少女は突然現れる。川神学園の三年生として。優雅に、華麗に、煌びやかに。ただ何よりも少女が輝いたのは戦いの中であった。

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斬閃・登場

 刀身が走り斬撃が飛ぶ――――文字通りに、目にもとまらぬ速さで。

 

 数メートル前に立つ少女を仕留める為に。銀色の風となり、弾丸のように一直線に、確な意思を持って斬撃が駆けてゆく。

 

 

 

 

 

 

 斬撃を放った者の瞳に映る少女は…………焦る様子はない。笑っている。非常に整った顔立ちを歪ませることなく、白い歯を惜しむことなく見せつけるように豪快に笑った。

 しかし下品さは全くない。まるで――――斬撃が向かってくるのを楽しんでいるかのよう。

 

 

 

 軽快にステップを踏みながら少女は向かってきた銀色の刃を右手で握りつぶした。

 

 手のひらに直撃したと思いきや、そのまま手で石を作ることで剣閃は当たる直前に、線香花火をように静かに消滅した。人為的に起こされた風は人の手によって収められた。

 

 

 

 銀色の風を作り出した本人は慌てることなく、汗の一滴も流さずに落ち着いた振る舞いを見せている。遠距離から繰り出した刃を止められたことに未練はない。

 

 かとすぐに更なる一手を打つこともない。一つ一つ何かを確かめるように少女の体をパーツごとに眼で追っていく。

 

 

 

 その数秒後、眼で確かめ終わったのか? それとも途中で諦めたのか? 視線を相手の顔に合わせて大きく開いていた腕をゆっくりと自然に降ろす。

 腕の力を抜く動作でさえ気品がある。ただ手にはある物を持ったまま、握力を失ってはいない。

 

 手には刀。これを用いて先の斬撃を生み出した。

 

 輝く銀色の刃、傷一つなく鏡のように物体を反射することだって出来るほど美しい。

 

 腰には刀を納めるために作られた鞘がある。漆黒の鞘は何でも吸い込んでしまいそうな雰囲気。刀を守るために、また自分を刀から守るために作られた鞘は静かに腰に携えられている。

 

 

 

 

 

 だが刀を鞘に収めることはしない――――戦闘は終わっていないのだから。

 

 

 

「凄い! 凄いぞ転入生!」

 

 

 

 

 風を止めた張本人である少女――――川神百代は眼をギラギラと光らしながら興奮を隠しきれていない様子だ。非常に高揚した声で相手を賞賛する。厭らしさは感じない、惜しみなく褒めている。

 

 世界中で名を轟かせているかの川神百代からの言葉にも大きな反応を見せない。刀は握り締めたまま、百代から視線を一切離さない。

 しかし口元が僅かに上がっている。眼も心なしか先ほどに比べて優しい物になっている。少なくとも斬撃を飛ばしたときの眼光の鋭さはない。

 

 

 

「さぁ! まだまだこんな物じゃないんだろ!!」

 

 

 

 百代が叫ぶ。武神と言われた自分の相手が勤まる人はそういない。

 世界で戦っている有名な武道家だって、彼女にかかれば全てが役不足。彼女は孤独であった。強すぎる故に戦闘に関しては孤高の存在だった。

 

 

 

 しかし現れた。孤高の存在に並ぼうとするかのように、流星のように現れた。

 

 百代は素直に感激する。どんなに自らと肩を並べる者を探しても見つからなかった存在が今、目の前にいる。

 

 

 

 

 

 そして――――その者は本日から少女の級友となる。

 

 

 

 

 

 級友は武神の言葉を受けて動き出す。

 

 一度力を抜いた右腕を肩と同じほどの高さまでに上げる。手に握られた刀と腕は大きく右へと開く。

 次に右腕をそのままに左手で、右腰につけていた別の刀を鞘から抜く。右手にも、左手にも同じ武器が握られた。いや、全く同じではない。形が良く見ると違う、刀の波紋が乱れている。が、今そのことは百代には関係ないし、刀の持ち主である本人には分かりきっていること。

 

