噂の"姫神部隊"(本編完結)   作:小此木

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第19話 絶望への開戦

 

 

眼前に広がるは黒一色の世界。その黒の間からチラリと見えた海の中も黒い何かが蠢き、その海全体を黒一色で塗りつぶしていた。

 

 

 

 

■□■□■□■□

 

 

 

 

『5日後のヒトフタマルマルに岡山鎮守府第1、第2艦隊は横須賀の本体へ合流をする!!そして、主戦力が居ない時を狙ってここを攻撃してくる輩もいるやもしれん。そこで、岡山鎮守府には第3艦隊以後の艦隊を配備し警戒に当たらせる!!』

 

岡山鎮守府"大佐"山崎大地の激が鎮守府前湾に整列している全艦娘達に響く。皆の顔は油断の欠片も無く、どんな相手でも戦う意思を示していた。

 

『俺は"絶対に勝て"とも、"1隻でも多く轟沈させろ"とも、"沈む時は相手を多く道連れにしろ"とも言わん!!...たった一つだけ、"1隻でも多く生き残れ"!!以上!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「...大佐ちょっといいか?」

 

山崎が"ある部屋"を目指し廊下を歩いていると、半歩後ろから1隻の艦娘の声が聞こえてきた。

 

「どうした長門?」

 

「何故あのような言葉を?」

 

彼が岡山に着任した時から彼の秘書艦を勤めていた長門だった。今回の作戦では第1、第2艦隊の指揮を任されていた。彼女長門は何故先程艦娘達にあんな言葉を掛けたのか不思議に思い聞いたのだ。

 

「...俺はこの戦勝てるとは思っていない。」

 

「そ、それはどういう事だ!?」

 

「横須賀に勢力を招集したとして、集まるのは数百が良いところだろう。今建造されている艦娘の数はよくて千いくかどうかの中、各鎮守府はエースと呼ばれる艦娘のみを今回横須賀に投入し後は自衛の為に数十隻は残さなくてはならない。無論、横須賀の元帥達もその事は承知しわざわざ"全艦娘"と指令を出したんだ。何処から情報が漏れるか分からんし、艦娘が招集され警備が手薄になった隙に各鎮守府が別の深海棲艦に攻められたら叶わんからな。それを踏まえ俺はこの戦いには勝てない、或いは相手戦力を四分の一減らせるぐらいが良い処だと予想している。そして、その次の戦いに備え全員へ"生きて帰れ"と言ったのだ。...それに今回漸く"あの方"と連絡が取れ、今日此処に招いている。それと、"あの方"は玉砕と言う言葉が嫌いでな。」

 

「なる程、次の戦に備えた言葉だったのか。...あと、"あの方"とは?」

 

「今から会う方だ。俺の元上官で...着いたぞここだ。」

 

山崎と長門は一つの部屋の前で止まった。部屋には応接室と掲げられている。山崎は三回ノックをし部屋のドアを開いた。

 

「失礼します!山崎です。遅くなりまして申し訳ありませんでした!!」

 

「久しぶりじゃな山崎。息災そうで何よりじゃ。」

 

部屋には高級な革のソファーにいつでも畑仕事ができそうな格好の老爺と

 

「はい!それと、隣にいる方は奥方様ですか?」

 

「まぁ、そんな所かの。儂は千代と言う。短い間になるかも知れんがよろしくの。」

 

これまた畑仕事ができそうな格好の老婆が座っていた。

 

「こ、これは、ご丁寧に。か、艦長には多くお世話になった山崎大地と申します。こっちは秘書艦の長門です。」

 

「お初にお目にかかります!!山崎大佐の秘書艦を務めさせてもらっている長門と申します!!」

 

「そんなに畏まることはないぞ。唯の釣り好きのジジイと農業好きなババアだからの。」

 

「そう、ご謙遜されないでください。艦長の指揮がなければ我々は此処にいなかったんですから。」

 

「何、若い芽を摘まないように古い人間が少し奮闘しただけじゃよ。」

 

「...ありがとうございました。」

 

山崎は老爺へ深く頭を下げた。

 

「...では、儂をここへ呼んだ理由を聞こうかの。」

 

「艦長をお呼びしたのは、岡山鎮守府の第1、2艦隊の指揮を取って横須賀まで連れて行って頂きたいのです。無論、戦えとは言いません。私は鎮守府を守る為此処に残らならなければなりません。そこで、横須賀まで資材と弾薬も一緒に艦娘達を運んでそのまま戦いが始まる前にその海域を離脱して頂きたいのです。彼女ら艦娘達を最高の状態で送り届けたいのです。...生き残らせる為にも...」

 

「ふむ。」

 

「そんな事を頼めるのは、大海原を航海し様々な海で戦果挙げてきた艦長にしか頼めません!!艦娘が主流になり"戦艦"の大半は解体されてしまいました。資材や弾薬が乗せられる大型船はこちらで手配します!!...私は艦娘...彼女達を無駄死にさせたくないのです!!」

