Advanced Witcher   作:黒須 一騎

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首都アルド・カレイ

 

 

 

エード・グリンヴェールに戻った大雅は、メイヤー家を訪れていた。

ケイア・モルヘンには誰も居ない事、ヴェセミルは既に亡くなっていたことなどを男爵に話す。

 

「ケイア・モルヘンは、元々王族の肝入りで作られた物と聞いたことが有る。

 それを支える集落のロックベインは、誰の所領でもない。

 しかしレダニアに負け、そのため王直轄地と見られ、現在はレダニアの管理下にある。

 まあ、実際はエード・グリンヴェールの管理下に置かれているのだがの」

 

大雅は猟師も居らず、真面な行商人も来ないロックベインの窮状を改善してもらえるよう男爵に頼み、ついてはレナードという行商人が半分騙されたように商権を買わせられたこと、今は稚拙だがまじめな商人になる可能性が有る事を伝えた。

 

「お父様、それなら家の家の所領にできませんか。

 まだ兵站が成功したことの結果が出ていないのは判りますが、物資を大量に届けたのは事実です」

横でじっと聞いていたロッテンが、父のアベルトに言った。

 

「そうだな、物資の代金も、どうせ有耶無耶にされるか、贋金を掴まされる可能性が高い。

 それなら代わりにあの地域を、所領として貰う方がいいかもしれん。

 それについては上申してみよう」

 

「レダニアの国庫はそんなに悪いのですか?」大雅は男爵に聞いた。

「悪いも何も、とっくに国庫は空と言う事だ。

 だから青銅に金メッキした贋金が、傭兵やケイドウェンに支払われている。

 最初は流通経路ですり替えられた可能性も疑われ、調査が行われたが、関係した人間は全て消されているよ。

 もし、この戦いがあと一年延びれば、レダニア内部から瓦解する可能性さえある」

「レダニアの王はそこまで無能だと?」

 

「まあ、戦に関しては非常に有能と言っても良いが、しかしそれだけだ内政・側近の掌握については愚王と呼んでいい」

「まあ、たしかに戦争なんて経済力の戦いでもあるからな。

 それで最もやってはダメなのが贋金だ。宝石の価格変動は?」

 

「ここにきてかなり上がりつつある。

 通貨なぞ酷い物だ、フロレンスやオレンも値上がりしている、というよりクラウンがガタガタに下がっていると言った方が的確だろう」

 

「話しは変わるがクラウンは此処の通貨、フロレンスはニルフガードだったか。

 オレンと言うのは?」

 

「まあ、ここ何十年かでかなり変わったから仕方がないだろうが、北方諸国で使用される通貨はクラウンが基準だ。

 元々はレダニアの通貨だが、ここケイドウェンが敗戦し併合された時、この国の通貨は全てクラウンに整合されたんだ。

 ケイドウェンの通貨は持って居ても、地金としての値段しかない。

 まもなくテメリアの通貨だったオレンも、その道を辿るだろうな。

 北方諸国でも南に行くと、普通にニルフガードの通貨であるフロレンスが流通している。

 もし南に行こうとしているなら、フロレンスの方が良いかもしれん」

 

「タイガ、今度の旅は長くなるの?」それまで黙っていたロッテンが不安そうに尋ねた。

「そうなるだろう、南に行くとなればかなりの距離になる。

 少なくとも1年前後かもな、もしかしたらもっと長くなる可能性もある」

 

ロッテンは伏し目がちに「そう」と答えただけだった。

 

 

大雅は見送る二人と別れ、アリツィアの元へと向かった。

「大雅だ、居るか」

「鍵は開いているよ、入ると良い」

アリツィアは大鍋で薬草の様な物を煮詰めていた。

 

「もうすぐ手が離せる、それまで勝手に茶でも入れて待っててくれ、今手を離すとパアじゃからな」

大雅は、ポットなどは見つけたがハーブティーを入れた壺が見つからないため、自分のケースから紅茶を取り出した。

何時から大鍋に取り掛かっていたのか判らないが竈の火は完全に落ちており、大雅は自分のコンロを使いお茶を作る。

アリツィアにも近くのテーブルに置いて勧めた。

 

「ほう・・・異世界のお茶か、これは蒸してから発酵させ乾燥した物か・・・うむ、いい香りじゃ」

喉が渇いていたのか、片手に大きな木べらを持ったまま啜っている。

 

「メダルの反応はどうじゃった?」

「ああ、確かに反応した。

 距離は30m程からだが十分に使えたよ。

 力の場を2つ見つけた。

 うまくできたかどうか判らんが」

 

「それは重畳じゃ、してヴェセミルには会えたか」

「残念ながら2年前に亡くなっていたよ。

 ケイア・モルヘンには誰も居なかった」

 

「そうか・・・・逝ったか。

 まあ、300を超えておったからのう」

「ケイア・モルヘンで2年前に戦いがあったらしい。

 それ以後、下の村で姿を見た者は居ないようだ、だとすれば戦いでなくなったのかもしれん、所でマルガリータの居場所は判ったのか?」

 

「うむ、現在はシントラのアトレという町に居るようじゃ。

 弟子を取り町で薬草師として表向きは働いているらしい。

 ニルフガードでもソドンの戦い以降、女魔術師への風当たりは、決して無いわけでは無いのだろう。

 実際わしもこうして関節痛の薬を作っている訳じゃしな」

「どんな性格なんだ? まあ、とっつきにくいとか?」

 

「自分には素直な女じゃ。

 あと、金には結構がめついかのう・・・・本人には言うでないぞ」

「なるほど、注意しよう」

 

「南に向かうのかえ」

「いや、一度レダニアに入り、ノヴィグラドからスケリッジへと渡り、そこからシントラへと渡るつもりだ」

 

「なるほど、それならニルフガードが統治するシントラにも入れるじゃろうて。

 マルガリータに会ったら宜しくと伝えてくれ」

「わかった」

 

ナジャムとエード・グリンヴェールを発つ前に、掲示板を確認し仕事が無いかみた。

懐は温かく特に困っては居ないが、稼げるときには稼いでおきたい。

問題は旧ケイドウェンの首都であるアルド・カレイに寄るかどうかだ。

「居なくなった牛を探してほしい。報酬5クラウン」

「馬の種付け助手を募集、3日間の予定 日給2クラウン」

「気違いババァを何とかしてくれ 報酬3クラウン」

掲示板には碌な依頼が無かった

 

どの道、ノヴィグラドに向かうのであればアルド・カレイから西に向かうしかない。

もっと北のルートも有るが、ブラビケンというかなり北の町へと向かってしまう。

 

情報的にもアルド・カレイで、ウイッチャーや魔術師を探してみるのも手だろう。

2日も有ればたどり着ける、下手に依頼を受けてまたエード・グリンヴェールに戻るというのも憂鬱だ。

 

そこへ張り紙と釘を持った男が現れた。

男は、牛捜索の張り紙をはがすと別の紙を張り付けた。

 

「その依頼は誰かが終わらせたのか?」

「いんや、今朝帰って来たんだと。だから取り下げだよ」

「アルド・カレイまでの護衛任務とかは無いのか?」

「あんちゃん余所者だろう。

 あの街道は交通量も多く衛兵だってしょっちゅう行き来している。

 怪物どころか盗賊だって寄り付きゃしないよ」

「そうか、助かった」

 

 

大雅はナジャムの鼻先を一路アルド・カレイに向けた。

確かに結構人の行き来が有る。

 

4時間ほどナジャムを歩かせると、茶店の様な場所があり、数人の旅人や行商人が居た。

 

「何か食うものはあるか?」

「スープは5クラウン、パンもついてだ。

 シチューは8クラウン、もちろんパンも付く。

 ベットはまだ空きがあるぜ」

 

「シチューを一人前頼む、あと馬に水と燕麦が欲しいのだが」

「なら、合わせて15クラウンだ、前金でな。

 馬は置き場に、あんたはテーブルに着いて待っててくんな」

 

ナジャムを庇だけの馬房に連れて行くと、息子だろうか10歳ほどの子供が受け取った。

空いているテーブルを探し、背もたれの無い長椅子を座るとシチューはすぐに出てきた。

 

食べてみるとシチューとは言っても、薄く乳濁したスープの様なものだ。

まあ、8クラウンで提供するのだから、仕方のない事だろう。

 

「あんた・・・旅の人かい?」

おおかた食べ終わるころ、隣のテーブルにいる男が声をかけてきた。

 

「ああ、何故そうと?」

「馬に荷物一杯乗せてるしな。

 しかも見たことの無い装束、いったいどこの出だ?」

 

