Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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ワインの街ボークレール

 

 

 

夕方になった頃、ボークレールの門が見えてきた。

 

「ここがクーパー門だ。

 ボークレールには幾つかの門が有るが、検問が有るのは王宮門だけで出入り自由だ。

 ここから南側にはレビオダ門とメティナ門、後幾つかあるが気にしなくていい門だ。

 私の屋敷はフィザントリー亭のすぐ隣だよ、広くは無いがすぐ近くにパン屋、香料屋、診療所もあり住みやすい所だ。

 時折、フィザントリー亭の喧騒が聞こえるがそれもまたここの街の音だよ」

 

「街中は基本馬を歩かせても良いが乗って移動する事は禁止だ、危険だからな。

 特に門は衛兵が居たら降りて歩いた方が良い、難癖をつけられずに済む」

 

馬を曳いて街中を進む、本当に中世らしい町並みだが、所々の建物には歪だがガラスの窓が嵌っている。

それなりに中世よりは進んでいる様だが、北方ではあまり見なかったことから経済的な理由だろう。

 

馬は近くの厩に預ける様にできる様なので、日に一度だけ「これを二粒与えてくれ」と言いつけ伯爵邸の使用人に頼んだ。

伯爵の馬は貸馬のようだ、なんでも維持するより貸馬の方が手間もかからずボークレールでは便利らしい。

 

「ここがシアン・ファネリ銀行だ、今日はもう締まっている時間だから明日一緒に来よう。

 午後には宮殿に出向き公爵閣下の謁見を申し込んでおく。

 タイガの事情をある程度話しても構わないかな?」

 

「構わないが、異世界人程度までは話して構わない。

 特に国交に関する事に関しては、こちらでも私の国でも政治的な事が絡むので、言及は避けて欲しい」

 

「そうだな、その方が良いだろう」

「明日までに母国から挨拶代わりの品物を取り寄せる。

 明日それを持って行って頂けないだろうか、なに、公爵閣下へのご挨拶の代わりだよ」

 

「おお、それなら拝謁の手筈も取れる確率が上がる。

 任せてくれ」

 

その夜、大雅は地球に報告を行い品物を送ってもらう。

届いたのは、クリスタルガラス製のデキャンタセットと九谷焼のティーポットセット、それに豪華木箱に入ったカトラリーのセットが二つ。

結構な荷物だ、伯爵には申し訳ないがひと汗掻いてもらおう。

 

其れとは別に拝謁の手土産として業務用の紅茶葉1kg入りが5個届く。

銀色の真空パックに入っているものだ。

最初の頃はビニールは燃やせだとか言ってたくせに、最近ではどうでも良くなってきている気がする。

 

中世の頃には紅茶は薬としてもてはやされた記録がある、ゆえに「薬草扱い」となり転送が可能となった事が書いてあった。

相変わらず半固定インベントリは不可解な転送を行う。

 

丁度、地球から持って来た紅茶のティーバックが間もなく底をつきそうだった。

これはこれで、キャンプする時には重宝するのだ。

まあ、良い方向に働いているから良しとしよう。

 

”んっ? 紅茶が可能ならコーヒーも可能じゃ無いのか?”

 

カトラリーのセットは日本有名メーカーの物で18-12ステンレス製に18金部分コーティング、5人分が2セット送られてきた。

見た目がとても豪華な代物だが、精々1セット数万程度だ。

何でも入れてある木箱はメーカーに事前に頼んで有ったらしい。

 

同時にステンレス製の2.5Lのケトルも送られてきて、一緒に届いたメールを読むと紅茶のデモンストレーションを行えという事らしい。

淹れ方の動画まで付いていて、何度も繰り返し見て頭に叩き込む。

ボタンを押すだけのコーヒー派の大雅にとっては面倒だが仕事なのだ。

 

 

翌日、大雅はタクティカルスーツのベストだけを脱いで伯爵と朝食後に街へ出た。

残念ながらカジュアルな服なぞ取り寄せて居ないし、それだって目立つ事は同じである。

伯爵は服を貸してくれるというが、カボチャパンツにタイツは勘弁してほしい。

それなら、タクティカルスーツの方が未だマシと言うものだ

 

「先ずは銀行だなタイガ」

「そうだな、暫く銀行には行って無いしな、ノヴィグラドで提携銀行に行ったきりだ」

「ならば早いうち行くとしよう、一番乗りだ」

 

ボークレールのシアン・ファネリ銀行はノヴィグラドと違って、窓口がいくつも有り結構混んでいた。

しかし伯爵の顔も有ってか別室に通される。

 

「サルバレス伯爵殿、ではハイド氏の口座に合計1万フロレンスの入金でよろしいのですな」

「いかにも。手数料は私持ちでよろしい」

「では、お二人の口座鍵をお渡しください、手続きには20分ほどお待ちください」

 

「伯爵、問題無いのか?

 ただ助けだだけなのに、こんな大金」

「構わん、実質8000フロレンスに過ぎない。

 2000フロレンスはマチルダ嬢の負担だからな。

 命の代金としては格安だよ。

 逆に伯爵位を持つ私が命を助けられたのに、少なすぎると周りから言われやしないかビクビクしているところだよ。

 だから、公爵閣下には内密にお願いしたい」

そう言って、ウインクする。

 

大雅の口座には140万フロレンスほど入っている。

それに手持ちが現金で2万フロレンスほど、盗賊団の砦に有った宝石類はまだ換金さえしていない。

此方の人間なら優に数十年は楽に暮らしていける程の金額だ。

帰る際には貴金属に替えるか、此方の誰かに渡し有効に使って貰う方が良いだろう。

 

「お待たせいたしました」

先ほど受け付けてくれたドワーフ族の銀行員が戻ってきた。

 

「これが大雅殿の口座残高です。

 ご確認ください。

 それとこちらがサルバレス伯爵殿の口座残高です、同じくご確認ください」

 

二人は別々に紙を渡され、それを確認し懐へ仕舞う。

それから一度伯爵邸に戻り貢物を託した。

 

「では、帰りは夕方ごろとなろう、特に問題がなければな。

 それまでは好きに過ごすと良い、ただ出かける時は侍従のフランクに言っておいてくれ。

 事情が事情だけに予定が急に決まることも有る、まあ公爵閣下次第だがね」

「解った、そうしよう」

そう言って伯爵は従者に荷物を持たせ王宮へと向かった。

 

 

「また、これ着なきゃならんのか・・・」

目の前には第一種礼装のひと揃えが置かれていた。

自衛官服装規則の第八条に規定されているとはいえ、非公式なのに上からは礼装が送られてくる。

大雅は何時までも着なれない礼装を目にして頭をうなだれた。

 

「よし、こうしてもしょうがない。

 少し街でもぶらつくか」

大雅はお湯を使い、部屋で常装第三種夏服に着替えたが、少し気温も下がってきたことも有り、カーゴジャケットを羽織る。

 

流石に石作りの街の中では特殊なクリプテック迷彩のタクティカルスーツでは悪目立ちする。

靴もごく普通のビジネスシューズだ。

まあ、それでも目立つ事には変わりないが。

しかし、活気は有るが特に珍しい物は無く10分程で伯爵邸へと戻った。

 

と言うのも、端末に荷物が届いたマークが表示されたからだ。

地球からは練習用としてティーポットセットが送られてきていて、同時に1kgのダージリン茶葉も一緒だ。

宿を提供した伯爵に不要になったら提供するようにメモが入っていた。

 

