Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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本作品は非公式のファン作品であり、CD PROJEKT REDによって承認されたものではありませんが、CD PROJEKT REDのガイドラインに沿って作られています。
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怪物退治と盗賊狩り

 

 

大雅のここ数日は、村周囲の安全確認に費やした。

 

馬で3時間ほど移動すると、20キロほど移動出来る。

よって、日帰りで移動できるのは、周囲20キロ半径だ。

 

大雅は分かれ道や、廃屋周囲の盗賊が住み着きやすい場所を重点的に、探査していた。

ドローンも駆使して、探索を行う。

湿地があるところには、ドラウナーが居たので倒し、詳しい身体データを記録する。

骨は細くもろい、いったいどんな生物から進化すれば、こうなってしまうのだろう。

 

ホローポイントの弾頭を入れたハンドガンで、頭を撃ったら、後頭部が吹き飛んでいた。

頭部のデータの為、胸を撃ったら、大穴が空き胴体がちぎれかかっている。

意外に脆い生き物なのかもしれない。

 

はっきり言って、グロい、しかも生臭いときている。

最後の一匹にはナイフで挑んでみたが、殴れば簡単に怯むし、CQCの技法で挑んだら、足を簡単に蹴り折ってしまった。

 

脆過ぎる。

まあ、生臭い匂いがするため、あまり接近戦闘はしたくは無い相手だ。

巣もあった為、C4爆薬で吹っ飛ばすが、地べたまで抉れるほどオーバーキルだ、何も残りはしない。

たいして巣は深くは作られていないようで、中にあった卵と思われる物も粉々になった。

怪物は硝煙の匂いを嫌うようで、火薬で吹っ飛ばすと暫くは再び巣を作る事は無いらしい、

 

村の周囲には2つほどの盗賊が根城を張っていたが、回収した武器はパニアバッグに柄を下にして突っ込む。

貨幣価値が判らない為、どれだけの価値か判らないが、両手のひらほどの革袋にパンパンだ。

商人は痛んだ武器なども買い取ってくれるとの事で、回収しては物置に溜めこんである。

村人に欲しい者が居れば、分け与えたりもした。

 

雨の日には、ロアナの弓のフォームを見てあげたり、簡単な近接戦闘を教えてあげた。

こういう世界で生きてきたため、彼女の身体能力は高い。

手先も器用で、矢羽の修正やコンパウンドボウの調整も覚えてしまった。

 

大型のモンスターには出会ってはいないが、大きな鳥の様な物は見えた。

双眼鏡でも小さくしか見えない遠くだったので、はっきりとはしないが、飛竜種と呼ばれるものなのだろう。

そのうちに駆除が必要なものなら、出向かなければならない。

となれば、対物ライフルが必要なこともあるだろう。

 

対物ライフルは12.7ミリという大きな弾頭を持つライフルで非常に重い。

軽い物でも13kgを超えてくるものがほとんどだ。

これを背負っての戦闘行動は大きな負担となる。

最も軽いバレットM99でさえ29インチバレルでやっと10kgという重量である。

 

狙撃には、ターゲットがはっきりとしており、狙撃位置がきちんと取れることが最低限の条件だ、間違ってもこの銃は抱えて、突撃するようなものではない。

10kgの米袋を腕だけで抱えて、カバー姿勢や走る事を考えてみてほしい、まともに動ける状態ではないことが判る。

 

つまり狙撃の機会を狙って何時間も待ち続け、1発で仕留める、それが狙撃だ。

立ったまま撃てないことも無いが、命中率どころの話ではなくなるのは当然の結果だ、そのため細身だが、バイポッドが標準装備されている。

 

相手が人だけなら、こんな重い銃は要らない。

どの道、スポッターの居ないスナイピングなんて500m程度が良いところだ。

重い弾頭の利点は、このぐらいの距離なら風や重力、コリオリの影響は、ほぼ無視出来る事と、その貫通力と破壊力だ。

 

地球にデータを送ったら画像解析を行い、サブリナさんからフォークテイルかワイバーンではないかと言う回答が帰って来た。

巣の周囲15キロほどを根城にしており、巣別れした若い個体以外はあまり長距離を移動しないらしい。

あの小山までは、少なくとも丸一日以上かかる距離がある。

次回の街道を探索する時期に行う事とした。

 

隣村にザインドが亡くなったことを知らせる為に、わずかに残る彼の遺品を持ちロアナと馬で出かける日が来た。

馬で朝出て着くのは夕方ほどの距離があるという、休憩時間を考慮すると距離にして30キロ程度なのだろう。

隣村まで1泊2日の行程だが向こうで何か有れば、伸びることも考慮し食料は多めに持っていく。

ロアナは、コンパウンドボウに随分慣れた。

最初の頃は、「リリーサーは水平に」「トリガーは頬に当てろ」と指導していたが、スポンジが吸収するように覚えて、自分の物にしていった。

 

ドローウェイトも今では50ポンドを引ききる、彼女曰く「途中は力が要るが引ききると急に軽くなり、維持できるから照準が楽」とのことだ。

もっと重くても引けるらしいが、彼女の体力では射れる本数が疲労の為少なくなってしまう。

コンパウンドボウに取付ける脱着用のベースを取り寄せ、彼女の背負い袋に縫い付けてあるので、大雅の銃のように簡単に背中から脱着できるうえ、動いていて外れることも無い。

嬉々としている姿は年相応だ。

 

「ロアナ、一つ聞いていいか」

「なに?」

「隣村も似たようなものなのか」

「規模ってこと?」

「ああ、作っている物とか、人数とか」

 

「アレンウォードよりは、少し規模が大きいわね。

 村の名前はスウェッド村と言うの。

 80人ほどの村人が、牛の牧畜を主体に生活しているわ。

 チーズの生産ではケイドウェンでも有数ね。

 羊も飼われていて、肉とか羊毛も作られているの。

 まあ、狼とか野犬が多いし、その警備の為衛兵が2名常駐しているはずよ。

 平時は飲んだくれの穀潰しだけどね。

 緩い丘陵地帯だけど、土に石が多いから畑には向かないわ。

 でも小さいけど宿屋もあるの、どちらかと言うと、泊まれる酒場って感じね。

 村おさは、去年代替わりしたの、私の許嫁だったのはその息子よ。

 父親は良い人だけど、息子はダメね」

 

「ロアナはよく勉強しているんだな」

「まあね、と言うより母に叩き込まれたの。

 村おさって言うのは、よほど酷くない限り世襲が多いのよ。

 まあ、中には村人の有力者から選ぶ村も有るようだけどね」

 

「村おさは、村の仕事をしながらだろう? 生活大変じゃないのかい?」

 

「そんなことないわよ、基本、村が国に治める税収の10%が村おさの取り分なの。

 その代わり、商人の誘致や橋を直す計画作り、村人の相談、やる事は山ほどあるのよ。

 でなきゃ誰もやらないわ。

 とはいっても、アレンウォードの規模じゃたかが知れているけどね」

 

「そろそろ昼だな、馬たちにも休みを入れさせよう」

「じゃ私あれ食べたい、タイガの国のパン。

 ほら、コケモモのジャム持って来たんだ」

 

小川の傍の開けた場所に馬を止めた。

行商人や旅人も利用しているのか、何か所かたき火の痕が見て取れる。

この世界の食べ物は意外に塩分が強い、汗をかく仕事が多い為だろう。

 

パンだけでは腹持ちも悪いので、タイガはメスキットでラーメンを作る。

それを二人で分ければ、十分に具入りのスープ代わりになる。

 

「私、ちょっと離れるね」

「ああ、離れすぎるなよ、何かあったら大声で叫べ」

女性と旅をする場合、ある程度身を隠せる場所で、休憩を取る事も重要だ。

ぶっちゃけトイレ休憩である。

 

どのみち馬は2時間ほど歩かせたら、15分ほど休憩を入れるのが普通だ。

馬達は小川で水を飲んで、土手の柔らかい草を一心に食んでいる。

ロアナは遺跡とみられる瓦礫の低い塀の陰から、小川へと移動し手を洗って戻ってきた。

 

「さ、できたぞ。熱いから気を付けて」

「わっ、美味しそう。

 私これ大好き。

 そうだ、今朝鶏が一斉に卵を産んでね、貰って来たんだ。

 入れようよ」

 

「それは旨そうだな。

 ところで鶏は村の中で放し飼いの様だが、卵の回収とかはどうしているんだ?」

 

「朝、というか夜明けに卵を拾い集めるのは年寄りの仕事ね。

 夕方は子供たちの仕事になるわ。

 ほら、ウチの玄関の横に、小さな庇が付いている棚があるでしょ?

