翌朝、多少の頭の重さは残る物の、早く目が覚めた。
習慣とは恐ろしい物で、大雅は自衛隊の生活でこちらの6時には自然に目が覚める。
まだ、ゲラルト夫妻は起きて来ないようだ。
コンロでお湯を沸かし、紅茶を淹れる。
コンロは風もない屋内なので、ごく普通にホームセンターで売られているカセットガスコンロだ。
屋内でガソリンのコンロは臭気の点からお勧めできない。
茶器は地球から送ってもらった。
公爵に送った物ではなく、白を基調とした磁器製の日用品ものだ。
お茶を飲み終わっても二人は起きて来ず、大雅は仕方なく米の粥を作り始めた。
壁に塩漬けのトラウトがぶら下がっていたので一切れほど切り取り、粥に解して加える。
簡単だが出汁も出て塩も要らず結構うまい。
そこへ丁度イェネファーが起きてきた。
「あら、私にも頂けるかしら、お茶」
「ええ、マダム」
「んー、これ美味しいわ。
分けて欲しいくらいね」
「ええ、お分けしますよ。
ここに1キロ入りの袋が有りますから差し上げます」
「嬉しいわ、後で淹れ方も教えてくれる?」
「勿論です、茶器の場所が判らなかったので取り寄せたんですが、これもどうぞ。
カップとソーサーも有りますし」
「ね、その白くて四角い物は?」
「砂糖です、甘いのがお嫌いじゃ無きゃ2個ほど溶かして飲んでみてください。
あと、外の木にシトリンが生っていましたので一つ頂きました。
スライスを浮かべると砂糖の入った紅茶と合いますよ」
「まあ、本当に!
爽やかで紅茶と良く合うわ。
もう一杯頂こうかしら」
どうやらお気に召してくれたようだ。
「じゃ、そろそろ朝食の準備をしなくちゃね」
「ああ、それなんですが作っちゃいました、簡単なものですが。
米と言う穀物を使った粥ですが、少し厨房にあったトラウトの塩漬けを使いました。
すみません」
「全然かまわないわ。
じゃあ玉ねぎのサラダでも作るわね」
そういって二杯の紅茶をのんで立ち上がった。
「ゲラルトぉ、起きてきなさい。
でないと朝食が無くなっちゃうわよ」
慌てながらももっそりとドアを開けてゲラルトが寝室から出てきた。
無精ひげに髪はボサボサ、こうなるとダンディなおっさんも単なるオヤジである。
「イェネファー、頼むから魔法に言葉を乗せて耳元に送るのは止めてくれ。
びっくりする」
「いつまでたっても寝坊助なんだから、今日はタイガが朝食を作ってくれたのよ。
ほら、顔を洗ってきなさいってば」
「タイガこれはなんだ?」
「米の粥です。それにトラウトの身を解して入れた物です。
簡単ですが美味しいですよ。
お口に合いませんでしたか?」
「いや、旨くて1杯では物足りん、もっとくれ」
「ゲラルトったらしょうが無い人ね」
「大丈夫ですよ、たっぷりありますから、あ、でも今日は駆除に行くんですよね。
食べ過ぎると動きが悪くなるかも」
「問題無い、洞窟迄半日かかる、腹もこなれるさ」
「泊まりですかね」
「怪物の数にもよるがそう見ていた方が良い。
多分全部倒して、今回は巣や卵を徹底的に潰す。
三日くらいは覚悟しておけ」
「了解だ」
「なんかその軽さランバートに似ているな、あいつはもっと皮肉屋だが」
「同じ狼流派の?」
「そうだ、今は女魔術師と一緒に何処を放浪しているのか判らん。
二度ほどここに寄ったことも有るが、ここ2年ほどは来ていないな。
根は良いやつだ。
狼流派最後のウイッチャーでもある」
「キーラもどうしているのかしらね」
「まあ、ネズミや田舎も嫌いな女だから今頃はランバートを困らせているだろう。
ざまあみろだ」
「弟弟子をそう無下にいう物では無いわゲラルト、皮肉屋だけど根は悪い人じゃ無いわよ」
朝食を食べた二人は装備を整え馬で北へと向かった。
「ゲラルトさん、天体の合で怪物はやって来たと聞いてますが、実際はどんな現象なんです?」
「先ずは「さん」付けは止めろ。
同じウイッチャーだろう」
「判りました」
「天体の合は異世界同士が大規模に融合した状態と言われている。
それにより怪物どもがこの世界に蔓延った、また人間もその一つだ。
世界と異世界の境界が綻び融合した結果、怪物どもが来たと言われている。
魔法は人間よりここに早く来たエルフが元々持っていたとされている。
この世界には白き塔と呼ばれる塔がいくつか存在する。
その塔が起動すると天体の合が起こるとされ、一度は実際に起こった。
シリは白き霜の予言を知っていた。
すべてが白き霜に覆われ死ぬ世界だ、そしてそれが起こったときシリは自ら塔に入り天体の合を止めた」
「すごいっすね」
「ああ、自慢の娘のような物だ。
かなりの跳ねっ返りだが」
「あはははっ、誰かさんに似たのかも」
「ぐっ・・・まあいい、そろそろ出るぞ」
「ここがシュショット洞窟だ、今はワイン蔵として使われている。
馬は此処に置いていく、暗いから気を付けろ」
そういって、何かを飲んだ。
「俺は暗くても見えるが、怖いならここで待ってろ」
そういってニヤリと笑う。
「全然問題無いよ、なんなら真っ暗でも大丈夫。
自分の世界じゃ暗くても見える装置が有るんで」
「なら行くぞ」
洞くつは意外に足場は良かった、まあ、ワイン蔵として使われているので当然のことだ。
ガサガサと何かが動く気配がある。
「気をつけろあの音はアラクノモーフの音だ。
硬く攻撃力も強い、糸には気を付けろ」
「ゲラルト、自分が前に出よう。
後方を警戒してくれ。
銃が効かないようなら交代だ。
あと、洞窟での銃声は耳を傷める程大きい、耳にこれを詰めておいてくれ」
そういって、耳栓を渡し使い方をレクチャーする。
「了解した、銃が効かないなら爆弾を投げる、投げたら物陰か伏せろ」
奥には軽自動車ほどの大きさの蜘蛛がいた。
デカい上に動きも姿もキモい。
既にこちらを警戒している。
タイガはショットガンにサボットスラッグ弾を装填してある。
これが効かない程外骨格が硬いならM99の12.7mmでないと無理だろう。
「効いてくれよ・・」
ズドンッ!
ビギャーーーッ!
あっさりと甲殻を突き破り体の組織をズタズタにしていく。
アラクノモーフは回れ右をして逃げる。
だが、足が8本も有るのが仇になり転回速度は遅い。
ズドンッ!
クモ類の心臓は腹部の上側にある、其処を狙って撃つ。
ヘタる様に胸が地面に落ちる
ズドンッ!
