TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
あ、やばい。
無理だこれ。俺が負けるわ。
お互いに近接戦闘になったことにより、付かず離れずの距離を意識しながらの拳と掌の応酬の中で、俺はこのままじゃ自分が負けることに気がついた。
理由はシンプルな話だが、反転術式を使用しなければダメージを与えられないという点だ。
反転術式は呪力と呪力を掛け合わせて生み出した正のエネルギーを使用する。つまり、通常の呪力運用の二倍の出力を要する。俺の術式は元がオートである為めちゃくちゃ燃費は良いのだが、それでも反転術式を使い続ければ呪力はいずれ切れる。
「どうしたの? さっきから恋鈴ちゃん、顔が険しくて可愛くないよ?」
「あ? 何言ってんだお前俺は険しい顔も可愛いだろ」
「きゃは、そうだねそうだね! 強がってる顔も可愛いよ!」
突き出された掌を躱した、と思ったら関節が急に何十個も増えたような曲がり方をしながら、『無為転変』の発動条件である掌が俺の二の腕を掠める。
肉が蠢き変形し始めると同時に、呪力による自動防御で肉を切り落とし、カウンターとして真凜の顎に反転術式を叩き込む。
「ふふ、まだまだアタシは戦えそうだけど、そっちは!?」
「もちろん余裕だよ、こんにゃろ」
正確に言えば、だ。
多分今の一撃にもっと正のエネルギーを込めてれば、一撃で脳にあたる部位を破壊して消滅させることは出来ていた。つまり、勝とうと思えば勝てるのだ。
だが、コイツを殺してしまえば俺の寿命問題を解決する手法が無くなってしまう。
かと言ってこのまま生け捕りにしようとすれば、俺の呪力の方が先に尽きる。
……先走りしすぎたな。
術式反転『覚露』を使えばワンチャン捕まえることが出来るが、失敗するとほぼ確実な死が待っている。
もう逃げ出したいところだが、さすがに逃亡となると手札の多い向こうに対して、心が読めるだけの俺では少し面倒。
せめて一瞬、コイツの気を逸らすことが出来たならなぁ。
例えば全然関係ない、囮にしても心が痛まないタイプの人間。直哉がいいな。直哉がたまたま通りかかってくれるとか。アイツ素早いから囮になっても逃げ切れるだろうし。
「───お嬢様」
そんな俺の祈りが天に通じたのか。
クソッタレの神様とやらは、俺の願いを最悪な形で叶えやがった。
路地裏に現れたのは直哉みたいなどうでもいいやつではなく、千春だった。
非術師であり、呪いへの対抗手段も呪力による強化もない彼女が、真凜に狙われたらどうなるか。
「恋鈴ちゃんの、知り合いかな? 可愛いねぇ、食べちゃいたいくらい」
「黙ってろ殺すぞブス」
「キャハ、祓うでしょ? 恋鈴ちゃん」
真凜の身体がふたつに分裂し、片方が俺の足止めを、もう片方が千春の方へと走り出す。
どうする、どうするどうするどうする!?
原作で真人が同じように分裂した時、無為転変を使えたのは片方だけ。
真凜もどうやら同じようで、千春に向かわせた分身の方は心の声を読む限りは無為転変を使うことは出来ない。
一刻も早く千春を助けるためには、俺を止めている方をぶちのめす必要がある。
だが、その方式を今行うと警戒されているだろう。
足止めしてる方に術式を残している以上、無理に突破しようとするとカウンターの無為転変で先に俺が死ぬ。
さすがにさっき見せた術式反転は警戒されているだろうから、触らせてくれるとは思えない。
千春の方に目を向ける。
彼女は自分に迫り来る呪霊ではなく、俺の方を真っ直ぐと見ていた。呪術界に生まれ、非術師として生きてきた彼女ならば、呪霊の恐ろしさは知っているはずなのに、そんなものに目もくれずただ俺を見ている。
仕方ない、こちらも手札を一枚切るとしよう。
「ふぅん、そんなにあの子が大事なんだ」
「当たり前だろ。千春は俺の……」
