TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
五条悟の声明から、たった数週間で何十人という術師が五条悟に挑み、そして負けた。
そもそも誰も、彼を一歩とて動かすことが出来ずに負けていて、アイツを倒す参考にすらならなかった。
……腹立つのはアイツの言った通り、俺がやることは今まで通り五条悟を倒しに行くこと。それが変わらないので、俺のやることは変わらない。
まんまと掌の上で踊らされてるみたいで非常に癪だが、やるべきことをやるしかない。
当面の目標は五条悟の無下限の突破方法の獲得。
今のところ思いつくのは、やはり領域展開の獲得だろう。
俺の術式は元々必中みたいなものなので、これによって得られるメリットは少ないが展開中は必中効果により無下限呪術を中和できる。これが一番大きい。
アイツの無限が無くなれば心を読むことも出来るかもしれないし、そうなれば近接戦闘に持ち込める。そこまで持ち込んでもアイツの近接戦闘力を上回ることが出来るかは俺次第だが、少なくとも勝負にはなる。
手札を増やして損は無いし、領域展延とかもできるようになっておきたい。
「というわけで直哉、領域展開できる?」
「出来へんの? ザコが」
「お前出来んの?」
「出来るわけあらへんやろ。結界みたいなチマチマした小技嫌いねん」
「じゃあなんでさっき俺の事ザコって言ったんだよ」
対五条悟同盟として、俺と直哉はすっかり普通に訓練するようになっていた。
別に仲は良くないけど、禪院としても仲が良くない五条家を実質支配下におけるチャンスは捨てたくない。直哉が黒閃を出したのは俺との修行中というのもあって、禪院家は俺と直哉の関係を悪くは思っていないらしい。
「ウチには長生きなだけでパッとせぇへんジジイがおるんやが、そいつの術式は地面を操作する感じなんやな。なんでこんな術式であんなパッとせぇへんのか謎なんやけど」
「老人は敬えよ」
「敬うほどの要素ないやつ、敬う必要ないやろ。とにかく、そのジジイは地形操作の一環で結界にも長けるんやけど、領域展開は足し算なんやって」
「どういうことだよ」
「呪術の基本は引き算やろ? でも領域展開は逆なんや」
印の省略、構成の簡略化。
必殺の一撃をどれだけ素早く展開出来るかが、呪術師の一つのステータスだ。しかし、簡略化すればその分威力は落ちる。面倒な手順はそれそのものが縛りとして術式出力を底上げする。
その塩梅の調整も、術師のやることの一つ。つまりどれだけ引くかが術師の優秀さに繋がる。
「考えてみ。クリーンヒットすりゃ必殺の術式を、絶対に当てる。こんなもん引き算が成立してへんやん。ひたすらに足して足して足してる。呪術の最奥にして、根本的に呪術の基礎から外れとんねん」
「は? じゃあなんだよ。鍛えても意味ねぇってか?」
「お前程度じゃそうやろな。ま、俺はちゃうけど」
ニヤついてる直哉は多分、何かしらのきっかけを掴んでるんだと思う。しかしそれを俺に教えてくれるほど、こいつの人間性はできていない。
そもそも俺達は、目的が似てるから殺しあってないだけで根本的には敵なのだ。
「この分なら、あっち側に行くんは俺になりそうやな。今のうちに男の悦ばせ方でも学んどき」
「お前こそ、俺が五条の当主になったらお前には扇の娘のおしめ替え係を任命してやるからな……」
「そん時は俺も禪院の当主……ってかなんやそのようわからん係。そもそもあの人娘おらんで」
とりあえず、領域に関しては保留。
最悪直哉が獲得したらアイツの思考を丸パクリすればいいし。何せアイツは常に俺に敵意を向けてきてるので、思考が読み放題なのである。相変わらず思考と言動が完璧に一致してるので、めちゃくちゃ安心できる。
本当に、直哉以外にここまで思考と言動が一致してる人間いないんだよね。
思ったことを全部口に出して生きてるとか、それはそれとして死んだ方がいいとは思うけど。
そしてもう一つ、並行してやらなければならないのは……。
『嘘、これもしかして腐ってる?』
『やっぱ盗みはまずいよけど……でももうやっちゃったし今更言っても捕まっちゃうし、やらなきゃ殴られるし……やるしかないじゃないか』
『あの上司ほんとムカつく、死ねばいいのに』
『鍵どこに落としちゃったかなぁ……』
頭に響いてくる幾つもの声に、俺は顔を顰める。
黒閃以降、俺の術式はさらに出力を増していて、敵意も関係なければ距離も遠すぎる心の声を勝手に拾ってくることが多くなってきた。
普段は気分が悪くなる程度で済むが、戦闘中に余計な声を拾ってきたら致命傷だ。自分の術式はしっかりと制御できるようにしなければ。
