大雅は旅立ちの日を前にして忙しい日々を送っていた。
ケチャップが大鍋で作った為、50本以上出来てしまったのだ。
渋るロアナをなだめ、村人へと配る。
ついでに、カツの作り方と、フライドポテトの作り方の講習会も行った。
反応は大雅の想像を絶する物で、ケチッャプを村全体で作ろうということになり、砂糖を買い付けに出る者、近隣の村から酒の空き瓶を回収して来る者、畑の作物では足りなく、山野へ香辛料取りに行く者など一大ブームだ。
薪割りをしていて、小腹が空いた大雅は、ライムギパンをスライスした物にケチャップを塗り、チーズを細かく切った物を乗せ、胡椒を振りかけパンを焼く石窯に入れただけのもの、つまり簡易なピザトーストを食べた。
そこへ丁度ロアナが戻ってきたものだから
「あ~っ! なんか美味しそうな物食べてるぅ!」
と騒ぎだし、5枚も焼く羽目になった。
大雅ももう一枚食べたのだが、ロアナは3枚もぺろりと平らげた。
「その様子だと、今日の夕食は軽いものぐらいだな」
「けふっ・・・食べ過ぎた・・・・」
匂いをかぎつけた村人や、子供達が集まりだす。
もう、パンが無い事を告げると、ちょうど焼きたてだからと5個も持って来る者、チーズを持って来る者、最後にはデーブルまで道路に持ち出された。
こうなるとお定まりの酒が出てきて宴会である。
「このケチッャプというソースは万能だなぁ。
タイガの作ったソースだからタイガーソースか、わはははっ」
「ねえ、みんな。これこの村の特産にして計画的に作らない?」
「おお、ロアナ嬢ちゃんの言う通りだな。
トマトはまだ沢山とれるし、トマト以外の原料は安くは無いが、日持ちもするしやるか」
大雅は商魂たくましい村人を見ていた、このバイタリティが、本来の人間の生きる姿なのだろうと思った。
そんなことをしている内に、旅立ちがいよいよ明日となった。
「やっぱりついていく!」
「ロアナ、聞き分けてくれ、それに村はどうする。
村の収支、納税の手続きや計算は、お前しかできないのだろう?
居なくなったら村が立ち行かなくなる」
「・・・・・必ず帰ってくる?」
「わかった、こうしよう。
仕事が終わる終わらないに限らず、2年後を目途に一度帰ってくる。
それならいいか」
「・・・うんわかった、必ず帰ってきてね、約束だよ」
大雅はロアナの為、100本ほどの予備の矢とストリングなどの消耗品、整備するための工具などを渡した。
普段は行わないドローレングスの調整方法も教えた。
体が大きくなればドローレングスも変わってくる。
ロアナは調整が面倒なダブルカム仕様のコンパウンドボウを、ここ1カ月でほぼ自分の物にしている。
ドローウェイトも50ポンドで有効射程は100mを超えるだろう。
このゼムリアの世界では最も強力な武器となる。
このクラスだと優に22ショートと呼ばれる小型の拳銃弾の威力を超えてくる。
最大の75ポンドまでドローウェイトを上げれれば、有効射程は150mを超え、エネルギーでは22LRというライフルでの弾を超えてくる。
鹿であろうと矢は貫通するほどの威力となる。
日本では銃は厳しく取り締まられているが、実際には銃に匹敵する武器が一般にも手に入る。
鹿や猪でも技量次第では十分に狩れるし、いざとなれば敵を討つ兵器にもなる。
日本では違法だが。
眠っていると、大雅はドアが開く気配で目が覚めた。
真っ暗な室内に忍ばせた足音、右手をゆっくりと枕の下に入れP320を掴む。
かぶっていた毛布を投げつけるとともに、動きながらP320のスライドを左手で叩く様に動かし、初弾をチャンバーに送り込みながら銃を向けた。
「う、うぇっ?」
「ロアナか?」
そこには毛布を頭から被せられ藻掻いているロアナが居た。
大雅は部屋のLEDランタンのスイッチを入れ、P320のセーフティを掛け銃を下し、毛布を取ってやった。
「っ! ロアナ」
ロアナは下着一つだった。
つまりショーツである、ズボンのパンツではなく下着のパンツだ。
この時、大雅の脳裏をよぎったのは(この世界にも紐パンはあるんだ)という事だった。
「は、恥ずかしいから、あまり見ないで」
「なんだってこんな夜中に? 眠れないのか?」
「もうっ! 勇気を振り絞って来たのにぃ~」
「意味が分からん」
「抱かれに来たって言ってるのっ!」
「・・・・・・・はい?」
よく見ると、彼女の足元には、寝巻代わりにしている古いワンピースが、足元に落ちている。
「あのなぁ、まだ14だろ? (淫行条例にひっかかっちまう)」
「もう、14だもん。あと一年すれば子供が居てもおかしくないもん」
「あと、2年待てないのか? (さすがに14はヤバイって)」
「タイガ帰ってくるときはもう16だよ。
早い娘は一人くらい産んでるもん」
「もし、子供が出来ちまったらどうするんだ」
「ちゃんと産んで育てるもん」
「家族が殺され寂しいのは判る。
俺もテロリストというならず者の集団に、意味もなく家族を皆殺しにされたからな。
だが、これはダメだ」
「どうして?」
「俺が出かけられなくなる、任務は失敗。
それは俺の意向に反する。
どうしてもって言うなら2年待て(あら~勢いで言っちまったよ)」
「ホントに?」
「ああ(何言ってんだよぉ~自分!)」
「わかった、でもせっかく来たんだから勇気は認めて」
「はいはい」
「で、一緒に寝ていい? 最後の夜なんだから」
「おい、どこでそんな事覚えた」
「ドロタおばさん、好きなら、抱かれてモノにしちゃいなさいって」
「あんのババァ・・・」
「わかった、だがそれを着ろ、しかも狭いぞ」
「うんっ!」
大雅は目は瞑っているが、それから眠れない朝を迎えた。
隣では幸せそうに、スピスピと寝息を立ててロアナが眠っている。
さすがに中学生程度の美少女を、抱いたまま眠れるほど神経は太くなかった。
しかも湯あみをしたのか、少女特有の甘い匂いだ、寝れるわけがない。
翌朝、眠気の残る頭を冷たい水ではっきりとさせた。
(スウェッド村を経由して、途中野泊が3日、エード・グリンヴェールまでは5日かぁ)
エード・グリンヴェールまでは距離にして250キロほど有る事を旅商人から聞いていた。
野営は何処でも出来るとは限らない、まあ、1週間ほど考えれば十分だろう。
旅商人の話では、女魔術師やウィッチャーを探すのなら、やはり大きい町が有利なことは判る、同時にリスクも増える訳だ。
この日のため、大雅は弾薬の補充だけでなく、一人用のテントやシャワー用のポンプなども頼んでいる。
ナジャムの腰にパニアバッグ、その上に樹脂ケース、ケースと言っても防水のしっかりとしたシェルのものだ。
そして地球へ頼んでいた新しい鞍と、両側後部にはショットガンとアサルトライフルの為のホルスターを兼ねガンケースが取り付けられていた。
新しい鞍やガンケースができるまでの、急場しのぎの既製品だが、使うには十分だ。
「ナジャム、これから長い道のりだが頼むぞ」
ナジャムはブルッという声で応える。
「では2年後になロアナ」
「うん。私きっとこの村をケイドウェン1の村にしてみせる。
タイガが帰ってきたら、びっくりするんだから」
「ああ、楽しみにしている」
目指すは女魔術師が住んでいるというエード・グリンヴェールという町だ。
初日は大雅とロアナが駆逐したため、盗賊もモンスターも気配さえない。
こんな自然の中で動いていると不思議と感覚が鋭敏になり、動物や人の気配が判るようになる。
不思議な物だなと感じながら移動をして初日は終えた。
大雅は、スウェッド村にたどり着き、シモンの家に泊めてもらった。
「で、これがケチャップか、旨いものだな」
「ああ、今年はトマトが豊作らしくてな。
処分に困ってたらしいから、作ってみたんだ。
今、村中で作る準備をするそうだ」
「にしても溶けたチーズとこんなに合うものだとは、ドロタもっとパンを切ってくれ。
何枚でも食えそうだ」
「気に入ってもらって何よりだ。
5瓶置いていくつもりで持ってきたから、良かったら使ってくれ」
「それは有り難い、で、これはアレンウォードに行けば分けて貰えるのか?」
「そうだな、俺が20本ほど作ったから、ロアナの所にまだ数本は残ってるはずだ。
食いきってなければな」
「作るのは大変なのか?」
「大変では無いが、手間が掛かる。
香辛料も砂糖も結構使うし、コストは決して安くはない」
「そうか、この村でも作りたいが、トマトは僅かしか植えておらん、来年以降だな」
「作るのは良いだろうが、この村らならこれに合うチーズを作った方が、競争ではなく共存できると思うぞ。
あまり匂いの強いチーズは合わない。
焼くと溶けて香ばしいチーズが良い。
だからカビ付けのチーズや、長期間熟成したチーズよりも柔らかく新鮮なチーズの方が合うだろうな」
「なるほど、それならすぐにでも取り掛かれる。
良いことを教えてもらった」
「なに、同じものを作って競合する事も文明の発達には重要な事だが、付随した物を新しく作った方が幅はひろがるだろう?