家族、って言えたら楽なんだけど。
「大切な人、だからな」
「自分よりも大切って、なんだかいいよね。可愛いよ、恋鈴ちゃん」
拳を握り殴り抜く構えを見せた俺に対して、掌を構える。俺が先程見せた術式反転を警戒しつつ、殴りに来たならカウンターで俺を仕留めるつもりだろう。
……術式反転『覚露』。
掌で触れた相手の動きに制限をかけて、失敗した場合0.7秒動きをフリーズさせる。
この術式開示は
術式反転は反転術式で生み出した正のエネルギーを肉体に刻まれた術式に流し込むという過程を踏まえる都合上、燃費も悪ければ発動も僅かに遅れる。
そこまでやって出来ることが、投射呪法の下位互換とか直哉に鼻で笑われるに決まっている。
覚露の効果は、覚ノ改の反転術式らしく俺の精神の伝達だ。
より正確に言えば、俺の記憶の伝播。
呪力を伴った攻撃を受けた際の俺の感覚を、相手に伝播することによって相手はかつて俺が受けた記憶から自分でその術式を『受けた』と認識してしまう。
───つまり、起きる結果は『術式の模倣』。
一度俺がその身で効果を受けたモノかつ、相手に直接影響を与える代物限定ではあるが。
「術式反転『覚露』」
欠点は、俺が受けた時のイメージを強く思い出す必要があることと、あくまで俺が受けたイメージを相手に伝えるだけなので、即死するような効果は俺が受けて生き延びてない以上は発動できないし、思い出す過程で俺も僅かに効果を受ける。
だいたい3:7。
俺がかつて受けた術式効果を、俺が触れている相手がその身に受ける。それが俺の術式反転だ。
俺は最初に一度、───無為転変を食らっている。
「……え?」
反転術式を流し込まれても、腕からならば致命傷にならないのと、触れれば俺に致命傷を与えられる。
その思い込みから、俺の拳に重ねるように突き出された真凜の掌に、俺の拳が触れる。
千春が見てるんだ。
可愛いところしか見せたくない。
最高に可愛い俺の全力を、煌めかせる。
その思いに、呪いの火花は微笑んだ。
黒閃
「ギャッ───!?」
無為転変を併用し、魂を捉えた一撃を受けた真凜の身体が千切れながら大きく吹き飛ぶ。
腕で受けきれなかった衝撃からか、斜め上に吹き飛んで色々なものをぶちまけながらビルの壁にその体が叩きつけられる。
黒閃の衝撃で術式を乱されたのか、接触した右腕も肌が焼けただれて感覚が鈍くなるだけで済んでいる。
あとは千春の方に駆け寄る真凜の半身をぶちのめす。
あちらには術式が無いはずだから、脳に直接反転術式をぶち込めば───。
「……づぅ!?」
走り出そうとした足に、突然激痛が走り体が強ばる。
さっきまで無かったはずの痛みに困惑するが、恐らくこれは術式反転『覚露』の反動だ。
一度自身が受けたことのある術式の効果を10として、3:7の割合で自身と触れた相手の精神に再現させる。
投射呪法の場合、24fpsで動きを作らなければ俺が0.3秒、相手が0.7秒フリーズする。このデメリットに関しては俺は直哉と殴り合いし過ぎて向こうから仕掛けられるならまだしも、自分のタイミングで準備できるなら実質踏み倒せるのだが。
無為転変の場合、魂に触れてその形を変形させる、という効果の再現になる。
発動したその触れた一瞬だけなら俺は相手の魂の形を捉えられる。受けた効果に関しては小指一本だけなので致命傷にはならないが、そもそも魂さえ捉えられればいいのでそこは良い。
問題は、俺の方に降りかかる『3割』の質だ。
魂を捻じ曲げられるそのダメージは、どうやら肉体のどこに降りかかるか分からないようだ。恐らく今回は足のどこかの神経が変形を起こしたのだろう。
……脳の一部や心臓に変形が起きなかっただけ幸運。
でも、今の状況において脚にダメージが入るのは致命的だ。
「千春、逃げろ!」
「お嬢様、気にせず本体を!」
そう言われても全然千春の方が俺にとって大事なんだよ!
