若人から青春を奪ってはいけない(迫真)   作:サイドベント

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監視の男(0)

 

 

西暦2138年某日。一世を風靡したゲーム"ユグドラシル"のサービス終了日。

 

異形種ギルド"アインズ・ウール・ゴウン"のギルド拠点がナザリック地下大墳墓。その最奥、玉座の間に一体の骸骨あり。

 

闇色のローブを纏い、胸の中心部には紅玉が輝く。そして傍には誰が見ても最上級のソレとわかる金色のスタッフ。まさにトップクラスギルドを治めるに相応しい格を備えた男。

 

彼は玉座にどっかりと座っていた。側仕えも無しに、ただ一人で。

 

残り少ない時間の全てを虚空を見つめて"誰か"を待つことに費やした。だが、遂にその時は訪れず。栄華を極めたギルドの最期を看取るのは彼一人となった。

 

そうして無情にも時計の針は0時を指し、骸骨の男(モモンガ)の長く美しい青春は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

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西暦2006年 東京都立呪術高等専門学校地下 最下層 薨星宮(こうせいぐう)本殿

 

 

 

 

「どういうことだ!!」

 

 

思わず叫んだ。

 

おかしいだろう。ゲームは終わったはずなのにログアウトできないなんて。コンソール展開や強制ログアウト。色々試してみても、慣れ親しんだ自宅の狭い部屋に戻ることができない。

 

そしてなによりおかしいのは。

 

 

「俺、骨になってる……やっぱりこれ、ユグドラシルのアバターだよな」

 

 

ヘッドセットを脱げば自分はただのサラリーマンの鈴木悟のはず。なのに今の自分はモモンガだった。何処とも分からない場所に独り放置されているという嫌なオプション付きで。

 

 

「何なんだよ……いったい何が起こっているんだ……?」

 

 

抱えた頭からカラカラと音が鳴るのも慣れない。骨ばった、とかではない本物の指の骨と頭蓋骨が擦れる音が頭に直接響いて、まるで『お前は人間じゃないぞ』と言われているようで嫌だった。

 

というか鼓膜が無いのにどこで音を聴いているんだ。そもそも脳味噌無いのに何で思考できているのか。魔力か何かの不思議パワーでカバーされている? ゲームじゃあるまいし。ゲームだっけこれ。

 

 

・これはゲーム:何かのトラブルに巻き込まれてる(電脳法違反者に精神の生殺与奪権を握られている可能性あり)

 

・ゲームじゃない:知らぬ間に拉致&ビックリ人間(骨)に改造されて放置

 

 

「どっちもヤバいじゃん……でもハッキングで感覚制限解除の違法ゲームに参加させられた、とかだったらナノマシンは補充してないから30分もあれば回線は強制切断されるはず。まだマシか。後者だったら……どうしよう」

 

 

後者はファンタジー過ぎる。けど、正直『ゲームじゃない』方が可能性としては濃厚だ。

 

だって、目の前には見上げれば首が痛くなるほど大きな樹がある。自然の濃厚な匂いがある。恐ろしいほどの静寂が、ある。

 

キラキラ光る星空や赤く燃える溶岩とか、現実では見られなかった素晴らしい景色はユグドラシルで見慣れているけど、目の前はコレはそれらとは比較にならないほどリアルだ。

 

神様や幽霊なんて信じてはいない。だけど、目の前の大樹やこの場の雰囲気には何か近寄りがたい。確実にヤバい場所だ。

 

ゾワゾワと背を撫でるような恐怖が湧いてきて、すぐに霧散した。違和感はある。だけど心強い言葉を同時に思い出していた。

 

 

「"焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの"、ですよね……ぷにっと萌えさん。とにかく考えなきゃ。冷静に、冷静に……今のところ何か危害が加えられている訳じゃない。とりあえず30分待つんだ。解放されたらそれでよし。明日の仕事にだって行ける」

 

 

きっと日常に帰れる。先延ばしかもしれないけど、そう考えればそれだけで力が湧いてきた。

 

 

「よし。まず30分は待機。椅子とかあれば良いのに。その後は……探索かな。見た感じ広そうだし、俺みたいに巻き込まれた人が居るかもしれない」

 

 

