目の前には瀬戸内海にある誰も住んでいない島が見えます。所謂無人島です。私大鳳と先日ここ、瀬戸内鎮守府に舞鶴から強制的に左遷されたジャマイ子さんは提督に付いてくるよう言われ...海上を普通に歩いていた事に私はもう突っ込みません...この無人島まで付いて来たところです。
「よし!ここらへんでいいか。...それじゃあ、新たにジャマイ子が着艦したので、これを期に大鳳も加え、俺達がやってる演習を行ってもらおうと思う。」
目の前には、麦わら帽子にツナギの格好の男...瀬戸内鎮守府の提督、三宅武明が突然振り向き、2隻にそう言う。
「そ、それは本当ですか...」
自分でも分かるくらい動揺した口調でしたが、私は提督にそう聞かずにはいられませんでした。なぜなら、
「ん?どうした?声が震えているぞ?」
「そ、そんなことはどうでもいいのです!!提督が先程言われた事は本当なのですか!?」
私がいつ言われるか待っていた一言だったからです。
「落ち着け、落ち着け。本当だ。これから大鳳とジャマイ子には俺達が行っている実戦さながらの演習で、俺ら基準の最低限の実力を身につけてもらう。」
つ、遂にこの時が来ました!!元帥に命じられた潜入任務の根幹...木曾様と恋仲に!!あっ、違いました。これで姫神部隊の"強さの秘密"を知る事が出来ます!!
「えっと、提督さん。ちょっといい?」
大鳳が心の中でガッツポーズをしていると、ジャマイ子が武明にそうを繰り出した。
「何だ?直ぐ演習になるから手短にな。」
「はい。で、では、何で提督は私達艦娘と同じように海面を歩いてるんですか?転生時の特典ですか?」
「は?」
「い、いえ、私とジャンゴウさんは前世の記憶と神様にその記憶に準ずる能力や力を"神様特典"として授かっています。その力は時によってゲームで言う"チート"と呼ばれているのですが、提督さんが海面を自由に移動出来るのは私達と同じ"神様転生"ってやつじゃないかと...」
「...なんじゃそりゃ。俺は"神様なんちゃら?"なんてもんじゃねぇよ。妖精さんの技術と同じようなモンを使ってるだけだ。...簡単に言えば無から有を作り出すモノ、よく言う"魔法"みたいなもんかな?まぁ、その"魔法"に法則があって、その法則に沿って術を発動してるだけなんだが...使える奴と、使えない奴もいるが、これに関しては一度簡単なものを使って検証しないと分からん。俺も専門屋じゃないからこれくらいしか言えないんだがな。(あと、俺の場合は"あちら側"の理をちょっと借りているからあくまで"同じようなモノ"だけどな...)」
「私達が普段海上で立っていられるのは、妖精さんの"魔法"のお陰なんですね...」
武明の説明を聞いてジャマイ子は『妖精さんの技術なら仕方ない』と自身に納得させた。
「それで、俺が海面で自由に行動出来るのはそう言うこった。あと、お前の言う前世の記憶ってのも無いぜ。もう他にはないか?」
「は、はい。ありません。」
「大鳳もいいか?」
「はい。大丈夫です。」
なる程。妖精さん達の技術だったのですね。納得です。この事は元帥に報告しておきましょう。
「んじゃ、演習に移るぞ。」
「「はい!!」」
◇◆
「ほ、本当に行うのですか!?」
私は即座にそう答えるしか無かった。
「あぁ。俺を"敵艦"だと思って攻撃してくれ。なに、お前も見ただろう龍田とル級の攻撃を難なく躱していた俺を。避けるのは得意なんだぜ。」
「ええ。しっかり見させて頂きました。しかし、それとこれは違うんじゃないですか!?」
提督から指示された事は、提督を敵艦とみなし攻撃する事。一応弾は実弾ではなくゴムへ変えていますが、私の零式艦戦の集中砲火にあえば唯の怪我では済まないのですよ!?
