Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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偏屈と言われた魔女

 

 

 

 

翌朝、早めに起きた大雅は体を動かすために、タクティカルパンツに半袖の黒のアーマーシャツでCQCのトレーニングをしていた。

そんな彼の姿をじっと窓の陰から見つめる少女が居た。

 

「体を動かしたくてな、出てきたらどうだ。いい天気だぞ」

 

窓のカーテンが動いた様子を見て、大雅は振り向きもせず話した。

慌てて窓が閉まる。

 

屋敷の中には、飲み水として湧き水が出ている。

一部は飲み水や生活用水として、あとは馬の飲み水として利用されている。

湧き水でタオルを絞り、汗を拭うと大雅は部屋に戻って、いつものタクティカルスーツを身に着けた。

 

執事が朝食の時間を聞いてきたので、厨房を借りられるか聞いて借りることにした。

 

そのころ、ロッテンは胸の動悸を抑えるのに必死だった。

何か裏庭から聞いたことの無い物音がするものだから、ネグリジェのまま窓を少し開けてみた。

 

ネグリジェと言っても厚手の生地で透ける事もなく、ダボッとした緩い長そでのワンピースの様な物だが、ロッテンにとっては、家族以外の異性に見せるものではないとの常識が有った。

 

そこには、不思議な体動で小剣を振る大雅が居た。

下半身は斑なズボンを着ている物の、上半身はぴったりとした筋肉の形まで判るシャツだ。

獲物を狙うネコ科のしなやかさと、空を切るような素早い小剣の捌き。

手足は素早く架空の敵に向かって強烈な一撃を放つ、まるで其処に強靭な敵が居るかのように見えた。

 

左手のナイフは素早い動きで逆手と正手、刃の向きが手前、向こうと自在に入れ替わる。

全ての動きが最短で相手の命を刈取る動きの様に見えた。

そんな大雅の動きを見た途端、何故かロッテンの動悸が激しくなり、顔が熱くなった。

突然声を掛けられ、驚いて窓を閉めてしまったが、それでも動悸は収まらない。

 

「わ、わたし、どうしちっゃたのかしら・・・ああ、それより今日のドレス!」

 

朝の訓練を終え、体の汗を拭いた大雅は、厨房へと向かった。

持ってきていたアレンウォードで作ったケチッャプを薄くスライスしたパンに塗り、刻んだチーズを乗せ、胡椒を振りかけたものをいくつか作っていた。

燻製の熊肉ベーコンを細かく刻んだ物も忘れない。

 

料理を担当している使用人に出す直前に、パン焼き窯でチーズが泡立ち焦げ目が付きだしたら取り出して出すように指示する。

使用人も何人かは興味深そうに覗きに来た。

こういった調理にパン焼き窯は最適で、パンの下は焦がさず上手く熱が入る。

安物のオーブントースターではできない芸当だ。

 

ついでに、ベーコンエッグを作る。

この世界の卵と、アレンウォード村の燻製肉の熊肉ベーコンだ。

スープはインスタントラーメンを細かく砕き鍋に入れる。

 

執事にロッテンを呼んでくれるよう頼んだ。

丁度ラーメンを元としたスープと、ベーコンエッグが焼きあがった所でロッテンが下りてきた。

 

「おはよう。昨日約束した向こうの料理と、一部はそのままの食材だ」

「お、おはよぅ・・・」

 

顔が赤く俯き加減だ。

 

「・・・どうした? 体調でも悪いのか? なら今日でなくとも」

「ちっ・・ちがうわっ!」

「あのー タイガ様?」

「ん?」

「お嬢様は、タイガ様の朝のお姿に、心時めいてしまったようでして」

 

「この格好が? 出会った時も着ていたが?」

「ちがいます。ほら朝に裏庭での」

 

「ああ、トレーニングの時か。

 そういえばロアナも顔を赤くしていたな」

「だれっその娘っ!」

 

「反応早いなオイ。

 アレンウォード村の村おさの娘だよ。

 暫く泊まるところを借りていてな。

 世話になった」

 

「ああ、思い出した! たしか14に成る・・・」

「ああ、12ぐらいにしか見えんがな」

「タイガ・・その娘と・・まさか・・シタの?」

 

「あのなあ、朝からストレートな下ネタは勘弁してくれ。

 なんにもないぞ、ただ泊まるところを提供してもらっただけだ。

 言っておくが、何も肉体的な関係は無いからな」

 

「そ、そうなの」

「それより、そろそろピザトーストが焼ける頃だ、席についてくれ」

 

急に明るくなったロッテンの目はテーブルへと向かった。

 

「乾燥肉? と目玉焼き?」

「まあ、食ってみろ、ただの乾燥肉ではないぞ」

アレンウォードで作った熊肉のベーコンは、多少野性味のある癖が有るが、火を通すと普通のベーコンに劣らない程旨い。

 

おもむろにロッテンは、乾燥肉と思われる物を口にして驚いた。

香ばしい風味とさらりとした油、具だくさんのスープの様な物には、柔らかいが口では蕩けず、しっかりとした噛み心地が有り、スープからは濃く濃厚な鶏の風味が感じられた。

 

短時間で作れるものではない。

 

「凄い手間が掛かっている味ね」

「いや、お湯掛けてちょっと待つだけで出来る。

 あと熊肉のベーコンもまあまあだろう?」

 

「これって熊肉なの?」

「アレンウォードで、デカい熊を仕留めてな。

 環境が良かったのか、油が乗っていたので、バラ肉をベーコンにしてみた」

「ベーコン?」

「ああ、肉を塩漬けにして木の煙で燻したものだ。旨いだろう?」

 

「ああ! お代わりが欲しいぐらいだわ」

大雅は一緒に日本から持ってきたパンを窯に入れさせ、僅かに焼けた程度の物を一緒に出させた。

 

「これが俺の国のパンだ。

 小麦だけで出来ている、コケモモのジャムも有るから好みで付けてな」

 

ロッテンは薄く焼けているパンを手にした。

大きさの割には重量が有る。

一口齧ると表面のサクリとした食感と同時に、中から湯気を上げる真っ白なフワフワだが、しっかりとした弾力のある部分が現れた。

 

酵母が醸し出す香りによって。食欲が暴力的に引き起こされる。

素晴らしい弾力と甘さ、舌触りはロッテンを一瞬で虜にした。

 

「!!!」

止まらない、コケモモのジャムと言う高級品とも最高に合う。

あっという間に食べきってしまった。

 

「さて、そろそろメインだな」

持ってこられたのは、湯気とパンの上でグツグツ煮立つようなチーズが乗せられた物だ。

「かなり熱いから口の中のやけどに注意しなよ」

 

ロッテンの目はピザトーストから離せなくなっていた。

チーズの焼ける香ばしい香りがさらなる食欲を強烈に刺激する。

 

「ナイフで切って食べればいいのかしら」

「行儀は悪いが、こうやって齧り付く方がうまいぞ」

大雅はそのままパンの所を持って齧り付く。

 

この世界には一応カトラリーとも呼べる物がある。

しかし、一般的には木で作られたスプーン程度で、それにナイフはカトラリーの様な刃が緩いものではなく、れっきとした鋭い刃がついたものだ。

フォークは無く、殆どが手づかみで食事をする。

と言うのは、高級な金属製の食器は、鉄に銀の冶金を施したものがほとんどで、富裕層でなければ持っていない。

 

ここは、貴族の家なのでカトラリーはきちんと用意されている。

しかし、鉄のカトラリーに銀の冶金を施したカトラリーは高価だ。

まして、銀だけで作られたカトラリーは、非常に高価で、お目に掛かれるのは貴族でも、かなり上級な貴族だけだ。

 

それも、大事な客や目上の貴族が訪れた場合などに使用されるもので、普段は陶器や木のカトラリーが使用される。

しかも、この世界にはフォークは無かった。

有っても二股の調理器具としてのフォークで、食器としてのフォークは無い。

 

一部鉄製のカトラリーも有るが、錆びやすく料理によっては鉄の味が強烈に口に残り、料理の味をだいなしにしてしまう。

ステンレスの無いこの世界では、一般家庭では、金属製のカトラリーはほとんど見ない。

またほとんどの人は使い方さえ知らない。

 