 あそこに置いておけば、村人が勝手に持っていくって訳。

 野菜なんか時期によっては一斉に取れちゃうから、芋なんか山積みになっていることもあるわ。

 そんな時は、隣村と物々交換するの」

 

「商人は、次はいつ頃来るんだ? 」

「だいたい商人は、スウェッドまで来てから、アレンウォードに来るパターンね。

 服や生地なんかは、売り切れている場合があるけど、基本予約を取っていくから、手に入らないってことは無いわ。

 みんな次に来るときの物を頼むのよ」

そんな事を話している内に休憩は終わり、再びスウェッド村に向かって馬を歩かせる。

こうして見ていると、緑が多い長閑な風景が続く。

 

 

 

太陽も山の稜線に近づいたとき、ポツポツと立つ建物が見えてきた。

 

「おかしいわね、村人の姿が見えないわ」

「ロアナ、周囲を警戒しろ、何か様子がおかしい」

大雅は馬に乗ったまま、ドローンを取り出すと空へと飛ばした。

 

「タイガ、それ何っ?」

「説明は後だ」

ドローンの映像では、多数の村人が血だらけで倒れている。

その数は、優に10を超えた。

 

「ロアナ多数の死傷者が出ている。

 盗賊や武装した者の姿は見えない」

「なんてこと・・・盗賊なの?」

 

「いや、盗賊の姿らしきものは見えない。

 そのかわり・・・グールが7匹ほどいる・・・あれは・・・アルグールか?

 背中にトゲが生えたヤツもいるな」

「どうするの?」

「ロアナはここで待機。俺は村へと入る」

 

「危険だわ! それなら私も行く!」

「はっきり言って、足手纏いだ、まだ戦力外だよ」

「私だって戦える!」

「グールやアルグールと戦った事は?」

「無いわ、でも・・・」

「なら、これを貸してやる。

 万一俺がヤバくなったら馬で逃げろ」

 

大雅はロアナに双眼鏡を渡した。

つまり、大人しく見ていろと言う意思表示だ。

 

大雅は村の中央部へと侵入せず、周囲から建物をカバーしながら次々と倒していった。

使用したのはショットガンとホローポイント弾のハンドガンだ。

倒したグールは8匹、おかしいアルグールが居ない。

 

よく見ると数軒のドアが開いている。

ショットガンの弾をバードショットに変更した、これが後の失敗につながるとは思ってもみなかった。

 

替えた理由は9粒弾では威力が有りすぎ、万一隠れている人が居たら、二次被害が発生する。

近距離では、木の板など簡単にぶち抜くからだ。

 

注意深く、1戸づつ確認していく。

4戸目のドアを開けた時、アルグールが大雅にとびかかってくるが、冷静にショットガンを打ち込む。

パキンと音がするが、アルグールには着弾した様子がない。

 

「マジかよ」

 

アサルトライフルを背中から取っていてはいては、間に合わないだろう、今にもアルグールは飛びかかろうとしている。

両手で構えていたショットガンを手放すと、同時にハンドガンを抜き、アルグールに向けて撃った。

1発目はやはりバキンと音がしたが、2発目からは次々と着弾していく。

 

アルグールは4発もの銃弾を浴び、銃創から夥しい量の出血をして仰向けに倒れた。

どうやら、1発目だけはバリアの様な物を張っていて、銃弾を防いでしまうようだ。

 

「ふうっ」

 

その時、後ろに気配を感じ、振り向くともう一匹のアルグールが正に飛びかかろうとしていた。

ハンドガンの残弾は一発、ショットガンは地面の上で、入っている弾は効かない。

アサルトライフルは背中と、万事窮すだ。

その時、一本の矢がアルグールの頭に当たりパキンと言う音とともにアルグールがそちらの方を向いて威嚇した。

 

「ピギャーーーー!」

大雅はこの隙をついて、ハンドガンのマガジンラッチを押し、マガジンが地面に落ちる前に次のマガジンを叩き込み、そのまま6発をアルクールの頭に向けて撃つ。

 

大雅は完全にやらかしていた。

残弾1発前でマガジンを変えるのが彼の流儀だったのだが、まさかアルグールが初弾を弾き返すとは思わなかったし、データもなかった。

 

タイミングも悪かった、この事態が判って居たら、少なくともマガジン交換か、アサルトライフルに切り替えるべきだったと。

完全に大雅の油断が招いた危機だった。

 

「大丈夫っ? タイガっ!」

「ああ、問題ない。助かったよ」

ショットガンの玉を元の00バックつまり9粒弾に戻し背中に戻した。

同時にアサルトライフルを取り出し構えた。

 

あと、2戸の安全確認が残っている。

この調子だと、アルグールかグールが居てもおかしくない。

慎重にスロー&デリバリーと呼ばれるスタイルで、1部屋ずつ確認していく。

奥で皿の転がる音がする。

 

部屋には逃げ遅れた子供と、それを抑え込もうとするアルグールが居た。

アルグールの頭に、フルオートの7.52ミリ弾頭が音速の二倍以上の速さでで突き刺さっていく。

あの不思議なバリアも無関係だ。

頭がザクロのように開き、アルグールは倒れた。

 

「死んどけ、化け物」

子供は6歳ほどの男の子だった。

怪我は無く、ポカンと大雅を見つめていたが、次の瞬間、顔がくしゃりと歪み、泣き声が上がった。

 

「ロアナ、この子の保護を頼む」

「判ったわ。まかせて」

子供をロアナは抱き上げた。

 

「次の家で最後だ。玄関で待っててくれ」

5分ほどで敵索を終え、他にグールが居ない事を確認し、道に戻ると男の子は泣き止んでいた。

 

「ウィッチャーさん? 助けてくれたの?」

「痛い所はないか」

「うん」

「よくがんばったな。

 えらいぞ。泣きわめかなったのは」

 

「怖くて声も出なかったんだ」

「そんなの黙ってりゃ判らないさ。

 何故一人だった? 親は?」

 

「逃げるとき大切なコマを忘れて、家に取りに戻ったの。

 部屋から出たら、玄関から怪物が入ってきたんだ。

 でも結局家の隅まで追い詰められて・・・」

「それでも泣き叫ばなかったのは正解だ。

 でないと興奮したアルグールが襲ってたかもしれん」

「た、助けてくれてありがとう、おじちゃん」

 

「おじっ・・せめてお兄ちゃんぐらいで勘弁してくれ」

ロアナは笑い出している。

 

「む、ロアナ。まだ周囲の安全が確認されたわけじゃないぞ」

「もう大丈夫よ、ほら、村人も帰ってきたしね」

ロアナの言う通り、剣や斧を構えた村人を先頭に、村人が帰り始めていた。

盗賊の遺体は3名、村人が11名亡くなっていた。

 

「ロアナか?」

「ええ、シモンさん」

「無事でよかった、子供も助けてくれてありがとう」

「助けたのはタイガよ。

 私は後をついてきただけ」

「いや、助かったよロアナ。

 あの一矢が無かったら、ヤバかった」

 

「まあ、当たったけど刺さらなかったのよね」

「ああ、あんなバリアみたいな能力を持っているとはな」

「で、ロアナ。こちらさんは? ウィッチャーを連れてきてくれたのか?」

「この人はタイガ・ハイド。

 まあ、ウイッチャーみたいなものね」

 

「そうか、私はこの村の村長をしているシモンだ。

 報酬の話をしたいところだが、少し待っててくれるか。

 亡くなった者たちを火葬にしなくちゃならん。

 私の家で待っててくれ」

「いいわ、ドロタさんは変わりない? ってシモンさん怪我してるじゃない」

 

「シモンさん、火葬の準備はオラたちでやっとくよ。

 村おさは怪我の手当てとウィッチャーの相手を頼むわ」

体格がしっかりとした多少頭が禿げ上がった男が言った。

「わかった。悪いが頼む」

「任しといてくれ」

 

 

村おさの家に着くと、妻のドロタが出迎えた。

 

「ごめんなさい、夫の怪我の手当てをしちゃいますね」

「構わなかったら、俺が見よう。

 薬も持っているから、ちょっとした手当ならできる」

「では、すみませんが・・・」

ボロ布を解くと出血が始まった。

 