侍従のフランクを呼び、手の空いている者が居たら4人ほど集める様に言うと

「なにかお話でも、こちらに不都合が有れば改善いたしますが」

「なに、近く王宮でここには無い茶を披露する事になりそうなんで、私の練習がてら手の空いている者に味見をしてもらいたいなと思ってね」

 

「そうでございましたか、それで有れば後1時間ほどすると私を含め何人かが午後の休憩時間となります。

 後は、そうでございますね残りの3名は私が選びましょう」

「宜しく頼む」

 

大雅はお茶の準備を始めた。

残念ながら菓子は無いがパンが有るとの事で、厨房を借り薄く切ってバターと砂糖をまぶし簡単なラスクを作った。

料理長が食い入るように見ている、どうやら真っ白な砂糖に興味深々のようで、小皿に分け味見させた。

 

幸い、フランスパンに近いドイツのコッペパンに近いものがあるとの事で、それを薄切りにして使う事が出来た。

これは中東でも甘いもの好きの彼らに人気だった物だ、生き残るためには大雅は何でもこなした。

パン焼き窯から取り出し冷ましたら、集まる時に持ってくるように話す。

 

 

「タイガ様、お呼びの時間となりましたのでお邪魔いたします。

 入ってもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 

侍従のフランクがドアを開け入って来た、後には3人の使用人が緊張した面持ちで付いてきている。

 

「こちらから料理長のダストゥール、家政婦長のアンナ、メイドのジェスターとリアンヌでございます」

一人ひづつ帝国式であいさつが始まる。

 

「みなさん、休憩時間を割いてもらってお礼を言います。

 今日は、ちょっとしたや茶会ですが、気軽になさってください。

 まあ、近々王宮でお茶を提供しなくちゃいけないかもしれないので、私の練習を兼ねての物です、気楽にしてください」

 

料理長が物静かに話し始めた。

「ご無礼を承知でお聞かせください」

「何かな」

 

「パンはこちらの物ですが、お使いになられた砂糖は真っ白で初めて見る物でした。

 これは何処から手に入れられたのでしょう」

「ああ、上白糖ね、私の国で造られた物だ。

 黒砂糖から雑味や色素を抜き、真っ白に為るまで精製したものだな」

 

「さぞ、高価なものなのでしょう、味見させていただいたときは上品な味に驚きました」

「私の所では普通に売っているけどね、まあ、此方の黒糖とは原料が違うからかな」

「大国の南では茎が甘い草の様な大型の植物から取れると聞きます、違うのですか?」

 

「たぶんそれはサトウキビだろうね。

 茎の甘い汁を絞り煮詰めると黒糖になる。

 黒くて独特のコクのある甘みが特徴だ、私の世界ではサトウキビも使うが甜菜という砂糖を含む大根も使うんだ。

 サトウキビは南の暖かい地方でないと育たないが、サトウダイコンは逆に北の寒冷な方が栽培に適している、白くなるのは石灰や炭に不純物を吸着させ、再結晶と言う面倒な手順を踏むと子のように白くなる」

 

大雅は動画を思い出しながら、時計で時間を見て紅茶を入れていく。

 

「さて、多分この世界でこのお茶を飲んだのは、数少ない。

 伯爵には既に何度か淹れたけれどな、簡易なものだが。

 それよりは美味しい筈だ」

そう話しながらティーカップに注いでいく。

 

「火傷するほど熱くは無いが気を付けてくれ。

 持ち方はティーソーサーごと手に取り、カップを持ち上げ香りを楽しむ、そして一口二口飲んでみてくれ。

 感想を利かせ作れると嬉しい、さ、どうぞ」

 

各々が手に取るがメイドの二人は緊張しているのか手が若干震えていた。

 

「うわ、初めて嗅ぐ匂いだけど良い香り・・・」

「本当に・・・」

「んー、素晴らしい香りと味だ。

 正しく異世界の味とはこういうものなのか・・・素晴らしい」

「タイガ様、これは素晴らしいものですな。

 香りだけでも気分が落ち着きます」

 

「苦みが苦手な人は此処にある角砂糖を二つほど入れて溶かすといいよ、その為に一皿づつスプーンがついているだろう?」

「では、私は半分ほど飲んだら頂いてみようかしら、甘いものが好きですので」

 

「伯爵にはこの茶の種と製法を渡してある。

 何年かすると此処でも飲める様になるかもしれないな。

 そうだ、簡単なものだが菓子も摘まんでみてくれ」

 

「タイガ様、これは初めて見る物ですが何という御菓子でしょうか」

「私の所ではラスクと呼ばれている。

 ここの黒糖でも作れるし、乾燥すれば日持ちする菓子になる」

 

「料理長、必死で見て居ましたものね、タイガ様がお作りになられる所」

「タイガ様、宜しければこの製法を伯爵家にお譲り頂けませんでしょうか。

 伯爵様もきっとそうされると思います」

 

「譲るも何も、勝手に作って構わないよ。

 そうだ、王宮に向かう時に黒糖で造ったものと白砂糖を渡すから二種類ほど作ってくれないか。

 パンは出来るだけ薄く、そして一口大で、前日に作っておけば十分だ。

 それを報酬としよう、各50個ほど作ってほしい」

 

「お任せくださいタイガ様、今日から早速試作いたします」

「白砂糖はこちらから提供するよ。

 暫く楽しめる様にたっぷりと、是非ラスクをモノにしてくれ」

「お任せください。

 タイガ様に胸を張れる品物に仕上げて見せます」

 

「でも、シンプルな作りなのにとっても美味しいわ。もうひとつ・・」

「これ、リアンヌ、伯爵家の使用人として恥ずかしい事は慎むように」

アンナ女史が厳しい口調で諫めた。

 

「なに、構わん。

 好きなだけ食べてくれ。

 まだまだたくさんあるからな、足りなかったらすぐ作れる」

 

大雅は夜までの間に1kg入りの上白糖が20個入った段ボールを5個ほど取り寄せ料理長に渡した。

まるで貴重品の様に運んでいく料理長の姿が印象的だった。

 

 

夜になり、伯爵はまだ戻ってこないが夕食は一人で取った。

ロブスターのチャウダーがとても美味しく、ついお代わりを貰ってしまう程だ。

 

「タイガ様、お代わりは如何でしょうか」

家政婦長のアンナが自ら給仕してくれている。

 

「いや、十分に頂いた、ありがとう」

「楽しんで頂けたら幸いです。

 ザリガニのチャウダーは如何でしたでしょうか。

 今日は久々に生きのいいザリガニが手に入りましたものですから」

 

「ざ・・ザリガニ・・だったのか。

 てっきりロブスターかと」

「ここの名物でございまして、お口に合いませんでしたか?」

 

「いや、私の世界でもザリガニは食べるからね。

 大きいからロブスターかと思ったのだよ。

 逆に美味しくて驚いたぐらいだ、じゃ無きゃお代わりなんかしないよ、ありがとう」

「もったいないお言葉、恐れ入ります」

 

ロブスターもザリガニも生物学上は同じで単に海に住んでいるか淡水に住んでいるかの違いだけだ。

 

”でっかい、ザリガニだなぁ、コレを知ったら日本の商社は黙っていないだろな”

 

「あの・・・お茶の入れ方をご教示頂けませんでしょうか」

「そうだね、私の世界では貴族の上級使用人が美味しいお茶が入れられる事を自慢している国も有る。

 貴方にはぴったりだろう。

 ティーポットのセットはこちらに提供するように指示を受けている。

 茶葉も暫くは持つ様に取り寄せるよ」

 

「まあ、うれしい限り!