「う~ん。大鳳が納得できればいいんだな。」
「はい。」
「じゃ、先ずはジャマイ子。お前から掛かってこい。」
「うぇ、私から?」
「『じゃ』って何ですか、『じゃ』って!!」
「だってお前、俺が大丈夫っつても信用しないからジャマイ子との演習を見て判断してもらおうかなと。」
「うぅ~、分かりました。私大鳳から演習を受けます。でも、私が危ないと判断したら直ぐ艦載機の妖精さんに止めてもらいます。」
武明の言葉で渋々演習を大鳳は了承した。
「ああ。そうしてくれ。」
「え~っと、私はどうなるんですか?」
「ジャマイ子は流れ弾が当たらない所で見学をしていてくれ。」
「了~解。」
海上に人影が二つ、一つはカートリッジタイプのボウガンを構え準備万端の大鳳。もう一つは麦わら帽子にツナギという用務員...否、瀬戸内鎮守府提督三宅武明。
「では、みんないい?行くわよ。第一機動部隊、出撃!!」
「お手並み拝見といこうか。」
結果から先に言いましょう。私の惨敗です。私大鳳の零式艦戦から発射された弾丸の雨は尽く躱され、私の弱点の接近戦になり...デコピンをくらって終わりでした。
「まだ痛いです。」
「そ、そうか?だいぶ力は抑えてたんだが...」
私は今おでこをさすりながら提督を睨みつけています。手加減して私達艦娘に痛みを与えるとは、本当に提督は何者なんでしょう?
「提督にキズモノにされた...」
「おぉい!!誤解を招く言い方はよしてくれ!!」
「誤解もなにも事実ですし...そうだ!!提督!!私をキズモノにしたんです!責任とってください!!」
「うぇ!?せ、責任!!」
「そう、責任です。」
「う、う~ん。俺には妻子がいるからちょっと...」
「そう、妻子です!!」
「は?」
「御義父様!!私をキズモノにした責任を取って娘さんを私にください!!」
「どうしてそうなったー!?」
「ま、待たせたな。今度はジャマイ子、お前の実力を見せてもらう。」
漸く大鳳を説き伏せた武明がジャマイ子のいるところまでフラつきながら来た。
「や、やぁ。提督お疲れ様。なんて言うかあの娘凄いね...」
「ウチの艦娘じゃないから扱いに困ってんだ。」
「そ、そう。...オホン、では私との演習ですね。」
「ふ~う、よし!気を取り直して演習を始めるぞ!!」
「あっ、一つ提督に言い忘れていました。」
「ん?何だ?」
「私、すっごく...」
その刹那、ジャマイ子は消え
「強いですよ!!」
武明の真後ろに回り込んでいました。
「ほぅ。」
絶句。この一言でした。私大鳳が見えたのは白と黒の何かが線になって動いた事。私は最初、彼女ジャマイ子を唯の色物と決めつけていました。私の悪い癖ですね。相手を見た目で判断し行動してしまう。提督の事もそうでした。
「フフフ、私は島風を凌ぐ速さと長門とガチでやりあっても競り勝つパワーがあります。私を侮らないでください。」
「...30パーセントってところか...」
「...どうかしましたか?」
「いや。」
漸く私の目が提督達の速さに慣れた頃、初めて二人(?)が何をしていたのかが分かりました。ジャマイ子の放った拳の先はブレ、幾つもの攻撃を提督へ機関銃の様に打ち出し、提督はそれをいとも簡単に躱しています。幾つもそのような攻防を繰り返し、提督が一瞬私に目を向けた瞬間、ジャマイ子が提督の背後に回って殴り付けました。その攻撃を提督は体を少し前に倒し最小限の動きで躱していってます。そして、だんだん提督の躱す速度が速くなっていき、
「おいおい、速さには自信があったんだろう?」
「クッ!何で一度も当たらないの!?掠りもしないし!!」
「それは、」
「えっ!?」
その姿が一瞬消えました。
「情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!」
そう言いながら提督はジャマイ子の周りを上半身は腕を組んだまま微動だにさせず、足だけを高速で動かして旋回をし、
「嘘、嘘ぉー!?」
「そして何よりもー!」
「何でチートを貰った私が追いつけないのよ!!」
「...速さが足りないからだ!!」
提督の蹴りがジャマイ子の腹部に刺さりました。...いえ、辛うじてジャマイ子は腕をクロスさせ直撃は防いでいます。...これが人間と艦娘の演習でしょうか...どちらも化物と言っても過言ではない動きをしています。
「・・・認めるわ。私は井の中の蛙。他人から貰った力を自身の力だと誤認していたわ。その力を自分のモノに出来ていない今の私には提督には勝てない。...でも、だからこそ私の全力を見てもらいたい!!」
「いいだろう。来い!!」
「全弾斉射!!」
「む、何処を狙っている?」
私も提督と同じ意見です。ジャマイ子が撃った弾は全て提督には当たらず、その周りに着水してしまっていたからです。
「狙い通りよ!!そしてこれが私の唯一無二前世から受け継いだもの!!」
「...何か仕掛けてくるな!」
『私の歌を聴け―――――!!!!!!!!!!!!』
「歌?」
『突撃!!ラブ、ハートォォォォォォ―――――!!!!』
私は夢を見ているのでしょうか?ジャマイ子が歌を熱唱しています。戦場...いえ、演習中に歌を歌うなど狂気のもの。とうとう、彼女の精神は壊れてしまったのでしょう。そう言えば提督の方からも歌声が聴こえて来ているような...
