Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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地下迷宮

 

 

「まあ、よくもこの環境でコレだけ安眠できるもんだな」

大雅は、朝になっても寝袋に包まり完全に熟睡しているヴァードゥンを見て呆れたように言った。

雨が降っていないうえに乾燥しているせいで、夜露さえ少ない時期とは言え屋外の露天で寝袋一つだ。

 

「野宿に慣れている者は結構いるわよ。

 よっぽど快適だったんでしょ」

 

寝袋に包まり完全に寝こけているヴァードゥンをたたき起こすと、簡単に朝食を摂り今は廃墟となっているヴァリストの村へと向かう。

 

完全に人気の無い村の中には、数匹のグールが居たがあっさりと大雅に破壊された。

そう、殺すというより破壊と言った方が的確で、グールの頭が粉々に吹き飛んでいる。

 

当然だ、大雅が使用しているのはバックショットBと呼ばれる薬莢長が3インチの物だ。

一般的に使用されている2-3/4インチの薬莢長は8.38mmの鉛玉が9粒入っているが、3インチだと一気に15粒に増える。

しかもこのシェルはバックショットの中で最も初速が高く、その速度はフル銃身なら音速を越えて来る。

大雅が使用しているM870MCSの14インチ銃身でも拳銃弾並みの初速が得られる。

 

判り安く言えば音速並みの弾が15発、一気に打ち出される完全な軍用の対人用弾だ。

これは火薬量を増やして長い銃身の物に近づける為と短い重心ゆえに広がりやすい弾の密度を上げる為だ。

破壊力はすさまじいが、その代償としてスラッグ弾並みのキックバックが発生する。

 

至近距離から発射するとザクロどころか糸が切れた簾の様な状態になってしまう。

こんなもので至近距離から頭部を狙われたら、どんな生き物でも無事でいられる訳もない。

人間なら頭骨の欠片と僅かな皮膚を残して過熟して開いたザクロの様になってしまう。

 

 

「しかし、すげぇなその武器」

「俺でも使えるのか?」

ヴァリストが物欲しげに言う。

 

「運用も使う事も無理だろうな、不穏な事は考えないことだ」

「判ってるよ、ウイッチャーに喧嘩売る程バカじゃねえ」

 

「ここだよ、あーすっかり崩れてやがる」

「風雨に晒された木造なんてこんなものさ、世話をする人間が居なくなったらあっという間に朽ち果てる。

 さぁ、瓦礫をどかすぞ」

 

石板の上の瓦礫撤去には三人でも結構な時間が掛かった。

なにせ一枚が1トンほどの石板が2枚並んで穴を塞いでいる。

爆破で吹き飛ばさなかったのは、石板の強度が判らない事と、万一石板が崩れたら侵入路を塞いでしまう事も考えられたからだ。

 

「さて、どうやってこの大きな石板を動かすかだな」

「当ては有るの? タイガ」

「そうだな、簡易な単管パイプクレーン組むか。

 と言う事で、ヴァリストを連れて周囲の状況を確認と言う名目で連れ出してくれ。

 インベントリは彼に見られたくない」

「わかったわ」

 

 

大雅はその間に簡易インベントリを制作し、単管パイプと三脚ヘッド、1.5トンのチェーンブロックとワイヤーを取り寄せる。

丁度組み上がった頃、二人は戻ってきた。

 

「タイガ周囲は問題無いわ、数匹の鹿が居たぐらいよ」

「わかった、此方の準備も完了だ」

 

大雅はバールを石の隙間に叩き込むと力任せにこじ開けた。

出来た隙間にワイヤーを通し、石を持ち上げる様にチェーンブロックに接続しガラガラと石を引き上げる。

 

「すまんが二人でそっちのロープを引いてくれ、倒れてしまっても構わん」

単管で組んだ櫓には横棒が通されており、そこには単管用トロリーが取り付けられ簡単に移動できるようになっていた。

 

「石を吊ったままじゃダメなのか?」

ヴァードゥンが聞いてくる。

「パイプやチェーンブロックにトラブルが発生すりゃ、閉じ込められて出る方法が無くなるだろ」

「あ、そうか」

 

実際にはシリの門の力で移動できそうだがそれは秘密にしておく。

 

「結構深そうだな、下まで約10メートル。ザイルで降りるか」

「注意してねタイガ」

「できるなら、ここで見張ってくれると助かるんだが」

「いやよ、せっかくのお宝を目の前にして私だけここに残るなんて」

 

大雅はずっとヴァードゥンの怪しげな行動の様子を見ていた。

幾つか訝しげな所は有ったが、今一言動や行動に信頼性が見いだせない。

 

 

大雅はシリに小声で話しかけた。

『シリ、どうにも胡散臭い、ヴァードゥンの動きに注意しろ』

『もちろんよ』

 

「何を話してるんだ?」

「いや、中での段取りだよ。俺が先に行く、次はヴァードゥン、最後がシリだ」

 

中に入ると酸素濃度が僅かに低い物の、行動には支障がない。

遺跡の中に入っても酸素濃度は23%と地球より高い。

外は24.8%に上る、現代の地球の酸素濃度は約21%、一般の人はずっとこの濃度だと思っている人がほとんどだが、地球が形成された時は殆ど酸素が無かったことも判っている。

それが22億年前「大酸化イベント」と呼ばれる現象が発生した。

 

それは原生微生物(シアノバクテリア)によるものや、地衣類の光合成による過剰な酸素が発生、鉄やマンガンが多量に酸化され酸素濃度の上昇は鈍化した。

しかし、光合成に必要な二酸化炭素は豊富なため、再び酸素濃度は上昇し、35%を超える濃度迄上昇したことが判っている。

実は、地球においても3度の全球凍結、一度目は23億年前、二度目と三度目は約7億年前、しかも約6億4千万年前には赤道まで凍結している。

 