 すぐにご準備いたします」

 

「ああ、そうだ。

 客の目の前で淹れるのが礼儀と聞く。

 これには訳が有って、客と主人が同じポットの茶を飲むという事は毒が入っていないことを証明しているからとも聞いた。

 教えながら一緒に楽しもう、あとあのポットは5人用だから手の空いた者を3人ほど呼んでくればいい」

「はいっ! 仰せのままに」

 

当然、料理長や二人のメイド、そして家政婦長のアンナがやってきた。

 

「そう、人数分プラス1杯分のティースプーンの茶葉を入れて・・・この砂時計の砂が落ち切るまで待つ」

 

じっと砂時計を見つめるアンナ女史、年の頃35過ぎだが、若い頃はかなりの美人だったのだろう。

今でもなかなかの美人だ。

 

「で、茶こしをカップに置き、カップの半分づつ注ぐ。

 すべてに半部づつ注いだら、もう一度今度は八分目まで注いですべてのカップに注ぐ」

「半分づつ入れるのはどうしてでございますか?」

 

「すべてのカップの濃さを均一にするためだよ。

 砂時計が落ちてからスプーンで数回かきまぜたけど、最後の方はどうしても濃くなる。

 だから均等になる様に二回に分けて注ぐんだ」

 

 

そこへ、伯爵が偉い勢いで走って入ってきた。

 

「た、タイガ・・ゲホッ・・ケホ、ケホッ」

「どうしたんだ伯爵、まあ、茶でも飲んで落ち着け」

大雅は未だ口をつけていないカップを渡した。

沸騰したお湯では無いので、丁度70度ほどになっている。

 

「んぐっ・・んぐっ・・んぐっ・・プハッ・・もう一杯くれないか」

カップをアンナ女史からも奪い取り飲み干した。

 

「うー、こんな美味しい紅茶ならもっとゆっくり楽しみたがったが・・・」

「ま、座って、アンナさん伯爵に椅子を。

 ジェスターさんとリアンヌさん、ポットの茶葉を捨て、新しい熱湯と共に持ってきてください」

「は、はいただいま」

 

 

「で、何をそんなに急いで走って帰って来たんだ?」

「会見の日が決まった。

 明後日の午後だ。

 いつもは公爵閣下は午睡を取られるのだが、それも潰して会見なさるそうだ。

 謁見では無い、会見なのだよ」

 

「すまない、伯爵。

 謁見と会見の違いが判らないのだが」

 

「謁見は手続きを踏んで公的に会う場合を指す、この場合簡単な一言三言程度が常識だ。

 単に会う事が目的だからな。

 一方会見は拝謁した者と時間を掛けて話をする場合だ。

 記録は全て取られ、城の文書として保管される。

 国賓扱いだぞ!」

 

 

「・・・ご教示痛み入るよ伯爵・・申し訳ない常識に疎くて」

「なにかまわん。

 国によって事情は異なるだろうからな。

 ただそれだけ公爵閣下が重大視していると言事に他ならない。

 あとタイガ、すまないが公爵閣下にお茶を入れて貰う事に為りそうだ。

 つい、紅茶のすばらしさを話してしまってな。

 是非に異世界の茶を淹れて欲しいとのお話だ」

 

「それは構わない。

 もともとそのつもりだったしな。

 そうだアンナさん、せっかくだからやってみません?」

 

「へっ? 何をでしょうかタイガ様」

「だから、陛下への紅茶を淹れてお出しする事」

「わ、わたしがですか?」

 

「そう。

 どの道俺も付け焼刃だし似たような物だしね。

 さっき淹れて貰ったら、もしかしたら俺より上手かもしれんしな」

「いやいやいやいやいやいや・・・そんな大それたこと!」

 

「大丈夫、ちょっとぐらい失敗しても判りゃしないさ。

 ここにいる者以外、数人しか飲んだこと無いんだから」

 

「いや、・・・それでも」

「君だって男爵家の人間だろう?

 ドレスは私が用意しておくとは言っても間に合わないか・・」

伯爵がサポートしてくれた。

 

「は、はあ・・・かしこまりました。

 ではタイガ様、明日はみっちりとお茶の入れ方をお教えくださいませ」

「そうだな、私も拝謁の際の礼の仕方を教えよう、それともそちらのやり方があるのならそれでもかまわんと思うが。

 公爵閣下はそういう所を気にするお方では無いしな」

「軍式になるので構わなければ」

 

 

「そうだ、それどころではないぞ、すっかり忘れる所だった。

 閣下はヴェルメンティーノでの一件をご存じだったぞ。

 危険を顧みず民を守り単身スリザードを瞬殺した英雄だと」

「いや、あれが瞬殺って・・撃ちまくってるんだけど」

 

「それどころか、マダナル・ステア渓谷の北に巣くう大規模な盗賊団を壊滅させたそうじゃないか。

 そのうえ、渓谷南側の村ではシェルマールも倒したという報告が上がっていると聞いた。

 それで、シントラの代官であるヘンリー・ヴァル・アトレが行方不明との事だ、それについても聞きたいとな」

 

”ここは、すっとぼけるしかないな”

 

「いや、盗賊の砦を壊滅させたのは確かだが、捕虜たちを開放した後俺も知らないな。

 そうか、あの中に代官が居たのか」

 

「あの盗賊団は、大きな額の懸賞金が掛かっているはず、しかし半年も代官はほったらかしの上、行方不明と来た。

 皇帝からも何とかしろと公爵閣下の元に要請が来てるらしい。

 そこへ、盗賊団壊滅の話だ、サヴューの村も救ったそうじゃないか」

 

「そう言えば、そんな事も有ったかもしれないなぁ」

「惚けようとしてもちゃんと報告が上がっているらしいぞ、それについても詳しく聞きたいとの事だ」

 

「いずれにしても明日はきっちり聞かせて貰うぞ」

 

翌日はタブレットで紅茶の入れ方の動画をアンナさんに見せ、一緒に勉強した。

 

「なるほど、大切な事は事前にカップとポットは温めておくこと、茶葉の大きさに合わせて時間を調整する事、沸騰したてのお湯を使う事なのですね」

 

「必要な器具は取り寄せた。

 これは卓上の火鉢だ、薪を燃やし熾になってからこの灰の上に置く、ケトルは事前に沸かしておくと時間が掛からない」

 

「ああ、緊張しますわ」

「俺も一緒だから大丈夫だよ」

「はいっ!」

 

伯爵は皆も飲んでみなさいと、交代で使用人を連れてきた。

まあ、お茶よりラスクの方を気に入った者が多勢なのだが。

練習には料理長はラスクを焼きまくっているらしい。

 

「明日は初めて飲む人ばかりだから、ポットで蒸らす時間を少し少な目にした方が良いかもな。

 苦みも出にくいし」

「かしこまりました」

また、大雅は朝のうちに一口で食べきれる大きさでラスクを作るよう料理長に頼んだ。

 

