Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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エルフの地下遺跡

 

 

 

 

大雅が装備を整え街の北門に着いたのは、夜が明ける直前の夜空が藤色に変わり始めた頃だ。

時計を見るとまだ5時、日の出までは30分ほどある。

 

 

「この世界に、明確な時刻と言う物が無いのが難点だな」

夜が明ける綺麗な空を見ていたら、馬に乗ったルミナがやってきた。

 

「待ったかしら」

「そんなに、先導を頼む」

 

朝食を食べて来なかったとの事で、ルミナは馬に揺られながら、パンに何かを挟んだ物を食べ始めた。

 

大雅は周りを注意しながら、ルミナの後をついていく。

ナジャムも理解しているのか、黙ってルミナの馬の後を着いていく。

 

4時間ほど馬に揺られ、標高がそれほど高くない山の沢に辿り着く。

 

「入口はここから5分ほど登った所よ、岩は苔で滑り易いから気を付けて」

ルミナの後を付いていくと、背の高さほどの岩場の間に低木がびっしりと生えた場所へと足を踏み入れた。

 

こんな状況では、足元に穴が開いていても発見は困難だ。

 

入口は直径1.2mほどの穴がぽっかりと口を開けていた。

周囲には低木がびっしりと生えており、近くに行かないと判らない。

深さは1.5mほどで、そこから地面の下へと下っている。

 

丁度昼時で、大雅とルミナの二人は、それぞれ持ってきていた昼食を消化する。

 

「さ、入って。安全が確認できたら私が入るわ」

「わかった先行しよう、分かれ道は?」

「石扉のある大きな広間まではほぼ本道よ。

 私はこの穴の入り口で聞いているから、大声で話しかけてくれれば向かうわ」

 

「それなら、これを使ってくれ」

「なにこれ?」

 

「インカムと言う魔道具だ。

 こうして耳に掛ければ、離れていてもお互い会話が出来る。

 大声で話す必要はない」

 

「すごいわね、魔術師が使う、ゼノボックスみたいなものかしら」

 

「ゼノボックスがどんな物かは知らないが、直接インカム同士なら数キロ届く、レピーターを設置すれば数十キロは届く」

「へえ、便利ねえ、頂戴よ」

 

「ダメだ。後で返してもらう。

 どの道俺じゃないと、数日で使い物にならなくなる。

 エネルギーが充填できるのは俺だけだからな」

「フン! ケチ!」

 

大雅はアサルトライフルのAKMSに初弾を送り込むと、銃のピカティニーレールに着けたフラッシュライトを頼りに進みだした。

入口付近はそうでも無いが、中へ進むと非常に暗い。

入口から500mほど入った所で、ルミナに連絡を取る。

 

「入口から500m地点だ、エールファス聞こえるか。

 ここまでは何もない侵入しても大丈夫だ」

『ええ、良く聞こえるわ。そこで待ってて私も行くから』

「了解した待機する」

 

ルミナが松明を点けて歩いてやってきた。

引火性ガスが溜まって居れば危険な行為だが、大雅のタクティカルグラスに表示れている酸素やら可燃性ガスのモニターには異常はない。

 

「先は、あとどれぐらいだ?」

 

「ここからは、入口から、ここまでの倍ほど行った所から、何段か段差があるの。

 まあ、なんとか昇り降りできるぐらいのね。

 そこからは水たまりや洞窟が多くなったり、小さくなったりを繰り返してホールの前に大きな段差があるの。

 以前逃げた時は、怪物が上ってくる可能性も有るから、下にロープを切り落としてしまったわ」

 

「ここからも同じく先行するか」

「いいえ、一緒に行くわ。

 石扉のあるホールは直径が50m程で、その手前大きな断崖があるの。

 そこで私は待機するわ」

「わかった」

 

1.5kmほど進むと2m程の段差が見えてくる。

何故かうっすら明るいと思ったら、得体の知れない植物の様な物が、天井からぶら下がっており、微かだが光を放っている。

 

崖の上にハーケンを打ち込み、短いロープをループにして途中を何か所か結び縄はしごにして降りていく。

これは機材がコンパクトで済むことと、長さも自由に調整できるためだ、ロープを解けば何度でも再利用できる。

 

「これは発光シダね。

 光っている部分には、毒があるのよ。

 偶に壁にも生えているから、触らない方がいいわ」

大雅は頷くだけで先へと進んだ。

 

そこから降りたり登ったりを繰り返し、途中の断崖までやってきた。

 

「優に20mはあるな」

「それロープよね、細そうだけど大丈夫?」

「これも魔道具に近いんだ、細くても楽に50人をぶら下げられる。

 ところで降下は出来るか?」

 

「手袋はめて、ズリズリ下がっていくだけだもの、楽よ。

 問題は上るとき」

 

降り方を聞いてみたら非常に危なっかしい物だった。

 

「まさか、ここでラぺリングのレクチャーを、する事に為るとは思わなかったよ」

カチャカチャとエイト環やアッセンダー、シンプルなハーネスを取り出す。

 

「これがハーネスだ。同じように着けろ」

「えっと、ここがこうで・・・んしょ・・・こうして・・・あれっ?」

「どうする? 一人じゃ無理そうか?」

「す、少しぐらいなら触ってもいいわよっ!」

 

大雅は。「では、」といってルミナにハーネスを着けてやる。

「あんっ・・んっ・・・どこ触ってるのよ!」

「ハーネスを付けているだけだが?

 緩かったら、下の岩盤に真っ逆さまだ、十分に死ねるぞ」

 

「わ、わかったわよ・・・私、敏感なのよ。

 だからその・・・あんまり触らないで」

「よく前回無事だったな」

 

「降りるときは、下で支えてもらったわ。

 上るときは1時間ほどかかったわね。

 下からすぐ近くまで、ドラウナーが跳ねてくるから、凄く怖かったわ」

 

以前打ち込んだというハーケンは信頼できないので、別途に新しく打ち込む。

たしかに、ハーケンの根元でロープは切られていた。

古いハーケンをサブアンカーとして、応力を分散し安定を図る。

 

「本来なら、ラぺリングは一人づつが基本だが、懸垂で降りるか」

大雅はロープを手繰り、Dカンでハーネスを付けたルミナを繋いだ。

 

「ほ、本当に大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。ほら降りろ」

大雅は自分もぶら下がると、一気に降下する。

 

「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そしてルミナが地表2mとなった時制動を掛けた。

 

「きゃア! 落ちる!  落ちるぅ!」

「煩い女だ、足を延ばしてみろ」

 

「えっ? 地面?」

「ああ、着いているぞ、ハーネス離すからな」

 

ルミナはぺたりと地面に座り込んだ。

同時に股間が、しっとりとしている事に気が付いた。

大雅はロープを外し、自分が届くくらいまでの高さに短くして吊るした。

 

「何をやっているの?」

 

「ロープの始末だ・・・スンスン・・・。

 やはりドラウナーかフォグレットが居るようだな。

 新鮮な排泄物の匂いがする」

 

「ちょっと、漏らしちゃったのよ」

「はっ? もともと怪物なんか、漏らしたままだろうに」

 

「違うわ! 私よ!

