラナイ」

 

 

「魚は食った事が有るか。

 河で採れる魚だ」

 

「クッタ、イチドダケ。

 ムギ、バイ、クッタ。

 スゴクシアワセ」

 

「じゃあ、魚も焼こう。

 粥には最高の組み合わせだ」

 

「ハヤク、クイタイ」

大雅は、塩漬けのトラウトを、人差し指程の厚さに切り取り、火で焼けている竈の石の部分に油を塗って、置いた。

粥が煮えるころには、丁度良く焼けるだろう。

 

 

「ムオオオオッ、イイ、ニオイ。

 ゴロンゴ、タマラナイ」

 

「むもう少し待て、粥と塩鮭、最高の組み合わせだ。

 器は有るのか?」

 

「ゴロンゴ、モッテル

 タビビト、メシクワス、

 サイゴニ、タビビトニダケ、コノ、クスリ、イレル」

 

「それはなんだ?」

「シタノニンゲン、ネムッタ、タヒビト、ツレテイク

 ソノタメノ、クスリ」

 

大雅は、なるほどと思った。

どうやら、ここの岩トロールは、麦で餌付けされ、旅人を眠らせては下の盗賊に引き渡しているらしい。

 

「なるほど、旅人はその後、どうなる」

 

「タビビト、ネル。

 ゴロンゴ、ソトデ、ナマノ、キ、モヤス。

 シタカラ、ニンゲン、ムギ、モッテヤッテクル

 タビビト、モッテイク、ゴロンゴ、ムギ、モラウ」

 

「下の人間は、悪い人間だった。

 人をお捕まえ、売ったり殺していたんだ。

 だが、もういない、一人もいない。

 居るのは、いい人間だけだ。

 今後は、この薬を飲ませずに、泊めて金を貰うんだ。

 その金で、下の村で麦を買うと良い」

 

「ムズカシイ、ハナシ、ゴロンゴ、ワカラナイ」

 

心なしか、シュンとしている。

 

「いいか、旅人をここに泊める」

「ウン」

 

「その代わり、金を貰う」

「ウン」

 

「その金で、下の村で麦を買う」

「・・・ワカッタ、ソシタラ、ゴロンゴ、ムギ、クエルカ」

 

「そうだ、これを商売と言う。

 人を泊め、お金を貰い、その金で下の村で麦を買う」

「ワカッタ!」

 

「デモ、カネ、ドレダケ、モラウ」

「そうだな、泊るだけなら、30フロレンスがいいだう。

 金は、これだ。

 今日の分はおいていくから、これと同じだけ貰うんだ。

 あと、食べ物を出したら、10フロレンス、多く貰え」

 

「コレガ、カネ?」

「そうだ、この銀貨一枚が10フロレンスだ。

 三枚で、1人30フロレンス。

 一日泊ったら、コレだけ貰うんだ。

 一人づつ、貰うんだ。

 次の日も泊るなら、もう30フロレンス、つまり、倍になる

 

「ムギ、タヒビト、クウ、アト、コレ、イチマイ、オオクモラウ?」

「そうだ、お前頭がいいな。

 正解だ、食事は別料金だ」

 

「コレデ、ムギ、カエル」

「そうだな、多分、これ5枚で、一袋の麦が買える。

 麦は草から外してあるから、一抱え分の麦より多い筈だ。

 藁も欲しかったら、丸ごと買うか、別で買う。

 今まで、貰ってた麦はどんなのだ?」

 

岩トロールのゴロンゴは、洞窟の片隅を指さした。

其処には、大きな木箱に燕麦が、藁のまま実がついて置かれている。

 

「モラッタ、ムギ、ミ、ハズシテ、ボウ、タタク。

 ゴソゴソスル、カラ、トレタラ、コノナベデ、ニル。

 クキ、ゴロンゴ、ノ、ネドコ」

「なるほど、下の村で麦を買う麦は、もっとうまい麦だ。

 これは、燕麦と言って、馬に食わせる麦だからな」

 

「ウマノ、エサ?」

「そうだ、大麦や小麦はもっとうまい。

 これを食うのは、馬や牛だけだ」

 

そんな事を話しているうちに、米は煮え、粥になった。

火を遠ざけ、塩を加えてかきまぜる。

 

少し冷めた上の部分を集め、ゴロンゴの持って来た器に盛った。

「熱いから、ゆっくり食べろ」

 

ゴロンゴは、木の大きな匙で、一口食べた。

そして、そのまま、無言で固まった。

 

「あれ、旨くなかったか?」

「ウマイ! ウマイ! ウマイ! ウマイ! ウマイ!」

大声で、叫び出した。

そして、再び食べてはウマイ!ウマイ!を繰り返す。

 

この岩トロールも、ある意味盗賊に利用された被害者だ、人では無いが。

 

少し落ち着くと、凄い勢いで食べていく。

「さ、魚が焼けたぞ、一緒に食ってみろ、もっとうまいぞ」

焼き上がった鮭を解し、ゴロンゴの器に入れてやる。

 

大きな口に、粥と解した鮭が入る。

再び、ゴロンゴは固まるが、目を閉じて口を動かしている。

 

「ゴロンゴ、ウレシイ。

 ゴロンゴ、シアワセ」

 

「むそうか、良かったな。

 粥は、まだある、ゆっくり食べろ」

 

「オマエモ、クウ

 ゴロンゴ、シアワセ」

「ああ、俺も、貰おう。

 あと、あの燕麦を少し分けて貰って良いか、馬にやりたい」

 

「トッテイイ、スキナダケ、トル」

ナジャムは恨めしそうにこちらを視たていたが、呼ぶとゆっくりやってきた。

一抱え程の燕麦を取ると、片隅に転がっていた桶に水を張りナジャムに与えた。

 