「ロアナ、これを当てておいてくれ」

タイガはメディキットから止血ゼラチンスポンジをロアナに渡した。

 

「傷は大きいが、縫合が必要なほどの深さじゃないな」

10分ほど押さえ、出血量が少なくなったところで消毒し、傷が広がらないようテープで横に押さえる。

完全に傷をテープで全部カバーしないのは、浸出液や出血を封じ込めてしまわないためだ。

その上から、新しい止血スポンジを当て、通気性を持つ大きめのドレッシングテープでカバーする。

 

「これでいい。明日はテープを替えれば、化膿しない限り大丈夫だ。

 熱が出るようなら早めに言ってくれ」

「凄いものだな、首都でも見た事の無い治療方法だよ。

 ウィッチャーというのは、みんなこんな技術を持っているのか」

「それは知らんが、俺の国では当たり前だな」

 

 

妻のドロタさんがお茶を出してきた。

それをきっかけにシモンさんが話し出す。

 

「さて、ウィッチャー。

 報酬の話なんだが、今のところ出せるのは100ほどだ。

 クラウンじゃなくてオレンで済まないが」

 

「いや、俺は報酬の「貰って置いたら? タイガ」・・・・ロアナ?」

「私たちの矢がタダじゃ無いのと同じで、タイガの武器だってタダじゃ無いんでしょ?」

「ま、まあそうだな」

「じゃ貰ってもいいんじゃないかしらら。

 それにタダで仕事はしないのが、ウィッチャー。

 前例作っちゃまずいでしょ?」

 

「・・・わかった受け取ろう。

 その上で、この金は無くなった人の家族に分けてやってくれ」

大雅は数枚のオレン金貨をポケットに入れると、残り大部分を押し返した。

 

「本気か? 変わったウイッチャーだな」

「タイガ・ハイドだったか、苗字持ちなのだな。

 それに見たことのない武器を使う。

 ウィッチャーというのは、鋼の剣と、銀の剣を挿しているものと聞いているが」

 

「生憎、ここらの者ではなくてな、あなた方には想像もつかない遠い所から来た」

「そうか、そういう事にしておこう。

 大きな破裂音が続けて聞こえたが、魔法の音だったのか」

「そうと思ってもらっていい。この武器を使うときは、とてつもない音が出る」

「わかった、これ以上詮索するのは止めよう。

 ところでロアナ、話が有ったのでは?」

 

「10日ほど前、アレンウォードの村を、五人組の盗賊が襲ったの。

 亡くなったのは4名、私の父と母、それとケイリック、そしてたまたま来ていたザインドおじさんよ。

 そこを助けてくれたのが、タイガなの」

「そうか、ザインドは亡くなったか、いい人だったのに残念だ」

 

「この村の状況を聞いても良いか。

 盗賊の死体もあるし怪物もいた。

 状況が見えていない」

大雅はシモンに尋ねた。

 

「盗賊が3人この村に入ったのは1週間前になる。

 盗賊たちは何とか倒したが、ちょうどいろいろな事が重なり、火葬が伸び伸びとなってしまったんだ。

 そしてここ最近の暖かさで、グールどもが匂いを嗅ぎつけて、やってきてしまった。

 グール数匹だけなら何とかなったかもしれんが、アルグールが3匹もいるとは思わなかった。

 村に駐在していた衛兵も倒され、立ち向かった者もあっさりと倒された。

 あいつらは20人近い餌となる人間を手に入れたって事で、居座ってしまった。

 私はすぐさま村から逃げ出すよう伝え、最後を守った」

 

「腕の傷はその時に?」

「そうだ、1匹のグールが追いかけてきた。

 二人村人が加勢してくれ、何とか勝てた。

 あとは逃げるので必死だったが、妹の息子が、その時になっていないことに気付いたんだ。

 私の甥っ子だ」

「その子が私たちが助けた子供って事ね」

「そうだ、本当に助かった」

 

「ロアナ。ここいらは盗賊と怪物の巣窟なのか?」

「けっして少なくない事は事実よ。

 戦争のせいで衛兵も引っ張り出され、怪物が増え、そのせいで職を失ったり自暴自棄になったりね。

 戦争で脱走したり敗走した兵士が、盗賊になってることも多いわ。

 特に南部からのね」

 

「どうりで。

 アレンウォード周囲でも盗賊グループが8つ、怪物の巣が6つもあったからな」

「あきれた! 毎日のように大量の剣を持ち帰ってきてたのは、盗賊狩りしてたの?」

 

「盗賊というのは、大部分の怪物と違って知恵がある。

 狡猾かつ残忍で欲深い、それが人間の本質だよ。

 あんなのがウロウロしてたのでは、オチオチ眠れないタチなんでね」

 

「やはりこれは受け取ってくれ」

シモンが再びオレン金貨を出してきた。

 

「正しい行いは、賛美や讃える言葉だけではない。

 特にそれを仕事とするウィッチャーならば、当然の権利だ。

 我々はそれに、きちんとした報酬で応えたい。

 遺族には村から補助しよう。

 もともと、酪農とチーズでこの村は、比較的裕福だしな」

「わかった、受け取ろう」

 

シモンがロアナの方を向いて話し出した。

「ロアナ、泊まっていくのだろう? 夜道は危険が多い」

「ええ、そのつもり。

 タイガももちろん泊まってもいいわよね」

 

「当然だ、恩人を野宿させるほど、私は恥知らずではない。

 たとえそれが非人間族であったとしてもだ」

「タイガは人間よ」

 

「本当か?」

「ああ、ロアナの言う通りだ。

 俺は普通の人間だよ。

 まあ、ちょっとばかり、厳しい訓練は積んで来たが」

 

その時ドアが叩かれ、村人をドロタ夫人が迎え入れた。

 

「シモンさん、火葬の準備ができただよ。

 早いとこ燃やしちまわないと、またグールが来るさね」

「わかった」

疲れた体を引きずるように、シモンが立ち上がる。

 

「そうだ、シモンさん。

 タイガに頼んでみてはどうかしら」

「火葬のか」

「ええ、タイガは私の村でもしてもらったの。とても幻想的できれいだったわ」

 

「うむ、では頼めるか」

「送り出す言葉程度で構わなければな。

 しかし、宗教的に問題ないのか?」

「問題ない。

 もともとここいらは自然を神として信仰するものが多い。

 山、川、森にも居る。実際精霊を見かけた者も多い」

 

「俺の生まれた国もそうだったな。

 なにせ800万もの神々が居ると言われているからな」

シモンの家族とタイガ、ロアナの四人は町はずれにある広場に組まれた火葬木組みへと向かった。

シモンは集まった村人に話し出した。

 

「良く集まってくれた。

 名残惜しいが火葬を行う。

 今回の怪物騒動は、盗賊の遺体処理が遅れた為に怪物を呼び寄せてしまった。

 その結果、11名もの貴重な人命が失われてしまった事をお詫びする。

 本来は村人の火葬は明日以降なのだが、木材調達の関係から盗賊どもの死体処理と一緒に行う事となった。

 皆、思うところも有るだろうが、ここは容認してほしい。

 それと怪物を退治してくれたのが、ここにいるウィッチャーだ、彼は私の甥子も救ってくれた。

 あまつさえ報酬を遺族の為にと差し出してくれた。

 しかし、我々はこれに甘えてはいけない。

 我々は悲しみや憎しみを超え、立ち上がらなければならぬ。

 そこで亡くなった者たちの送る儀式を、敬意をこめてウィッチャーに依頼したいと思う」

 

大雅はアレンウォードで行ったと同様に酒を供え、冥福を祈った後、印を組んだ。

またしても、緑の炎が夜空を背景に上がった。

 

この世界の木には銅化合物でも混ざっているのだろうか。

祈りの言葉も終わらないうちに、火を放つのが普通なのだろうか。

そんなことを考えながら、シモンの家に戻った。

 

「礼を言うタイガ。今までない送り出しの儀式となった」

「それはかまわん。

 それより遺体を焼いた木と同じものは残っているか、小切れで構わない」

「ああ、外の小屋に残っている。

 ドロタすまないが少し取ってきてくれないか」

「ええ」

 

ドロタ夫人がいくつかの木っ端を持ってきた。

十分に乾燥されていて、サンプルとしても転送するのに問題ない。

後で銅が含まれているかどうか判るだろう。

 