ロッテンも少し行儀が悪いかなと思ったが、大雅に倣って齧り付いた。

濃厚なチーズの香り、そしてそれが少し焦げた香ばしい香り、パンとチーズの間には、これに負けない濃厚な味のする赤いソースで有りながら爽やかな酸味。

 

後から追いかけてくる熊肉ベーコンの濃厚な肉の味、伸びるチーズと格闘しながら上顎を少しばかり火傷したことも気にせず、ハフハフと食べていく。

もっと食べたい、ずっと食べたい。そう思わせる初めての経験だ。

 

「あ、無くなっちゃった・・・・・」

「余分に作ってあったから、もう一枚焼いてもらうか?」

「もちろんよ!」

 

食後はちゃんとした紅茶だった。

聞いてみると最初に出てきた紅茶と緑茶が混ざったようなお茶は、どうやら使用人が誤って、ハーブティーの壺に紅茶を足してしまった為だったらしい。

 

「すっ・・ごく美味しかったぁ・・・、毎日いえ毎食でも食べたいぐらい」

「毎食はお勧めできんな、実は結構、栄養価が高いんだ、運動しないと太るぞ」

「チーズとパンの間に入っていた赤いソースは何?

 初めての味だったけど」

 

「ケチッャプと呼ばれるソースだな。

 トマト、玉ねぎ、香辛料、砂糖、酢が原料だ」

「これってタイガの国の?」

「元々は俺の国で発明されたものでは無いがな」

 

「でも、手に入らないのよね・・・」

「いや、そのケチッャプはアレンウォードで作ったものだぞ。

 トマトが大量に獲れてな。

 腐らすにはもったいないし、ケチャップにすれば1年以上持つし」

「えっ? それじゃアレンウォードに行けば手に入るの!?」

 

「まあな、作り方はロアナに教えたし、ただ砂糖を結構な量が必要なんだ。

 材料が有れば作っているだろうが、俺の作ったものは、もう食われちまってる可能性が高いな」

「砂糖さえ有れば作れるの?」

「あの村で足りないのは砂糖、塩、胡椒だな。

 ああ酢も必要だろう、ワインビネガーで作ると旨いしな」

 

「ありがと、北部に行く楽しみが出来たわ」

ロッテンはいつもは軽めの朝食しか摂らない事が多いのだが、大雅の作った物は初めての味ばかりだった。

 

 

朝食後、ロッテンは執事に大量の砂糖と塩、酢や胡椒などを手配する事は忘れなかった。

着替えて大雅の待つホールへと降りていくと、大雅は会ったころの背嚢を背負っておらず、背中と腹を覆う布鎧のような物だけを着ていた。

金属で出来た、大きな黒い2本の杖も持って居ない。

 

普段は馬車で移動するのだが、歩いても街外れまで15分ぐらいの物なので、大雅の希望もあり歩いていくことにした

どの道、馬車を動かす御者が殺されてしまったので、代わりの者が見つかるまで、歩きか馬しかない。

 

「意外に道は広いんだな」

「ええ、主な道は荷馬車も通るしね。

 でも路地は狭いわ、人と馬はすれ違えないぐらいね」

 

街の路地には目つきの悪い男たちが、5-6人のグループを作ってたむろしている。

中にはナイフを弄んでいたり、パイプを吹かす者、何かのカードゲームに興じる者など様々だ。

 

「以前にはもっと露店や行商人も多かったの、戦争で治安が悪くなるばかりだわ」

そう言って、街を10分ほど歩くと右の道へと折れた。

 

「嫌だわ、やっぱり馬車で来ればよかった」

「問題ない、俺が居る」

 

しかし、2分ほどして更に小さな路地がある場所に差し掛かり、道を塞いでいる4人ほどの男たちに出会った。

 

「よう、姉ちゃん。

 金持ってそうだな。

 少しばかり恵んでくれや」

「げひひゃっ、なんなら、股広げてくれても良いぞ」

 

「ばーか、穴じゃ腹はいっぱいにならねぇだろ?

 身ぐるみ剥ぐとは言わねえから、有り金置いていきな」

「まあ、通行料だな」

 

「バカはお前たちだ。

 貴族の令嬢相手にカツアゲか?

 とっとと失せろ」

大雅は全方位に注意を回した、後ろにも二人ほど出てきている。

 

「うるせえ、まずはコイツからだ。

 奴は短剣一本だ、やっちまえ!」

「ロッテン、ここでこういう場合、相手を殺しては罪になるのか?」

「いいえ、でも、できれば捕えたいけど、犯罪奴隷に落とされた場合は、その売り上げから報奨金が出るのよ」

 

「そうか、おい、聞いたか?

 痛いでは済まなくとも良いそうだ」

「やかましいっ!」

男は手に持ったこん棒を振りかぶって来た。

 

大雅は素早く相手の懐にスウェーしながら入り込み、顎に掌底を食らわせる。

「ぺぎゃ!」

黄色く汚れた歯が数本飛んでいく。

 

同時に左の男の金的を左足で潰し、そのまま振り回し、右側の男の頭部へと後ろ蹴りを食らわせた。

残りの男は、両手を組み合わせた拳で後頭部を殴ると、同時に鳩尾に膝がめり込む。

大雅の膝の部分には、ドライカーボン製のカップが付いている、これで膝蹴りを食らったら一溜りもない。

一瞬にして4名の男たちは汚れた地面に倒れた。

ここまでが時間にして3秒

 

「さて、阿呆ども。まだやるか? ん?」

大雅は後方から出てきた男たちに言った。

 

「うるせぇっ! ぶっ殺す!」

後ろにいた二人の男は腰の剣を抜いて、威嚇し始めた。

 

「テンプレ乙。それ抜いたって事は、死んでも文句は言えんぞ」

「死にさらせぇっ!!」

大雅は、右腰のホルスターから素早くP320を抜くと、左手の小指球でスライドを後退させ、初弾をチャンバーに送り込むとともに、右手親指でセフティを解除する。

 

パン! パン!

大雅は、男たちの撃ってくれと言わんばかりの剣に向けて2発を撃った。

結果は明白だ、1本の剣は折れ、もう一本は激しい衝撃で手から落ちる。

 

「さて、次はどてっぱらに、もう一つ穴が増えることになる。

 お祈りの時間は済んだか、しょんべん垂らして泣き叫ぶ覚悟はいいか」

「ひっ! 魔法だぁ! 逃げろぉ!」

大雅は逃げようとする男の一人に足元に、壊れて投げ捨てられていた熊手の柄を投げつけた。

 

「うわぁ!」男は足に柄を絡ませ、ひっくり返った。

もう一人は重さ8キロほどの水の入った甕が、手直にあったので頭へと投げ付ける。

 

ゴシャッ!

鈍い音と共に男は白目を向いて崩れ落ち、甕は地面に落ちて割れた。

大雅は柄に絡め取られ転んだ男の背中を踏みつけ、きれいなサッカーキックを顔面に食らわせる。

 

「状況終了っと」

 

付近の住民はヤンヤの喝采だ。

そこへ数は少ない物の二人ほどの衛士が走ってきた、重そうな鎧をガチャガチャと鳴らし汗だくで走ってくる。

 

「何事だ! ってロッテン様?」

「強盗、恐喝、強姦未遂、そっちの二人は殺人未遂。

 とっと捕まえなさいな」

「はっ!」

 

「して、そちらのお方は?」

「この人は、私の護衛よ。

 護衛と言っても、私がお願いして客人扱いなの。

 名はタイガ、他の衛士にも伝えなさい、失礼の無いようにと」

「かしこまりましたっ!」

 

再びロッテンと二人で歩き出す。

周りで見ていたガラの悪そうな者たちも、今は路地に隠れてしまっている。

 

「貴方ってすごく強いのねぇ」

「ベットで聴いてみたい言葉だな」

「やだぁ、そんな意味じゃないわよ」

「解ってる、まあ、そうならなければ生き残れなかったからな」

 