「アースだ」

「聴いたことが無いな」

「お前が知らないだけなんじゃないのか?」

「・・・そうかもしれん。どんなとこだ?」

「果てしなく遠い所だ。決して辿り着けない程な」

 

大雅はこういった根掘り葉掘り聞いて来る輩には注意していた。

 

「見たところ短剣1本の様だが大丈夫なのか?」

「ああ、アークグリフィンが団体で来てもな、でお前さんは何者だ?」

 

「私は非人間族の歴史を調べている者だ。

 見たことがない恰好だったので声を掛けさせてもらった」

 

「ほう、珍しいな。

 非人間族の歴史なんて調べてどうする」

「非人間族は人より古い先住民族だ。

 学ぶべき物は多い。

 エルフの遺跡は石の文化を築いた、すでに失われた物も多い。

 ドワーフは木と鉱石の文化を築いた、しかし、エルフは溶け込めずドワーフは溶け込んだ。

 言い伝えではドワーフは、エルフより古い歴史を持って居たという。

 しかし、文字文化を持たないドワーフの歴史は、霧に隠されていると言って良い。

 それを調べれば、きっと人の役に立つ事もあるだろう」

 

「学者か?」

「ああ、アルド・カレイの大学で教えている」

「で? アルド・カレイからなんでこんなとこまで?」

 

「まあ、大学の助手から、メイヤー領の興味ある資料を見せられてな。

 その資料、写真と言う物だそうだが、とても緻密でこの世界の物とは思えん。

 是非その提供者に会ってみたいと思ったのだよ」

 

「ふむ。興味が沸いたのはその写真と言う物か、それともその人物にか?」

「両方だ。なんでも特殊な武器を使うウイッチャーだらしい、エード・グリンヴェールにいるらしいが知らないか」

「さあ、聞いたことは無いな。

 さて先を急ぐので失礼する」

 

多分ルミナ・エールファスの関係者であるうが、ここで捕まってしまっては時間を無駄にする事となりかねない。

 

 

大雅はナジャムと共に旅に戻ると、翌々日には旧ケイドウェン王国の首都アルド・カレイに着いた。

 

「さて、一先ず宿を決めないとな」

宿は城壁に囲まれた内部にある、内部に入るには氏名、職業、出身地を申告しなければならない。

問題は出身地だ、不明な場合は育った所でも構わないらしいがアースと申告した。

衛兵の横に居た文官の様な男は「アース?」と聞き返してくるが、言われた通り記載している。

この街を5日以上離れるときは再び申告するよう言われ、1クラウン徴収された。

アルド・カレイの住民は無料なのだが商用目的、親類等を尋ねる者以外は1クラウン徴収され、代わりに小さな木札が渡される。

再び町に入る場合はそれを見せるように言われる。

 

 

大雅はお勧めの宿は無いかと、近くに立っていた衛兵に1クラウンを握らせた。

 

「宿なら、"精霊の滴亭"か"3本の矢"だな。

 料金は高いが荒くれ共が少ない。

 安い所では"湖畔の岬亭"だが、先月食あたりの騒ぎを出したばかりだから、おすすめはできん。

 あと、小さいのは大体酒場が兼業している。

 4~5部屋ぐらいしか無いところが多いから、夕方になる前に予約しないと一杯になる。

 まあ、サービスで1杯付くことが多いから、人気なんだよ」

「ありがとう、では」

「良い旅を」

 

街自体は首都だっただけあって、商店の数も多く、露店に至っては至る所に店を開き客を勧誘していた。

様々な露店を冷やかしながら宿屋を探した。

そんな時、路地にある1軒のバーを兼ねた宿屋を見つけ戸をくぐった。

 

「いらっしゃい、何にする?」

「エールと軽く食べる物をくれ」

「5クラウンだ」

大雅はポケットから5クラウンを出しカウンターに置くと、男はエールを大雅の前に置きカウンターの金を回収して厨房へと入って行った。

暫くすると、少し深めの木皿を持った男が差し出した。

 

「ここら辺じゃポピュラーな兎肉のシチューだ」

カウンターに皿を置く。

 

「オヤジ、風呂が使える宿を知らないか、個室が良い」

男は黙って人差し指を上に向けて言った。

 

「1泊15クラウン、飯は付いてないが夕方にはエールを1杯付ける。

 飯は別料金で1食5クラウンだ。

 風呂は1階にある。

 1回につき5クラウン」

条件としては悪くない安宿としては平均的な価格だ。

 

「とりあえず2泊分頼む」

大雅はカウンターに30クラウン分の硬貨を置いた。

 

「貴重品については責任を負わない。これが鍵だ」

 

大雅は店の前に停めていたナジャムから、積んでいたパニエバックと樹脂コンテナを下し2階に上がった。

部屋は3室だけでキータッグに掘られている花のガラと同じ柄のドアを開け、部屋に入った。

 

「ほう、意外に広いな」

 

木の床板をキシキシと踏みしめ、部屋の隅にコンテナを下し肩に掛けていたバックを1脚だけある椅子の背もたれに掛けた。

ベットはちゃんと足の付いた寝台の様な物に乗っている。

トイレは1階の様だが、この世界では仕方のない事だろう。

 

樹脂ケースにパニエバックを突っ込み、ケースをロックするとベットの足の括れた部分にワイヤーを繋ぎ樹脂コンテナと繋いだ。

 

大雅にはこの街でいくつかの目的があった。

一つは宝石類の換金、持ち運ぶのには楽だが宿屋などでは、支払いに現金が必要と成ってくる。

もう一つは掲示板から仕事があったなら、拾い上げる事で、大型獣で有ればあるほど実入りも大きい、一方ネッカーやドラウナーの駆除程度では1泊程度の金にしかならない。

 

鞍を付けたままのナジャムを曳きながら歩いていると、掲示板を見つけ読み始める。

「ネッカー・・・ドラウナー・・・・碌なのが無いな・・」

最後に見つけた紙にはコカトリスが、尖塔に巣を作り困っている、駆除してほしい旨の記載が有り、謝礼は300クラウンと書かれている。

報酬としては悪くない。

 

コカトリスはいわば巨大なニワトリと言っても良いが、雛が生まれていれば、近付く者全てに危険であり、非常に攻撃性が高くなる。

敵と見做せば、鋭く大きな爪で攻撃され、飛ぶ事は苦手と言われながらも、空中からの爪攻撃は一流の剣士であっても、一対一で対峙するには危険である。

 

街の中に巣を作ったのであれば、衛士が対応すると思うが掲示板に出ているのならば町の外だ、掲示日は2日前の物で、依頼主はアンテルド教会とある。

 

ナジャムを連れ門兵に場所を聞く、とりあえず現場確認と話を聞かなければどうにもならない。

 

「アンテルド教会ならこの道を少し行ったら左道に入って5分ほど馬で行けば尖塔が見えるはずだ。

 だが今は止めた方が良い、コカトリスが巣くってるって事だからな。

 死にたくなかったら近寄らないこった」

大雅は右手を上げただけで礼をして、ナジャムを教会へ続く細道へと向かわせた。

 

大雅はコカトリスに対する情報データベースから引き出し読み返す。

番で営巣する事は無く、雌単独で谷の岩場などに営巣し、通常2~4個の卵を隔日で産む。

雛が生まれると給餌のため最初のうちは植物や小動物を捕るが、大きくなると活発に小動物や家畜を襲い、大きな固体では小型の牛などは被害に遭う。

同時に凶暴性が高くなり、巣に近づく者に対しては無条件で攻撃してくる。

 

「問題は、狙撃ポイントが取れる場所が有るかどうかだな」

 

教会の尖塔が見えてきた、尖塔と言っても先端の尖った屋根は崩れ落ちており、天辺は平らになってしまっている。そこへこれ幸いと営巣したのがコカトリスのようで、木や枝で作られた巣がもっさりと掛けられていた。。

 

門をくぐり教会の敷地に入った途端、キョェーと大きな警告の声が響く、

「もう抱卵しているのか?」

 

ナジャムから降りM99のケースを下して声をかけた。

「ナジャム、少しばかり危険かもしれん、離れて居ろ」

大雅がそういうとプルッと答え門を出て行った。

 

固く閉じられた門を叩いた。

 

「おい、誰かいないか? 掲示板を見て来たんだが」

暫くするとガコッと音がしてドアが開いた。

 

「コカトリスの件を掲示板を読んできた、詳しい話が聞きたい」

「貴方は?」

「アースの大雅だ。怪物退治が専門だ」

「お入りください。ああ、すぐ扉は閉めてください」

 