「...これは体から力が少しづつ抜けている?それに、足元から声?...まさか!さっき撃ち出したのはスピーカーか!?」
『ご明察!!さっき私が撃ったのは小型の防水スピーカーです。今提督が感じているように私の歌は聴いた相手の気力や力を少しですが、変化させる事が出来ます!!そして、私はこの歌を世界に広めたい!!』
「...できるといいな。」
『いいえ!!絶対やり遂げてみせます!!』
...海でライブですか。本当に出来たら楽しそうですね。歌の力...横須賀の那珂が喜びそうな力です。
「ヘクッチ。」
「どうした那珂?」
「い、いえ。何でもないですよ長門さん。(誰かアイドルである那珂ちゃんの噂をしているのかな?)」
ジャマイ子の歌声で少し提督の動きが鈍った事に驚きましたが、ジャマイ子は切りの良い所まで歌いそのまま負けを認めて今日の演習は終わりました。
「じゃあ、二人ともいいか?」
「「はい!!」」
「先ず大鳳は、接近戦を少し覚えてもらう。」
「接近戦...ですか...」
「一応護身用の為にだ。お前の持ち味は艦載機。だが、接近されたとき何も出来ないんじゃ唯の的になってしまう。そこで、意表を付いて撃退できるようにな。まぁ、付け焼刃みたいなもんだから初戦の相手以外は通用しない事を肝に銘じておけ。」
「了解です。」
「次にジャマイ子は、先ずは自身の力に慣れる事。さっきの戦闘でまだまだ自身の動きに慣れていない節があった。ジャマイ子はこの演習を重ね実戦経験を積みながら自身の力に慣れる事。そこを中心に鍛えていこう。」
「はい!!」
「あと、あの歌は仲間と敵は判別して聴かせることは出来るのか?」
「それは無理です。さっきみたいに一対一なら相手の力を下げたり上げたり出来ますけど、集団の中で歌えば最悪全員の力が落ちるか上がってしまいます。出来ることなら、仲間が一箇所に集まっている所に能力アップの効果を持たせた歌を歌ったほうがいいです。その逆も然りです。」
「なる程。大体の範囲と効果は分かった。ジャマイ子には歌の支援を頼む事が出てくるだろう。その力を強力にする為何処でも自由に歌う事を許可する。他にも欲しいモノがあったら言ってくれ。出来るだけこっちで揃えよう。」
「ありがとうございます!!」
「では、今日の演習はこれまで!!鎮守府に帰るぞ!!」
「「はい!!」」
「・・・不幸だわ・・・」
あぁ、妹の口癖が出てしまった...私は海底へ沈んで行きながらふとそんな言葉がもれてしまった。でも、仕方ない...
「だって、私はさっき轟沈してしまったもの...でも、悔いは残ってないわ。」
今回私が身を呈して彼女...赤城を守った事で元帥に先程見た事を。あの悪夢のような光景を知らせる事が出来るわ。これで、日本全土の艦娘達を招集する大義名分が出来る。何としてでもあの"深海棲艦達の軍団"を日本へ近づけさせてはならないわ!!
「...後は皆頼みましたよ...」
『おい、何勝手に諦めてんだ?』
「ッ!?誰!?」
『んな事はどうでもいい。オイ、小娘。力が欲しいか?』
「何を急に...」
『欲しいか、欲しくないか二つに一つどちらか選べ。』
「...欲しいに決まってるわよ!!もっと私に力があれば轟沈せずに済んだかも知れない、もっと私に力があればあの深海棲艦達の戦力を減らす事が出来たかもしれない!!」
『ならk「でも、今の私は力なんていらない!!」...ほぅ。』
「今は横須賀鎮守府の皆が奴らに負けない未来が、平和になった世界が欲しいの!だから、力なんていらないわ。」
とうとう私も"死"の直前のようね。あんな妄言が聞こえて来るなんて...
『ククク、ハハハハハハハ!!気に入ったぞ小娘!!いいだろう、お前が言った未来。"俺達"が見せてやる!!』
あぁ、もう意識が無くなりそうだわ。死ぬ前に変な妄言が聞こえたけどもう...