胸部へ撃ち込まれた弾は胸腹部神経節を砕いた。
「タイガもう倒れた、しかし耳栓をしていても腹に響くほどだな」
「まあね」
「さ、音を聞きつけて次のが来たぞ」
大雅はサボットスラッグ弾でも十分に倒せることを確認したが、当たり所によっては死なず向かってくる。
蜘蛛の心臓と言うのは胸部には無く、腹部の上部に存在する。
しかし、昆虫と言うのは動物と違って非常にタフだ、腹をもがれても数分は生きて反撃してくる。
一番確実なのは口から真っすぐ後方に位置する脳を破壊する事だ。
とどめの為に口に至近距離で胸の中に撃ち込む。
外骨格を触ってみると、確かに硬いが弾力の有る硬さだ。
銃弾は関係なく貫いてしまうが速度の無い剣や槍では難しいだろう。
つぎつぎと駆除していくが、一番奥にデカいのが居た。
デカいどころじゃない、小型のバスに足が8本生えている様な代物だ。
「どうやら、あれが母親のようだな」
「仕留められそうか?」
「問題無いだろう、ところで此処の天井は頑丈か?」
「以前の駆除では散々爆弾を使ったが小石一つ落ちて来なかった。
硬い岩盤だからなここは」
「じゃ、これで試してみるか」
「その銃は?」
「銃と言うより砲に近いかな。
RPG-7と言ってね、こぶし大ほどの爆弾をぶつけるんだ。
これでだめなら逃げるしかないね」
「こんな距離で大丈夫なのか」
「大丈夫だろうけど横に来てくれるか、真後ろは危険だよ」
実はこのRPG-7性能試験としてかなり昔に持ち込まれたが、火薬が期限まじかで廃棄する位なら使ってしまえという事らしい。
弾頭はPG-7VL対戦車榴弾だ260mmの装甲でもぶち抜く。
「撃つぞ」
「やれ」
バシュン!
弾頭のロケットモーターに火が付き加速しながら向かって行った。
ドォォォンッ!
煙がもうもうと立ち体がバラバラに飛び散った。
破片やら体液がこちら迄飛んでくる。
「うへえ、洞窟でブッパするもんじゃねーなコレ」
「当たった瞬間見ていたが粉々になって飛び散った。
凄い威力だが素材は取れそうにもないな。
しかし、何という武器だ」
「まあ、本来は鉄の装甲で出来た戦車って言うのを破壊する為に作られたんだ」
「鉄で装甲か。どのくらいの?」
「この弾頭だと26センチくらいなら打ち抜くよ。
生物でこれに勝てる物はないね」
「人に当たればどうなる」
「死体も残らないだろうね。
良く探せばミンチになった破片は見つかるかも。
アラクノモーフにもオーバーキルだったしね」
「タイガ、人に向けて使う物ではないなこれは・・・・。
まさか大型のアラクノモーフが木っ端微塵とは・・・」
「人に使うのは経費対効果が悪すぎ、てか対人で撃つ距離から使ったらこっちも危ないし」
「では進もう」
「あいよ、後はショットガンで潰していくか、卵とか」
「いや、調査は外に居た者たちにやらせよう。
二人で探して居たら時間がいくらあっても足りない。
どうせ報酬も減らされるだろうしな」
「そりゃ助かる。
まあ、卵潰すくらいならだれでもできるだろうしね」
一番奥には巣と思われる場所と多量の卵が糸で出来た大きな卵隗が有った。
「これは燃やしておいた方が良いだろう。
小さくて攻撃性が無いとはいえ、小蜘蛛に逃げられたら厄介だ」
「油でも撒いて火つけるか」
「そうだな、それが良い」
「そうだゲラルト、良い物がある。
コンロの燃料用だが油に混ぜよう、ヤバいくらいよく燃える」
「よし、貸してくれ、撒いてくる」
「さて、松明を用意しなければな」
「それよりもっとと良いのが有るよ」
大雅はショットガンドラゴンブレス弾を装填した。
「火つけるど用意はいいか?」
「やってくれ」
ドォンッ
洞くつの壁に反響し大きな音を立て火柱が卵隗へと伸びていく。
ボンッ
腹の底に響く音と共に爆発的に燃えだした。
「うおお、あっちぃ」
「かなわん、少し離れよう」
40メートルほど離れたがそれでもまだ熱いくらいだ。
「いったい何の油だ?
匂いも独特だが」
「ガソリンだよ、地下からくみ上げた油を精製するとこういうのが出来る。
自分の世界じゃ今でも重要な油だね」
「こんな危ないモノ何に使うと」
「機械の中で爆発させて、運動エネルギーに変えるんだよ。
で、車や船、空飛ぶ機械なんかが動くんだ。
今でも主要燃料の一つだよ」
「危なくないのか?」
「危ないけど技術と知識が有れば安全に使えるさ、ただ蒸発したガスも火が付くから危険ちゃ危険だけどね」
「むう、レダニアのある湿地帯がこんなガスが漂ってたな、息苦しいしちょっとしたことで引火する」
「なにそれ詳しく」
「話すと長くなるから帰ってから話そう」
「かまわない、では出るか」
「そうだな、後は明日迄ここに留まって洞くつに巣や卵が残って無いのを確認するだけだ」
「どうでした! 怪物は!」
洞くつから出て来るとワイン業者がせっついてきた。
「洞窟内のアラクノモーフは全て倒した。
あと、巣と大きな卵隗は燃やした。
だが、この広さの洞窟だ、調査に手を貸してくれ。
小型の奴がいたら剣か松明で叩き潰せるし、卵は潰すか燃やせば問題無い。
いいか、卵は徹底的に探して潰すんだ、でないとまたアラクノモーブが復活してくる。
俺たちは明日迄ここにいる、何かあったら呼んでくれ」
「わかりました。
絶対に終わるまで待っててくださいよ!」
結局その夜は、洞窟の直ぐ傍でキャンプをする事となった。
「どうした、何か考えことか?」
焚火を見つめながらゲラルトが聞いてきた。
「いや、アラクノモーフって食えるのかなって」
「ふははっ、面白い事を言う奴だ。
アラクノモーフを喰うか・・・ははっ
こっちのウィッチャーでさえ考えんぞ、素材は回収するが」
「いや、こっちの人が見たら絶対に食えないだろうってのも食ってるし、毒魚迄捌いちゃうからねぇ。
卵なんか生で食べちゃうし、納豆なんて腐った豆は国民的食べ物だし」
「お前の所の人間はなんでも食べそうだな。
もしかしてウイッチャー並みの解毒能力でも有るのか?」
「いや、こっちの人間と同じだと思うよ。
まあ、単に食い意地が張ってるだけなんだろうけどね。
俺んとこの国民て大概の事には怒らないけど、事、食い物に関しては情熱的というか凝る性分でね。
食い物を粗雑に扱ったりすると怒りだす。
まあ、お陰て世界でも稀な美食の国とも言われているよ。
見た目や形までとことん拘るからな」
「ところで途中何度か爆弾使ってたみたいだけど、威力はあんなもん?」
「アレはサマムと踊る星という爆弾だ。
火を使うと暫くは糸を吐かなくなる。
まあ、糸避けだな」
「なるほど、事前に糸を吐かなくさせておいてから攻撃ね」
「ああ、それから切り込む。
アレは攻撃を受けると後ろへ下がる、そして離れると糸を吐いてくる」
「じゃあ、榴弾より焼夷弾の方が良かったのかな」