教会の内部は人気も無くヒンヤリとしていたが、食堂の様な場所に通された。

中には数人の司祭と、不安そうにしている一人の雑夫が居る。

 

「さて、話を聞かせて貰えるか」

「コカトリスが営巣したのは二日前だ。

 様子を見に行った雑夫の一人が捕まってしまい、巣に連れ込まれた。

 頼む、見捨てるのは不憫だし、長く教会に仕えてきてくれた者だ、できれば助けてほしい」

「それが300クラウンの条件か? 失敗した場合は?」

「すまないが100クラウンだ」

「火矢を射かけなかったのは正解だな。

 逆上したコカトリスに皆殺しに会ってただろう。

 いいだろうまだ生きているという確証は?」

 

「昨日もコカトリスが出かけている内に、巣の中に水の瓶を投げ込んだでさぁ、その時はまだ生きてるのを見ただよ」

「何処から? もしかして屋根か?」

「ああ、天窓から出て距離は有るが、塔の近くまで行けるだよ。

 でもコカトリスが帰って来たんで、慌てて戻った」

 

「天窓まで案内してくれ」

階段の踊り場まで行くと踊り場の上に天窓があった。

 

「梯子ならこれ使ってくれ」

そう言って雑夫が持ってきた天窓から屋根の状況を見た。

合掌造りの様な急な勾配となっており、40m先に塔が有る、外す距離では無いが今回は要救助者を助ける必要がある。

下手に仕留めると、要救助者がコカトリスの下敷きになり、圧死してしまう可能性もある。

なぜコカトリスが居ないうちに逃げなかったのか不思議だが、状況を確認するまで何とも言えない。

 

大雅はドローンを展開すると巣の中を確認に入った。

 

「巣の中に男が一人いる。

 生きてはいるが、どうやら両足に怪我を負っているようだな」

「おお、まだ食われていないとは!」

 

「多分雛が孵った後の餌として温存している可能性が高い」

大雅は梯子を降り、ドローンを回収した。

 

「コカトリスを仕留めるのは容易いが、それだとコカトリスの下敷きになる恐れが高い。

 それに巣の中に卵が2個ほど見えた」

「助けられそうか?」

 

「コカトリスが巣にいる状態では無理だ、なら巣からおびき出すだけだ」

 

屋根を支える梁にベルトスリングを使って、簡易なアンカーを作成し、背中のパックパックを下す。

ショットガンを取り、2発の弾を取り出すと代わりにFRAG-12という弾を装填した。

この弾は12ゲージの散弾銃で撃てる榴弾で、人が喰らったら半身がミンチになるという凶悪な弾頭だ。

米国のミリタリーポリスシステム社とアクション・マニュファクチャリング・カンパニー社が共同開発したこの弾は通常のショットシェルの中に安定翼付の18.5ミリ弾頭が納められており、弾頭の種類は榴弾(HE)や徹甲弾(HEAP)で特に徹甲弾は厚さ0.5インチの鉄板を貫くことが可能とされる。

今回使用するのは即発信管を持つHE弾だ。

 

コカトリスは一応飛竜種のカテゴリーだが、実際には巨大なニワトリであり、動きが俊敏だ。

狭いうえに、傾斜のきつい屋根の上での戦闘は1発で仕留める必要がある。

 

腰にロープを接続し屋根へと出る。

ターゲットまでの距離は30mと無い、すでにコカトリスは首をもたげ威嚇の声を発している。

初弾をチャンバーへと送り込み、近づいていった。

 

距離が20mとなった時コカトリスは大きく羽根を広げ、巣から飛び上がり屋根へと渡ってきた。

 

バンッ!という音の直後に湿ったボンッという音が響く。

小型榴弾がコカトリスの胸に当り肩から上の首を飛ばし、肩に真っ赤な花が咲いたようにミンチとなっている。

 

「うえ~っぺっぺっ・・・至近距離で撃つもんじゃないなコレ」

顔に掛けたグラスにまで、コカトリスのミンチの肉片が飛んできた。

大雅は、巣へ向かうと餌に成りかけていた雑夫に声を掛けた。

 

「おい・・・生きてるか?」

「ああ、倒してくれたのか?」

「倒したさ、動けそうか?」

「両足が折られている、無理だ」

「この塔は出入り口が無いのか?」

「階段はあるがこの巣の下だ、巣を退かさないと使えない」

屋根と塔の間には2mほどの距離があり、けが人を運ぶことは出来ない。

 

「下からアプローチする、出来れば階段から離れた場所に移動させるぞ」

大雅はロープを回収し、一度教会の内部へと戻った。

 

「た、倒したのか?」

「ああ、簡単だったよ、今から巣にいる雑夫を助ける。

 塔への階段に案内してくれ」

「こっちだ」

 

階段を上ると上が枝で塞がれた場所まで来た。

枝といっても太い物は10センチもある。

 

「ノコギリで切れば助けられる。

 雑夫は両足が居られているようだから動けないだろう」

 

大雅はワイヤーソーをパックパックから取り出すと枝を切り取り階段の下に落としていった。

「枝が邪魔になるから片付けてくれ」

 

別の雑夫は頷くと枝を抱えて階段を下りて行った。

 

ワイヤーソーで枝を切りながら。巣に通り抜けできるほどの穴を開けると大雅は巣の上に出た。

 

「よう、待たせたな、足以外のけがは?」

「ああ、あちこち突かれて痛いが大丈夫だ、早く助けてくれ」

「とりあえず巣を片付けるから、こっちに寄ってくれ」

 

大雅は複雑に絡まっている枝を何か所かワイヤーソーで切ると次々と枝を塔の外へ放り出した。

途中で2本の比較的真っすぐな細枝を見つけ、雑夫の足に当て木をして背負った。

 

「助けてくれて礼を言う」

司祭が頭を下げた。

 

「なに、仕事だからな。

 それよりこいつを医者に連れて行った方が良い」

「わかった、今雑夫が荷車と馬を用意している、報酬はこれだ」

そう言って厚手の布袋に入った金貨を渡してきた、中身をさっと確認しポケットにしまう。

 

「で、コカトリスはどうするね」

「どうするって?」

「コカトリスの肉は良い値で売れるんだが」

「好きにすればいいさ、俺はコカトリス退治と雑夫の救助を請け負っただけだ、雑夫の治療費にでもしてやるといい」

「おおっ、貴方に神のご加護が有らんことを」

 

そういうと大雅はナジャムに乗り教会を後にした。

街へのんびりと戻る道すがら「あ゛っああっ!」と悲鳴を上げるけが人を乗せた荷車が、結構な勢いで追い越していった。

 

もう少し優しく運んでやればいいのに、と思いながらも街へとナジャムを歩かせる。

 

 

宿へ戻るとカウンターには主人もおらず、何人かの人が騒いでいた。

 

「主人はどうした?」

「なんでも娘さんが攫われたらしくってな。

 町の衛士と一緒に東の山へ向かったんだ」

 

「いつの話だ?」

「ああ、あんた昨日ここへ泊った人だろう。

 ここの宿は家族でやっててな、客室の片づけや手伝いを、かみさんと娘が手伝ってるんさね」

「で、夫人は?」

「娘を守るため賊に立ち向かったらしくて、怪我をしてなさっき治療院へ運んだよ。

 命に別状は無いが、暫くは歩けんなありゃ」

 

仕事が終わって帰って来たと思えばヤレヤレだ。

そこへ宿の主人が帰ってきた、重く塞ぎこんだ表情だ。

 

「どうだった!」一人の男が宿屋の主人に声をかけた。

「あいつら洞穴に立て籠もってやがる。

 娘を助けたいが30人も居て、衛士10人ほどじゃどうにもならん。

 ああっ! メリス!」

 

「場所を教えてくれ」大雅は主人に声を掛ける。

「南の門を出て、1キロほど行った先を右に行くと小高い岩山がある。

 そこが奴らの根城だ。

 助けてくれるのか!」

 

「確約は出来ないが、それでもかまわんか」

「た・・たのむ! メリスを助けてくれ、あんたウイッチャーなんだろ?

 金は払うから頼む!」

 

大雅はナジャムに乗り現場へと急いだ。

向かう道で、一人の衛士が走ってきた。

 

「どうした!」

「小隊がやられたんだ、これから応援を呼びに行くところだ」

「状況は?」

「隊長他8人がやられた! 手練れが一人いるんだ」

「わかった、邪魔をしたな」

 

暫く行くと岩山が見えてきた、その根元に庇の様な出っ張りがあり、洞窟の入り口になっている。

双眼鏡で見える入り口では、移動の準備なのだろう慌ただしく動く男たちと、横の方に退かされた衛士の遺体が見える。

 

大雅はAKMSにサプレッサーを付け、一人の盗賊に狙いを付けトリガーを絞った。

距離はおよそ200m、無理な距離ではない。

パノラマサイトの手前にあるブースタースコープを起こした、これで簡易的な望遠スコープとなる。

正式なスコープでは無いため距離補正などの機構は無く、レティクルの目盛りで補正しなければならない。

 

カカンッ!

