最愛の推しと、親愛なるクソ兄貴   作:レオナルド・荼毘

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なんか続いちゃったので投稿します。
書いちゃったからには例の事件まで書きたいですけどね、果たしてそこまで続くかは作者にもわかんないです。




第二章 星野アクアの奔走
有馬(かなと初共演)記念


 結論から言おう。

 アタシ───いや、()は賭けに勝った。

 

 

「おはようございます、カントク」

 

「おう。来たか早熟ベイビー」

 

 

 雨宮菜穂(アタシ)が死んでから、かれこれ一年半以上は経つだろうか。

 この一年半で原作と同じような出来事があったり、兄貴が一護さんの飲み友達になってることが発覚したりとまあまあ色々あったのだけど、そのあたりは割愛するとして。

 いまの時系列は原作の話数で表すなら6話冒頭。そう、みんな大好き有馬記念だ。

 ……有馬(かなと初共演)記念(日)だ!

 

 

「本日はアクアがお世話になります」

 

「いやいや、頼んだのはこっちだし例を言う必要はねえよ。それより……」

 

「事務所の件ですよね。とりあえず苺プロに籍置いたので、その辺は大丈夫ですよ」

 

「話通ってんならいい。……事務所入ってない子役使うと怒られるからな」

 

 

 大人たちの世知辛い事情がほんのり零れたけど、正直あまり興味がないので聞き流す。僕自身は事務所入ってるし、この現場では特に関係ないだろうから。

 とはいえ知らないままというわけにもいかないし、暇なときに一護さんに聞いておこう。知っておいても損はしないしね。

 

 

「にしても、なんでわざわざ僕を? そこで寝てる妹の方が演技は上手いですけど」

 

「いーやお前だ。そっちも興味がないわけじゃねえが、今回欲しい画は()()()()()()()()()

 

 

 だろうな、と内心で嘆息した。

 一応僕を起用した理由を聞いてはみたが、勘所は多分原作と変わらなそうだ。

 五反田監督、雨宮菜穂(アタシ)が生きてた時から思ってたけど凄い人ではあるんだよな。こどおじなのを知ってるからイマイチ尊敬できないけど。

 

 

「ところでよ、早熟」

 

「何ですか?」

 

「お前、天谷ホナミと知り合いだったりするか?」

 

 

 ……ッスゥー、ちょっと待ってマジで言ってる?

 

 

「……えっと、社長の友達だって聞いたことあります。でも会ったことはないですよ」

 

「そうなのか? いや、違うならいいんだけどよ」

 

 

 なんか似てんだよなぁ……とかボヤきながら去っていく五反田監督を見送って、気付かれない程度に溜息。

 まさか一番最初の前世バレ未遂が五反田監督だとは思わないじゃん。内心ヒヤッヒヤだよ。

 

 ───ちなみに。

 五反田監督と雨宮菜穂(アタシ)の関係性はさほど深いわけではない。

 アタシが僕になることを決めて以降、人脈を広げる目的で組んでいた取材の一つで知り合い、何度か食事に行った程度。知り合い以上友達未満? ってところだろうか。

 その程度の関係性で気付かれかけるとは、少しばかり油断し過ぎたかもしれないな。

 

 

「めちゃくちゃ気に入られてますね、アクアさん。何したらこんなことになるんですか?」

 

「強いて言うなら接し方かな? 壱護さんにやってるみたいに、ある程度砕けた態度で接してるだけだよ」

 

「それだけで……?」

 

「大人がやったらシバかれそうだけど、僕は見ての通り幼児だからさ。相手からしたら自分に心開いてる子供に見えると思うよ」

 

「……嫌な子供だわー」

 

 

 オイ呆れるんじゃないよみやえもん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ゛た゛し゛を゛オ゛ギ゛ャ゛バ゛ブ゛ラ゛ン゛ド゛に゛か゛え゛し゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」

 

「めっちゃ泣くじゃん……」

 

 

 目覚めるや否やギャン泣きし始めたルビーを見て、僕は早々に落ち着かせることを諦めた。なんなら原作より泣いてるこの妹を抑えるのはちょっと無理。

 ここまで激しいギャン泣きとなれば、かの有名な『10秒で泣ける天才子役』にも対抗できるのでは。などと思ったときだった。

 

 

「ここはプロの現場なんだけど! 遊びに来てるんなら帰りなさい!」

 

 

 台本を叩きつける音と甲高い声が楽屋に響く。

 ルビー共々ビクリと身体が跳ねて、ようやく彼女の存在を認識した。そういえば確かこのくらいのタイミングで顔合わせだったな。

 