しかし、地球と言うのは生き物の様に火山活動に由来するエネルギーと大量の温室効果ガスを吐きだしてきた。

これにより全球凍結は中断されカンブリア爆発と呼ばれる生物の爆発的多様化が起こっている。

シリから聞いた白き霜というのはこの全球凍結と考えられる。

しかし、全球凍結などと言う大きなイベントは人為的に起こせるものではなく、二酸化炭素やメタンなど大気中から大量なおかつ継続的に行われなければならない。

それこそ、地表だけでなく海に至るまで表面を覆いつくすほどの原生動物が繁殖するとかしないと起こりえないのだ。

可能性が有るとすれば、大規模な門を通してのエネルギーの流出とそれに伴う星が恒星から受けるエネルギーの減少が起こる必要がある。

 

 

 

「どうやら、古いエルフの遺跡のようだな」

「判るのタイガ」

 

「ああ、以前幾つかの遺跡に潜った事が有る、ここまで深い物は無かったが、どうやら自然の洞窟に手を入れた形跡がある。

 ほら、広い所に出たぞ」

 

「ウイッチャーの旦那、門みたいのが有るけど奥は閉ざされちまってるよ」

 

 

広い空洞には幾つかの坑道の様な物が通じており、紡錘形の門と見られる物がある。

だが、精々奥行きは2メートルほどでその奥は岩壁になっていた。

 

「タイガ、これきっと門よ。魔石は有るけどエネルギーは無くなっているみたい」

門の上部には涙滴型の様な石が嵌っている。

 

「これ見たことあるわ、この石に魔力を籠めれば何処に繋がるか判らないけど先に進めるの」

「つまり固定式の門と言う事か」

「ええ、でも私では無理、力が強すぎて魔石が壊れてしまう可能性があるわ」

「イグニじゃダメなのか?」

 

「ええ、アードが使えれば何とかなるかも。そこら辺はゲラルトから聞いているわ」

「おれ、アード苦手なんだけど」

「魔石を粉々にしても良いなら私やるけど、別の意味でアードは私も苦手なのよね」

 

結局、大雅が10回にも及ぶアードを放ちやっとほんのりと光るようになった。

同時にドンッという空振と共に黄色いゲートが開く。

 

 

「だあー、しんどい・・・」

「タイガ、やっぱり弱いみたい、門が安定しないわ」

シリの言うとおり、1分とかからずに門は元の状態に戻った。

 

「シリ、物は試しでやってみてくれ。出来るだけ離れた状態で力は抑えて」

「そうね、距離取れば可能かも。念のため少し離れてて」

 

「おい、ヴァードゥン離れるぞ、あと口開けて耳塞げ」

「なんで?」

「鼓膜が破れて耳が聞こえなくなりたくないなら言うとおりにしろ」

 

途端、ズドンと言う腹に響く派手な音と天井から小石がバラバラと降って来る。

 

「シリ、頼むから打つときは言ってからにしてくれないか」

「そんな余裕私に有ると思う?」

「いや、うん。無理だな」

「判ればよろしい」

 

「すげえ、全部の魔石が光って門が開いている・・・」

「私たちに感謝するのね。魔術師かウイッチャーじゃないと門は開かないから」

シリがドヤ顔で言う。

 

「さて、この先一つづつ攻略するか、それとも手分けして探索するかどうする?」

「旦那ぁ、勘弁してくださいよぉ。怪物が出てきたら一人じゃ太刀打ちできない」

 

「うむ、それもそうだな。この先分岐していないとも限らないし。

 じゃ、左から入るか。全員気を付けろ、何が居るか判らんからな」

「大抵、こういう所って重要な所にはガーディアンとしてエレメンタルやゴーレムが居るのよね」

「それだけなら良いが、シェルマールや幽鬼は勘弁してほしいな」

 

「旦那たちぃ! あんまり脅かさないで下さいよぉ!」

 

大雅はポーチから小型のカラースプレーを取り出し、地面にマーキングする。

 

「何やってるのタイガ」

「探索の基本だよ。こうしないと何処から入ったか出て来たか判らなくなるだろう?

 こうして、マーキングしておけばここから入ったと解る」

「へぇ、便利ねえ」

「遺跡の関係者からしたら逆上物だろうが、こうしておけば判り安い」

 

大雅はそう言うと門の前に矢印と番号を書き入れた。

 

 

相変わらず門を胃がひっくり返るような感覚に襲われる。

世界を渡る程の異様な感覚では無いが、それでも軽い違和感と上下左右の重力違和が発生する。

 

「うへぇ、なんか嫌な感覚だ・・」

「長距離や世界を渡る違和感はこんなものじゃないぞ。

 あと幾つ有るか判らないんだから慣れろ。

 お、さっそくお客さんだ」

 

目の前ではゴーレムが淡い光を放ち起動しようとしている。

「撃つ、耳を塞げ!」

 

ドウンッ!

ドウンッ!

 

大雅が散弾銃から装填していたサボットスラッグ弾が発射される。

バゴッという音と共に左肩が吹き飛び、次の瞬間には二発目の弾で頭が吹き飛ぶ。

起動したばかりのゴーレムは其れだけで役目を終え、砂岩のような岩肌を晒し瓦礫に変わった。

 

「音もすげぇが、威力もすげぇ」

ヴァードゥンは眼を丸くしている。

 

「剣じゃこうはいかないわね」

「シリはゴーレムやエレメンタルと手逢った事が有るのかい?」

「ええ、何とか倒したけどあちこち青あざだらけだし、もう二度とやりたくないわ。

 あんなのが何体も居たら回れ右よ」

「ゲラルトは何度も倒したようだけど」

 

「アレは別物って考えた方が良いわ。

 反射速度が私より早いもの、しかもギリギリで交わすし次の瞬間には剣が伸びて来るの。

 幾ら私が瞬間移動できても所詮は直線的な移動だし方向を読まれてる相手には通用しないわよ。

 タイガの銃の方がよっぼど凶悪よ。

 ねえ、私にも使えないの?