本体をぶち殺せば分身は消える。黒閃を喰らって完全にグロッキーになっている今の真凜を殺すのは難しくはない。
だがやっぱり、間に合わな──────
「今です、夏油様!」
「潰せ!」
その時、千春の背後に黒い球体が現れてそこから巨大な壁のような呪霊が現れる。
大きく、動きはノロマ。だが非常に硬質な体を持ち合わせているようで、切り刻んで突破しようとした真凜の分身の変形した腕が、逆にへし折れた。
「夏油〜!!! かっこ良すぎる!」
「安楽さんはそっちの本体を!」
千春が無策で首を突っ込んでくるとは思わなかったけど、夏油を連れてきてくれるとは。
マジで最高だ。これなら、ここで真凜を夏油に取り込ませることも出来るし、千春の安全については夏油がいれば心配することはほとんど無い。相手にダメージを与えられなくても、呪霊操術の手数を突破して夏油と千春を殺すのは至難の技だ。
これで安心して、真凜をぶちのめせる!
立ち上がることも出来ずに、千切れ飛んだ腕の修復に意識を割いている。
最初に相対した時と比べれば、呪力総量はもはや一割にも満たない。完全に油断した状況で黒閃をぶち込めたのは幸いだ。
まぁ俺も無為転変を再現した反動とか触れられた部分を削ぎ落としたりで失血ギリギリ、右手右足の神経がイカレ、反転術式回しすぎて呪力の残量カスではあるんだけど、黒閃をキメた影響で思考は冴えている。
今の俺が真凜に遅れを取ることはない。
とにかく死なない程度にボコボコにして、夏油に取り込ませる。
まずは倒れている真凜の顔面に向けて、反転術式を込めた蹴りをぶち込む!
「……あぁ、なるほど。そういうこと」
真凜に攻撃が当たる直前。
なにかに気づいた彼女は愉しそうに笑い、それからその思考が流れ込んでくる。
呪力によるガードどころか、魂の形を変形させて自らの頭部───呪霊としての核への防御を完全に解いた。
この薄さなら、少量の反転術式のアウトプットでも十分に真凜を殺すことが
「テメェ……」
咄嗟に正のエネルギーを霧散させ、普通に真凜の顔面を蹴り飛ばす。思考を読めていなかったらそのまま殺してしまっていたであろう。
魂を捉えてなければ正のエネルギーもない一撃は、真凜にダメージを与えられず吹き飛ばすだけ。
さらに、真凜は予め作っておいたであろう翼を顕にして空へと飛び立つ。
「きゃは、きゃはははは! 恋鈴ちゃんってほんと可愛いね! 最高に可愛い! だから、次会うときはアタシの方が可愛くなるから……そっちのお姉ちゃんとお友達、ちゃんと守り切れるといいね!」
「待ちやが……」
「はーい、後方注意!」
追いかけようとした俺の背後から、夏油達を相手にしていた分身が迫ってくる。
こいつは術式が使えないので思考は読めている。攻撃を躱して、肘を顔面にぶち込んでそのまま反転術式を流し込んで消し飛ばす。
わかっていた。
この一連の行動は、アイツが笑った時点で読めていたのに、俺ですら対処が思いつかなかった土壇場での発想だった。
それこそ、蹴りが直撃するほんの一秒前までアイツはどうやってこの一撃を躱して俺を殺すか考えていたのだ。それが、次の瞬間にはこの逃げる作戦に切り替わった
良くも悪くも誇りがない。
だがその自由さを、心が読めるという点で考慮していなかった俺のミスだ。
小指一本、右手脚の神経と皮膚。
向こうは9割五分の呪力消費。
痛み分けと言いたいところだが、俺が失ったものはあまりにも大きかった。
「お嬢様、私言いましたよね? 絶対戦闘しないって。あの被害者の遺体の様子、間違いなくこれまでの呪霊とは格が違います。故に何があっても、情報の少ない現段階では絶対に──────」
「千春さん、落ち着いてください。あの呪霊も相当な深手です。恐らく数日はまともに動くことも出来ないでしょう。その間被害は食い止められるし、捜索の時間も出来るんですから」
ホテルの一室で治療を終えると、表情を一切変えずに千春はものすごい早口で俺を責め立ててきた。
夏油が千春を宥めてくれているが、全然止まる様子はない。
「というか夏油、まだ学校終わってない時間じゃなかった?」
「千春さんが窓に張り付いてて……さすがに授業に集中できそうになかったからね。でも、間に合ってよかったよ」
「疲れました。分子間力を働かせるのは」
「張り付いてたってなにかの比喩だよな?」