 新たに握られた刀と連動するように開いた右腕も動いた。右腕は大きく下がり左腕は四十五度の角度、お互いの刀が並行に保たれる。

 

 

 

 

 

 ――――四肢に力がこもる。

 

 スプリンターのような爆発的な加速を見せ、二本の刀は川神百代を仕留めるために持ち主と一緒に動き出す。数メートルあった距離は一瞬で縮まり刀が届く絶好の間合いを取りに行く。

 

 

 

 右方向からの凪払い。雷が走ったかのような瞬時の出来事。眼にも止まらぬ……いや、眼にも映らぬ速さ。刀を振ったことは理解出来るだろう。だが刀がどこにあるのかが把握出来ない。瞬殺とはこのことを言うのだろうか?

 

 

 

 ただそれは相手が見えていない時の話。川神百代の眼光は剣閃を捕えている。

 腹部目掛けて放たれた一撃を後方へ一歩引く最小限の動きで回避。大きな動きを取った者はこの瞬間敗北が決定する。川神百代のカウンターが入ることによって。

 

 しかし相手は次の一手へと移る。カウンターを入れられる前に、後退することなど許さぬと言わんばかりに左手からバネが弾けたように繰り出される突き。一直線に伸びる刃が百代に迫る。

 

 これも百代には直撃しない。首を僅かに動かすと言う達人の動きで回避。その剣速を間近で見て百代は素直に感嘆した。

 

 

 

 ここまで早い剣速は初めて見る。日本で人間国宝に認定されている東北の大剣豪 ”黛十一段” よりも、その娘であり既に実力は父以上と噂される ”黛由紀江” よりも頭一つ抜けて速い。剣速だけ見るのなら今まで戦ってきた者の中で一番。

 

 しかし思考する暇があるのか? と言わんばかりに次の剣閃が襲いかかってくる。

 避けたと思ったら目の前には更なる斬撃。大きく距離を取ろうとしても地面が抉れるほどの爆発的な脚力を見せつけ、詰め寄ることで仕切り直す余裕を与えない。多面方向から絶え間なく刃が首を取りに来る。

 

 

 

 百代は冷や汗をかくと同時に、楽しさが湧きあがってくるのを犇々と感じ、それを抑えきれなかった。

 

 

 

――――何て楽しい仕合なんだ!

 

 

 

 小さな子が夢の国に訪れたような弾けた笑顔。孤独により生まれていた心の闇が払拭されていくような感覚。今まで味わったことがない心境。純粋に真剣で戦える喜びが自分を満たしていく。

 

 

 

 だからこそ、ここで終わる訳にはいかない。そろそろ反撃の時間だ。

 

 

 

 二つの刀が揃って並行に斬り上げてくる。これを避けることはしない。受け止めにかかった。百代はボクサーが守りに入るような姿勢で迎え撃つ。気で腕をコーティングすることで防御力を底上げする。

 

 両腕と二刀がぶつかる。瞬間金属と金属が派手に撃ちあったような音が周りに響く。刀は百代の腕に弾かれこそしたものの振り抜かれた。百代は刀を完全に止めることは出来なかったのだ。

 切り傷はついてしまった。腕から血も流れている。しかし耐えきることが出来た。

 

 

 

 百代は大きく隙が出来た相手目掛けて、自慢の拳をお見舞いしようと軽くテイクバック。最強の一撃が放たれる。

 

 

 

「川神流! 無双正拳突きぃ!!」

 

 

 

 豪腕の右腕が唸りを上げる。並居る武道家を葬ってきた必殺技がついに解放された。

 今から腕を直ぐに降ろしても防御は間に合わない。よしんば防御が間に合ったとしてもガードそのものを突き破る威力を持っている正拳突きだ。

 

 

 

 

 

 しかし結果は直撃することすら叶わなかった。

 

 上に伸びきった先にある刀を空中に手放し、体を左に大きく捻りながら回転することで回避に成功。百代の手が掠りこそするが痛みはない。高威力を持つ右腕も、当たらなければ一般人の拳と変わらない。

 

 

 