「助かる」

「そんなものをどうするのだ?」

「ひとつ聞いていいか」

「ああ、私に答えられる物なら」

「俺が言霊・・いや呪文を唱えているとき、火が付いた。誰か付けたのか?」

「薪木には誰も近づいていなかった。

 誰もだ。火は呪文で点いたのではなかったのか?」

 

「もう一つ、ここの木は燃やすと緑色の炎を上げるのか?」

「そんなことは無い。

 燃やせば赤い炎を上げる。

 それこそ緑色の炎など初めて見た」

 

そういって、暖炉の熾火に木っ端を投げ入れた。

ほどなくして木っ端は赤い炎を上げて燃え出した。

 

「タイガの力ね、緑色に燃えるのは。

 きっと魔法の力なのよ」

 

ロアナはドヤッと言わんばかりに話した。

まるで自分の事のように腰に手を当て、ささやかな胸を張っている。

 

「俺は魔法なぞ使っていない、確かにある宗教の印を手で組んだが」

「やっぱり魔法じゃないの。

 普通の人は印を組んでも何も起こらないわ。

 それこそ魔法使いやウィッチャーじゃなければね。

 それとも家族に宗教関係でも居るの?」

 

「確かに祖父はある宗教の司祭の様な物で、子供のころ印を習ったりしたが・・・」

シモンも頷きながら答えた。

「私もそう思う、そこでお願いしたいことが有るのだが。

 ああ、もちろん報酬は別に出す」

 

「依頼か?」

「戦争で衛兵も駆り出されてから、怪物を目撃する事が増えている。

 この周囲の怪物を、退治してはくれんだろうか」

「アレンウォードでも5日以上かかった。

 ここだと7日いや10日ほどかかるかもしれんぞ」

 

「構わない、秋になれば商人が大量にチーズを買い付けにやってくる。

 支払いはそれ以後になるが構わんか」

「それは構わない、俺が居ないときはロアナに預けてくれ」

「交渉成立だ、怪物の巣1つに着き30、盗賊グループも同じだ。

 大型怪物については50で構わんか」

 

「怪物の死体を持ってくるのか?」

「いや、持ってこられても困る。

 利用価値も我々にとってはほとんど無いしな。

 村の猟師を一人付ける。

 その者に記録させる」

「判った、しかし一度アレンウォードに戻り、支度をしてから取り掛かりたい」

「構わない、ウィッチャーに依頼を出したとしても何カ月、下手したら何年も先になるのだからな」

 

「ウィッチャーへの依頼は、どうやって連絡を取るのか、聞いても良いか」

「掲示板に依頼を張り出す。

 それを流れのウイッチャーが見て受けてくれる。

 運がいいときは数週間で来ることもあるが、そうでないときは何年も張ったままになるだろう。

 本来は衛兵の仕事なのだが」

 

「全ては戦争が原因か」

「そうだ、終わりは見えんが我々は生きて往かねばならん。

 グール数匹やドラウナーなら何とかなるが、アルグールとなると我々では太刀打ちできん。

 衛兵でも4名以上で1匹に掛かっても、負けることもある怪物だ」

 

「判った、引き受けよう」

「その間はここに泊まるといい。

 息子が使っていた部屋だが」

 

「そういえば、亡くなったと聞いているが」

「そうだ、去年山の崖にある、岩トビの巣の卵を取りに行って足を滑らせ落ちた。

 どうにも甘やかして育ててしまった為か、向こう見ずな所があってな」

「子供は一人だけか」

「いや、まだ姉がいるこの村の牛飼いと結婚してな。

 長男は今、チーズの行商に出ている。

 ここに帰ってくるのは、三月ほど先だ」

 

タイガは与えられた部屋に戻ると、木っ端を念のためサンプル瓶に入れ、パックに仕舞った。

 

民家が無い場所なら強力な武器が使える、次回の転送の折、12.7ミリの対物ライフルをバラして、送ってもらえるよう依頼した。

M99と呼称される、単発ボルトアクションのライフルだ。

携帯端末とインベントリーコントローラとは、無線で遺跡に設置した天測装置をレピーター代わりに利用し、半径50キロほどが通信可能域に入る。

現在はモジュラーコンテナなので、対物ライフルがバラしてギリギリ入るサイズだ。

 

夕食をシモンの家で頂き、お茶を飲んでいるとロアナが聞いてきた。

 

「さて、タイガ。昼に飛んで行った物はなんなの? 」

「ドローンと呼ばれる遠くから偵察する機械だ。

 魔法ではないよ。

 実際に見てみると判る」

大雅は、室内でドローンを浮かばせると、バリスティックグラスをロアナに掛けさせた。

 

「なに、これ・・すごい・・・周りの他に別の風景が見える」

「これを使って見ていたんだ、本来なら自動飛行や自動で戻ってきたリ出来るんだが、ここでは無理だ」

 

「これ私にも使える?」

「飛ばす事は出来るが運用は難しい。

 複雑な知識と技能が必要になり、1年以上かかるな。

 距離の制限や嵐では飛ばせない。

 なにより使用しているときは、自分の警戒が低下する。

 使うにはいろいろと制限がある」

 

「でも使えるってことは魔法と同じよ」

「俺の所でもこういう言葉もある。

 ”十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない” とな。

 魔法が無い代わりに、科学技術を突き詰めれば同じことかそれ以上の事が可能だ」

 

「科学技術?」

「ああ、俺の所では魔法などという物は一切無い。

 だから代わりに科学という学問を突き詰めた。

 例えば音の速さの数倍で飛ぶ空飛ぶ機械、人を乗せ馬の5倍以上の速さで走る機械。

 風呂はほとんどの家庭にあり、星の裏側に居る人間にもすぐに連絡が付く。

 特に、世界を巻き込んだ戦争では進むのが兵器や武器だ。

 俺の持っている物は小型のものだが、一度に数十人を殺すことができる。

 大きなものは数十万人、いや数百万人を1つの兵器で殺戮するほど進めてしまった。

 その結果・・・」

 

ロアナの喉がごくりと鳴った。

 

「だれもその大量殺戮兵器は、使えなくなってしまった。

 使えば自分もまた使われてしまうからね。

 俺の世界は大量に血塗られた、仮初の平和に過ぎないんだ。

 星の何処かでは、何時でも必ず戦争や紛争が起こっているしな」

 

「タイガは此処の所続いている戦争についてはどう思うの?」

「この星の戦争か・・・。

 大戦というのは世界全体を巻き込んだ戦争を言うんだ。

 そう言う意味では、少しばかり力を持った国が、北方に侵略戦争を仕掛けている、つまり地域紛争の域を出ない。

 国家というのは、必ず腐敗するものだ、それが君主制であれ、協和制であれな」

 

「うーん・・難しいわ」

「まあ、俺も専門家じゃないから、詳しくは説明できんが」

 

 

翌朝、朝食を頂いてからアレンウォードへと戻った。

要求したのはバレットM99対物ライフルと25発の12.7×99mmマッチグレード弾と25発のMk211弾つまりHEIAP弾だ。

これが必要になるのも時間の問題だろう。

 

この弾は徹甲炸裂榴焼夷弾と呼ばれる特殊な物で、徹甲弾のタングステン心材にジルコニウム粉の燃焼剤、CL-20と呼ばれるRE係数が2を超える爆発力を持つ。

以前は起爆剤に、ペンスリットかRDXという強力な炸薬がつかわれていたが、最新のMk211は値段も上がり、より強力な弾頭となった。

 

Mk211弾の凶悪さは、衝突した時に衝撃で焼夷剤に火をつける。

そして、炸薬の起爆を誘発させる。

第2の焼夷弾薬(ジルコニウム粉)にも火をつける。

これは非常に高い温度で燃えて簡単に消えず、大気中では約30秒間燃え続ける。

高温の金属ジルコニウムと水との反応。

反応式はZr+2H2O → ZrO2+4Hであり、ジルコニウムは酸化物となり、水は分解されて水素が生成する。

さらにこれが燃えるという生物にとって最悪な弾。

たった1発でも、大型地上生物なら倒してしまう。

 

赤十字の国際委員会でも、人間に対する使用禁止が決議されている。

では、人間には絶大な効果が有るかと言うと疑問だ。

 

着弾から起爆まで弾は30~40センチ進む、この状態ではすでに弾頭は体を通り抜けており、弾は体の外で起爆する。

その効果は12.7ミリの通常弾と変わりない。

まあ、12.7ミリが当たった時点で、体には衝撃波で大穴が空き、それどころではないのだが。

 