「家が疎らになってきたが、こっちで良いのか?」

「ええ、そこの小高い丘を登った先よ。

 大きな木が生えている一軒家」

 

魔女の家はロッテンの言う通り大きな木が生えている木造の平屋建てだった。

 

「ここよ。アリッツィア居るぅ~? 私よ、ロッテンよぉ」

ドアを叩きながらロッテンは声を上げた。

「彼女少しばかり耳が遠いのよ、昔に殴られた後遺症で左耳は殆ど聞こえないの」

 

「居ないのか?」

「近くに薬草取を採りにでも言ったのかしら。

 アリッツィア! 居ないのぉ?」

「出直す様かな、これでは」

大雅がドアを開けてみようとしたが、鍵がかかっている。

 

「遠くには離れて居ないようだな」

大雅はタクティカルグラスをIRモードに切り替え家の中を伺った。

800℃ほどの小さな熱源が揺れている様な感じだ。

 

「どうやら、火を着けたまま出かけたようだ、火災に成るほどの大きさでは無いが」

「えっ? タイガそんなことも判るの?」

「ああ、彼女の姿は無い様だ」

屋根の煙窓からは微かな排煙が認められる。

 

「少し待ってみましょうか」

「俺は構わん」

 

大雅は、P320のマガジンを抜き、残弾を確認してから弾を補給した。

 

「それって、私を盗賊から助けた時の物と違うわよね」

「ああ、小型たが似た様な物だ」

「それってどうやって敵を倒すの?」

 

「弾はこれだ」

大雅はポケットから同じ弾を取り出した。

「これはさっき撃った弾の薬莢、つまり中に残る殻だ、違いが判るか?」

 

「先が無くなっている」

「俺が使っている武器は、大体が似た構造だ。

 この中に火薬が入っていて、破裂すると、筒を通って弾頭つまり弾が発射される。

 音より早い速さでな」

「すごいのね、私でも撃てる? 魔力はいらないの?」

 

「魔力は必要ない。

 純粋に科学の応用だからな。

 しかし、俺が持って居る武器は、俺しか使えないように作られている。

 まあ、後ろから抱きかかえている様にすれば、撃つことは可能かもしれないが」

 

「撃ってみたい!」

「仕方ないな、撃てなくてもあきらめろよ」

「ええ!」

 

大雅はロッテンの後ろから抱きかかえるようにして、銃を握らせた。

 

「いいか、握り方はこうだ。

 親指と3本の指でしっかりグリップを握れ。

 まだトリガーには指を掛けるなよ。

 肘は軽く曲げた状態で、こことここの間に白い点が3つ並ぶように狙いを付ける。

 撃つと強い反動が有るから、俺が良いというまでしっかり握りつつづけるんだ。

 あの木の真ん中をねらって、トリガーに指を掛けたらゆっくりと引け」

 

パァンッ!

 

「きゃっ!」

「初めてにしては、まあまあだな」

「凄いわ、これって当たれば盗賊みたいな事になるの?」

「ああ、だがこれは近距離用で、威力も低いし射程も短い。

 あいつらを倒したのは、アサルトライフルというもっと強力な物だ」

 

大雅の左手はロッテンのおなかに当てられていたが、ロッテンの左手が離そうとする大雅の手を上から抑えた。

そして、ロッテンは顔を大雅の方に向け、目を瞑った。

 

(オイオイ、マジかよぉ)

「銃を離せ、危ないからな」

大雅は理性を押さえつけると、ロッテンの手からP320を取り上げた。

 

「ちょっとぉ! 何よ! わかんないの?」

「何がだ、暴発したら痛いじゃ済まないぞ」

「キスしてって誘ってるのっ!」

 

「済まんがお客さんに見せつける趣味は無い」

「へっ?」

ちょうどそこへ、年の頃30過ぎに見える女性がやってきた。

 

「大きな音はアンタ達かい!!」

「アリッツィア! いつの間に?」

「ロッテンの嬢ちゃん、私はアリツィア。

 アリッツィアじゃない。

 何度言ったら覚えるんだい。

 で? コイツは誰だい?」

 

「ウィッチャーのタイガよ、今は私の護衛をしてもらっているの」

「ほう・・・・ウイッチャーにしては目も違うし、流派のペンダントも無いねぇ、多少の魔力は感じるが、強くはない。

 草の試練とやらを諦めた、ウィッチャー崩れかい?」

 

「俺は大雅。

 大雅 拝戸と言う。

 教えて欲しいことがあって訪ねた。

 それと俺はウィッチャーではないぞ、人間だ」

「そうかい、ここじゃなんだ、茶ぐらいは出そう。入りな」

 

出された茶は、少しペパーミントの香りがするハーブティーの様な物だった。

もちろん、大雅は手を出さない。

 

「で、聞きたいことって?」

「イェネファー、サブリナ・グレヴィッシング。

 この名に覚えは?」

 

「ヴェンガーバーグのイェネファーの事なら良く知ってるよ。

 負けん気で自己中心的な娘だよ、類まれな魔力を持った撥ねっ返りさね。

 風の噂じゃ、ワイルドハント共に捕まったって聞いてる。

 サブリナ・グレッシングも知ってるよ。

 戦争でヘマやって、火あぶりの刑で処刑されたと聞いたがね。

 だいたいあの子は、戦争向きじゃ無いのさね。

 私の孫弟子にあたるけど、あたしゃあんまり魔力が強い方じゃなくってね。

 薬草と錬金が専門さね。

 どちらも教えた事は、数えるほどさ」

 

「ワイルドハントと言うのは?」

「ほう、それを知らないって事はアンタ・・・何処の出だい?

 少なくとも北方やニルフガードではないね。

 顔つきも見たことが無い」

 

「ああ、遠い所から来た。イェネファーを探してな」

「そりゃご苦労なこった。

 悪いがここ50年ほどは、どちらにも会ってないよ。

 まあ、アタシが隠匿したのも、女魔術師会に嫌気が指したからだしねぇ。

 もう魔術師との交流だって無いさね」

 

「サブリナ・グレヴィッシグは生きている。

 俺の世界でな、あまつさえ結婚して子供も孕んでいる。

 俺が出てくる時は妊娠3カ月だった」

 

「はっ!

 女魔術師とウィッチャーは子供が作れないんだ、こんな事も知らないなんて。

 ウソはもっと上手に衝くんだね!」

 

「ウソは言っていない、相手は人間だが、これを見ればわかる」

大雅は携帯端末を動かすと、サブリナからのメッセージを再生した。

事前に、信用を得るため前もって録画されたものだ。

 

 

『私はサブリナ・グレヴィッシグ。

 そう、ケイドウェン王国ヘンセルト王の相談役で魔術師評議会のメンバーだった者よ。

 ローマークの戦いでヘタを打った私は火あぶりの刑に処されそうになったわ、でも代役の死体をネクロマンスして危機を脱したの。

 でも、転移に失敗、気が付いたら異世界に居たの。

 こちらの世界の政府つまり国との交渉で安全と生活を保障してくれる代わりに、魔法に関する情報を提供する契約をしたわ。

 でもこちらで生活するうち一人の男を愛したの、今では子供もできたわ。

 私は戻らないつもり、こっちで幸せに暮らすことを決めたの』

そう言って画面のサブリナは下腹部を撫でる。

 

 

『女魔術師は子供が出来ないのじゃなくって、霊薬により寿命が延びる傍ら、生理周期なども伸びるのよね。

 だから私は、子供が出来るよう計算してみた結果がコレ。

 子供が出来ないんじゃなくて、霊薬の副服用による不妊化とタイミングの問題だったのよ。

 こっちは異常に科学という学問が進んでいるわ。

 一見して高度な魔法の様な物が、腐るほど有るの。

 この映像も魔法なんかじゃないわ、科学技術が実現化した物なの』

 

あまりの衝撃なのかアリツィアは、目を見開き、お茶の木コップを持ったまま固まっていた。

 

『で、こちらの政府は将来そっちの世界との交易を望んでいるの。

 平和的にね。その事前調査に向かったのがあなたの目の前に居る大雅よ。

 できれば協力してほしいの。

 可能な限りの協力と報酬は約束するわ。

 まあ、これは録画された記録だから私は返事を聞く事は出来ないけど、悪い話じゃないわ、それは断言できるわ。

 だから彼に協力をお願いするわ、証拠に・・ほらぁ、アナタ来てよ・・・これが私の旦那、つまり愛する連れ添いよ。

 あと、これがそっちへ行っている大雅。

 独身だからって虐めちゃダメよ、初心で純なんだから。

 後すっごく大事なこと。

 私たちの年の話は厳禁よ。

 もし言ったりヒントを大雅に話したら、地獄の底まで追いかけて、燃やしてあげるから。

 と言う事で宜しくぅ』

 

バイバイと手を振る映像で途切れた。

 

「・・・サブリナが生きているなんて・・・それに子供?