 失った二本の刀の代わりにすぐさま別の刃を準備する。腰にある第三の刀を抜き、回転力を利用しながら居合抜きが放たれる。

 

 

 

 それに合わせるように百代は拳を突き出した方向目掛けて走りだした。振り返って刀を眼で追おうとしたら回避行動が遅れて抜刀術が直撃してしまう。どうすれば避けられるか? 拳を突き出した方向に前進することだと判断したのだ。

 

 相手のすぐ横を突風のように通り抜ける。あくまで避けることだけを考えた結果のこの行動。間違いなく英断。刃を目で捕えようとしたら、よしんば映ったとしても彼女の腹に傷がつくことは避けられなかった。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 初めて刀をもつ者が……いや、少女が言葉を発した。

 息一つ吐く仕草ですら気品が漂っており、見る者の眼を釘付けにしてしまうほど。

 刀を一度相手に向けるのではなく地面に向け、百代が駆け抜けた方向へと顔と眼を合わせて瞳の中に彼女の姿を写した。

 

 

 

「ここまで攻めてまともな一太刀も入らない事は初めてです。流石は川神百代、お強い」

 

 

「私もここまで防戦一方になることなど初めてだ」

 

 

 

 お互い小さな笑みが浮かんだ。互いが互いの健闘を讃えている。言葉こそ少ないが二人ともその気持ちが伝わっのだろう、だからこその頬笑み。戦う者が美しいと称されてもおかしくないほど綺麗だ。

 

 ただ会話はこれで一旦終わり。この場で語るは無粋。語るならば己の武を見せつけよということだろうか。百代も少女も顔から笑みが消え、眼光鋭く戦う者の表情へと変化した。

 

 

 天に舞っていた二刀が重力には逆らえずに落下し始める。

 

 落下に転じた瞬間――――少女は再度攻勢の体制へ。刀を手にした弾丸が百代目掛けて走りだす。そして駆けながら四本目の刀を抜刀。二刀流が復活する。二刀が地面スレスレの低空飛行しながら主と共に駈け出した。

 

 

 百代は少女を迎え撃つために眼を据える。体制こそ大きく変わりはしないが、気を体に巡らし斬撃を防ぎにかかる。狙いは先と同じくカウンターだ。どんな攻撃が飛んできても対応出来るよう体を準備させた。

 

 

 

 

 

 少女は走りながら斬りかかる……否! 距離を数メートル縮めたところで脚力全体の筋力を爆発させ、本物の鉄砲玉のように百代目掛けて回転しながら飛び込んできた。全身を刀にして百代に斬りかかる。人間が巨大なライフル一発に変貌した瞬間である。

 

 

 

 

 

 瞬時に百代も反応。守ってからの攻撃ではなく、避けてからの攻撃へ切り替えた。

 

 横っ飛びからの転がり。ドッチロールで少女の体に間違っても触れないように気を使って躱す。

 すぐさま体を起こして着地したところを狙い撃ちにかかる。猛獣が狩りをするかのごとく獲物目掛けて飛び込む。一瞬の隙さえあれば仕留めるのは容易い。

 

 

 

 しかし獲物は抵抗してくる。この少女は獲物なんて生易しいものじゃない。この場で戦う二人は両者ともに狩る側の人間なのだ。

 

 百代が拳を突き出した時、既に少女はいなかった。拳を突き出すコンマ何秒か前までは間違いなく眼に映っていたはずなのに。瞬間移動などありえない、近くにいるはずだ。気配を探る。結果、視線に入らない場所の少女はいた――――

 

 

 

「上か!」

 

 

 

 首を空へ向ける。視線の先には綺麗なバク宙を決めながら舞う少女がいた。

 少女の手にまた新たな刀が……これは落下している二本の刀を再度手に収めたのだ。これで両手に二本ずつ、計四本の刀が握られている。

 四本を携えたまま、空中にて重心をずらすことで顔を下に向ける。体を上下に反転させ、そのまま刀を構え斬りにかかる。四本の刀を二本の手で握ることは出来ないので、指にはさむ形で強引に支えつつも刀の軸はブれずに容赦なく振り抜きに来る。

 

 

 

 あの体制から瞬く間に攻勢に移ってくるとは想像していなかった百代は再度迎撃するのではなく、刃を避けに入る。後ろへ大きくステップすることで刃は当たらず。

 

 しかし目の前の少女は一切攻撃の手を緩めることはしない。

 瞬間移動をしたかと錯覚するような速度で詰め寄ると斬撃の嵐を起こし始める。攻撃に転じた時、既にに二本の刀は鞘に戻しており鍵爪モドキでのスタイルはなりを潜め、二刀流で仕留めにかかる。

 

 

 

――――このままじゃ拉致があかない!