いよいよ会見の日となった。

朝から伯爵邸は大忙しだ。

ラスクは昨日の内に出来上がっている物の、せっかく乾燥したラスクが湿気てしまっては大変だと騒いでいる。

 

仕方が無いので四角いブリキの蓋付きの角缶を二つ取り寄せ、同時に生石灰を不織布に包まれた物を1kgほど取り寄せた。

せんべいに入っている良く在る乾燥剤だ。

石灰ならここでも入手可能だろうし、焼いて乾燥させればこの世界でも再現可能だ。

 

これに興味を示したのは伯爵だった。

「タイガ、この乾燥させる薬は何故乾燥できるのだ」

 

「水を生石灰が吸い込むからだよ。

 ただ、化学反応と言う一方的な動きだから、水分を吸いきって粉に成れば効果は無くなる。

 この世界にも石灰の取れる場所は有るはずだよ。

 水分を吸った石灰を焼いて元に戻すことは出来るがかなり高温に加熱しなきゃならない。

 だから消費する薪を考えるとコストが合わないんだ。

 伯爵の所にはパン焼き窯で再生して繰り返し使えるシリカゲルという物を置いていくから、石灰岩が見つかるまでそれで凌ぐと良い」

 

「何から何まで本当に助かる。

 タイガは当家の恩人だ」

 

黒糖ラスクと白糖ラスクが二つの缶に入れられ、荷馬車に積まれ、持ち込む火鉢やケトルも積み込む。

同時に馬車に大雅と伯爵そして家政婦長のアンナも乗り込んだ。

アンナ女史はいつもの侍女メイド姿ではなく別の服を着ている。

大雅も今日は第一種礼装の制服制帽だ。

 

念の為ハンドガンだけはホルスターを取り寄せ腰に下げているが、宮殿内でそうそう立ち回る事はないだろう。

 

制服姿に伯爵もアンナ女史も驚いている。

御者と馬車はレンタルだが、手配が付かない場合は宮殿が貸してくれるらしい。

荷物が有る言う事で、通常は宮殿の下で下車し階段を登るのだが、今回はその横の道を馬車で登っていく。

もちろん、騎士の先導付きだ。

 

大きく宮殿が見えてくる。

地球でもこの大きさの宮殿はそうそう見ない。

伯爵が先に降りアンナ女史をエスコートして降りる。

大雅は最後に降り、制帽を被った。

 

午後の陽に肩の肩章の金糸が光り、なおかつ右肩から胸に渡る飾緒が派手だ。

左胸には今まで貰った徽章や記念章などがずらりと並ぶ。

それに左腰には切れないサーベルがぶら下がる、飾りの模造刀なので刃なんてついていない。

パンツが濃紺、上着は夏仕様なので白だ。

それに真っ白な手袋だ、これは会見式が終わるまで外せない。

 

宮殿への内部へと続く階段の両側には近衛なのだろうか、綺麗な装飾のついた鎧を着て槍をまっすぐ両手で持ち、気を付けの姿勢で立っていた。

バチカンのスイス衛兵を思い浮かべて貰えればそれに近い。

同じ軍人としては無視するわけにもいかなかので、敬礼しながら通り過ぎる。

 

「こちらでお待ちください、ただいま護衛隊長のダミアンが参ります。

 それまで暫くのお待ちを」

案内した衛兵はそれだけを言って退室した。

 

「ま、ここでいつものように待たされるのだがな」

伯爵はうんざりとしたように言う。

 

「かといって、お茶をするほどではあるまい」

言っている傍からドアがノックされた。

 

「入られよ」

ドアが開き、大柄なスキンヘッドで立派な髭を蓄えた男が入ってきた。

 

「やあ、久しいなボーヒス殿」

「一昨日は姿が見えなかったがダミエン殿」

「なに、シントラのゴタゴタで忙殺されててな。

 盗賊討伐の部隊を編成し終え、糧食や兵站を手配している所へ盗賊が討伐されたとの知らせだ。

 おかげてその後始末にここ1週間家にも帰れておらん。

 で、貴公が異世界人か」

 

「はい、名は大雅、家名は拝戸と言います。

 この度は会見のお手配感謝いたします」

そう言って、ピシッと敬礼を行う。

 

「ダミエン・デ・ラ・トゥール伯爵だ」

そう言って返礼をする。

 

「さて、この綺麗な御婦人を紹介頂けるのかなボーヒス」

「我が家の家政婦長のアンナだよ、前に紹介してなかったか?」

 

「そ、そうであったか。

 いや、服装も違っていたものでな」

 

そうなのだ、服を用意するといった伯爵だが、衣装の縫製が間に合わないとかで大雅が地球から取り寄せた物だ。

なので、こちらには無い艶のある濃紺のクラシカルロングワンピースやフリルがたっぷり付いた透明感の有る純白のロングエプロンドレスを纏っている。

 

とどめにヘッドドレスやストッキング、ガーターベルト、ボリュームのあるパニエまで入っていた。

もちろん靴も地球産だ。

ジェスターとリアンヌに漫画図で着方を教えた。

30代後半と言え相手は女性である、下手なことは出来ない。

持っている靴も衣装に合わなかった為、急遽取り寄せた。

丸みを持ったトウのストラップシューズだ。

 

こちらで偶に見る正統派のメイド服と違って、とても豪華に見えるし垢ぬけている。

それをちゃんと着こなしているアンナ女史もすごいなと思う。

 

”これ絶対コスプレ衣装を調達してきてるよなぁ”

 

似たようなメイド服ながら、この宮殿の侍女服より派手に見える。

生地に光沢があるうえエプロンの生地は陽があたるとキラキラと光るのだ。

 

「実はこの服もタイガに用意して貰ったんだよ、我が家政婦長ながら美しいだろう」

「あ、ああ本当に驚いたよ。

 じゃなくてだな、私が来たのは段取りを説明する為なのだよ、危うく忘れる所であった」

 

それから段取りの説明が有った。

なんでも最初は謁見式を行うらしい。

付添人としてボーヒス伯爵、そして立会人としてダミエン伯爵、そして大雅だけだ。

アンナ女史は別室で待機し、茶会の準備を行う。

 

「では、参ろうか」

ダミエン伯爵が先頭に立ち、二人はそれに続いた。

 

謁見場所の部屋には20人ほどの貴族やその夫人が列席している。

 

「公爵閣下アンナ・ヘンリエッタ様のご出座!」

 

女公爵が付き人を従い入って来る。

我々は片膝をつき頭を下げた。

 

 

「世のあらゆる悪と非道を絶ち、力なき民を守る誉れ高き異国のウイッチャー、タイガ・ハイドよ!

 シントラの村を救い、大規模で卑劣な盗賊団を殲滅せしめ、また多くの怪物と凶悪なスリザードを単身戦いこれを倒し、ヴェルメンティーノの民を救った事、多大なる称賛に値する!