アレンウォード村と協力して、モノづくりをした方が良いと思うぞ」
「モノ作りか・・・・なるほど、後でロアナと相談してみよう」
翌日、半日ほどナジャムを歩かせると、ここから先は、いままで来たことの無い道を行くことになる、幸いエード・グリンヴェールから伸びている道は、国の北部の主要街道であり、荷馬車に乗った行商人を見る事もある。
スウェッド村を出て2日目昼近くとなり、大雅は休憩を取るため道沿いにある小さな広場にナジャムを停めた。
昼には少し遅いが、幸いなことに湧き水もある。
パニアバッグからメスキットを取り出し、お湯を沸かす。
コンソメのタブレットを1個放り込み、玉ねぎとニンニク、スウェッド村で作った燻製肉の乾燥した物を放り込み香辛料と塩で味を調えた。
アレンウォード村ではパンや燻製乾燥肉、玉ねぎなどを調達したが、スウェッド村では結構な量のチーズを貰った。
熾火で焼いたパンにケチッャプを塗り、溶けたチーズを乗せで食べる。
それだけでご馳走に替わる。
澄んだ空気の中で、木漏れ日を感じながら食う物は旨い。
食べ終わり、メスキットを片付けていると、1台の荷馬車がやってきて傍に止まった。
夫婦二人と子供が一人の珍しい親子連れだ。
「こんにちわ」
大雅が声をかける前に向こうから声をかけてきた。
「こんにちわ、行商か?」
「ええ、そうです。なにか必要な物が有れば売りますよ」
「生憎と一昨日出発したばかりでな。不足している物は無い。すまんな」
「そうでしたか、私たちはスウェッドに行く途中なんです。
去年チーズの買い付けに出遅れてしまってね。
今年は早めに来たと言う訳でして」
「チーズだと襲われたりしないのか?」
「幸い怪物も野生動物もあまりチーズは好まないようでね。
狙うのはネズミや盗賊だけですよ。
それに私も妻も、腕にはそれなりに自信が有りますし」
奥さんの背には、弓が担がれている矢筒も蓋が開けられていて、すぐに射れるようにしている様子だ。
「俺はこれからエード・グリンヴェールへ向かう途中だ。
この先の道の情報があれば交換したい」
「3日前にここから1日半行ったところで盗賊が出たようですが、エード・グリンヴェールの遠征衛士と従者が倒したとか。
なんでも逃げてきたニルフガードの脱走兵だったらしいですよ、そこから先はエード・グリンヴェールまでは特に問題ないですよ」
「俺の方の情報は、ここから先の道は1週間前に怪物や盗賊は駆逐してある。
アレンウォードまでの道のりは安全だ」
「これから立たれるので?」
「ああ、明るいうちに距離を稼ぎたいからな」
「そうですか、私たちはここで休憩した後、このままスウェッドへ向かうつもりです。
おーいお前たちこの人は悪い人じゃない、来て挨拶を」
「こんにちわ」
母親と一緒についてきた子供は8歳ほどの男の子だ。
「初めての旅か?」
大雅は子供に話しかけた。
「ううん、二度目だよ」
「にいちゃん、何か買ってってよ」
「うん、なかなかにしっかりした子供だ。将来有望だな」
「いゃー腕白でなぁ」
「それなら、香辛料かなにかを持っているか?」
「胡椒、バーバーケインの実、パリッセの実、後は乾燥したタイムなんかだな」
「パリッセを少し分けてくれ、いくらだ?」
「なに、入れ物が有るなら、情報のお礼でいいよ、瓶ごとなら3クラウンでいい」
「では瓶ごと貰おう」
大雅は腰のポケットから3クラウンを商人に渡した。
地球の胡椒と見た目は変わらないが、白胡椒と黒胡椒が混ぜられた状態で小ぶりな瓶に入っている。
良く乾燥されているのか、乾いた音が瓶から響いた。
「ではな」
「ええ、貴方の旅に幸運を、また縁が有ったらお会いしましょう」
「ああ、息災でな。
商売がうまくいくことを祈っている」
それから大雅は半日ほど馬を歩かせ、岩がせり出している場所にキャンプを張った。
夕食は、日持ちの悪い物から食べていかねばならない。
大雅は、塩漬けの肉やパンから消費していった。
シェルターテントに入る前に、たき火を消し、赤外腺に反応する赤外線動体アラームを起動し、眠りにつく。
動体アラームが作動すれば、腕時計が振動アラームを流してくれる。
小型の野鼠やウサギ程度には反応しないが、中型犬以上には反応する。
もちろん人間などにはしっかりと反応する。
ナジャムは岩庇の奥で寝ているので反応する事は無いし、シェルターテントも迷彩で少し離れれば認識が難しくなる。
翌朝起きると、ナジャムは既に起きて周囲で草を食んでいた。
「おはよう・・・ナジャム」
ナジャムがブブブッ!と返事をしてくる、まるで「寝坊スケ」と言っているようだ。
「俺は現代人なの。
こっちの日の出とともに起きる人間の様にはいかないんだよ」
顔を小川で顔を洗い、朝食の準備をしていると、弓を持った狩人が近づいてくるのが見えた。
「おーい、旅の人かねぇ!」
「ああっ!」
狩人がガサガサと野芝を踏み分けてやってくる。
「こんなとこで寝とったんかね」
彼の腰には兎が2羽ほど下げられている。
「ここらへんの狩人か?」
「まあ、狩人って言うても兎程度だわな。
鹿は仔を産む時期だし取らんな。
それよりこれから朝飯かね」
「ああ、そのつもりだが」
「ちょうどいい。この兎捌いて食うか?」
「では、頂こう。お前は?」
「朝は麦粥だけやったしな。
頂こか。オラが捌くから鍋の用意してくれればええ」
「心得た」
お湯を沸かしていると、狩人が兎を捌き戻ってきた。
小川で血を洗い、内臓は埋めたそうだ。
狩人に時間は有るかと聞いたら猪の罠を確認しに行ったのだが、かかっておらず罠を作り直して戻る途中だという。
飯盒に無洗米とコンソメ、玉ねぎやニンジンに似た根菜を切り入れ、兎肉を細切れにして入れ、醤油と砂糖を入れて火の上に掛ける。
「見たことない機械やね。
それ。
火が強く青白いのは初めて見た」
「コンロと言う機械でな。
油を燃料にしている」
「めずらしかね~」
狩人とここいらの獲物の話や天候について取り留めなく話していると、昨日のたき火に火を着け、焼いていた兎肉が香ばしい匂いを上げ空腹を刺激する。
兎肉は胡椒と塩を塗し焼いただけで旨い。
飯盒がカリカリと音を立て始めたので、火を落とし飯盒を逆さまにする。
もともと内側はテフロンでコートされているので必要ないのだが、大雅の癖でもある。
スープとパンで簡単に済まそうと思っていたが、新鮮な兎肉となれば一人用では多い飯盒の出番だ。
「さあ、できたぞ。兎飯だ」
別のカップにこんもりと盛り上げ、フォークと共に渡す。
「ウサギメシ? そういえば麦とは違うな」
「米という穀物だ。熱いから気を付けろ」
