Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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公爵の危惧と窃盗未遂

 

 

 

大雅は朝のランニングを済ませると何時ものタクティカルスーツに着替えた。

地球のヨーロッパに在る古城は多くの場合練兵場を持っている。

今日走っていて始めて見たがやはり宮殿内の裏手の方に練兵場が有った。

 

ダミエン伯爵に聞いてみると「では案内しよう、丁度訓練場へ行こうと思ってたところだ」と腕をしっかりつかまれ、引きずられる様に連れて行かれた。

 

「もう少し広くしたいところだが、戦争も無いのに不要でしょうとディミナスが首を縦に振ってくれぬのだ。

 怪物は一時期より減ってはいるが騎士たるもの常に訓練を怠る訳にはいかぬ」

 

大雅は世界が変わっても似たような物だと思う。

 

「皆の者聞けーいっ!

 今日は異国のウイッチャー、タイガ・ハイド・ラ・ラシェーズ子爵殿が鍛錬を見学される。

 トゥサンの騎士として恥ずかしい姿を見せる様な事は許さん!」

 

”いや、自分の名が恥ずかしいんだけどね”

 

甲冑を着た騎士の訓練なぞ地球でもそうそう見られる物じゃない。

訓練は刃を潰した剣だが甲冑が無ければ相当に痛いだろう。

まるで映画の様な甲冑姿でく訓練が行われる。

 

「良し休憩!

 こんな感じだタイガ。

 なかなか勇ましいだろう」

 

「ええ、甲冑を着てあの動き、よく訓練されてますね。

 わたしなら直ぐにへばってしまいそうです」

 

「ナイフ使いは集まれぇっ!」

広場の端から数人の男たちが走って来た。

甲冑ではなく軽量な皮鎧に部分的に金属が打ち付けられたものだ。

 

「お前たちの中で手合わせしてみたい者は前へ出よ」

二人の男が歩み出る。

 

「ダミエン伯爵このナイフ使いの兵としての運用方法は?」

「狭い城や建物の中で剣や槍を使うのは難しい、そう言う時は彼らの出番だ。

 是非訓練を付けてやってくれ」

「それは構わないが怪我しないかねぇ、皮鎧とは言え結構重量あるでしょうに」

 

突然一人のナイフ使いがトンボを切る。

大雅は少し驚いたが、蹴りでもなく前へトンボを切るのは悪手だ。

敵に近づくのであれば前転の方が早い、まあ死角が出来る段階で前転はあり得ないのだが。

敵から距離を取るのであれば解るが、それだって後方へ普通に下がった方が距離も早さもメリットがある。

 

大雅は訓練用のナイフを借りると一人目の男と向かい合った。

腰を低くし両手にナイフを持っている。

突然男が左前足で蹴ってきた。

スッと半歩だけ下がりつま先が空を切らせ、次に伸びてきたナイフを持った右腕を掴むと引き寄せながら相手の喉へと絡ませそのまま押し倒した。

「グワッ」

 

受け身も取れず倒れるが、立ち上がるとそれに逆上したのか両手のナイフをむちゃくちゃに振ってきた。

大雅は腰を地面近くまで落とすと相手の膝裏から足を払った。

 

「ケヘェッ」

そしてすかさず手に持ったナイフを首筋に当てる。

 

「ほい、ワンダウン」

「それまでっ!」

 

次の男は片手ナイフだが左手に小型の縦を持っている。

この男も右手のナイフを突き出してきたが、右腕で体と挟み無効化しながらナイフを持った右手首を極め、くるりと男の背後に回りその瞬間には頸動脈にナイフを当てた。

 

スッとナイフを引き「はい、ツーダウン」

 

「それまでっ!」

大雅は本職つまり騎士と戦うのは初めてだ。

今までは精々騎士崩れ程度で、精鋭ともいえる宮殿の騎士レベルとは全く違う。

 

「流石だタイガ。

 何かアドバイスは有るか」

 

「そうだな、最初のナイフ使いは倒される時無防備のままだ。

 倒されまいとな、だがそれは相手の思うツボだ。

 倒される最中にもどんな体制で有れ攻撃の手を緩めない事だ。

 あと、受け身が全く取れていない、ここは土の上だから良いが石の上だったらすぐには立ち上がれない。

 二人目はスピードも防御も悪くは無いがナイフと言うのは簡単に素早く持ち手を替えられる。

 そうすれば右手のナイフを封じられたら攻撃の手段は無くなるに等しい。

 攻撃と防御は素早く手を替えられる事だ」

 

「「ありがとうございましたっ!」」

 

「次は俺にやらせてくれないか」

「ダンズルお前は騎士でさえないではないか、しかも武器はメイスだろう!

 引っ込んでおれっ!」

「いや、ダミエン伯爵構わないよ、これでも近接戦闘の訓練は嫌と言う程積んできているからね」

「大丈夫なのか?」

「さあね、やってみないと解らん」

 

身長は190を超えているだろう、筋骨隆々と言ったところだがこういったタイプはスピードが無く力だけは強い。

捕まえられると厄介だが。

 

「では、はじめっ!」

メイスを振りかぶりながら前に出て来る所をスウェーで交わし次の瞬間には前へ出た。

左足で相手の右腕に足を掛け、右足で顎に巻きつけロックする。

後は簡単だ、両手を地面につき体を自重+相手の体重が加算され相手の体は宙に舞う。

受け身も取れず地面にたたきつけられた。

 

普通の相手には多少危険な技も相手の筋力を見て大事には至らないだろうとの判断だ。

大雅は意図的に相手が立ち上がるのを待っていた。

それが余計に気に障ったのか大振りに横殴りでメイスを振ってきた。

 

大雅はメイスが振り抜けた途端横をすり抜け、膝の裏を蹴り膝を付かせて顎に腕を掛け引き倒す。

もんどりうつ様に後頭部から落ち気を失った。

首元にナイフの刃を当てる。

 

「それまで!」

 

「おいおい、ダンズルを倒してしまったぞ」

「見た事も無い体術だ」

見ていた騎士が騒ぎ出す。

 

「見事だったぞタイガ」

「まあ、こんなものですね」

 

「ようし、訓練にもどれぇ。

 今負けた奴は練兵場を10週だ!」

 

「タイガ、体術の訓練だが時間の有る時で良い施してやってくれないか」

「出来ない事は無いけど、いずれも初歩的な物になるよ。

 素人に毛が生えた程度かな、訓練には何年も掛かる。

 それより今の訓練の方が余程戦場じゃ役立つだろうな。

 付け焼刃程度じゃあまり役に立たないぞ、基本反射的に体が動くぐらいに訓練しないと実戦では使えない」

「ん、それも確かにそうだな」

 

大雅は騎士たちの訓練を見ながら結構感動していた。

ファランクスという密集陣形で盾と槍を構える姿は生でそうそう見られる物ではない。

 

「どうだ、タイガこの密集陣形は破れまい」

「そうだね、ナイフしか持ってなかったら速攻回れ右して距離を置くね」

「銃という物なら可能なのか」

 