「お前の所にもそう言う物が有るのか」
「在るね。
破片を撒き散らす榴弾、周囲を燃やす焼夷弾、煙を出す発煙弾、周りを照らす照明弾、変わり種では催涙弾やサーモバリック弾なんてのもある」
「ウイッチャーのも似たような物だがサーモバリックというのは?」
「当ると可燃性のガスが噴き出し、其の後そのガスが一気に爆発するんだ、爆発の衝撃波で周囲を破壊する結構悪裂な弾」
「竜の夢に似ているな、最後は自分で火を付けなきゃならんが火を吐く怪物には有効だ。
敵を凍らせる爆弾はあるのか?」
「それは無いね。
消火弾が近いけど軍用じゃない」
「対人やアーチスポアにはよく効くぞ」
「へぇ、サンプルが欲しいくらい」
「爆弾を売る事は出来るが製法は機密だ。
それに作ってから数日でダメになる」
「それでもいいから一種づつ譲ってくれるかい」
「解った、それは構わんがどうするのだ?」
「こっちのウイッチャーの使う爆弾がどんなものか知っておきたいだけだよ。
こうして共闘するとき威力を知っていないと危険だろう?」
「確かにそうだな、分かった帰ったら渡そう、ただ結構な額になるぞ」
「構わんよ、こう見えて結構金持ち?」
翌朝はゲラルトに粥を作れと言われ、ワイン業者から何とかトラウトを譲ってもらい鮭の粥を作った。
余程気に入ったらしい、2合の粥をぺろりと平らげた。
「ではこれにサインしてくれ」
ゲラルトはワイン業者から討伐完了の確認書にサインをもらっていた。
「さて、帰るぞタイガ。
報酬は後日山分けだ」
「別に報酬は要らんよ。
代わりに爆弾を安くしてくれると助かる」
「ならそうしよう」
朝とは言えなくなった時間に出たがコルヴォ・ビアンコには15時前に着いた。
「あらゲラルトお帰りなさい、私が二人を送迎しても良かったのに。
それなら一日で終わったんじゃないの?」
「門を潜るのは嫌いだと何度も言ってるだろう。
それに門を潜って碌な事に為らなかったのは一度や二度じゃない」
「相変わらずの門嫌いね、いいわ今日は鶏肉のソテーにするから鳥小屋から太ったのを2匹ほど捕まえてきて頂戴、卵を産まなくなった鶏には首に赤いリボン巻いてあるから直ぐ分かるわ」
「手伝おう、ゲラルト」
「ああ、助かる。
捌くのは良いが捕まえるのが大変なんだ」
鳥を捕まえる前に湯を沸かす、これは締めた後羽毛を抜きやすくするために茹でるのだ。
その後の羽毛鳥が手作業なので二人で黙々と羽毛を毟る、後は部位に切り分ける。
「ゲラルト、スープに使うからガラだけ先に頂戴」
「わかった、皮は引いて置くか?」
「ええ、それだと助かるわ」
大雅は軍手を取り出した。
「ゲラルトこれを使うと良い、剥きやすくなる」
「む、これは良いな・・・」
「なあゲラルトこの鳥皮ってどうするの?」
「脂っこいし誰も食わんな、捨てて野良犬の餌か腐葉土の中に捨てるだけだ」
「なら貰って良いか?」
「構わんが」
大雅は剥かれた鳥皮の裏側に有る脂身を丹念に取り除いた。
ブロイラーと違って余分な脂身は少なく取りやすい。
「タイガ、その皮をどうする気だ?」
「どうするって、勿体ないじゃん。
塩焼きにすれば旨いんだよ」
「ブヨブヨで不味いぞ、野良犬程度しか食わんが」
「ちゃんと処理すればうまいんだよ」
「そうなのか?」
「ま、食ってみてから評価してくれ」
大雅は今までも村で鶏を譲ってもらい何度か食べていた。
櫛も送ってもらった物がまだ50本ほど残ってるし、焼き鳥台も組み立て式の物がある。
鳥皮は再び湯に入れ余分な脂を取り、其の後小川の冷水で灰汁を抜く。
この時残っている羽や小さな羽生は取り除く、こうした地道な下処理が美味しい鳥皮になる秘訣だ。
鳥皮の焼き鳥が高いのは肉より手間が掛かっているからだ。
切った鳥皮に串を打ち塩を振って焼いていく。
皮がパリパリに焦げ目がつきだしたら最後に片面に塩コショウを軽く振って出来上がりだ。
「タイガ、そろそろ飯だ」
「おお、こっちも出来上がった。
熱いうちが上手いんだ。
これでビールでも有ればなぁ」
「では今日はエールにしよう」
美しい女性らしい手が鳥皮の塩焼き櫛を手に取り、紅が引かれた口に持って行く。
パリッと僅かな音がして味わい始めた。
「え、これ皮なの?」
イェネファーが驚きながら鳥皮の焼き鳥を見つめている。
「確かにパリッとしてて中は柔らかく臭みも無い」
「今まで捨ててたのがもったいないくらいだわ」
ゲラルトは我慢できなかったのか、蒸留酒迄持ち出してきた。
「ねえゲラルト、タイガに作り方聞いておいて。
また食べたいわ」
20本の鳥皮の焼き鳥は速攻で消えた。
「わかった、タイガ後で教えてくれ」
「わかったよ、簡単だから手間はかかるけどね」
その夜は大いに食った。
ゲラルトは飲みすぎ早々にベットへと入っていく。
「タイガ、お礼に聞きたいことが有れば何でも教えてあげるわ」
「では、教えてください。
門の魔法は誰でも出来るのでしょうか」
「魔術師と言う条件は付くけどね、ただすべての魔術師が使えるという補気でもないの。
魔法学校では必須科目だけど師事して魔術師に為った者なんかは出来ない場合が多いわ。
特に防御や探知魔法に特化して魔術師はそう、魔術師もオールマイティでは無いのよ。
転移は色々と制限が有るの、魔力も大きくないとできないし出来ても数百メートルから数キロメートルが一般的よ。
大陸内を移動するほどの距離だと大抵名が知れている魔術師ね。
ウイッチャーでは出来た記録は無いわ。
元々はエルフの技術なの。
その昔エルフの一部は世界を渡る技術も持っていたけど、それには触媒や場所、大きな魔力を集めなければできないの。
簡単に世界を渡れたのはララ・ドレンくらいかしら」
「その方は?」
「とっくに亡くなっているわよ。
その古代エルフの子孫がシントラの女王キャランセよ。
古代エルフ血も世代交代を繰り返すうち薄くなって人に近づいていった。
でも偶に強い魔力を持つ者が出て来るの。
キャランセ女王は其れなりに魔力は有ったけど、魔法についてはあまり得意では無かったわ。
だからその娘のパヴェッタ王女は其れなりに大きな魔力を持っていたの、でもシリに似て使い方はなっちゃいなかったけど。
その娘がシリよ、本名はシリラ・フィオナ・エレン・リアノン。
パヴェッタ王女と今のニルフガードの皇帝エムヒル・ヴァル・エムレイスよ」
「彼女なら世界を渡る事も?」
「ええ、可能でしょうね。
でも単独では難しいわ。
一度行った事が有る所か、ナビケーター役に成れる誰かが居ないと無理でしょうね。
まあ、何処へ移動するか判った物じゃないからあの娘に転移を頼むのは危険よ。
高い所へ出るのか海の上なのか判らないし、最悪火山の火口だったら助からないわ」
「つまり力は有るけどコントロールは効かないと?」