ますます希望が湧いてきた。そして椅子、椅子だ。腰を落ち着けるためにも必要なものだ。それを解決する手段にも心当たりがある。

 

さっきから気付いてはいたのだ。体の中に何か力が渦巻いていることに。前向きな気持ちになってからはより強く自覚した。

 

使える。この体はきっと魔法が使える。

 

 

「よし……上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)

 

 

秘められた魔力が解放され、魔法が実現する。黒曜石でできた無骨な椅子が目の前に現れる。めっちゃ座り心地悪そうだった。

 

 

「よいしょっと。やっぱり座り心地は最悪……でも、できたぞ!」

 

 

感じるのはちょっとした全能感。攻撃魔法なんて放ってみたらどうなるんだろう。超位魔法は? スキルによるアンデッドの召喚は? ワクワクしてきたかも。

 

 

「あ、でも誰かの敷地だろうし火とかつけたら怒られそう。無難なやつ……飛行(フライ)。お、おお!! 座ったまま浮いてる!! ははは!! すごいぞこれは!! あれ? 落ち着いちゃった。さっきもそうだったしもしかしてアンデッド特性?」

 

 

感情のジェットコースターは不快だ。でも楽しい。これなら30分の暇つぶしにも困らない、というかそもそもこのままずっとここで過ごせば良いのでは?

 

 

「困るな。私の庭に突然現れたかと思えば、椅子は出す、浮遊して高笑いする、そして急に冷静になると。好き放題してくれるね君は」

 

 

やばい。敷地の主が現れてしまった。しかも声からして女性。状況は圧倒的不利。咄嗟に両手を上げてその場に浮いたままピッタリと止まる。飛行魔法って便利。

 

 

「すみません。あの、迷い込んでしまって。決して何か悪いことをしようとしたとかではなくてですね」

 

「……まあ、ここまで侵入された時点で"詰み"だ。良いよ。話くらいは聞こうか」

 

「ありがとうございます。とりあえず降りますね」

 

「いや、そのまま着いてくるといい。ちょうど話がしやすい場所がある。案内しよう」

 

 

 

 

 

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なぜバーカウンターがあるのか? その謎に迫るために我々はアマゾンの奥地に……向かわなかった。我々ってそもそも誰だ。自分は一人だ。

 

 

「さ、話したまえ。好きな飲み物はあるかい?」

 

「あ、じゃあオレンジジュースを」

 

 

なぜ女性がバーテンダーの服を着ているのか? 相変わらず頭は疑問符でいっぱいだった。そのまま出されたグラスを傾けて飲もうとして、床に全部ジュースをこぼした。

 

 

「本当に色々とすみません」

 

 

平謝りしながら滅茶苦茶ショックを受けた。俺、飲み物飲めないんだ。多分食べ物も。もしかしたら睡眠も取れないかもしれない。

 

 

「不思議な骸骨だな。迷い込んだ、とも言っていたね。もしかして最近呪詛師に捕まって人体実験でもされたのか? ああ、答えにくかったら良いんだ」

 

「あ、お気遣い無く。あのー……言っても信じてもらえないかもしれないんですけど。あと長くなるんですけど良いですか?」

 

 

居住いを正す。

 

目の前の女性はノリはふざけているが、眼差しは真剣そのものだ。只者では無い雰囲気もある。敢えて話さないことはあっても、嘘は吐かない方が良いだろう。

 

最悪信じてもらえなかったら飛ぶかテレポート魔法で逃げてしまえばいいし。

 

 

「もちろんだとも。客の話を黙って聞くのもバーテンダーの仕事の一つだ」

 

 

どうしてバーテンダーなのか(ry

 

 

 

 

 

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「……という感じです。30分経っても俺はまだここにいます。アンデッドの特性もバッチリ体感してます。あり得ないとは思うんですが、ゲームの中からそのまま異世界転移ってやつかなぁと思います」

 

 

異世界だとか転移だとか。30を超えた身分としては恥ずかしくなるが、しょうがない。だって実際骸骨なんだもの。魔法使えちゃうんだもの。

 

 

「……特に力のある呪霊は人型を取りがちだが、君は違うらしい。何と言っても呪力を全く感じないからね。そういう意味で君の話は一定の信用がある。確かに君はこの世界の常識に当てはまらない存在であり、つまりは異世界人なのかもしれない」