「この密集陣形って近接が1列、矢の防御が1列の二列か。

 何人ぐらいの隊列なの?」

「そうだな重装歩兵と言うのはそう多く用意できる物でもない。

 地形にもよるが1列20人ほどだ」

 

「ここの盾がどの程度の防御力を持っているかに寄るけど、多分行けるかも。

 1秒、つまり「ああ」と二音言う間に10発の弾が撃てる。

 それも遠くからな。

 密集陣形を取られる前に殲滅が可能だろう」

 

「ふうむ、銃と言うのは凄い物なのか」

「俺だったら、相手が銃持ってたら速攻で隠れるね、カバーって言うんだけど銃が打ち抜けない物に隠れる、そして相手を伺うんだ。

 板なんて簡単にぶち抜いてくるから」

 

ダミエンは近くに有った訓練用の盾を持ってこさせた。

「これは訓練用の盾だ、だから本番用の盾より厚く重くしてあるこれを撃って見てくれ」

そう言って近くの騎士に盾を持たせた。

 

「いやいや、盾持ってたら危ないって。

 盾をなんかに括り付けて、両側に土嚢でもおいてよ、跳弾こわいし」

 

わらわらと騎士たちが準備を始めた。

その間大雅は部屋からAKMSを持って来た。

 

盾を円形に取り囲んでいる。

「あー、悪いけど全員こっちに、跳弾も当たれば痛いじゃすまないからね」

 

AKMSだと僅か30メートルの距離では外しようもない。

なのでフルオートでぶっ放す。

 

ババババババッ

最初の六発ほどで盾は穴だらけどころかボロボロになり盾の形を失いかけてる。

ババババババッ

ババババババッ

 

盾は枠も含め粉々になり散らばった。

 

「こんなものかな」

騎士たちは唖然と盾を見つめていた。

 

「すさまじい物だな」

「ね、隠れるしかないでしょ」

「防ぐ方法は無いのか」

 

「この世界の材料では無理だろうね。

 隠れたってグレネードで行動不能になるし」

「グレネードとは?」

 

「小型の爆弾を飛ばすのさ、威力は見た目大した事無いけど無数の破片が周囲に飛んで相手を死傷させる」

 

「此処で撃てるか?」

「危険だから止めた方が良い、殺傷半径は10歩分程度だけど50歩分くらいは破片が飛び怪我をする可能性が有る」

「それ以上離れれば安全か?」

 

「そうだな、練兵場の端でしゃがんで身を屈めて居れば、でも言っとくけど結構地味だよ?

 音もデカいし、騒ぎになっても知らないよ」

「それでもかまわん。

 おい、剣の研修台の木人兵を持ってこい」

 

木人が5体並べられ大雅は真ん中の木人に向けて土嚢の陰からVOG-25榴弾を放つ。

 

 

バンッ

バアァンッ!

 

練兵場に大きな音が響いた。

的になった木人は木っ端みじんとなり、両側の木人も吹っ飛び壊れている。

一番外側の木人は辛うじて立っているだけで、破片があたった所はボロボロだ。

 

 

公爵が必死の形相で慌てて走ってきた。

 

「な、何事ですか!」

「ダミエン伯爵、弁明は宜しく」

 

大雅は公爵への対応をダミエンに任せ部屋へと戻った。

 

 

翌日は銃のゼロイン調整を行った。

もちろん宮殿では騒ぎになるので宮殿から少し離れた所だ。

AKMSは地球で使用するのと同じで精々100m程度のレンジなので気にしないが、バレットM99や狙撃銃のM24SWSは調整しないと使い物にならない。

遠距離では無いが500mでゼロインを調整する。

100から始めて次に200と順に調整していく結構な面倒な作業だ。

1000mでの調整なぞ頭が痛く成る代物だ、まあこちらでは使う事が無い距離だが、この距離になるとスポッターが居ないとお話にならない。

 

 

そしてその翌朝、大雅は再び練兵場にきていた。

今日は公爵や他の貴族たちに銃のデモンストレーションを行う日だ。

 

的も整備され、盾や木人に着せた重装歩兵の甲冑だ。

其れとは別に後ろには水を満載した樽が置かれている。

その後ろが土嚢で壁になっている。

そして鉄で出来た丸い的、この一週間をかけ鍛冶屋が打った的だらしい。

ご苦労な事だ。

 

鉄と言うのは炭素成分が高い程硬くはなるが脆くなる。

一般的に目にする鉄で最も丈夫なのは鉄道のレールだ。

鉄に少な目のカーボン、マンガン、クロムを混ぜ熱間鍛造後焼き入れされる。

結構鉄の内では固く粘りの良い材質なのだ。

 

しかし、人の手で打った物ならこんな強度は出ない。

どの程度の材質か判らないが打ち抜けるか割れてしまうだろう。

 

ハンドガン、アサルトライフルの試射を行った後、その鉄板が運び込まれてきた。

使用するのはM99バレット、弾はラウフォスMk211というノルウェー製の弾だ。

ジルコニウムとRDX火薬が仕込まれ、弾芯としてタングステンの芯材が入っている。

前述のレールでさえ横や下からなら打ち抜く威力を持っている。

 

ジャコン

弾頭が先端が緑と白に塗られた弾が込められた。

 

ズドンと言う音共にカーンッと言う音が響き火花が散る。

大雅からも綺麗に穴が開いているのが見える。

2射目を撃つと的は割れてしまった。

 

「タイガ良い物を見せて貰いました。

 数日前あなたが倒したシェルマールの見分書が届きました。

 これも最後の銃でたおしたのですか?」

「はい、なにせ初めて見る怪物でしたので強い弾を使いました」

 

「こちらでも火薬が有れば作れる可能性はあるのでしょうか」

「作れても精々50m程度の射程のものでしょうね。

 自分が使って居る銃とは比べ物になりません」

 

「私が心配しているのは他国などで銃が開発されないかと言う心配です。

 全く戦い方が変わってしまいます」

「それには心配は及ばないでしょう。

 先ずは火薬が一般化しないと無理です。

 そうなっても、銃は作るのに髪の毛の太さの100分の1ほどの精度の有る工作機械が必要となります。

 火薬の秘密はウイッチャーが握ってますし、よしんばこれが解ったとしても銃を作る技術は別物です。

 製鉄技術、工作技術、加工技術が進歩しなければ作る事は出来ないでしょう。

 ただ、手榴弾は作る事は可能でしょうね。

 実際にウイッチャーが援用していますし、厚めの小さな壺でも火薬を詰めれば同じように作れます」

 

「でもそれで即死する事は無いのでは?」

「ええ、直撃しない限りはそうでしょうね。

 でも榴弾は殺す為ではなく敵を行動不能にする事なんです。

 例えば一人がそれを喰らって行動不能になれば、誰かが助けますね。

 ほら、戦場から最低2名が一時的とは言え離脱するわけです。

 戦闘の目的は相手を行動不能にする事であって殺すことが重要ではないんです」

 