 落ちるような速度で降りるから、驚いて漏らしちゃったのよぉ!」

 

「ふうぅぅぅ・・・・・・・着替える時間は必要か?」

「ちっょと、そっち向いてて」

 

「終わったら声をかけてくれ」

大雅は後ろを向き、ルミナがゴソゴソやっている音を聞いていた。

 

「・・んしょ・・・あれ?  ここ・・こうやってあれ? きゃあ!!」

「どうした!」

 

ルミナは、ハーネスやらエイトカンなどのラぺリング装備に引っかかり、ぐっしょり濡れた白の下着を広げて、岩の上で転がっていた。

 

どうやらこの世界には、ゴムを使った下着は存在しないらしい。

彼女の下着も、いわゆる紐パンである。

 

「どうすれば、そんな器用なこんがらかり方ができる。

 助けが必要か?」

「みっ! 見ないでよぉっ!」

この声を聴き、再び大雅は後ろを向いた。

 

「やっぱり助けてェ・・・・」

大雅はヤレヤレと頭を振りながら振り向くと、さらに、ややこしくこんがらがったルミナがいた。

 

「動くな・・ほら大人しくしろ・・・」

5分ほどかかって解いてやる。

 

「早く着替えろ、奥で妙な音がする」

「わ、わかったわ」

 

大雅の目もあるが、命が最優先だ。

大雅はフラッシュライトを消し、タクティカルグラスを暗視モードに切り替えた。

20m上の崖には、まだ松明が燃えているので十分に明るい。

 

中には泥や小石を投げつけて来るモンスターも居るという、用心は必要だ。

 

「着替えたわ、もう・・・全部見られちゃったわね」

 

「下着程度だろ? 大げさだろう」

「私にとっては親以外で初めてよ!」

 

大雅は抗議するルミナを他所に索敵に注力した。

音の大きさからまだ距離は十分に離れているとはいえ、危険には変わりない。

 

「これをインカムをしていない方の耳に突っ込め」

「耳栓?」

 

「ああ、俺の武器はデカい音がする、こうした洞窟ならなおさらだ。

 耳を傷めるほど大きく響くからな。

 インカムを着けている方の耳は、インカム自体にその機能が有るから必要ない」

 

「わかったわ、・・・・これでいい?」

 

「OKだ。俺から10mほど離れてついて来い。

 離れすぎるなよ、後ろから襲われないとも限らないからな」

「そんなこと言うと怖いじゃない。ついていくわよ」

 

「それは構わんが、決して俺の前に出るな。いいな、絶対にだ」

「判ったわ、でもこの耳栓効くの? 言葉は普通に聞こえるんだけど」

「そういう耳栓だ、気にするな」

 

 

大雅はAKMSにサプレッサーを取り着けた。

消音としての効果は少ないがマズルフラッシュを消すには効果が高い。

もともと、音速の2倍以上で発射されるアサルトライフルの銃に、サプレッサーを付けても消音効果は薄い。

 

音速を超えないような弱装弾なら、それなりの消音効果は望めるが、弾の威力は低下して、サブマシンガンより低威力となってしまう。

足音を忍ばせた歩き方で、奥へと進んでいく。

 

「1,2,3・・・6匹か」

「何が居るの?」

「ドラウナーだな、ホールの水面から何処かの川か沼に、繋がっているんだろうな」

「どうやって倒すの?」

「まあ、見てろ」

 

カンッ! カカンッ!

音速の2倍近い弾は、弾頭の衝撃波で大きな消音効果は望めないが、マズルフラッシュは完全に抑え込まれている。

 

大雅はドラウナーの頭を、次々と打ち抜いていった。

 

「この音は何?」

「小さな金属の玉を打ち出している。

 音の二倍以上の速さでな・・・排除完了」

「完了って・・・なんにも見えないわよ」

「俺には見えているがな、クリアした。さ、進むぞ」

 

穴に入ってすでに3時間が経過した。

 

「ここがホールか?」

「ええ、そうよ・・ううっ・・やっぱり喰い散らかれているわ・・・」

 

大雅は、食われた遺体を二つ見つけた。

頭や手首は、かろうじて残ってはいるが、皮膚や筋肉だけでなく、内臓もほぼ食われ半分白骨化している。

 

「まあ、グロく無いだけマシと言う物さ、お陰で腐敗も少ないしな」

 

首に掛かった鳥を模した木彫りのペンダントが、近くに落ちている遺体を見た。

多分、これがあの老女の息子なのだろう。

 

ナイフを取り出し、僅かに残った遺体の毛髪をひと掴み切り取りると、ペンダントと一緒に紙に包み、パックパックに仕舞う。

 

「なにやってるの?」

「この遺体の母親から頼まれたもんでな」

「そう、この剣士崩れは、真面目だったわ。

 わたしも彼のお母さんと会ったけど、僅かなお金しか渡せなかった」

 

「それでも報酬は報酬だ。ところで衛士崩れもここの出身か?」

「いいえ、流れてこっちへ来たみたい。

 後で聴いたら、衛士をクビになったろくでなしだったわ」

 

「クビに?」

「なんでも隊の物資を、ちょろまかしたんですって。

 本来は死刑でしょうけど、普段は真面だったのと、額が小さいからクビで済んだって」

「よくそんなヤツを雇ったな」

「手も貸してくれる人も少ないし、最初は札付きだなんて知らなかったのよ」

 

「じゃ、俺も此処で豹変してみるか。襲ってやるぞ、がおーー」

「したいなら手で出してあげる。

 でも私には触れないでお願い。満足さてあげるから」

 

「冗談だよ、俺がそんな男に見えるか?」

「男なんてみんな同じよ、女の股の事しか頭に無いのよ。

 それか、お酒と食い物だけね」

 

「昔嫌な事でもあったのか? 騙されたとか」

「ううん、母の生き方を見てそう育っただけ。

 私・・ハーフなの。ハーフエルフなのよ」

 

「俺だってハーフだ。別に問題ない」

「え? ウイッチャーのハーフなの?」

「バカ言うな。アジア人とスペイン人のハーフだ。

 ついでに言えば人間だ」

 

「うそ、魔法だって使えるじゃない」

「まだ、使い方が良く判ってないがな、魔力はあるらしい。

 これは科学と言う魔法を基礎とした魔道具だよ。

 俺にしか使えないけどな」

 

その時、バシャリと水面から怪物が立ち上がった。

大雅は、すかさずアサルトライフルの弾を3発撃ちこむ。

 

怪物はグギャーーーーという悲鳴を上げて倒れた。

見てみるとフォグレットと呼ばれる怪物で、本来内臓がある腹の部分は空で、一見するとゾンビのようにも見える。

 

腹部をよく見ると、背骨や肋骨の間を薄い皮が覆い、その中を血管が流れ居るようだ。

 

頭部はアサルトライフルの銃弾で、頭蓋骨が割れグズグスになっている。

 

「こうもホイホイ出て来るってことは、ここでキャンプするのは危険だな」

「ええ、石扉を何とかしたら、キャンプの時だけ崖の上に戻りましょ」

 

大雅は、下へ向かう半分から水没している階段の天井を見た。

長年かけてできたのか、脆そうな鍾乳石が垂れ下がり、そのせいか天井の岩場に亀裂が入っている。

 

「なんとかなりそうかな。

 エールファス、向こうの石筍の陰まで下がって、後ろに隠れていろ。

 結構デカい音がするからな」

 

大雅は、グレネードランチャーの銃口に1発のVOG-25M榴弾を装填し、自らも近くの石筍に身を隠し、天井の亀裂に向けて撃った。

 

バンッ!

 

ロシア製のグレポンはポンと音はせず、バンと音がするのが特徴だ。

それは発射筒が短く、先込め式の特徴なのだが、西側の様に後装式ではないためバンという音がする。

 

これでも発射距離は西側と変わらない、それは榴弾自体にロッケトと同じく推進薬ごと飛んでいくからだ。

 

直後、VOG-25M榴弾は着弾し信管が作動、その力を解放した。

 

ドガーン・・・・バシャバシャ・・・ゴゴン・・・

 

崩落の音が1分ほど続く。

 

「ちょっと! 何やったのよ」

「ああ、階段の所の水没部分の天井が弱そうだったので、崩して埋めた。

 これでたぶん怪物に悩まされることは無い」

 

「でもやるなら、やるって言ってよ! 驚いたじゃない」

「ちびったのか?」

「ちびってないわよっ!」

 

「それは重畳、何なら洗うか?

 丁度水も有るし、少し濁ってはいるが洗濯には問題ないだろう。

 今日はここでキャンプだ」

「そうね、たしかに安全は確保できたみたいね」

 

ルミナが半分埋まった水没階段で、下着とズボンを洗っている間、大雅は火を起こしルミナが暖を取れる様にした。

洞窟でも奥は気温が10度ほどもない。

 

腰に毛布を巻いたルミナが戻ってくると、大雅は革袋から防寒のジャージを取り出して、ほらっとルミナに渡した。

 

「少し大きいかも知れないが、無いよりましだろう」

「あ、ありがと・・洗ってから返すわね」

 

「さ、飯だ。贅沢とは言えないがここは寒い。

 暖かい物を食ったら体を乾かせ」

「あ、でも私も持ってきてるわ」

 

「どうせ昼に食ったものと同じだろう?