「ええ、本人もそれを良く解っていて何度も痛い目に合ってるから短距離の転移か緊急時以外使わないわ。
でもあの娘ったら門も開かずに近距離なら転移するのよね。
やり方を聞いてみたけど要領を得なかったわ。
たぶんあの娘自身も良く解って無いのよね」
「そのナビケーター役と言うのは役割とか求められる能力は?」
「ナビケーターにもある程度の魔力は必要だけど、要は如何に行きたい処へのイメージが出来るかどうかなの。
漠然としたイメージだと水の中や岩の中なんかに転移したら死のみよ。
だから事細かにイメージできる要素が居るの。
あと、何処でもイメージできるからと言って飛べるわけでもないの。
一度飛んだところは魔力の道ができるから飛びやすいけど、初めて飛ぶ場所は魔力が溜まっている場所や強い魔力の流れがある所ね。
だから初めて飛ぶところはダメージの少ない海の上や湖の上が定番ね」
「エムヒル皇帝の戦争の目的は?」
「もともとエムヒルの家系は歴代の皇帝を輩出してきた家柄なの。
でも反乱がおきてエムヒルの父親である皇帝は殺され、エムヒル自身は呪いをかけられてトガリネズミの姿に変えられたの。
それを助けたのがゲラルトよ。
で、その代償としてシリを身受けした訳。
急に報酬が思いつかなかったって言ってたけど、きっと驚きの法ね使ったのは」
「驚きの法?」
「ええ、”家に帰ってから最初に手に入れた予期してないもの”を相手に引き渡すという契約に近いものよ。
だからエムヒルはシリをゲラルトに引き渡さる負えなかったの。
それ程の拘束力を持った魔法の契約なのよ。
でも、一度は引き渡した物のやはり実の娘、特に北方征服を狙っていた皇帝にはシリの力は必要な物だったわ。
北方戦争を懲りずに続けて居るのは、私はシリが目的だと考えて居るの。
実際、今はにらみ合いは続いている物の停戦状態ですもの」
それから彼女の話は続いた、ゲラルトの事やシリの事、ウイッチャーになろうとしていたシリをすんでの所である女魔術師が止めた事などを。
特に生き残っているウイッチャーは少なく各流派は潜伏しているか細々とウイッチャー家業をしていて、流派によっては暗殺や各国の諜報等で生き延びているとの事を。
「ではシリさんは純粋なウイッチャーでは無いと?」
「ウイッチャーの定義は魔法が使える剣士よ。
そういう条件ではあの娘は紛れもないウイッチャーよ」
「どんな流派が有るんですか?」
「ゲラルトの流派が狼流派、剣を得意とする流派ね。
猫流派は剣だけでなく政治にも詳しいの。
スピード、正確さ、敏捷性に重点を置いた戦闘スタイルが特徴ね。
でもその紆余曲折の中で滅亡したと聞いているわ。
グリフィン流派はウイッチャーでも魔法に特化した流派よ。
今は殆ど居ないと言われているわ。
熊流派はその名の通り防御とパワーの流派ね。
蛇流派は狡猾よ、戦闘スタイルは小剣を両手で使う者が多いと聞くわ。
暗殺が最も得意な流派ね。
マンティコア流派は防御とポーションの使用に重点を置いたスタイルね。
だから彼らの盾は重く強靭なの。
オオヤマネコ流派というのも有るらしいけど詳しくは解っていないわ。
そんなところね」
「とても参考になりました。
ありがとうございます」
翌日から大雅はインフラの整備に取り掛かった。
地球と連絡を取るとシリラとの接触を最優先、関係を良好に保つためにできうる限りゲラルト氏とイェネファー夫人にゴマを擦っとけと言う事らしい。
おがけで小型のコンテナサイズの小屋を建てる事に為った。
それで10回以上にも及ぶ資材転送が行われ、屋敷の前の広場はちょっとした資材の山になった。
材木は大した量では無いが、大型のユニットバス、配管材料、インフラ用の資材である燃料電池ユニット、モルタルと上流部に水の溜めマスを作るための資材、電動工具、ソーラーシステムと補機類、ソーラー発電システムなどだ。
「これ一週間でできるのか?」
翌朝、丸一日かけ小川の上流に給水桝用の簡易な水ための為の穴を掘った。
これが一番大変な作業で沈砂と荒いゴミの除去などを行う為だ。
川の水を飲む場合も注意が要る、上流には動物の死骸や糞、ましてこの世界は怪物という有害生物が跋扈する世界、どんな寄生虫が居るのか判った物ではない。
だから、ここから落差を利用し水圧を上げ自動逆洗砂濾過(ろ過)フィルターを通して給水する予定だ。
だから、給水桝はコンクリート製で強固なものを作る。
蓋は鉄板ではなくステンレス製だ。
そこから配管を通って本来は殺菌処理されるのだが、現在も水は小川の物をそのまま使っているようで、飲み水だけは沸かして飲んでるという。
硬度を計ってみると思ったより高くなくどちらかと言うと軟水だ。
だから、大雅は飲料水となる厨房に行く配管と風呂やその他の生活用水の水を分け、厨房の方は手動ではあるが逆洗浄可能な微生物をもろ過できるフィルターと、一方は給湯システムに大型の細菌程度はろ過できるフィルターに分けた。
端末の蛇口で3kg/cm程度になる様に設計されていて、手順書通り組み上げて行けば簡易な給水給湯システムが出来上がる。
大変だったのはこの給水桝と機材を格納するためのプレハブ物置の設置、そして簡易とは言ってもモルタルで造る発電水車のシステムだった。
ゲラルトが手を貸してくれイェネファーも魔法で穴を掘ったり整地をしてくれたためかなり早く進んだことは否めない。
女魔術師一人いれば重機も建設機械も要らない。
実に便利なものだ、都内での解体工事など重機を入れられない場所には引く手あまただろう。
「様子はどうだタイガ」
ゲラルトが心配そうに見に来た。
「ええ、給水給湯システムもエア抜きも終わって、後は通電試験ですね。
ソーラー給湯も順調に温度が上がっていますし、太陽光発電システムも問題無く稼動を始めました。
この屋敷の灯りとシステムを動かすには十二分な発電量です」
「しかし、雷の力をこんな風に利用するとはな」
「元は同じ電気です。
コントロールされているか居ないかの違いだけですよ。
自分の世界じゃ車もコレで動くものまでありますよ」
「我々には思いつかない世界だな」
「まあ、一日あれば星の裏まで行けるんですから」
「タイガ、いい加減その無図痒くなるような敬語は止めろと言ってるだろう」
「わかりま・・・わかったよゲラルト」
「ああ、それでいい。
ところで、風呂は何時は入れるんだ?」
「浴室の改造と補強は終わってるから、ユニットバスの完成は明日だな。
シリコンコーキングが固まるのに1日掛かるんで、明日には使えるよ。
このシステムだと毎日入っても余裕で問題無い。
水は小川から、電気も太陽電池と水力でバックアップも問題無い」
「薪を運んだり、沸かす手間も要らないんだな」