「なるほど、では戦場に火薬が出て来た時は要注意という事ですね」

「はい、こういった武器の類は戦争で急速に発展します、より強くより小さくね。

 私が持っているのはこの榴弾ですが銃を使って打ち出します、400m先まで届きます。

 そして着弾した半径6メートルに居る者は死ぬか怪我をして行動不能になります」

そう言ってVOG-25を見せた。

 

「こちらの人間でも撃てますか」

「撃つだけならできますが当てるとなると話は別です。

 訓練しないと兵力として使う事は無理でしょう」

 

「ならば手に入れる事は可能ですか?」

「それも難しいです、我が国は兵器の輸出は基本しません。

 狩猟用や有害駆除用途なら可能でしょうが、いずれにしても国交のない国には無理でしょうね。

 あと、銃が入れば戦いも全く変わってしまい、さらに多くの人が死にます。

 いとも簡単に。

 私としてはあまり持ち込みたくない代物なのです。

 それに兵器と言うのは維持も運用も莫大な金がかかるのです。

 それこそ、閣下が思っている以上に」

 

「判りました、では今の所他国特に北方で使われる危惧は無いのですね」

「ええ、今のところは。

 ただ、火薬が出てきたら要注意です。

 火薬が有れば大砲が作れます、最初は稚拙で大きな弾を打ち出すだけでしょうが、これでも城壁や建物は破壊できます。

 もし、その砲弾に火薬が仕込まれれて爆発するようになれば悲惨な戦いになるでしょう。

 私の世界では500年以上も昔から戦いに使われ数々の歴史を変えてきました」

 

大雅が公爵と会談している間、大雅の部屋で大雅の持ち込んだケースと格闘しているビタリア嬢が居た。

もちろんケースにはセンサーが付けられ同時に部屋に設置されたカメラが起動する。

 

「あと、閣下。

 今必死にビタリア嬢が私の持ち込んだケースを開けようとしていますが、これは閣下の差し金ですか?」

 

「ダミエン!

 すぐさま子爵の部屋に向かい、ビタリア嬢を連れてきなさい!」

「ああ、ビタリア嬢には手荒にしない様に願います」

大雅は付け加えた。

 

ダミエンはすぐさま走っていき、数分でビタリア嬢を連れて戻ってきた。

 

「ビタリア、申し開きは有りますか?」

「申し訳ございません、どのようなお叱りを受けても」

 

「ビタリア嬢、何故ケースを開けようとしたんだい?」

大雅は裏が知りたかった。

 

「私の一存でございます。

 ひ、平にご容赦を!」

 

「自分は何故かを聞いているんだ。

 誰の思惑なのかは聞いていない。

 開けてどうするつもりだったんだい?」

 

「銃が・・・あれが有れば戦いが変わるかと・・」

「なるほど。

 でも先ほど公爵閣下にもお話したけど、1丁や2丁の銃で戦いが変わる程の力は無いよ。

 それに使える様になるまで大きな費用が掛かる。

 供給できるのは自分の世界だけだし、国交のない国に武器をる事はない。

 よしんば手に入れたとしても、その大きな費用は国を傾けさせ、この世界に金銀は流出してしまう。

 そうなると、この世界は経済的に破綻するよ?」

 

「ビタリア、王宮の出入りを禁じ、暫くは謹慎とします。

 あと、子爵かせ譲り受けたカルメ焼きの手法、材料は全て没収とします。

 下がりなさい」

 

ビタリア嬢は両腕を侍女に支えられダミエンと共に出て行った。

 

「閣下、彼女も国を思うあまりの出来心だったのでしょう。

 寛大な御処置を」

 

「タイガ、代って深く謝罪いたします。

 長年私の手となり仕えて来てくれてのですが、こんな事に為ろうとは」

 

「それこそあまり重い罰は与えるべきではないでしょう。

 今回の事は先ほどの事で終わりにできないでしょうか」

 

「タイガがそう言うのであれば・・・」

 

”黒幕は公爵の可能性が高いな、後でホービス伯爵とダミエンを動かしてみよう”

 

大雅の使用しているケースはそう簡単に開くものではない、高強度の高密度ポリプロピレンに内部にカーボン繊維が埋め込まれたものだ剣やナイフで切ろうとびくともしない。

そのうえロックは大雅の体内に埋め込まれたIDと指紋認証がなければ解除できない。

 

 

翌日大雅は気分を変える為に宮殿の北の方へと足を延ばした。

数匹のグールやドラウナーがうろついていたが、向かってこなければ無視した。

大雅が探して居たのはアラキスだ。

このところ甘い物と肉ばかりの生活だ、偶にザリガニが出て来るが大抵チャウダーとなっている。

 

暫くぶりでカニでも食べたかったが、カニと来たらアラキスと大雅の脳内では決まっていた。

その為に保冷バックと化学冷却剤のパックまで用意したのだ。

それほど、アラキスは旨いのだ。

そして午後に成ろうかと言う時にやっとアラキスを見つけた。

残念ながらアーマーアラキスでは無いが、アラキスも同じく食べられる事を確認している。

 

そっと近づき、正面からサボットを叩きこむ。

撃ち込まれた弾はアラキスの重要な内臓をめちゃくちゃに破壊し、声も上げれずアラキスは蹲る様に倒れた。

念の為ハンドガンで花の様な部分に撃ち込んだが反応はない。

大雅はナイフを取りだすと捌き始めた。

 

体幹部分には毒袋が有り弾頭でグチャグチャになっているから手を付ける事はしない。

裏返しして足の第2関節から柔らかい部分に刃を入れ切り離す。

用が有るのは第一関節から第二関節までの足だ。

第一関節から先は筋ばかりで喰えるところがほとんどない。

軽く水洗いし保冷バックに入れ化学冷却剤のパックと共に入れていく。

 

「よし、こんなもんで十分だな宮殿に帰って茹でて貰うとするか」

 

 

「帰って来たか、公爵閣下が話が有るとの事だ」

帰った途端待ち構えていたダミエンに捕まった。

 

「わかった、獲物を厨房に渡したらすぐ行く」

「何か取って来たのか?」

「ああ、旨いものだよ」

 

 

「タイガ忙しい所すみませんね。

 実はビタリアの刑を決めかねています。

 どうしたものかと」

 

「窃盗は未遂でしたし、私にも実害は有りませんでした。

 なので窃盗は確定していないというのが事実です。

 彼女の罪は窃盗未遂ですので刑を減じてはと思います。

 なので既に謹慎、既得権益の没収が確定していますので、自分としてはそれで充分です」

 

「しかし、それでは示しがつきません。

 かといって厳しい罰をあたえるには・・・」

 

「ならば、侍女の解雇という形でいかがでしょう。

 解雇を持って謹慎解除が妥当でしょう。

 窃盗未遂なら順当な罰かと、あと父親が関与して居なければ本人への罰だけで良いでしょう。

 自分の世界でも関与が無ければ家族は罰を受ける事が有りません。もちろん裏を取る必要は当然ですが」

 

「わかりました、それを考慮して審判を下すこととしましょう。

 ところで今日は何をしていたのですか?」

「ええ、ちょっとした獲物を取りに」

「獲物? 鹿や猪ですか?」

 

「美味しい物ですよ、そうだ今晩如何です?