一人の盗賊はしゃがむように倒れ、それに気づいた別の盗賊も同じように7.62ミリの銃弾を食らわせていく。

 

「さてと、突っ込みますか」

ナジャムを走らせ、洞穴の近くで飛び降りた。

 

穴から出て来た10人ほどを倒し、ショットガンに切り替えた。

 

「てめぇ誰だ!」

「娘を返してもらいに来た、じっと死んでろや」

そう言って、シッョトガンをぶっ放した。

ぶっ放したのはいいが、盗賊の上半身はきれいに霧散した。

付近に飛び散った足や手が、辛うじて人であったことを物語る。

 

「ありゃ、そういやまだ榴弾入れたままだったよ。

 あーあミンチになってら、きったねーなぁ」

 

残りは20人ほどだろう、奥へと足を進める。

「ったくちっとは片付けろや」

足で、カゴの様な物や袋を退かし、広い所に出ると野盗が剣を片手にたむろしていた。

 

「よーし、全員死にたくなければ武器を捨てろ! 死にたい奴はかかってこい」

言ったとたん、数人の野党が剣を振り上げ迫ってきた。

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

 

「さて、もう終わりか? じゃあ娘を返してもらおうか」

弾を素早く補給しながら大雅は言った。

「てめえ何もんだぁ」

 

「大雅という、その娘を連れて帰らないと、今日の飯と風呂には有り着けそうにないんでな。

 大人しく渡せば殺さないでやる」

 

「死ねぇっ!」

ズドンッ!

 

男の頭が霧散する、至近距離から撃たれた9粒の鉛玉は、頭蓋骨を粉々にしてミンチに変える。

 

「頭ぁ!」

「さあ、お前たちもこうなりたかったら掛かって来な」

 

カシャン、カシャンと剣を手放す音がして、次々に剣を足元に落としていった。

視界の片隅で弓を番える男を発見し、すぐにショットガンを撃ちこむ。

剣を捨てた別の一人も銃弾を受け、のたうち回っているが右腰からP320の弾丸を頭部に撃ちこむ。

 

「さて、娘を引き渡せ。

 早くしないとお前たち全員を殺して鍵を探すこととなる」

一人の男が慌てて首から下げた鍵を取り、奥にあるお手製の木で出来た俺から娘を連れだした。

 

「君がメリスか?」

「はいっ!」

「親父さんから依頼を受けた。ついて来い」

 

「よし、お前ら。その檻に入れ」

「逃がしてくれるんじゃなかったのかよっ! ちくしょうっ!」

「殺さないと言ったが、逃がしてやるとは言ってないぞ、今この場で殺されるか、大人しくその牢にに入るか選ばせてやる」

精々数人しか入れない檻に、ギュウギュウ詰めにされた野盗は、知りうる限りの悪態をつきながらも従った。

 

娘を馬の後ろに乗せ、洞窟を後にしようとしたとき、5人ほどの衛士がクタクタになりながらも走ってやってきた。

 

「其処の者、馬を停めろ!」

大雅は素直に馬を停めた。

 

「なんだ」

「怪しいヤツメ。何者だ」

 

「このメダルを見れば何者か判るだろう?

 この娘の親から依頼を受けて、野盗どもの根城から救い出した」

「なにっ! 同族共が30人は居ると聞いたのだが」

 

「15人ほどは倒したが、後は檻にいれてある。

 捕まえるのなら勝手にすればいい」

「娘、それは本当か?」

「はい、この人が救ってくれました」

 

「信用できん、ついて来い」

「断る。

 大体こんな近くに野盗どもの根城が有ること自体が不自然だと思わんか。

 なぜ駆逐しない。

 やろうと思えばできたはずだ。

 それにたった5人で向かうつもりだったのか?

 お前こそ答えろ、あの盗賊共と手引きしていたのはお前じゃないのか?」

「やかましいっ! おいっ! コイツを捉えろ!」

 

隊長らしき者が声を上げると、周りの衛士も剣を抜き始めた。

 

「ほう、では相手になってやろう」

大雅は馬を降りるとAKMSを構えた。

 

カカンッ! カンッ!カンッ!

律儀に一人づつ向かってくる衛士を、次々と倒していく。

わざと急所を外し、肩や足を撃たれた衛士が倒れ、残るは隊長格の者だけとなった。

 

「さて、正直に話して貰おう。野盗どもとお前の関係は?」

「お前に関係ない!」

 

「自分の置かれた状況が判らないバカは、早死にするよ?」

そういって、大雅はナイフを抜き、衛士の肩に突き立てた。

薄い鎧なぞブリキ缶と大して変わりない、簡単に突き破り肩の肉へと突き刺さる。

「ぎゃあっ!」

 

「まあいい、盗賊に聴くか、悪いがお嬢さん、街に戻るに少し遅くなりそうだが構わないか」

「は、はい」

 

大雅は隊長をロープで繋ぐと、ナジャムを洞穴の方に向かって歩かせた。

「キリキリ歩かないと引き摺って行くからな。

 もちろん速度は全速力でだ。

 この馬ならそれも楽勝だ」

 

洞穴に入ると力任せに檻を壊したのか、数人の野盗が檻から出るところだった。

 

「誰が出ていいと言った?」

男は地面の剣を拾い上げ向かってきたが、すかさず2発の7.62ミリを頭部に受け、後頭部から血煙を上げた。

 

「さて、この男に見覚えは?」

「・・・・・」

「おい、お前、出ろ」

一人の野盗を檻から出させた。

 

「お前に聴く、こいつは仲間か?」

「ああそうだ。

 衛士だが、実際は俺たち山猫団の副頭目だよ」

 

「なるほど。証言できるか。

 そうしたら裁判で司法取引できるよう話してやる。

 無罪放免は難しいだろうが、縛り首になるよりはマシだろう?」

「わかった・・・すべて話す・・・」

 

そこへ槍と楯を構えた衛士が、30人ほどやってきた。

 

「どういうことだ、お前は?」

「俺はアースの大雅という。

 攫われた娘の救出依頼を受けた者だ。

 救出はしたが、こいつを含む5人が絡んで来たので返り討ちにしたが、まあ、すぐには死なない程度にして倒した。

 野盗は16人ほど倒したが、こいつらは残党だ。

 それと野盗の副頭目というこの衛士が一人だな」

「なんだって? 本当かダレット!!」

 

「い、いえっ! 自分は・・・っ!」

そこまで言って、今度は野盗どもからブーイングが出た、口々に「そいつも仲間だ!」とか「うそつきめっ!」などの罵声が飛ぶ。

 

「おい、全部話せ」

大雅は、檻から出した男に全てを話させた。

この副頭目がこの地域の警ら担当で、他に何人か衛士の仲間がいる事。

何食わぬ顔で街に入り込み、空き巣や強盗をしていたこと、その時は仲間の衛士が周りを固め、他の衛士にバレないよう固めていたことなどを話し始めた。

 

「事態はわかった、おい! ダレットを拘束しろ! 盗賊共もだ! 収容した衛士も拘束しろ」

「で、お前に頼みがある」

大雅は騎士の様な恰好をした男に言った。

 

「ハンスだ。

 騎士でな、アルド・カレイの南地区衛士を統括している」

「この盗賊の一人は、すべて話す事を代わりに裁判で手心をして欲しいらしい。

 つまり司法取引だな。

 罪状、何故衛士が仲間になっていたのか、全て話す代わりに極刑は許してほしいそうだ」

 

「盗賊は縛り首と決まっている。

 難しいだろうが、審判官には私から話しす事を約束しよう」

「まあ、その件はお任せする。

 ということで娘を連れて帰っていいか?」

「ああ構わんが、出来れば明日は町を出ないでくれ。

 もし聞きたいことが起こったら困るからな」

大雅は泊まっている宿屋の名前を告げると、娘を連れ街へと戻って行った。

 

娘を連れて帰ると、宿屋の主人は半狂乱のように喜んだ。

 

「父さん! 」

「メリスっ! ああっ、 無事だったぁ! 無事だったぁ!」

大雅は近くの馬止にナジャムを繋ぐと、近くにいた男にクラウンを握らせ、水と燕麦を多めに与えてくれるよう頼んだ。

 

