TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
ちょっとだけ恋鈴の家族のお話が続きます。
とりあえず、現状の俺の術式の性能を纏めるとこんな感じだ。
①射程平均100m程の相手の敵意を感知し、それに応じた負の思考を読み取る。特性上隠したいと思う気持ちが強いほど簡単に読み取れる。距離に関しては縛りと集中力で延ばせる。
②ある程度読み取る思考は精査でき、戦闘中は攻撃や手札に関することに集中できる。
③上記二つを無視して無差別に思考が流れ込むことがある。これは現在制御が出来ない。
①と②に関しては、これは縛りの足し引き算で強化できるし、解釈の幅がある。
だが③は、現状の術式性能から考えると明らかに暴走だ。「術式使いこなせないとかいっちゃんダサいやん。そんならまだ術式ナシの才能ナシの方が、才能持っとんのに使えんゴミよりマシやな」とか直哉なら言うだろう。誰がゴミだこの野郎。
しかしこれ、ほんとに困る。
最近は直哉との訓練中に急に流れ込んだりしてきて、つい集中が途切れてしまいアイツの攻撃モロに食らって、手を抜いたと思われてぶちギレられたりしたんだよね。
女の子の顔殴っといてそこにキレるのはさすが直哉。こいつの安心感は段違いだ。
と、言うわけで。
「
俺の目の前には、代々安楽家の当主に伝わっているらしい記録帳。
この前お父様の思考を盗聴しちゃった時、ついでに隠し場所やそこの封の解き方も叩き込まれてしまったのだ。
お願いすれば見せてくれそうではあるけれど、今までわがまま全開の可愛い娘をしていた分、最近さすがに弁えるべきなんじゃないかと思ってるし、そういうわけでこっそり読んでこっそり返す。きっとこれが正解だ。
……とか自分に言い訳しているが、ぶっちゃけ顔を合わせるのが気まずいのだ。
あの二人の心の内はあれが全てでは無い。特に暴走した『覚ノ改』は無作為に相手の負の感情の混じった思考を読み取るような術式だ。別に気にする必要なんてない。俺は可愛いし。
わかってるつもりだったんだけどな。
今の俺はずっと、どこまでが本当でどこからが嘘だったのか、その境界のことばかり考えている。
本人に聞いたって出ないであろう答えも、この術式はいつか暴いてしまうかもしれない。その前に、俺はこの術式を制御できるようにしたい。
緊張しながら、ゆっくりと俺は記録帳のページを捲る。
「うん、全然わかんねぇわ」
もう清々しいくらい分からなかった。
明治時代の先代のモノと思われる記載も、やたら古い感じの雰囲気で書かれていて現代日本語と英語チョットワカルな典型的現代日本人である俺には、読み解くのはあまりにハードルが高い。
しかも一部には暗号が使われてるっぽく明らかにおかしな記述もちらほら見られた。こういうのは名家のお坊ちゃん……直哉とかなら読めそうだけど一応安楽家の秘伝の代物だしなぁ。
そもそも直哉に頼んだら「女の子が頭良くてもなんも価値ないもんな。やっぱ無知で男の言うことなんでも肯定できる方が可愛げあってええと思うで」とか言うだけ言って絶対内容教えてくれない。俺は可愛げがあるんじゃなくて可愛いんだよ。
せっかくだけど、読めないものは仕方ない。
バレる前にさっさと戻して忘れておこう。そう思い部屋の戸を開けると。
「……千春、さんじゃないですか」
「どうかなされましたか、お嬢様」
先日の術式暴走の一件から、なんとなく避けてしまっていた千春とちょうど鉢合わせてしまった。
そして俺の手には、当主だけが目を通すことを許される記録帳。まぁ使用人である千春がこれが何なのかは分からないだろうから良いのだが、それはそれとしてちょっと気まずい。
「最近何か私を避けているようなところありませんか? 不満があるのならば言ってくだされば改善しますが」
「強いて言うなら、もうちょっと俺に優しい言葉で接して欲しいかな……」
「それは……申し訳ありません。私のポリシーに関するものなので承諾しかね……」
バレないように、記録帳を隠そうとした俺の動きを千春は見逃してくれなかった。
そして、記録帳を見た千春は血相を変えて突然俺を突き飛ばして無理やりそれを奪おうとしてきた。