 いま、厨房で茹でて貰ってますから」

「タイガの美味しい物と言うのなら頂きましょう。

 楽しみにしています」

「そうですね、ワインは合わないでしょうから蒸留酒を薄めた物が良いでしょう」

 

大雅は厨房へと向かった。

「子爵様、言いつけ通り軽く塩茹でしてから蒸しましたが、こりゃ何でしょう?」

「ああ、北方で何度か食べたんだがとてもうまくてね。

 ちょっと捌くのにコツが居るんだが旨いんだよ。

 こっちじゃなかなか見つけられなくて苦労したよ」

 

「へえ、そんなにうまいんですか」

「ああ、塩水で茹でただろう?

 これで塩味の下味がつくんだ、で蒸すとうま味が濃縮され絶品に変わるって寸法だよ。

 まだちょっと熱いけど食べてみると良い」

 

そう言って、取り出したのは大きな金切鋏だ。

アラキスの殻は厚く硬い、だからカニのように調理鋏などでは切れないし、ナイフを差し込みそこへ金切鋏を突っ込み縦に切っていく。

カニと同じで裏半分は柔らかいのだ。

 

「で、関節部分から何本かある筋を引き抜き、ナイフを入れぐるっと回すように切ると・・。

 ほら、コレで食べやすくなる、で、塩と砂糖ビネガーを薄めた物をつけて・・・んっ!旨い!」

 

われ先にと料理人たちが群がる。

「ザリガニとも違うな、柔らかくて旨い!」

「ホントだ、こりゃ旨い!」

「俺、クラブを食ったことあるけど似てるな・・・」

 

「で、なんなんです? これ」

「アラキスだよ」

大雅が言ったとたん全員固まった。

 

「スケリッジに居た時、アーマーアラキスを仕留めてね、足の部分の肉を焼いてみたらカニ、つまりこっちで言うクラブの肉にそっくりでさ。

 毒が有るって聞いてたけど体躯の中に毒袋が有るんだ。

 銃で撃ち殺して即死させれば毒は脚の肉迄回らずに、こうして食えるって訳」

 

「死にませんか?」

「大丈夫、自分何度も食ってるから。

 いやースケリッジでは大物仕留めた時は嬉しかったね」

 

「そりゃ、子爵様がウイッチャーだから大丈夫じゃないんで?」

「普通の人間だよ、自分。

 寿命もここにいるみんなと大して変わらないらしいし、こっちのウイッチャーみたいに毒に耐性がある訳じゃないよ」

 

「これ狩ったらまた食えますかね」

「あー、一瞬で殺さないと肉に毒が回っちまうかも。

 銃ならそれが可能なんだけどね、熊も殺せる銃を使うから即死させ直ぐに捌けば第一関節から第二関節までは毒は回らないよ。

 と言う事で今日の晩餐はコレね。

 公爵閣下にもお話してあるから」

 

「ア、アラキスをですかっ!」

「問題無いよ。

 ちゃんと食えるし、こうして自分も君らも生きてるんだから」

 

「わ、解りました」

「でも、料理長これ本当に旨いですよ」

「アラキスを一瞬で倒せる奴なんているのかよ」

 

 

晩餐の時間となった。

「今日は何を食べさせて頂けるのか楽しみです」

「公爵閣下、今日は私の世界でカニ、こちらで言うクラブの肉に似た生物をご賞味いただきます。

 スケリッジで初めて仕留め、食べて見たらこれにそっくりでして」

 

「クラブ?

 確かに小さい物は沢や湖に居ますが、食したり捌くと病気になって死ぬことも有る為昔から食べませんよ」

「いえいえ、もっと大きなものです」

 

「海にはクラブの大きな物が居て地方では食べるようですが、ここは海からも距離が有り持ってくることは不可能ですが」

 

「先ずは試してみてください。

 あと、このカニ酢を少量付けてお召し上がり下さい」

 

公爵は皿のアラキスの肉を切り分け、カニ酢を少量付け口に運ぶ。

 

「なんという味!

 これは美味しいです」

 

「ですよね、私も乱獲されないか心配になる程です。

 今のうちに養殖の算段をした方が良いかと思うくらいでして」

 

むしゃむしゃとしかし上品に結構なスピードで口に運ぶ公爵。

侍女たちもパクついている。

 

「確かにこの味にはワインより蒸留酒を薄めた酒の方が良く会いますね。

 心なしかザリガニに似た風味ですが、それより軽く肉質が柔らかいです。

 なんの肉なのですか?」

 

「アラキスです」

 

大雅以外全員が固まった。

 

「・・あの森に居る・・・巨大な虫の・・アラキスですか?

 ど・・・毒があるはず・・・では」

 

「ええ、体内に毒袋が有りますね。

 でも、一瞬で即死させれば毒は体に回りません。

 で、足の部分だけそれも第一関節から第二関節までを早めに切り取ればこうして食べられるって訳です」

 

「ど、どうやって・・あの怪物を即死など・・」

 

「親指の太さほどの弾を使います。

 頭から撃ち込み即死させるんです、で裏返して足をバッサリ。

 その後、塩水で軽く茹で蒸します。

 殻を捌くのがちょっと面倒ですが、クラブの足肉と同じなんですよ」

 

「怪物も食べられるのですか・・・」

「全身に毒を持った生物も居るにはいるんですが、ちゃんと正しく捌けば食べられますよ」

 

「でも、アラキスなんですよねぇ」

「自分の国では猛毒のフグという魚も食べます。

 もちろん調理には国の資格が要りますが、種類と捌き方によっては食べられるんです。

 因みに高級魚ですよ。

 これはアラキスですが、アーマーアラキスも食べられます。

 エンドレガは肉が土臭くてダメでした、アラキスとアーマーアラキス、この二種類は美味しいですよ」

 

「あなたなら、ガーゴイルでも食べてしまいそうね」

「あれは無理です、倒してみたんですがまんま石ですもん」

 

「でも一瞬で即死させられるのはタイガだけでしょうね」

「やり方によっては毒を体に回らせずにできるかもしれませんが、即死が出来なければ辞めといたほうが無難でしょうね。

 心臓が動いていると毒が全身に回っている可能性が有ります、まあ、臭いからすぐ判りますが」

 

「みな、この事は一応非公開とします。

 タイガが居て初めて食すことができる物なのですから、安全に食べる方法が確立するまで非公開です」

 

「公爵閣下、宜しければゲラルト氏とイェネファー女史について教えて頂けませんか後で」

「ええ、良いですよ。

 でも彼は結構変わり者と言うか・・・何といったら良いのかしら、仕事はきっちりこなしますが妙なセンスの持ち主です」

「なるほどでは後程」

 