「ああ、お湯張りはボタン一個で済む。
但し、浴槽の栓はちゃんと閉まってるのを確認してくれよ。
あと厨房の水は沸かさなくても生水が飲める。
年に1回のフィルター交換のだけは忘れないでくれ、フィルターは設備小屋の隅に30本ほど置いてある」
「覚える事が多そうだ」
「機器の近くに説明書が置いてあるから問題無いだろ。
発電システムも全個体電池で30年は持つ」
「それ以後は?」
「この世界の技術が進まなきゃ以前に逆戻りだな」
「厄介なものだ」
「ま、それまでに国交が出来れば問題無いだろう。
それが出来なきゃ気長に待ってくれ」
ゲラルトはヤレヤレと頭を振って戻っていった。
「で、コントローラーはこの厨房と風呂場に有るけど、基本スイッチ入れっぱなしで問題無い。
風呂にお湯を張る時だけはこのボタンを押せば風呂が満水になる、浴槽の栓を確認する事を忘れずにな。
シャワーは何時でも使えるし、厨房にも混合栓が付いていて寒いときでも暖かいお湯が出る」
「あら、それは有り難いわね。
でも魔法なら手を濡らさずに皿の汚れがおとせるわよ」
そう言ってイェネファーは先ほど昼に使った皿を宙に大きな水玉を浮かせてあっという間に綺麗にした。
水玉から出てきた皿には水滴さえ残っていない。
「ねっ? 簡単でしょ?」
大雅は唖然とした。
これなら科学は進まないわけだ。
「イェネファー、それが出来るのは魔術師だけだろう、ウィッチャーにもできん」
その日の午後からは二人で設置されたばかりの浴室で2時間も入りっぱなしだった。
その夜の晩餐はかなり豪勢だった、シカ肉の背肉のステーキ、背肉と言うのは言わばロースの事だ。
ゲラルトは機嫌がよく、公爵から貰っている貴重なワインを開けだした。
「タイガ、明日から力の場を回るぞ。
丁度何件か近くの怪物退治の仕事が入っている」
「いえ、それよりシリさんに話を聞きたいんだけどな。
俺の真の目的は、門の安定した利用なんだよ」
「シリはやらんぞ」
「いや、くれと言ってるんじゃない。
力を貸して欲しいと言っているだけだ」
「タイガ、もう無理よ。
ゲラルトったら酔っぱらって居るもの。
こうなっちゃうと話が通じないのよねぇ」
「の、様ですね、はあっ・・」
「所でイェネファーさん、シリさんはこちらにいつ頃・・・」
「例年ならそろそろ来る頃だけど、何時かは判らないわ。
あの娘メガスコープも碌に使えないし手紙だって来ること無いしね。
まあ、もういい年なんだから落ち着いた生活も良いと思うんだけど」
「大変っすね」
「あのー、一つ聞いても?」
「何かしら」
「ウイッチャーの寿命ってどのくらいなのかって・・・」
「個人により違うわね。
若くしてウィッチャーに為った者は長生きすると言われているわ。
ただ、殆どがその前に死んじゃうけど。
一応言っとくけど、魔女に年の事は聞かない方が長生きできるわよ」
とニマァと笑う。
”こ、怖えええっ!
この人絶対に怒らせちゃならん人だわ!”
美人なだけに起こっらせると怖いというが、その笑顔は大雅でも震え上がる程の迫力があった。
”年齢の話は厳禁! 特に女魔術師には”
「一番長く生きたのはヴェセミルかしら、このゲラルトの師匠だった人よ。
亡くなったときは300歳を少し超えた時って聞いているわ」
当のゲラルトは舟をこぎ始めている。
「シリさんの件は待つしか無いって事ですかね?」
「ま、気長に待つ事ね。
最初はエイダーンの辺りをうろついてたみたいだけど、最近は南の方にも足を延ばしているみたい。
幾つかの塔を回ったって言ってたわ」
「塔?」
「ええ、あの娘には白き塔との因縁が有るの。
実際、一度は天体の合が起こりかけそれをあの娘は止めたわ」
「ええ、ゲラルトから聞きました」
「あの娘は気にしているのよ、白き霜をあの娘は確かに止めたわ。
でも塔は一つじゃ無いって言う話が各地に有って、確かにその地では魔力が集まっているの。
天体の合では人間だけでなく怪物もこの地にやって来たといわれているしね。
もし、天体の合でものすごく寒い所と繋がったら・・・それが白き霜の正体じゃないかってシリと話したの」
「なるほど、熱的死と言う奴かな?」
「それは?」
「私の所で200程前に何人かの科学者が提唱した説です。
エントロピーは増大し、最後には熱の移動が無くなり宇宙空間全体が均質な低温状態になってしまい、いっさいの活動が止まってしまう、すなわち死に至る、という考えですね」
「んー詳しく教えてくれるかしら」
「すみません、自分科学者じゃないんで無理っす。
ただ、この説は否定もされていないけど、証明もされていなんですよ。
だから、ウチの科学者連中に聞いてくれます?」
翌日からゲラルトを伴い力の場を巡る旅が始まった。
旅とは言っても、一つ回りそのついでに怪物退治をしてはコルヴォ・ビアンコに戻って来るという短期出張の様な旅だ。
一度入浴の味を占めたゲラルト夫妻は婦人は毎日の様に入っているし、遠出するとゲラルトは3日もすると「風呂に浸かりたい」と帰りだがる。
文明の機器や甘味は麻薬と同じだ。
知らなければ欲求も渇望も存在しないが、一度でも体験してしまうと離れることには大きな抵抗が生じる。
「なせだ、印もちゃんと出来てるし発動もしている。
なのにこの威力は何だ」
ゲラルトは頭を抱えた、アードはふわりと風が流れるだけだし、イヤーデンはほんのりと弱く小さく光るだけ、クエンに至っては手で叩いただけで消える。
アクスィーなぞ発動さえしない。
真面な物はイグニだけだ、それもウイッチャーの印では火の粉が数個飛ぶだけで薪に火をつけることなんて不可能だ。
「まあ、お前がまともに使えるのはイグニだけか。
威力だけは凄いが範囲が狭すぎる、余程よく狙わんと当らないな」
そうなのだ、幾つかの力の場を巡ったのは良いが、広がり方はより狭くなり、そして強力になった。
角度にして僅かに5度ほど、それが垂直に線状に広がる、だが火力だけは強力で当った地面は赤熱し近い所では溶岩化してしまっている。
「どだい緑色と言うのが判らん。
異世界人だからなのか・・・」
「というか異世界人でも出来る奴はいないけどな。
地球に帰ったらいいモルモットにされそうだよ」
「ほう、地球では魔法が使えたらネズミ扱いされるというのか」
「違うよ、実験動物扱いだよ。
良くて危険物扱いかねぇ」
「文明は進んでいるというのに難儀な世界だな」
「魔法なんておとぎ話の世界だからね、ここの世界は我々にとっては異質と言うしかない」
「怪物も居ないというのか」
「いや、危険な生物はいるよ。
ただ、吸血鬼、グール、グリフィンなんて生き物は居ない。
オオカミは多くの地域で生きる場を失い今は保護動物だ、蚊に比べれば危険生物に殺される数なんてたかが知れている」
「あの血を吸う蚊が?