 振り返れば、お高そうなクリーム色のワンピースと帽子を身に着けた幼女が立っていた。

 クソ生意気ではあるが、2〜3歳のクセしてすでに風格のある堂々とした立ち姿。そして何より、かなり赤みの強いボブカットの髪。

 間違いない、彼女は───

 

 

「えっと、共演者の()()さんですよね」

 

「よく知ってるじゃない。そう、私は有馬かな。そっちは?」

 

「アクアです。本日はよろしくお願いします。……で、こっちが」

 

「アクアの妹のルビーです! アレだよね、あの……『()()()()()()天才子役』!」

 

「『1()0()()()()()()天才子役』!」

 

 

 サラッと泣き止んだルビーが地雷を踏んだ。

 ……できればもうちょっと印象よくしときたかったんだけど、まあいいか。必須でもないし。

 

 

「私この子あんま好きじゃないんだよね……作り物っぽくて」

 

「評価厳しくない? 2歳とか3歳であんだけ出来るならめちゃくちゃ凄い方だと思うんだけど」

 

 

 有馬かなの自慢話を聞き流しつつ、ルビーとコソコソ内緒話をする。声デカいし聞こえてないでしょ、多分。

 

 

「知ってるわよ、あなたコネの子でしょ!」

 

「本読みの段階じゃあなたもアイドルの子も出番なかったのに……監督のゴリ押しってママも言ってた! そういうの、いけない事なんだから!」

 

 

 ビミョーに怪しくなってきた原作知識をなぞるように、有馬かなが罵倒の言葉を吐く。この歳でこの語彙と煽り力、凄いなホント。レスバなら下駄履いてる(転生してる)僕たちと遜色ないんじゃなかろうか。

 

 

「こないだ監督が撮ったドラマ見たけど、全然出番なかったじゃん」

 

「どうせカットしなきゃいけないほどヘッタクソな演技だったんでしょ。媚売るのだけは上手みたいだけど!」

 

 

 捨て台詞を吐いて立ち去る有馬かなを見送る。

 いやあ、あの子スゲーわ。漫画やアニメじゃなく、現実で体験するとなると中々面白かった。

 ……まあ、それはそれとして。

 

 

「お兄ちゃん」

 

「分かってる。とりあえずあの子には……ちょっとばかし痛い目見てもらおうかな」

 

 

 母さん(アイ)をバカにした以上、お灸は据えさせてもらうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、撮影が始まる。

 

 ───タイトルは『それが始まり』。

 ざっくり言うと、自分の容姿に自信のない女性が山奥のクソ怪しい病院で整形手術を受ける話だ。

 山奥にある病院で信用していいのはN県T村くらいだろとは思うのだけど、まあそこは置いておこう。あそこもあそこで胡散臭いし。

 

 ちなみに、僕と有馬かなの役柄は『気味の悪い子供』だそうだ。

 ……これ人生一周目の2歳児が演じる内容じゃなくね?

 

 

「どうぞゆっくりしていってください…」

 

 

 やっぱ流石だわ、天才子役。

 

 ───この世界で『天才』と呼ばれる人物は総じてバケモノじみた才能を持っている。

 その才能は人生三周目の僕ですらきっと埋められない。文字通りにステージが違うのだと確信させられるほど、残酷なまでに遠い実力差。同じように演技をしても目も当てられないことになるだろう。

 少なくとも、真っ向から演技力で勝負しては絶対に勝てない。

 

 だけど今は、状況がどうしようもないほどに悪かった。

 

 ……何故って?

 こと『()()()()()子供』という役柄において、僕以上のハマり役はいないからだ。

 

 

「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 

 原作において、アクアはこの役を演じなかった。

 だから僕も───いや、アタシも演じなくていい。

 年齢も、性別も、生まれも、役割も、アタシをアクア()という形に落とし込むための何もかもを脱ぎ捨てて、星野アクアでも雨宮菜穂でもない本来のアタシを取り戻していく。

 

 今この時この瞬間だけは、アタシは原作のアクアを超えていると胸を張って言えるだろう。

 だって、文字通り経験が違う。アクアは二度目の人生だったがアタシは三度目。一生分の経験値の差がある以上、身体と心の間に生じるギャップは大きくなるわけだ。

 

 

「カット、OKだ!」

 

 

 五反田監督からカットがかかって、アタシは再び僕に戻る。

 久しぶりに『星野アクア』を意識せずに行動したのもあって、物凄い解放感が全身を吹き抜けていく。改めて主人公役の女性を見ると、得体のしれないモノを見たような表情で後ずさっていた。

 ちょっと調子乗りすぎたか……?