狩人の腹が盛大な空腹の声を上げる。
「なんと旨そうな匂いだなぁ、初めて嗅ぐが、こんな匂いは知らねぇ」
「醤油と言う。
茹でた豆に、塩を加えて発酵させ作った調味料だ」
「遠いとこから来なすったんかね」
「まあな、それより冷めるぞ。
熱いうちが旨いんだ」
狩人は恐る恐る一口食べると、それからは怒涛のように食べだした。
ハフハフと、口から湯気を噴き、額に汗して食べている。
「こんなうまい物は初めてだな、何処の国だ」
「日本という国だ」
「遠いのけ?」
「ああ、酷くな」
優に3合あった兎飯はきれいに無くなった。
「うまいもん食わしてくれたんでいい事教えるわ、この先の大きな木がてっぺんに生えている山見えんべ?」
そう言って南の方を指さす。
「あの山とその左側の山の間に、小さな洞窟が有るだよ。
馬車ぐらいの岩が塞いでいるだが、下の方をよく見るとなんとか潜れる穴があるだ。
ただ、中には怪物がウロウロしてるみたいだから、気を付けるだよ」
「そこには何かあるのか?」
「なんかの遺跡かもしんねぇが、真っ黒でピカピカの水晶みたいな石が有ったな。
ただ、怪物いたから逃げ出した」
「怪物は多くいるのか?」
「いや、一匹だけだ」
「どんな形の怪物だった? グールがアルグールか?」
「グールやアルグールとも違うな。
髪が有って手が長くて手足は細かった」
話を聞きながらタクティカルグラスに写したデータベースを見ると、どうやらグレイブハグと呼ばれるモンスターの様だ。
黒くてピカピカの石とくれば、現物を見ないとはっきりしないが良質の石炭か黒曜石。
調査をしてみる価値はある。
「お前はお宝を取りに行かないのか?」
「とんでもねぇ、猟師が化けモンに勝てるわけ無ぇべや。
弁えて生きるのが長生きする秘訣だべや」
「たしかに堅実な生き方だ」
「じゃあ、オラはそろそろ行くだよ。旨い飯ありがとな」
「こちらこそだ」
大雅は猟師が言っていた山へと向かい、言っていた大きな石を見つけた。
「ここか・・・・この穴が汚れていないという事は、別に穴かどこかに出入り口が有るはずだ」
ドローンで周囲を探索してみるが、ここと言った出入り口は見つからない。
生き物が出入りしている穴なら周囲が汚れているはず、しかしその様な形跡はない。
本来水辺を好み生活しているドラウナーや、ウォーターハグに近い生活をしているはずのグレイブハグが洞窟に居るのはおかしい。
中に水辺があるか、はたまた川に繋がっている可能性が高い。
それに捕食する食料となる小動物も洞窟では見込めない、つまりは食料はどこか別の場所でを調達し、ここは寝床として使っている可能性が高い。
猟師の話から調査してみる価値は高い。
「ナジャム、ここで待っててくれ。あまり遠くには行くなよ」
ナジャムのブブッと言う声に送られ穴へと向かった。
ドローンを入れるには狭すぎるし、暗すぎる。
大雅は、T字型の両端に車輪を付けたような地上型ドローンを中に入れた。
中では1匹のグレイブハグが枯草の寝床の上で眠っている。
ショットガンには1発目には6粒弾、2発目以降には巨大な1発玉つまりスラッグ弾が4発詰められている。
これで倒せなければ、フラッシュバンを使い逃げる気でいた。
M99で徹甲炸裂焼夷弾という手もあるが、初めての相手には使う気がしない、なにより単発では後がない。
慎重に近づき、様子をうかがう。
「おきろっ!」
「ヒギャッ?」
グレイブハグは近くで見ると、非常に醜い老婆の様にも見える。
垂れ下がった乳房の様な物が、さらにその不気味さを増加している。
「話は通じるか?」
「ヒギャーーーーッ!!」
「だよなあ」
大雅はグレイブハグが腰を低くし、飛びかかろうとしたところに、M870MCSから放たれた6粒弾が火を噴いた。
至近距離から放たれた直径9.1mmの鉛玉6発は、全弾グレイブハグの胸部を襲った。
至近距離でのこの弾は1発1発のエネルギーが9mm拳銃の弾に匹敵する、つまり一度に6発の拳銃弾で撃たれたのと同じだ。
1発では急所に当たらず倒せなくても6発となると話が違う、急所に当たる確率が上がるし、失血速度も速くなる。
グレイブハグは声を上げる事も出来ず、そのまま後ろにひっくり返り絶命した。
大雅はすぐさま銃のフォアエンドを操作し、排莢と次弾を装填する。
これで起き上がってくる様なら熊撃ち弾と呼ばれるスラッグ弾を食らわせる。
静かな洞窟にジャコッという音と、ココンというプラスチック製の空薬莢が弾む音だけが木霊する。
銃を向けたまま足先でグレイブハグを蹴ってみるが反応はない。
大雅はハンドガンを抜き、頭に向けて1発撃ち確実な止めとした。
これから探索するうちに、起き上がって来たなんて御免被りたいからだ。
銃を背中に戻し、ハンドガンを構えたままフラッシュライトのリフレクターをワイドに切り替え洞窟の中を探索を開始した。
「スウェッド村からエード・グリンヴェールに向かう途中で洞窟の話を手に入れ探索。
中にはグレイブハグ1匹でこれを排除。
状況はクリア、探索を開始する」
大雅は画像データ用のテキストを音声モードで作っていく。
「これは・・石炭か?」
大雅はナイフで黒く磨かれた楕円の石を削ってみた。
アーミーナイフの刃の反対側には大きなギザギザが付いている、これで削れれば石炭、固ければ黒曜石の可能性が高い。
「やわらかい・・・簡単に削れた・・・これから燃焼試験をしてみる」
乾いた岩の上に、石を削ったかけらの上にファイヤースターターを少量削り、一気に着火した。
黒曜石ならば、ファイヤースターターの発火石が燃えるだけで、すぐに燃え尽きてしまう、これが石炭なら燃え続けるはずだ。
「炎は安定して燃え始めた、匂いからしても石炭の可能性が高い、サンプルとして送るが、後日調査用に欠片を戻してほしい、継続調査を行う」
洞窟は古い遺跡なのだろうが大部分が埋まってしまっているようだった。
奥へ行くと動物の骨や人骨が転がっている。
「奥には深い水路が有るようだが大部分が埋没している。
これ以上の調査には潜水器具が必要だ。
特に指示が無ければ探索終了としたい」
大雅もこんな暗い所で潜る気にはなれなかった。
他には何の動物なのか分からないが毛皮の切れ端、何に使ったのか判らない石ころなどが転がっているだけで、大した物はない。
洞窟から出ると、ナジャムが離れたところからこちらを不安そうに眺めていた。
「ナジャム」
声をかけるとピルルルッと返事をして小走りで駆け寄ってきた、1トンの巨体を震わせ走り寄ってくる姿はちょっと迫力が有り過ぎる。
「よしよし、大丈夫だ」と肩のあたりをポンポンと軽く叩くと、まるで大丈夫?