お前の世界の蚊は魔法を使ったりチョルト並みに巨大なのか?」
「まさか、こちらと変わらんよ。
だが、毎年100万人を殺す、感染症を媒介するんだ。
吸血昆虫は色々な生物の血を吸う、その時微生物も取り込むんだ、そして他の生物の血を吸う時にそれを媒介し感染症を広げる」
「ふむ、それは厄介だな。
撲滅は出来ないのか」
「無理だろうね。
局在的に少なくする事は可能だが、蚊を全て絶滅させることは不可能だ。
ちなみに、その次に最も人を殺しているのは人間だ」
「まあ、そこはこちらでも似たような物だな」
「ところでお前の印だが、力だけは強いと言える。
だが範囲が狭い為に使いどころが難しい、剣は使えないのか」
「ナイフならソコソコは。
剣は無理だな盗賊にだって勝てる気がしないもの。
それに、銃が有るからな、わざわざ接近しての戦闘の必要性が無い」
「戦いでは使わないのか」
「使わないというより、使いどころが無いと言う方が正しいだろうな。
それに近接戦闘という手法があるんでね、剣は必要ない」
「刃を潰した練習用の剣がある、銃はどうやって練習する」
「繰り返しの練習だね。
まあ、それしか無いけど」
自衛隊では実弾の訓練は外部から遮断された訓練場のみで、例外と言えば富士の総合演習程度だ。
だから殆どがCQCやCQBではBB弾のエアガンが使われることが多い。
ゴム弾なんかは海外でも死亡例が有り安全とは言えないし、ペイント弾なども金の無い自衛隊では使われていない。
まあ、ゴム弾やペイント弾を実銃で撃ってみると判るが、オートマチックの拳銃もアサルトライフルも1発目だけは撃てるが2発目からは装弾不良が発生する。
弾頭が軽い為に起こる弊害だが、これを解消するにはスプリングの交換や下手すればスライドの交換迄必要になる、自衛隊ではこんなコストは掛ける余裕なんてない。
普通に打てるのはリボルバーやショットガンの様な手動装填できる銃だけだ。
「まあ、世界が変われば戦うスタイルも変わるだろう、だが敵と接しての戦いでは使い方次第では有利に運ぶことは間違いない」
ゲラルトはそう言った。
確かにそうだが現代のCQCでは銃を使ってのCQCも普通である。
相手の銃がこちらを向いていれば暴発する危険性も考えられる。
それから威力の調整の訓練を行ったが、半分ほどの威力迄には下げる事が出来た。
しかし、それは十分に人や動物を即死させる威力で、銃に例えると12.7ミリのライフル弾の威力が38口径の弾の威力に下がった程度で殺傷能力が有る事には変わりない。
ゲラルトからは火薬を持っている相手に安易に使わない方が良いだろうと言っている。
何度かゲラルトのイグニも見せて貰ったが彼のイグニは表層を焼いていく。
これなら身に着けている火薬類がすぐさま引火する事は無い、精々が皮膚に火傷を負い服が燃える程度だ。
「何かが違うな・・・イェネファーに意見を聞いてみよう」
そう言ってゲラルトはイェネファーを連れてきた。
10発以上のイグニを放つとクタクタだ、まるで1発放つごとに30mほどを全力疾走したような脱力感が襲う。
「ゲラルトのイグニと私たちの魔法と根本的に異なる事は解るわ。
でも、それが何故なのかは判らないけど、イメージの違いなのかしら何か内部から熱くなっているのは確かなの」
「内部から・・・電子レンジみたいな物か」
「電子レンジ?」
「ああ、調理器具の一つだが、封鎖された空間で強力な電波という電磁波を放射すると食べ物は熱くなるんだ」
「原理が判らないから何とも言えないけど、それに結果は近いわね。
いずれにしても危険には違いないわ、よく使いどころを考えてね」
トゥサンにに来て既に三ヶ月が過ぎた。
公爵の依頼や地元民の依頼を受け怪物退治を受けたり、猟をして鹿や猪を取ったりして過ごした。
大雅はシリが戻ってくるまでボークレールに戻ろうと考えていたが、ゲラルトは敷地に家を建ててしまった。
20人ほどのドワーフがやってきて、テントに泊りながら10日も掛からず建ててしまったのだ。
2階建てのその建物は建坪が20坪ほどだが1階が納屋と作業場、2階が普通の部屋になっている。
「よお、タイガ。 暫くぶりだな!」
その建屋の1階で作業をしていると一人のドワーフが立っていた。
「ゾルタン!」
「元気そうで何よりだ。
ゲラルトとイェネファーは?」
「いま二人ともボークレールに買い出しに行っているよ。
夕方には帰って来る予定だ」
「そうか、じゃあ玄関横のベンチで待たせてもらうとするか」
「それなら俺の部屋に来いよ。ゲラルトから借りてるんだ」
「ならそうさせてもらおう」
大雅は紅茶を淹れゾルタンに出した。
「この茶は旨いな」
「あれ? 飲ませたこと無かったっけ?」
「無いな、不思議なペッ・・なんとかに入った水は貰ったが」
「で、傷の方はもう問題無いのか?」
「ああ、骨も筋肉も問題無い。
それより、あっちまで面白いうわさが聞こえて来たんだが」
「面白い噂?」
「盗賊の大砦を壊滅させた爆裂の騎士とか英雄ウイッチャーの噂だ」
大雅は嫌な予感しかしなかった。
「行く先々で女を虜にし、火を噴く杖の雷鳴で化け物も一撃、敵には容赦なく民には優しく英雄ウイッチャー、その胸に輝くは伝説の猛獣タイガーのメダル!」
ゾルタンは朗々と歌い上げる様に言い放った。
「なんだよソレ、誰が言ってるんだよ! まさか・・」
「俺じゃないぞ! 吟遊詩人だよ。
リハビリがてら街中うろついてたらな、ナストログの街って結構吟遊詩人が多く来るんだ。
大抵、大昔の英雄や神話が多いんだが南からやって来た吟遊詩人が1人来てな、面白い話だから聞いてたらお前の事じゃねえか。
あと、マルダナル・ステア渓谷の手前の村じゃお前さん英雄扱いじゃねえか。
話聞いてぶったまげた」
「盗賊の砦を壊滅させたのは一人じゃないよ。
フィオナという女剣士が一緒だった、それについては聞いてないか?」
「ああ、だが村人はタイガが盗賊を駆逐する間、守ってくれた従僕だと思ってるぞ。
そいつはどうしたんだ?」
「ああ、シントラで別れた。
なんでも北の方に行くって話だ。
向こうでの用が済めばボークレールで落ち合う事に為っている」
「へえ、で、嫁にしても良い女か?