 ・・・・300年も生きて来て、こんなに驚いたのも始めてだわ。

 それにこの黒い板は何?

 石‥では無いね・・・あなた何者なの? タイガ・ハイド」

 

「まあ、異世界人という所か、で、協力は仰げるのか?」

「はあぁ、仕方ないね。

 でもしっかり報酬は頂くよ、それでいいならね。

 あと、アタシの身に危険が及ぶよな事は断るよ。

 それでいいなら協力してやろう」

 

「助かる、報酬は何が良い」

「まあ、急くことも無いさね、じっくり考えさせておくれ。

 あとさっきポロッと年言っちまったが、サブリナには内緒だよ。

 あの子の広域攻撃魔法、特に火魔法ならヴェンガーバーグのイェネファーどころかフィリパさえ凌駕するからね。

 戦争のヘマだって、要は、ヘンセルトの小便垂れが、あの娘を使いこなせなかったってだけだろう」

 

「分かった、報酬については後で話そう。

 限度はあるが出来るだけ希望に沿う」

「しかし、あの子がねぇ・・・魔術励起の霊薬を飲むのも遅かった、あの娘がねえ・・・」

 

「魔術励起の霊薬って、あのクッソ不味いやつか?

 紫色と茶色が混ざったような色の」

「ああ、そんな色をしている霊薬なんてあれぐらいさね。

 普通飲んだら、吐いちまうほど不味いんだが、少しばかり蒸留酒でも混ぜて薄めりゃ、真面な味になるのを忘れてるようじゃな。

 確かに物覚えは良くはなかったが・・・」

 

「ちょっと待て。あれってそうすれば飲めるシロモノになるのか?」

「当り前さね、アタシらだって味覚は普通さね。

 なにも好き好んで、クソまずーい霊薬は飲まんて。

 薄めると、旨いとは言わんが飲める程度にはなるもんじゃ。

 お前の所にも薬酒ぐらいはあるじゃろ?

 そんな程度じゃ」

 

大雅は座ったまま、ガックリと頭を垂れた。

 

「その様子だと、あれを飲んだのか?」

「ああ、こちらと向こうの連絡を取るのに必要でな・・・もう二度とアレは飲みたくない・・・」

「あっっっはっはっはっ・・そりゃ災難じゃったのう。

 ほうか、アレをそのまま・・プッ・・」

 

「知らなかった俺もだが、忘れていたサブリナも大概だ。

 ところでアレは体に毒じゃないのか?」

「うむ、男には無害じゃ。

 大体、あの男が私らの協力を断るから悪いんじゃ。

 そうすれば草の試練などと言う霊薬を使わなくとも、それなりに魔力を持てたのに」

 

「あの男とは?」

「狼流派のヴェセミルと言う男じゃ。

 魔法励起の霊薬を作る折、協力したのじゃが、もっと強力な物を求めおった。

 だが、結果は7割の者が死んでしまうほど強い物じゃ。

 結果、多くの子供達やウッィチャーを目指す者が死んでしまった。

 ウィッチャーが増えないのはそんな理由じゃ。

 それを魔術師会は改良し魔法励起の霊薬を作った。

 どだい目に異変が出るほどの霊薬は欠陥品じゃて。

 まあ、確かに得られる魔力は強いがな。

 どれ魔力をみてやろう、そこに横になれ」

 

「俺のか? 別に必要ない、とりあえず目的は達せられているしな」

「報酬の一つじゃ、早よぉ横になれ。

 あとロッテンの嬢ちゃんや、外で待っとれ」

「あ、危ない事じゃ無いの? アリッツィア!」

 

「ア・リ・ツィ・アじゃ、このポンコツ娘。

 お前の頭には藁でも詰まっとるのか?

心配は無用、ただ魔力を見るだけじゃ。

 居ては気が散る。早よぉ出とれ」

 

しぶしぶ出て良くロッテンを見ながら大雅は横になった。

 

「服を脱いで、ああ、ズボンは履いていていい、ベルトや金属の物は外してな」

 

大雅は腰のガンスリングベルトを解除し、ベルトを外す。

防弾のタクティカルベストも外して、横に置いた。

 

「これでいいか」

「では少し体を触るが、じっとしておれ」

 

それからのことは、あまり大ぴっらにしたくない所まで弄られ、撫でまわされた。

 

「ほう、良く鍛えておるのぉ・・」

ニヤニヤしながら触るアリツィアを大雅は耐えた。

 

「もう、良いぞ」

起き上がり、服を整え装備を着る。

「で、どうなんだ?」

「何がじゃ?」

「俺の魔力だよ、そうではなかったのか?」

 

「あ、ああ。魔力は発現しておる。

 しかし弱いのう。普通のウイッチャーの半分以下じゃ。

 まあ力の場も回っておらんじゃろうから、そんな物じゃろうて」

 

「力の場?」

「霊力の集まる場じゃ。

 魔力の地脈が集まる場所と考えられている。

 そこを回り、力の使い方を覚えるんじゃよ」

「サブリナは、そんなことは言っていなかったが?」

 

「そうじゃろうて、あの娘は大事な事を良くスッポーンと忘れるで。

 というか自分に関係ないウィッチャーの事など、知った事でも無いという神経じゃろうな」

「回れば力は強く成るのか?」

 

「多分な、詳しい事はウィッチャーにでも聞くとええ」

「そのウィッチャーも探している、特に狼流派だ」

「なら、ヴェセミルじゃな。

 今はケイア・モルヘンに居るはずじゃ」

 

「ケイア・モルヘン?」

「此処のさらに北東に行った所に、ウェンリッヒ川がある。

 川を川沿いに小さな集落を超え、青色山脈へと上った先に有るのがケイア・モルヘンじゃ。

 他なにも無いからすぐにわかる。

 じゃが立ち入れるのは秋までじゃな。

 冬には峠は深い雪に閉ざされ、何者も通れない」

 

大雅はグラスに移るマップを見ながら確認していった。

 

「そうじゃ、これをやろう。

 魔力渦に反応するペンダントじゃ。

 魔力が濃くなれば震える、伝説の猛獣であるタイガーを模したのだが」

 

「伝説?

 虎なら、俺の世界には普通にいるが。

 動物園に行けば、生で見られる生き物だ」

 

「なんと! 実際におるのか!」

「ああ、・・・これだ。これがタイガー。

 大型のネコ科の猛獣だ」

大雅は端末に虎の写真を出して見せた。

 

 

「今のペンダントを返せ」

「なぜだ?」

「似てない・・・気にくわん、作り直す。なに一週間ほどじゃ」

大雅は貰ったペンダントを返した。

 

「そういやお前の名も似ておるな」

「虎の様に雄々しくと親が付けた名だ、まあ名前負けしている事は否定しないがな」

「トラ・・タイガーの生態はどのような物じゃ、やはり獅子に似ておるのか?」

「こっちにライオンも居るのか?」

「ああ南に行けばな」

 

「ライオンは数頭の群れで狩りをする大型の肉食獣だ。

 体重は300キロを超える事は無い、しかしタイガーは種によっては300キロを超える個体も多く見つかっている。

 単独で狩りを行い、一対一ならタイガーの方が強いだろうな」

「ほうほう!」

 

『ねえっ!まだぁ?』

外からロッテンの声が響く。

 

「入ってよいぞ!」

「で、大雅の魔力はどうなの?」

「それは後じゃ、今大切な話をしておるからな。

 で、タイガよ生態について、もっと詳しく」

 

「そうだな、タイガーは繁殖期を除き、雄も雌も単独行動が基本だ。

 たった一頭で700キロを超える牛の一種、と言っても巨大な角があり凶暴だがこれをも倒す。

 泳ぎも上手く数キロを泳ぐ事はザラで、中には30キロ近く泳いだ記録もある。

 跳躍力も強く8-9mを一跳びで飛ぶため、15m以内に近寄れば危険だ。

 1日あたり平均6-7キログラムの肉を食べるが、一晩で25キログラムの肉を食べることもある。

 獲物を発見すると茂みなどに身を隠し、近距離まで音もたてず忍び寄り、獲物に向かって跳躍して捕獲する。

 そして側面や後面から前肢で獲物を倒し、噛みついて仕留める。

 森の中やジャングルでは、絶対に出会いたくない猛獣の一つだ」

 

「ほほっ! それは素晴らしい! もう一度絵を見せてくれ」

「そんなに気に入ったら写真でもあげようか?」

「写真とは?」

「現実そのままに写し取る絵だ」

 

「欲しい!