 

 

 

 ピンポイントで向かってくる嵐を往なしながら百代はある判断を下す。

 これ以上相手にペースを渡すわけにはいかない。このラッシュこそが少女が最も得意としている戦闘スタイルだろう。付け入る隙がまるでない。台風がずっと同じ位置にとどまっているかのようだ。

 

 相手の連続攻撃を止められ、大ダメージを与えることが出来る技……加えて攻撃範囲が広く、少し距離を取っただけじゃ避けることは不可能な大技を使うことを決めた。

 

 

 

「川神流! 人間爆弾!」

 

 

 

 百代の体に気が収束し、揮発性を帯びさせた状態で気を発散させる。この瞬間、川神百代は正真正銘の爆弾と化した。現在地を中心とし爆音を響かせた。

 

 

 

 爆発で傷ついた体を一瞬で癒やしながら、百代は少女がどうなったかを確かめようとする。気配はある、気を発していることも確認できた。しかしダメージを与えることが出来たかまでは目で確認しないといけない。

 

 

 

 煙が晴れていく……晴れていくにつれて少女のシルエットが浮かび上がってくる。片膝をついて苦しんでいる様子はない、立っている。

 百代は思わず舌を巻いた。人間爆弾は百代が持つ技の中でも高威力なもの。フィニッシュ技として使ってもよし、大きく相手の体力を削るために使ってもよし。そんな大技が防がれたとなると相手の少女は自分が想像していたよりもはるかに強い。

 

 煙のカーテンは完全に開いた。少女は右手に持っている刀を風車のように回転させている。刀より後ろに煙がないところを見ると、爆風が少女に当たったとは考えにくい。

 

 

 

 爆弾が破裂する瞬間に足を止め、百代に近づくことを中断。出来る限り距離を保つために後ろへ跳躍することを決める。

 なんとか距離を保ったところでその場で立ち止まり、自らの刀で爆風も突風も防ぎきったのだ。よって無傷。少女の体には爆風で付きそうな煤の一つもなかった。

 

 少女は微笑む。どうだ防ぎきったぞと、言葉にはしないものの宣言しているかのようだ。

 

 微笑んだのは僅かな時間。直ぐ様相手を仕留める狩人の顔へと戻る。再度こちらのターンが回ってきたと言わんばかりに突進していく。あのような危険な攻撃をされたのだから様子を見るとかは一切考えていない。少女の考えはただ一つ、この川神百代に斬撃を与えることだけ。

 

 

 

 左から右への凪払い二連撃、同じ方向から二刀が攻めてきたと思いきや、次は一刀での突き技。左右からの同時攻撃――――戦っていない第三者から見れば演舞のようだと思うだろう。それほどまでに少女の戦い方は綺麗で、華麗で、苛烈だ。舞台で魅せることを重点に置いて戦っているのだと勘違いしてしまうほどに。

 

 

 

 だがその少女の相手を勤めている者からすればこの演舞、冗談じゃないくらい相手をするのが辛い。

 攻撃を防いだ、避けたら続けざまに次の攻撃が飛んでくる。それも防ぎきったとしても一息付く暇すら与えずまた新たな攻撃が……攻撃が止まない。こっちの番が回ってくることはない。手数が多く攻撃速度が異常に早いことに加え、攻撃への転化が上手い。

 

 

 

 

 

 これはもう無理矢理にでも攻撃を止めにかかるしかない。百代が出した答えだ。

 何度目か分からない、鋏で物体を斬り裂くが如く上下同時に刀が襲いかかってくる。

 