大雅がデイパックや銃を部屋に置き、下へ降りると娘が奥の厨房で働いているのが見えた。

強攫われ怖い思いをしているはずなのに、すでに働いている。

この世界の人々は逞しい、大雅の世界なら数日どころかPTSDに罹る場合さえあるのにだ。

 

厨房がひと段落したのか、エールを3つほど持って大雅の方へと父親の主人と一緒にやってきた。

 

「今回は世話になった、これは少ないが」

そういって小さな布袋を差し出してきた。

 

大雅は布袋を持ち上げ何度か上に放り投げると、再び宿の主人の前に置いた。

「これは怪我をした女将さんへの俺からの見舞いだ。

 素直に受け取らんと、暴れるかもしれんぞ」

そう言ってにやりと笑う。

 

「ははっ、それは困る。

 では泊まり賃をタダにしよう。それなら納得してくれるか」

「それは助かる」

「え? そんなので良いの?」

「さあ、乾杯してくれ! 娘が無事帰ってきたことを祝して!」

 

何も言っていないのに、大雅の前には肉を焼いたものや、シチューが運ばれてきた。

店の中には他の泊り客数人と、常連客と思われる数人の男たちがたむろしている。

 

「おおっ!今日は看板娘が出る日だったか?」

「ボケるにゃ早えーぞ、爺さん。曜日が違うだろうが」

 

「みんな聞いてくれ、今朝娘が攫われた。

 そしてさらった盗賊団から娘を救い出してくれたのが、そこにいるウイッチャーだ!」

「おい、そんなことが有ったのかよ。

 大丈夫かメリス嬢ちゃん!」

 

「うん、大丈夫だよ。でも母さんが怪我しちゃって・・・」

「怪我は酷いのか?」

「膝を少し痛めただけ。

 来週には治るらしいけど」

 

「そいつは災難だったなあ、下手人は捕まったのか?」

「タイガさんが倒してくれたの! かっこよかったなぁ」

「おい、ウイッチャーに惚れちゃったのかよ。

 止めとけ止めとけ。

 子も出来ないって聞くぞ」

「べーっ! だっ! ピケットさんには関係ないでしょ!」

 

「メリス、そっちのお客さんにこれを」

「はーい!」

クルクルと回るように働くメリスを見ながら、食事をとる大雅の前に、先ほどピケットと呼ばれた初老の男がやってきた。

 

「一杯おごらせてくれ」

「いや、気持ちだけもらっておくよ。

 もう十分に頂いたしな」

「なんでぇ、ウイッチャーの癖に酒が弱いのかよ」

「残念ながら。

 ウイッチャー家業をしているが人間なんだよ」

 

「お嬢喜べっ! ここのウイッチャーさん人間だってよ! ガキ作れるぞっ!」

 

食事を終えた大雅は、酒の摘みにされる前に早々に席を立ち自室へと戻った。

これ以上弄られるのは堪らない。

銃の整備をしてから1Fでお湯を使い体を洗った。

 

翌朝、掲示板を見に街へ出ようとしていた処へ、昨日会った衛士を取りまとめている騎士のハンスが訪ねてきた。

 

「出かけるところだったのか?」

「掲示板を見に行こうとしてた所だ。

 これでもウイッチャー家業なもんでな」

「今日は盗賊共を倒したことについて聞きたくて尋ねた」

 

「で? 何が聞きたい?」

「盗賊達や亡くなった衛士の傷を改めたところ、剣によるもの他に、ありえないような損傷の激しい物が有った。

 衛士は剣傷の他、4名ほどは足や体を小さな槍の様な物で傷つけられている。

 あれは魔法なのか?」

 

「俺の武器はこれだ」

そう言って大雅は背中の銃を外して見せた。

 

「この複雑な物がか?」

「これは銃と言う。

 火薬の力で小さな金属を、凄まじい速さで打ち出す武器だ。

 この世界に火薬は有るが、銃や砲が無いのが不思議だが、俺の居たところではこれが武器なんだよ」

 

「火薬はウイッチャーや、一部のドルイドやドワーフしか作れない。

 爆薬を買っても保管方法が悪いと使えなくなるし、雨にも弱い。

 しかもその威力は決して大きくないしな」

「なるほど、だが俺の所の火薬は強力だ。

 これは似たような物だが、半径9mの者は殺す能力が有る。

 また20m以内に居る者は、怪我を負い動けなくなる」

そういって、1発の40mmグレネード弾を取り出した。

 

「すごいな・・・だが高威力なら投げた後も危ないんじゃないか?」

「こいつは手で投げない。

 専用の発射器を使う、だから300m離れて居ようと届く」

 

「頭部が無い遺体も有ったがコレで?」

「いや、昨日は1発も使っていない、使用したのはショットガンと言うこっちの銃だ」

 

「シッョトガン?」

「ああ、火薬で小指の頭ほどの鉛玉を、9粒同時に打ち出す銃だ、早く動こうが多少方向がズレていても関係ない。

 至近距離から頭を撃てば、吹き飛ぶ威力だ」

 

「それでか激しい損傷のある遺体があったのは。

 だが小さい穴が開いた遺体も有ったぞ」

「それは普通の銃だな、このAKMSかハンドガンだろう。

 これでも当ればただでは済まない」

 

「あの盗賊たちと衛士は縛り首になった。

 証言した盗賊は減刑され30年の鉱山労働だ。

 まあ出る前には死ぬだろうが」

「そうか、縛り首だけは逃れたか」

 

「意外か?」ハンスは大雅の目を見て言った。

「いや、どの道盗賊に身を落とす奴だ、改心なんて考えても居ないだろうしな」

「だが、証言を得るにはいい手だ、これからも使わせてもらおう」

「どうぞ、お好きに」

 

「一つ聞くが、その力生かしてみる気は無いか」

「それはできない。

 依頼なら別だがな。

 人を探していてな、一つ所に腰を落ち着ける気はない」

 

「そうか、それは残念だが致し方あるまい。探し人は女か?」

「ほう、何故そう思った?」

 

「男が意地をかけて探すのは、仇か女と相場は決まっているものさ」

「女だ、だが勘違いするなよ。

 色恋沙汰じゃない」

 

「女の仇とか?」

「イェネファーという女魔法使いだ、力を借りたくてな」

「ヴェンガーバーグのイェネファーか。これは驚いた」

「驚く?」

「ああ、女魔術師の中でもトップクラスの実力の持ち主だ、フィリパ・エイルハート、トリス・メリゴールドと並ぶ女魔術師だ」

 

大雅はおっと言う顔で、ハンスに聞き返した。

「その者たちの消息は?」

 

「数年前スケリッジで大きな戦いが有った。

 ワイルドハントという怪物との戦いだ。

 これにはさっきの女魔術師の他スケリッジ人、なんとネルフガードの兵士も参加して撃退したと聞く。

 ただその後の消息が全く分からないまあ、スケリッジに行けばもっと詳しく知っている者も居るだろうがな」

大雅の中で、確実にスケリッジ行が固まった。

 

「そろそろ掲示板を見に行きたいんだが、話はそれだけか?」

「いや、この街を出る前に詰所に寄ってくれ、お尋ね者が何人かいてな、報奨金が出ているはずだ」

「判った、寄らせてもらおう」

ハンスから報奨金の通知書を貰うと、ハンスは足早に帰って行った。

 

 

「ふむ、今日も碌な依頼が無いな」

顎に手を当て掲示板を眺めていると、後ろから女性が声をかけた。

 

「タイガ?! もしかしてタイガじゃない?」

振り向くと其処にはルミナ・エールファスが立っていた。

決して豪華ではでは無いが、良い生地としっかりとした縫製の裾の長い法衣に似たローブを着ている。

 

「ルミナか! 久しぶりだな。元気だったか」

「ええ、今は論文をまとめている最中よ。どう? 少し話さない?」

「それは構わんが仕事ではないのか?」

「息抜きは必要よ、タイガも時間は有るようだし、さ、行きましょ!」

 

ルミナはニコニコと大雅を押し切るように、連れ立って歩き始めた。

しばらく歩くと、綺麗な街角に変わってきていた。

 

「ほう、綺麗な街並みだ」

「まあこの辺りは、中ぐらいの裕福さなのよ。

 と言っても食べ物に困らないって程度だけど」

 

「ここよ、此処が私の住処」

「買ったのか?」

「まさか! 借りているのよ。詳しくは中でね」

そう言って大雅の手を引きドアのカギを開けて入って行った。

 

 

「そこらへんに腰かけてまってて」

大雅は、陽炎が上り立つように歪んだガラスが嵌った窓の近くに、長椅子を見つけると座った。

ルミナは2階に上がると5分ほどして降りてきた。

そのまま1階の奥のドアを開け、厨房の方でカチャカチャと食器を出し始めた。

 

「おまたせ~」

紅茶の香りがあたりに漂った。

 

「ほう・・良く手に入ったな」

「そうよ、すっごく探したんだから。

 あの味が忘れられなくってさ。

 まさかトゥサン産の発酵茶だなんで知らなかったし探したわ。

 ちょっと・・いえ、すっごく高かったけど思い切って買ったのよ」

 

「有意義な金の使い方だ、所で、まだ宝石はそのままで持って居るのか?」

「ええ、大部分はまだ宝石のままよ、その方が軽いし嵩張らないしね。

 一度に換金なんかしたら話題に成りかねないわ、それを言ったのはタイガよ?