人間の頭部に当たれば頭は粉々に吹き飛び何も残らない。

通常の7.62mmでも至近距離から頭に当たれば、脳みそは吹き飛び、残るのは中身の無いザクロの実が開いたようになる。

弾速の早いライフルならなおさらだ。

今回のデータでは、バリアの様な物で防がれる為、ショットガンの散弾は、00パック以下は威力に問題が有る事が判った。

 

どうせ近距離の武器となるので、000(トリプルオー)パックの弾とスラッグ弾を依頼する。

6粒弾と呼ばれる物で、鹿や熊用に使われる物だ。

ついでに、馬の腰に載せられるような、防水性の樹脂ケースコンテナを依頼した。

コンテナでは重すぎるからだ。

 

転送には1.2m×1.5m×1m以上の空間が必要だと連絡がテキスト通信で戻ってきた。

小屋にしては小さく箱にしては大きい。

 

半固定インベントリを作るために、適当な空き家か部屋が無いかをロアナに尋ねた。

 

 

「それなら地下でどうかしら。

 それより大きいけど、今は使っていないの。

 テーブルを退けるのを手伝ってくれれば、入れるわよ」

 

「暫く使っててもいいか」

「どうせ使ってないしね。

 村が出来たころは、収穫した芋なんかを入れてたらしいの。

 些か大きく作りすぎて、蓋が重くて使いにくいのよ。

 今では物置にもなっていないわ」

 

二人で広間のテーブルを退かす。

この部屋は村の集会や祝い事、それに領主の側近などが来た場合にと作られた30帖ほどの広さの部屋で、天井から木製の質素な十字型のシャンデリアが4つほど有った。

 

「この部屋も使われたのは、私が知っている限り3回ぐらいね」

 

「地下室は、暫く借りることになると思うが構わないか」

「ええ、たまには空気でも入れ替えないとカビの巣窟になるわ、使ってくれるのは有り難いぐらい。

 私じゃドアが重くって、全開ににできないのよ」

 

「助かる」

 

タイガは床に敷かれたカーペット代わりの毛皮をめくると、下には鍵のついた地下室への入り口があった。

確かに、優に40キロは有る床ドアだ。少女の筋力でこれを持ち上げるのは困難だろう。

 

「鍵はこれよ、なくさないでね。今は開いているわ」

タイガは受け取り、ドッグタグにつないだ。

 

「変わったペンダントね」

「ああ、所属や氏名が書かれたタグだよ。

 これが届いたら死んだという事だ」

「そうなの、貴方の所のウィッチャーのペンダントの様な物ね」

 

フラッシュライトを点け中に入っていく。

中には何もなく、土臭さは有るが十分使えそうなものだった。

 

「広さも十分だ。借りるよ」

タイガは半固定インベントリの機材を部屋の四隅に取り付けると、蓋というよりドアと呼んだ方が良い床板を閉めた。

ついでにいくつかのサンプル瓶と、盗賊が持っていた鉱石のようなもの、周辺で採取した石などが入れてある。

 

「ねぇ、そのランプすっごく明るいのね、見せてっ!」

「ああ、俺の国ではフラッシュライトって呼んでる。

 中に強く発光する石と、その石を光らせる為のエネルギーを溜めこんだバッテリーと呼ばれる物が入っている。

 まぁ、こちらで言う魔石の様な物だな」

 

ライトのバッテリーを開け見せてやる。

「ね、武器と違って、これなら私にも使える?」

「ああ、使える。

 渡すのは構わないが、定期的にバッテリーを交換するか、エネルギーを補充しなければ使えなくなる」

 

「欲しいっ!」

「判った、これとは違うが、同じようなライトを渡そう、世話になっているしな。

 それを充電する設備と、ついでに夜に使えるランプも用意しよう。

 煙も匂いも、ついでに火事にもならない、魔道具のランプだ」

 

タイガは、グラスのテキストモードを起動し発注リストを作ってインベントリーコントローラーに転送した。

届いたのは、大雅が持っているのよりは、光量の多少落ちるフラッシュライト、それでも600ルーメンという強力さだ。

それと、250wほどの太陽光電池パネルと電線一式、古風なランプ風だがLEDが組み込まれ50wクラスの明るさを持つランプが2組。

 

ランプは一つをロアナに渡し、使い方を教える。

フラッシュライトも、使い方と充電の仕方と光量の調節方法を教えた。

 

「すごい、すごいっ!」

「喜んでもらえて何よりだ。

 くれぐれもフラッシュライトは、人の顔に向けない事。

 特に夜にはな、でないと人の目を傷める場合が有る」

「うん、わかった」

 

「それと、売り払ったりしないこと、もっと良いものが有るじゃないかってトラブルに巻き込まれる」

「うん、こんな便利な物絶対に売らないよ。

 タイガの国って、すごい魔道具があるんだね」

 

太陽光パネルは明日の朝にでも屋根に設置しよう。

コントローラーには、サブバッテリーも内蔵されているから多少雨天や曇天が続いても、問題はない。

 

ランプもリチウムポリマーで大容量、フル充電だと付けっぱなしでも数日持つ。

 

大雅は転送してもらった地下室から、軽い防水ケースやらクソ重いM99の入った樹脂製のガンケース、ずっしりと重い弾薬箱を引き上げる。

代わりに今まで使っていたコンテナケースを地下室に下した。

 

ロアナは喜んでフラッシュライトを付けたり消したり、ランプをどこに置こうかと迷ったりしている。

はしゃぐ姿はやはり14歳の女の子そのものだ。

 

 

「じゃ、お休みロアナ」

「うん、明日は朝食楽しみにね」

 

 

部屋に戻り、アサルトライフルのAKMSに、グレーネードランチャーを取り付ける。

ロシア製のGP-34というユニットで、銃身の下のレールに取り付けられる。

1キロほど重くなるが、今後の戦いを考えると必要となろう。

 

西側や米国のこの類のグレネードランチャーは後装式だが、ロシア製は前装式つまり発射口から榴弾を詰める。

どちらも発射するとポンと音がするから、グレポンと呼ばれている個人兵装だ。

 

だが、このランチャーは銃身が短いためバンッという音が出る。

簡単に言えば、手榴弾を遠くへ飛ばす事から開発され、いろいろな榴弾、焼夷弾、光弾が撃てる。

 

今回大雅が来る前から取り寄せてあったものを、送ってもらったのだ。

ロシアの開発したグレネード弾は強力だ。

 

日本でも採用されているアップルと呼ばれるM67破片手榴弾は致命傷を与える危害半径は5m、殺傷効果のある破片が飛び散るのが15mほどだ。

 

まあ破片は100m以上も飛ぶときはあるが、きちんとした服装をしていれば怪我はしない。

当然だ、手で投げるのに威力が有りすぎたら、こちらが危険だからである。

 

しかし、ロシアのグレポンで打ち込む榴弾は、さらに威力が高く危険で、大雅が取り寄せさせたVOG-25Mという榴弾は、危害半径が9mと倍近い。

 

一緒に取り寄せたVOG-25MPはさらに凶悪で、着弾してから1~1.5mの高さまで火薬で跳ね上がり炸裂する。

 

雪面や水面を含むあらゆる面に対しても、確実に起爆するようになっていて、信管は10mを超えないと作動しない。

 

そして自爆装置も15秒以上とられており、万一着弾信管が動作しなくとも、時間が来れば炸裂する。

 

287gという凶悪な炸薬量は、至近距離では危険である。

そして、もっとも特徴的なものは、榴弾自体がロケット弾の様に推進して飛んでいく。

このため反動も少なく、排莢操作が全く必要ない。

 

西側のグレポンでは榴弾を後ろから、榴弾詰める→撃つ→排莢して、新しい榴弾を詰める、と繰り返すが、ロシアのグレポンは榴弾を前から詰める→撃つ→次の榴弾を詰める、と1工程少ない。

 

慣れれば、毎分最大20発もの榴弾が撃ちこめる。

だから前装式となっている。

 

そのほかに、VG-40TBというサーモバリック弾、VG-40OPという照明弾も12発程度だが取り寄せていた。

 

サーモバリック弾に至っては、木造の小さ目な家なら吹き飛ばせる。

 

タイガは樹脂ケースとパックパックに必要な物を詰め込むと、弾薬や榴弾をパニアバッグへと詰め込んだ。

 

 

翌朝、早めに起きて太陽光パネルを設置していると、ロアナが朝食が出来たと呼びに来た。

100wクラスの太陽光パネルが二枚、それにコントローラーを内蔵したポータブル電源のセットだ。

AC100Vの他、USBなどのコンセントを持っている汎用性の高い物だ。

屋根の南側にパネルを固定し、配線を屋内に引き込み、ポータブル電源に繋ぐ。

照明には十分すぎる性能と言える。

 

「そうしていると若い夫婦みたいだねぇ、どうだいここに腰を落ち着けちゃ」

通りかかった近所の初老の女性が、ロアナをからかう。

 

「やだ、からかわないでよジレラおばあちゃん」

「ふぉ、ふぉふぉ」

ロアナは顔を赤くしていた。

 

朝食はパンの中をくりぬき、肉類と野菜を煮込んだものを中に入れたものだ。

 

「どう? ビゴスっていう料理なの。 これはちょっと自信があるんだ」

 

「ああ、うまいな」

ライムギパンの固さや風味と相まって、結構なボリュームだが、ペロリと平らげてしまった。

 

「ね、タイガ、私も一緒に行っちゃダメ?