 絶対に助けになれると思うんだけど」

 

「銃を扱うには訓練が必須なんだ。

 今回は無理だし持たせるには危険すぎる武器だよ。

 剣だって慣れなきゃ自分を切ったり周りの者を傷つけるのと同じだ。

 銃の場合、痛いじゃすまない事も多い、体幹に当たれば致命傷になる確率も高い」

 

「じゃあ、タイガが教えてよ」

「ま、本国から許可が出たら考えよう。

 とはいえ兵器は俺の国じゃ他国には法的に渡せないんだ。

 猟銃なら可能かもしれないがな」

 

「タイガの持っているのは軍用なの?」

「これは基本は猟銃だが、このM870MCSは完全な軍用だな。

 弾は同じものを使うけど」

「威力が大きいとか?」

「いや、銃の威力つまり飛んで行く弾のエネルギーは火薬量と銃身長で決まるんだ。

 でも火薬が多くても銃身が短ければ威力は大きくならない。

 銃身長が有っても火薬が少なかったり、燃焼速度が低ければ威力は小さくなる」

 

「タイガの国では誰でも銃を持てるの?」

「誰でもって言うわけじゃない。

 資格を取り研修を受け所持許可を受けないと銃を持つ事は許されないし、銃の種類も制限される。

 許されるのは警察や軍、こっちで言えば衛兵や兵士だな。

 まあ、国に寄っちゃ誰でも手に入る国も有るが、俺の所は銃に関しては厳しい国だ、簡単に手には入らないと思った方が良い」

 

「旦那たち、ここは外れだな。床に見慣れない模様があるだけで何にもねぇ」

ヴァードゥンは遺跡の奥へと進むと床に複雑に筋彫りされた彫刻の方へと歩いて行った。

 

「おい、気を付けろヴァードゥン、下手に触ると何が起こるか判らないぞ」

大雅がそう言う傍から床が黄色く光り出した。

 

 

「おうっ・・うわわわっ!」

 

「シリ! 下がれっ!」

シリは大雅の掛け声よりも早く、瞬間移動で下がってきた。

 

「ふうっ、危なかったわ。 ヴァードゥンは?」

「床の模様が光った途端消えたよ」

「トラップなのかしら」

 

「わからん、トラップかもしれないし別の場所への門かもしれないが、トラップの可能性の方が高いだろうな。

 門なら今まではアーチ形の物で判り易かったはずだ、わざわざ門を床の模様に擬態する意味が無い、となるとトラップの可能性が高い」

 

「ヴァードゥンはどうするの?」

「なにせ飛んだ先がどうなっているのか判らん以上飛び込むのは危険だ、入るにしても準備を整えてからだな」

「準備って何をするって言うのよ。

 もうほっといて探索しましょ、どうせ胡散臭い奴だったし」

 

「とは言っても放置する訳にもいかんだろう、トラップにせよ門にせよ確認しておかないと同様のトラップに掛かった場合対処ができない。

 と言う事でここで待っててくれないか」

 

「ダメね、もし戻れない場合は私の転移で何とかなるでしょうよ。

 タイガ一人で戻れない場合はどうするのよ!

 わたしが一緒なら戻れるわ。

 だから一緒に行くのよ」

 

大雅は少し考えると「わかった」と答えた。

確かにどこからでも転移できるシリの能力のアドバンテージは凄い。

異世界どころか国境で有ろうとどんなに厳しいセキュリティで有ろうと関係ない、彼女を阻む手段は地球には無いのだ。

 

 

「でもシリさんや、なんで盗賊に捕らえられた時に二人で飛ばなかったんだ?

 その方が楽だし安全性は高い」

「言ったでしょ、剣やお金も奪われたって」

「それを探している所を見つかって追われたって訳か」

 

「ええ、こっちは丸腰、おまけに一人抱えているしね。

 しかも問答無用で矢を射って来たのよ、そのおかげで二人ともパニックよ。

 門を使える事はリエンナや盗賊たちには知られたくなかったし、でも矢から鉄の毒が有ったのは計算違い、気が付いたときには飛べる気力も無かったわ」

 

「そりゃ大変だったな」

「そうよ、でもそのおかげでこんな便利な女捕まえたんだから感謝なさい」

「へいへい、じゃそろそ行くか」

 

大雅は、ポーチの中に幾つかのハーケンやナッツ類と呼ばれるロッククライミング用品を入れ、ザイルを肩に回すとシリにハーネスを付けさせ短いザイルで繋ぎハンマーピッケルを両手に持った。

 

「これは何の準備?」

「トラップの可能性が高いんだぞ、出たとこが垂直の落とし穴だったらどうする。

 一応念のためにアンカーにもザイルは結んでるけど、門が作動したら切られる可能性も有る。

 そのまま真っ逆さまなんて勘弁して欲しいしな。

 これが有れば余程脆い壁じゃない限りなんとかなるさ」

 

「脆かったら?」

「壁壊しながらずり落ちるが、死ぬことは無いだろう。

 一番いやなのは水や水路だな」

「それは私も嫌ね」

 

二人で床の文様の上に乗った途端、体がスッと落ちる感覚に襲われた。

「やっぱりかぁ!」

「きゃあっ!」

 

必死でピッケルを壁へと叩きつける。

何度目かでなんとか左手のピッケルが岩の割れ目に引っかかり、滑落は止まった。

腰のベルトがシリと繋いでいるザイルで引っ張られる。

 