 固いパンにひび割れたチーズ、良くてワインか?

 二人分作ったんだ、ただし味については文句は言うなよ」

 

大雅は、チキンラーメンをベースとした玉ねぎが入ったスープ、時間が有るときだけ作る炊き込み御飯、具は地元で売っていたキノコと、乾燥した魚を細かく砕いたものだ。

たまたま市場で見つけたサーモンに似た赤身の魚で、カラカラに乾いた干物だ。

口に入れてみるとサケに似た味で、旅の為に買いこんだものだ。

 

それに醤油と砂糖、バターが入れてあるものだから、空腹を叩き続けるような香りが漂っている。

 

「これって・・・トラウトよね・・・いい匂い」

「初めて作るから判らんが、旨かったら定番になりそうだな」

 

ルミナは渡されたフォークで熱く湯気を上げる炊き込みご飯を口へと運んだ。

「・・なにこれ! 美味しい!!」

 

初めて口にするスープも柔らかい玉ねぎの他、穀物を捏ねたような細切れがたくさん入っている。

これだけでも1食になりそうだ。

これがまた、御飯に合う。

 

「んぐっ・・これっ・・・んっ・・・何・・」

「聞きたいことは何となく判るが、今はゆっくり食え」

 

小動物の様にハグハグと口を動かすさまは可愛いが、これでも、たぶん自分よりずっと年上なのだろうなと考えた。

食後にティーバックだが暖かい紅茶を入れる。

 

「はふ、美味しかったわ。

 でも、二人分作っちゃったから、食べてあげたのよ?」

 

大雅は答えず笑顔で返した。

 

「それより、聞きたいことが山積みなんだけど」

「その武器は何?」

 

「俺は銃と言う武器を、いくつか持って居る。

 ほとんどは金属製の弾を、凄まじい速さで打ち出すのだが、さっきの様に小型の爆弾を打ち出す物もある、俺は剣は使わない、その代わりに銃を使う」

 

「その銃と言うのは強力なの?」

 

「ああ、さっきの爆弾だが、グレネードと言って破裂すると鋭利な金属片を沢山周囲に飛ばすんだ。

 着弾地点から10m以内に居れば死傷する。

 他の銃は物にもよるが、相手を行動不能にするものから、強力な物はアークグリフィンの頭を、粉々に吹き飛ばすものまである。

 石でさえ、10センチぐらいならぶち抜くからな」

 

「それって、魔道具?」

「まあ、似たようなもものだ。

 俺が持って居る物は、俺しか使えないように作られている。

 他人が持って撃とうとしても、撃つことができないんだ」

 

「まあ、いいわ、しっかり守ってくれれば。

 あとこのコンロは何? 初めて見るけど」

ルミナは学者根性なのか、大雅の装備に興味があった。

 

「煮炊き用の、フォールディングストーブと呼ばれるものだ。

 コンパクトで持ち運びにはいい」

大雅は、オプティマス8Rが冷めたことを確認して折りたたんだ。

 

「それも大雅しか使えないの? すごく便利そう」

「使う事は手順さえ覚えれば、難しい事は無い。

 しかし、此処では俺しか燃料が手に入らないだろうな。

 特殊な油を使うんでね」

 

大雅は自分で改造し、無鉛ガソリンでも使用できるようにしたストーブを、ルミナに持たせた。

 

「結構軽いのね」

「ケースを軽い金属に変えてあるからな、オリジナルではないが復刻版の物だ」

 

時計を確認するとすでに夜だ、寝袋を革袋から引きずり出すと広げた。

本当に革袋は便利だ、重量は無いが嵩張る寝袋や毛布などの収納にはもってこいで、この仕事が終わっても使い続けたい物だ。

 

「明日は早い、もう寝ろ」

ルミナも毛布を体に巻き付け、たき火の傍で横になった。

護衛として雇ったこの男、ウイッチャーとしては2本の剣も持って居ないし、人間だと言い放った。

 

見たことも聞いたことも無い物や武器からして、いったい何処から来たのだろうか。

そんなことを考えていると、自然と瞼が落ちた。

 

 

カチャカチャと音に気付き起きると大雅は既に朝食の準備を始めていた。

 

「お茶だが要るか?」

「ええ、お願い」

「砂糖は?」

「なんで、そんな高級品持って居るのよ」

「寝ぼけた頭を覚ますにはいいだろう、お茶も濃い目だしな」

 

「ちょっとぉ・・この四角くて白いのが砂糖ですって?」

「ごく普通の角砂糖だろ?」

「角砂糖なんて聞いたことも無いわ」

「そうか? 俺の所には普通に有るが」

 

簡単だがカロリーの有る朝食をしっかりと食べ、二人は石扉に取り掛かる事にした。

 

 

「これが石扉よ。

 魔法で封印されているのか判らないけど、鉄の棒を差し込んでも、びくともしないの」

 

見ると扉の中央に合わせ目があり、其処から微かに空気が流れている。

隙間は2ミリほどだ。

大雅はフラッシュライトを点けると、光束を絞り隙間に当て、覗き込んだ。

 

「厚さは30センチほどか・・・石の材質から見ても行けそうだな」

大雅はバックパックから、二つほどの羊羹のようなC4爆薬を取り出し、信管を取り付け壁に貼り付けていった。

 

「これでいい。

 おい、あそこの石筍の陰に隠れろ、大きな音がするからな」

「何する気?」

「扉を爆薬で壊すんだ、

 扉の破片が飛ぶから、きっちり隠れろ、いいな」

 

大雅も石筍の陰に隠れ「ポチッとな」と小声で言いながら起爆のスイッチを押した。

 

ドガーーーンッ

大きな爆音と小石が飛び散る音、そして砂煙があたりを覆う。

 

「ありゃ、少し多かったかな。見た目より脆かったか」

「ふぇーーまだ耳がキンキンする・・・」

 

「耳栓とインカムはどうした?」

「・・・あ・・・」

 

砂煙が落ち着くと、大雅は大きめのケミルミを取り出し折り曲げてから扉の奥へと投げ込んだ。

 

「・・・! また爆弾!?」

「違うよ、明かりを中にな。

 こうすれば、中に動くものが居る場合は判る」

 

石扉には1m程の大穴が開いている、装備を付けたまま潜るには十分だ。

AKMSに初弾を送り込み、注意深く穴を潜った。

 

中は、広く100m四方ほどの神殿となっている。

 

「ここが目的の場所か?」

「ええ、そうよ。

 すごい・・・・・殆ど手が付けられて居ないみたいだわ」

 

奥へと進むと、何本もの石柱が立ち、さらに古代ギリシャ風の神殿の様な物が見える。

映画だと、必ずこうした場面ではトラップが有るが、何もなく神殿までたどり着いた。

 

「す、凄いわ! 大発見よ。

 ああ、エルフの古代文字、早く写し取らなきゃ」

 

ルミナは背負っていた背嚢から紙を取り出すと、石柱に彫られた古代文字を写し取り始めた。

 

「読めるのか?」

「一部はね、でも文に韻を含んでいたりして、文章そのままではあまり意味を成さない事が多いの」

「もしかして、これ全部書いて写し取るつもりか?」

「そうよ、当たり前じゃない」

 

大雅はグラスのフォト機能でデータを取り、プリンターに転送して印刷した。

 

「これなら早い、紙よりは小さいが詳細にわかるはずだ」

「・・なにこれ! すっごく綺麗で正確な絵ね」

「写真というんだ。

 目で見たものをプリンターという機械で印刷・・つまり絵を描く、これなら早いだろう?」

 

「私が重い紙を背負ってきたのって何?」

「作業内容までは聞いていなかったからな。

 どの道俺も興味がある、文字だけじゃなく、意匠や作りも重要なデータだからな」

 

「それは助かるわ」

「今はデータを記録して後で渡そう。

 で俺にも解るように、簡単でいいから説明してくれないか」

 

「ここはルーファス期、つまりルーファス王朝後期の様式に似ているわ。

 当時崇めていたのは、単一神ではなく多神だったはずよ。

 女神12神を主として一つの神殿には一つの女神が祭られているの。

 人間の現在の女神信仰の基礎となったと考えられているわ」

 