 よって、トゥサン最高勲章である葡萄樹勲章を与えるものとする!」

朗々と歌い上げる様に男性の声がする。

 

「タイガ・ハイドよ、立ちなさい」

タイガは立ち上がり公爵の前で立ち止まり両足をタンッと揃えピシッと敬礼を行った。

 

「日本国、陸上自衛隊一等陸尉、大雅拝戸であります!」

「よくやってくれました。その栄誉を称え、ここに葡萄樹勲章を与えます」

まるで映画に出て来るような美人の公爵が自ら左胸に勲章を着けた。

大雅はそのまま1っ歩下がり再び綺麗に敬礼する。

 

「さて、貴方にはもう一つ与える物があります。

 片膝を付き頭を垂れてください」

大雅は言われた通りにした。

 

「大規模な盗賊団の壊滅だけでなく多々の怪物討伐、そして新しい文化とその品物を貢ぎ、新しい風をこのトゥサンにもたらした事は、賞賛に値するだけでなく今後のトゥサン発展にも大きく付与する事を評価し、ここに宮廷貴族として子爵位を授けます。

 同時にラ・ラシェーズの名を送ります」

右肩に剣がトントンと置かれる。

 

「新しい貴族の誕生である!

 皆、剣を突き称えよ!」

 

”しまった! 図られたか!

 自分を取り込むつもりか?”

 

日本人が他国の勲章や爵位を受ける事に問題はない。

しかし、問題は大雅が防衛省の職員であり、常勤特別職国家公務員たる自衛官で有る事だった。

不意打ちとは言え、困った事に為ったと大雅は考えた。

 

会場にカンッカンッという剣先を石の床に突き付ける音が三度響く。

 

「はあっ! これで堅苦しい儀式は終わりね。

 お茶にしましょう、喉が渇いたわ。

 新しいお茶を馳走していただけるのでしょう?」

 

急に女公爵はフランクになった。

 

「では場所にテラスを用意してございます」

公爵の付き人が先に立って案内した。

 

「何を突っ立っているのです?

 時間は有限なのよ」

 

慌てて大雅とその一行も後を追った。

 

燦燦と午後の陽が差すテラスは半屋外の様な場所だった。

そこに大きな丸テーブルと5脚の椅子が置かれている。

作りはまるで美術館に有るような緻密で美しい彫刻が施されていた。

 

そこに居たのは、お茶の準備をしているのはアンナ女史だった。

テーブルの上には白い布が置かれた銀のトレーが置かれ、その上には二種類のラスクが山盛りに乗せられている。

 

サイドテーブルには火鉢と沸騰しているケトル、そして茶器一式が乗せられていた。

 

「アンナでしたっけ、お久しぶりね、御父上はお元気?」

「はい、おかげさまで公爵閣下」

綺麗なカーテシーで公爵を迎える。

 

「今日は当家のアンナがお茶を淹れさせて頂きます」

ボーヒス伯爵はドヤ顔で言う。

 

熱湯をケトルからポットとカップに注いでいく。

 

「あれは何をしているのラシェーズ子爵」

「大雅とお呼び頂いて結構ですよ公爵閣下」

「あらそう、ではタイガ、先にポットとカップに熱湯を入れたのは?」

「ポットとカップを温める為です。

 その間にお茶の計量を行いポットに入れる準備をします。

 茶葉の大きさや質でも量が変わり、時間が変わります。

 美味しい茶を淹れるには高度な技術が必要なのです」

 

アンナはカップとポットのお湯を下に置いてある壺に捨てると、計って置いた茶葉の小皿をポットの中に入れた。

そして、ポットの中に熱湯を注いでき、蓋をするとティーポットカバーを被せ砂時計をひっくり返した。

 

「タイガあれは?」

「茶葉がお湯の中で開く時間を計っているのです。

 砂時計と言う私の所では一般的な物です」

 

砂時計が置き切る前、アンナはポットの蓋を開け、1回かきまぜると茶こしをカップに置き注いでいく。

 

「少しづつカップに注いでいるのも理由が有るのですね?」

「はい、カップごとの茶の濃さを均一化する為です」

テーブルの周りに紅茶の香しい香りが漂ってくる。

 

「まあ! なんていい香りかしら。

 森の香をとっても濃くしたような香り・・・落ち着くわ」

 

アンナは、カップをソーサーごと持ち上げ各人にサービスしていく。

「お熱くなっております、お気を付けください」

「公爵閣下、こう持ち上げて先ずは香りをお楽しみください」

 

「タイガ、これは凄い。

 野営で飲んだ物とは全然違うぞ。

 こんなに素晴らしい芳香はしなかった」

 

「ホービス伯爵、アレはティーバックを放り込んだ簡易な物なんだ、ちゃんとした茶器と茶葉、正しい手順で淹れれたものと別物だもの」

 

「では、熱いのでゆっくりとお飲みください」

ホービス伯爵はうっとりと、そしてダミエン伯爵は「ほう・・・これは・・」

公爵閣下に至っては、頬を染めうっとりと味わっている。

 

「茶うけとして黒糖と白糖のラスクを用意しました。

 当家で焼き上げたタイガ様からご伝授頂いた菓子にございます」

アンナは3個づつ銀の小皿に乗せ、各人のティーカップの横に置いていく。

 

「これは?」

「パンを薄くスライスし、バターを塗って砂糖をたっぷり振りかけ焼き上げた菓子です閣下。

 紅茶に合いますよ」

大雅が説明すると公爵は白砂糖のラスクを取上げサクリと食べ始めた。

とたん、次々と食べていく。

 

「これは美味だわ、こんなものが有ったなんて」

「タイガ殿が真っ白な砂糖を提供してくれたものでしてね、これを使うと小麦の味が楽しめる菓子に為るとは思いませんでした」

「本当に! 幾らでも食べれそう」

 

「閣下、これは全くの新しい菓子、砂糖を使う以上安くは出来ないでしょうが、宮廷菓子としては上品で最適と思われます」

「ホービス伯爵、タイガにはこの菓子の対価は支払ったのですか?」

「いや、それが・・・」

 

「公爵閣下、伯爵には私から報酬はお断りしたのです。

 いろいろとこちらの知識を頂いた上、逗留させて頂いてます。

 いっそ、このトゥサンの名物とでもしていただければ幸いです」

 

「むう・・・先ほどから気になっていたが、小皿に乗せたその白い四角いものが白砂糖なのですか?」

「はい、白砂糖を四角く固めた角砂糖といいます。

 主に、お茶に入れて楽しむための物ですね。

 半分ほど飲まれましたら二つほど溶かして飲んでみてください」

 

「しかし、頂いたこの茶器もなんと美しく素晴らしいものですね。

 タイガの国のものてすか?」

「はい。今から400年ほど前に製法が始まり、現在では九谷焼として世界中で人気です。

 あと、今お使いのスプーンはお茶専用のティースプーンと言う小ぶりなものですが、錆びず傷がつきにくく、何時までも美しく輝きます、陛下には記念にこのセットを2セットお持ちしました」

 

侍女が横に置いたテーブルにカトラリーの6人用のカトラリーが2セットある木箱を開いた。

もちろん、ビニールなどの無粋な物は事前に取り外している。

 

「まあ、なんて美しい!

 これは銀ですか?」

 

「いいえ、ステンレスと呼ばれる特殊な錬金で造られた金属です。

 錆びず傷がつきにくい性質です。

 金色に見える縁取りは金ですね」

 

「これが二セットも?