 ほら、タイガが危ないとき、助けてあげられるしさ」

 

「気持ちは有りがたいが、あれは俺が油断していたからだ。

 今度は装備もあるし、問題ない。

 ドラウナーやグールとはわけが違うぞ、弱いとは言え拳銃弾を一度は跳ね返したんだ。

 危険すぎる」

 

「そんなこと言うと、黙ってついて行っちゃうかもよ」

澄んだ緑色の瞳がじっと大雅を見据えた。

 

「・・・わかった、しかし独断専行や暴走は絶対にしない、指示には従う。

 これが出来るのなら、付いて来ても良いが」

 

「うん。約束する。

 あと、周辺を探るのも手伝えると思う」

 

「危険とは十分な距離を置いてな、絶対に一人でなんとかしようと思ってはダメだ」

大雅は、小型のモノキュラーをロアナに渡した。

 

「これは単眼鏡といって、遠くのものを大きくして観る機械だ。

 渡して置く、くれぐれも近づきすぎるなよ」

 

「判ったわ、どうやって教えればいい?」

「最初数日間は、周囲の敵索に費やす。地図はこれだ。

 これにマーキングする。

 夕方以降に擦り合わせする。駆除はその後だ」

 

「えっと・・怪物と盗賊に分けて記すのね。分かった」

「ペンはこれを使ってくれ、無くしやすいから気を付けて」

 

「インクは?」

「インクは必要ない。

 軸の中に仕込まれている、零れたりかすれたりしたない、濡れても大丈夫だ」

 

「ホント魔法よねぇ~ これも科学?」

「そうだ、それも此処の技術では絶対に作れない。

 精密機械と言う訳だ。

 まあ、俺の所でも先進国ぐらいしか、マトモな物は作れなかったが」

 

ナジャムにパニアバックと樹脂ケース、そしてM99が入ったガンケースをナジャムの腰の上に固定し、ロアナの乗る馬と2頭でスウェッド村へと向かった。

 

村ではシモンが出迎えてくれた。

猟師を営んでいるヘイズリックという男を紹介される。

ヘイズリックは30歳ほどのがっしりとした口数の少ない男で、彼が倒した怪物や盗賊を記録するらしい。

実際の討伐は3日後で有る事を告げたが、どうせ暇なので大雅についてくるという。

 

初日は、スウェッドとアレンウォードを行き来する道を、重点的につぶした。

ドローンと双眼鏡を駆使して、ロアナに索敵を教えながら狩っていく。

サーチアンドデストロイだ。

 

200m程度なら十分にアサルトライフルの殺傷範囲だ、ヘイズリックが怪物の素材を惜しがったが、時間も惜しいし、剥ぎ取る時間もない。

後で好きにすればいい、但し責任はそちら持ちでと話す。

 

怪物の巣は5か所にも及び、ドラウナー、グール、ネッカーを30体以上倒した。

 

「おっそろしい音がするけど、強い武器なんだな」

ヘイズリックは、興味深そうに大雅の銃を見ている。

 

「タイガ、向こうにロットフィーンドの巣が有るみたい」ロアナがかなり先に単眼鏡を見ながら言った。

 

「グール系は潰し過ぎても、野犬や狼が増えすぎるかもしれん。

 距離は4キロほど先か・・・・数は3匹ほどだな」

 

「ウィッチャーの旦那、ロットフィーンドは野犬は狩るけど、狼には手を出さない。

 放っておいても大丈夫だと思うが」ヘイズリックが言った。

 

「なら、放っておこう、下手に巣を潰して、こっちに来られたら面倒だ」

 

 

翌日は、南西側、つまり川の合流点の町へと延びる街道の調査だ。

この街道は商人の主要街道で、春にはにぎわう。

その時期だけ開業する出店や、茶店なども点在していた。

 

「タイガ、なんかグリフィンが飛んでるみたい」

「てか、目が良いなロアナ。その倍率で見えるのか?」

「種類までは知らないけど、獅子みたいな体、鷲の様な嘴、グリフィンよね」

 

大雅も双眼鏡の場合率を上げて確認する。

「あーあれ、アレンウォードの西でも見たな、同じ固体かもしれん」

 

「旦那、グリフィンは飛びながら相手を見つけるだ。

 早いうちにつがいに成ったら、小高い丘や山の上に巣を作って卵を産むだ。

 たまに牛や羊も被害に遭うけど、そんなの数年に数えるほどでな。

 普段は野生のシカや猪を獲っている。

 ただし、巣作りすると近場の農場は被害に遭うだ。

 そん時ゃウッィチャーの出番さね」

 

「じゃ、今のところは被害は無視していいってことか」

「ああ、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。

 腰が落ち着かないだで、追っかけても追いきれないだよ。

 ここいら周辺に巣を作るとも限らないし」

 

街道もサーチアンドデストロイで潰していくが、街道の両側4キロはドローンが活躍した。

 

結果、小規模なネッカーの巣が1つ、3匹のアルグールが従えるグールの巣が1つ見つかっただけだった。

 

ネッカーの巣は1発のグレネードで完全壊滅、巣と共にバラバラになって飛び散るネッカーが哀れだ。

 

「あーこりゃ、素材も何もねぇな。

 てか、凄いもんだなゃ」

 

アルグールは、グレーネードで巣を潰した。

残りのアルグールも瀕死状態で、1匹は起き上がり攻撃態勢を取ったが、2発の銃弾を頭部に撃ちこむと簡単に息を引き取った。

 

怪物より頭が良い盗賊たちの方が、よほど厄介だった。

彼らは、基本街道筋の近くに根城を持ち、街道を行き来する商人や人々を狙う。

だから、ちょっとした囮作戦を取った。

 

ロアナとヘイズリックを旅装束で商人風に偽装して歩いてもらい、盗賊を潰していく作戦だ。

 

盗賊が追ってきたら、大雅が馬で200mほど離れて移動しており、すぐに対応できる。

そして、盗賊の一人を生かせて、根城を聴きだし潰した。

 

回収された物の中には、高価な宝石類や、貴重な美術品とも言える貴金属も有った。

シモンとの契約で、こうして得られた物は、村が買い取るか自分の物にしていいことになっている。

 

ロアナもヘイズリックもホクホク顔だ、結構な収入になったらしい。

 

聞くと、ヘイズリックは、こうして分けて貰えた物は、自分の物にしていいらしい。

その代わり、日当も褒章も出ないという。

 

 

こうして5日ほどが過ぎた。

 

「明日は、残りの南西方向だけだな」

「そうね、グリフィンが気になるけどね、今日も頭の上を飛んでいたし」

「あいつらは死肉は狙わないのか?」

 

「獲らないし食べないわ、食べるのは新鮮な物だけ。

 特に雛が生まれてからは、生きたまま巣に持ち帰るの。

 雛の訓練の為ね」

 

「番さえ見つかっていない様子だし、あと数日様子を見るか」

「そうね、それが良いと思う。

 グリフィンは、増えすぎた野犬や狼の良い間引きになるしね、人間が襲われない限りは」

 

夕食を取りながらロアナと作戦を練っていた時、シモンに連れられて一人の商人がやってきた。

 

「話をしているところ済まないが、興味深い事を言っている商人が来たので連れてきた、話してやってくれ」

 