と言わんばかりに首を曲げて体に巻き付いてくる。
「行くぞ、ナジャム」
エード・グリンヴェールまではまだまだ距離が有る、出来るだけ距離を稼いでおきたい。
街道に戻り、エード・グリンヴェールへと馬を向け20キロほど南下した所でキャンプを張った。
ここは分かれ道となっており、エード・グリンヴェールへ向かう左の道と西のケストレル山脈の方へと向かう道だ。
分かれ道の付近には盗賊が根城にしやすい、それは襲う獲物が増える事と、逃げる場合の道が増える事からでも、一本道よりはるかに盗賊が根城を作り易いのだ。
ここからエード・グリンヴェールまでは、馬であと1日の距離つまり50キロほどだ、もっとも盗賊が出やすい距離でもある。
ある意味、盗賊も全くの山道や街道から離れた辺鄙な場所では獲物を待たない。
金目の物を持っている行商人や貴族などを襲う
。
食い詰めた農民などには見向きもしない。
まあ、若い娘などが居る場合は話は別だが。
大雅は1キロ手前からドローンを飛ばし、分かれ道の周辺を敵索する。
すると、乗用と思われる馬車を8人ほどの盗賊が襲おうとしている所だった。
「間に合えばいいが、走れ!ナジャム!」
図太い足音を上げ、ナジャムが力強く土を蹴る。
大雅はナジャムに乗ったままアサルトライフルのAKMSを取り、初弾をチャンバーへと送り込んだ。
馬に乗ったままでも大雅はそれなりに撃てるが、できればナジャムに怪我はさせたくない。
100mほど手前で降り、ナジャムの尻を叩いて林に隠れているように言う。
馬車には見えている限り4名ほど乗っているようだが、多勢に無勢、一人は剣を折られていた。
馬車側の人数が2人となったところで、戦闘は終わり馬車側の人間が逃げ出した。
「おい、4人ほどであいつらを片付けろ」
リーダーと思われる盗賊が手下に命ずると、盗賊は逃げた馬車の者を追って行った。
「出て来いよ、お貴族様」
「い、嫌よっ!」
盗賊4人は馬車を嬲るように取り囲み、値踏みを始めている。
「ほら、面を拝ませなぁ。若かったら可愛がってやるからよぉ」
「た、助けてぇっ!」
大雅は迷彩を利用し、盗賊のすぐ近くまで近づいていた。
「心得た!」
パンッ、パパンッ、パンッ
全て頭部に食らって声も出せずに崩れ落ちた。
「まだ馬車から出てくるなよ」
大雅はあっさりと4人を倒すと、馬車に声を掛け、慌てて戻ってくる4人の盗賊が近づいて来るのを待った。
「てめぇ! ぶっ殺してやる!」
「どっかで聞いた事の有る、やられキャラのセリフだな」
3人の頭を撃ち抜くと、残りの一人は剣を放り出し逃げ出した。
大雅は、グレネードを盗賊の走っていく15mほど先へと撃ちこむ。
「ひっ!」
爆発に驚いて盗賊の足が止まった。
「さて、仲間は何処だ」
「い、言う・・だから勘弁してくれぇ」
「根城はどこだ、何人いる」
「・・・・・」
大雅はアサルトライフルで盗賊の膝を打ち抜いた。
「ぎゃあっ!」
この世界の医療技術では二度と歩けないだろう。
「とっとと言わないと、右膝も撃つぞ、言えば足は撃たないでやる」
「わ、わかったから!
言うっ!
言うからぁ・・・痛てぇよぉ。
ね、根城はあの丘の裏だ! 留守番が一人いる」
「そうか、ご苦労」
パンッ
大雅は盗賊の頭を撃ち抜いた。
「足は撃たないと言ったが、頭は撃たないとは言ってないからな」
「盗賊は倒した、もう出てきてもいいぞ」
馬車のロックが解かれ、ドアがゆっくりと開いた、顔を出したのは年のころ16ほどのドレスを着た少女だった。
手には刃渡り10センチほどのナイフが握られている。
どう見ても使い慣れているようには見えない。
「ナイフは仕舞っておけ、怪我をしないうちにな」
「た、助かったの?」
「襲ったのは盗賊八人、全て殺した。
あとはあの丘の裏に根城が有って一人留守番らしい」
「た、たすかったわ。
ああ、ジャコブ! なんて事!」
「家族か?」
「いいえ、護衛よ。
私の子供の頃から仕えてくれていたの」
「じゃあ、こいつも使用人か?」
大雅は、比較的身なりのしっかりした、護衛と思われる切られた二人を示した。
「ええ、一人は御者で後は最近雇った護衛ね。でも残り二人は?」
「逃げ出したが4人の盗賊に追われて殺されたようだ」
「貴方が、助けてくれたの?」
「まあな、こいつらの様なクソ野郎には見えないと思うが?」
「そうね、助けてくれたついでに、町までの護衛をお願い」
「それは構わんが、遺体はどうする、盗賊の根城も確認したいのだが」
「ジャコブの遺体は馬車へ、あとこの御者の遺体も。
あとは捨て置いておいていいわ、逃げ出す護衛なんて…役立たず」
大雅は二人の遺体を馬車に載せた、馬車に損傷は無いが、二頭立ての馬車の1頭の馬は虫の息だ。
馬を外して楽にしてやる。
「ナジャム! こっちだ!」
パカパカとナジャムが走ってくる音が聞こえる。
「馬の一頭はダメだな。
馬車を引けないことは無いが」
「貴方の馬ではダメなの?」
「体高差が有りすぎる。
盗賊の根城に行けば馬もいるだろうし、ついでに調達するか」
「じゃあ、ここで待っててくれ」
「一人は嫌よぉ!」
「盗賊の根城だぞ?」
「ま、守ってくれるのよね? お金ならあるから」
「ま、仕方がないか。そら乗れ」
サドルの後ろに彼女を引き上げると、ナジャムを丘へと向かわせ、丘の下へと止めた。
「馬を確保する。
谷沿いに蹄の跡があるから、馬がいる事は間違いない。
、アンタはここで待っててくれ」
「わかったわ」
大雅はナジャムから降り、丘の7合目あたりを登っていった。
騒ぎを聞いていたのか、一人の男が矢を構えている。
距離は70mほどだ。
大雅は、AKMSを構えるとブースターをパノラマサイトの手前に入れ倍率を4倍にした。
息を止めトリガーをゆっくりと絞る。
ターーーンッ
銃弾は男の眉間に当たり後頭部から血しぶきを飛ばし、そのまま崩れ落ちた。
根城に入ると、馬車の馬と似たような体高で健康そうな馬を選び、後は友綱をほどき自由にしてやる。
現金と金目の貴金属類だけ奪ってナジャムの待つ丘の下へと向かった。
「・・・ったら! 動きなさいよ!」
少女はナジャムに跨り腹をけったり、ナジャムの尻をペチペチと叩くが、ナジャムは一向に気にしていない。
「待っていろと言ったはずだが?」
「ひゃうっ!」
「ナジャムは俺の言うことしか聞かない。
逃げるつもりだったのか?