 タイガ、貴方には負担を掛けた様ね」

「いいえ、全て我が国からの贈り物です。

 ご遠慮なくお納めください」

 

「このナイフやスプーンは解るのですけど、これは?」

「それはフォークと言います。

 一般的には左手にフォーク、右手にナイフを持ち自らの皿の中で一口大に切り分け、フォークで口に運びます。

 所作が美しくなり食べやすくなります」

 

「誰かある!」

侍女が早歩きでやってきた。

 

「ラシェーズ子爵の部屋を用意しなさい、明日までに。

 そして、この食器を使った食事方法を伝授していただきなさい。

 よろしいですわよね、タイガ」

 

「構いませんが、一度戻り準備をしてまいります。

 それでよろしければ」

「では、この侍女を子爵の付き人として付けます。

 王宮への連絡や準備に必要なものが有ったら何なりと申し付けなさい」

 

「いえ、それには及びません。

 ただ準備等の都合で1日ほどお時間をください。

 明後日には再び伺わせていただきます」

「ならば、衛兵に申し付けておきましょう。

 案内はこの侍女にさせますので」

 

「公爵付き侍女ビタリア・バグドナスと申します。

 どうぞ良しなにタイガ・ハイド・ラ・ラシェーズ子爵様」

「こちらこそよろしく」

 

”こんな名前中二病まっしぐらじゃないか、地球には知られたくないな”

 

「ところで、タイガ。

 大規模盗賊を壊滅させたのは一人で?」

「いいえ、もう一人腕の立つ女剣士が居りました。

 丁度マダナル・ステア渓谷を超える為にサヴュー村へ立ち寄った際です。

 村は盗賊団の襲撃を受け多くが殺され若い女性は捕らえられたところでした。

 話によると慰み者か奴隷として売るためだそうです」

 

「なんと卑劣な!」

 

「逃げ出した村人は15名ほど、捕らえられた娘は6名。

 村を襲った盗賊は30名程です。

 女剣士に村人の護衛を頼み、自分は村を襲撃していた盗賊を殲滅しました」

 

「盗賊は一人残らず?」

「はい、全て排除・・殺しました。

 その翌日、盗賊団の砦を襲撃、首魁を含め一人残らず亡き者にしました」

 

「ヘンリー・ヴァル・アトレという子爵が捉えられていたはずですが、助けたのですか?」

「さあ、実は捕虜として捉えられている者を開放するのに数人で行った上、砦から火災が発生したものですからかなりの混乱状態でした。

 子爵が居たかどうかは定かではありません」

 

「そうですか、彼は皇帝からシントラの代官を仰せつかっていたのです。

 盗賊に捕らえられたことは彼の副官から報告が有りました。

 だから皇帝からシントラへ兵を送り盗賊の駆逐と代官の救出の依頼が来てたのです。

 しかし、100人にも及ぶ盗賊団と戦うには少なくとも300名以上の兵とそれを支える兵站で総勢500名を越えます。

 そこへそれだけの兵力を派遣する事は100万フロレンスを超える費用が掛かります。

 属国扱いのトゥサンでは負担するのは大きな額です。

 かといって税を増やせば民の反発は必至、たとえウィッチャーの力を借りたとしても難しい事だったでしょう。

 それを貴方は二人で成し遂げた。

 いったいどうやったのです?」

 

「私の武器は銃という物を使います。

 火薬で金属の礫を音の数倍の速さで打ち出し、敵を殺します。

 私の世界では世界中を巻き込む大きな戦争が二度、小さな戦争は数知れず、その度兵器の技術が発展していきました。

 最後には町一つを一瞬で瓦礫と廃墟に変え、一度に数十万人を殺戮する兵器迄作ってしまったのです。

 私の国は仮初の平和を80年ほど過ごしているのですが、それまでは膨大な人の命と血の上に成り立っている国家なのです」

 

「その兵士が貴方なのですね、その銃とはどれほどの威力なのですか?」

「頭や急所に当たれば即死です」

「その礫はいかほどの大きさなのですか?」

「小型の物なら持っておりますので、ご覧に入れましょう」

 

大雅は腰のホルスターからP320を抜いて見せた。

 

「これはハンドガンと呼ばれる個人用の武器つまり兵装になります。

 小型のものはこれの1/3程の大きさで、これはフルサイズと呼ばれる最も大きな部類になります」

 

大雅は普段チャンバーに弾を入れておくことはしないので、マガジンを抜いてしまえば安全だ。

マガジンを抜き1発の9mmパラベラム弾を取り出す。

 

「これが弾です。

 この丸く成っている部分が弾頭といって、後ろの薬莢と呼ばれる筒の中に火薬が入っています」

大雅はいつもはサブマシンガンであるFMG-9に入れてあるフルメタルジャケットを渡した。

 

「こんなな小さなものが?」

「はい、これは軍用に使用されている弾で、体に当たっても貫通したりダメージを少なくするために真鍮という銅の合金を被せてあります。

 これが銃の筒の中、これを銃身と言うのですが、火薬が燃える力で押し出され、だいたい音の速さほどで飛んでいきます、銃と言うのは大体多くがこの原理を使って居ます。

 これより大きなものになりますが、中には弾頭に火薬や焼夷剤という火薬を入れ、あたると爆発したり燃え上がるなどの弾も有ります」

 

「鎧も貫いてしまうのですか」

「モノにもよりますが大抵は。

 相手が鎧や金属鎧の場合は、もっと強力な銃を使用します。

 礫の速さは音の速さの2倍から3倍、この速さになると大抵の鎧や盾は貫きます」

 

「でも、この大きさなら体に当たっても傷は鏃程度では?」

「矢の速度は強い弓でも精々が音の速さの1/6程度です。

 しかし、音の速さほどになると衝撃波という物を伴うようになり、当たって体内に入ると周りの組織を破壊しながら進みます。

 この太さは弾頭によって異なりますが、5センチから8センチ、弾頭の速度が高ければ高いほどこの大きさは大きくなります」

 

「なるほど、こんな小さな物でも急所に当たれば致命傷、足や腕では?」

「すぐには死にませんが太い血管を傷つけられたら失血死でしょうね、すぐに適切な治療が受けられれば助かる事も有るでしょう」

 

「タイガの世界では兵はコレを皆持っているのですか?」

「はい、もっと強力な物を幾つも」

 

「どのくらいの距離から当てられるのですか?」

「このハンドガンだと50mくらいですね。

 軍で使用している小銃だと300から500m、離れた敵を殺す為の専用銃は1000から2500mほどです」

 

「レーシェンの頭を吹き飛ばし、飛んでいるスリザードを落として瞬殺したと聞きましたが」

「レーシェンには一度に9粒の弾頭が飛んでいく特殊な銃と弾を使いました。

 放射状に広がりながら飛んでいく弾なのですが、至近距離で撃たれると吹き飛ばしたようになります。

 スリザードもそうですね、飛んでいる物を1発の弾で仕留めるのは至難の業です。

 だから同時に複数飛んでいく弾を使い、何発かは当たりますのでそれで地上に落としました。

 しかし、まだ生きて攻撃してきましたので、大きめの1発弾を3発撃ち込み動きを止め、最後にこの弾を頭に撃ち込みトドメとしました」

そう言って大雅はマガジンを抜いたP320を公爵に持たせた。

「結構重いのですね」

「大きな銃は抱えるのもやっとですよ」

 

「これは誰でも使えるのですか?」

「撃つだけならだれでも、しかし当てるとなると別問題です。

 きちんと訓練受けないと無理です、最悪は自分を撃って死んだり大怪我ですね」

 

実際、こういう理由を受け、現在大雅が使用する銃火器は体に埋め込まれたIDとは切り離され、通常の銃火器に変えられていた。

これにより煩雑なバッテリーの充電や管理から解き放たれた。

 