 先までは大きく後ろに下がるか、しゃがむか、どちらにせよ無理やりにでも体を動かして次の斬撃に備えてきた。

 

 

 

 しかし今回は違う。この刀を止める。

 

 刀の軌道を予測し手を添えるように構える。柔道選手が相手を待ち構えたような姿勢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気で手の強度を限界まで高めて刀を無理矢理――――掴んだ。

 手のひらから血が流れる。素直に痛い。達人クラスの居合を止めにかかったのだ。痛いで済むのならまだ御の字かもしれない。

 

 だがこれで攻撃は止んだ。刀は絶対に手放さない。刀を持つ猛獣を檻の中に漸く閉じ込めることが出来たのだ。斬撃による災害は無力と化したはず。

 

 百代は刀を掴んだまま、真正面にいる少女目掛けて前蹴りを放つ。型などへったくれもない、ただ単に力を込めただけのヤクザキック。

 だが威力は十分。これがクリーンヒットすれば間違いなく勝利はこちら側に傾くと確信出来るほど。

 

 

 

 

 

 しかし少女は顔色一つ変えずに淡々と刀を止められた真実を受け止める。表情が変わらないということは……この事態に対して全く焦っていないということ。

 

 

 

 少女は刀が止まった瞬間、惜しむ様子を全く見せずに手放す。その変わりに新たな刀を両手に握りしめる。

 その登場した二刀で十字マークを作り、刀が丁度交差しているところで百代の足を受け止めた。

 

 

 

 百代は受け止められた事実に内心驚いたものの直ぐに頭を切り替える。刀ごとへし折ってダメージを当てるべく太ももを中心に脚力に力を込め、威力を更に強める。最悪大きく吹き飛ばして転がしてしまえばいい。

 

 しかし刀は折れない。折れる気配すらない。刀が曲がる様子はない。ミシミシと音を立てる様子もない。ただひたすらに主を守ろうと、与えられた使命を守るために己が壊れることはない。

 

 だが威力の全てを軽減できるわけではない。脚撃を受けた衝撃までは消し去ることが出来なかった。

 結果的に少女は大きく交代することになる。距離にして十メートル後半。もうちょっとで二十メートルに届くのではないかというぐらいに吹き飛ばされた。

 

 綺麗に受け身を取って、顔を上げる。少女は百代と自ら手放した刀の行方を追った。

 

 

 

 刀は百代の直ぐ傍に落ちている。ならば再度接近戦を挑みにかかってその合間を縫って拾えばいい。

 だが百代は何をしている? 両手で空気の玉を作っているかのような構えを見せている。だがその両手の間には莫大なエネルギーが集まり始めていた。見る者すべてが美しいといえるほどの金色の気弾。それがソフトボール程の大きさになったところで――――

 

 

 

「川神流! 星殺し!!」

 

 

 

 発射された。エネルギーが溜まったことを確認出来た百代は、エネルギーそのものを少女目掛けて放つ。百代の両手からは巨大な光線が生まれ、一直線のレーザーとなって少女に襲いかかる。

 光線は少女目掛けて狂いなく直撃コースだ。あれほど巨大な光線を今から避けることなど出来ない。金色の光は少女を巻き込み、今度こそ勝利が確定する。楽しい勝負だったがこれで幕引き。自分の勝ちは揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 しかし……光線は大きな爆音を残すことはなかった。

 

 

 

「……なっ!」

 

 

 

 百代は驚きと動揺の表情を隠しきれなかった。今まで戦っていてこんな顔をするのは初めてかもしれない。絶句、という言葉が一番しっくりくるだろうか? しかしそうなるのも無理はない――――自らが放った最大の光線が目の前で消え去ったのだから。

 

 

 

「…………なぁ、聞かせてくれ。どうやって防いだ?」

 

 

 

 百代は消えた瞬間を眼で見ていた。目の前で見ていても何故消えたのかが理解出来ない。少女の口から真実を聞きたい。誰も消え去ることが出来なかった、ましてや防ぐことも出来なかったあの大技をどうやって対処したのかを。百代にしては珍しく、淡々とした口調で少女に問う。