「シリ、動くな。いまアンカーを固定するからそれまで大人しくしてくれ」

「わ、わかってるわ」

 

大雅は岩の割れ目にハーケンを叩き込み自己確保の為の基点を作る。

2本のザイルとフリクションヒッチを作り、デュアルコネクトアジャストというザイルと小さな金具で造られた道具にショートザイルを繋ぎシリを引き上げた。

門に入る前にアンカーに繋いだザイルは綺麗に切り取られていた。

 

「シリ、先に俺が降下する。

 そしたらこのザイルのこの金具に繋ぎ変え、この2本のザイルで降りて来るんだ。

 俺が下で降下を確保する」

 

俗にダブルロープと呼ばれる確保方法だ。

 

「えーっと、この金具をこっちに引っ掛けるのね、分かったわ」

「そしたら、アンカーに繋いでいるこの金具を外し腰の輪に引っ掛けろ。

 後はゆっくり降りるだけだ」

「これをこっち、で降りる訳ね」

 

ライトで照らしてみると下は25m程だ、降りるには問題無いが落ちたら無事では済まない。

ビルの8階から落ちるのと同じだ。

 

大雅はザイルの擦れる音と共に一気に降下していく。

下に降りるとヴァードゥンが大の字で仰向けに倒れている、頭頂部が割れ脳が飛び散ってグロい墜死体となっていた。

 

「どうしたのぉ! タイガあ!」

「いや、降りて来てからだ。ゆっくり教えた通り降りて来い、ゆっくりだ」

 

大雅はダブルロープの一本を延ばしながら、シリの降下をサポートしつつ降下させた。

 

「よいしょっと。タイガ、ロープ外して。

 うわっ! これってヴァードゥン?」

「ああ、着衣からして間違いないな。

 にしても殺す気満々の落とし穴だ。

 準備しといてよかったろ?」

「ええ、でもいざとなったら飛べばいいし」

 

「ところで、ヴァードゥンの遺体はどうするの?」

「上に戻れるか判らんし、門へ逆に上るのは難しい。

 こちら側から開くとは限らないしな。

 可哀そうだが、ここで朽ちてもらうしかないな」

「そうね、仕方ないわね」

 

 

降りた場所は鋭利な角を持つ大きな石材がランダムに置かれている。

数メートルの高さでも降り立つ事は困難で、どのような態勢でも良くて動けない程の大怪我か即死だ。

殺す気満々のトラップと言える。

 

「何も無いわね、向こうに門があるだけ」

「シリ、済まないがもう一度アードを頼む、出来るだけ軽くな」

 

門を潜ると、そこは大きな広間になっていた。

周りを5つの石碑のような物が立っていた、そして先ほどからメダルがうるさい程ブンブンと震えていた。

 

「左からアード、イグニ、イヤーデン、クエン、イクスィーの力の場ね。

 一か所に集まっているなんて初めてだわ。

 せっかくだから祈って置いたら?」

 

「いや、ゲラルトと幾つか回ったんだが結局はイグニ以外は子供だまし程度の物だって言われたよ」

「それでもしないよりはいいじゃない?」

「そうなんだが、どんどん人間離れしている気がしてな」

「あら、私も人間の筈だけど力は使えるわよ。とんでもない結果になるけど」

「シリはシリだよ。向こうじゃこういう力は武器や兵器で補えるし、その個人自体の能力がこんな力持っているとすれば危険視扱いされかねんからな」

 

「世界が変わっても似たような物なのね」

「そんなもんさ、だから戦争だって無くならない。

 今でも向こうの世界じゃ何処かでドンパチやってるよ」

 

大雅はダメ元で力の場の石碑に跪き頭を垂れ、次々と力の場を受け取っていく。

 

「なあシリ」

「なに?」

「ウイッチャーが力の場で受け取る物って何だろう。

 魔術師やシリが受けた場合・・いや、受け取ることが出来るのか?」

 

「ケイアモルヘンで訓練を受けていた時、幾つかの力の場を訪れた事が有ったわ。

 でも、石碑は何の反応も無しよ。

 イェネファーに聞いたんだけど、ウイッチャーの魔法と魔法使いの形態は根本的に違うんだって。

 そして、私の魔法もその二つとも全く違うらしいの。

 もちろん、普通の人間が力の場を訪れても何も起こらないわ。

 ウィッチャーもその事については話したがらないしね。

 わたしだって草の試練は受けていないけど魔法を撃てば桁違いの威力が出ちゃうの。

 タイガはどちらかと言うとウィッチャー寄りなのかもね」

「俺の世界にゃ魔法なんておとぎ話や空想の世界なんだけどね」

 

部屋を調べると半ば朽ち果てかけては居るが、なんとか使えそうな門があった。

というのは、広間に入って来た門を潜ると落とし穴の部屋に戻ったため、もう一度広間へと戻ってきたのだ。

 

「タイガ退いて、これはちょっと厄介そうだから私が力を注ぐわ」

 

ズドンと言う大きな音と共に門が開く。

「自分でやっといて何だけど、耳鳴りがするわ。

 狭い所で使う物じゃ無いわね」

 

タイガは黄色い耳栓をポーチから出した。

 

「なに? これ」

「耳栓だよ。普通の会話は聞こえるが大きな音や高音を消してくれる」

「ちょっとぉ! もっと早く頂戴よ!」

「前にあげなかったっけ?」

 

「貰って無いわよ。

 ん? 誰か私と似た女に渡したのね?」

 

「あ、あれっ?