……正直最近、直哉とよく一緒に訓練するのはアイツが一番いい感じの訓練相手という以外にも、この術式の暴走がある。
そもそも呪力とは負の感情だ。
それが起点であり、相手の敵意を読み解くこの術式によって送られてくる情報は、はっきり言うとものすごく不快なのだ。
戦闘中は出力を目の前の敵の反射的な攻撃意思に絞るから耐えられているが、日常生活で何気ない負の感情を送られ続けるのは、頭の中に生ゴミを押し込まれているかのような生理的な嫌悪感が常に付きまとう。
その点直哉は本当にいい。
アイツは良くも悪くも俺に対して一切嘘を吐かないので、アイツの心の声は聞いていて安心できる。
あと悟も、術式のせいで心の声が聞こえないので及第点だ。
とはいえアイツらと常に一緒にいるのは別の方向でメンタルに悪いので、早急に術式の制御の練習が必要だ。相伝術式らしいし、お父様にその辺の資料がないか聞きたいのだが……。
「当主様、いつまでこの事を恋鈴様に黙っているつもりなのですか?」
「そういうお前こそ、婚姻の件を恋鈴に伝えなかっただろう。悟様のあの声明は、きっと恋鈴に何か吹き込まれたに違いない。お前に本家からの責任追及が来なかったのが奇跡なくらいだ」
戸の向こうからはお父様と千春がなにやら言い争っている声が聞こえる。
前から不思議に思ってたんだけど、一使用人である千春がなんで当主と言い争うことが出来るんだろう。
まぁそんな疑問は置いておいて、とりあえず回れ右だ。
何やら俺の話をしてるみたいだし、こういうのは聞かないことにするのが正解なんだよね。
俺は二人の心の声が聞こえたことがない。
それはつまり、二人は少なくとも俺に敵意を向けてはいないということ。それだけわかってるなら、わざわざ言い争いを耳にして気まずい気分になる必要も無い。ストレスは美容の天敵なんだよ。
『家の為に何とか漕ぎ着けた五条家との婚姻が、万が一無しになったら本当に最悪だ』
「──────は?」
頭の中に、聞き覚えのある声が響いた。
間違いない。聞き間違えるはずがない。これはお父様の声。
お父様が、俺に敵意を?
いや、これはきっと術式の暴走だ。とにかく、お父様の心を勝手に読むなんて行儀が悪い。
きっと距離を取れば大丈夫。急いで靴に履き替えて、俺は全速力で行く当てもなく走り出した。
『恋鈴に決定権なんてないんだから、伝えても伝えなくても同じでしょう』
『お前は恋鈴を甘やかしすぎだ。あの子はこの家の未来そのものなんだぞ』
千春の声まで頭に響き始める。
聞こえないように叫んでも、頭の中に響く声は音を無視してその意味を強制的に俺に理解させにくる。『覚ノ改』とはそういう術式。
聞きたくもない呪いの言葉を、無理やりほじくり返す、性格の悪い術式。
『安楽家の存在価値は、より優れた子を産めることだ。五条悟の子が、また六眼と無下限を併せ持てば我が家の存在は磐石のものとなる! だと言うのに、こんなつまらない展開になるなんて……』
『どうせ悟様に勝てる存在なんて現れませんよ』
『お前に何がわかる! 呪力もなければ子も産めない、
『汚点だからこそ、ですよ。そもそも恋鈴を家の為の道具として扱うならば、半端に愛情を抱くふりをしている、
──────まぁ、別に、そういうことも、あるよな。
禪院家で、呪術師という一族の醜さは見ていた。
五条だって、悟のあの性格は彼の生来の常人との違い以外にも、彼をそう言う風に扱っていた周りの人間の方針もある。
だから、うちだってそういうこともあるよ、そりゃぁ。
お父様が俺の事を道具として扱ってることだって、千春を、自分の娘ですらも使い道がなければ娘として扱わないような人間なことだって。
千春もそんな家の方針に従っていて、内心では俺の事を呼び捨てにしていることだって。
でも、別にまぁそれよくある話だしな。
むしろちゃんと表向きだけでも俺がひねくれないように育ててくれているだけマシなまである。禪院家とか死んでも生まれたくない。こんな可愛い俺を、女だからって見下す家とか爆発していいだろ。
「あー良かった! 俺って、こんなに可愛くて!」
それに、俺は可愛いのだ。
世界一可愛いからこそ、別に家に居場所がなくたって何も問題は無い。世界そのものが可愛い俺を受け入れるに決まってるのだから。
だからいつも通り、俺は五条悟をぶっ倒してアイツに俺の可愛さを認めさせる。世界で一番可愛いという、俺の価値を示すんだ。
「大丈夫。だって俺は、世界一可愛いんだから」
きっとそれが、俺がこの世界に存在していい理由になってくれるのだから。