「え、ち、千春!?」
「読んだのですか!? ご当主様の許可無く!」
あまりの剣幕につい気圧され、非術師である彼女に俺はあっさり本を奪われてしまう。
やばい、千春もこの記録帳のことはお父様から知ってたのかな。これ後でめちゃくちゃ怒られるんじゃ……。
「か、勝手に持ち出したのは本当にごめんなさい。でも、内容は全然分からなかったから……」
「そう、ですか。それなら……ッ!」
一瞬安堵した千春の顔が、直ぐに険しいものに変わる。
そして俺はその理由を身をもって理解してしまう。千春はきっと、この本の内容を俺に読まれたくなかったのだろう。
つまり、千春はこの本の内容を解読している。
そして、今この瞬間それを俺に『知られたくない』と考えてしまった。内に秘めたいと嘘で隠すその思いを、『覚ノ改』は容赦なく盗み出す。
「……千春、これって」
「お嬢様! どうしてご当主様の言うことを聞かなかったんですか!」
見たこともないくらいに千春は怒っていた。
いつも無表情で、せいぜいため息を吐くか呪術的現象を目にしてあっさり気絶するかくらいしか、俺の前では表情を変えない彼女が泣きそうな顔で、俺を怒鳴りつけている。
でもそんなことより、俺が気になったのは記録帳の内容。それも千春が俺に最も知られたくないと考えていたであろう部分の話。
明治時代のこの術式の所有者の没年、21歳。
その前は19、その前は16、その前は14、その前は18。
歴代のこの術式の保有者は、誰もが若くして死亡している。
それは何も祟りなどといった話ではなく、もっと単純な理由。
術式『覚ノ改』は、幼少期は特定条件下での読心を可能にする術式であるが、術者の成長と共にその性能は格段に上昇していく。それも、所有者が耐えられないほどに。
無条件、無作為での悪意ある精神情報の抽出。10代後半になる頃には常に悪性情報によって思考を妨害され、ほぼ自発的思考が出来なくなり20になる頃には廃人になり死亡する。
それがこの術式の真実。
唯一の例外は、六眼などによる先天的な処理能力の上昇。唯一初代のこの術式の保有者のみが、その二つを併せ持つことによって天寿を全うしている。
「なんで、教えてくれなかったんだよ……」
「現代医学の力ならば、25歳までは延命可能です。子を産むことに関しても、何も問題は───」
「そうじゃ、ねぇよ」
千春は心を隠すのが上手いのか、こんな状況でも彼女の心から読み取れるのは、彼女が口にしてる通りの情報だけ。
もっと理由があると信じたかった。
きっと何かを隠してると思いたい。俺が自分の寿命を憂いて自殺とかしないようにって、そういうことを考えてくれてるんだって。
「言ってくれなきゃ、わかんねぇだろ……」
千春は何も答えてくれはしなかった。
ただ一言、心の声と全く同じ言葉。
「ごめんね、恋鈴。全部私が悪いの」
その全部とやらも語ってくれやしないのに、その謝罪にどれだけの意味があるのだろうか。
そんなこと、千春に言えるはずもなかった。
「あー、マジでどうしよう」
さすがに長くても25歳で死ぬと言われたのはショックだった。
だって俺の美貌なら、死ぬまでずっと別の味を出し続けるタイプの美貌だし。25歳の大人の色気ムンムンの俺とか、今とは別方向に可愛いに違いないのに、それを見れないのは悔しすぎる。
「千春は、なんで言わなかったんだろうな」
結局千春はお父様に伝えなかったのか、まるで何事も無かったかのように時間は過ぎていった。彼女の心は相変わらず俺に敵意は無いのか読めないままだし、あの記録帳に関して彼女から何かを口にすることは無かった。
俺がわかってるのは一つだけ。
千春もお父様も、俺に嘘を吐いている。こんなクソみたいな術式なのに、分かることがそれだけなんて本当に最悪だ。
それだけわかっても、何を信じればいいかなんて分かるわけないだろ。
本当に、俺はこれからどうすりゃいいんだよ。
「ま、考えてもしょうがねぇか」
千春とお父様に関しては保留、とりあえず今は信じない方向でいくしかない。
早急に解決すべきは術式問題と、五条悟に勝つ方法だ。