 貴方はもう替えたの?」

 

「いや、1/3ほどは使ったが、まあ投資に近いな。

 残り2/3はまだ宝石のままだ、幸いなことに稼げているんでな」

「日に日に宝石や貴金属の価格は上がっているわ。

 まだ宝石のまま持ってた方が得よ、この街での仕事は?」

 

「ああ、何件かはこなしたよ。

 コカトリス退治と盗賊らに浚われた娘の救出だ。

 あまり金には成らなかったがな」

 

「ここら辺は衛士が多いからね。

 そうだ、もし時間が有るならここから2日ほど行った所に、まだ開けられていない遺跡が有るの。

 一緒に行ってみない?」

 

「近くなのに荒らされていないのか?」

「何処から持ってきたのか、使われている石がすっごく固くってね、何人も扉を開けようとしてもできなかったの。

 あなたの爆弾なら可能かもしれないし」

 

「どういった遺跡なんだ?」

「扉の意匠や作りから、古代エールファス期よりさらに古い物とみられているわ。

 でも確かな事は判らないの、なにせ中に入った人は居ないのだから」

 

「報酬次第だな、貴重な特殊爆薬が必要だろう。

 となると決して安くない。

 それにここでの調査が終わったら、スケリッジへと向かう予定だ、路銀は確保したいんでな」

「そうなんだけど、あの場所は一応国の管理下にあるの。

 私が得られるのは3割だけ」

 

「だが前回の様に8割は隠すんだろう?」

「えへへ、わかってらっしゃる! と言う事で行こう!」

 

翌日、大雅は宿を一度引き払う為戻り、救出した娘親子の見送りを受けた後、衛士の詰所に寄り、600クラウンと言う結構な額の報奨金を受け取る。

 

「俺だ、大雅だ」大雅はルミナの借り家のドアをノックした。

 

カタンと音がし、硬い木で設えたドアが開く。

「まってたわ、あふっ・・」

「眠そうだな、昨日遅かったのか?」

「そうね、でも旅の途中で解消するつもり。とにかく入って」

 

部屋の中は結構散らかっていた、着替えや調査に使う道具そして食料など。

 

「まあ、散らかっているのは勘弁してね、出発は明日にしましょう」

「何だって? 今日じゃないのか?」

 

「馬の空きが無かったのよ。

 どの道、食料も足りないし着替えも買い足さなきゃ。

 あ、ソファの退けて適当に座ってて」

「てっきり今日が出発と、宿を引き払ってしまったんだが、そういう事なら出直してくるよ。

 まだ宿は埋まってないだろうから」

 

大雅がドアの方へ行こうとすると、慌ててルミナが止めた。

「宿代がもったいないじゃない、それに一日ぐらいならそのソファでもいいでしょ?」

「男を泊めるというのか?」

 

「別にいいじゃない。

 私は2階、タイガは1階。

 でも襲ったら覚悟してね」

「覚悟?」

 

「今日は危険日だから絶対子供出来ちゃうの。

 父親にしてあげるわ、逃げたら至る所で言いふらしてやる。

 タイガの有る事無い事、尾ひれをたっぷり付けて」

 

「何が有っても絶対に手を出さないよう誓うよ、絶対だ。

 だがそれなら宿を今から探す方が、よっぽと精神衛生上いいな。

 うん。そうしよう」

 

「ちょ、今日は手料理を食べさせたいのよ。

 どうせ取っておいてもダメになって捨てちゃうのももったいないし、ちょっとだけなら・・・。

 うーーー! キスぐらいまでなら良いわ」

 

「手料理は興味が有るが、他はご遠慮する。

 宿を探し夕方には戻って来る。

 それまでに旅支度は済ませておくんだ」

 

大雅はルミナの家を後にすると、宿探しを始めた。

一軒は満室で断られ、あと一軒は相部屋しか残っていない。

相部屋で気を使うよりは、野宿した方がタイガにとっては楽だった。

 

この街には2つの掲示板が有る。

基本的には同じ内容が出されるのだが、暇つぶしにドラウナーでも狩るかと、もう一つの掲示板へと向かった。

 

ナジャムを公共の馬止に繋ぎ、掲示板を確認したが、ドラウナーどころかまともな依頼さえない。

手伝いとか作業をして欲しいなどの物ばかりだ、それどころか半分近くが商品や店のPRだった。

 

そこで郊外まで出て涼し気な木陰で昼寝でもと、何本かの焼き櫛肉を買い求めた。

路銀はスケリッジに向かうには十分である、持っている宝石を売ればさらに十分な金が手に入る。

明日は手に余る様なら、さっさと見切りを付け、スケリッジに渡る為にオクセンフルトへと向かった方が良い。

 

そんなことを考えていたらすっかり眠ってしまい、気が付いたら陽が傾きかけていた。

時計を見ると16時を示している。

 

「ころ合いも良いか」近くで草を食んでいるナジャムを呼び寄せるとその高い背に乗って町の方へと向けた。

 

ルミナの家にたどり着きドアを叩いた。

 

「宿は見つかった?」

「いや、野宿で構わんからな」

「でしょうね、今日は小さなお祭りがあるのよ。

 だから大抵の宿はもう埋まっているはずだもの」

 

「どうりでな、さて何か食わせてくれるんだろう?」

「もちろんよ! さあ、座って、今日はとっておきのワイン開けちゃう!」

 

大雅もせっかく作った物を無駄にするのは気が進まないし、彼女が作った料理も気になった。

 

大皿料理がいくつかと焼き立てのパン、そして冷たい井戸水で冷やされたワイン、銀色のコブレットが並んでいて、蝋燭もセットされている。

 

「準備もせずに料理を作ってたのか?」

「準備はすぐにでもできるわ、食材がもったいないからなんだからね」

「明日は早いだろうに・・・まあ、料理に罪は無いから頂こう」

 

「その前に汗でも流してきて、汗臭い男なんか嫌だわ。

 そっちの部屋にお湯を張った桶があるから」

大雅は特に汗をかく事と言うか、昼寝をしただけなので汗もかいていないが、有り難く使わせてもらう事にした。

 

その部屋は、洗濯や浴室として使っているのだろう、ルミナが既に使ったのか、床に敷いた板は湿っていた。

 

部屋の片隅にあるテーブルに、装備と着替えが入った革袋を置く。

アーマーアンダーも脱いで全裸に成り、風呂場に入った。

頭を濡らし、シャンプーを済ませ、大きなタライのお湯につかる。

ボディソープもシャンプーもロッテンにせがまれ取り寄せた内の1セットを旅行用といて使っていた。

ロクシタンの芳香が部屋いっぱいに広がる。

 

着替えようとした時、部屋干しと言っても、半分ほど屋外なのだが、干してあるルミナの下着が沢山干してあった。

 

「抜けて居るのか、ワザとなのか悩むところだな」

この世界に来てから洗濯は殆どしていない、なぜなら常に半固定インベントリで新しいものや洗濯した物を取り寄せられるからだ。

 

新しいコンバットスーツのパンツにコンバットブーツ、それに少し暑めだったのでアーマーアンダーでは無くタイトなシャツだけを着た。

これだけでも家の中ならば寒いという事は無い。

 

「お湯を貰ったぞ」

ルミナは大雅を見た途端赤く頬を染めた。

 

「す、すわって・・・それ・・し、下着なの?」

「まあ、それに近いが純粋な下着ではないぞ。

 別にこの姿で街へ出てもおかしくはないだろう」

「そ、そうなんだけど・・・体の線が・・・た、逞しいのね・・・」

 

「そうか? 普通鍛えていればこんなもんだぞ。

 それに俺よりガタイが良くて上半身裸なんて、街にウロウロしてるだろうが」

ルミナも言われてみれば「そうだよね」としか言えない。

事実その通りなのだから。

 