 いや、勘違いだったかも・・」

「・・その女と寝たの?」

「シリ、信じてくれこっちの世界に来て抱いた女性はシリお前だけだ」

 

シリはねっとりと微笑むと大雅の首に腕を回して言う。

「ホントにぃ? まあいいわ。

 ここから出たら、ねっちり問いただしてあげる」

「ホントだってば!」

 

門を潜るとそこは最初に門を潜った場所で、潜った門のすぐ隣の門だった。

 

「なんとなく規則性が判って来たな」

「でも、今出て来た門をまた入ったら同じ所に出るのかしら」

「験してみるか」

 

大雅は今出て来た門の前の床に2という文字と両方に矢印の有る記号を書き3の文字を書いた。

 

「タイガの国の文字なの? 矢印は判るけど」

「アラビア数字と呼ばれる数をあらわす文字だ。

 元々インドと言う国で発明され、アラビアを通して世界に広まったんでそう言われているんだよ。

 便利なんで世界に広まったんだ。

 こっちじゃローマ数字を使って居るよね」

 

そういって大雅は地面にローマ数字を書いた。

「例えば3999を示す文字はMMMCMXCIXと書かなくちゃいけないけど、アラビア数字で書くなら4桁で足りる。

 それに筆算をする時にすごく判り安く便利なんだ」

「後で教えて! 便利そう」

 

大雅は小学1年の算数のテキストを取り寄せようと思った。

 

 

それから幾つかの門の先にはエレメンタルやガーゴイルが居たが数発のサボットスラッグ弾で粉々になっていく。

当れば尋常でない被害を受けそうな質量を持つ腕の先も肩から外れ単なる瓦礫に変わる。

考えればゲラルト達ウイッチャーが精々数キロの質量の剣で何とか出来る程度のモノなのだ、それよりも局所破壊能力に優れた銃弾が劣る訳がない。

 

「ふう、何とかなったな、にしてもこんなに居るって事は余程大切なものをガードしていたのかもしれんな」

「大体2から3発ぐらいなのね、もっと強力な銃は無いの?」

シリが聞いてくる。

 

「あるにはあるが速射性や取り回しに問題が有ったり、撃つこと自体に問題が有ってね。

 反動が強すぎて命中精度に問題がある。

 銃と言うのは筒の中で火薬を爆発させ弾を飛ばすんだ、だから弾を飛ばすと反動が来るって訳。

 そう言った銃は次の弾を撃つのに1秒ほどかかる、連続で打てる銃も有るが重くて取り回しが悪いんだよ」

 

大雅は使用した弾を装弾しながら言う。

 

「上手くいかない物ね」

「全くだ。今のところは12ゲージのサボットスラッグが一番使いやすいって所かな」

 

事実、大雅はAKMSを使っては見たが倒すまでに15発以上かかるため弾薬の消費が激しく使うのを止めた。

AK系の7.62mmの弾頭エネルギーは2000J(ジュール)ほどだが、サボットスラッグ等のショットガン用のスラッグ弾は良い所50m程度なら十分なエネルギーを持っているが初速が低い為、急激に減衰が起こる。

 

M99では体幹部に当たれば1発で倒せるが、重く取り回しが悪い事と、1発ごとに手作業によるリロードの為、1発目を外せばこちらのリスクが高くなるし、手持ちで打つ銃ではない。

M24SWSなら弾頭エネルギーが6000Jを超え1発もしくは2発で沈められるが、如何せん銃の全長が長く取り回しと手動リロードの為速射性に欠ける。

 

結局、銃にとって至近距離ともも言える敵を倒すのには取り回しも良く、リロードも早いショットガンでスラッグ弾を使う事が最も負荷が少なかった。

 

人間相手で有れば真面な防弾機能を持つアーマーが無いこの世界ではAKMSで十分だし、大型の獣や怪物でもM99やM24SWSを使えば済むことだ。

トンネルや封鎖空間内でのショットガンの有用性は米軍がベトナムで証明している。

 

「なあシリ。ガーゴイルやゴーレムって時間が経てば復活するのか?」

「いいえ、一度破壊された物は元に戻る事は無いはずだわ。

 術者が再び構築すれば別だけど、今はそのエルフの秘術も失われているって聞いているわ。

 アイダやフランチェスカなら出来るかもしれないけど」

「失われた技術か」

 

「タイガの所には無いの?」

「無いね、こんな石や瓦礫の塊みたいな物が動くものは無い。

 っと、またガーゴイルだ、後ろに下がってろ」

 

3体ほどのガーゴイルが居た広間には、奥へと続く道がある。

 

「あっけないわね。剣ならかなり苦戦するところよ」

「まあ、それだけ奥には何かあるんだろうな」

 

瓦礫となったガーゴイルを足で避け、奥へと進んだ。

 

「元は木の戸だったんだろうが完全に朽ち果ててるな。

 風化の具合から1000年や其処らじゃない」

「判るの?」

「大気中では湿気から風化が促進される、微生物やらなんやらでな。

 水に浸かっていた木の方が長持ちするんだ」

「確かに少し此処は空気が湿気っているわね」

 

奥は小部屋がいくつも有るような通路になっていた。

一つずつ調べるが何も残って無かった。

 

「苦労した割には何も無いわね」

「そうだな、塵や埃の被り方から見てめぼしい物は全て持ち出されたんだろうな」

「んーっ、こんだけ苦労して何も無いのぉ?」

「まあ、こんなことも有るさ。

 以前にも苦労して潜り込んだ割には石炭の欠片1個なんてことも有ったしな」

 

「石炭?」

「火をつけると燃える石だよ。 こっちじゃ炎結晶石って言うんだっけか」

「タイガは其れを探しに?」

「それも有るが、自分の世界じゃ石炭はあまり使われなくなってきている。

 どちらかと言うと石油と呼ばれる地下から採れる油だな。

 エネルギーとしてだけで無く、様々な原料になっている」

 

「わかった、タイガは其れを探しに来たんでしょ」

「ま、それだけじゃ無いけどな。

 目的はこちらの状況調査と国交の可能性を探るためだ。

 資源調査なんてどの道専門家じゃないと無理だし二の次だよ」

 

 

 

二人は結局何も得られず、門が並ぶ広間へと戻り、地上へと戻って来た時には既に夕方になっていた。

街道の近い所まで戻り、キャンプを張る。

 

「今日の食事は何?