大雅も、鍋から粥を取り、鮭を乗せる。

「うん、旨い」

「コレ、ウマスギ。

 シタノ、ムラ、カエル」

 

「残念ながら、これは売ってないな。

 だから、少し、おいていくよ。

 その間に、旅人を泊めて、金を稼げ。

 そして、麦や肉、魚を買って生きると良い」

 

古古米ならば10キロ3000円もしない。

それでいて、少なくとも麦粥よりは旨い筈だ。

 

 

「ワカッタ、ゴロンゴ、ニンゲン、トメテ、カネ、モラウ。

 シタノ、ムラ、ムギ、カウ」

 

「そうだ、それを繰り返すんだ。

 そうすれば、生きて行ける」

 

ゴロンゴも粥に満足したようだが、まだ、鍋の方を見ている。

「明日の朝、少し水を足して、温めれば食えるぞ」

「ゴロンゴ、シアワセ」

「なに、構わん」

 

 

大雅は、少しこの気の毒な岩トロールが気にかかった。

だから、片隅に落ちていた木の板に「岩トロールの宿、ゴロンゴ」と書いてやり、洞窟の入口に立てて置く様に教える。

また、もう一枚の木の板には

「一泊、素泊まり30フロレンス

    夕食付40フロレンス

    食事のみ、粥10フロレンス」

と書いた。

 

「ニンゲン、ナマエ、オシエル」

「ん? 俺のか? 大雅」

岩トロールは、コクコクと頷く。

暗闇から出てきたら、小便ちびりそうなほどの顔だが、慣れれば、ちゃんと口は閉じてるし、歯は剥き出しじゃない。

 

とたん、恐ろしい形相に変わる。

ゴロンゴが歯をむき出して、笑っているのだろうが、大雅にとっては恐ろしい形相で睨まれているのと変わらない。

 

”アップで見ると、余計、怖ええっ!”

 

 

「タイガ、イイ、ニンゲン。

 いろいろ、オシエタ

 ゴロンゴ、オマエ、スキ

 ツガイ、ナル」

 

「いやいやいや、俺は人間だし、岩トロールとは番になれないよ」

 

「ツガイ、ナレル、オレ、メス」

「はあっ? なにメスだったの?」

「オマエノ、コ、ウム」

「無理、生まれないよ。

 どれだけ交わっても、勘弁してくれよぉ。

 まさかの岩トロールかよぉ」

 

 

岩トロールの生殖形態は知らないが、大雅は身の危険性を感じた。

メスゴリラを相手にするような物だ。

人間の骨など、プレッツェルの様にポキポキと折られてしまうだろう。

 

「デキナイ、コ、デキナイ」

「そうだ、雄の岩トロールを探して、番になれ。

 そしたら子も産まれるだろうさ。

 俺では絶対に生まれない」

 

「ゴロンゴ、カナシイ」

 

会話が成り立つという事は、言語をつかさどる、言語中枢を持っているに他ならない。

大雅にとっては、盗賊よりもよっぼと、人間らしく思えた。

実際、チンパンジーなどは、人の言葉は理解するし、言葉は話せないがコミニュケーションを取ることが可能だ。

 

だが、まさか岩トロールから求婚されるとは思わなかったが、実際一部のイルカや類人猿は、人間に欲情する事が知られている。

天候が回復次第、大雅は速攻でここを出ようと思った。

大雅だけなら、とっくにこの洞窟を出ているが、この嵐ではナジャムが気の毒だ。

 

幸いなことに、たらふく食ったゴロンゴは、横になり鼾を掻き始めた。

開いた口から牙が見え、涎まで流れている。

 

「貴重な経験だが、勘弁だな」

大雅は、今後トロールには近づかないと、決めた。

 

 

 

翌朝、天気は回復し、綺麗に晴れた。

米は1トンほど、塩は60キロほど用意して渡した。

煮炊きの手順も教えたが、意外に覚えが良いのには驚いた。

それ以外には軽量カップや計量スプーンも残り少ないが塩漬けのトラウトを半分ほど置いてきた。

流石に字が読めないので、口頭で、粥の炊き方や、魚の焼き方を教えた。

 

「じゃあ、ゴロンゴ、達者でな」

「イツデモ、クル。

 カユタベル、ゴロンゴ、シアワセ」

 

 

何となく見送るトロールの表情が、悲しそうに見える。

 

「地球には絶対秘密だなこんな事、イイ笑いものにされる」

 

既に、標高は1000mを越えている、なのに道はまだ半分ほどだ。

今日中に、峠だけは超えたい。

 

 

 

そんなところに、決まって邪魔しに来るのがハーピーだ。

ほっこりしている所に、無粋な奴だ。

 

子供程度の大きさだが、結構器用に飛び回るため。弓などでは落とす事自体困難となる。

だが、銃の敵ではない。

向かってきたところを、BB番一発で面白い様に落ちて行く。

 

日本で一般的では無いが、BBと言う散弾実包の規格がある。

シェルの中に、4.5mmの弾が60粒ほど入った実包で、中型獣まで対応できる。

昔は鉛玉だったが現在では環境影響を考え軟鉄の材質に変わっている。

 

落ちたら、頭部に向けてもう一発、これで勝負がつく。

巣もどこかに有るのだろうが、峠越えをしているのにそんな暇はない。

ライフルの様に狙いを厳密に撮らなくとも当たるし、なにより弾薬コストが安い。

 

 

ギェィャーッ

 

「つぎつぎと、全く・・」

この声は、飛竜種の声だ。

大抵、小山の上や、高い所に巣をつくる。

羽を広げると、7m以上の大きさだが、胴体は精々大型の馬程度だ。

 