食後、少ししてお呼びが掛った。

テラスの直ぐ近くの一室だ。

 

「さて、ゲラルトの事でしたね」

「はい、それも有るのですが、私の最重要事項は実はこちらの世界との転移の確立なんです。

 その為イェネファーと言う女魔術師を探して居るんです。

 こちらに来るときは、此方のある女魔術師の助力で転移しましたが、自由には出来ないようで特定の場所、特定の条件が無ければできないのです。

 これが自由にならない限り国交もへったくれも有りません」

 

「ではタイガはその不安定な状況を理解した上でこちらに来たと?」

「はい、全力は尽くすとの確約は得ていますが、最悪帰れない想定もしております」

「その場合はどうするのですか?」

「畑でも耕してつつましく生きますよ」

 

「家族は?」

「遠の昔に両親も亡くなりました。

 兄弟もおりませんし、父方の祖父が居ったのですが数年前に。

 他の親類は親交も無く、自分に役目が来たのも私が帰れなくても損失が少ないからです」

 

「なんと・・・」

「そのため、イェネファー女史との接触は慎重かつ重要事項なのです」

 

「イェネファーとの直接の面識は有りませんが今はゲラルトとの連れ添いとなっています。

 彼らが住む場所はコルヴォ・ビアンコ葡萄園という場所です。

 厄介な事件を解決し、褒章の代わりとして当時公国預かりとなっていた葡萄園を分け与えました。

 今でも、近隣の厄介な怪物の退治には時折お願いしている所です。

 最近は彼の葡萄園のワインもまだまだですが、やっと市場に出せる物が出来始めたと聞きます」

 

「公爵閣下から自分を紹介頂く訳には行きませんでしようか」

「それは可能です。

 ならば、私が一筆書きましょう」

 

「出来ることなら、子爵位の件は伏せて頂けると」

「何故です?」

「余計な詮索の種は避けたいのです」

「判りましたそのようにしましょう」

 

 

二日後、大雅は公爵の文書を頂き宮殿を辞した。

 

「やあ、タイガ早かったね」

「まあ、予定のものは消化したしね。

 明日、ここを出ようと思う」

 

「そうか・・あ、茶の件だが軌道に乗ったら報酬はタイガの口座に入れていくがそれで良いかね」

「ああ、事業が上手くいくことを願っているよ」

「魔法使いも紹介して貰ったしワクワクするよ」

 

「なんで魔法使いが要るんだ?」

「ウイッチャーなのに知らないのか。

 エルフの一部に植物の生長促進をする魔法が有るらしくてな。

 来るのは三月後になるらしいが、一気に数年分の成長が見込めるらしい。

 費用は公爵持ちだよ、タイガのお蔭だ」

 

「そんな魔法が有るんだ・・・」

「ああ、頼んだら私の私費では心もとないが公爵も乗り気でね。

 よほど紅茶が気に入ったらしい」

「そ、その様だね」

 

送別会と言う事で伯爵だけでなく家督やメイドも酒宴に招待された。

「では、子爵の目的達成とこれからのサルバレス伯爵家の発展を願って乾杯!」

 

 

翌朝、タイガはナジャムに荷物を載せ伯爵に別れを告げた。

 

「では世話になった伯爵」

「ああ、よき旅を。

 任務が上手くいくことを願っている」

 

タイガは数週間世話になった伯爵邸を後にした。

 

 

昼前に出たがコルヴォ・ビアンコに着いた時は既に陽は陰り始めていた。

なかなかに綺麗に整備された農園と、花が綺麗に咲いている花壇が見える。

 

ドアを叩くと体格の良いサングラスをかけたスキンヘッドの男が出てきた。

 

「何用でしょうか」

「自分は大雅拝戸と言います。

 ゲラルト氏に所用があり参った次第。

 お取次ぎと公爵閣下からの書面が有ります」

 

「少々お待ちください。

 それと馬は厩舎の方へ繋いでおいてください」

 

大雅はナジャムを厩舎の空いている場所に入れれると近くに居た農夫の様な男が手伝ってくれた。

「済まないが水と飼葉を、これは駄賃だ」

そう言って、20フロレンスを渡す。

「こ、こんなに! へえ、判りました」

 

 

「良い馬だな」

「貴方は?」

 

「ゲラルトと言う」

「これは失礼」

 

「この馬の名は?」

「ナジャムと言います。

 こちらに来て手に入れました」

「よく手入れされている、ローチとも仲良くやれそうだ」

 

確かに見ると鼻をくっつけるようにしてナジャムは挨拶をしているようだ。

 

「話を聞いてやってくれと公爵の手紙に有った。

 ここではなんだから屋敷に来ると良い」

そういってスタスタと家へと歩いて行った。

 

部屋に通されるとそこは直ぐに食堂の様な場所だ。

玄関開けて即食堂というのも珍しい。

 

「そこに座ってくれ、今は妻が出かけているんでもてなしはこれだ」

そう言って、いきなり酒瓶を持ち出した。

 

「出来れば話が終わるまで素面の方が良いんですが、お茶なら厨房を借りられれば自分が入れましょうか?」

 

「ああ、そうしてくれると助かる。

 なにせ料理番をしてくれていた老女が去年亡くなってな、かなりの高齢だった。

 今は妻にまかせっきりな物だから湯沸かしの場所さえわからん始末だ。

 厨房に入ると怒られるのでな」

 

「問題ありません、湯沸かしも一式もっていますので、ちょっと取って来ます」

 

大雅は厨房に小型ストーブを持ち込み、ケトルに水を入れ湯を沸かした。

 

「変わった道具だな、小型の割には火力が強い」

「ええ、屋外でも使える小型のコンロです。

 数分で沸きますから」

 

「茶は何処だったか・・・」

「それも有ります。

 私の国の茶です、器は有りますか?」

 

ゲラルト氏は黙って棚から二つの木製カップを取上げた。

「これを使ってくれてかまわん」

 

「異国のウイッチャーと公爵の書簡に有ったが何処流派だ?」

「こちらには無い流派と言って良いのか、まあ、怪物退治や遺跡調査の手伝いなんかをしてここまで来ました。

 しいて言えば虎流派ですかね。

 さ、お茶が出来ましたよ、ご賞味あれ」

 

ゲラルト氏は少し香を嗅いだ後、口をつけた。

 

「旨いな・・・普通の茶とは全く違う」

「紅茶と言います。

 チャノキという植物の新芽を積み、発酵させて乾燥したものです。

 自分の世界では一般的な物です」

 

「チャノキ・・・初めて聞く名だ」

「数年したらこちらでも飲める様になるかもしれません。

 ボークレールのサルバレス伯爵に種を渡しましたので栽培を始めるそうです」

 

「ああ、あの男か・・どうにもあの男は好かん。

 バジリスクを飼うなぞ正気の沙汰と思えん」

 