 

「大佐...」

 

「山崎お前...よし、分かった!!船はこっちで用意する!!出る日時と場所を教えてくれ!!儂が責任を持って送り届けてちゃる!!」

 

「ありがとうございます!!では、日時と場所を明記したものはこれになります。宜しくお願いします!!」

 

そう言うと山崎は老爺へ数枚の紙を渡した。

 

「分かった。では、この日時に船で来る。」

 

「分かりました。」

 

その後老人2人は応接室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「まさかあの方が"雪花"の...」

 

「そう、あの方が俺達の乗艦していた"雪花"の元艦長"寺岡太郎"。あの方は波杜を降りてからぷっつりと行方を晦ましてしまった。漸く探し当てたと思ったら、この岡山で趣味だった釣りを自身の仕事としていたんだ。独身だったんだが、今日奥さんがいらっしゃってびっくりした。」

 

「なる程、それで大佐はあんなに動揺していたのだな。」

 

「...わかったか?」

 

「...あれ程挙動不審な話し方では私でなくても直ぐわかる。」

 

「・・・そ、それより、島風と筑摩も連れて行くんだな。」

 

「唐突だな。あぁ、連れて行く。着艦直後の彼女達でしたらエースだったとしても即外すだろうが、今の彼女達なら私からお願いして部隊に入ってもらうくらいだぞ。」

 

「それもそうだな。着艦当初彼女達は深海棲艦だと自分たちが思った相手なら、艦娘や人間だったとしても容赦なく攻撃していたからな。丸くなったものだ。」

 

「一回ボロボロになって泣きながら帰ってきた事があったが、その日を境に人...艦が変わったかのようにどんな相手にも敬意を払い、過度の攻撃をしなくなったからな。その日の敗北はいい経験になったと思うぞ。」

 

「だが、何に敗けたかは一切話そうとしないな。」

 

「まぁ、私も気になるが無理に聞き出すのはあまり褒められるものではないからな。」

 

「では、向こうから話してくれるまで待つか。」

 

 

 

それから数日後、山崎が指定した場所の指定した時間。岡山鎮守府の面々が揃った頃1隻の船が到着した。

 

「か、艦長この船は...」

 

「いいじゃろぅ。これが儂が舵を取る最後の船じゃ!!」

 

 

 

 

■□■□■□■□

 

 

 

 

「クソッ!!矢矧!!被害状況の報告!!」

 

「呉第3艦隊の加古、衣笠、佐世保第2艦隊の隼鷹改二、雪風、伊58が...大破!?後退させます!!横須賀の雲龍が中破!!戦況は依然こちらが不利です!!」

 

「各艦娘へ連絡!!中破した者は直ちにここ、"前線基地"へ後退!!明石達に修復させろ!!」

 

「了解!!全艦娘へ通達!!中破した者は前線基地へ後退!!」

 

ここは太平洋に大日本帝国海軍が建造した対深海棲艦軍の前線基地。指揮を執るのは平田元帥。つい先ほど深海棲艦軍と開戦したばかりだが状況は芳しくない。

 

「少なくても深海棲艦を200隻は撃沈させているが、やはり数で押されればひとたまりもない!!まだ岡山と姫神部隊は来ないのか!!」

 

「先程、緊急回線から岡山はこっちに向かっているとの通信がありました!!しかし、緊急回線が設置させれていない瀬戸内鎮守府は、戦闘の影響からか通常回線では通信出来ない状態です!!」

 

「クッ!!」

 

前線基地から50キロ離れた海上では三百の艦娘達が十万を超える深海棲艦と戦っている。スパルタの三百対百万よりはマシだと簡単に考える者もいるだろうが、戦場は海。島があるところも存在するが、スパルタの様に地形を利用した戦法も役に立たない。それに追い打ちを掛けるかのように深海棲艦軍は全てFlagship。1隻を撃沈させる為に多くの艦娘に被害が出てしまうのにだ。

 

「元帥大変です!!」

 

「今度は何だ!!」

 

「第七ドックが開いています!!」

 

「何ぃ~!!」

 

 

 

 

「大和さん直ちにドックへ戻ってください!!」

 

『矢矧すまないがそれは聞けない!!元帥!!私は仲間が倒れていく姿をただ指を咥えて見ているなんてもう出来ません!!』

 

「待ってください!!大和さん貴女はまだ改修が終了していないんですよ!!」

 

『そんな事は分かっています!!...改修が終了しても共に日本を守るべき仲間がいなければ意味がないんです!!』

 

「ですが!!」

 

「行ってこい大和!!」

 

「元帥!?」

 

「万全で挑める戦いなんてものの方が珍しい。...敵は私達の予想を遥かに上回った膨大な数だぞ。」

 

『無論、承知の上です!!』

 