「フォークテイルか?」

まるで羽の生えた、巨大なトカゲにしか見えない。

大雅は、サドルの後ろからサボットスラッグ弾を取り出した。

距離は、100mほど、特注のハーフライフルを刻んだM870MCSの18インチから打ち出される一発玉、つくのスラッグ弾はそれなりの威力は持っているが、貫通力は無い。

まして、100mとなるとそれなりに減衰も激しいし、ライフルと異なり精度もそれなりだ。

18インチの銃身では、一般的なフルサイズの銃身長よりはfpsは低下するが、それでも音速は超えてくる。

 

だが、飛び方を見ていて大雅は考え方を変えた。

ここは、M870MCSを無理に使うよりも、ライフルの方が確実性が有ると、判断したからだ。

岩の陰に隠れ様子を伺うと、どうやら、何かを狙っているようで、50m程度の円を描いて回っている。

大雅は、M24SWSでも十分と、判断した。

M24SWSはレミントン社のライフルたが、使用する弾は8.58x71mmという俗にラプアマグナム弾と呼ばれる、対人用弾としては最も強力な物だ。

実は、この強力なライフルと弾は、日本国内でも普通に流通している。

 

大型獣の駆除などで、散弾銃の所有者が10年以上経ってからライフルの所持許可が出るのだが、その多くは北海道に在籍している。

 

ライフルと言うと、長物と取られがちだが、散弾銃より全長が短く、可搬性も良い。

自衛隊でも正式採用されているライフルだ。

この銃で、撃つと弾速は優にマッハ2.4を超えてくる。

100m先を撃って、0.12秒で弾着する。

 

 

大雅は、デイパックを下ろすと、サポートとして使用する為、岩に置いて銃身を担架する。

バイポットを持たない銃は、ニーリングで撃つ射撃姿勢より、余裕と環境が許すのなら、この方が精度が上がる。

338ラプアマグナムは1200mまでは音速以上のスピードを保つ。

弾頭は超音速から亜音速に移行すると不安定になり命中率が低下する。

昔、超音速機の開発の時、音速付近で期待が不安定となり、事故が多発した。

この原因も、音速と超音速の境の遷音速という特殊な条件下が原因だ。

銃弾も同じで、超音速から音速に低下する時、不安定となり命中率が低下する。

 

精度を維持するためには、ターゲットに命中するまで超音速を維持する必要があり、.338ラプアマグナムは1200mまで高い命中率を維持しやすい。

 

預託したライフルのスコープを除きながら、円を描く様に飛んでいるフォークテイルの頭部を捉えた途端、トリガーを落とした。。

瞬時にフォークテイルの、頭の半分が吹き飛び、下へと落ちて行く。

 

フォーテイルの様な大型獣を相手にするには、威力は有った方が良い。

もちろん、数発で倒せない場合には、奥の手のFRAG-12という榴弾を使う手も有る。

ただ、この玉はコストが非常に高く、下手するとグレポンを使った方が安くなるという問題も有った。

 

大雅はM24SWSを置くと、背にあるM870MCSを取り、フォークテイルの落ちた場所に向かって走った。

手負いの大型獣は、危険であると当時に動きの予測ができない。

 

フォークテイルは、何本かの太い枝を折りながら、岩場に落ち息絶えている。

「意外に柔らかいんだな」

至近距離ならスラッグ弾でも行けただろうが、こんな大型獣に至近距離まで近づきたくない、というのが本音だ。

 

近くには山側の岩場に寄せる様にして、1台の幌付きの荷車が置かれていた。

 

「誰かいるかぁ、無事かぁ」

 

「あんたが倒してくれたのか、いや、助かったよ」

二人の男が荷車の下から出てきた。

1人は40程の男と、もう一人は20にもならない若い男だ。

 

「まさか、フォークテイルが居るとは思わなかったよ。

 盗賊相手にしなきゃならんのに、フォークテイルまで相手にするなんて、叶わんからな」

 

「盗賊って、麓に出る盗賊の事か?」

「無論だ、1人500も取られただけじゃなく、荷物の半分を持って行かれる、だから・・ああっ!

 う、馬が! 二頭もやられてる!」

 

荷車は、重い物を運んでいるのか、4頭立てだった。

「随分と、重い物でも運んでいるのか?」

「ワインだよ、トゥサンのな。

 あそこのワインは二等級のものでも北方へ持って行けば、高級酒になるって寸法さ。

 峠を越えたら、下に降りる前に夜明けまで待つんだ。

 そして、一気に坂を降りて行く、それで盗賊を躱そうって算段だよ。

 帰り道も、その手で逃げられるから、何とかなってる」

 

「そうか、だが下の盗賊は殲滅したから、もういないぞ」

 

「またまたぁ、大規模な盗賊団だって聞いてるぞ」

「確かに、50人以上いたが、全て殲滅した。

 もう、一人も残っていないだろう。

 この先、サヴューの村までは盗賊は居ないよ」

 

「本当なら、助かるんだが」

「ま、信じられないだろうがな。

 それなら、峠を降りる手前の岩山の洞窟に、岩トロールが宿を開いている。

 設備は無いが、夜露は凌げる、頼めば飯も出て来るかもしれん。

 岩トロールの宿ゴロンゴという所だ」

 

「はあっ?

 岩トロールが?

 宿を?