家の外からドンッと空振の響きがして黒っぽい服を着た美しい女性が入ってきた。

 

「あら、お客様なの? ゲラルト」

「ああ、公爵から紹介が有った。

 名は・・・」

 

「名は大雅、性は拝戸と言います。

 イェネファーさんにご相談があり伺いました」

 

「あら、ご丁寧に。

 私はイェネファー、ヴェンガーバーグのイェネファーよ」

「宜しくお願いします」

 

「で、ゲラルトったら、何でお茶をエールのカップで飲んで居るのかしら」

「茶器が何処に有るのか判らん」

「ん? 初めて嗅ぐ香ねこれ茶なの?」

 

そう言って、ゲラルトのカップを奪い取り口をつけた。

 

「ふう・・美味しいわね。

 これなんていうお茶?」

「タイガが入れてくれた茶だ、彼の国の茶だらしい」

「ホント美味しいわ、香りも落ち着く良い香り」

 

「私も頂けるのよね」

「はい、もちろん」

「ちょっと待ってて、茶器を出してくるわ。

 出しておくとゲラルトったらそれでお酒を飲んだりするから仕舞って置いてるのよ」

 

彼女が出してきたのは陶器製の茶器だ。

地球の様に磁器製のものは一般的な物では無いのかもしれない。

 

茶葉をポットに入れ2分ほど待つ、すぐに薫り高い紅茶の香りがしてきた。

 

「イェネファー俺にももう一杯くれないか」

「カップ割らないでよ、それ安くないんだから」

「解っている、丁重に扱うよ。君のようにな」

 

「で、何処まで話は進んだの?」

「話も何も、さっき会ったばかりだ。

 タイガが異国のウィッチャーと言う事を聞いたばかりでな。

 虎流派だらしい、虎なんか見た事も無いが」

 

「話始める前にこれをご覧いただきたいのです」

大雅はタブレットを出すとサブリナの動画を見せた。

 

「サブリナ・グレヴィッシグが生きていたなんて!

 しかも子供が出来た?!

 詳しく聞かせて頂戴!」

「やはり女魔術師となれば子供が出来なくなるのですか?」

 

「そんな事は無いわ、出来なくなるのはウイッチャーよ。

 女魔術師は出来にくくなるけどね。

 絶対にできないわけじゃ無いわ、そうならエルフたちは皆滅亡しているはずだもの」

「確かに言われてみれば」

 

「魔術の要素が有る者には儀式と魔法薬を投与するの。

 まったく要素の無い者には何の効果も無いけど、魔法が使える様になるきっかけね」

「それって、凄く異様な味のする茶色と紫色が斑に混ざった色の薬ですよね」

 

「ええ、よく知ってるわね。

 それをお酒で割って飲むのよ。

 眠く成れば成功ね、吐いたり苦しくなったら効いて無い事なのよ。

 これを強化したのがウイッチャーの草の試練て呼ばれる物なんだけど、七割以上が死んでしまうわ。

 そのかわり身体が強化されるのと同時に魔法が使える様になる訳。

 んっ? それを知ってるって事は飲んだのタイガ」

 

「ええ、そけも薄めず原液で。

 どうやらサブリナ女史は酒で割る事を忘れていたみたいでして・・・」

「ぷっ・・・あんなものよく生で飲んだわね」

「こっちじゃ無いと作れないとか」

 

「そうね、元々はエルフからもたらされた物なの。

 作るにはちょっと特別な花が原料に必要なの、取れるのはドル・ブラサンナの外縁部かしら。

 エルフは大体5歳くらいまでに自分の魔力を自覚するらしいけど8歳を過ぎでも魔力に目覚めない子は魔法薬を投与されるの。

 それでもその半分くらいは目覚めないらしいんだけど、これを人間にアレンジしたものがタイガが飲んだ物よ。

 と言う事は魔法が使えるの?」

 

「まあ、自己流な上使いどころが微妙ですけど」

「なるほど、では一応は使える訳だ」

今度はゲラルトが聞いてきた。

「ええ、イグニでしたっけ?

 あれだけです」

 

「こちらに来た時から詳しく話してくれるかしら」

 

「実は自分が転移したのはケイドウェンのよくよく北の地方だったんです。

 サブリナ女史に力を借りて転移したんですが彼女自身も何処から転移したのか判らないらしくて、たどり着いた先がそこでした。

 それからレダニアのノヴィグラドでゾルタン氏やダンディリオン氏と出会い、ゾルタン氏と一緒にスケリッジを経由しナストログに入りました。

 しかし、彼が船を降りる際事故で骨折してしまい、今はナストログの救護院に入院しています」

 

「ゾルタンは無事なのか?!」

「はい、骨折と言っても足の単純骨折なので4ヵ月もすればこちらに向かうと言ってました」

「ダンディリオンは?」

「ノヴィグラドに残ると」

「まあ、此方には来にくい理由が有るからな」

 

「で、私に用との事だけどどんなことなのかしら」

「転移の安定化をお願いしたいのです、なにせ我々にとっては魔法は謎技術、原理も何もわかっていない状態です。

 せめてそのヒントでも解れば」

 

「貴方は異世界と言ったわね」

「はい、星座から確認したところでは250万光年の範囲には無い事は確かです」

「光年?」

「ええ、光は1秒、つまり「あ」という一言を発する時間に30万キロほど進みます。

 その速さで進んで250万年と言う距離の意味です」

 

「お前の世界では他の星まで行っているのか?」

「いいえ、精々月や近隣の惑星までです。

 一番遠い所に無人ですが人工の小さな探査機が飛んでいます、それでも精々光の速さで21時間程度の場所です」

 

「なぜ、250万光年内には無いと判断できた」

「われわれの世界では星々の位置や距離を観測しています。

 これを人工の脳で計算すれば例えば隣の星の集まりでは星がどの位置に見えるか計算できます」

 

「よほど技術が進んで居るのだな」

「はい、我々の世界には魔法という物がありません。

 ですから科学技術のが発展しました、1000年以上もかけて」

 

「だが、お前はウイッチャーだという。

 こちらではウイッチャーと言うのは魔法剣士を指す。

 それに剣も無い、持っているのはその小さなナイフだけだ。

 お前の所では違うのか?」

 

「魔法は先ほど言ったように火の魔法だけなら使えます。

 魔法と言って良いんでしょうか、此方に物を転移させるためにサブリナ女史に魔法薬という薬草の汁を飲まされました。

 なんでもそれで弱いが魔力は使えると」

 

「確かに弱いけど魔力は持っているようね」

「だが小さなナイフではドラウナーさえ倒せんぞ」

「自分が使うのは剣ではありません。

 銃と言う飛び道具です、弓より遥かに早く強力です」

 

「構わなければ見せてくれないか」

大雅は背からAKMSを取りゲラルトに渡した、もちろん弾は抜いてある。

 

「結構複雑な機械のようだ、重量も有る」

「この先の穴から金属製の礫を打ち出します。

 音の速さの数倍で、当たれば体にめり込むか通り抜けます」

 

「だが、この太さなら鏃程度だろう。

 怪物を倒すには威力が足りないのでは?