 手伝えることが有るなら良いけど」

「流石に粥は飽きたんでな、スープと炊き込みご飯だ」

「炊き込みご飯?」

「ま、出来上がりを楽しみにしてくれ」

 

翌日街道を数日かけてやっとアルド・カレイへとたどり着いた。

 

「シリ、済まないが数日はアルド・カレイで宝石を換金したい。

 宿は風呂の有る所を取ろう」

「ああ、そうね。ゆっくり漬かりたいわ」

 

以前アルド・カレイに滞在したときに世話になった”銀の皿亭”に向かった。

娘が盗賊に攫われ大雅が助けた酒場兼業宿屋だ。

 

「タイガ、以前来たことあるの?」

「ああ、以前ここを経由してケイアモルヘンへと向かったんだ。

 害獣駆除とひと騒ぎ有ってな」

「ひと騒ぎ?」

「ここの娘が攫われててな。それを助けた。

 それだけだ」

 

二人は”銀の皿亭”のドアを開け中に入っていく。

まだ昼過ぎなので、酒場のスペースは閑散としていた。

 

「部屋を取りたい、二人だ。

 それと風呂を使いたい二人分だ」

「ああっ、あんたか!

 暫くぶりだな、ちょっとそこのテーブルで座って待っててくれ」

宿の親父はそのまま厨房へと引っ込んで行った。

 

「どうしたのかしら」

「さあな、火に鍋てもかけたままだったんじゃないか?」

軋む椅子に座り、テーブルに腕を乗せて待っているとトレーにエールの入ったジョッキ4つと乾物の摘みを乗せた宿屋の娘であるメリスがやってきた。

 

「タイガさん。お久しぶりです。

 その方が探して居た女性?」

 

「いや、目的の人とは逢えたが、彼女はその親類みたいな物だ、フィオナという」

「フィオナよ、宜しく」

大雅はわざとシリに偽名を使わせた。

 

「待たせた。ちょっと手の込んだ仕込みをしていたんでな。

 久しぶりだ、タイガ。

 あの時は助かった」

「カミさんの足の具合は良いのか?」

「ああ、おかげさんであれから2週間ほどは掛ったが今は元気だ。

 今は客室の整備をしているがそろそろ降りて来るだろう」

 

「で、部屋は有るかい」

「1部屋二人用ベットの部屋なら空いている。

 あれから隣を買い取り2階を繋げたんだ。

 2階が丸ごとスイートだ、風呂の沸かし釜も置いてあるから態々こっちの1階まで来る必要は無い」

 

「では、其処を頼もう。

 ついでに宝石が換金できる場所を教えてくれると助かる。

 フロレンスなら手持ちが有るがクラウンは殆ど手持ちがなくってな」

「宝石商なら、ここの通りを中心部に向かって行って広場に面した通りに有るが、お前さんから金をとる気は無いぞ。

 ついでに言うと、最近クラウンの贋金が増えて来ていてフロレンスの方がありがたい。

 本物のクラウンなら受け付けるが、偽クラウンなら100枚で本物のクラウン1枚となる」

 

「そんなに贋金が横行しているのか?」

「ここではまだ1~2割程度だが西に行くほど酷くなる。

 商人なんかほぼクラウンでの支払いには応じないよ。

 両替商も同じだ、だから来年には新しい金貨が発行されるらしい」

 

「随分状況が悪いようだな、レダニアも」

「ああ、もうあの国は終わりさ。

 銀貨はまだしもクラウン金貨を受け取る者は居ないと言っていい。

 だから銀貨か他国の金貨の方が価値が有るんだ。

 メリス、カウンターの裏から贋金と本物それに計りを持ってきてくれるか」

 

メリスは席を立ち、カウンターから言いつけの物を持って来た。

「こっちが偽物のクラウン金貨で、こっちが本物のクラウン金貨だ」

 

「見た目は多少表面が荒れているがそっくりだな。

 あと、色調が偽物の方が鮮やかだ」

「これのお蔭でだまされた者も多い。

 だが、両替商が編み出した簡単な方法が有るんだ」

 

そう言って、棒天秤の皿に偽物と本物を乗せた。

天秤はスッと本物の方へと傾く。

 

「本物が一枚ありゃすぐにわかる。

 今じゃ金貨を出されりゃこの秤で測られることが常識になってるよ」

大雅はまじまじと偽のクラウン金貨を眺めた。

 

「やるよ、それ」

「良いのか? じゃあ、同数のフロレンスと交換で良いか」

「とんでもない。

 ほぼ無価値だぞ、今じゃここら辺では受け取ってくれない店も多い。

 こんな酒場じゃ平気で偽クラウン金貨を置いて逃げられたことが何度あったか。

 おかげで大損だよ。で、両替商も銀行も受け付けちゃくれないしな。そんな金貨が何枚もあるんだ。

 価値は100分の一だし、使えばここの信用を失うしな」

 

そう言って数枚の偽クラウン金貨を大雅に渡した。

 

「わかった、有難く貰っておくよ」

「タイガ、そんな贋金どうするの?」

「ああ、送って状態を調べるんだ。

 それで技術レベルや金の含有率を調べて貰おうかとな」

「へぇ、そんなことできるんだ」

 