 信じられん、確かに岩トロールは、中には温厚なものもいるらしいし、壁画を描いて金を貰う岩トロールも居ると聞く。

 だが、宿をやってるなんて聞いたことも無い」

 

「信じられんなら、寄ってみることだ。

 そうだ、今なら米と言う穀物の粥と、魚があるだろうな。

 顔は、怖いがメスだそうだ。

 連れ添いを募集しているそうだから、声をかけてみてはどうだ」

「やめてくれ、岩トロールのカミさんなんて、悪夢に出てきそうだ」

 

「なあ、大きな音がして、フォークテイルが落ちてきたが、雷かなんかにやられたのか?」

それまで、黙っていた若い男が聞いてきた。

 

「いや、俺が仕留めた」

「魔法か?

 あ、そのメダル。

 ウイッチャーなのか」

「まあ、似たような物だ」

 

若い方の男が答える。

「そっちが、かってに仕留めたけど、こっちは頼んで居ないからな。

 金は出さんぞ」

 

「別に要らんさ。

 通るのに邪魔だから仕留めただけだ。

 別に、お前たちを助けたわけじゃない」

 

「おい、アーガス止めるんだ、どうして、そう喧嘩ばかり、吹っ掛ける」

「お前の相棒は、商売には向いていないようだな」

「全くだ、甥っ子だから連れてきたようなものの、これ以上問題起したら、追い出すぞ。

 ウイッチャー、助かった。

 これは僅かばかりだが、路銀の足しにしてくれ」

そう言って、男は50フロレンスほどの金を出してきた。

 

「さっき言ったとおり、金が欲しくて仕留めたわけじゃない。

 邪魔だから仕留めただけだ。

 だが、そっちの若い男を見かけても、次は助ける事は無いだろうな」

 

ポクポクと歩いてきたナジャムを撫でてやり、角砂糖を与えた。

 

「それ、何を与えたんだ?」

「砂糖を固めた物だ。

 ナジャムはこれが大好物でね。

 今頃、与えるんだ」

 

「砂糖だって?

 そんな白いものが砂糖なのか」

大雅は、一粒商人に渡した。

しげしげと、角砂糖を見つめる。

 

「白く見えたのは、結晶があつまっているからか・・・」

「なんなら、大きな結晶になった砂糖も有るぞ」

大蛾は、ナジャムのパニエバックから、大きな結晶の氷砂糖を出した。

キャンディーは湿気で柔らかくなって溶けてしまうが、氷砂糖は表面が白くはなるが、溶ける事は無い。

大雅は、甘いものが欲しいと感じた時、キャンディー代わりに舐めようと持って来た物だ。

何方も《サッカロース結晶》とか「サッカロース結晶集合」と言う名で、転送が可能なためいつでも手に入る。

 

「始めて見た」

「食っても構わんぞ、普通に甘いが」

男は、各砂糖を齧って口にする。

 

「あまい・・・しかも雑味が全くない・・純粋に甘いだけだ」

「料理になんかもこれなら使えるしな」

「こ、これを売ってくれないか!」

「構わないが、どけだけ欲しい」

 

「あるだけ! いくらだ?」

「そうだな、角砂糖ならいくらでもと言いたいところだが氷砂糖は、貴重だから10キロ程度なら良い。

 角砂糖は、一袋200、氷砂糖は800でどうだ」

「買った!」

 

大雅は、コンテナ内部にインベントリを作成し、送ってもらった。

400g入りの各砂糖、25袋と、1kg入りの氷砂糖が10袋だ。

「すまんが、今、手持ちが1万2千フロレンスしか無い、足りない分はまけてくれないか」

「初めてだし、いいだろう。

 だが、誰から買ったのかは、秘密にしれくれ。

 コレだけの品質の物は、魔法使いでも錬金術てせも作れないからな」

 

中身を確かめた商人は大喜びで峠を降りて行った。

後から知った事だが、砂糖は黒糖の様な見製製品でも、1kgほどで1000フロレンスほどする事を知ったのは、ずっと後になってからだ。

砂糖は、この世界では高級品と言え、甜菜の様な物が無い北方では高く売れるとの事。

大量生産が可能な世界の大雅にとっては、金と物の価値が根底から異なる事を思い知らされた。

 

峠の下りは曲がりくねっていたが、偶にネッカーが数体出て来るだけで、一発ぶっ放すと逃げていく。

ハーピーも学習したのか、遠巻きに飛んでいるだけで、近づいて来ない。

 

 

山から下りると、気温がかなり上がって来たので、ポンチョはとっくに脱いでいるが、麓でキャンプを張り、シャワーを浴びて薄手のアンダーに着替えた。

タクティカルスーツも、転送しクリーニングに出しクリーニング済みのものを取り寄せる。

久しぶりに伸びていた無精ひげも当たり、さっぱりとしてから夕食を作り出す。

 

夕食と言っても簡単なものだ、メスキットで粥を煮て、その中に乾燥肉を入れ、調味料とチーズを入れた簡単リゾットだ。

 

 

迷彩柄のテントは、少し離れると風景に溶け込む、こんな時間にやって来るのは、大抵盗賊かならず者と決まっていた。

しかも、夜の場合は薪の火やLEDランタンの灯りは良く見える。

 

 

 

「いつまで、眺めている気だ?」

「た、旅の人か?」

草の陰から出てきたのは、まだ子供ともいえる少年だった。

 

 

「ああ、トゥサンに行く途中だ」

「じゃ、同じ方向だ」

「嘘をつくな、下から登って来たのを上から視ていたが」

 

少年の目が泳ぐ。

「このメダルが解るのなら、嘘はつかない方が良い、夜中に寝てから盗んで逃げるつもりでもしてたのだろう?」

「・・・う・・」

 

少年は、後ろの腰から大ぶりなナイフを抜いた。

 

「解ってるなら、金を出せ!」

「はあー、この世界って、子供までかよ」

大雅は、P320を抜いて、ナイフを撃った。

 

パァンッ!