使用人の遺体や馬車も捨てて。
というより俺の馬を奪うつもりだったのか?」
「そ、そんなんじゃないわ! 一人で居たら急に怖くなって・・・」
「ナジャム、全速力で走り回っていいぞ、満足したら戻って来い」
ナジャムは、ヒヒンッ!と嘶くと脱兎のように駆け出した。
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
声が遠くなりながらナジャムが走っていくのを笑って見送った。
「お仕置きだ」
ナジャムの最高速度は60キロを越えて来る、落ちたら無事では済まない。
ナジャムは2分半ほどすると戻ってきた。
背にはぐったりとした少女が、ドロワーズを丸出しにしてぐったりとしている。
「どうだ、すっきりとしたかナジャム」
鼻息も荒くブヒンッと答えるナジャム。
「・・・ひどいわょぉ・・・」
「さて、馬車に馬を付けるから降りろ」
「・・・どうした?」
「お‥下して・・」
大雅は馬上の少女に腕を伸ばしてやると、くにゃりと少女が抱き着いてきた。
地上に下すと腰が抜けたように座り込む。
連れてきた馬の鞍を放り捨て、馬車へと繋ぎナジャムも馬車の後ろに友綱で繋ぐ。
盗賊たちの腰や首から金を回収し、武器は馬車の中に放り込んだ。
町で売ればそれなりの金になる。
「さて、落ち着いたか?
いいかげんドレスの裾を直したらどうだ、はしたないぞ」
ドロワーズとは言っても、膝丈に近いボテッとした生地で色気も何もない。
「きゃっ、み、見ないでよ! 」
「馬車に乗れ。行くぞ」
「いやよ、死体と一緒なんか」
「じゃあ、前に乗れ、ついでに案内してくれ、この町は初めてだからな」
馬車を町へと向けて歩かせた。
「貴方、名は?」
「名を聞くときは、自らも名乗れと教わらなかったか?」
「知ってるわよ。私はメイヤー男爵家の娘、ロッテンよ」
「大雅。大雅拝戸だ」
「珍しい名前ね」
「ここら辺の出では無いからな、顔つきも違うだろう?」
「そうね・・・初めて見る顔だわ」
馬車は町へと入っていく。
平屋だけでなく、木造と石造りが入り混じった作りの家が多い。
「次の角を右へ、後は真っすぐよ」
100mほど先には石の門柱と木の門扉が見えている。
「あそこが家よ」
門の前まで来るとロッテンは声を上げた。
「開けなさい、私よ!」
使用人と思われる男が慌てて門扉を開けた。
「このまま馬車を入れて」
「お嬢様! どうされました?」
家の中から初老の男が出てきた。
「襲われたのよ、巡回は中止。
ジャコブも御者も殺されたわ、護衛は逃亡」
「そ、それは! よくご無事で」
「彼に寸での処で助けてもらったの。
馬の世話と馬車から遺体を下して洗うように。
遺体もきれいにして。
家族には父が帰ってきてから話を付けるわ。
とりあえずは、亡くなった事を知らせて引き取らせて」
「判りました、で、この方は?」
「タイガー・・・だっけ?」
「大雅だ、町から馬で2時間ほどの分かれ道に差し掛かった折り、馬車が襲われていて助けた」
「それはそれは。お嬢様をお助けいただきありがとうございました」
「中に案内して、私は着替えてくるわ」
「はい、ではタイガ様、こちらへ。
申し訳ございませんが、その短剣はお預かりしても?」
「これか?」
大雅は左胸のコンバットナイフを指した。
「はい、当家の仕来りで刃物はお預かりいたします。
お帰りには責任をもってお返しいたしますので」
「ああ、かまわん」
大雅はナイフを抜くと、男に渡した。
「見たことも無い作りで御座いますな。遠くからのお旅で?」
「ああ、そんなところだ」
「こちらで御座います」
男に付いて屋敷の中へと入っていく。
窓には歪んでいて不透明だがガラスの様な物が嵌っている、だがこれはこれで綺麗だ。
8畳ほどの部屋へ通され、お茶の様な物が出された。
匂いでは緑茶と紅茶が混ざったような匂いだ、しかし大雅はこれには手を付けず自分のパックパックから水のボトルを出して飲んでいた。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
着替えたロッテンが入ってきた。
「お口に合わなかったかしら、ヴァーデンの高級品なのだけれど」
「知らない相手の提供されたものは、口にしない主義でな」
「あら、毒なんて入ってないわよ」
「気にするな、主義だと言っただろう?」
「ふぅん、ところでお礼を渡す前に、貴方の事を教えてくださらない?」
「名前は教えた筈だが?」
「ちがうわよ、どこからきてどこへ行くのか。
仕事は何なのか。
そうそう、どうやって盗賊を倒したの?
大きな雷の様な音が聞こえたけど魔法?」
「北のスウェッドの方から来た。
目的地はここエード・グリンヴェール。
ここに女魔術師が居ると聞いてな。
仕事は・・まあ、様々だな化け物退治や盗賊狩り・・そんなところだ。
盗賊を倒したのは俺の使う魔道具の様な物だ。
・・・これでいいか?」
「まあ! もしかしてウィッチャーなの?」
「そう見えるか?」
「武器は背中に二つ、ウィッチャーなら剣と聞くけど杖?」
「俺は剣は使わない、代わりにコイツを使う」
「それで倒せるの?」
「ああ、ドラウナー、グール、アルグール、もちろん人もだ。
一発で倒せる。
ああ、グリフィンも別の魔道具だが一発だったな」
「すごいわ! ねえ護衛として「断る」・・・ダメ?
どうしてよ。ウッィチャーならお金で雇えるはずでしょ?」
「一つ、俺は今人を探している。二つ、俺は怪物退治だけが仕事ではない」
「誰を探しているの?」
「女魔術師だ、この町に住んでいると聞いた」
「ええ、町はずれだけど・・・どこか具合でも悪いの?」
「別に治療しに来たわけじゃない。
ウィッチャーなら狼流派の者を、女魔術師ならイェネファーとしう者を探している」
「狼流派のウィッチャーは、祖父の時代に一度雇ったことが有るって聞いたことがあるけど・・・父が帰ってきたら記録から判るかもしれないわ。
女魔術師のイェネファーなら、名前を聞いたことがあるわ。
そこら辺を知っているのは確かに女魔術師よね、もしかして狼流派のウッィチャーにイェネファーさんを取られたとか?」
「イェネファーは100歳を超えている、俺がそんな年に見えるか?」
「いくつなのよ」
「26だ」
「うそ・・もっと若いと思ってたわ」
「そんなに若く見えるか?」
「そうね・・20・・いえ18くらいかと」
「それはありがとう、光栄だ」
「あと、ここの女魔術師を紹介してもいいわ。
ただし、護衛を受けてくれたらね」
大雅は椅子を立った。
「自分で探す。
こんなことをしていては、いつ見つけられるか判らんしな。
護衛は他を当たってくれ」
「良いのぉ? あの女魔術師って結構偏屈者よ?