 んっ? もしかして数が打ち出せるのか?」

 

「はい、瞬時に10発は簡単に、あと速度が上がれば衝撃波というものを伴うようになります。

 当たれば当たった部分の周囲を衝撃波で破壊しながら進み、大きなダメージを与えます。

 頭や心臓の重要なだ弾に当たれば即死ですね。

 実際、大型の怪物のシェルマールやワイバーン、グリフィンもこの銃ではありませんが1発で屠っています」

 

「戦闘は離れた所からか、どれだけの距離だ」

「小さなものは50mほどですが、この銃なら400mなら可能です。

 大きな銃だと2500mでも殺傷能力が有りますから」

 

「明日付き合ってもらおう。

 丁度ここから半日ほど離れた所にシュショット洞窟と言う所がある。

 一度は駆除したがアラクノモーフが再び現れ公爵から駆除要請が出ている。

 腕を視させてもらおうか」

「すみません、どんな怪物なんです?」

 

「ふむ、アラクノモーフは大型の蜘蛛だ。

 動きが早く足も動きも早い、しかも糸が厄介で今回は大型種も居るとの事だ。

 多分見逃した巣か卵が残っていたのかもしれん」

 

「判りました。

 同行しましょう。

 ただ、戦闘に成ったら自分の前には絶対に出ないでください」

「わかった、だが接近戦でないと・・・そうか離れた所から倒せるのだったな」

 

「BB、悪いが明日出る。

 ローチの準備を頼む」

「かしこまりました」

 

「彼は?」

「ああ、一応執事のまねごとをしてくれているバーナバス・バジル・フォルティという男だ。

 名前が長いからBBと呼んでいるんだ。

 家の管理や農園の管理もやってくれている、公爵に使ってくれと言われてもう数年になるな。

 実直な男だ、以前ここの持ち主の執事だったらしい」

 

「じゃ泊る所を準備しなくちゃね」

「ああ、悪いが頼むよイェネファー」

「ゲラルトは湯沸かしをお願い。

 街まで行ったら風が強くて埃だらけなの」

「タイガ、すまんが手伝ってくれ」

「いいですよ」

 

大雅は納屋から薪を運び入れ、1階にある大きな木製タライの横にある湯沸かし器の横に置いた。

「此処でいいかい」

「ああ、助かる。

 そうだ、最初に風呂を使え、俺たちは後で良い」

「いえいえ、自分こそ後で良いですよ」

ゲラルトはイグニの魔法で火をつけた。

 

「それって、火力の調整できるんですか?」

「当然だ。訓練は必要だが。

 お前は出来ないのか」

「恥ずかしながら」

「後で教えてやろう」

「助かります」

 

 

大きなボイラーの様な物で薪で湯を沸かし、熱い湯をタライに入れ水を差して調整するらしい。

だから、タライが置いてある部屋の壁にはもう一つ小部屋がありそこにボイラーが設置されていた。

 

「1時間ほどすれば沸くだろう。

 湯は捨てなくていい、そのまま石鹸を使うからな、だから体を洗う時はタライの外でな。

 今は暖かいから大丈夫だろう」

 

「へえ、こんなのが有るんだ」

「金を貯めて湯沸かしの機械を買ったんだ。

 隣に小川が流れていてな、給水も排水も楽だから増築した。

 今じゃ2日に一辺はこうして湯を沸かして居るって寸法だ」

 

「大変ですね。

 給湯器設置しましょうか?

 今日は無理ですが明日の駆除が終わったら」

「これより楽になるのか?」

 

「ええ、薪運びも要らなくなるし、ボタン一つで湯が沸きますよ。

 ただ、工事に1週間ほどかかりますが」

「かまわない、明日が終わったら取り掛かってくれ。

 必要な物は揃える」

「いえいえ、此方で準備しますよ、ただ浴室の工事だけはその日だけは風呂使えないです。

 まあ、完成すれば毎日でも入れますよ」

 

「薪は要らなくなるのか?

 代わりに何を燃やすんだ?」

「太陽熱と発電パネルの併用ですね。

 雨の日は油を使って発電する物を使います。

 あと小型の発電機を小川に設置すればバックアップは十分でしょう。

 そうそう、シャワーも使える様になりますよ」

 

「シャワー?」

「お湯が雨のように頭の上から降って来るような装置です。

 便利だし快適ですよ、国によってはコレだけで済ますほどの人も居ますね」

「イェネファーが大喜びしそうだ、あれは風呂好きだからな」

 

地球からは設備一式を何回かに分けて送ると言ってきている。

面倒だがまた施設課の真似事だ。

要は重要人物にはできるだけゴマを擦っとけと言う事らしい。

 

 

『ゲラルトぉ、ちょっと手を貸して』

「姫のお呼びだ、ちょっと行ってくる」

ゲラルトは大雅を残し厨房へと向かった。

 

その間、部屋と構造を調べ寸法を地球に送る。

もっとも簡単なのはユニットバスを導入してしまう事だ。

給排水の配管は大変だが、小川の上流に貯水タンクを設置しすれば結構な圧力が得られる。

後は中型クラスの有機物から直接エネルギーを取り出せる燃料電池だ。

湯を沸かしたりLEDの光をともすには十分に出力であり、油でも怪物の血液でもなんでも動かせる。

 

これの他に、太陽光を使ったソーラーシステムと蓄熱槽、それをコントロールするコントロールユニット、あとは太陽光の発電システムだ。

バックアップ用の小型の水力発電水車も付けるので太陽光や燃料電池がダウンしても最低限の灯りと電源は確保できる。

設計と機材の転送は地球側で行ってくれるが、手配と準備に1週間ほどかかるとの事。

 

 

その日の夕食はイェネファーの手作りだった。

簡単なスープとパン、あとは肉を焼いたものだ。

 

「以前はマレーネという老婆が作ってくれていたが、老衰で亡くなってしまってな。

 今はイェネファーが作ってくれている」

「こんなものしか無いけど、ボークレールに買い物に行って来て丁度良かったわ。

 ねえ、ゲラルト誰か雇いましょうよ」

 

「ああ、公爵に相談してみよう。

 料理のできる者なら歓迎だが男はダメだ。

 若くても年を取っている物でも良い、女だな」

「若いのはダメよ、ゲラルトには年よりね。

 若いのは絶対ダメ」

 

大雅は口を挟む気は無い、大体痴話げんかなんかには家族でも口を出すと碌な事にはならないからだ。

 

「タイガ、イェネファーの料理はどうだ」

「ええ、美味しいですよ、ありがとうございます」

 

「ところで、タイガあなたは向こうに帰れるの?」

「それが微妙なんです。

 実は私を送ってくれたサブリナ女史が魔力切れでひっくり返ってしまい入院騒ぎになったらしいんです。

 少なくとも、子供が生まれ暫くしないと門は開けられないだろうと」

 

「紋の色は見たの?」

「ええ、綺麗な紫色でした。

 そう、煙か炎みたいにたなびいてましたね」

 

イェネファー女史はいきなり食堂の中で門を展開した。

 

「イェネファー!