 

少年の手からナイフが飛んでいく。

少年は、驚きの余り、固まっている。

「そんなに死にたいのなら、殺してやろう」

銃口を眉間に向ける。

 

「こ、殺さないでくれ」

「盗賊は縛り首って決まってるそうじゃないか」

 

「お、お願いだよぉ」

「で、襲った理由は?」

「見た所、一人だったしこんなところで野営なんてしてるからさ」

 

「今まで、何人襲った」

「は、初めてなんだよぉ、勘弁してくれよぉ」

「いーや、勘弁はならんな。

 実際、刃物を出して襲っているんだから」

 

流石に、大雅にとっても子供を射殺するのは寝覚めが悪いが、事と場合によっては殺すことに忌憚はない。

中東でも、年端も行かない子供が、花の入った籠の底にIED(即席爆発物)を持って近づいてくるのを何度も見ているし、爆発の現場も目にしている。

実際にパンの売りに扮した、老女が近付いてきて、それに近づいた仲間が爆殺されるという経験もある。

 

この世界にも、爆発物がある以上油断はできない。

事実、ウィッチャーは爆発物を運用しているのだから。

 

大雅はわざと目立つようにウイッチャーのメダルを見せた。

 

「これが何なのか解るか?」

「メダル? 綺麗だけど」

大雅はがっかりした。

まあ、ウイッチャーは数も少ないし、子供では仕方の無い事だ。

 

「これはウイッチャーという怪物退治を生業としている証だ。

 巨大なフォークテイルでも、ネッカーやドラウナーでも簡単に殺す。

 お前は、子供だから一度だけなら、見逃してやる、今すぐここから消えろ。

 ただし、次にお前を見た時は、最優先で殺す。

 解ったなら、走れ!」

 

大雅は話しながら、傍のM870MCSを取ると1発のドラゴンブレスシェルと呼ばれる弾を装填した。

この弾は、散弾の鉛玉や鉄玉の代わりに、マグネシウムの粒とリンの粉が詰められている。

射程は30mほどしか無いが、火のついたマグネシウム粒が燃えながら飛んでいく。

その発火温度は3000度近くにも達し、至近距離で撃たれると衣服に着火し消すことは難しい。

ただ、見た目には非常に派手だが、攻撃力はそんなに大きくない、というか殆ど無い。

3番のシェルの方がよっぽど凶悪だ。テスト用として地球から送られてきたものだ。

こんな所まで、仕事が送られてくるとは思わなかったが、ネッカーやドラウナーを怯ませるにはとても有効だった。

 

大雅は、70度ほどの角度で空に向けて引き金を引いた。

バンッ!

空に向けて、真っ白な光の帯が飛んでいく。

 

「ひ、ひい~!」

脱兎の様に少年は逃げて行った。

 

「懸命に生きろよ、ったく」

 

 

 

山脈を降りるのに、1日では無理だった。

北から山脈の峠に入ったのだが、こちら側の山はダラダラと上り下りを繰り返す様な道が続く。

ここら辺の森林限界は峠の北側では気温が低く1000mほどだが、こちら側は暖かい風が登って来るのか、周りには低木や灌木がちらほら見え始めている。

 

結局マルダナル・ステア渓谷を抜けるのには3日かかった。

 

暫く行くと、少し大きめの村が見えてきた。

周囲のなだらかな山には牛や羊、ヤギも放牧されている。

 

そろそろ、食料を調達したいと思っていた大雅は寄ってみる事にした。

1軒だけある宿や兼酒場にナジャムを繋ぎ、入った。

 

「いらっしゃい。

 飯かい酒かい」

 

「数日泊まりたい。

 できれば一番いい部屋にしてくれ」

 

「一泊30ほど掛かるが良いかね、朝飯は付くが夕飯と酒は別料金」

「構わん、湯は使えるか」

「部屋に湯沸かしと風呂桶がある。

 薪は別途料金で5、使うなら、飯食ってる間に沸かしておくよ」

「それでいい、3泊ほど頼む」

大雅はポケットから105フロレンスを出し支払った。

 

「一応鍵は掛かるが、貴重品は盗まれても責任は負わん。

 馬は、馬小屋の中に入れてくれ、1日20だ、発つときの清算で良い」

そう言って、鍵をカウンターの上に置いた。

 

「旦那、飯は?」

「一人分頼む、少ししたら降りて来る」

「あいよ」

 

大雅は、一度外へ戻ると、ケースとパニアバックを下ろし、ナジャムを裏にある馬小屋に連れて行く。

「旦那さん、こっちだよ」

15.6歳ほどの少年が呼ぶ。

 

「3日ほど頼む、朝に出かけるかもしれないが、夕方にはもどってくる」

そういって、少年に5フロレンスを掴ませた。

 

「ありがとうね、旦那さん。

 飼葉と水はやっておくよ」

「ブラシもかけてやってくれ、嫌がったらしなくていい」

「わかった」

 

「ナジャム、この子の言う事を聞いて、迷惑を掛けなきゃ好きなのを多くやるぞ」

「ぶるるうっ!」

「驚いた、頭いいんだね。

 僕はドノス、宜しくなナジャム」

「ブルッ」

大雅は、4個ほどの角砂糖をナジャムに与えると、宿へと上がった。

 

移動中できなかった銃の整備をし、下に降りた。

宿に着いた時より、客が多いのは酒や食事に来ている近隣の者なのだろう。

 

「旦那さん、其処へどうぞ」

馬小屋に居た少年が、奥のテーブルを示した。

 

「ここでも、働いているのか」

「ここの息子だよ。

 ウチのエールは旨いよ、わざわざ遠くから飲みに来る客も居るんだ。

 あと、チーズもお勧め、別料金になるけど」

 