「多分、金アマルガム法による金メッキだろうな、中身は鉄か銅だろう。

 俺の所でも2000年前から有る手法だよ」

 

宿は快適だった、この世界ではと言う意味だが、銅製の大きなボイラーから水を半分ほど張った浴槽に30分ほどで熱湯が供給された。

流石にスイートだと主人が言っているだけに設備も悪くない。

 

風呂を使ってさっぱりとして着替え、タイガとシリは少し早めだが夕食を摂った。

 

「なんか混んできたわね」

シリの言う通り、席は半分ほど埋まっていた。

 

「あんたたちがタイガさんだね。

 ささ、席を用意してあるから座って、座って」

恰幅の良い中年の女性がテーブルを進めてきた。

 

「あたしゃメリスの母親のクラリスだよ。

 娘を助けてくれてありがとね。

 夕食はアタシに奢らせておくれね」

そう言うと早々に厨房へと戻っていった。

 

暫くすると、肉を砕いたパン粉で衣を付け、その上に茶色いソースの様な物が乗った料理が出て来た。

 

「はいっ、お待たせ~。ウチの自慢料理スハボーヴィのスペシャルソースですよ」

メリスが両手に皿を持ち二人の前に置いていく。

 

「ほう、これは旨そうだ。 頂こう」

「今エールとパンを持ってくるから、ごゆっくり」

 

二人とも粥と米の食事には飽きて来ていたので、うれしいメニューだった。

「ね、タイガ。ワイン頼んでもいいかしら」

「そうだな。1本頼もうか」

空腹がある程度満たされ、二人はワインをボトルで頼み、残ったスハボーヴィとパンを摘みに飲みだした。

 

シリもけっして酒に弱い訳ではなく、1本ぐらいなら余裕で開ける。

タイガも酒が好きと言う訳では無いがシリに付き合った。

 

翌朝二人は早くから馬で次の町へと旅立った。

数泊の野営を行い、、エード・グリンヴェールに着いたのは陽もすっかり落ちた時刻だ。

 

 

メイヤー男爵家へと馬を向ける。

ドアノッカーを三度叩くと執事が出て来た。

 

「おやおや、これはタイガ様お久しぶりでございます」

「前触れもせず申し訳ないが、男爵かロッテン嬢にお取次ぎ願いたい」

「かしこまりました、しばらくお待ちください」

 

しかし執事が引っ込む前にトトトッと走り出迎えたのはロッテン本人だった。

 

「タイガ! 久しぶりっ!」

「お嬢様っ! はしたのうございますっ!」

「良いじゃない、お父様はまた出かけているんだし。

 それより入って、話したいことが沢山あるの!」

 

「で、此方の方は?」

ロッテンは訝し気にシリを見た。

 

「妻になる予定のフィオナよ、宜しく」

大雅が答えるのを遮ってシリは答えた。

 

「そ・・そうなの。

 私はアベルト・メイヤー男爵の娘、ロッテン・メイヤーよ、宜しく。

 父は会合に出て居るの暫くは戻れないわ。

 先ずはお茶でもどうぞ」

 

「で、タイガ目的は果たせたの?」

「まあ、7割がたと言ったところだ」

 

「で、今日の要件は?」

「アリツィアの所に顔を出すついでだ。

 それと俺が設置した施設の調子とアレンウォードの様子が聞きたくてな」

 

「あなたが出てもう1年半近くね。

 早い物だわ、私も来年には18だし立派な行き遅れよ。

 戻って来るって言ってたから待ってたけど、まさか女連れて戻って来るなんて思ってもみなかったわ。

 身持ちは硬かったみたいに見えたけど判らない物ね」

 

「ま、それについてはすまんとしか・・・てか、君とは約束なんてしていないだろう。

 いつの間にそんな話になってるんだ」

「ザンネンね、もうタイガは私の物よ」

そう言って、大雅の腕に形のいい胸を押し付ける様に抱えた。

 

「はあ・・・私も踏ん切りがついたわ」

「で、アレンウォードはどうだ」

「事業は順調よ。

 今ではあの村の一大産業になっているわ。

 ただ問題は国の状況ね。

 クラウン金貨は暴落、今ではノヴィグラド周辺で使われている程度で、ここもすっかりオレンやフロレンスが流通しているわ」

 

「まあ、贋金に手を出した国の末路なんてそんなものだ」

「今じゃいっそ帝国の支配を望んで居る人が多いくらいよ。

 この国も王が居ない状況だしね、まあ、レダニアの支配も弱くなってテメリアの復権運動も盛んになって来たわ。

 それにしても良くいろんな国を抜けて来たわね」

「まあ、そこはちょっとした機密でね、聞かないでくれるとありがたい」

 

「アリツィアの所に行ってから、やはりロアナの所に顔を出すの?」

「ああ、そのつもりだ。

 アレンウォードにちょっとした用が有ってな」

「まあ、あの子もがっかりするでしょうね。

 なにせ、会うたびにあなたの事ばかりよ。

 ロアナから話を聞いたけど、女があんなことまでしたのに抱かずにポイッて酷くない?」

 

それから、大雅はロッテンに1時間ほどこってり絞られた。

「ロッテン嬢、貴方は全てを今すぐ捨ててタイガと一緒に異世界に行く気概はあるかしら。

 わたしには有るのよ。

 いつでも私は付いていくわ、そして子を産み幸せに暮らすの。

 このクソみたいな世界とはいつでも縁を切る覚悟はあるのよ」

 シリは話した。

 

「・・・それは私にとっては難しいわ・・父1人娘一人だし・・・事業も・・・」

「それが私とあなたの違いよ。

 私もシントラを見捨てる訳じゃ無いけど、少しは足掻いてみるつもりよ」

「シントラの出なんだ」

 