 

 少女はいったん眼を伏せて考えるそぶりを見せた。そして形が良い口を開く。

 

 

 

「……気の塊を刀で霧に変えました。ただそれだけです」

 

 

 

 あっさりとした物言い。口に出した答えは酷く簡単な物だった。単純に自らが持つ刀と技量で気の塊を強引に粒子に変え、それが霧となり空気に舞った。霧を視界に捉えることは物理的に無理だ。個体から気体に変わったことに気づかずに、百代は消えたと錯覚してしまったのだ。

 

 

 

「……その真っ赤な刀だから出来たのか?」

 

 

 

 二本の刀を両手に握っているのは先までと変わらない。腕をダランと下げてると連動して、刀も今は相手に向いていない。

 しかし刀が種類変わっている。銀色の刀身ではなく、まるで装飾したかのような真っ赤な刀身。飾るだけで実用性が無さそうに見えるのだが――――

 

 

 

「この二振りの刀は気を斬ることに特化した刀です。通常の刀ではあの光線は斬ることは出来なかったでしょう」

 

 

 

 少女は自らの手にある刀に視線を落としながら、表情一つ変えずに淡々と百代の質問に答えていく。全てが同じトーンで話しており、感情がないのかと錯覚してしまいそうな程の平坦な声。

 

 対称に百代は……表情こそ変わっていないが心臓がバクバクと言っている。心なしか体がゾクッと震えがるような感覚も覚えている。口元も震えているが、恐怖は感じていない。実在している人間を怖いと思ったことはただの一度もない。

 

 

 

「……そうか。あともう一つ教えてくれ。私の蹴りを防いだ時の刀身は黒だった。あれはは……?」

 

 

「あの二振りは切れ味を捨ててとにかく強度を重視した刀です。だからこそ川神百代、あなたの蹴撃から身を守れた」

 

 

「……その八本の刀は飾りじゃなかった訳だ」

 

 

 

 これは興奮だ。百代は心の中で興奮している。いや、それが抑えられない。だんだんと顔が喜びに満ちあふれてきている。口元をヒクヒクとさせていたのも喜びという感情が抑えられなかったのだろう。

 

 

 

 強い……この少女、今まで出会ってきた中でもトップクラスに強い。

 同じ国内にここまでの強者がいることに感銘を覚える。世界は広いようで狭い。今まで退屈していた自分が馬鹿らしく思えてくる。

 百代は拳を握る。強く強く握り締める。今直ぐに殴りに向かう訳ではないが、力を込めないという選択肢はない。力を向ける矛先が欲しい。それが自らの拳だった。

 

 

 

 その様子を見ていた少女は眼を細めてクスリ……と笑った。百代の姿が楽しかったのか、それともこの勝負事態を楽しんでいるのか、それともまた別の理由が……?

 

 

 

「さぁ、続けましょう。私とあなたの決闘はまだ幕を引いていませんよ」

 

 

「あぁ! まだまだこれからだ! いくぞ!! 桐生葉月!!」

 

 

 

 百代は身長が自分よりも十センチ以上低く、レイヤーショートボブの銀色の髪をした八刀流の少女がとても大きく見えた。

 

 あぁ楽しい。決闘が、戦うことが楽しい。百代は子供がおもちゃで全力で遊んでいるような無邪気な笑みを。

 葉月はそれを見守る母親のような笑みを浮かべて改めて対峙する。

 

 

 

 

 

 戦いはまだまだ終わらない。被害が出るかもしれない学園内での戦いなのに止めようとする大人もいない。皆が見入っているこの決闘の決着はまだ先のようだ――――




こんばんわ、りせっとです。短編書きたくなった+妄想がはかどったので思いきって書いてみました。二次創作の短編を書くことはこれが初めてですので、どこまで化効果と悩んだり、これで伝わるか? と考えたりと至らぬ作品になってしまったと思います。

感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見や感想をいただければ幸いです。感想を読んだり、このようにすればいいのでは? と言われることは非常にためになります。

それではよろしくお願いします。

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