「ではエールとチーズを持ってきてくれ。

 幾らだ」

「エールが5、チーズが8だよ」

「それで頼む」

「あいよ、オヤジィ、エール1、チーズ1、追加で!」

 

店の奥の厨房から「オウッ」という声が響く。

 

ほどなくして、大きめのジョッキとチーズを焼いた皿が出てきた。

この世界の飲食店は、大抵木製のジョッキが当たり前だ。

ガラスのジョッキなんてものは無い、有っても超高級品だ。

 

「おまたせ~、ウチのは川の水で樽ごと冷やしてるから、旨いよ!」

 

大雅は、此方に来て旨いエールを飲んだことが無かったが、ここのエールは確かに旨かった。

地球の様にキンキンに冷えてはいないが、上面発酵独特の柑橘系の甘い香りと甘みのあるコクのある味、地球でも十分に通用する味だ。

 

「旦那さん、もう食事持ってきていい?」

「ああ、頼む。あと、エールをもう一杯くれ」

「あいよぉ、エール1追加ぁ」

 

アルコール度数は地球と決して引けを取る訳では無いが、地球ではホップが使われるのに対して、この世界ではグルートと呼ばれる多種の薬草を混ぜたものが使われる。

だから、地域によって全く味が異なる。

 

食事は、ウサギのシチューの様な物と、良くある黒パンだが結構イケた。

 

 

「あんた、旅の人かい」

近くに居る、禿げた親父が声をかけてきた。

 

「ああ、トゥサンに迎う途中だ」

「なら、気お付けた方が良い、ここから馬で半日行った洞窟で、シェルマールを見たって噂がある」

「なるほど、気を付けよう」

「剣も槍も通さねえって話だ。

 見かけたら、逃げた方が良い幸い馬なら逃げられるからな。

 依頼板には、ひと月前から依頼が出てるけどまだ誰も受けてねぇ」

 

「ほう、依頼が出てるのか」

「ああ、だがやめといたほういい、ほっときゃアイツは洞窟から出て来ないんだし」

 

翌朝、依頼板を見てみると、確かにシェルマール討伐の依頼があった。

「それを受けなさるんかね」

近くに居た老人が聞いてきた。

 

「ん、そうだな」

「だが、強敵の割には安いじゃろ」

紙には討伐報酬100と書いてある、確かに安い。

 

「特に村には被害は無いが、ここの領主の鉱山でな、僅かながら銀が捕れるもんだから取り戻したいんじゃろ、渋ちんじゃ」

紙を見ると、討伐証明はシェルマールの髪と在る。

 

紙を依頼板から剥ぎ取り、宿に戻った。

「お帰り、旦那さん、昼にしてはちょっと早いけど」

「依頼板にシェルマールの討伐依頼が有ったが、何か知らないか」

「なら、親父呼んで来るよ、ちょっと待ってて」

 

「待たせたな、シェルマールの討伐だって?」

「ああ、何か知らないか」

「シェルマールが住み着いたのは三月ほど前だ。

 どうも、山向こうで巣くってたみたいだが、鉱山の穴とシェルマールの掘った穴が繋がっちまったみたいでな、2人の鉱夫と5人の奴隷が食われた。

 一度、6人ほどの兵士が討伐に向かったが、戻ってこれたのは1人だけでな。

 剣も槍も弾かれて、相手に成らなかったらしい。

 逃げて来た兵士も、それだけを言って事切れた」

 

「にしては報酬が渋いな」

「まあな、あの男爵、すげぇケチで有名だからな。

 あ、他の者には言うなよ。

 止めとけ止めとけ、武器もボロボロにされ、元も取れんぞ」

 

「報酬はこの村じゃないんだな」

「ああ、隣の村にこの地方の代官が居る、討伐しても確認に一日かかるぞ。

 あ、でもかなり切羽詰まってるみたいだから、呼べば来るかもな、声かけておこうか」

「手間をかけるが頼む」

「構わねぇよ、うちだって鉱山で働く鉱夫が戻ってくりゃ人も客も増える。

 売り上げが落ちてまっいてたんだよ、倒したら飲み食いしたあんたの分は、タダで良いよ」

 

大雅は、再び村の通りに出て、食料を物色した。

イタリアで見たような真っ白に粉が吹いたソーセージの様な物を見つけた。

イタリアで見たような、フエ・カリダという硬い白カビが付いたサラミに似ている。

 

野営の際の良いおかずになる。

 

「これは、ソーセージか?」

「ああ、風通しの良い所なら1年以上持つよ」

「いくらだ」

「こっちは10、これ25、この大きいのは30だよ」

「10のと30のを一つづつくれ」

「あいよ!」

 

少し離れた所に、チーズを取り扱っているところも有った。

「旦那、昨日仕上がったばかりのチーズはどうだい?」

「いくらだ」

「1/8切で30だよ。

 1/4切なら40、半切りなら60で良いよ」

大雅は半切りを買い込む。

生産地なので価格が安い

スウェッド村のチーズよりは大分小ぶりだが、それでも優に3Kgはある塊だ。

後で、切り分け、脱酸素剤と共に真空パックしておけば、長期間持つ。

 

買い物をして帰って来ると、早々に真空シーラーを取り寄せ、チーズとソーセージを切り分け、真空パックしていく。

 

下に降りて行くと、食堂兼酒場は結構混んでいた。

 

「ああ、ハイドさん、お客さんですぜ」

「お客?」

「隣町の代官だよ、知らせに行ったら、取る物も取らず、一緒に来られるとなって、今あっちで待ってる」

 

大雅は、面倒だと思った。

大抵、こういう場合は面倒ごとが多い。

現場は、指示で懸命だが上はそう大事に捉えられておらず、難癖や値引きをかましてくる事例だ。

 