「ほう、でここは何の女神なんだ?」

「熱の神デブリスみたいね。

 神殿は半地下が普通だけど、ここまで完全に地下に有るものを見たのは、初めてよ」

 

「ね、あの柱とあの石柱。

 描かれている文字や形も全部写し取れる?」

「すぐに終わる」

 

「さて、粗方データは撮ったぞ。他に必要な物は?」

大雅はタブレットを操作しながらデータを確認している。

 

「ちょっとぉ、なにその石板! すごい・・・」

「タブレットだ。

 データを表示したり・・。

 ま、そのほかにも、いろいろな機能が有るがな」

 

「あ、この絵、もっと細かく写し撮りたいけど・・・」

大雅はタブレットの画面に2本の指を当て広げた。

 

「す、凄いわ・・・魔法ね」

「これも科学の力だ。

 街へ戻ったらデータを確認してプリント・・・絵を描かせよう」

 

「なあ・・・扉の両側に立っている石像だが、いつのまにかこっちに向いてないか?」

「そうかしら」

 

大雅は、神殿の外観を取ったデータを、タブレットで確認した。

「やっぱりな・・・動いている。

 ほら、ここに入った時は、お互い向き合うように立っていた。

 それが今は両方ともこっちを向いている」

 

その時、2体の石像は淡い光を放ちながら、台座から降りだした。

 

「下がれ! エールファス!」

「ガーディアンのゴーレムよ!!」

 

大雅はAKMSをフルオートに切り替え、ゴーレムに撃ちこんだ。

カカカカカッという発射音と、バヂバチとゴーレムから石が砕ける音がする。

 

ゴーレムは最後にガアァァァァと大きな音を立て、光が消え動かなくなった。

 

「後一体!」

 

左側のゴーレムにも7.62ミリのフルメタルジャケットを叩き込む。

 

「くっそ! 固てぇな! もっと下がって伏せろ!」

背中に張り付くルミナに叫んだ。

大雅も素早く下がりながら、銃身のすぐ下についているグレポンに榴弾を押し込む。

 

「これでも喰らいやがれ!

30mほど離れたゴーレムに榴弾が着弾し、上半身が吹き飛びゴーレムは動きを停めた。

 

「ふぅ~よく倒せたわね」

「なんで石像が動くんだよ」

「ゴーレムだもの、動くわよ・・・・あった」

ルミナは赤い宝石を瓦礫となったゴーレムから拾い上げた。

 

「ルビーね、今では失われた技術だわ。

 ほら、この宝石に魔力を溜めるて、指示が込められているらしいのよ」

「もっと効率的に止める方法は無いのか?」

「一旦動き出したら無理ね、破壊するしかないわ。

 本来はコントロール出来るんでしょうけど、それを知るエルフはもういないの」

 

「厄介だな。至近距離だと危険そうだ」

「そのドカーンで何とかなんないの?」

「安全装置が働いて近くでは起爆しない。

 自爆もするが15秒後だ。かえって厄介だな」

 

大雅はAKMSのストックを折りたたんで背中に戻し、代わりにM870ソードオフショットガンを手に持った。

 

「耳栓はしてるか? この銃の音はデカい」

「ええ、学習はしたわ」

「いいか、何が有っても絶対に俺の前に出るな、死にたくなきゃ」

大雅は簡単なハンドサインをルミナに教え、守るように説明した。

 

「この扉も発破するのか?」

「中の様子が判らないから、できればしたくないわね」

「だとしたら、あたりを見てみよう。

 もしかしたら、開ける手掛かりが有るかもな」

 

暫く二人で探したが、何も見当たらなかった。

大雅はC4を取り出しながら扉へと向かう。

 

「何もないわね、やっぱり吹き飛ばすの?」

「その方がてっとり早いだろ?」

 

しかし、C4を扉に設置するため、密着させようとしたところ、扉は簡単に押し開いた。

顔を見合わせる二人。

 

「何故二人とも、鍵がかかっていると思っていた?」

「さ、さあ・・」

 

大雅は姿勢を低くして、ショットガンを構え神殿のホールへと入った。

 

「クリア、入ってきて良いぞ」

「神殿としては中規模よね」

 

中は天井から、相当な量の洞窟ヅタがぶら下がり、それなりに視覚が確保できる。

 

「さて、どこから調べる?」

「同じよ、碑文や石柱の絵を写して。

 あとは祭壇の全体像。他に扉は無いのかしら」

 

「左側に扉の様な物があるな」

「なにかの部屋かしら」

 

ルミナが扉を開けようとしたが開かない、扉には鍵の様な金具がついている。

 

「退いてろ」

大雅はショットガンに、1発のブリーチング弾を装填する。

 

ポンプアクションのショットガンは、最後に装填した弾が最初に撃たれる。

だから、給弾すると次に撃たれるのは、最後に入れた弾になることで、容易に弾種を変更できる。

 

ブリーチング弾は、1発玉のスラッグ弾に似ているが、物に当たると弾頭は粉々になり、鍵などは破壊できるが、跳弾やドアを貫通したための二次被害を少なくすることができる。

 

シャコンと装填の音が響き、直後大きなマズルフラッシュと共に轟音が響き渡る。

ドアは錠前が壊れ、勝手に開きだした。

 

ジャコッ

大雅は次弾をチャンバーへと送り込んだ、6粒弾のトリプルオーバックだ。

 

短い通路を右に折れると小部屋があった。

部屋の中には机が有り、一つの白骨化した遺体が有る。

着ている服などから、神官のような職に就いていたのであろうか、服は触っただけでボロボロと崩れる。

 

「少なくとも、数百年経ってるどころじゃないか」

「これは古いわね、少なくとも900年近く前の物だわ。

 やった本が残っている!」

 

「うわー手にしただけで崩れそう、しかたない研究に戻ってから調べよっと」

ルミナは丁重に布で包み背嚢に仕舞った。

「後は、金のコップ、金の燭台そんなところだな」

「やたっ! 宝箱~」

 

大雅は遺体を探っていて、大きなカギと小さな鍵を見つけ出した。

その間にも遺体と衣服はボロボロと崩れていく。

 

「この小さい方が合わないか?」

「試して見るわ」

 

小型の金庫ほどの箱を開けると、中からは大量の磨かれた宝石が出て来た。

 

「すごいわ、ひと財産よ。

 いえ一生遊んで暮らせるほどね」

「報酬は忘れんでくれよな」

「ええ、わかっているわ、私にとっては歴史的価値は低いもの。

 広げるから骸骨退かして」

「はいはい」

 

机の上は宝石で埋め尽くされた。

 

「後は何も無いようだな、反対側にもドアがあったから見てみよう」

「ええ、でも助かったぁ、これで借金か返せるわ」

 

「借金?」

「ええ、本当は見つけた場合、大学に7割取られるの。

 鑑定や評価に数年、その後競売にかけられ、やっと現金を手にすることができるのよ。

 で、物は相談なんだけど・・・・歴史的価値の低い古い金貨や宝石、山分けにしない?」

 

「無かったことにするのか?」

「ええ、疑われるから少しは提出するけど、八割を半分こでどうかしら」

 

大雅は少しばかり考えてからルミナに向き直った。

「4割か・・乗ろう」

 

机の上の宝石のうち小粒な物を選び、2割を小さな革袋に入れると、今度は残った宝石を半分に分けた。

 

「じゃ、これで良いわね」

「提案なんだが、借金はすぐに返すな」

「どうして? 利息が増えちゃうじゃない」

「だめだ、すぐに返したら、何か大きな利益が有ったことがばれる。

 生活を切り詰めたようなしぐさで、少しづつ返すんだ。

 大規模に換金するなら、他の国や地元じゃない所が良い」

 

「なるほど! それならバレないわ、ウイッチャーって悪知恵も働くのね」

「ウイッチャー以降は余計だ、まあ、とにかくばれないようにな」

「わかってる。ね、これで報酬の件は良い?」

「十分だ、早々に反対側のドアも開けよう」

 

反対側の小部屋には金貨が詰まった金庫が有った、大きなカギはこれの鍵だった。

 