 特に顔が写ってるものだ、口を大きく開け牙が見えているのが良い。

 出来るだけ早く欲しいのじゃが」

「分かった、明日にでも持って来よう」

 

「ねえ、タイガ。この動物は何?」

「タイガーだ、大型のネコ科の猛獣」

「ふうん、なんか大雅の世界の方が、ヤバい生き物が多そうね」

 

「いや、今では数を減らしたため、保護動物になっている。

 子供から飼いならすと、猫と同じで飼い易いらしいぞ。

 ただし、じゃれられたら大怪我だ。エサ代も驚異的だ」

 

「飼ってる人なんて居るの?」

「ああ、大金持ちの道楽だな。

 まあ、熊をペットにする民族も居るが」

「はあっ? 熊を?」

「ああ、ロシアと言う国じゃ、普通に首輪付けられて町中を歩いているぞ」

 

「やっばり異世界は違うわね。こっちじゃ考えられないわ」

「聞くだけに物騒な世界じゃのう。

 そっちの人は、皆ウィッチャー並みの能力でもあるんじゃろか」

「いや、俺だって弱くは無いが、俺より強い奴は掃いて捨てるほどいるぞ」

 

「おっそろしい世界じゃな、サブリナは大丈夫なんじゃろか」

「ああ、問題ない。

 危険動物は厳しい規制があるしな。

 俺の国でも、大型の熊が居るのは一部だけだ」

 

 

「話は戻るが、女魔術師で、消息に詳しそうな者や、狼流派のウィッチャーに詳しい者は?」

「女魔術師ならトリス・メリゴールド、ドワーフならゾルタンという男じゃろな。

 あと人間ならダンディリオンという吟遊詩人じゃが、いま何処におるかはわからん」

 

「協力に感謝する、名だけでも手掛かりになる」

「こちらでも探る方法を考えてみるかの、ただ、あまり期待はせんでくれ。

 なにせ他の女魔術師とも、交流が無くなって久しいからの」

 

「ああ、危険を冒してまでの事じゃない。

 ついでに知っているならで構わないが、こんな石を見たことはあるか」

タイガは石炭のかけらをアリツィアに見せた。

 

「ほう、これをどこで?」

「スウェッドから2日ほど行った遺跡の様な洞窟で見つけた」

 

「炎結晶石じゃな。

 そう呼ばれとる。

 燃える成分が固まった物じゃ。

 よく見る物は磨き立てはきれいじゃが、時と共にくすんでくる。

 火にくべれば嫌な匂いと煙、以前、燃料としても考えられたが、地層が脆く何度も落盤があって、燃料としては使いにくい。

 大量に燃やせば、鍋なんぞ溶けるからのう。

 良質な物は磨かれて、貴石として価値があるが、これほどの物は、たぶんアングレンのグヴェンディスのあたりで獲れたものじゃろうな」

 

「なるほど」

「その石が欲しいのかえ?」

「まあ、その一つでもある。

 燃える水とか泥の話を聞いたことは?」

「レダニアの湿地には、燃えるガスの話はよく聞くな。

 その地では水面に残る油が燃えるとも聞く。

 お前が求めている物かどうかは判らんが」

 

 

「ねえ、タイガそろそろ帰らない? お腹すいちゃった」

「ああ、そうだな。これでも食べててくれ」

 

タイガは、朝に多めに作り残ったピザトーストを出した。

きちんと大きな笹に似た植物の葉で包んである。

もちろん、使用人にも分けた後でだ。

 

「わっ! これ大好き!」

「なんじゃ! それ!」

「朝焼いた残りだ、ピザトーストと言う」

 

二人は、タイガから奪うようにして食べ始めた、景色の良い場所でロッテンと食べようと思っていたが、大雅は食いそびれる事となった。

 

「これは旨いもんじゃのう!」

「でしょ、でしょ?

 朝の焼きたてなんか最高なんだから。もう毎日でもこれだけで良いぐらい」

 

二人ともあっという間に食べきってしまった。

 

「もっと欲しい、無いのかタイガー」

「大雅ですって、朝焼いたのはそれで終わり。

 パン焼き窯があれば作れるが、ケチャップをロッテンの家に置いてきた」

「明日も待っとるぞ、まだ伝える事が有る。

 ついでにピザトーストやらを、焼いて食わせてくれ」

 

「はぁ・・・わかった、明日は材料を持って来よう」

「私も来る!」

「仕事は大丈夫なのか、ロッテン」

「大丈夫よ。朝のうちにやっつけるから」

 

二人はアリツィアの家を後にした。

 

「ねえ、タイガ」

「ん?」

「ピザトーストって冷めても美味しいのね」

「まあ、それなりにな。

 俺は熱い方が好きだが」

「他に無いの? 異世界料理」

「材料がない、素材もない、ついでに時間もない」

 

「サブリナさんが帰りたくない理由は、妊娠だけじゃ無いわね絶対」

「まあ、そうだろな。

 だが俺はここのきれいな空気、息をのむほどの綺麗な景色、悪い所では無いと思うが」

 

 

ロッテンの家に帰ると困り顔の執事が出迎えた。

 

「お嬢様、タイガ様お帰りなさいませ。

 衛士長が来られてますが如何いたしましょうか」

「多分、朝の一件ね、応接に通しておいて」

「それとタイガ様」

「なんだ」

 

「タイガ様の馬、ニジャムだったでしょうか。

 洗おうとしたら、咬まれる者多数、蹴られる者はいませんが、荒れております。

 なんとかできませんか」

 

「洗うのは俺がやろう、すまないな手間を掛けさせてしまって」

「とんでもございません、お役に立てず・・・」

「私は着替えて衛士長と話をしてくるわ、タイガ、馬を洗ってあげたら?」

「そうしよう」

 

屋敷裏の馬房に行くと、明らかに不機嫌そうなナジャムが居た。

前足でガリガリと地面を掻き足をしている。

 

「どうしたナジャム。何を拗ねている」

「ブルッ? ブピルルルルッ」 

「判っている角砂糖だろ? 今やるから」

肩を撫でてやる大雅に首で巻き付いてくる。

 

「体を洗ってやる、ほら、出て来い」

素直に出てきたナジャムに水を掛けてやり、ブラシで擦るとナジャムの機嫌は良くなった。

 

足を上げさせ、蹄鉄の状態を見た。

「爪も伸びてきてるし、そろそろ打ち変えが必要だな。

 この街に蹄鉄を打てる鍛冶屋が有れば良いが」

 

ナジャムを洗い終わり、機嫌も直った所へ執事がやってきた。

「タイガ様、お嬢様がお呼びです。どうぞこちらへ」

 

執事と一緒に応接へと向かうついでに、ナジャムの蹄鉄と蹄のメンテナンスが出来るかを聞いた。

 

「それでしたら、明日までお待ちいただければ、出来るものがおります。

 申し付けておきましょう」

 

「ああ、タイガ。

 説明してあげて。

 衛士長ったら、一瞬でごろつき共を倒したことを信用しないのよ」

 