「タイガは良く知っていますね。

 国では将軍なのですか?」

「ははっ、とんでもありません。

 精々200人程の兵士を束ねる隊長の位です。

 私の上には3つの左官その上に3つの将官たちが居ます、私なんか下っ端ですよ」

 

「ではタイガ、貴方の軍には階級がいくつあるのですか?」

「16階級ですね。

 一番下は「士」と呼ばれる三階級、その上に「曹」と呼ばれる階級が4つ、曹の上に准尉があり、尉官と呼ばれる3階級、私の階級の一等陸尉というのはここの一番上です。

 ここからは幹部となり、その上に左官が3階級、将官3階級が居るという形です。

 さらにその上は国家を束ねる首相がいて首相が全軍を束ねる最終地位となります」

 

「大分規模が大きいのね。

 兵は何人くらいいるの?」

「すべて合わせると、常時対応が25万人、予備の兵員も含めると30万人ほどになります」

「30万人!」

「まあ、医療の専門家とか事務官も含めますので実働部隊はもう少し少なくなりますが」

 

「話は戻りますが、盗賊団との闘いのとき一緒に戦った女剣士というのは?」

「スケリッジからヴァーデンに入り、ボドログからシントラに入ったときに瀕死の彼女を見つけました。

 幸い私が持っていた医療技術と薬で事なきを得ましたが、回復後サヴューの村まで同行し盗賊団の襲撃を目の当たりにしたのです。

 彼女は年の頃20歳くらい、名はフィオナと名乗っていました。

 盗賊団を壊滅後別れたのでその後の消息は分かりません」

 

「フィオナ・・・・聞いたことが有りませんね。

 出身地などについては何か聞いていたのですか」

「いえ、聞き及んでおりません閣下」

 

「そうですか、また会う機会はあるのですか」

「時期は判りませんが、ここトゥサンで会う約束をしております。

 それが何か?」

 

「いや、盗賊団には懸賞金が掛かっていました。

 盗賊団を潰した者には総額10万フロレンスと言う金額です。

 しかし、一向にこれを討とうという者は出て来なかったのです。

 結局賞金を25万フロレンスまで上げてもダメでした。

 ですが軍を編成しシントラ迄向かわせるとなると、先ほど言ったように100万フロレンスを越えます。

 シントラの代官と折衝している最中に強盗団に捕らえられたという方が入り、それが皇帝の耳まで届き、私の所へ要請が来たという次第です。

 そして半月ほど前副官までもが殺され、犯人と思われる代官は行方知れず。

 書置きでは、副代官の盗賊団との密通が記され、一切の領地を捨て爵位を返上する事が記されていたそうです」

 

「皇帝陛下は何と?」

「領地と爵位没収の上、追放です。

 無能者には厳しい方ですから、ただ手持ちの財産迄没収しなかったのは陛下の温情でしょう。

 彼は長きに渡り帝国に貢献して来ましたので」

 

「そうでしたか、まあ彼女に会う事が有れば何か新しい事が有れば聞いておきましょう」

「お願いしますね、25万フロレンスは貴方に預けます、そのフィオナと言う女剣士と折半するか割合を渡すかは協議して決めてください」

「仰せのままに」

 

「あと、先ほどから気になっていたのですが、彼女のメイド服。

 見た事も無い程綺麗で瀟洒な作り、そしてデザインこれは何処で手に入れたのですか?」

そう言ってアンナを掌で示した。

 

「実は、会見が急に決まったものでして私が準備する予定でしたが間に合いませんでした。

 それで、タイガ殿に泣きついた次第でして・・・」

「なるほど、だからなのですか。

 これは貴方の国の生地や縫製なのですか?」

 

確かにアンナを見る侍女たちの羨望と嫉妬の眼差しは大雅も感じていた。

 

「はい閣下。

 わが国で造られた生地と縫製、そしてデザインされた物です」

「素晴らしいわ、では向こうから取り寄せられる手段が有ると?」

「はい、いろいろと重さや食料は出来ない等など制限は有りますが、衣類や物品などは可能です。

 ご所望なら取り寄せますが」

 

「貴方の世界ではこのよう魔法が普通なのですか?」

「いいえ、これが出来るのは私だけです。

 一応魔法という物が使えなければ使えないそうで」

 

「正しくウイッチャーなのですね」

「まあ、魔法の方はしょぼいですけど」

 

「では剣や槍の武器なども取り寄せられるのですか?」

「可能ですが、既にそれらは美術品や歴史的文化財となっており、我々の戦いでは使用されなくなり既に数百年、今では文化遺産として展示されているだけです。

 一般的なものではなくなってしまいましたので、持っている者もほとんど居ません」

 

「武器は銃と言いましたか」

「ええ、それが主流ですね。

 後は砲と呼ばれる大口径の銃ですね。

 小さなものは女性の拳ほど、今は使われなくなりましたが人と同じくらいの大きさの砲弾もかつてありました」

「戦いが沈静化したのですか?」

 

「いいえ、空を飛ぶ機械と空を自ら飛ぶ爆弾で、大きな砲を積んだ船が陳腐化したのです。

 今は40mm程度から200mm程度の砲が一般的になっています」

「空を飛ぶ機械と爆弾ですか・・・戦いが全く違ってしまうのですね」

 

「ええ、その通りです。

 結果、多くの兵や人が短期間で亡くなります。

 特に我々が核と読んでいる兵器は、1発で半径1km以内の人々はほぼ確実に即死。

 半径7km以内の人々も高確率で死に至ります。

 半径13km以内にいた人々も重い熱傷を負い、半径21km以内の人々も傷を負います。

 しかも強い爆風で、多くの建物は倒壊、燃え上がります。

 残る物は炭のようになった遺体と瓦礫、一つの大きな町が消え去ります。

 この特殊な爆弾を私の世界は1万2千発以上保有してしまいます。

 ですが、これを使えば自らも敵に使われる為、安易に使えなくなったほどです」

 

「一万二千も・・・」

「はい、世界全てを5回も亡ぼせる量ですね」

「なんと愚かな」

「まったく同感です閣下」

 

話を聞きながらラスクに嵌まったのか、サクサク、ザクザクと皆の胃袋に消えていく。

 

「今日はたくさん珍しい物と美味しいお茶を頂きました」

「楽しんで頂けたなら光栄です閣下。

 紅茶の大袋入りを5袋程持ってまいりましたので、暫くは宮殿でも楽しめるでしょう」

 

「閣下、その件でお願いがございます」

伯爵が声を上げた。

 

「願い?」

「はい、実はこの茶の種を子爵より譲り受けました。

 この栽培と製茶を行いたいと思いまして、つきましては植物の魔法に長けた者をご紹介頂きたいのです」

 

公爵は少し考えて言った。

「判りました。

 魔術師については後で相談しましょう。

 あと、何としても紅茶の製造を成し遂げるのです。

 必要な物が有ったら申告を行ってください」

 

結局、お茶をしながら大量にあったラスクは殆どが消えてしまった。

まあ、主に伯爵たちや侍女たちのお腹に消えていった訳だが。

 

「まだまだ聞きたいことは山ほどあるのですが、今日の所はこれでお開きにしましょう。

 タイガ、銀行の口座は持っていますか?」

「はい、シアン・フェネリ銀行のものならございます」

 

「ではダミエン、明日にでも口座鍵を持ってタイガを伴い銀行で盗賊団討伐の報奨金25万フロレンス、それとスリザード討伐の報奨金5000フロレンス、合計25万5千フロレンスを大雅に渡してください」

 

「そうですなそれだけの金額だと一人では持てない程の重さとなります。

 保管も困るくらいでしょう」

 

公爵とダミエンは席を立ち部屋を出て行った。

 

 

「ふう・・・アンナ済まないがもう一杯お茶を淹れてくれないか」

伯爵も緊張していたのか椅子の背もたれにもたれかかった。

 

「そう、なんとか凌いだ・・・かな?」

 

「お疲れ様だなタイガ」

伯爵がねぎらってくれる。

 

「私も5回もお茶を淹れてクタクタです。

 お腹も空きました」

アンナが肩を落とす。

 

「アンナもお疲れさま、座ってお茶でもしたら?

