第3話 青年との出会い
~6年前~
帝国海軍は舐めていた。
「ちぃ!バケモノ共め!!右舷前方に全砲門開け!!」
突如現れた深海棲艦の彼女らを...
「艦長!味方戦艦『波杜(なみもり)』より入電!!」
彼ら海兵が乗り込んでいるのは戦艦『雪花(せっか)』。
「集中砲火だ!!全弾発射ぁ!!なんだぁ副長!!」
この船団は戦艦10隻で出撃していた。しかし今は波杜と雪花の2隻だけ。
「『波杜(なみもり)』より入電であります!!ッ!!我、操舵不能!我、操舵不能!!これより"カミカゼ"を敢行!!直ちにこの海域を離脱すべし!!」
敵深海棲艦はル級と称された見た目長い黒髪の女性が5隻、リ級と称されたショートヘアのビキニ女性が3隻、弾頭に人の口が付いたような形のイ級が10隻。
カミカゼ:撃沈寸前の戦艦を弾丸と見立て敵を引き寄せ自爆したり、突貫し自爆することである。
「"カミカゼ"だとぉ!!クソッ!!儂たちは幾つ戦力を失えれば奴らに勝てる!!」
そう言うと雪花のベテラン老艦長は握りこぶしを艦長席に叩きつけた。そして、《ギリィ》と音が間近で聞こえてくるぐらい歯ぎしりをし
「副長!儂の回線を館内放送に繋げてくれ!」
「了解しました!!・・・どうぞ!!」
『館内の全海兵に告げる!何処か船体にしがみつけ!!儂が舵を取り、この海域を離脱する!!若けぇもんは死んでも生き残れ!!言葉は矛盾してるが、生き残る事だけを考えろ!!そして、今日この瞬間をその身に刻み忘れるな!!そして、なんとしても奴らの好きにさせるな!!老いたもんも同様だ!生き残れ!!若けぇもんを育て奴らに目にもの見せてやれ!!』
先ほどいた海域から少し離れた場所に戦艦雪花は深海棲艦ル級1隻、イ級3隻に追われている
「てめぇら!しっかり捕まってろよ!!儂の操舵は...ちぃっと荒っぽいからのぅー!!」
「全船員の救命胴衣着用完了!!」
「よっしゃ!ジジイの意地を見せちゃるわい!!面舵いっぱい!!アンカーを放て!!」
「アンカー放て!」
《ゴゴゴ》と甲板に設置されていた錨が右に方向転換している雪花から下ろされていく。
『右舷船員は動ける奴だけでいい。全砲門を奴らに向け発射!!撃ちまくれぇ!!』
錨を用いての急速方向転換とそこからの突如の攻撃によりイ級の2隻を撃沈。しかし、まだル級1隻、イ級1隻が残ってこちらを追撃している。
「深追いはせんわ!このままこの海域を離脱!!散っていった者たちへ敬礼!!」
船員全35名が先ほどの海域を向き敬礼をした。
「ここから離脱する!!取舵いっぱい...「艦長!横須賀より入電!!」直ちに繋げぇ!!」
『こちら横須賀基地!こちら横須賀基地!!誰か応答願います!!』
「こちら戦艦雪花艦長『寺岡』。波杜は"カミカゼ"を敢行!!他戦艦は撃沈。この雪花のみ海域を離脱しそちらに向かっております。」
『こちら横須賀伝令の矢矧。良かったまだ撃沈されていませんね。先ほど離脱した戦艦があると伝令を受けました。今の座標をこちらに送ってください。近海の味方を向かわせます!!』
「...味方?」
「提督!!」
「今度は何だ!?」
「しょ、少女が!少女が!!」
「少女がどうした!!」
「セーラー服を着た少女がこちらに向かってきます!!」
「はぁ!?ちょっと望遠鏡を貸せ!!」
寺岡艦長は見た。少女を。驚くことにセーラー服に似た服を着た少女が、海面を滑る様にこちらに向かって来ている。
『こちら軽巡洋艦"球磨"貴艦を助けに来たクマ。』
「...クマ?助けに?」
『そうだクマ。』
「お嬢ちゃん、何故海面を滑れているのは聞かんが儂らを置いて逃げろ。奴らの強さは予想以上だ!無駄死にするな!!」
『ふっふっふ~、球磨を舐めないで欲しいクマ!球磨達"艦娘"は深海棲艦と戦うために造られたクマ!!見ているクマ!!』
軽巡洋艦の球磨と名乗った少女は、深海棲艦を物ともせずイ級ル級を順に撃破していった。
「艦長さんとお見受けするクマ。これよりこの艦を護衛しつつ横須賀まで送るクマ。」
「君たちが秘密裏に製造されていた"艦娘"か。...これで散っていった戦友たちが少しは報われるわい。」
今日この日帝国海軍は初めて深海棲艦に勝利した。
「"カミカゼ"を行った波杜も報われる...「あぁ、波杜は"武蔵"率いる艦隊が助けたクマ。"カミカゼ"敢行の前だったから良かったクマ。そして生き残った者は全員救助したクマ。」なんじゃと!!」
寺岡艦長はその言葉に驚愕し、
「...良かった、それは何より良い知らせじゃ!!」
安堵の表情をし泣いていた。
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~数ヵ月後~
「暑っちぃ~、ここらへんに大佐が言ってた"鎮守府"ってのがあるのか?」
青年は炎天下の中暑苦しい黒の軍服を着、黒の帽子を被りその場所を目指し歩く。
「しっかし、不思議な技術があるもんだな。"妖精さん"か・・・"あっち側"の技術って言われると俺は納得できるけど、そうじゃなさそうだからな。」