「この街の衛士長をしているポールと言う」

「で? 何が聞きたい」

 

「ロッテン様のお話では、一瞬にして6人を倒したと聞いた。

 だがお嬢様のお話は、擬音が多く全く全容が掴めんのだ」

 

大雅は事の顛末を説明した。

 

「・・・・・良く判った、非は全面的にあいつらに有る」

「あの阿呆どもの処遇は?」

ロッテンが憮然とした表情で衛士長に聞いた。

 

「剣を抜いた者は、鉱山で20年の強制労働、他は10年ほどだろうな」

「結構重いのだな」

 

「それはそうさ、街の有力者の貴族の令嬢を襲ったんだ。

 裏が無いか、暫くは厳しい尋問もあるしな。

 それはそうと、可能であれば、一手手合わせ出来ないだろうか。

 わたしも、腕には少しばかり自信があるんでな」

 

「それは構わんが、俺の無手での戦いは、敵を一瞬で行動不能にするものだぞ。

 逮捕術は苦手なんだ」

「それって、朝にタイガが裏庭でやっていたやつなの?」

 

「ああ、体術は数か国のCQC、つまり狭い場所での格闘戦術を統合して、どんな状況でも相手を行動不能とするものだ。

 出来るだけ怪我をさせずに、行動を抑制する逮捕術とは根本的に異なる。

 怪我覚悟なら構わんが」

 

「うむ、いよいよ一手ご教授願いたい」

「いいだろう、ロッテン。裏庭を借りるぞ」

 

裏庭に出ると、使用人が全部出てきたと思うほど、人が集まってきた。

衛士長も軽鎧や剣を置き、上半身裸になる。

 

タイガも倣って上半身を脱いだ。

観衆、特に女性陣から黄色い歓声が上がる。

確かに見た目は、衛士長の隆々とした筋肉に目が行き易いが、こうした筋肉は、筋力は有っても速度的には遅くなる。

 

一方、大雅の筋肉は筋力だけでなく、スピードを主体とした鍛え方で、筋肉の質が全く異なる。

 

衛士長がファイティングポーズを取って、殴りかかってきた。

現代のボクシングに近い。

大雅は左へと最小のスウェーで躱し、衛士長の右腕手首を掴むと、捻りながら足を払う。

衛士長は一瞬にして、背中から地面へと倒され、受け身が出来ていない為、呼吸が止まった。

 

「ゆっくり息をしろ。暫くは座っている方が良い」

「かはっ・・・はふっ、はふっ・・・・一瞬だった・・」

 

「逮捕術の一つだ、相手の力を使って、背中から落ちるように投げ飛ばす。

 右腕を掴んで居たから、この程度で済んだが、手を離していたら暫くは呼吸困難で起き上がれないだろうな」

 

「苦手と言ってなかったか?」

「苦手だが出来ないとは言っていない」

「いい経験になった、出来れば教えて欲しい所だが」

「一朝一夕で身に着くものではないよ」

 

衛士長は身なりを整えると帰って行った。

大雅は汗一つかいて居ないが、使用人のメイドが水を絞った布を差し出すので、ありがたく使った。

その間もロッテンの動悸は収まらなかった、自分でも顔が熱くなっているのが判る。

 

部屋に戻ると、大雅はこれまでのデータや報告、送ってほしい物を転送した。

サブリナからはアリツィア・ノヴァックと知り合いになれた事は僥倖で、良好な関係を維持するよう回答があった。

また、メイヤー家とも上手に利用するよう三塚から指示が来た。

 

 

翌朝、朝食が終わった後、若いというか、まだ子供とも言える男をロッテンは大雅に合わせた。

 

「この子が今度の御者よ。

 まだ若いけど、腕は確かだわ。

 実は、亡くなった御者の息子なんだけどね。

 商会で荷馬車を担当していたけど、辟易してたんですって」

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、荷馬車では酒や甕なんか運んでたから。たぶん」

「君の父親は気の毒だった。名は何という?」

「リノックと言います。若旦那様」

 

「若旦那?

 俺は此処では単なる護衛だぞ、それに敬語も要らん。

 ロッテンは別だがな」

 

口に指を当てて、ロッテンは急に話題を変えた。

 

「それより、今日は早めに出かけましょ。

 リノックの練習も兼ねて馬車で行くから」

 

「ところで、ロッテン。

 北部にはいつ出かけるんだ?

いつまでもこうしては居られないんだが」

「メダルの作り直しにアリッツィアは1週間待てって言ってたじゃない。

 私の準備もそれくらいかかるの。

 出かけるのは来週以降ね」

 

「まあ、仕方ないな。

 リノック、北部に行ったことは?

 道は知っているか?」

「はい、若・・・・」

「タイガよ、本来は無理な所をお願いしてるんだから、失礼の無いようにね」

 

「はい、ロッテン様。

 タイガ様、北部には何度も行っています。

 去年からは蜜甕の運送も担当していましたから。

 ところでタイガ様は、ウイッチャーなのですか?」

 

「知り合いにでも、ウィッチャーが居るのか?」

「知り合いではないですけど、北の街道で怪物と戦っている姿を見たものですから。

 遠目にですけど、大きなグリフィンを二頭も倒したのを」

 

「ああ、あの時か、それは確かに俺だ。

 スウェッド村から怪物と、盗賊の駆除を請け負った時のだな、どこに居た?」

 

「丁度反対側の峰です西の村への道があるんです。

 そこを経由する用事が有って、雷の様な音が聞こえたんで見たら、グリフィンの頭が吹き飛んでましたよね。

 僕気になってずっと見てたんです、あれって魔法ですか?」

「ああ、似たようなもんだ」

 

「ちょっとぉ、グリフィンが2頭もいたの?」

「ああ、番に成り立てのな。

 ちなみにアークグリフィンだった」

「尊敬します!」

 

 

若いから、荷馬車と違い馬車の運転はどうかと思っていたが、リノックの操車は見事だった。

街中なので周囲警戒も不要だろう、との事でロッテンと二人で車内に乗っている。

今回は前回の事も有り、大雅の背には二丁の銃も付けられていた。

 

「で? 何故横に座る?」

「ゆ、揺れるからよ」

「捕まる所なら、向かい席にも有るだろう。

 いざというとき動けない。離れなさい」

「やっ! いいじゃない馬車の中ぐらい」

 

大雅はヤレヤレと外を見た。

 

 

アリツィアのところに着いて、早々に芋を大量に揚げさせられた。

何処から手に入れたのか、大量のジャガイモが置いてある。

アリツィアの普段は、ジャガイモが主食なため、結構な量を地下に保存しているのだという。

油が勿体ないのでポテトチップスも揚げる。

良質なジャガイモなら、下手な香辛料は不要だ、塩だけで単純に旨い。

 

「タイガ、これなに!

  手が止まらないわ!」

とはポテトチップスを食べるロッテンの弁。

「もっと早くに知りたかった、芋ならたくさんあるのに」とはアリツィアの言葉だ。

 

アメリカ人は三つの旨いものを発明したと言われる。

ハンバーガー、ホットドッグ、そしてこのポテトチップスだ。

イギリスのチップスと呼ばれるものは、日本人のいう所のフレンチフライと同じだ。

 

真っ赤なケチッャプを小皿に分けて、ポテトフライを出す。

 

「ロッテン、リノックにも持って行ってやれ、ちゃんとケチッャプも付けてな」

 

聞くと、ロッテンはこれを楽しみに朝食は抑え気味にしたし、アリツィアに至っては朝から何も食べず待っていたらしい。

30ほどに見える一見妙齢の、実年齢300歳のばあさんにしてはお茶目だ。

もちろん口が裂けても言えない、焼かれるのは嫌だ。

万一、身に着けている銃弾や火薬類が発火したら死んでしまう。

 

「マルガリータという女魔術師がおる。

 現在の住処は聞いていないが、10年前の時は西の方に住んで居ると言っておった。

 本名はマルガリータ・ロークス・アンティル、私と同期でな、仲は良かった。

 この者なら、女魔術師会の連絡係なんかをしとったから、魔女たちの同行も判るだろう」

 