商人は歩きの薬売りで、川の合流地点にある町を根城に、半年に1回ほど行商に回るという。

彼が言うには、村から南に10キロほど行ったところの小山の奥に、隠れるようにしてすでに巣を作っており、雌が卵を抱いているという。

雄が飛び回っていたのは番を求めてではなく、周囲の警戒と餌の為だったのだ。

 

地図を見てもらい確認すると、街道から3キロほど山道に入り、さらに5キロほど奥に入った小山と小山の間に巣があるという。

 

商人になぜそれを知っているか尋ねたところ、西の村からショートカットして歩くと2日ほど短縮できるらしく、グリフィンの鳴き声がするため、遠巻きにして確認したとのこと。

商人に礼を言って、ロアナと相談する。

 

「シモン、明日のグリフィン狩りで大体終わりそうだ」

「あそこの位置からは、ヤギや牛を放牧している場所も近い。

 今のうちに巣を潰さないと、大変な被害が出るからな」

 

大雅は500m離れた巣より小高い場所を見つけ、そこを狙撃ポイントに選んだ。

時間が有るとき、こまめにドローンを限界高度の1000mまで上げ、撮影しこの近隣のマップは地球で合成してもらい作ってある。

 

「ねえ、タイガ。こっちで良いの? 巣と逆方向なんだけど」

「ああ、ここの山の中腹から遠距離で攻撃する。

 最初は卵胞している雌だ、親が死ねば雛は孵らない」

 

「旦那~、こんな遠い所からどうやって攻撃するんです?」

「銃のうちで最も破壊力の高い銃を使う、済まないがちょっとした整地がいるんで、手を貸してほしい。

 報酬は弾むからがんばれ」

 

「へえ、もちろんでさぁ」

 

街道から3時間かけてやっと狙撃ポイントにたどり着く、ドローンで確認した山の中腹の4m四方ほどの平らな場所だ。

もちろん、巣より100mほど高く、ここから巣が完全に見渡せる。

 

グリフィンは餌を取るため、半日ほどは留守にすることもあるが、基本的には暗くなる前に帰ってくる。

タイミングはそんなに多くなく時間も短い。

 

背中に背負っていたガンケースを下し、M99を組み立てる。

弾は 12.7x99mmの通常弾だ、これで倒せなければ、徹甲炸裂榴焼夷弾を使うしか手が無くなる。

 

30分ほど観察し、ターゲットまでの気流、風速を探る。

 

「すぐには撃たないの?」

 

「ターゲット、つまりグリフィンまでの距離は600m弱。

 外さない距離だが、出来れば頭を1発で仕留めたい。

 雄が気か付かず戻ってくるぐらいにな。

 強力な弾を使い1撃で仕留めるのは簡単だが、死体の損傷が激しくなる。

 雄に警戒されたら仕留めるのは難しい。

 そうだ、二人とも耳にこれを詰めておいてくれ」

 

大雅は二人に射撃用の耳栓を渡した。

 

「これで大丈夫なの? 

 なんかいつもの銃と違って恐ろしいほど大きいんだけど」

「ああ、だから凄まじい音もな。

 耳栓が無いと耳にダメージが来るから、こうやってしっかりと耳の奥まで入れるんだ」

 

「でも話し声はちゃんと聞こえるのね」

「そういう風に作られているんだ。

 さて、二人ともここの少し上の場所に、陣取って見ていてくれ。

 当たった場所と状況を俺に教えてくれ」

 

「横や斜め後ろじゃダメなの?」

 

「下手すりゃ怪我をする。

 双眼鏡を貸してやるから、単眼鏡はヘイズリックに貸してやってくれ。

 あと、雌を倒しても雄を倒さなきゃならん、騒がず静かにな」

 

大雅は、カモフラージュネットを二人に渡し、自分もカバーするようにポールを使って小型のテントの様に建てた。

 

これでバレたら視覚以外、つまり赤外線などで探知している可能性もある。

M99のバイボッドを立て、地面に馴染ませた。

遊底を開け初弾を装填する。

 

「弾込めよし、安全装置良し」

 

大雅はスコープの距離を合わせ、風を読んだ。

 

「距離600、3時の風、風速2」

スコーブの距離計を合わせ、レクティルを調整する。

 

「二人とも撃つぞ」

 

ズドンッ!!

山に大きな木霊が響く。

 

「タイガ! 頭吹っ飛んだ!」

「ひゃ~雷が落ちたかと思っただ」

 

 

スコープで確認すると、頭部の半分が花が開いたように完全に消失している。

オーバーキルだったかもしれない。

やはりナマモノ相手に撃つ弾ではないなと考えながら、周囲に雄が居ないかを確かめた。

 

弾はすでに徹甲炸裂榴焼夷弾のMk211弾を装填してある、体のどこに当たっても無事では済まないだろう。

M99は1発ごとに、排莢と装填を手動で行わねばならない、その代わり優秀な命中精度と軽さを誇る。

 

まあ、軽いとはいっても優に10キロは超えているのだが。

念のため次弾のMk211弾も近くに置き、すぐに装填できるようにしておく。

 

1時間ほど待つと、雄のグリフィンが鹿を捕まえ巣に戻ってきた。

まだ、雌の惨状には気が付いていない。

 

「2時の風1m・・・いける」

 

「撃つぞ」

 

ズドンッ!!

雄が巣に舞い降りた瞬間、再び大きな銃声が響く。

同時にグリフィンの体は膨らみ、反対側の腹から大量の臓物が飛び散った。

 

「体に命中!」

「おおっ!」

 

グリフィンは弱弱しい鳴き声を上げ、雌の上に倒れこんだ。

巣から炎が燃え出し、死体を焼き始める。

 

「これで大丈夫だろう、念のためあと数発撃ちこんでおくから、耳栓はまだ外さないでくれ」

 

大雅は2発のMk211弾を巣に打ち込み、巣が完全に燃えがったことを確認してカモフラージュネットを外して排莢した。

 

排莢と言っても一般的なオートライフルの様に空薬莢が飛んでいくことは無い、精々銃の右横にポロリと落ちる程度だ。

 

もちろん、焼けているので熱い、片付けの邪魔になるので横へ放り投げた。

 

 

「これが銃の威力ですか・・ってあちぃ!」

ヘイズリックは、近くに飛んで来た薬莢を拾い上げ、慌てて地面に落とした。

 

「そりゃ、撃ったばかりだ。

 火傷するほど焼けているぞ」

 

「これはまた使うんですかい?」

「再利用は普通しないな。

 かなりの手間が掛かるし道具も無い。

 捨てるだけだ」

 

「じゃ、記念に貰っても良いですかい」

「ああ」

「ね、あたしも!」

「これって金ですかい?」

「真鍮と言って銅と亜鉛という金属の合金だ。価値は低いぞ」

 

「でも綺麗だよね~。

 そうだ、スウェッドで子供たちが、拾い集めて持ってきてくれてたよ」

 

「それも特に要らないな。

 鍛冶屋に売るなり・・・そうだ、ロアナ集めた子供たちに商人から、菓子でも買える程度のこずかいを渡してやってくれ、後で返す」

 

「返すなんて要らないわよ、いろいろ魔道具貰っちゃったし、アレンウォードでも子供たちが拾い集めてたけど渡しておく?」

「ああ、そうしてくれると助かる」

 

「あんたら、夫婦かい?」

「ま「ちがう!」だよっ!」

「息、ぴったりだべ」

「さ、撤収するぞ」

 

大雅は銃身が冷めたM99を分解し、ガンケースに収納した。

カモフラージュネットはきれいに畳めば手のひらに乗るようなシートに成るが、時間がかかるので今は空にしてきた革袋に詰め込んだ。

 

大雅はこの革袋をあと数個欲しいなと思いながら、二人を連れ山を下った。

証拠の為、携帯端末には映像が残してある。

ヘイズリックという証人もいる、倒した証明は無いが問題ないだろう。

 

スウェッド村に戻ったのは午後3時ころとまだ陽が高かった。

シモンと会い、ここ周辺の怪物・盗賊退治とグリフィン狩りが終了したことを報告した。

 

「とても助かった。

 報酬は秋になってしまうが必ず払う、今日の所は細やかだが宴席を用意した。

 是非出て頂けないか」

「ああ、出させてもらおう」

 

夕方まで銃のクリーニングや弾の補充依頼を行った。

17時近くになり、シモンの奥さんのドロタさんが、準備が出来たと部屋に知らせに来た。

宴席の為か少しばかり着飾っている。

 