「相当にため込んでたみたいね、どうする?」

 

「歴史的価値は?」

「この金貨は結構見つかってて歴史的価値は古いわね。

 精々鋳つぶして新しい金貨作るぐらいよ。

 銀行で買い取ってくれるわ、この時代の金貨は金の含有量が多くて、結構高く買い取ってくれるのよ」

 

「さっきと同じで構わん」

「じゃ、はい。8割の二等分よ」

 

そこで、大雅は部屋の板張りの隙間から風が流れてくるのを感じた。

隊張りの壁を触っていくと、明らかに壁の向こうは空洞だ。

 

「ここの向こうは空洞の様だな」

壁を触ってみると3枚ほどはガタついている、ナイフを指し込み引き上げると簡単に外れた。

 

「自然にできた空洞とは思えないな」

「そうね、タイガ入ってみましょうよ」

 

二人は大雅を先頭に腰を屈めて入った。

先には、直径10m程の半球形の空間が有り、真ん中に石柱の様な物が建っている。

 

「ストーンヘンジか? いや違うな」

 

石柱の上部には、かまくら型に穴が開いて内側が光っている。

大雅の心には、焦燥感のような感覚が先ほどから続いている。

 

「力の場ね、現物を見るのは初めてだけど」

「これが力の場か」

「知っているの?」

「ああ、街の女魔術師、アリツィアから聞いた。

 力の場を回れば力が強くなるんだと。

 まあ、現物を見るのは初めてだが」

 

「へえ。あそこにも女魔術師居たんだ、じゃ、折角なんだから力受け取ったら?」

「使い方が判らん」

「へっ? ウイッチャーなんでしょ?」

「似たようなもので、こっちのウイッチャーとは違う」

 

「ウイッチャーの出来損ない?」

「出来損ない言うな、力は有るだろ?

なんでもいい、知ってたら教えてくれ」

 

「うーん、私が知ってるのは、物語の一節だから信憑性は低いわよ?」

「構わない」

 

「えーーと・・その者、力の場にて頭を垂れ祈らん。

 新たなる力を得た者は旅へと旅立つ・・・だったかしら。

 でもまったくのお遊び話の本よ?」

 

大雅は、石柱の前に座り、両手で仏像に有るような姿勢を取り頭を垂れた。

同時に重力振の様な物が感じられ、瞬間体が揺さぶられた。

 

「えっ? な、なにっ? 何が起こったの?」

「重力振だと?」

 

体の中では先ほどの焦燥感は消え去り、代わりに充足感に似たものが渦巻いている。

 

「これが魔力か・・・・体には影響はないんだろうか」

 

確か火葬の時はこの印だったな、と思い出し力を放出するイメージを重ねた。

とたん、緑色の炎と周囲のホコリを巻き込んで燃え上がり、赤い火の粉を散らす。

壁に当たると緑色の炎はすぐ消え、引火したホコリが蛍の様に飛び回った。

 

「いりなり危ないじゃない!! 言ってるでしょ!

 何かする前に教えてって! もうっ!」

 

石柱から壁までは優に5m以上ある。

 

「いや、すまん。

 まさか出るとは思わなくってな」

「ウイッチャーなんだから当たり前でしょ。

 火傷したらどうすんのよ、魔法の火は一旦燃え移ったら、消えにくいのよ!」

 

「いや、放った本人が一番驚いているんだが」

「力の場の影響で、強くなっているんでしょうよ。

 とりあえず、こんな狭い所で魔法を放つのは止めて」

 

「ああ、悪かった。一度出るか」

「そうね、ここは寒いし早く出たいわ」

 

確かに気温は5℃程と冷蔵庫並みだ、それにドーム状の岩の隙間から冷たい風が至る所から流れていた。

 

「冷たい空気の流れは、これだったんだな」

「どうして、こんなに冷たい風が吹いてるのよ」

「ここはたぶん地下300m以上だ、岩の隙間を通って来た空気が冷やされ、流れ込んでいるんだろうな」

「どうしてそんなことが判るのよ」

 

「気圧の測定でわかる、ここは穴から約321m標高が低い」

「それも魔法?」

「まあな、他には何もない。出よう」

「賛成だわ」

 

石扉を潜り広場に出て、そこでキャンプを張ろうとした大雅であったが、出来るだけ穴に近い方に行こうとの話が決まり、20mの崖を登ろうとしたが、大雅が数分で上る所を、ルミナは20分もかけて登ってきた。

 

「ほら、体のハーネスにDカンを付けて確保しろ。手を出せ、引き上げるぞ」

「わかったわ、よいっ・・・あっ!」

ルミナの体から革袋が下へと落ちていった。

 

「ちょっ! 私の金貨!」

「まずは上がれ!」

 

ルミナを引き上げると、落とした金貨を拾いに行くという。

 

「ここで待ってろ、時間がもったいない」

大雅は、ラぺリングで僅か2秒ほどで下に降り、革袋をルミナのいる上に投げ上げた。

受けそこなってひっくり返っている。

大雅は20秒ほどで崖をスルスルと上るとザイルを回収した。

 

「ありがと、タイガ」

「それでも結構な金額になるのか?」

 

「ええ、これだけでも、借金返して数年は豪遊できるぐらいよ。

 普通に生活すれば、15年は暮らせるわね」

「くれぐれも、一括返済と豪遊は止めてくれよ」

 

「解っているわ、あとタイガのお陰で、模写する時間も要らなかったし。

 予定より2日早く済んじゃった」

「データを確認して印刷するのに1日ぐらいの量があるぞ。いつやる?」

 

「街に戻ってからの方が良いわ、遅くなるけど外へ出ましょ」

「賛成だ」

 

大雅はルミナを何度も引き上げ、出口を目指した。

帰りは道の状況もわかっているので、大雅は2M程度の崖なら飛びつき腕力だけで登れる。

もう少しで出口という所で「待て、なにか外にいる気配がする」とルミナを止めた。

 

「この時間帯だと野犬か狼ね。

 厄介だわ数に物を言わせて襲ってくるから」

「選択肢は二つある、排除か待つか」

 

穴の外では獲物を追いかけているのか、四つ足が走り回る音が聞こえる。

「まあ、ここなら寒くは無いし、朝まで待ちましょ」

 

その時、一頭の野犬が、穴の中へと入り込んできた。

大雅はすぐさまハンドガンのP320を抜き、野犬を撃った。

 

バンッ!

 

狭い所で撃つ銃声は大きく響く。

ギャインという悲鳴を聞きつけたのか、多くの野犬が入り込んできた。

 

「下がれ!」

 

大雅は胸からスタングレネードを取るとピンを抜いて投げつけた。

 

「耳塞いで目を瞑れ!!」

 

洞窟に真っ白な閃光とパアァァンという大きな破裂音が響く。

 

キャイン、キャイン、グルルルッ!

 

野犬はもろに食らったのかのたうち回り、戦意は喪失している。

そんな、野犬をP320で次々と撃ち抜いていく。

 

発射数16、残弾はチャンバー内にある1発となった時、大雅は素早く腰のマガジンポーチから新しいマガジンを抜き、片手で空マガジン取り出しと装填を1秒以内に終えた。

これで18発の弾丸を撃てる。

 

「んもう・・なんなのよぉ・・まだ目がチカチカ・・」

大雅は口に指を当て、静かにするようにジェスチャーする。

ゆっくりと穴から出て、周囲を確認するが野犬の姿は見えない。

 

「いいぞ、出てきて」

 

セーフティを掛けP320を戻し、背中からAKMSを取り出す。

タクティカルグラスを赤外モードに切り替え、周囲を索敵するが小動物以外の姿は見えなかった。

 

「穴の方が安全じゃないか?」

「ここから少し行った所に廃屋があるの。

 小さな小屋だけど其処の方がいいわ、問題は馬たちがどこへ行ったのかね」

 

大雅は穴から出て、25キロHzの音を出すサイレントホイッスルを断続的に拭いた。

ここ1週間ほど角砂糖の褒美と共に、笛を吹いているので聞こえれば戻ってくるはずだ。

 

1分ほど待つと、すごい勢いでナジャムが走ってきた。

その後ろから一生懸命に追いつこうとするルミナの馬が哀れだ。

 

「ナジャム! こっちだ」

ヒーンブルルルッ! と荒い息で大雅に駆け寄るとピタリと目の前で止まる。

 

「よーし、よし。そら褒美だ」

角砂糖を5.6個手のひらに出しナジャムに与えると、幸せそうにボリボリと齧り始める。

ルミナの馬も「なになに? 美味しい物?」と近寄って来たので2個ほど与えた。

よほど美味しかったのか興奮して跳ね回る。

 

「その白いのは何?