セリスだってまんざらじゃないだろうし」
「だから言っただろ。国際問題になるってば」
その時ドンッと空振の音が響いた。
「おっ、帰って来たみたいだな」
外の広場ではゲラルトが不機嫌そうに荷物を抱えて立っている。
「ゲラルトったら、いい加減慣れろとは言わないからあきらめなさいよ」
「門は嫌いだ」
「よおっ! ゲラルト久しぶりだなっ!」
ゾルタンが大声を上げる。
「ゾルタンっ! もう体はいいのかっ!」
ヒシッと抱き合いお互いの背をパンパンと叩く。
「ああ、ナストログでヘマやっちまってな、足をぽっきりやっちまった。
下手すりゃ死んでたとこだ、そこを助けてくれたのがタイガだ」
「そうだったのか、大切な友人を助けてくれて礼を言う」
「あなたたち、何時までそこで立ち話に花が咲くのは良いけど家に入りなさいな」
「いやー、風呂って言うのはいいもんだなぁ、エールが旨いっ!」
「さ、ゾルタンもっと飲め、タイガもだ」
「ああ、頂いてるよ」
「ところでゾルタン、ノヴィグラドは変わってないか」
「それだがゲラルト、あの国はもう駄目だ。
偽金は横行しているわウイッチハンターは我が物顔だわ、王はフィスティックに溺れてるって噂まである。
それに問題は永遠の炎教団だ、どうにも王は操られている節がある」
「ふむ、レダニアももう長くはないようだな。
ダンディリオンはどうしてる、それとプリシラも」
「ダンディリオンもプリシラも相変わらずだ。
小さいながらも農場も有るし店も有る。
たとえ王が変わったとしても実害は少ないだろう。
だから残る決断をしたよ。
俺は経営権をダンディリオンに譲って出てきた。
もうあの国は非人間族には生きにくい」
「これからどうするつもりだ」
「ゆくゆくはマハカムの叔父の所に身を寄せるつもりだ。
もともとの生まれ故郷だしな、それに一度は勘当された身だが戻ってこないかって手紙が来てる。
俺も良い歳だ母親にはそろそろ身を固めろって言われてるしな」
「そうか、それも一つの生き方だ」
「ああ、それに実家に預けた孤児の事も気がかりだ」
「戦争で孤児となった娘たちだったか。
たしか最後まで残ったのがドワーフの娘だったな」
「ああ、流石にノヴィグラドに置くわけにもいかんしな、ダンディリオンと店を構える前にマハカムの実家に預けてきた」
「ああ、タイガ話が見えないだろう。
説明は要るか?」
「いや、別に構わんよ。
ただ一つだけ、此方の種族の寿命ってどのくらいなのかなってね。
エルフは長いってのはなんとなくわかるけど」
「そうだな、此処の場合だと人間は大体50から60位だ。
稀に長生きで80くらいまで生きる者も居る。
ウイッチャーは300~400歳だな、亡くなったヴェセミルが300を超えていたはずだ。
女魔術師は判らん、エルフの血を引いている者は長いし500を超えて居る者も居るという。
生粋のエルフに至っては1000かそれ以上の者も居る」
「そうだなタイガ、ドワーフやハーフリングって言うのは元々この世界に住んでいたんだ。
そこにエルフがやってきて、その後怪物と人間がやってきた。
俺たちの寿命は大体500年位だ。
まうそれ以前にバカやらかして死ぬとか事故死とか戦いで死ぬとかが多いんだが、長く生きてりゃ寿命で死ぬよりそう言った事で死ぬ方が多い」
「それを言うならウィッチャーなぞも同類だな、いやそれより酷いかもしれん。
ウイッチャーで老衰で死んだ者など数える程しかおらん」
「タイガの所はどうなの?」
イェネファーは話を振った。
「紛争地域や戦争では似たような物だ。
ただ、先進諸国では病気や戦いで死ぬより老衰で死ぬ人の方が多いのは事実だな。
脳が死んでいても・・・脳死って言う名だけど体だけ生きさせようとしたら不可能じゃない」
「それって生きているって言うのかしら」
「一応俺のとこでは《死》とされているけどね。
実際には10日ほどで全身の機能に障害が出て長続きはしない」
「それって、脳だけが生きているってことも有るの?」
「もちろん。
その状態は植物状態と言って、ちゃんと意識も思考も有るらしいよ。
ま、本人は見えないし聞こえないし感じないから脳波は有るから判るらしい」
「脳波?」
「脳からは微弱な電気が出ているんだ。
それを計る技術が有ってね、眠っている状態でも失神している状態でもちゃんと脳は動いている。
脳波計という装置が有るからね」
「すげぇ進んでるんだなタイガの所は」
「ああ、魔法がない分俺の所では長い期間学問や科学を発達させてきた。
ほら、このタブレットもそうだ。
これは向こうの世界と常時接続はされていないから必要な情報は手作業で繋げる手段しか無いが、向こうじゃ常にネットに繋がっている。
ありとあらゆる情報が手にはいる」
「ネット? 網が関係してくるの?」
「星全体を情報の通信網で繋いでいるんだ、まるで網の目のようにねだからネットと呼ばれている。
1秒で数百冊の分厚い本の情報を星の裏まで届けられる速度と星全体を網の目のように覆っている。
だからこれをインターネットと呼び、ほぼ世界中の人間がこれを利用しているんだ」
「そのうち意識を持ちそうだな」
「ああ、AIね、最初は稚拙だったけど人工知能の発達は凄いよ。
絵も描くし歌も作る、小説まで書く始末さ。
AIが意識や自我に似た物を持つ事も確認されて来てるし、将来はどうなるのか予測できないね」
「その人工知能? 反乱したらどうなるのかしら」
「それは何度もシュミレーションされている。
映画や小説でね、もちろんそれを現実的な物として危惧している学者も多い。
大抵碌な話じゃ無いけどね、可能性が無い訳じゃない。
既に人は手で物を作らない、殆どが工業機械とロボットが行っている」
「ロボットだと?」
「こちらで言えばゴーレムみたいな物か、それが車を作ったり人の作業を代行しているんだ」
「だが作物をどうする、農業謎人の手でなきゃ難しいだろうよ」