「シ・・・フィオナ・・それ以上は・・」

「ええ、解っているわ」

 

マイヤー男爵家を後にして、二人はアリツィアの下へと向かった。

 

「随分、町に活気が出て治安が良くなったな」

「前は酷かったの?」

「酷いという程では無いが、至る所にゴロツキが居るくらいだったな。

 露店や店も増えてるし道も綺麗になった」

 

 

「アリツィア居るか、大雅だ」

「・・ちょっと待っとくれ・・」

ドアを開けてアリツィアが出て来た。

「暫くぶりさね。

 元気そうで何より、ささ入りな」

 

「その後のメダルの調子はどうだい」

「ああ、変わらず良い性能だよ」

「力の石碑は回ったようだね、確実に魔力が増えているようで何より」

「相変わらず使いどころが判らないがな」

 

「で、せっかく顔を出したんだ何か話が有るんだろう?」

「なに、ある程度予測はしていたけどまさか本人を連れて来るとは思わなんだよ。

 のう、シリラ王女」

「え、逢った事あったっけ?」

 

「何度かアレトゥーザで逢ったろう。

 まあ、直接教えたことは無いが当時私は薬草学を教えていたの」

「ああ…そう言えば・・・でも変わっていないわ」

「女魔術師なんてそんな物さね。

 死んだと聞いていたけどね。

 事情は聞かないけど、父親の所には戻らなかったのかい」

 

「どうして戻らなかったって解るの?」

「それじゃよ」

アリツィアはシリの腰に付けた狼流派のメダルを指さした。

 

「それを付けて居るって事はウイッチャーにでもなったのだろう?

 エイダーンからライリアにかけて女ウイッチャーが居るなんて話もチラホラ聞いていたからね」

「完全にバレてるようだな、シリ」

「ええ、そうね。

 確かに私はシリラ・フィオナ・エレン・リアノン、帝国皇帝のエムヒル・ヴァル・エムレイスの娘だけど、縁は切れているわ」

 

「帝国の現状を知ってるかい」

「風の噂程度には」

「いま、皇帝には逆風が吹いておる。

 略奪者一族を撲滅したのは良い物の、進展しない北方との戦争、多数の死者や行方不明者、それが一部の戦争に反対する者たちが力を付けて来ておってな。

 特にシントラの代官が行方不明となり副官も殺された。

 それに腹を立てたアトレ家の本筋であるラドヴィ家の協力が無くなった事は大きな痛手じゃ。

 ラドヴィ家だけでなく、幾つかの重鎮が距離を置いているという。

 まあ、そのうち政権がひっくり返されるかもしれんの」

 

「なる様にしかならないわ。

 もし、転覆されてもそれまでの人間だったのよ。

 皇帝が変われば戦争も落ち着くかもしれないし」

「随分と辛らつじゃのう」

「当然よ、自分の欲望の為、私を犯して子供を作ろうとした男なんて」

 

「ほう、エムヒルは小児性愛が趣味だったとはのう・・・ふふふっふっふっ・・」

「タガの外れた人間なんて何処にでもいるもんだシリ」

「二人とも勘違いしないで、父は占いや占星術師を信じるの。

 その中に私の産む子供が世界を統べるっていうのを今でも信じてるのよ。

 だから、いっそ私に自ら子供を作ろうとしたのよ。

 そう言えば、あのクソエルフ共もそうだったわね」

 

「ん、異常性欲者じゃ無かったことだけが救いだな」

「いいえ、何人も傍女を置いていたわ。

 でも子が出来なくって、影じゃ種なしなんて悪口を言われていたくらいよ。

 元々そっち方面は大したことは無かったみたいだし」

 

「うむ、まあ世の中そんなものじゃろうて」

「で、戻ったら顔を出せって言うのはこの事なのか?」

「なに、これを渡そうと思ってな」

アリツィアは大雅の掌を取り首飾りのロケットの様な物を渡した。

 

「これは?」

「魔力は地脈と深い関係にある、それは暗い所ならうっすらと地脈や魔力のたまり場を見る事が出来る。

 旅の助けにはなろうて」

「有難く貰っておく、助かる。

 その代わりとは言ってはなんだが、対価はコレで良いか」

 

大雅は少し大ぶりな宝石を2つほど差し出した。

「いいのかえ、助かるわい。

 それも最後の触媒でな、大雅が居る時には製作は間に合わなんだ。

 これが有ればその代わりとなろうて」

 

 

二人はアリツィアの所を出て街へと向かった。

「もう昼も遅いな、宿に戻るか」

「ええ、野宿も構わないけど、出来ればベットが良いわ」

大雅は暫くぶりで『二つの斧』と看板が掲げられた飲み屋兼宿屋を訪れた。

 

「おや、しばらく見ない顔だな」

ドワーフの店主が相変わらず不敵に笑った。

「部屋は空いているか」

「今日なら大丈夫だ。

 ただ、大きなベットが置かれた部屋しか空いてない、それでよければ。

 釜と浴槽もあるからちと高くなるが」

 

大雅は言われた通り80フローレンスを払う。

「最近じゃ、クラウンは受け取らないんで助かるよ」

「贋金ばかりだしな」

「そうそう、お陰で銀行にクラウンなんか持ち込んだら検査で半日は潰れる、商売あがったりだよ。

 だからホレ」

そう言ってカウンターの上の書き込みを見た。

 

″クラウン金貨お断り、支払いはフローレンスかオレンで″

「みな、自衛ってことだ」

「レダニアの役人や兵が来た時はどうするんだ」

「あいにく今日は全て塞がっております」

「なるほどな」

「まあ、最近はとんと見ないけどな」

 

いよいよレダニアは末期となってきているのかもしれない。

 

 

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