 霊薬なんか与えたら死んじゃうわよ」

「砂糖だ。それを四角く固めたものだ」

 

「砂糖を馬に与えるなんて初めて見たわ。もったいない」

「そう言うな、おかげで馬を探す手間が省けただろう?

 馬も甘いものは大好きでな。

 まあ、与えすぎるのは虫歯になるから不味いが」

 

「贅沢よ、砂糖なんて、一般庶民の口にも入らないのに、馬にあげるだなんて」

大雅はホレッというようにルミナに角砂糖を差し出す。

 

「私は馬じゃないわよ!」

 

大雅はそれを聞いて自分の口に放り込んだ。

特にうまいとは思わないが、とりあえずは甘い。

 

「あっ・・・」

大雅はもう一個取り出すと、ルミナの目の前に差し出した。

 

はぐっと大雅の手から直接角砂糖を食べるルミナ。

途端に目じりは下がり、カラコロと口の中で転がす音がする。

 

「まさか直接食べるとはな、笛でも吹いたら寄ってくるのか?」

 

ルミナは自分のしたことに気付き、顔を耳まで真っ赤にして恥ずかしがった。

 

「さて、腹も減ったな。小屋はどっちだ?」

「向こうよ、馬で10分ぐらい。

 元は炭焼き職人の小屋だったみたい、以前に事前調査に来た時見つけたの」

 

道を外れ緩い勾配を登っていくと、周囲に木がみっしり生えた小屋を見つけた。

 

壁の一部が朽ち果て、かろうじて屋根が残っている状態だ。

はっきり言ってボロの廃墟である。

 

「まあ、無いよりマシだな」

近くにあったゴミを片付け、囲炉裏のような場所に、中にあった薪を積み上げ火を着けた。

これで、朝まで寒さに震えることも無い。

 

「簡単に済ませましょ。

 というより私の持ってきたパン、カビそう。

 勿体ないわ」

 

「じゃ、これだな」

大雅はケチッャプの瓶とチーズを取り出し、チーズを熾火で温め始めた。

水筒の水を含ませた布でパンをくるむ。

 

「なにが出来るの? その赤いソースは何?」

興味津々のルミナを他所に、大雅は淡々とピザトーストの簡易版を作り始める。

最後に、大きな熾火を火挟みで持ち、表面のチーズを溶かしてパンに乗せた。

 

「美味しそうな匂い!!」

涎を垂らさんばかりに、食らいついて来る。

 

「そうだ!」

ルミナは、自分の背嚢をゴソゴソしたすと、小瓶とワンショットグラスの様な物を取り出した。

 

「乾杯しよっ!」

「酒か? 未成年だろう?」

 

「もう、25よっ!

  あっ・・・聞かなかったことに・・・できないわよね。

 でもあなたよりずっと若いわよ」

 

「26」

「えっ?」

「俺の年だ」

「うそ、もっと年だと思ってた。

 ウイッチャーって、女魔術師とおんなじで何百年も生きるから」

 

「エルフもそうじゃないのか?」

「そんなことないわよ、確かに人間よりは長生きだけど、純血種でない限りは、短いわ、ハーフは精々100年から150年。

 私もハーフだからそのぐらいかしら」

「他の種族はどのくらい生きるんだ?」

 

「ドワーフは大体200年ぐらいね。

 ハーフリングは人間より短くて40年ぐらい。

 非人間族にも数えられていないけど、トロールなんかは500年以上生きるそうね」

 

「ん? トロールは怪物なんじゃないのか?」

「とんでもない。

 ちゃんと知性をもった生き物よ。

 まあ、知能程度はけっして高くはないけど、子供くらいの分別と判断力はあるわよ」

大雅は、ルミナの持ってきた酒を、大雅のシェラカップとワンショットグラスに注いだ。

 

「じゃ、調査の成功とお互いの無事を祝って!」

「ああ、乾杯だ」

 

ルミナは一気に煽るが、大雅はちびりと飲む、度数にして40度ほどの焼酎のような酒だ。

「おれの所の焼酎と言う酒に似ているな」

「ドワーフの蒸留酒って呼ばれているわ、ここらでは乾杯に用いられるよくあるお酒よね」

 

「ドワーフの蒸留酒か・・・なるほど」

大雅は酒はあまり飲むことはないが、母親譲りなのか酒には強い。

一方、すきっ腹にアルコールを流し込んだルミナは、ほんのりと頬を染めている。

 

「ほら焼けた。熱いから気を付けろよ」

ルミナに大ぶりなトーストを渡す、濡れた布の水分で焼き立ての様に柔らかくなっている。

ハフッ、ングッと頬張るルミナを見ながら大雅も食べだした。

 

「んんっ!! おいひい!」

「あまり急いで食うと、口の中火傷するぞ」

「んな・・事・・・はふっ! お酒も・・んぐっ! 合う!!」

 

大雅はちびりと酒を口にするが、ルミナは既に3杯目だ。

 

「んふふふふっ、んふっ」

「何かおかしい事でもあったか?」

「んーん、これで大学のクソ爺どもを、ギャフンと言わせられると思うとねぇ。

 お金もたんまりあるし・・・ああ、幸せ!」

 

「酔ってるな。もう酒は止せ」

「酔ってないもん」

「酔っ払いは、酔っ払いだと言わんがな」

 

「ね、タイガ」

「なんだ?」

「キスしよ」

「寝ろ」

 

「なーんでよぉ!」

「酔ってる女を抱く気はない」

「誰も抱けっていってないろぉ」

「絡み酒かよ、めんどくせー女だなぁ」

 

「面倒じゃないもん! ふみゅう・・・」

ルミナは大雅に枝垂れかかって来た。

 

「星がきれいだな、見たことも無い並びだが」

夜空は満天の星があり、その量は圧倒されるほどだ。

 

「星? んふぅ・・綺麗・・・私は?」

 

「もう寝てくれ、頼むから」

「ねえねえっ! 私は?」

大雅はつくづくメンドクセェと心の中でつぶやいた。

 

「ハイハイ。綺麗と言うより可愛いだな。

 おれの基準ではそうなる」

「可愛い?」

「酔っ払いでなければな」

 

「んーーー暑いぃぃぃ!」

いきなりルミナが脱ぎだした。

 

ブラジャー一つになり、両手を後ろに床について涼みだす。

脱いだことより、この世界に普通にブラジャーが有る事の方が驚きだった。

まあ、地球の様にホックではなく、ボタンで後ろを留める様な仕様だったが。

まあ、地球でも中世には有ったのだから、この世界に有ってもおかしくない。

 

「暑いのーーーー」

ルミナはブーツを脱いで、防寒パンツも脱ぎ始めた。

下は、大雅が貸した防寒パンツだ、そりゃ暑いに決まっている。

驚いたのは、下着を付けていなかった事だ。

 

下も髪の毛と同じ色なのか。

まあ当たり前っちゃ当たり前だな。

囲炉裏の傍で、スピスピと寝息を立て始めたルミナを、広げた寝袋に転がし、チャックを閉める。

大雅もまた、床にごろりと横になり眠りについた。

 

 

翌朝、ルミナは少しばかり痛む頭を抱え、眼を覚ました。

 

「む? むうぅぅぅ、頭痛い・・・」

「二日酔いだな。

 強い酒を飲みすぎるからだ。

 ほら、温くしたお茶だ。

 少し苦いが、酔い覚ましには良い」

 

「んーーーありがと」

寝袋から這い出してきて、シェラカップを受け取る。

決して小さくはない乳房がブルブルと揺れる。

 

「んっ?? きゃあああぁぁぁぁぁっ!! 私裸! 全裸!」

「自分で脱いだんだよ。夕べな」

 

「うそっ!」

「嘘じゃない、酒に飲まれ、暑いと言い出し、自分で脱いで転がった。

 そして、そのまま寝た。

 記憶が飛んでいるのか?」

「な、・・・なんとなく覚えてる・・・・」

 

「ねえ」

「なんだ」

「抱いたの?」

「失礼な奴だな、酔いつぶれた女を抱くほど、落ちぶれてはいない。

 確かめてみたらどうだ」

 

「ちょっと向こう向いててよぉ」

大雅はヤレヤレと頭を振りながら反対の方に向いた。

 

後ろでゴソゴソやっている音が聞こえる。

ついでに彼女の下着やら服を拾い「早く着てくれ」と渡した。

 

「で? 嫌疑は晴れたのか?」

「わ,分かったわよぉ、でも裸の女を見ても何とも思わないの?