大雅は、バックパックを下し、ショットガンやアサルトライフルも部屋に置いた。

ただし、目立たないハンドガンのSIG SAUER P320とサブマシンガンのFMG-9は腰につけている。

 

タクティカルベストも外している為、上はアサルトスーツだけだ。

 

恰好がなんとなく寂しいので、自衛隊で着用していた紫紺のベレー帽をかぶった。

ほとんどかぶる事も無かった帽子だが、迷彩のブーニーハットよりはマシだ。

帽章は月桂樹が取り囲む桜の意匠だ。

地球ではないので特に問題にはなるまい。

 

「さて、皆の衆。本日の主役だ」

周囲から、称賛の声に交じり早く飲ませろとの声も聞こえる。

 

「彼のお陰で、周辺の怪物や盗賊たちは壊滅した。

 暫くは平和な日々が訪れるだろう。

 彼と彼を連れてきてくれたアレンウォードのロアナには、大きな感謝を捧げると共に、幸運を祝おうではないか、さあ、宴の始まりだ」

 

 

それから、暫くは村の長老やら有力者が、入れ替わりに賛辞を述べてくる、大雅はこのような騒がしい場は苦手だった。

 

少し落ち着いた頃を見計らって、大雅は喧騒から外れ、地球の月とは異なり大きさも色も異なる月を眺めていた。

 

「何処に行ったと思ってたら、こんなところに居たのね」

「ロアナか。足音を忍ばせて近寄るのは」

 

「月が綺麗ね」

そう言って、腕を絡ませてくる。

 

「もしかして飲んでるのか」

「少しだけよ。水で薄めたワインを少しだけ」

 

「前にも言ったがアルコールというのは、体が成長しきっていない場合毒となる。

 具体的には脳の萎縮を加速させる」

 

「もう、タイガったらお父さんみたい」

「そこはお兄さんと言って欲しい所だが」

「ねえ、タイガ。村で私と暮らさない?」

 

「すまないが、それは出来ない。

 俺には果たさねばならない使命がある。

 もう少ししたらここを出て、遠くへ旅に出なくてはならない」

 

「帰ってくるよね? 2年? 3年?」

「はっきりとした期間は未定だ。1年で終わるかそれ以上かはわからない」

 

「じゃ、私もついていく」

「ロアナ、何時とは約束できないが、俺は必ず帰ってくる。

 (きっと戻る転移も此処だろう)長く辛い旅だ、危険も大きい。

 付いて来る事は許可できない」

 

「私がお嫁さんになってあげる。

 それとも好きな人とか・・・まさかもう結婚しているの?」

 

「男にとってはありがたい言葉なのだが、子供に言われてもな。

 まあ、付き合っている女性もいないし、結婚もまだだが」

 

「なら問題ないじゃん、待ってる。

 帰ってくるのだから必ず帰ってきて。必ずだよ」

「わかった、来月には出ることになると思う」

 

ロアナは大雅に抱き着き、大雅の口に唇を押し付けてきた。

ふわりとアルコールの香りの他、柔らかなココナッツの様な少女の匂いが大雅の鼻をくすぐる。

 

「初めてなんだから、こんなことするの」

「まだガキのくせに」

「そういえばタイガっていくつなの?」

「今年で26になる。もうすぐおっさんだな」

 

「ええ? もっと若いと思ってた」

「顔つきが少し違うだろう。

 アジア人と呼ばれる血が半分俺には入っている。

 人種的に若く見られる人種なんだよ。

 母親はここの女性の様な顔つきだが、父親がアジア人だ」

 

「でも私はその顔が好き。

 なんとなく安心できる感じだもの」

 

「そろそろ、冷えてきた。家に入ろう」

 

二人はシモンの家へと向かった。

 

 

翌朝、馬上の人となった二人は、アレンウォードへと戻っていった。

馬の上で、報告書となるテキストをタクティカルグラスの上で作成しながら、のんびりと戻る、口述筆記の様にグラス上では文章が作られ、モンスターの情報や流通情報、映像に付随したデータの付加などの事務作業だ。

 

夕方となったころ、やっとアレンウォードへとたどり着いた。

陽はまだ沈み切っていない。

 

日本の感覚では16時ぐらいだが、現地時間では17時を示していた。

天測データを基にこれまで2度ほどのプログラム修正を行なったが、あと二か所の天測機器を離れたところに設置しないと、正確な物は出来ないらしく、最終的には3か月以上かかるらしい。

 

馬から器材を下すためにロアナの家に近づくと、玄関の横の棚に山ほどトマトが置かれているのが見て取れた。

 

「なんだあの量は」

「この季節はいつもこうなのよね。

 体には良いんだろうけど、飽きちゃうし、日持ちは悪いし、毎年ほとんどが畑の肥料ね」

 

「ソースとかケチャップにしないのか?」

「しないわね、なにそのケチャップって」

「ソースの一種だよ、以前戦争をしている国に居た頃、つまらん物の流通が無くてな。

 自分たちで良く作ったもんだ」

 

 

翌日、大雅は朝からケチャップ作りに勤しんだ。

大量のトマトを洗い、ヘタを取り除き、湯剥きする。

 

玉ねぎを刻み、トロトロに成るまで煮詰め、トマトを潰し加えて煮る。

少量の唐辛子、ここではバーバーケインの実と呼ばれているが、それを加え、リブリーフと呼ばれているタイム、ニンニク、パリッセの実と呼ばれているナツメッグを加え、トマトの種や、香辛料のガラを取り去るために麻布で濾す。

 

砂糖はロアナの家には無かったため、サッカロースとして転送してもらった。

砂糖という「食品」転送できないが、サッカロースという「化学物質」なら問題ない。

砂糖も有るにはあるが、黒糖や高品質な物でも薄い茶色だ。

 

鍋で煮込むこと2時間、大分煮詰まった所で塩を加え蓋を被せて冷やす。

熱いうちに酢を入れると酢が飛んでしまうからだ。

酸味を見ながら酢を加え、馴染ませるために少し熱を加えて出来上がりだ。

 

日はすでに傾いていた。

 

「なんか美味しそうな匂いになって来た!」

ロアナは最初からメモを取りながら、注意点や量を聞いてくる。

 

「これがケチャップだ、卵料理、芋料理にはよく合う」

「早く食べたいよタイガ」

 

「後は冷ましている間に、瓶を洗って煮沸しておこう」

「瓶を煮るの?」

「ああ、腐らないようにするためさ」

漏斗を使い、瓶に詰め終わったときはすでに陽は暮れていた。

 

「さあ、夕食にしよう。

 卵、パン、ポテトは有ったし、兎肉は今日取ってきたのを使おう」

 

大雅は固くなったパンをおろし器で擦り下すと、小麦粉をまぶし、解き卵を潜らせ、ライムギパンの粉をまぶした。

それをたっぷりの油で揚げる。

兎肉のカツだ。

 

ポテトはスティック状に切り、油で揚げ付け合わせにする。

小ぶりな器にケチャップを入れテーブルに出した。

 

「うわっ~! 美味しそう!! こんなの食べたことが無いよぉ」

「今回は中々の出来だ、やはり酢に、ワインビネガーを使ったのは正解だったな」

 

カツにナイフを入れると、兎肉から湯気が立ち上る。

ケチッャプを付けて口へと放り込んだ。

サクサクとした食感と、弾力の強い兎肉。

感じは鳥カツに近い。

 

「んーーーーっ!! おいしいっ!!」

「声が大きいよロアナ、はしたない」

「フライドポテトにはやはりこっちだな」

「ね、ね、これなんて言う料理?」

 

「しいて言えば兎肉のシニッツェルだな。

 他の肉でもできるぞ、こっちには無いのか?」

 

「小麦粉つけて、卵被せてさらにパン粉付けて揚げるなんて、料理誰も知らないよぉ。

 うううっおいひい・・」

「泣くほどの物でもないたろう」

 

大雅は揚げ物が好きである。

時折無性に食べたくなる。

 

ロアナが勢いで洗ってしまい、余ったジャガイモは薄くスライスしてチップスにしておいた。

これにもロアナは感動している。

 

「ね、砂糖の白いのは見たことないけど、ここで手に入る茶色いのではだめなの?」

「いや、問題ない。

 逆にコクが増えるから旨いんじゃないかな」

 

このケチッャプと料理が、後々大事に成るとは大雅は思いもよらなかった。

 

 

 

 

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