でも私なら貸があるから繋げられるわよ」
「ほう、交渉か。
ならその確実に繋がるという確証は?」
「判ったわ、降参よ。
でも本当に困っているの。
戦争の面倒で父も暫くは帰って来れないし、町の衛士も駆り出されている始末だし、ウィッチャーは少ないし。
盗賊か荒くれ者か判らない者に、護衛は頼めないわ」
「俺が盗賊や荒くれ者でない保証はどにも無いぞ。
人気のない所へ行ったらお前を襲うかもしれん」
「その言動こそ、盗賊や荒くれ者ではない事の証左よ。
それに、そんな者ならあの時盗賊を皆殺しにして、事に及んでたはず。
それに椅子に姿勢正しく座れる盗賊や荒くれ者は見たことが無いわ。
そうね・・・本当はどこかの兵士か他国の諜報員・・・ではないわね。
そんな変な恰好見たことないもの。
やはりどこかの兵士ってとこかしら」
自分の事に話題が及んだので、大雅は別の話題へと誘導した。
「まあな。ところでその女魔術師は相当な偏屈なのか?」
「まあ、偏屈も良い所よ。
こっちへ流れてきた当初、死にかかってた所を父が助けたの。
そして最初は戦いに使おうとしたんだけど、攻撃魔法が弱くってね。
結局治療師としての仕事と家を与えたの、家の仕事を優先するという条件で」
「なるほど・・・わかった。
だが先にその女魔術師と繋いでくれ。
有力な情報が得られたら、護衛任務を短期を助件に請け負う。
それでいいか」
「やった、いいの?」
「有力な情報が得られたら、と言うのをすっ飛ばすな」
「判っているわ、今日はもう遅いから泊まっていくといいわ。食事も出させる」
「いいだろう、ところで馬は?」
「貴方の馬なら、うちの使用人が面倒見てくれているはずよ、お湯も使うでしょ?」
「ああ、頼みたい」
「今日の報酬は夕食の時にでもいいかしら」
「馬から荷物を取ってきたい、馬小屋の場所は?」
「屋敷の裏よ」
大雅は、広間を抜け屋敷の裏へと向かった、途中で大雅を呼ぶ声がすると思ったら執事だ。
「お嬢様がこれを大雅様にお返しするようにと」
「いいのか? この家のしきたりなのだろう?」
「はい、ですがお嬢様のお言葉は絶対です。
特に旦那様がいらっしゃらない現在、家を切り盛りされているのはお嬢様でして」
「そういえば、男爵のご婦人は? 姿が見えないが」
「奥様は2年ほど前に亡くなられました、流行り病で」
「そうだったか、教えてくれて助かる」
「タイガさま、私からもお願いします。お嬢様をお守りください」
「詳しい話は馬小屋で聴こう」
「ナジャム、今日はよく頑張った」
ナジャムはブヒンと声を上げ、前足で地面を掻いた。
「わかってる、今日はまだだったな。ほら」
タイガはデイパックから角砂糖を取り出しナジャムに与えた、コリコリと幸せそうに眼を細めて食べる姿は可愛いものだ。
本当は砂糖や糖分を含む物は、食べさせない方が良いのだが、この後飼葉を与える為、そう問題にはならない。
ナジャムもそれを知っていて、デザートならぬ食前のちょっとしたおやつと思っているようだ。
動物は通常の視点からは判らないがちゃんと表情が有る。
犬も馬も下から見るとほほ笑んで居たり、悲しそうな顔をしたりとちゃんと表情を表す。
今は、ナジャムもニコニコ顔だ。
「何か薬の様な物ですか?」
「いや、砂糖を四角く固めたものだ、日に1回、2つだけだがな。
今日は昼の盗賊騒ぎで与えていなかった。
それナジャム、今日は特別にもう一つだ。
良く頑張った、ご褒美だ」
ナジャムは嬉しそうに、唇で角砂糖を器用に口へと運ぶ。
「人が食ってもうまいからな、ホレ」
大雅は角砂糖を一つ執事に渡した。
男は恐る恐る角砂糖をかじり驚いた顔で言った。
「まさしく砂糖ですが、こんな白い物は・・・」
「俺の国の物だ、少なくとも北方諸国では手に入らない」
「これをお分け頂くことは可能でしょうか」
「ああ、まだたくさんあるから1箱やろう」
大雅はナジャムから下したパニアバックから、135個入りの日本のスーパーでも手に入る角砂糖が入った紙箱を取り出した。
「紙箱の中には透明な薄い紙で包まれている。
その紙は食えないし、捨ててしまって構わない」
「おいくらで?」
「金は要らん、その代わり知っている事を教えて欲しい」
「もちろんでございます、なんなりと」
「男爵は出かけていると聞いたが、戦いに参戦しているのか?」
「いいえ、旦那様は食料や蜂蜜などの物資を、ポンター川手前の物資集積基地まで届けに行っただけで御座います。
特に問題が無ければ、来月の次の月にはお戻りに成ると」
「なるほど。
もう一つ、この町の女魔術師は相当な偏屈者だと聞いた。
実際は?」
「ええ、偏屈と言うか頑固者と言うか、旦那様には恩が有るためか従順で御座いますよ」
「ロッテンには?」
「お嬢様については、普通の対応でしょうか。
まあ、特に嫌っているとも見えませんし」
「お前は会ったことが有るのか?」
「ええ、一度だけ。
見た目30ほどの女魔術師で医療術師、薬草師としての腕は確かでございます。
ご興味がお有りで?」
「情報が知りたいだけだ。
この町にはほかに女魔術師はいないのか?」
「はい、知っているのは一人だけですね。
まあ、居たとしても自らは話さないでしょう。
南部や西部では魔女狩りが激しいという話ですから」
「そうか、あと一つだけ、知り合いにウッィチャーは居るか」
「はい、一人だけ。
しかし、数年前死んだとの噂です。
猫流派のウッィチャーでしたが」
「そうか、もし狼流派のウッィチャー、もしくはこの町以外の女魔術師についての話が有ったら教えてくれ」
「かしこまりました。
他の使用人や出入りしている商人に聞いてみましょう、このお礼です」
パニアバックを肩に担ぎ、樹脂ケースをゴトゴトと引きずり館に戻った。
与えられた部屋に入ると、執事と年のころ20ほどの女が待っていた。
「湯女を呼びましてございます、食事の時間までは暫くかかりますのでお好きにお使い下さい」
「特に必要は無いが」
「お嬢様の指示で御座いますよ。
そうすればお嬢様の身も安全になりますので、ではごゆっくり」
そう言って執事は部屋を出ていった。
「まずは体お洗いしますね、抱くのはそれからってことで良い?」
「体を洗うだけでいい、というか女はいらないんだが」
「それじゃアタイが怒られちまうんだよ。
精を搾り取れってあの執事に言われてんだから、ほら、さっさと裸になんなよ。
お起つモノもきれいにして上げるからさ、これでも締まりは良いって褒められるんだよ」
大雅は、地球でもこの時代の性感染症が蔓延していたことを知っている。
だから商売女はリスクが高いどころの話ではない、もちろん素人女性だからいいと言う訳でもない、相手の事を考えるとそれは出来ない。
だから自分はちょっとした性癖があり、女は好きでないと話し、急場を凌いだ。
そして、いくばくかの金を握らせ、言われた通りにしたと言うように言った。
「ぜってー俺には似合わないな」
部屋には服が用意されていた。
タイツの様な薄い生地のパンツ?