ワインは適ごろに冷えていた、あまり酒類を口にしない大雅だがこの時ばかりは美味しいと思うほどの物で、地球でも高価なワインに分類されるだろう。

 

「さすがトゥーサンのボーヌ・プルミエね。

 香り、舌触り、後味共に満点だわ」

「すまない、ワインと言うか酒類全般が苦手なんだが、これは旨いと思う」

 

「ほら、料理も食べて。母譲りの味よ」

そう言って大皿から、鶏肉の煮込みとみられる料理を、少し深めの皿に盛り大雅の前に置いた。

 

「頂くよ」

一口食べて見ると、見た目の茶色い色とは裏腹に、しっかりとした鶏肉の風味、爽やかな香草とコリッとした豆の様な食感、素直に大雅は美味しいと感じていた。

東京でもこの味なら店に出せるレベルだ。

 

「これは驚いた・・・・すごく旨いな。

 こんなに料理上手だとは思わなかったよ」

「ほんと? わあっ! うれしい! 沢山有るからもっと食べて!」

 

普段酒を飲まない大雅も、料理の味に釣られ珍しくワインが進んだ。

気が付くと二人で1本を開けてしまっていた。

 

「でねぇ、アタシは教授の仮説は納得できない訳よぉ~、でもぉ~まだぁ調査の・・キュフッ・・量が足りないのねぇ・・・・ありゃ・・ワイン無くなっちゃったぁ・・・・・」

フラフラと酔った足取りで椅子を立つとキッチンへと向おうとした。

 

「なあ、もう十分に飲んだ。明日も有る」

「ふみゅ、全然飲んでないにょようぉぉ」

 

「ほら、呂律だって回っていない。

 もうよせ。料理もうまかったしワインもうまかった。

 今日はもう休め」

「ねへへへぇ、んなこと言って私を抱く気でしよぉ?

 いいよぉ、責任ちゃんととれくりゅりゅなら」

と大雅の首に両手を回してきた。

 

"そうだった、こいつは酒癖が悪いうえ、最後には脱ぎだすんだっけ"

 

大雅はそれを思い出し、ドレス姿のルミナをヒョイと抱き上げた、一般にいう所の"お姫様だっこ"と言う奴だ。

 

「わっ・・抱かれちゃったぁ・・・あはははっ」

 

喜んで大雅の首に腕を巻き付け、首元に頭を擦り付けるルミナを抱き、2階のベットへと運ぶ。

 

「ほら、ベットに付いたから腕を首から離せ」

「うみゅう・・・・だっこぉ・・・」

 

酔っぱらった女など抱いたら碌なことにならない、大雅は腕を力任せに外すと、シーツを掛けてやり後にした。

 

大部分をルミナが飲んでいたため、酒に弱い大雅でもほろ酔い程度だし、もともと酒が弱い訳ではない。

ソファにあるクッションを端に置いて、とっとと眠る事にした。

 

 

翌朝は結構早い時間に目が覚めてしまった、それもそうだ大雅の時計で眠ったのは21時ころだ。

老人と違って、さすがに3時に目が覚めてしまうという事は無いが、夜明けの4時からまぶしい光が気になりだし、歪んだ窓ガラスが嵌った窓から強烈な朝日がソファへと射してきては、とても眠れる状況ではない。

時計を見ると5時、ソファから起き出し、伸びをしてコキコキと固まった首を動かす。

 

ナジャムにでも餌をやりながら、ブラシでもかけてやるか。

ナジャムは朝早くまだ寝ぼけている事も多い、眼は開けているがただボーッと突っ立っているから判り易い。

 

共同の厩舎はここから歩いて数分だ、共同と言っても無料な訳もなく、厩舎から引き出すときに金をとられる。

まあ、牧草に燕麦を混ぜて与えるよう言ってあるので、ナジャムは既にそれを貰ってハグハグと朝食を取り始めていた。

 

良く観てると水桶に口で燕麦を運び一度浸してから食べている。

冷や飯の湯漬けならぬ燕麦の水漬けである、こうして食べる馬は意外に多い。

 

「おはよう、ナジャム。変わりは無いか?」

ナジャムは口に一杯の燕麦が入って返事が出来ないせいか、モシャモッシャと食みながら頭を上下した。

 

ブラッシングすると、気持ち良い所の場合食むのを止めじっとしている。

15分ほどを掛け綺麗にしてやり、預けていた鞍を付けた。

 

「今日から1週間ほど旅だ。

 よろしく頼むぞ。

 あと2時間ぐらいしたら出るからな」

「ブルッ!」

 

朝食のパンとバターを買い求め、ルミナの家に戻ると、ルミナがソファでボーッとしていた。

 

「目が覚めたのか」

「あ・・うん・・・」

「水は要るか?」

「さっき飲んだ、めっちゃ渇いてた」

 

「そうか、簡単だが朝飯を作るが食うか?」

「うん、食べる・・・作ってくれるの?」

「顧客サービスにしておいてやる、その代わり文句は無しだ」

 

 

ソファにデロンとヘタるルミナを他所に、大雅は簡単に溶き卵に牛乳を少し加え、バターたっぷりでスクランブルを作る。

パンを適当な厚さに切り、間に薄く切ったチーズ、葉物野菜を少々、たっぷりのスクランブルを挟みケチッャプを掛けた。

 

スープはシンプルに玉ねぎを入れた鍋に、コンソメブロックを放り込み、ベーコンの切れ端と細かく刻んだ根菜を少々、胡椒で味を調える。

 

「気分は大丈夫か? 食えそうにないなら包んで持っていこう、昼前ぐらいまでなら持つはずだ」

「ううん、食べる。

 てか、なんでタイガは料理も出来ちゃうわけ?」

 

「一人暮らしが長いからな、それより冷めないうちに食え。

 なんか胃に入れた方が楽だぞ」

ルミナは返事もせずにスープを飲み始めた。

 

「ん・・・おいし」

大雅もサンドイッチに齧り付き、スープで流し込む。

 

「ねえ、一つ聞いていい?」

「なんだ」

 

「夕べ私を抱かなかったのは? 不能?

 私に女としての魅力は無が無いから?

 それとも男が好き? あ、子供も有りか少年とか幼女とか」

 

大雅は、口の中のサンドイッチをスープで流し込んでから言った。

 

「前にも言ったはずだが酔っ払いのお前を抱くつもりはない。

 あと不能でも無いし、男は触りたくもない。

 子供は守り育むもので有って性欲の対象ではない。

 気になるなら教えてやるが、乳は大きい方が好きだ。

 お前が素面で言い寄って来たら判らんが、仕事のパートナーに手は出さない。

 それだけだ。

 判ったら、そ・れ・を・くえ」

 

二人で再び無言でモキュモキュと食べだす。

 

大雅は以前ヨーロッパに居た時、紅茶好きの仲間から教えてもらった入れ方を思い出しながら炒れてみた。

芳香が朝日の中、ゆったりとした時間が流れた。

 

「荷造りは終えたのか?」

「うん、できてるパニエバックとリュックだけ」

 

「馬はどうするんだ?」

「今日の朝。

 共同厩舎から借りる予定。

 もう予約してあるから」

 

「現地までの詳細を知らんのだが、道案内はお前か?」

「うん。バックは厩舎までタイガの馬に載せてもらっても良い?」

「ああ、かまわん。

 あと固い扉なら開けるために時間がかかるやもしれん、余裕は見越しているか」

「2日分見越してるわ。

 あーやっと体調が戻ってきた」

 

「馬は俺が取りに行って来よう、受け取りの様な物は?」

「あ、じゃあ悪いけどお願い。

 これ請け書。お金は払ってあるから。

 や、優しいんだね」

 

「なに、俺も馬を取りに行くついでだ。

 その間に荷物をドアの近くにまとめておいてくれ」

「分かったわ」

「それと、着替えもな」

 

ルミナは夕べ夜中にドレスを脱いだまでは覚えているが、スリップのまま眠った。

今のいままで、この姿をタイガに晒し続けていたことに気付き、急に心臓がバクバクと踊り出し顔が熱くなった。

文句を言おうにも、タイガは既にドアの外で、顔を押さえ、ため息を一つ漏らした。

 

厩舎に着き大雅は、若い馬丁を捕まえ馬を借りる話をした。

 

「すみませんが、馬の貸し出しは、あの建物の厩舎長に聞いてください。

 居るはずですから」

「ありがとう」

 

ドアを開けると恰幅の良い男が椅子に座って、何か帳簿の様な物を書いていた。

 

「馬を借りる予約をしている者の代行できた」

「請け書は?」

「これだ」

 

「今日から5日間だな。

 延長一日に付き、5クラウン、死んだ場合は別途680クラウンが掛かる」

「判った伝えておこう」

 

そういうと男は、後ろの壁から大ぶりな木札を外して大雅に渡した。

 

「それを厩舎に居る馬丁に渡してくれ。

 馬を受け取れる」

「判った」

 

近くにいた馬丁を捕まえ、ナジャムと借りる馬を持って来るよう話した。

 

「この馬、大きい割に荒くなくいい子でしたよ」

「そうか、1週間ほど後にはまた戻って来る。また頼むぞ」

大雅はそう言うと2クラウンほど掴ませた。

 

「いつでもどうぞ!