 ここで門を展開するのは止めてくれ!」

「見なさいタイガ。

 転移門は普通黄色いのよ」

そういって、門を閉じた。

 

「つまりあなたが潜った門はエルフが昔に使って居た特殊な門なの。

 偶にこの世界でも遺跡の中なんかで見られる事はあるけど、不用意にくぐれば何処に飛ばされるか判らないし、下手をすれば異界つまり異世界に飛ばされることも有る危険な事なのよ」

 

「なるほど、危険は判りました。

 でも、それを越えないと帰れません安定して此方との交流も出来ません」

 

「シリなら可能かもな」

「ゲラルト、あの娘に危険な事はさせたくないわ」

「でも、現実問題シリなら出来るだろう」

「それはそうなんだけど、あの一件以来異界に飛ぶのは控えるようになったのよ」

 

「あの一件は片付いたはずだ、アイン・シーデもそうそう手は出してこないだろう」

「私はそうでもないと思うわ、奴隷として人間を使って居る以上はね」

 

「すみません、話が見えないのですが・・・」

「ああ、タイガには判らないだろうな。

 ここの世界に居るエルフはアイン・エレと呼ばれる種族だ。

 遥か昔にはアイン・シーデの種族と同じだったらしいが、アイン・エレはアイン・シーデとたもとを分かちこの世界に来たと言われている」

 

代ってイェネファーが話し出した。

「そのアイン・シーデはユニコーンと人間を奴隷として使役しているの。

 ユニコーンもそこでは知的生物で反旗を振りかざしたけど結局は負けて今は片隅でひっそりと生きているらしいわ、私を助けてくれたユニコーンは脱出を手伝ってくれたけど此方に来てすぐに亡くなってしまったのよ。

 今は剝製になっちゃってるけど」

 

「自分の世界じゃ神話かお伽話の世界ですね。

 で、向こうの人間は使い潰されたのですか?」

「元々数が少なかったのよ。

 だからこちらの世界に目を付けて人間を攫って行くの、それがアイン・シーデよ」

 

「その先鋒がワイルドハントだ。

 元々はユニコーンが異界を渡る助けをしていたが、反旗が上がり使えなくなった。

 代わりに用意されたのはナビゲーターと呼ばれる魔法使いだがやはりユニコーンほどの能力は無い。

 だからシリを捉えユニコーンの代わりにしようとした」

 

「あの子は古代エルフでも高貴な魔法を使う血筋を引いているの。

 だから狙われたのよ」

「イェネファー、それ以上は黙っていてくれ」

 

「そのシリさんですか、娘さんがエルフの血を引いているって事は、お二人の何方かがそうなんですか?

 

「まあ、私はクォーターエルフだけど血縁は無いわよ」

イェネファーの言葉にゲラルトが驚いていた。

 

「そんな話聞いてなかったぞ」

「聴かれなかったもの。

 私の父親がハーフエルフだったのよ、碌でもない奴だったけど」

 

 

「タイガこれから言う事は他言無用だ。

 シリは私達の児では無い。

 ウイッチャーは子供を作れる能力が無いんだ。

 あの娘はある皇帝とララ・ドレンの末裔との間にできた子だ。

 その古き血脈と呼ばれる末裔は同じ世界の中で移動するテレポートだけでなく、異なる世界や時間への移動をも可能とするといわれている。

 まあ、必ずしもできるとはならないらしいが、あの子はとりわけその力が強い。

 それが色々な所から狙われる原因だ」

 

「その彼女が何故お二人の元に?」

「ある男を助ける際、「驚きの法」の報酬として生まれる子が決められた。

 これは俺も望んだ訳では無いが、私が引き取る事に為った。

 それをあの男は!」

 

「まあ、複雑だって事は判りました。

 彼女なら転移できる可能性が有る訳なんですね?」

「その可能性が有るという事だけだ」

「そうね、でもその可能性は高いわ。

 ただ、安定してできるかは別問題よ」

 

「どうしてですか?」

「致命的に魔法の制御が下手なのよ。

 火の魔法では森を焼け野原にしてしまうし、防御の壁の魔法では3日も自分が閉じ込められたわ」

「それは・・大変ですね・・」

 

「大分よくなって来たと聞いてるけど、感情的になればどうなるか判らない、それがあの娘なの」

「大変ですね」

「人ごとじゃないだろう、タイガお前もイグニでさえコントロールできないと言ってたじゃないか」

 

「まあ、使いどころが判らなくて、別に無くても良いかなって」

「そんな事ではウイッチャーとは言えんぞ、訓練してやるから覚えろ」

「モノになるんすかねぇ」

「お前次第だ」

 

 

 

「イェネファーさん、お風呂頂きました。

 ああ、頭を洗うシャンプーとリンス、置いておきましたから使ってください。

 あと、ボディシャンプーも石鹸代わりに。

 これ使い方です」

そう言ってこちらの女性には絶大な人気を誇る地球のブランド物を置いてきた。

もちろん大雅は自分用の物を使った。

 

湯屋からゲラルトとイェネファーの嬉々とした歓声と声が聞こえる。

 

 

”いいなぁ・・・フィオナいつこっちに来るんだろう・・会いてーなぁ”

 

「どうした黄昏てるな」

「いや、こっちに来て少し気になる人ができたもんで、どうしてるかなって」

「そんな時はこれだ!」

そう言って、風呂上がりのゲラルトはラフな格好で外のベンチに座る大雅の目の前のテーブルに木のコップとボトルを置いた。

 

「公爵から貰った最高級のワインだ」

『二人とも程々にしときなさいよぉ』

 

ゲラルトの肩がびくりとする。

「見られてるんですかねぇ」

「可能性は高い。

 女魔術師を妻にするという事はこういうことだ。

 気にするな、そのうち慣れる」

 

ワインは濃く葡萄の香がしてうまかった。

地球でもこれほどのワインはお目に掛かれないと素人の大雅でさえわかる程今まで飲んだワインとは次元が違う。

 

「こりゃすごいワインですね。

 初めてですこんなの飲んだのは」

「だろう。

 ここトゥサン、いや大陸中探してもこのワインを超える物は無い。

 本来なら公爵とその関係者のみ口にできるワインだ」

 

「それは貴重ですね。

 ありがとうございます」

「気にせんで良い、毎年もらえるからな」

「ワインは良く飲まれるんですか?」

「ワインより蒸留酒の方が好きだな、お前は?」

 

「酒、あんまり飲まないんです。

 酷くは酔わないんですが、あまり好きでは無くて。

 でもこのワインはそんな自分でも解る程です、本当に美味しい」

「公爵が聞いたら喜ぶだろうな」

 

 

その日は二人で結局2本開けた。

翌朝のイェネファーの機嫌が微妙に悪かったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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