レギンスの様なズボン。
白いフリルの様な袖が付いている上着、サッシュベルト。
薄い皮でできた踵の無い靴、笑いを取るには十分すぎる要素がある。
まあ、かぽちゃパンツの王子様スタイルでないだけまだマシなのだろうが。
部屋には椅子代わりなのか、窓の下に空のチェストが置かれていたため、これを半固定インベントリとして利用した。
この国の有力者と接触した事を伝え、紫紺の自衛官の制服一式を送ってくれるよう伝える。
しかし、送られてきたのは大雅の思っていた物ではなかった。
紫紺の生地に金ボタン、肩には2本の金モールを編んだ礼装用肩章に銀色桜星で1本線に3つ星が付いている。
あまつさえ、制帽と白い手袋まで入っていた。
「マジかよ、第1種礼装の甲種じゃねーか、マジこれ着るのか」
今更やり取りには時間がかかるので、仕方なく着る事にした。
服をチェストから取り出すと、下には礼装用のサーベルまで入っている。
もちろん礼装用の模造刀なので、刃はついていない。
上着は腰の少し上までで、前を金のチェーンで留めるといった、一生に一度着るかどうかという制服だ。
馬子にも衣装とは良く言ったもので、大雅も礼装により、まるでモデルの様な姿になっているうえ、鍛え上げられた体により、抜き身の日本刀の様な迫力を出していた。
丁度その時、ドア越しに声が有った。
『タイガ様、準備が整いましてございます』
「判った今行く」
大雅は念のためにマシンガンのFMG-9をヒップポケットに入れた。
フォールディングマシンガンと呼ばれるこの銃は、折りたたんでしまえばヒップポケットに入るほど小型となり、折りたたんだ状態から0.35秒で初弾が装填されると同時に展開、即座に射撃が可能となる。
展開時は50センチを超える銃床付きのサブマシンガン形状となり、17発の実包をフルに装填しても870gと非常に軽量だ。
その分耐久性には不安が残るが、グロック17を踏襲した内部機構と共に信頼性は高い。
銃身は6.5インチで初速は380m/sを超える。
9mmパラの拳銃弾を使用する銃火器の中でも、非常に強力な部類に入り放たれるホローポイント弾は優秀なマンストッピングパワーを示す。
たとえ、この世界の甲冑や鎧でもある程度の効果が見込める、どの道この銃が使われるシチュエーションは25m前後の距離で、CQBと呼ばれる間合いだ。
その時は武装のできない頭部を狙えば良いだけの話だし、大雅にはそれを行う実力もあった。
「待たせたな」
礼装で固めた大雅を見た執事は、驚いて後ずさりしたほどだ。
「これは・・これは・・」
「変か?」
「いえいえ、なんと素晴らしい。
初めて見る服装ではございますが凛とした雰囲気が・・・」
「そうか、これで構わんか」
「もちろんでございます、ささ、ご案内いたします」
「おそかっ・・・」
ロッテンは話しかけながら言葉を失っていた。
彼を驚かせるつもりで、持って居る内で最も豪華なドレスと宝飾を身に着けたというのに、それを凌駕するほどの豪華さの服を着て大雅は現れたのだ。
言葉を失わない方がおかしい。
「タイガ・・それって」
「生憎、戦闘服以外は、これしか無くってな」
「すごい!すごい、かっこいい!
なにその服、タイガの国の服なの?」
「俺の国の士官の礼服だがおかしかったか?」
「そんなことない!
初めて見るけどステキ!
ねっ、その剣もきれい」
「刃の無い単なる飾りだがな」
「それってあなたの国の軍服なの?」
「礼装だがな、普段のものはもう少し軍人らしい」
「これは、今日助けてくれたお礼よ」
そう言って、ロッテンは小ぶりな革袋をテーブルの上に出してきた。
「明日、午後には女魔術師の所へ行きましょう」
「午前中ではダメなのか?」
「朝だとすっごく機嫌が悪いの。
知ってることも教えたがらない位ね」
「なかなか厄介な人物像だな、名は?」
「アリッツィア・・なんとか・・・えーと・・・」
「・・・・・」
「そう、アリッツィア・ノヴァックよ。
30ぐらいには見えるけどホントの年は知らないわ。
で、知りたいのはイェネファーだっけ?」
「そうだ、イェネファーの行方を知りたい。
もしくは狼流派のウィッチャーだ」
「同じ魔術師のイェネファーの事なら判るかもしれないけど、狼流派のウィッチャーは難しいかも、過去に大規模な盗賊団が跋扈していた時、ウイッチャーの拠点が大規模に襲われてかなり数を減らしたみたいだし」
「それでも掲示板に依頼を出せば、数カ月程度で見つかるのだろう?
掲示板の有る町の数を考えれば、結構な数が残っていると思うが」
「ええ、確かにそうね。
ただその数を知っている人も居ないと思うわ。
それでなくともウィッチャーって、他流派同士仲が良いとは聞かないし、唯一の連絡方法が掲示板なのよ」
「・・・掲示板に出すもの手か・・・」
「狼流派のウィッチャー求むって?」
「ああ」
「たぶん絶対警戒して来ないわよ」
「所でタイガ、明日からは何処へ泊るの?」
「この街ぐらいなら宿は有るだろう?」
「ええ、何軒かね。
でもお勧めできないわ、1軒は完全な売春宿だし。
もう一軒は酒場と併設で煩いし、後一軒は大部屋に雑魚寝、寝台虫とお近づきになりたいなら話は別だけど」
たぶん寝台虫とは、南京虫のような昆虫を指すのだろう。
「別に野宿でもかまわんタチでな、まあ虫は嫌だが」
「ならタイガ、ここに泊まってよ!」
「なにか腹積もりが有るんだろ?」
「ほら、ジャコブも殺されちゃったし、あ、ジャコブって家の雇っている元傭兵の護衛ね、せめて次が見つかるまで頼みたいのよ」
「さっきから言ってるように俺は人を探している。
そんな先の見えない話には乗れんぞ」
「判っているわ、でも、女魔術師からすぐ次の情報が取れるとは限らないじゃない。
いる間だけでもいいわ、お願い!」
「まあ、ここに滞在している間だけならな。
ただし、調べたいこともある、長時間の拘束は無しだ。
移動する時だけとしたい、それでいいならな」
「ああ良かった。できるだけ早く見つけるからお願いね。
町中の移動と領地の村への移動の護衛でいいわ」
「使用人で他に護衛として使える者は居ないのか?」
「それがジャコブだったのよ、本当に戦争のお陰で治安はガタガタよ」
「自警団とかは無いのか?
衛士が少ないのなら、衛士一人に一般民から募集して二人ほど付ければ、それなりに体制はできるだろ?」
「そうなんだけど、費用が掛かりすぎるのよ」
「自分たちの街なんだ、一日フルにでは無くて時間を区切って、無償で労働提供してもらったらどうだ。
治安が良くなれば、自分たちの生活だって安定するだろう?