「連絡方法とかは無いの?」ロッテンが聞いた。

「有るのには有るが、拡声器で全女魔術師に叫ぶような方法でな。

 やりたくない。

 あと、直接連絡を取り合う方法が無いでも無いが、お互いにかなりの魔力の大きな者でないと難しい。

 わしには無理。

 もう一つメガスコープを使う方法もあるが、わしは持っておらんし高価だ。

 持って居たら一発で魔術師だとばれるでな」

 

「そのマルガリータが、今でも一つ所に居るとは限らないし、西と言ってもすさまじく広いな」

「急ぐ要件でもあるのかえ」

「いや、急ぎと言う訳では無いが、何年もかかるのはなぁ」

「そういや、お前の世界はなんというのじゃ」

「国名か」

「いや、世界を表す言葉じゃ」

 

「アース、テラ、いやここ風に言えばゼムリアかな」

「ほう、この世界をなんと呼ぶか知っておるか」

 

「奇しくも、同じじゃ。

 エルフたちは昔シムレッサートと呼んでおったがな、で、国の名は何という」

「ニホンと呼ぶのが正式名称だがいくつか呼び名が有ってな。

 ここ風に言えばヤボニアと呼ぶのが近いな」

 

「ほう、どんな国なのだ?」

 

「魔法は無い、サブリナさんに言わせると、周囲にある魔力の質が違う為使いにくいだとか。

 魔力は寓話や伝説では残っているが、実際に使える者は居ない。

 一部の宗教では、神力や霊力などと言う者も居るが、実際に存在は確かめられていない。

 だから、俺の世界では科学力を発展させた。

 多種多様な理を予想し、実験を繰り返し,証明し、そして応用した結果が、社会の活動の礎となっている。

 それには、膨大なエネルギーが必要となる。

 最初は石炭と呼んでいるもの、ここでは炎結晶と呼んでいる石だな、これで産業革命がおこった。

 次のエネルギーは、石油と呼ばれる燃える地下から取れる油だ、これはエネルギーだけでなくいろいろな物質を作る原料とする事ができる。

 最も新しいエネルギーは原子力だ。

 新しいと言ってもすでに100年近く前の事だが、特殊な鉱物を精製し、物質を構成している粒子をぶつけると、連鎖して大きなエネルギーが取り出せる。

 しかしコントロールが非常に難しく、一度事故が起これば目も当てられない惨劇が起こる。

 現在は波の運動エネルギー、太陽光のエネルギー、地熱などが増えてきている。

 まあ、石油は物資を作る基礎だから、ゼロにすることは出来ないがな」

 

「そのエネルギーが必要で、タイガは来たのじゃな?」

「それだけでは無いさ、最近ではレアメタルと呼ばれる希少な元素も大量に必要だ。

 もちろん専門家でないから、コレだって見つけられる物でも無いが、可能性を探すのが仕事かな」

 

「では、その代わりにこの世界に何を齎す」

「文明、安全で快適な生活、便利な機械・・そんなところ?」

「なぜ疑問形じゃ!」

「わからんよ、俺はただ事前調査の駒に過ぎない。

 言われたことを行う、使いの者みたいなものだ。

 そういう議論は、うちの国の専門家とやってくれ」

 

「くだらぬ戦争が無くなれば良いが・・・」

「俺は無くならないと思うぜ。

 俺のとこだって、今でも世界のどこかでいつも戦争やってるもの。

 人間なんてそんなものさ、人間が人間で有る以上、戦いと争いは絶対に無くならない」

 

「言い切りおったか、冷めておるのう」

「しかし、つかの間の平和は保てる。

 事実俺の国は、ここ80年以上戦争をしていない」

「まあ、良いじゃろ。

 それより、そろそろ昼時じゃの」

「はいはい、作りますよピザトーストでしょ?」

 

昼飯は、竈の直火を避けたところに突っ込んで焼いたピザトーストだ。

 

「ところで、試してみたいのう、子作り。

 タイガよ、ちと子種を分けておくれ」

大雅の口からピザトーストのかけらが吹き飛ぶ。

 

「な、なに言っとんすか!?」

「経験も無いか、ならわしが一つ」

 

大雅はババッっと土下座の姿勢になった。

 

「一応、経験はあります。

 ですが、この世界に半分とは言え、自分の血が通った我が子を残すのは不憫。

 なにとぞご容赦を!」

「卑屈じゃのう・・・いいモノを持っておるのに・・何、じっと天井でも見ておる内に終わるわい」

 

「だっ! ダメぇぇぇぇぇぇぇっ!」突然ロッテンが大声を上げた。

「何じゃ小娘。いきなり喚き・・・・ほほうっ? お嬢やコレに惚れたか」

「そ、そうじゃないけど・・とにかくダメっ! なら私が作るっ!」

 

「はあ・・どうしてお嬢はこう阿呆なのじゃ。

 わしは魔女と異世界の人間のな・・・「だめっ! 絶対!!」・・・なんかの標語みたいじゃな。 まあ無理強いはせん」

 

「さて、腹もくちくなったところで、わしは作業が残っておる。

 タイガよ、来週にはメダルが仕上がる、取りに来るがいい、ソースも忘れる出ないぞ」

「ああ、わかった」

 

メイヤー家に戻ると、翌日はロッテンが街の仕事で1日出かけるため、警護は不要との事で、街の周囲を見て回る事とした。

久しぶりにナジャムもウキウキとしている。空はどんよりとした曇りだが。

銃の照準調整を兼ねていくつかの怪物の巣や、盗賊共の根城を潰し、掲示板を見てみた。

同じものが重ねて貼ってあるものも有るし、黄色く紙が変色し字が掠れているいるものもあった。

 

 

「あんた旅の人かね」

見知らぬ老婆に声を掛けられた。

「ああ、今はメイヤー家に身を寄せているけどな」

 

掲示板にはペットの犬を探して欲しいだとか、オリーブオイル作りの季節労働者募集などが張られていた。

掲示板の左側が広告や人手募集、右側が怪物退治や依頼が張られている。

大雅は右側を重点的に見ていった。

 

「なになに」

『遺跡探索の護衛募集。

 遺跡学術調査の護衛および怪物への対策を依頼します。

 報酬は価格応談。なお、賄い無し。受ける者は酒場【二つの斧】の店主まで』

 

「それを見てるってことはウイッチャーかね」

先ほどから大雅を見つめる老婆が言った。

 

「まあ、似たようなものだな」

「ならば頼みが有る」

 

「どんな?」

「わしの孫が、その依頼を受けてからというもの戻らん。

 せめて、死んだかどうかだけでも知りたいのじゃ。

 遺品でもあれば納得がつく。

 少ないが報酬は出す」

「お孫さんの特徴を教えてくれないか」

 

「年の頃は22じゃ。

 背丈はアンタより手の平の幅ほど低い。

 首から鳥を模した木彫りの物を下げておる」

「わかった、見つけられる保証は出来ないが、探してみよう。

 この仕事を受けたのは、一人だけなのか?」

 

「判らん、見ての通り足が悪くての。

 依頼者からは、僅かな金と共に奥で怪物に襲われ、戻って来なかったと聞いた」

「まずは依頼者に会ってみよう、何か判ったら知らせる」

 

掲示板から依頼書を引きはがし、【二つの斧】という酒場へと向かった。

途中、街を行く人や街路商に尋ねながらやっと見つけた。

 

「店主はいるか」

「来ていきなり酒を頼むではなく、俺を指名するとは良い根性だ」

店内は薄暗く、昼だというのにアルコールの匂いと肴の匂いが漂っている。

ドワーフとみられる店主がカウンターから声を掛けて来た。

 

「この張り紙を見た、依頼主に会いたい」

「ほう、あの女まだ諦めていなかったのか、死ぬぞ若造。

 そいつは、先週二人の剣士見習いと、衛兵崩れが受けたがどちらも帰ってこなかった」

「怪物退治なら経験を積んでいる。

 なにせ俺の所では、昔から怪物どころか巨大な怪獣とも戦ってきたからな

 (映画の中でだが)」

 