 

「貴殿が、討伐を受けてくれる御仁か」

「一応名乗りを上げたが、駆除を確定した訳では無いぞ」

 

「いや、受けてくれるだけでもありがたい。

 男爵様は一時でも早く鉱山を再開したいとの仰せだ。

 お願いする、なんとか駆除を願いたい。

 で、お仲間はどちらかな」

 

「いや、俺一人だ。

 なにか問題か?」

 

「い、いや・・・相手はシェルマールですぞ。

 兵士が6人束になってもかなわなかった。

 一人なら、100フロレンスでは・・・」

「言っておくが、金をケチルなら無かったことにする。

 ただでさえ、安いんだ。

 ほら、依頼書きだ、持って帰れ」

 

「ただ、一人では・・・。

 報酬は討伐後で」

「後でも構わんが、俺はシェルマールに興味が有るから受けた。

 別に、お前が困っているとか、領主が困っているとかは関係ない。

 村人にも今のところは被害は出ていないようだしな。

 僅か100フロレンスで命を投げ出せる奇特な者が居たら、そいつに頼むと良い」

そう言って、大雅は背を向けた。

 

「い、いえ・・・150いや、200出します!

 なんとか!」

現場でピンハネする事は、よくあることだ。

まして、この世界、していないと思う方がおかしい。

 

「500なら請け負う。

 嫌なら、帰れ」

大雅は、今までの妥当な線を言った。

 

「そ、それでは男爵の予算を超えています!

 では400では」

 

「480だ」

「430では」

「460だ」

「450では」

「ふむ、まあいいだろう。

 450で請け負おう、報酬は成功報酬で良い、ただし、怪物の片づけや坑道内の設備等の破損に関してはこちらは責を負わない」

 

「判りました、それで手を打ちましょう」

「支払いは現場で行うのか」

 

「討伐後、私の屋敷でお支払いします」

 

「ま、それでいいだろう、逃げるなよ」

「いつ,討ってくださるのですか」

「明日、昼前だな」

 

翌朝、大雅は早朝に起き、場所を聞いている鉱山へと向かった。

ドローンを起動し、赤外モードで洞窟の奥を探る。

奥には広くなった場所が有り、全長4メートル近いシェルマールが眠っていた。

 

「デカいな、M99で大丈夫か?」

少し考え、大雅はダネルNTW-20を取り寄せるか迷った。

なにせ、被覆や甲羅の硬さがまったく未知数な相手だ。

一応、M99で挑むが倒せなければ、カールグスタフでも持ってこないと無理だろう。

Mk211弾を用意してあるので、グリフィンをオーバーキルするこの弾薬なら不足はないだろう。

 

暫くすると代官が馬に乗って鉱山までやってきた。

 

「シェルマールは1匹、中で眠っているようだ。

 これから中に入り、仕留める」

「私も確認に一緒に入って良いか」

「ああ、討伐後ならな。

 一発で仕留められるかどうかわからんし、あんたを守って戦うなら、追加で1500出して貰おうか」

「む、仕方ない外で待っていよう」

 

大雅は、M99を担ぎ鉱山の奥へと入っていった。

バックアップとして、グレポンを取り付けたAKMSも持って行く。

大雅のリスクは大きくなるが、最悪M99を捨ててでもグレネードで対抗できる。

 

150m先には、広くなった場所が見えてきた。

ここは、一時的に鉱石を集める為に作られた。

 

「そのまま、寝てろよぉ、頼むから」

M99にMk211弾を装填、念のため後1発のMk211弾を左腕のペンポケットに差し込み、もう一発は口に咥える。

 

距離は50メートルほどで、スコープを覗かなくとも当たる距離だ。

わき腹の、柔らかそうな部分に照準を合わせる。

 

ズドオーンッ

 

鉱山内にすさまじい音が響く。

すぐさま、ボルトを操作し、排莢と次弾装填を行う。

 

煙が晴れ、シェルマールが見えてくる。

シェルマールは声帯を持たないので、叫び声は上がらない。

プローンの姿勢から起き、銃を構えたまま歩いていく。

近付くと、射点からは見えないが、入射孔の反対側の胴体が大きく裂け、臓物が飛び散っていた。

 

Mk211弾だと10ミリ以上の鉄でも貫通する、生物で有る以上鉄板より硬いという事はあり得ない。

 

 

「ま、生き物である以上はそうなるか」

ボルトを操作し、弾を抜いた。

 

周りを見回すが、10体ほどの食い散らかれた遺体の様な物と、自然にできたとみられる割れ目が多数みられる。

銀山については多くの場合、大規模な坑道の開発が不可欠であり、より強大な国家権力と、高い製錬技術を必要とする。

だが、石英などが見られる割れ目の洞窟に、稀に自然銀が見られる事が有る。

ここは、そうした自然銀を採掘する鉱山なのだろう。

 

ふと見ると鉱夫らしき者の遺体の手に、革袋が握られている。

開いてみると、宝石らしき物の原石の感じだ。

焦って全財産を持って逃げようとしたのだろう。

価値は未知数だが念の為、懐に入れる。

 

他の遺体を調べると、やはりもう一体の遺体の懐から原石が入った小さな皮袋を見つける。

これも貰っておこう。

金貨よりはかさばらず軽い宝石類は大歓迎だ。

 

大雅は、鉱山の外に出た。

「終わったぞ、シェルマールは倒した」

代官は、確認すると言って、松明を持って入っていく。

暫くすると、血の気の挽いた顔をして鉱山から出てきた。

 

「シェルマール討伐を確認しました。

 報酬は屋敷迄取りに来てください」

 