多分だが俺は先代達とは比べ物にならないくらいに術師としての才能に秀でている。反転術式と黒閃を経ての精密な呪力操作、これがあれば多少は問題を先送りできるはずだ。
タイムリミットは25歳。
短く見積って22歳としておこう。それでもまだ10年以上ある。五条悟に勝ってからでも俺の命に関するあれこれを考えるのは遅くない。
それに解決法ならもう既に思いついたしね。
術式というのは脳が深く関わっている。
脳の構造が術師と非術師の違いだと、原作で言われていた。『覚ノ改』は恐らく術式の成長と脳の成長のバランスが狂ってしまっているのだ。
形のない術式というものの成長をどうこうすることは、俺に出来る話ではない。
──────だが、それが出来る術式を俺は知っている。
無為転変。
魂の形を変えることによりその変化を肉体に伝播させる、人間への畏れから生まれた呪霊、真人が所有していた術式。
真人自身が生まれるまで待っていたら間に合わない。だが、呪いは廻り続けるものである以上彼の『先代』である呪霊がこの世界のどこかに存在する可能性は十分にある。
そしてもう一つが、仮にその呪霊がいたとして俺の治療の為に使用できるように調伏する術式。
呪霊操術と、その保有者である夏油傑。
彼に真人の先代を取り込ませ、操ることで俺の脳を術式に合わせた形に最適化して貰う。
幾つもの仮定を積み重ねた、現実味のないプランだと自分でも思う。
でもこれが俺が生きる為の道程。
「大丈夫。俺はこんなに可愛いんだから、出来るって」
五条悟に勝つことも、術式を治療することも両方進めていかなくちゃならない。両方とも、俺が俺として生きていくためには絶対に曲げてはいけないのだ。
どんなに理不尽でも、何も信じられなくても、こんな呪い塗れの腐った世界でも。それでも俺は生きている。
一つの部屋以外の世界を知らない無知の中でなく。
歩くことすらままならない不自由の中でなく。
家族の顔すら知ることのなかった孤独の中でなく。
この世界に生まれた時から、ずっと。
「──────俺は、生きてていいんだから」
「ごめなさい、お母さん。ごめんなさい、お父さん。ごめんね、恋鈴」
明かりのひとつも無い真っ暗な部屋で、千春は虚空に語りかけるように謝罪を繰り返す。
どう見てもまともな精神状態ではなく、しかしこれが彼女にとっての普通。彼女がただの『千春』になった時から、彼女はずっと千春なのだ。
「三人の人生を狂わせて、踏みにじって、そこまでしてようやく生きられるような出来損ないで、本当にごめんなさい」
恋鈴は道具だ。
自分達が、安楽家の人間が生きていく為に使い潰すべき道具だ。その為に彼女は生まれたのだから、そうすることは何も間違っていない。
──────そうやって、父のように狂えることは幸せなことなのか、不幸なことなのか。
きっとそれを判断する資格すら自分にはない。
血の繋がり、思いの繋がり、名前に込められた、千の春の如き祈り。
そういうものを壊してでしか、この世界に在ることの出来ない。呪いに支配されたこの世界では生きることが許されない。
「どうして、私にこんなものを与えたんですか」
メガネをかけていないはずの千春の視界に、蠅頭の姿が映り込む。
正確には彼女にはその姿は見えていない。彼女の視覚は呪いを捉える能力が無く、彼女の肉体の能力は非術師のそれである。
だが、もしもの話だ。
もしも彼女が、呪力で構成された蠅頭以外の
自分に見えないもの以外の全てを捉えられるその目は、果たして本当に呪いが
「どうして私にこんなものを与えて、あの子にはこんな運命を、なんで、なんで──────」
安楽家の女として必要なものを何一つとして持って産まれなかった少女。
果たして、その代わりに天は彼女に一体何を与えてしまったのだろうか。
恋鈴は過酷な運命を決定づけられても、それに抗う術を持っている人間です。どんなに辛くても頑張って生きようとするんだと思います。
千春は欲しいものが何一つ与えられず、助ける術すら与えられなかった人間です。どんなに辛くても生きるしかないんだと思います。
二人ともお互いのことが好きなので、どちらかが死ぬまでこれからも不器用に主と使用人として生きていくと思います。