窓に張り付いていた云々は置いておくとして、実際今回は千春に助けられた。
あの状況、俺の反応から千春を利用できると真凜が考えて、それで俺との格闘戦が疎かになってくれたからそこの隙を突けたけど、本気の勝負になってたら多分かなり厳しかった。
真凜を殺すか、もっと酷い怪我を負うことになっていた。その点で言えば俺は間違いなく千春に助けて貰ったのだ。
だから正直言うと、今回はさすがに千春に頭が上がらないのだが……。
「お嬢様。追撃は他の術師に任せましょう。明確な知性を持ち会話が可能な呪霊。3級であるお嬢様の手に余る事案です」
絶対こう言われると思ったから、ちょっと気まずかったんだよな。
「いや、アイツは俺が仕留める。そもそも万年人手不足の呪術界に、俺並にアイツと戦えるやつなんて……」
「五条悟様」
「それは……そうなんだけど……」
しかし現状のアイツでは魂を知覚出来ないので、殺す手法が限られる。
真凜を殺せる術師なんて、それこそ九十九由基の術式で概念を無視するか、領域展開を使える術師くらいしか居ないけれどそもそもそんな術師そうそういない。
それに、アイツを祓われたら俺の寿命問題が解決しなくなる。
「お嬢様は安楽家の一人娘。その体にもしものことがあったら……」
「……25で死ぬのは、もしものことに入らないのかよ」
思わず漏れてしまった言葉が、言う必要なんてない言葉であることはわかっていた。それでも、その言葉を抑えることはできなかった。
千春は俺を心配してくれている。
そうでなければ非術師が呪霊の前に立つことなんてできるはずも無い。夏油の存在を隠して、自らを囮にして千春は真凜の気を引いたのだ。
千春は俺の事を大切にしてくれている。
だからこそ、俺はその優しさに不安にさせられるのだ。
俺も千春のことが大切だ。実際姉らしいし、そうでなくても本当に姉のように慕っている。
……俺はそう思っているけれど、千春は?
千春にとっての俺の『大切』さって、なんなんだろう。
それを聞いてしまうことも、覗くことも恐ろしい。もしもそれが最悪の結果だったら、俺は自分がどうなってしまうか分からない。
「……ごめん千春。俺の可愛い小指ちゃんが千切られて、ちょっとショックだったんだ」
「いえ、私の方も出過ぎた言葉でした。現場の判断は、術師であるお嬢様がするべきことだったでしょう」
千春はそれ以降何も言わず、夏油を連れて部屋から出ていってしまう。
絶対にもっと言うべきことがあったし、言う必要のないことがあった。わかってるのに、それが上手くいかない。
心が読めるのに、こんな簡単なことも出来ないなんて。俺って本当に見た目以外はダメなやつなのかもしれない。
「いいんですか千春さん」
「何がでしょう、夏油様」
「私は貴方とはつい昨日出会ったばかりですし、安楽さんの家の事情も知りません。ですが……」
息を切らして、冷静さもかなぐり捨てて。
泣きそうになりながら自分の下に駆けつけてきて「お嬢様を助けて」と口にしていた千春の様子を考えれば、夏油の中でその時の彼女の様子と先程の言動が、あまりに一致しない。
「安楽さんだって、千春さんを見たら真っ先に貴方を助けようとするくらいには大切している様子でしたよ」
なのになんで。
まるでお互いがお互いを突き放すような言動。歩み寄れるのにその距離を詰めない行動。
「私の言葉は、どうやっても呪いになってしまいますから」
千春という女性のその姿は、あまりに悲しく夏油の目には映っていた。
術式反転『覚露』
覚ノ改の術式反転。
自身が記憶している術式によって攻撃を受けた記憶を、触れた相手の意識に直接送り込むことにより、相手はその術式を『受けた』と錯覚する。これにより相手自身の錯覚で擬似的に一度受けた術式効果を再現する。
ただし、恋鈴の記憶である為威力は多少落ちる。加えて高精度で伝られるほどに深く思い出す必要と、受けた相手の精神を読み取ってしまう為本人も反作用として術式効果を受ける。
その作用と反作用に関しては、恋鈴がかつて受けた効果を10とするなら、7:3の割合となる。
投射呪法に関してはほぼノーデメリットで使用できるが、無為転変の場合は反作用によって魂の変形がどこに効果を及ぼすか未知数の為、乱用はできない。
また、自分が受けた効果の再現である為、無下限呪術のバリアや投射呪法の加速などと言った術者本人を対象としている術式効果は再現出来ない。