大雅は翌日宿を引き払うと隣の村へと向かった。

隣の村は、馬で2時間ぐらいと近い。

代官の屋敷を訪ねると、代官は面倒そうに金貨を渡してきた。

大雅は、はした金で面倒に合うのも嫌なので、数えもせず受け取り屋敷を後にした。

 

 

それから数日ナジャムを歩かせ、河の畔でキャンプを張った。

ここらは通行も少なく人に出会う事もめったにない。

ここで、二日ほどゆっくりと過ごした。

 

時間が有ったので、地球に原石を送り、鑑定を頼んだ。

鑑定には1週間ほどかかるらしい。

活動資金として、宝石にカットを依頼した。

売ればいい金になるだろう、何故なら、この世界の宝石と言うのは、割って偶々形のいいモノに割れた時に宝石として指輪などに加工される。

まだ、宝石を研磨する方法も有るが、皆丸みを帯びた物だ。

地球のカットなら、ガラス玉でもとんでもない価格が付く可能性が有った。

ついでに、スワロフスキーを適当に送ると返ってきた。

あれって、ガラスじゃなかったっけ?

 

宝石に全く興味のない大雅にとっては、それだけでも収穫であった。

また、面白い連絡が来た。

フォークテイルは外見からも爬虫類の仲間だという事は理解できるが、ハーピーは昆虫の一種だったらしい。

確かに、体は表面には皮が被っていたが、すぐその下は堅かった。

外骨格の上に皮膚が乗った構造らしい。

 

「まさか、セイレーンも昆虫なのか?」

 

この世界の生き物は全く意表を突かれるばかりだ。

 

10日ほど経つがトゥサンはまだ遠い。

取りあえずの目標であるヴァデット渓谷までは、まだ5日も有るらしい。

航空写真で解る事は、少なくとも5日以上は村らしい村にはたどり着かない事に為る。

 

やっと尾根から降りた丘陵で、視た事も無い巨大な花が見られた。

やな予感がして近づかなかったが、寄って言った鹿のよえぅな動物が何か粘液の様な物を吐きかけられ、ヨタヨタとよろめいた途端、その隣にある巨大なつぼみの様な物に捕らえられていた。

 

「おいおい、食虫植物ならぬ食獣植物かよ、おっかねーな」

 

暫く観察を続けると、粘液の射程圏内までは完全に植物に擬態しており、小鳥程度が止まっても反応しない。

しかし、獲物がある程度の大きさになると、目も鼻も見当たらないのに的確に居場所を感知しているようだ。

 

動かなければ巨大な花にしか見えないが、その姿は肉厚の花弁、粘液質を被った様な雄蕊と4~5裂の雌しべの様な器官、なにより粘液が詰まっているような幹の透明な粒は、気色が悪い。

 

安全圏と思われる距離から、AKMSのグレポンからVOG-25M榴弾を打ち込んでみる。

ギュゥゥゥッという声と共に、半ばから折れた茎が動物の様にのたうち回った。

「こりゃ、近寄らんのが正解だな」

 

つぼみの様な物も、グレポン一発で開き動かなくなった。

試に、30mほどまでのギリギリの距離まで近づき、散弾のドラゴンブレスを撃ってみると、二発程度で2発ほど撃つと倒せるが、グレポンの方がコストは遥かに安い。

使いどころの判らない弾だ。

まあ、地球でも使い道の無い球となる事だろう、夜に撃つと非常にきれいであるが。

 

取りあえず、駆逐し体液や躯体サンプルを取り地球に送った。

 

 

それから3日後、遺跡とも廃墟ともとれる場所に着いた。

周りは水没している。

この廃墟を利用し、集落が形成されており、元は武器商人団のアジトだったらしいが、数年前にウィッチャーにより壊滅され、そののち集落になったのだという。

ここが、アーサク宮殿と呼ばれる場所で、今ではアーサク村と呼ばれており、渓谷や峠を越える者達の最後の宿場となっていることも教えて貰った。

 

盛んに剣や防具の売り込みをされるが、必要ない旨を言うと、興味を無くしたようだ。

片隅に場所を構え、キャンプを張った。

 

 

「あんた、何処から来なすった、見かけん格好だが」

「ああ,ずっと北の方、ドラゴン山脈の近くからだ」

「ほう、そりゃ遠い所からだな。

 おりゃ、2年ほど前からここに来てるが、そんな遠い所からは来た奴は始めて聞いた」

 

「そうなのか」

「ああ、ここを通る奴は、殆どがリエドブリューネとの行き来だ」

「リエドブリューネ?」

「スロベスって言えば解るか、真っすぐ北へ向かえばライリアに向かう」

「地図で教えて貰っても良いか」

「良いけど、なんか俺の所で買ってくれよ」

 

大雅は、香辛料を買い求め周辺の地理と町の名を教えて貰った。

「なるほど、助かった」

「なに、こんだけ買ってくれたら、上客だしな。

 ボークレールにはニルフガードの大使館もあるが近寄らない方が良い。

 難癖付けられてケツの毛まで毟られるからな。

 あと、旨いものと旨い酒が欲しいなら、ここから南下した先の道を右に行き、銀の火トカゲ亭っていう所に行ってみりゃいい。

 川沿いに建ってるからすぐにわかる。

 本来は宿屋なんだが、あそこの鹿のシチューとチェリーの果実酒は絶品だ」

「時間が許せば、寄ってみる事にしよう」

 

「ああ、少し高めだが悪くない宿だ。

 ボークレールまでは1日半だからな」

「コルヴォ・ビアンコというブドウ園は知らないか?」

「さあ、ここいらには山ほど葡萄農園は有るからな、いちいち覚えちゃいないさ。

 宿屋の主人なら知ってるかもな」

 

大雅は既にトゥサンに入った事を知った。

 

 

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