 あと、水浴びやブラシなら、前の日に言って頂ければお安くしときます」

 

大雅は馬丁の送る言葉を背に受けながら、借りた馬の友綱を引いてルミナの家へと戻った。

後は、バッグ類を乗せるだけだ。

 

「さあ、出発の時間だ。

 大まかでいいからルートは?」

 

「街から南へ半日、二つ目の分かれ道を右よ。

 そのまま夕方まで道なりに進んでそこで割れ岩で野営。

 翌日はそこから東に道を逸れ、丘を二つ超えて大きな滝の見える山脈のふもとを左手に見ながら半日、そこが遺跡の場所よ。

 かなり昔から知られているけど、岩が異常に硬くってどうにもならないぐらいなの。

 何人もいえ、衛士も何樽もの爆薬を使ったけどびくともしないぐらい、このためまだ誰も入ったことが無い遺跡なの」

 

「それが遺跡の入り口だという確証は?」

「そうね、形がどう見ても入口の様な感じね。

 ただ隙間も無くぴったり閉じているわ、剃刀一枚入らないぐらいにね」

 

「なるほど、で固さは? 欠けたりしなかったのか?」

「大の大男が鋼のツルハシで1日かけて、やっと表面が傷つくくらいだって。

 最初は、一撃でツルハシの方が折れたらしいわ」

 

「ふむ・・・岩とはちと異なるようだな。

 まあ、現地までどうにもならんが、他に情報は?」

「昔の宝物庫だったという説、でもこれは周辺に遺跡が見当たらないから違うでしょうね。

 あと一つは、エルフの箱舟だったという説。

 これも怪しいわ、だってあんなに重そうなものが、飛べるわけないもの」

 

大雅とルミナはそんなことを離しながら分岐路へとたどり着いた。

「これを右か?」

「ええ、そうよ。

 そして半日、あの岩山の所で野営ね」

 

その方向を見ると山だったものが、真っ二つにされたように割れている。

まるで何かが山を二つに割ったように見えた。

割れ目は急に切り立った崖となっていて丁度、三角おにぎりを真ん中で二つに割ったような形だ。

 

「ここら辺では"割れ岩山"って呼ばれているわ、今日はあのふもとで野営ね。

 こっちの道はあまり人が通らないし、商隊も通らないから、盗賊は3年前に一度出たって言う噂だけ。

 昔はその奥に村が有ったららしいけど、鉱山が廃坑になって村も消えちゃったらしいわ」

「なんの鉱山だったんだ?」

「さあ、知らないわ」

 

この周辺は野生動物も多くいる、それはそれを狙う肉食獣も多い事を表していた。

 

「平地や斜面での野営は危険だな。逃げ場がない」

「でも、山脈までなだらかな斜面だけよ、平地も無いわ」

麓での野営を諦め、斜面を登りだすと、大きな岩の周りがクレーターの様に凹んでいる場所を見つけた。

 

「ここが、いいだろう」

大雅は、コンテナを下すと、小型のバッテリーと高圧装置を取り出し、周りに裸線を張り始めた。

 

「それは何?」

「電気ショックコードだ。

 これに高圧電気を流す。

 野生動物は入ってこれないって訳だ」

 

「じゃ、明日になったらお肉が取れる訳?」

「いや、死ぬほどの強さじゃ無いさ、嫌がっては要らない程度だ。

 ただ、トイレに行くとき引っかかるなよ。

 場合によっては感電死する場合もある」

 

そういって、大雅は細いアルミの線を切って裸線に向かって投げつけた。

パンッと乾いた音共に、アルミ線は明るい光と共にはじけ飛んだ。

 

「夜中に花摘みに行く場合は、触らないよう気を付けろよ」

「それ魔術なの?」

 

「ああ、俺の国の魔道具だ。

 だが空からの襲撃には無防備だから、飛竜種なんかを見つけたらすぐ起こせ」

 

電気を流す裸線は地表から20センチの所と60センチの所に張ってある、電力バターンは3相交流の2万ボルト、代わりに電流は精々数ミリアンペアだ。とても大型肉食獣を倒す電力ではない。

あとは、蛇や毒虫の忌諱剤を撒けば野営の準備は完了だ。

眠るまでは不要なので電気を切っておいた。

 

ナジャムと借りた馬は仲良く近くで草を食んでいる、借りた馬がパニックなどで逃げ出さないよう、友綱はナジャムの鞍に縛ってあった。

いざと言うときは、ナジャムが安全な場所まで移動してくれるだろう、頭のいい馬だし、心配は無い。

 

「今日は私が作るわ」

ルミナはそう言って手早く夕食を作り始める。

 

「目的の遺跡は此処から東に1日か」

「ええ、山脈を左手に見て丘陵を二つ超えるの。

 明日は遺跡で野営ね、調査は明後日からよ」

「出来れば暗くなる前に付きたいな、明日は夜明け前に出よう」

「ええ、構わないわ」

 

二人は食事を済ませ、お茶を飲んでいた。

 

「ねえ、タイガ。一つ聞いていいかしら」

「ああ、答えられる物ならな」

 

「貴方何者なの? 本当のあなたよ」

 

「俺はある国の兵士だ。

 兵士と言っても戦うだけの兵士じゃない。

 破壊工作、暗殺、要人保護、人質救出、テロ対応の強硬突破となんでもやる。

 こういう兵士を特殊部隊というが、俺はそのメンバーだよ。

 ここへは国交を結び交易をするための事前調査で来た」

 

「やはりね、見たことない武器、見たことない道具。

 あなたは何処から来たの?」

 

「此処とは全く異なる世界からだ。

 どれだけ離れているのかもまだ判らない。

 少なくとも人が生きてたどり着けることのできない距離な事は確かだ、それほど遠い。

 住んでいるこの世界が球体で有る事を知っているか」

 

「ええ、そう主張する学者もいるわ、主流派じゃないけど」

「それは事実だ、大きな恒星つまり燃え盛る星の周りをまわっている星を惑星と言う。

 条件が揃えばこうした空気が有り、水がある惑星に生物が出来上がる。

 空を見て見ろ、見えている星殆どが燃え盛る恒星だ。

 その中の一つがこの惑星の太陽であり、この惑星が偶然生き物が住むのに適していた。

 そんな星の一つがここであり、別の星が俺の故郷だ」

 

「別の星の人間・・・」

「だが、もう一つの可能性もある。

 時空自体が異なる場合だ。

 これはちょっとばかり理解が難しい。

 簡単に言うと、異なる時間に異なる空間があるという概念だ。

 この場合、通常は異なる時空同士は認知し合う事は不可能だ。

 だから我々は天体の合にそのカギを解くヒントが有ると考えている」

 

「異星人? タイガが?」

「言ってみればそうだが、それは同じ時空間の場合だ、俺の場合は異世界人と言っても良いだろう」

 

「で、タイガは何時かは戻るの? 帰れるの?」

「戻る方法は有る、だか非常に不安定だ。

 だからイェネファーという女性・・魔術師か、それを探している」

 

「私に話しちゃっていいの?」

「別に構わんさ、聞いた者は狂者の戯言としか受け取らないだろうし、人は見た物しか信じない傾向にある」

 

「そうよね・・・でも帰れないときは?」

「この星で生きていくしかあるまい。まあ、努力はするが」

 

「ねぇ、もし・・もしよ・・・帰れなかったら・・・一緒に・・・エルフの歴史を探さない?」

「まあ、そういう生き方も有るかもしれんが、静かに暮らすよ。

 こんな世界で畑を耕し生きるのも悪くない」

 

「そ・・・そのっ・・・その時は私も!」

話そうとしたルミナの口を大雅の指が抑えた。

 

「それはそうなった時の事だ。

 今は聴かないでおくよ」

 

それ以降二人の間では会話は無かった。

無言で毛布に包まり眠りについた。

 

 

 

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