「大和はカタパルトへ移動!!『了解!!』そして、矢矧!!」

 

「はい!!」

 

「大和抜錨後、基地に搭載している"アレ"を同時に発射!!奴らに目に物見せてやれ!!」

 

「ラジャー!!」

 

 

 

 

 

前線基地にある一つの倉庫の前方が大きく開き、海中から無骨な鉄でできたカタパルトがせり上がって来る。

 

「全砲門異常なし!!大和型戦艦、一番艦、大和、発進!!(皆、遅くなったけど今行くね。)」

 

大和はカタパルトに乗り、某ロボットアニメ宜しく発進した。

 

『全砲門開け!!目標、敵深海棲艦軍の中心!!』

 

矢矧のアナウンスと共に基地のあちこちから魚雷の様なものがせり上がる。これは"ミサイル"と呼ばれる兵器。姫神部隊盤上の匠霧島が考案したとされるイージスに実装されていたものを、大鳳が了承を得て横須賀へ技術を伝えた事により実現したものだ。余談であるが、試し打ちの時一部の工廠妖精さんが"美しい孔雀の羽ばたき"と称したとの事。

 

『発射ぁーーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改修が完了していなかったとは言え、大和の参戦はこの戦火に影響を及ぼした。戦っていた艦娘達の士気は上がり、参戦直後のミサイルの砲撃でイ、ロ、ハ級に大きな被害を出し100隻程撃沈させた。大和も自慢の46cm三連砲を次々に叩き込み押され気味だった戦況を少しだが変えていった。しかし、眼前に広がっている黒い敵は未だ健在。そして、敵の主力である"姫"や"鬼"と言ったものは姿を見せてはいないのだ。

 

「クソッ!!先程のミサイルの砲撃と姉さんの参戦で少しは敵を減らしたものの、いかせん敵の数が多すぎる!!」

 

「武蔵、泣き言は後!!次のミサイルの充填が終わるまでここを持ちこたえておかないと、直接前線基地へ攻撃されてしまいます!!」

 

「そんな事は分かっている!!だが、減らない敵を前に戦意を無くす奴まで出てきてるんだ。戦闘中でも愚痴りたくなる。」

 

士気が上がったと言っても、一部の艦娘は目の前の深海棲艦軍という絶望を目にし戦意を喪失した者も多数出ていた。それに、中破以上した者は一時前線基地まで戻りバケツでだが修理をしている。

 

『前線基地の矢矧より入電!!横須賀の武蔵、大和付近で戦っている祥鳳が敵ヲ級2隻に追われています!!横須賀の武蔵、大和は直ちに救援へ向かってください!!』

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

「いたっ!よくもやったわね!!私だって、やられるばかりじゃありませんよ!!」

 

祥鳳の九九式艦爆がヲ級の飛行部隊を次々と撃墜して行く。自身を追いかけてくるヲ級に気を取られていたから気付かなかった。自身へ迫る敵が。

 

「やりましたぁ!!...え!?キャァ!!」

 

敵は大きな白い尾を用い祥鳳へ数々の砲撃を浴びせていく。

 

「レ級がここまで接近してたのに気付けなかったなんて...」

 

レ級の集中砲火でみるみるうちに祥鳳は撃沈寸前になってしまった。

 

「レ」

 

「くぅ」

 

そんな祥鳳に突き付けられるレ級の砲門。

 

「オワリダ...」

 

「ッ!!」

 

祥鳳に迫る撃沈の危機。

 

「やらせるかよ!!」

 

その危機を救ったのは、

 

「悪い、遅くなった!!これより武蔵、突貫する!!」

 

先程矢矧より祥鳳の危機を知らされた武蔵と

 

「良かった間に合ったわ!!」

 

大和だった。

 

「ちっ、これじゃあキリがない!!ミサイルよりもっとでっかい攻撃で大穴開けないと戦況は一向に良くならんぞ!!」

 

「武蔵、そんな都合のいい物がある訳...は?」

 

「ん?どうした私の後ろに何が...はぁ!?」

 

武蔵と大和は"ソレ"を見た。突如現れた大型"戦艦"。艦娘では無く"戦艦"。鉄で出来た無骨なボディが海をかき分けるかのようにこちらへ前進している。そして、

 

「何で旧型の戦艦がこの海域に?」

 

「わ、分からん。だが、援軍と考えていいとは思...って何だありゃあ!?」

 

艦全体を覆うように幾つもの緑色の六角形で半透明なモノが発生したと思ったら、艦首の形状が複数の尖ったものへ変化し眩い閃光を放ち深海棲艦達を蹂躙していった。

 

『またせたのぅ』

 

その戦艦から一人の男の声が聞こえてきた。

 

『小童共!!』

 

戦艦波杜元艦長、寺岡太郎その人の声だった。

 

 




今年のUPはこれで最後です。皆様、良いお年を。
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