丸一日とかずっと専業で働かせるから金がかかるんだ。
長くても半日程度で持ち回りにすれば、時間の個人負担は少なくて済む。
食事でも出してやれば、経費もそんなに掛からん」
「・・・・すごいわタイガ。
それ頂きね明日にでも市政官達に話してみるわ、誰も思いつかなかった事よ!」
「いや、普通思いつくだろう。
問題はそれで集まるかどうだな。
上から圧力ではなく、市民にしっかり訴えて協力を頼む事が大切だ」
「わかったわ、そうする」
「ところで、ここ最近、そうだな、数年くらいの間の情勢を知りたいんだが」
「逆に何処まで知ってるの?」
「ここがケイドウェンという国で、ポンター川のある南からニルフガードが侵攻してきていること、北方諸国と呼ばれる国家が多数ある事ぐらいか」
「ニルフガード帝国は3度目の侵攻を始めたのが5年前、この国には5年前から侵攻を始めたわ。
でも同時に隣国のレダニアからも攻め込まれ、この国は二つの国を相手にするしかなかったの」
そこへ丁度料理が運ばれ始めた。
「食べながら話しましょ。
ニルフガード帝国は伸びた補給線と、長引く戦いのせいで士気は高くはなかった。
それでなんとかポンター川の対岸へ押し戻すことに成功したの。
でも膠着状態まで持っていくのが精々で、川の南側を獲られたまま。
レダニアからの侵攻が、結局はヘンセルト王の神経を病み、ついにはニルフガードに落ちたの。
まあ、レダニアの王も相当に病んでたみたいだけどね」
「どうした」
「そういえば、ニルフガードが北方諸国に宣戦するより前に、北方諸国の諸王と女魔術師会、そしてニルフガート帝国の間で会合が行われたの。
結局交渉は決裂、どちらかと言うとニルフガード帝国寄りな魔術師たちとの溝は深まったわ。
そしてニルフガードは蛇流派のウッィチャーを使ったりして諸王の暗殺を謀ったの。 ヘンセルト王をその時守ったのが狼流派のウィッチャーだと聞いていたわ。
結局守り切れなかったらしいけど」
「そのウィッチャーのその後は?」
「判らないわ、北部に居る話もあるし、結局時間はかかったけど、ニルフガードは一部の北方諸国を除いて手中に収めたし、いまだに決着が付いていないのはレダニアぐらいかしらね」
「他にはあるか」
「私が知ってるのはこのぐらいよ、父ならもっと知ってるかもしれないけど」
「1カ月半先まで待たなきゃならんか」
「でも人探しなら、ある程度時間がかかるわね。
まさか世界中を放浪して探すつもりは?」
「・・・・」
「あきれた、私からも父に頼んであげるわよ。
助けてくれた貴方なら、無碍にはしないと思うから。
それより今度は貴方の番よ、いったい何者でどこからきたの?」
「俺はある国の組織に所属している。
話すには本国の許可が無ければ話せない。
目的はこの世界の調査が目的だ。
数年前この国の女魔法使いが俺の国にたどり着いた。
俺の国は資源が少なく、科学技術を基にした物で発展してきた。
しかし、安定した資源を確保する事は難しい。
この世界の接点となった女魔術師の話では、この世界は我々から見たら資源が豊富に残っている可能性が高い。
しかし、諜報員を送り込むほど簡単ではなかった、化け物や盗賊が跋扈する世界だからな。
俺は兵士だ、それも極秘で行わなければならない破壊工作や、耐テロ組織の壊滅、暗殺阻止などを専門とする兵士だ。
俺の国の諜報員は殆どが机で仕事をするだけの役人だよ。
作戦行動なんか無理だ、で、俺が送り込まれた。
最終的にはどの国と国交を結ぶのか、結ぶに足りる国や国体を有しているのかを調べるのが俺の仕事だ」
「やっぱり兵士だったのね。
なんとなくそんな気がしたわ」
「何処でそう思った?」
「目の動かし方ね、父とそっくりだもの。
父も元兵士であり、侵攻の2年前からこの国に入り込んで調べていたの、私と母はトゥサンという所で寂しい日々だったわ、タイガはご家族は居るの?」
「両親は狂信国家の破壊工作で死んだよ、俺がまだ12の時だ」
「ごめんなさい」
「なに、気にする必要はない。
今ではその国も事実上壊滅したし、実行した奴の仇も獲ったしな」
「あなたもしかして・・・異世界人?」
「この世界から見たらそうだろうな。
俺にとってはこっちの人間は異世界人だが」
「ねえ、どんな世界なの?」
「まあ、世界のどこかで戦争や、小規模な紛争をしているのはこっちと変わらん。
ここの世界は俺の世界では500年ほど前の世界に酷似している。
特に欧州と呼ばれる地域だ。
肌の真っ黒な人間や黄色い肌をした者を見たことはあるか」
「ないわ、そんな人が居たら目立つもの」
「俺の世界には居る。
結構な数がな、国により文明程度は異なるが、俺が居た世界では7つの先進国、つまり「偉大なる7大国」の一つに数えられている国。
馬で1年かかる距離でも1日あれば行けるし、話をしたいと思えば、どこからでも何時でも話ができる。
世界中の情報が繋がっていて刻々と変わっていくし、それを知る術はほとんどの人にある。
いつでも食べ物屋は開いているし、遊ぶ場所もある。
喉が渇いても、1分も歩けば飲み物を手に入れる機械が置いてある。
ある種類の店では、全く休まず夜中でも営業していて、生活に必要な物はなんでも手に入る。
家の中に居たままでも、なんでも手に入り注文すれば翌日には届けられる。
そんな世界だ」
「夢みたいな世界ね、ね、食べ物は美味しいの?」
「向こうの世界で最もうまい物が集まる場所、それが俺の母国だ」
「いいなぁ、行ってみたい、ねえ高い塔も有るの? 神の国に有る様な」
「神の国の物は知らんが、雲まで届く塔なら俺の国にも有るな。
まあ、他の国へ行けばそれより高い人が住む塔もあるが」
「すごいなぁ、向こうの食べ物も食べてみたいなぁ」
「あるぞ」
「そうよねぇ・・・へっ?」
「パンならある、こちらと大分違うからな。
それとインスタントラーメンもな」
「インランメーメン?」
「プッなんだそれ、インスタントラーメンだ。食ってみたいか?」
「ええっ! もちろん!」
「では明日に出そう。
今日はせっかく作ってもらった料理がある。
食べないのでは、料理人もがっかりするだろう?」
「うーーーわかったわ。明日きっとね」
「でもある意味ほっとしたわ」
「何故だ?」
「タイガって、国交の前調べってことで来たのよね」
「ああ、まあそうだな。
あとこの世界との移動方法がまだ不安定だ。その原因調査もある」
「だから魔術師を探す訳なのね?
でもウッィチャーを探すのはどうして?」
「聞くところによると、ウィッチャーはいろんな国を移動しながら怪物を倒すのが仕事と聞く。この認識は正しいか?」
「ええ、間違っていないわ」
「そんな者たちなら各国の実情や国体つまり国の状態については当然詳しいだろう?
だから色々調べて回るより効率が良い、もちろん裏はとるがな」
「タイガの世界ってどんなところなの」
「例えばリンゴがなぜ地面へと向かって落ちるのか。
空は何故青いのか。
空を人が飛べなくて何故鳥は飛べるのか。
突き詰めて調べ、仮説を立て実験し証明する、そしてそれを応用する。
そうして発展してきたのが俺が居た世界だ。
いまの一つでも論理的に説明できるか?」
「えっとおぉ・・・、リンゴは地面を愛しているから、空は天空の壁が日の明るさで照らされているから、鳥は羽根があるから?」
「全部外れだ、リンゴは万有引力、空は太陽光の大気散乱、鳥は揚力で飛ぶ。
これがたどり着いた答えだ。
俺は専門家ではないから厳密に説明できないが、いまの事柄は全て正しいことが証明されている」
「どんな世界なんだろう、行ってみたいわ」
「良く見えてもどこの世界にも暗部はある。
金が無ければ生きていくことも難しい、今生きているところが幸せなんだよ。
生きにくかったら良くする努力をすればいい、だから俺の所では人生の1/3を学習することに費やす。
文字の読めない者は皆無だし、人によっては何か国語も話せる」
「そういえば、タイガってどこでここの言葉を覚えたの?」
「元は俺の世界にいた人々が、この世界に流れ込んだと考えている。ここの言葉は古ポーランド語だ」
『ニルフガード語は? 理解できる? 愛しているわ』
『イタリア語に近いな。
もちろん理解出来るし、日常会話程度なら問題ない。
そんな言葉は本当に好きな男の為に取っておけ』
「まいったわ、本当の事の様ね」
食事も終わりになってきていた。
「何か飲むでしょ?」
「ああ、だが強い酒というか、酒自体があまり好きではないんだ」
「じゃ、お茶にする?」
「ああ、それで頼む」
「そういえば、執事に貴重なお砂糖を頂いたみたいね、お礼を言うわ」
小皿に角砂糖が乗せられ出された。
「これは本来飲み物に使うものだ、強い蒸留酒は有るかい?」
彼女は白砂糖を摘まみ上げ、コリッと齧った。
「ううっ? これってお菓子じゃないの?」
「違うな、これをそのまま食うヤツは馬ぐらいのものだ。
これはお茶や暖かい飲み物を甘くするための砂糖だ」
「ニルフガードレモンでもいいかしら、火が付くほど強いけど」
「ああ、それでいい」
大雅はティースプーンに角砂糖を一個乗せ、その上からニルフガードレモンをしみる程度に垂らし、暖炉から木のささくれで火を取り点けた。
ポッと言う音と共に、火が上がり消えてからお茶の中へと落とす。
「蒸留酒を使う場合、火を入れるのはアルコールを飛ばし風味だけを残す為だ。
単に甘くしたいのなら、そのまま放り込んで溶かせばいい」
「きれぃ・・・」
いつの間にか燭台の蝋燭が切れたのか、ロワイヤルの火だけがお互いの目に映っていた。