「それもロボットだ。
特に大規模農場では既に人が乗らない大型機械が耕したり種まき刈り取り迄やっている所も有る。
人はその管理だけすればいい。
俺にとってはガーゴイルとかゴーレムの方がよっぽど不思議だよ」
「ところで塔についてだが、この近くには?」
大雅はイェネファーに聞いてみた。
「一番近い所がスケリッジに有る《トル・ヴァルカ》ね、でもここはシリが無効化したから今は単なる遺跡でしか無いわ。
元に戻るには数百年なのか数千年なのかは誰も知らない。
次に近いのが《トル・ララ》ね」
「その《トル・ララ》には入れることは可能ですかね」
「塔に行ってどうするの?」
「いや、其処から門を開けないかなって」
「無理よタイガ、あそこは島全体が魔法学院の影響下にあるの。
よしんば島に上陸できたとしても魔法協会の会員以外は基本的に立入禁止、一度襲撃を受けたから余計に今は厳しいでしょうね。
学院は既に機能していないけど、国が立ち入りを禁止しているの」
「他には塔は無いんですか」
「私は知らないわ。
なにせ凄く昔の事だもの、きちんと記録として残っているのは《トル・ヴァルカ》と《トル・ララ》くらいのものよ。
特に《トル・ララ》の塔はこの大陸でも有数の魔力が集まる場所なの。
これが有ったからあそこに魔法学院が立てられたと言っても良いわ。
ただ地方の伝承やおとぎ話のような物に塔と思われる物が残っているのは確かね」
「いつ作られたとか塔の目的なんかは伝わっていないのか?」
「一説には古代エルフが建造したと伝えられているわ。
ただ、目的については判らないの、魔法学院でもその魔力を利用しているにすぎないしね。
塔に詳しい人ね・・・フランチェスカかアイダなら知ってるかもしれないわ」
「どうすれば会える」
「どっちも会う事は困難よ。
フランチェスカ・フィンダベアはドルブラサンナ国の女王で純血のアイン・エレのエルフの上、エルフ至上主義、人間なんかそこら辺に居る動物くらいにしか思っていないわ。
でも結局は人間であるニルフガードに敗れ、ドルブラサンナを安堵する条件で協力したの。
結局はそれもうまくは行かなかったけど、足を踏み込んだ人間は捕らえられるか殺されるわ。
エルフの武装組織と北方が険悪なのはそう言う理由なのよ。
アイダはアイン・エレのエルフの伝説的な女魔術師よ、青色山脈に居を構えているらしいけど誰も場所は知らないの」
「八方ふさがりか・・・」
「ひとついいか」
居眠りを始めていたゲラルトが起きてきた。
「俺も名は判らないが塔ごと転移してきた塔に入った事が有る。
そこには魔術師が閉じ込められていて、コヴィリだと言っていた。
だからコヴィリには塔があるのではないか?」
「その者の名は?」
「確かポント・ヴァニスの宮廷魔術師だと言ってたな・・・たしかシゴ・ブンツという名だった気がする」
「コヴィリならタンクレッド王ね、ポント・ヴァニスはコヴィリの首都よ。
塔ごと移転するほどの力なら塔の一つにほぼ間違いは無いわね」
「いずれにしても塔を一度調べてみる必要はあるな。
しかしどうやって・・」
「可能性はアツレザの現校長マルガリータに聞けばアイダとの連絡方法は解るかもしれないわ。
あと一つは、メガスコープで呼び出す事ね」
「メガスコープ?」
「複雑な装置なんだけど、それが有れば連絡を取る事は可能だわ、相手がその近くに居るって事が条件だけど」
「イェネファーさん、それお願いできますかね」
「無理ね、まず私がメガスコープを持っていないのが一つ。
今から準備しても材料や素材を集めるにも何年も掛かるわ、それにとっても高価なの。
あと、アイダも私もお互いを嫌ってるってこと。
繋いでも一方的に切られるのが落ちよ」
「メガスコープならケイアモルヘンに有っただろう」
「あれは借り物だったのよ、もう返してしまったから私の手元には無いの」
「誰から借りたというんだ」
「キーラよ」
「そうか、ランバートと旅に出たんだったな」
いずれにしても大雅の計画が暗礁に乗り上げつつあるのは確かだった。
「宮殿で面白い物を貰って来た」
宮殿に所用で出向いていたゲラルトがそう言って取り出したのはカルメ焼きだった。
ゲラルトは怪物退治の報告と報酬の受け取りに宮殿に出向いた際、大雅がゲラルトの所に居る事が公爵に知れ、少しばかり話をしてきたというのだ。
「しかし子爵様だとはな、驚いたよタイガ」
「偶然村を救っただけだよ、断るつもりだったんだがな」
「まあ、邪魔になるもんでも無かろう。
だが、マレーネの代わりが見つかったぞ。
入ってくれ」
「メリダと申します、奥様、子爵様」
年の頃50過ぎの恰幅の良い女性だった。
「ボークレールで粉屋を営んで居たらしいが、子も無く主人が病で亡くなったらしい。
彼女自身はパン焼きの腕は確かだが商才に関してはダメと言う事でダミエンに相談したところ家を紹介されたらしい。
家は借り物だったらしくてな、細々と暮らしていたが働き先が無くて困っていたところだらしい」
だが大雅は一つの可能性を危惧した。
この女性が公爵の諜報要員であることは否めない、そしてそれはBBについても言える事だった。
”まあ真面な為政者なら当たり前のことだな”
その時突然空振の大きな音が鳴り響いた。
「ゲラルト! イェネファー! ただいま!」
突然フィオナが現れゲラルトに抱き着いた。
「シリ!「フィオナ!」」
大雅は思わずフィオナの名を呼んだ。
「フィオナ?
何を言っている、これはシリだ」
大雅を見た途端、フィオナが大雅を引きずる様にして厩の中へと引きずり込む。
「と、とと・・引っ張るなって・・」
「とにかく来て!」
「いい? タイガ、詳しい事は後で話すから今は話を合わせて!」
「あ、ああ」
”フィオナがシリ? シリラだというのか! なんてこった!”
大雅は腋に嫌な汗が出たのを感じた。