 私ってそんなに魅力ない?」

 

「いったいお前は、何を期待しているんだ、付き合いきれん。

 着たらとっとと出発するぞ」

大雅はナジャムを呼び寄せ、荷造りを始めた。

 

「ちょっと待ってよぉ」

 

ルミナは慌てて服を整え、荷物を纏めていると、二人の見知らぬ男が剣を抜き、馬で近づいてきた。

 

「よぉ旦那、夕べはお楽しみだったようだな」

「誰だよ朝っぱらから」

「通りすがりの盗賊でござ」

パンッ!

 

大雅はP320を抜き警告なしに、盗賊の眉間を撃ち抜く。

後頭部から、血煙が飛んだ。

 

「俺は機嫌が悪い、朝は特にな」

「くそっ! 魔法か?」

 

パンッ!

 

無造作にもう一人も撃ち抜く。

 

「朝から面倒くせぇ」

盗賊から武器と金だけを奪い、馬はロープでナジャムに繋ぎ連れていく、街で売れば剣よりも金になる。

 

「結構容赦ないのね」

「当然だ、どうせ捕まっても縛り首。

 人権なぞ無い人種だ」

 

エード・グリンヴェールに着いたのは、陽も天頂から山の峰へと近づいた頃だった。

 

「で? 絵の印刷はどうする」

「二つの斧で泊まっているのよ、明日は昼前ぐらいに来て」

大雅は「では明日」とルミナに別れを告げメイヤー邸へと戻った。

 

 

使用人に帰ったことを告げ、体を洗う為にお湯を頼む。

お湯を使いさっぱりした所で、大雅は下へと降りていくと、応接から男女が口論する声が聞こえた。

 

『だから払わないって言ってないでしょ!

 私が父から預かったのは、1万クラウンよ。

 それがなぜ5万クラウンに化けたのかって聞いてるの』

 

『それは最初の荷だけだ。

 追加の物資や護衛の費用は含まれて居ないんでさ。

 さ、支払期限は明日までだ。

 耳を揃えて払って貰おうか』

 

 

「邪魔をするぞ」

大雅はドアを開けると応接に入った。

 

「なんだお前は」

「揉めているようだったんでな、話を聞かせて貰おう」

「お前には関係ないだろう、俺はこちらのお嬢さんと話しているんだ」

「関係は大ありだ、俺は彼女の護衛だ」

 

「雇われ護衛だろ、黙ってろ!」

気が短いのか、大雅に殴りかかってきた。

すかさず大雅は相手の右足を踏み、押し倒した。

 

 

「期限は明日だと聞いた。

 大人しく帰るか、全ての歯を折られるのが良いか、どちらかを選べ。

 ちなみに、それ以外の選択肢はない」

「くえっ・・わかった! わかったから離しがれ!」

男はすごみながら帰って行った。

 

 

「助かったわ、タイガ。それとお帰り」

「ああ、事情を聴いても良いか? 何が有った」

「以前、父がポンター川の集積所に、食料なんかの物資を持って行っているのは話したわよね」

「ああ、さっきのは物資の取引相手か?」

 

「戦争のせいで、物資が手に入り難くなってきているの。

 父は物資を確保するため、今まで取引のしたことの無い相手を今回は使ったのよ。

 取引金額は1万クラウン」

 

「大きいな」

「ええ、でもあの商人が持ってきた証書には5、万クラウンの数字が掛かれていたの」

 

「証書は間違いが無いように、同じものを複数作るのが常識だが、それは無いのか?」

「父が持って行ってしまっているの、父から預かったお金は1万クラウンよ」

 

「ふむ、なにか匂うな。調べてみるか」

「ええ、でも期限は明日、とても5万クラウンなんて調達ではないわ」

「銀行からは借りられないのか?」

「それも考えたけど、父が居ないのでは5万なんて無理よぉ」

「これを担保に待ってもらえることは出来ないか?」

 

大雅は宝石を現金化できないかをロッテンに聞くために、革袋から分けた宝石をいくつか持ってきていた。

 

「どうしたの? これ!」

「現金の方が良かったが、相手がこれしか無かったんでな。どのくらいになる?」

 

「そうね、これなら5万、いえ6万は確実よ」

「とりあえず、それを渡して待って貰うか、換金できるようならそれで払えばいい」

「だめよ、受け取れないわ、こんな大金」

「くれてやる訳じゃない、貸すだけだ。

 返すのは期限なしのある時払いでいい」

 

「・・・ありがと、じゃ少しの間借りておくわ、必ず返すから」

「足りないようなら、あと少しなら何とかなる言ってくれ」

 

「本当にありがとう」

 

 

大雅は仮眠を取り、真夜中に起きだした。

ロッテンから取引先である商会の名や場所、そして取り立てにやって来た店主の名なども聞いている。

 

「さて、ここがザール商会か」

大雅は、二階の窓を音を立てないよう、静かに開けた。

鍵がかかっていても、この世界の鍵は非常に単純なカギの為、ピッキングツールが有れば簡単に開く事ができる。

 

商店主は、メイヤー邸にやって来た者とは異なる者だ。

大雅はパックパックから、小型の笑気ガスのボンベを取り出すと、マスクを直接当てず、数ミリ浮かすように保持して、吸わせていった。

 

笑気ガスは麻酔にも使われているものだが、比較的安全性が高く、意識を保ったまま痛覚は除外するという効果を持つものだが、もう一つの特性として、聞かれたことはなんでもしゃべってしまい、しかもその話した事は記憶にないというものだ。

 

「もういいかな? おい、起きろ」

「うーん・・・なんだ」

「メイヤー家に物資を売った金額は、全部で幾らだ」

「・・一万クラウンだ」

 

「獲り立てが今日メイヤー家に訪れたが、お前の指示か」

「そんなことはしていない」

「帳簿は何処にある」

 

「下にある事務机だ。

 上から二番目の引き出しだ。

 もう一つは、一番下の引き出しを抜き、その下に入っている」

「それは裏帳簿か?」

「そうだ」

 

ここまで聞けばもう用はない。

大雅は下の階に行くと、引き出しの二番目を開け、帳簿を取り出し取引を確認した。

たしかに半月前に、メイヤー家に1万クラウンで、売掛で販売したことが記されている、他のページも確認したが、取引は無い。

証拠を写真にとると、帳簿を戻し一番下の引き出しを抜き取る。

 

「脱税の証拠みーーーっけ」

机の底にもう一つの帳簿があり、大雅は次々とめくっては画像データとして記録していった。

全て元に戻し、入った窓を再び施錠し闇へと消えていった。

 

翌日、商会の昨日来た者がやってきた。

 

「さあ、耳を揃えて払ってもらおうか、5万クラウンを」

「分かったわ、クラウン金貨で5万よ。証書を渡して頂戴」

 

「ほう、有るじゃないか。ほれ、証書だ」

男は帰って行った。

 

「ねえ、タイガ。

 本当にこれで良かったの?」

「うん、上出来。

 さて、楽しい訴訟タイムだ、衛士詰所の所に行こう」

 

 

「で? 1万の所を5万払ったと?」

 

「ええ、証書をよく読むと「本人が所有している場合のみ有効」との追記があります。

 本来、為替でなければ記載されない文章です。

 これを理由に父は証書を持って行ったのだと思います。

 しかし、実際の取引は1万クラウン。

 証書をこちらが持って居ないことを知っていて、5万に書き足したのです」

 