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

「あ……う、うん。ちょっとぞくっとしただけ。今のお芝居凄かったね」

 

「そうですか? 良かったー」

 

 

 若干不安になったので声をかけてみたけど、どうやら大丈夫そうだ。

 ……でもあんだけビビられるとちょっとアレだな。ちょっと善良アピールしとかないと印象悪そうだ。

 

 主人公役のお姉さんとお話しつつ、もしかしたら五反田監督に小言言われるかもな、なんて考えてた時。

 

 

「問題大ありよ!」

 

 

 甲高い絶叫が響いて、周囲の人が一斉に振り向いた。

 振り向いた先にいたのは有馬かな。感情を爆発させ、泣きながらリテイクを懇願する有馬かなに縋りつかれながら、どうにかこうにか落ち着かせようとする五反田監督がそこにいた。

 あの人子供の相手するのあんま得意じゃなさそうだし、手助けした方がいいんだろうか。

 

 

「あれ、止めてきた方がいいですか?」

 

「うーん、アクアくんが行ったら逆効果なんじゃないかな」

 

 

 ですよねー。

 原因に慰められても嬉しくないし、余計惨めになるもんね。

 

 とりあえず泣きじゃくるこれ以上見ないことにして、一足先に次の撮影場所へ移動する。

 困り果てた五反田監督に視線を向けられたけどスルーだ。泣いてる女性をまじまじ見るのは良くないもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早熟、役者に一番大事な要素は何だと思う?」

 

 

 隣に座る五反田監督が、台本を読みながら問いかけてくる。

 原作のアクアは『実力』とか『センス』とか言ってたけど、個人的には───

 

 

「脚本の意図に合った演技ができること、とか?」

 

「まあ、それも大事だけどな。結局のところはコミュ力だ」

 

 

 そう言い切った五反田監督は、なんだか疲れたような顔をしていた。

 昔五反田監督と呑んだ時、最終的には愚痴大会になってたっけと思い返す。今回は有馬かなだったけど、普段からコミュ力関連で色々見てきてるんだろうな。

 

 

「他の役者やスタッフに嫌われたら、仕事なんてすぐなくなっちまう。小さいウチから天狗になって大御所気取りしてたら、そんなヤツに未来はねぇ」

 

「もしかして、有馬かなにお灸を据えたかったの?」

 

「そんなこと考えちゃいなかったが、結果的にそうなっちまったな」

 

 

 ま、こういうのも栄養だ───なんて言って、五反田監督が苦笑する。

 実際、早いうちに痛い目見とくのは大事なことだと思う。雨宮菜穂(アタシ)も若い……若い?うちは色々痛い目見たけど、そのおかげで売れっ子小説家になれたワケだしね。

 有馬かなはまだ二歳だし、失敗をバネにいくらでも成長できるハズ。ここからどんどん頑張ってほしいところだ。

 

 

「お前の演技だが、俺の想像よりも気味が悪かったよ。とんでもねえモン見せやがって」

 

「それはごめん。……でもあの子の方が演技凄かったと思うよ。僕のはほとんど素だったし」

 

「いや、それでよかったんだ。お前は俺の意図を読み取って、それに沿うように演技をした。ちょっと気合入りすぎだったけどな」

 

 

 笑いながらそう言った五反田監督は、手に持っていた台本を僕に見せてきた。

 僕の台詞の上に手書きで「自然な様子。でも子供のイメージとはかけ離れていて気持ち悪い」と書き加えられている。……いや1歳半だぞ僕。見せられてもフツー読めないって。

 なんて考えていると、五反田監督が僕の頭に優しく手を置いた。

 

 

「いいか早熟。演出や意図を理解して演じるのは役者の基本だ」

 

「だが、言語化できない意図まで読み取ってくれる役者はそういない。こっちからしたら喉から手が出るほど欲しいが、皆が皆できることじゃないんだよ」

 

「だからお前は、すごい演技よりピッタリの演技ができる役者になれ」

 

 

 ……ピッタリの演技、か。

 そう言われてしまうと、僕───というか雨宮菜穂(アタシ)としてはそうならなきゃと思ってしまうんだよな。なにせ元々は小説家だったし、一応メディアミックス作品も抱えてるし。どっちかというと五反田監督側の視点に立ってた人間だから。

 と、いうわけで。

 

 

「前向きに善処する方向で検討します」

 

「オイオイ、そこは頷いとけよ」

 

 

 僕の頭の上に置いた手をわしわしと動かしながら、五反田監督が笑う。

 口調はまあまあキツいし色々雑だしこどおじだけど、でも気持ちの良い人格者で、子供に触る時はちょっとおっかなびっくりで。

 なんというか、まるでお父さんみたいだな───なんて、少しだけ思った。

 

 





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