「ほう、その小さな短剣1本でか」

「俺の武器はこれだ」

大雅は背中からショットガンを取り出した。

 

「金属の杖か? 石弓みたいなものか?」

「ああ、だが石弓よりはるかに強力だ。

 アークグリフィンでも、一発で倒せるほどにな(至近距離なら)」

 

「いいだろう、あの娘は毎日夕飯を食いにここへ来る、名前は?」

「大雅だ。大雅拝戸」

「苗字もちか?」

「ああ」

「詮索は止めておこう、その杖からは禍々しい雰囲気が感じられる。夕方にでも来い」

 

そこへ一人のエルフの女性が入ってきた。

 

「おじさん、今日は早めに来たわ。

 スタウトを一杯頂戴」

「おお、丁度お前さんの話をしていた処だ。

 こいつはタイガー、ウイッチャーらしいぞ」

 

「大雅だ、間違えんでくれ。それじゃ猛獣じゃないか」

「おお、そうだったな。

 まあ、一杯頼んでくれたら覚えてやる。

 こっちも商売なんでな」

大雅は、同じスタウトを頼むと、エルフの女性と席を取った。

 

「依頼を受けてくれるのよね。

 神話の獣の名を持つウイッチャーさん」

「まずは、詳細を聞かせてくれ」

「私は、アルド・カレイの大学の助手をしているの。

 エルフの遺跡を調査しているわ、この調査はルーファス期の貴重な遺跡なのよ」

 

「遺跡の調査には、普通チームで当たるもの、と言うのが俺の認識だが」

「予算が無いのよ、それに大学は、この遺跡をあまり重視していないの。

 でも私は違うわ。

 きっとこの遺跡で、凄い事が判るんじゃないかって、そんな気がするのよ」

 

「そう思う根拠は?」

「あなた大学の教授みたいな話し方ね。

 まあ、いいわ。

 ルーファス期の遺跡は、少なく調査が進んでいないの。

 この時期はまだ、人間に北方に追いやられる前の時代で、最もエルフが繁栄したと言われている時期なのよ」

 

「遺跡が少ないのにか?」

「そう、そこよ。

 地表にある遺跡の殆どは人間に破壊されるか、石材として再利用されて残っていないの。

 でもルーファス期は、地上から地下へと遺跡が作り替えられた時期なのよ。

 その理由も良く判っていないのね。

 私はそれを解明できれば、青色山脈に有る、大規模遺跡への足掛りに出来ると思っているのよ」

 

「で、今回の遺跡の規模と目的は?」

「規模は丸一日かけて奥まで行ったけど、神殿やめぼしい物は見つからなかったの。

 でも石扉で閉ざされた場所を見つけたんだけど、これがすっごく頑丈で、一人二人の力じゃどうにもならなかったのよ、フォグレットも居たしね」

 

「怪物の種類と数は?」

「グールが5~6頭、これは既に倒したから、外から新しく入ってこなきゃ居ないはずよ。

 あと扉の近くに、半分水没した階段があって、ここにフォグレットが居たの」

 

「前回の調査では二人やられたと聞いているが」

「ええ、剣士崩れと衛士崩れねの二人ね。

 剣士は真面目だったけど、衛士崩れの男は最悪。

 最初出てきたのは、1匹だけだったの。

 剣士がその一匹を倒したんだけど、大怪我を負ったわ。

 衛士崩れは元傭兵だったみたいだけど、剣士を楽にしてやるって殺して、あまつさえ私を襲おうとしたのよ。

 私は隙を衝いて、持って居たナイフで胸を刺して逃げたの、その直後、2体のフォグレットと多くのドラウナーが出てきたの。

 もちろん全力で逃げ出したわよ」

 

「では、遺体はまだそこにあるんだな」

「ええ、食われちゃって、骨しか残っていないと思うけど」

「では、俺の仕事は、そのフォグレットやドラウナーを倒し、安全を確保する事だな」

「ええ、それと石扉をなんとかして開けてほしいの」

 

「壊しても構わないのか石扉」

「ええ、元々壊すつもりだったから。

 ツルハシも持って行ったんだけど、すごく固くって。

 ねぇ、なんとかならないかしら」

 

「その石扉は固いのか?」

「何十回もツルハシで叩いて、多少かける程度ね。

 たぶん穴をあけるには、丸一日掛かるかも」

 

「状況は分かった、依頼を受けよう。

 他のメンバーは? 以前も3人だったんだろう?」

「予算が無いの。

 大学から出ているのは僅かばかりで、一人分がやっとなのよ。

 明日からは、自分の食事や逗留費だって持ち出しよ」

 

大雅は、ここの遺跡にも興味があった。

というか、この世界の成り立ちを調べるには不可欠だ。

 

「まあ、その程度ならなんとかなるだろう。

 扉の排除は、扉を破壊してしまっても良いなら請け負う、報酬は?」

「クラウン金貨で50、あと怪物の素材は全部あなたにあげるわ。

 貴金属が有ったら2割はあげるわ」

 

「それでいい、あと3日分の食料が要るな。

 それはお互いに用意しよう、場所は?」

「実は遺跡の場所をあまり知られたくないのよ、盗掘を防ぐ為にね。

 案内するわ。

 準備も有るでしょうから何時ならいける?」

 

「明日にでも問題ない。出来る事なら、早朝から取り掛かるのが良いだろう」

「わかったわ、では夜明け前に、街の北側の門で」

「馬は必要か?」

「ええ、馬で1時間半ほどよ。

 馬の費用は自分持ち。

 そこまで出せないわ。

 借りるのなら、報酬から引くけど」

 

「問題ない。馬は持って居る。

 所で名前を聞いていないんだが」

「私はルミナ。

 ルミナ・エールファスよ」

「大雅。大雅拝戸だ」

「あら、ウイッチャーなのに苗字持ち?」

「珍しいか?」

 

「ええ、普通ウッィチャーは、孤児や子供をもらい受けて、育てるって聞いているわ。

 だから苗字を持って居る者は居ないって、女魔術師も若い人は同じよね」

 

「そうか。だが俺は持って居る、ちゃんと父親と母親の顔も知っているぞ」

「珍しいのね、その小さな短剣一本で、何処までやれるか物は試しね」

「期待していい、これでも2頭のアークグリフィンを含め、数えきれないほどの魔物を葬っている」

 

「あら、期待させてもらうわ、あと言い忘れたけど私を襲おうとは思わない事ね。

 これでも魔法は使えるんだから」

「請け負った仕事以外は、行わない主義でね。

 それにこう言っちゃなんだが、もう少し肉付きの良い女性の方が好みだ」

 

「ふんっ! どうせ胸ないし腰も薄いわよ!

 大きなお世話だわ! 明日夜明けよ! いいっ?」

そういって、ルミナは出ていった。

 

「ありゃ、怒らせちまったかな?」

大雅は二人分の払いを払うと、メイヤー家へと戻った。

 

 

最初にやる事は、石扉を破壊するための、C4爆薬の準備だ。

同時に取り寄せたリモート信管も持つ。

高低差をクリアするためのザイルや、ロープ、カラビナ、ハーケンも準備する。

地下であるため気温も低いだろう、アウターソフトシェルと防寒のパンツも持っていこう。

 

アサルトライフルに取り付けてある、GP-34グレネードランチャー用のVOG-25M榴弾も12発準備する。

さらにタクティカルベストには、別名アップルと呼ばれるM67破片手榴弾2発の他スダングレネードを下げた。

これで対応できないモンスターは、対物ライフルのM99でもなきゃ太刀打ちできない。

 

そのほか洞窟で使用するものも転送してもらい、小型だが軽量なハガキサイズのフォト用紙に印刷するプリンターも持つ、バッテリーで駆動できるものだ。

これはアリツィアに虎の写真を提供する為に、取り寄せたものだった。

 

大雅は仕事を請け負ったことをロッテンに話し、3日ほど出かける許可を貰った。

プリントアウトした虎の写真を、アリツィアに届けてもらうよう頼んだ。

 

ロッテンからは必ず無事で帰って来いと厳命される。

 

 

 

 

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