数年前不思議な技術で"艦娘"なる者を造る妖精が発見された。妖精の技術は今の技術をはるかに超えるものだった。そしてようやく数ヶ月前実戦投入され、その技術が敵深海棲艦に通用することが証明されたのである。
これを期に帝国海軍は妖精の技術を借りて艦娘を製造し、"鎮守府"なる拠点を置き深海棲艦と戦っていく事を決定。その鎮守府は旧日本帝国軍が海の拠点であった"呉"や"横須賀"、"舞鶴"などに置かれることになった。そして、この青年もその鎮守府へ向かっているところである。
「クソッ、大佐も大佐だぜ!急に『明日から貴様は"鎮守府"の提督になる。じゃ、そういう事で。』って、軽すぎるだろう!!そりゃ、俺も色々上層部に目を付けられるような事を少しは...いや、少しじゃないが...まぁ、いいや。少しはしてきた。だが、急に海軍に左遷だと!?今度、上層部の会議室を消し炭にしてやろうか!!」
青年は陸軍で階級は伍長。青年をよく知らない人物から見れば自分勝手に行動し問題を起こすトラブルメーカー。無論書類上の事でしか彼を知らない上からはいいように思われておらず、数多の戦績を築いているがあまり評価されていない。しかし、親しいものから見れば面倒見の良い青年で、特に何故か高齢者からの人気が高い。
「はぁ~、まぁ新戦力の"艦娘"ってのと"深海棲艦"の見分けが付けばいいや。艦娘を鎮守府とやらに置いておいて、戦果はそいつらがやったことにして敵を俺がまとめて海の藻屑に返せば万事解決!!よっしゃー!今後の方針は決まった!!」
勝手に自分の方針を決めた青年は、大佐から渡された地図を片手に目的の場所に急ぎ足で向かっていった。
「・・・ここが配属先の鎮守府か?」
青年はそこをまじまじと観察した上で、ようやく絞り出したのが先程の落胆した声で言った言葉だった。
「...マジかよ。上の連中はここまで徹底するのか!?なるほど。奴らには地獄を味合わせてやろう!!」
青年の目の前に広がる物は瓦礫と化したレンガ倉庫。これは完全に書類ミスなのだが、青年は自分を快く思っていない上層部の嫌がらせだと思い込んでいた。
「んで、俺の部下?でいいのか?...まぁ、艦娘の"電"ってのはどこにいるんだ?」
無論、全く違う場所に来ている為、艦娘どころか補給物資や資材といったものも全く無い。しかし、青年は気付く様子はなく瓦礫の山に入っていった。
「おぉ~い。電って奴はいねぇか?いたら返事しろ!!」
...居る訳がない。
「おいおい、部下も無しで俺一人でやれってか?上も思い切った事するな。まぁ、俺には全く問題ないけどな。敵意むき出しで掛かってくる奴を潰せばいいだけって事。味方も巻き込む心配がないから寧ろちょうどいいな!!は、はははっ!!...さ、寂しくないやい!!」
...非常に寂しそうである。
「・・・さて、一人でこうしているのもなんだし、掃除でもして寝床の確保をするか。」
使える物を瓦礫の中から選別し避けていく作業を青年は着々と進め、六畳一間ぐらいのスペースを確保した。
「ふぅ、さて今日の寝床は確保出来た。この倉庫...もとい鎮守府内を少し散策しよう。」
散策、とは言ったものの様々なガラクタや瓦礫で通路が塞がっており、普通ならショベルカーやブルドーザーといった重機が必要になる。しかし、青年は...
「ん?通路の邪魔だ!」
の一言と共に軽く片手で持ち上げ、
「ほい!」
と軽く小石を投げるように寝床を作るときに積んだゴミの山に放り投げた。
「おっ!次の部屋には光が差してる。どっかから入れる場所があったんだな。」
この青年にはこんな事は朝飯前である。
「ん?...ありゃ、人が倒れてる!?」
青年は光が差している部屋に入った途端、人が仰向けで転んでいる所を見つけた。
「お、おい!生きてるか!?」
青年がそう聞くのもおかしくない。瓦礫の山になっていた倉庫に生きている人が自分から入ってくるとは思えない。それに、
「は、肌がこんなに白く!!ま、間に合わなかった!!」
見つけた人の肌が血の気が引いたよりも白く、ピクリとも動かなかった為青年は死体だと考えた。
「クッ、こんなに"美人な娘"を連れ去ってここで...見つけ出して、熱した鉄板の上で土下座させてからじっくりいたぶってやる!!」
青年の目には怒りが見え、今にも飛び出していきそうであった。しかし、そこで踏みとどまり、目の前の女性を抱き抱え寝室として確保したスペースに連れて行った。
「すまん!もっと早く俺がここに配属になれば!!」
「・・・ヲ・・・」
「ん?」
「・・・ヲ・・」
娘は目をパチパチさせ青年をじっと見つめていた。
「い、生きてたー!!よ、良かったー!!!」
「・・ヲ!?」
「ん?言葉が喋れないのか?」
「ヲ!!」
「そ、そうだよな。酷い事されてショックで言葉が話せなくなったんだな。よし、君の面倒は俺が責任を持って行う!これでも軍人だ。君を守ることぐらいなら出来る。」
「ヲ!!」
今日この日、一人の青年と1隻の深海棲艦が出会った。この時まだ青年は敵である深海棲艦の事をよく知らなかった。