 幸いラスクも少し残っているし」

「そうですわね、伯爵構いません?」

「勿論だとも、紅茶の入れ方も完璧だったし、立ち居振る舞いも優雅で素敵だったよ。

 よくやってくれた」

 

ふとテーブルの上を見ると、銀色の大きな皿に果物が山盛りに乗って居た。

普通は手を付ける事は無いのだが、大雅はその中から緑色の硬い柑橘をみつけた。

 

 

「せっかくだから、紅茶の味を少し変えて頂くとしようか」

折り畳みナイフをポケットから出し、ザクッと切ってみると丁度レモンとカボスの中間の様な香りだ、少し口にしてみると軽やかな酸味と芳香がする。

 

「シトリンの実ですね。

 凄く酸っぱいですよ、まだ緑だし。

 彩に置いてあるだけで、誰も手を出さないで果実ですが」

「それが良いんだよ、これを浮かべて砂糖を入れると美味しいと思うよ」

 

タイガはシトリンの実をサクサクとスライスしていった。

アンナが新しいお茶を各カップに注ぎ、自らもタイガの隣に座った。

タイガは彼女の前に、ラスクの皿と角砂糖の皿を置いてあげる。

 

「ありがとうございます子爵様」

「いやいや、今更子爵は勘弁してくれ。

 今まで通り、タイガでいいよ」

「あら、こんなにお優しいから求婚でもしていただけるのかと」

 

伯爵が紅茶を吹き出し、同時に笑い転げる。

 

「これは傑作だ!

 是非貰ってやってくれ!」

「伯爵、冗談にも程があります。

 アンナ女史に失礼でしょう」

 

「あら、お優しいし昔の旦那の様にかっこいいし素敵だと思いますよ」

「勘弁してください、アンナさん今までモテた事なんか無い男ですよ」

 

「まあ、アンナもご主人を亡くされてから・・・」

「もう、15年でございますわ伯爵」

「それはお悔やみ申し上げます」

「もう、昔の事ですわ」

 

「そうでもなかったぞ、ダミエンが顔を赤らめて君を見ていたのだよ。

 あれは脈ありだな」

「そ、そんなまさかぁ、伯爵もお上手です事」

 

「ダミエン伯爵は独身なのか?」

大雅は聞いてみた。

「妻が居たが10年ほど前に病で亡くされてな。

 それ以来独身だよ」

 

「そう言えば、公爵閣下は?」

「首都ゴールデンタワーからお輿入れされたのは8年前だ。

 まだ公爵が17の時だよ、当時トゥサン王国だったここにきて、それから2年と経たずに王は亡くなられた。

 子供は一人いるがゴールデンタワーで体のいい人質だ。

 アン・ヘンリエッタ様が公爵位を受けられニルフガードの属国トゥサン公国となった」

 

”なるほど、数えで25歳、満年齢24歳か・・にしちゃ少し老けて見えるが苦労したんだろうな。

 だとするとエムヒル皇帝の後釜としても十分に可能性は有る訳だ”

 

「まだまだ若いのにもったいない事だ」

「あー美味しいですわぁ。

 幾らでも食べられそう」

アンナ女史は上品ながらも結構な速さでラスクをサクサクと消化していった。

 

 

「おおっ、まだ居てくれたか!

 丁度良かった、陛下からラスクの作り方を教示して貰える様との事でな」

ダミエンが大股で歩いてきた。

 

「なら、私の所からウチの料理長を来させよう。

 パンは白パンを細く焼いたもの、貴重な白砂糖は私が融通しよう。

 構わんよなタイガ殿」

 

「そうだな、料理長の分は伯爵に渡した物を使ってもらうとして、宮殿で使用する分は次回来た時にでも白砂糖は取り寄せよう、暫く持つほどの量を」

 

「助かる、費用は後日相談させて欲しい。

 あと、公爵閣下が5日後に練兵場を空けておくよう仰っていたから、多分タイガ殿の試射をご覧になりたいのだろう。

 可能か?」

 

「出来ない事は無いが、結構でかい音がする、馬が暴れたり驚く者が居ないよう手配願いたい。

 あと、生き物の標的は止めてくれ、たとえ罪人でもな。

 それと、的の後方には土や砂を詰めた袋を二列に積み上げてくれ、それでも・・危ないから後方は弾が当たっても問題の無い方向にしてくれると助かる」

 

「あい分かった、期待しているぞ。

 ああ、忘れる所だった、コレを渡さねば」

そう言って一枚の羊皮紙の書類を渡してきた。

 

「貴公の子爵位を証明する書面だ。

 宮廷子爵だが特に役職も無いし義務は精々公国と帝国に仇なす行為をしない事、戦いの参加義務から免除刺されることだが、その代わり俸給は無い。

 まあ、ここにいる間は臨時相談役として日に200フロレンスの俸給は出るがな。

 私も貴公の武器には興味が有る、ハンドガンという物を持っていたが、ここで撃つのは危険なのか?」

 

「そうだな、これでも結構な音がするし、周りは石だ、弾はめり込めば問題無いが宮殿を傷つける訳にも行かないだろう。

 それに跳弾という問題も有る、モノにあたると跳ね返ったりするんだ。

 これでも怪我をする場合が有るからな」

 

「たしかに、それは不味いな。

 兵士ならば体術や剣は使えるのか?」

 

「剣は子供の頃少し振っただけだな、素人と思ってもらっていい。

 体術やナイフならみっちり訓練を受けたからそれなりに使えるぞ。

 ただ、俺のは相手を殺す物だから止めておいた方が良い、大怪我で済めば幸運だよ。

 母国では一応兵に近接戦闘を教えていたからな」

 

「ほう、部下にもナイフ使いが居る、是非手合わせしたいと騒ぐだろう」

「木で出来た模造ナイフなら怪我も少ないだろうが」

 

「ちゃんとあるぞ。

 真剣でやったら戦いどころじゃなくなるからな、刃を潰したもので、切っ先には丸い球が付けられている訓練用のものだ。

 しかし、惜しいな。

 剣なら私も手合わせ願いたかったが」

 

「うん、それだと3秒で負けるな、自分が」

 

「わはははっ、面白い男だ。

 私の事はダミエンと呼んでくれ」

「では私は大雅と」

「うむっ、では明日昼前に行く、ホービスの所で待っていてくれ」

「解った、明日は宜しく」

 

その日は、それで宮殿を辞した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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