「それが事実なら、詐欺で重罪だ」

「証拠は俺が持って居る、渋る様なら脱税で店主もしょっ引け」

大雅はロッテンの後に続いて話した。

 

「事実だろうな!」

「メイヤー家との取引は、正帳簿に1万と記載されている。

 裏帳簿には取引数量を誤魔化し、税金逃れをやった証拠が山ほど乗っている。

 机の引き出しを全部引っこ抜いて探せ」

 

「わかった、オイ、お前とお前ついてこい!」

 

夜になって報告にきた衛士長が訪れて来た。

番頭が、4万クラウンの大金をもったまま高跳びしようとしていた所を捕まり、脱税により店主は街での商権をはく奪、罰金の上追放となったらしい。

 

番頭は縛り首となり、4万クラウンは返却された。

なんでも、うだつの上がらない番頭は、今回の事を思いつき犯罪を計画し、4万クラウンの金を手に自分で商会を立ち上げようとしていたらしい。

 

「ところでどうやって金策したんだ?」

 

「宝石を担保に銀行から借りたのよ、私名義で。

 銀行は、宝石のまま引き取りたかったみたいだげと、断ったの。

 どう見たって6万以上の価値のある宝石だもの」

 

翌日、借金を無事に銀行に返し、大雅には無事宝石が返却された。

大雅は少し考えると、宝石をロッテンの手に戻した。

 

「何で戻すの? あなたの宝石よ?」

「これでアレンウォードやスウェッドの事業のために使ってくれ。

 もちろん貸だ。

 先行投資だよ。儲けが出たら返してくれればいい」

 

「わかったわ、必ず有意義に使わせてもらうわ。

 本当の所を話すと、結構財政厳しいのよ。

 レダニアの執政官からは、もっと戦争の物資を出せだとか、家の小さな男爵領でなにが出来るって言うのよ」

 

「現在は王は居ないんだったか」

「国名は残ったけど、正確にはレダニア国ケイドウェン自治領ね。

 王族が、あんなに簡単に尻尾撒いて下るとは、誰も思わなかったでしょうね」

 

「王を含め王座は殺されたのか?」

「いいえ、地方で幽閉されているって話ね、最も死んでても知る術はないけど」

 

大雅は朝の時間を少し過ぎてしまったが「二本の斧」に来ていた。

彼女の目の前で黙々とデータをプリントアウトする。

 

「さて、これで遺跡のデータは全てだ」

「ええ、確かに。今回は助かったわ」

 

ルミナが宿泊している部屋で、データを確認しながらプリントアウトする作業は夕方まで続いた。

2個持ってきたプリンター用のバッテリーと、用紙もほぼネタ切れである。

 

「こちらもだ、いい仕事となったし、目の保養にもなった」

「あら、期待してもいいのかしら」

「俺が言ってるのは遺跡の事だぞ?」

「んもうっ!」

 

ルミナは明日にでも相乗り馬車でアルド・カレイに戻るという。

再会を約束してルミナに別れを告げた。

 

メイヤー邸に戻ると、ロッテンは旅行の準備をしていた。

助けた時より異様に荷物が多い。

 

「増えてないか?」

「あら、ケチッャプの材料よ。

 あれは絶対に売れる! 大量に作らせるための先行投資よ」

「トマトがまだ沢山あるとは限らないし、大量に作る人手も場所も無いぞ」

 

「そんなの行ってみなきゃわからないわよ。

 トマトが足りなきゃ、材料は来年に回せばいいわ。

 さ、明日はアリッツィアの所に朝一で行って、それが終わったら領に向けて発つわよ」

 

「わかった、それで準備しておこう」

 

朝早く夜明けに起きた大雅は、ナジャムにパニアバックなどの装備を積み込み、出かける準備を整えた。

荷馬車への積み込みはもう暫くかかるらしく、その時間を利用して、アリツィアの所の用事を済ませてしまおうという魂胆らしい。

馬車には野営できる装備と、馬車の座席の間に入れる組み立て式のクッションが積み込まれている。

 

4人乗りの馬車が2人用のキャンピングカーに変わる訳だ。

馬車の他に馬二頭立ての荷馬車が2台、都合3台の馬車が今回のキャラバンとなる。

荷馬車とその馬や御者は、リノックの伝手で借りたのだ。

 

先頭のロッテンにはインカムを渡し、何かあったらすぐに知らせるように言ってある。

大雅はナジャムに乗り、後方を担当する。

もちろん後方だけでなく、側方や場合によっては前方へと移動する。

 

アリツィアの家へナジャムを使用人に託し、徒歩で向かう。

 

「街の治安が少し良くなった気がするが」

 

「私だって、遊んでた訳じゃないのよ。

 タイガのアイディアを採用して、自警団を募集したの。

 すぐに15名が名乗りを上げてくれたわ。

 あとは街の衛士長がうまくやってくれるはずよ。

 おかげで私の街での株も上がったのよ」

 

「そりゃよかった。

 だが暴走しないよう、偶には確認する必要があるぞ。

 人は権力を持った事が無い者ほど、権力を持った時に暴走しやすい」

「ええ、わかっているわ」

 

そのほかにも規律や権限を、きちんと決める事をロッテンに話している内に、アリツィアの家へと着いた。

 

「アリッ・・・アリツィアいるかしら!」

『戸は開いておる、入って頂戴』

 

「こんにちはアリツィア」

「さっきまた・・まあ良い。

 メダルは出来ておるぞ。

 あとは大雅の魔力を流すだけで良い。ほれコレじゃ」

 

渡されたメダルは大きく口を開け4本の牙をむき出しにした怒れる虎を模した物だった。

 

「材質はメデティリウムの心材に、分厚い銀の層。

 内部にはラミアの目を加工したものが封印されておる。

 ウィッチャーのメダルは半径5mほどしか反応せんが、このメダルは優に30mを超える。

 反応は最初は微かに震える程度だが、近くなるほど強くなる。

 もっと強くなれば断続的に震える。

 どうじゃすごいじゃろ?」

 

「礼はどうすればいい」

「なに、この家を住みやすくする費用が有ればよい、300クラウン程な」

大雅は300クラウンを革袋から取り出し、それとは別に何個かの宝石を渡した。

 

「これは良いものを貰った。

 媒体としては良い材料じゃな」

「他の女魔術師の消息は判ったのか?」

 

「うむ、マルガリータに聞いたのじゃが、暫くはスケリッジに居たらしい。

 現在はシントラに居を移しているとの事じゃ。

 マルガリータの話では、マルガリータがスケリッジに入る直前まで、イェネファーはスケリッジに居たらしい。

 一緒にウィッチャーも居ったらしいが、流派や名までは判らんらしい」

 

「いや、貴重な情報だ。助かる」

「あと、ブルッゲで狼流派のウイッチャーの姿を見たとマルガリータの弟子の・・・えーっとぉ・・・・シン・・・シンシアが言ってたらしい」

 

「旅立つのかの? にしてはロッテンのお嬢を連れてか?」

「いや、メイヤー家の男爵領視察の護衛として雇われた。

 ひと月以内に帰ってくる予定だ」

 

「ほうほう? ロッテン話が有る。

 裏でお茶の用意を手伝っておくれ」

 

大雅は黙って台所へと向かう二人を見送った。

こういう時は下手に口を開かない方が良い事を経験的に知っている。

女同士の話なんて、男にとっては大抵碌なものではない、首を突っ込まないのが賢明だ。

しかし、それ以外の情報ではと気になるので、タクティカルグラスに仕込まれた収音マイクで音を拾う。

 

『ロッテンや、あの男が好きか?』

『判らないわ、でも・・』

ここまで聞いて大雅はマイクを切った。

アリツィアの家で何度か出されたハーブティーを、黙って大雅は啜った。

 

「タイガ、メイヤー領から戻ったら、一度ここに顔を出してほしい。

 それだけの時間があれば、新しい事も判ってるやも知れんからの」

「わかった、必ず顔を出そう」

 

大雅とロッテンは座を辞すると、荷馬車との待ち合わせの広場に向かった。

 

 

 

 

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