 

 

全然わからないワードがどんどん出てくるが、とりあえず今すぐ叩き出されることはなさそうで良かった。

 

 

「しかし呪力ゼロか。一般人だろうとあり得ない存在。運命から外れた例外……天与呪縛。まあ君はこの辺りの話もわからないだろうから、今度はこの世界のことを私が説明しよう」

 

 

 

 

 

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「呪力、呪霊、呪術師。アニメの世界みたいですね」

 

「まあ、一般社会からは秘匿されているからね。非現実的に思ってしまうのも当然だろう。私からしたら君の姿も十分非現実的だがね。死人の見た目だが生きている。術式のような魔法を使うが呪力はゼロ。例外の塊だ。まったくもって不可思議だね」

 

 

確かに。骸骨の体で人間のように振る舞い、あまつさえ魔法まで使えるファンタジー生き物。冷静に考えなくても今の自分は滅茶苦茶な不思議生物だ。タイムスリップ疑惑まである。

 

 

「俺、属性盛りすぎ……? じゃなくて。えーと、天元さん。お願いがあるのですが」

 

「なんだい」

 

「俺に仕事をください。さっき見てもらった以外にも魔法は使えます。呪力が無いので呪霊に対しては無力ですけど、それ以外の脅威から貴女を守ることはできます」

 

「ボディガードということかな。あいにく間に合っていてね……ただ、君と縁は結んでおきたい。何かあれば適宜頼むような形でどうだろう。もちろん、依頼が無い時もここにいてもらって構わない」

 

「良いんですか? 外のこと全然わからないんで、ここに置いてもらえれば滅茶苦茶ありがたいです」

 

「というよりここ、正確には私の結界の中にいるしかないだろう。今の君の状態は安定しているが、外に出ればいずれ消滅してもおかしくない。何せ君は"この世のものではない"のだから」

 

「ええ、めっちゃ衝撃の事実……。何が何でもよろしくお願いします」

 

「わかった。報酬は依頼がある度に払おう。しかし、その前に私と縛りを結んでもらおうか」

 

 

来た。縛りとは法則のようなもの、らしい。破れば不利なことが起こる。それが無意識に結ばれたものであってもという恐ろしいものだ。

 

しかし自分とてサラリーマンの端くれ。契約書は穴が開くまで精査するタイプだ。しっかりと条件を聞くぞ。

 

 

 

 

 

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「さて、よろしく頼むよ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「ああ、そうだ。これら縛りについて他言は無用だよ。縛りの内容を逆手に取られて思わぬしっぺ返しを食らうことがある」

 

「なるほど……わかりました。ありがとうございます」

 

 

始まったのは『不死の女と骸骨の奇妙な共同生活』。これだと怪しさ満点。だけど、初めての女性との同棲ということ若干ドキドキしたのは内緒だ。

 

 

「ああ、早速依頼を出させてもらおうか。近々私は適合者と同化する算段でね。既に護衛の者は選定済みなのだが、その者たちと合流して欲しいんだ」

 

 

共同生活、終わった。いや、外に出られるなら良いのか。何と言っても自然が現存しているらしいし。海とか山とか星空とか。元の世界じゃ生で見たこと無かったし見てみたいな。じゃなくて。

 

 

「……護衛は間に合ってるって、そういうことですか。俺はその監視役ってことで」

 

「いや、あくまで私ではなく適合者の護衛だ。私自身は結界で間に合っているよ。あまり人を入れたくないしね。まあ君は最奥まで勝手に入ってきてしまったんだが……話を戻そうか。君は見る以外は基本的に何もしなくていい。彼らの邪魔をしないようにしてくれたらいい」

 

「……わかりました」

 

「決まりだな。後で呪具を渡そう。私謹製の結界が籠められたやつだ。それを身につけていればとりあえず即消滅とはならないはずだ」

 

「重ね重ねありがとうございます」

 

 

同化とはなんなのか。なぜ何もしなくて良いのか。聞くことはできなかった。天元の態度がそれを明確に拒絶していたから。

 

 

「まあ何も対策せずに外に出てみたらどうなるかも非常に気になるところだがね」

 

 

その呟きも聞かなかったことにした。呪具とやらを受け取ったらダッシュで外に向かうことを心に誓った。

 

 

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