TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
「見つからねぇなぁ〜。あの負傷じゃそう遠くには逃げれてないはずなんだけど」
昼間から街の中をぶらぶらと出歩き真凜の気配を探るが、一向にそれらしいものは見つからない。
見つかったら困るとアイツが考えれば、すぐに俺の術式が拾うので、100m以内にいるならすぐに分かるはずだが、中々見つからない。
「夏油、呪霊の方はどうなんだ?」
「ダメだね。出来るだけ感覚の鋭いものを使っているが見つかる様子は無い」
昨日までと違うところは、横に夏油がいること。
真凜という呪霊を一目見てその強大な呪力に気が付き、さすがに学校に行っている場合では無いと、サボって俺に同行してくれている。
「しかし、もしもまたやつと戦闘になったとしてだ。今の安楽さんの状態で勝てるのかい?」
「大丈夫。俺はアイツより可愛いから」
「安楽さんって、心配するだけこっちが損するタイプだよね」
なんかちょっとトゲのある突き放し方された気がするけど、夏油の言わんとしていることは分かる。
無為転変による怪我は通常の方法では治癒できない。
魂そのものの形を変えられたことによる二次被害であるため、魂の形の方を元に戻さなければ傷が治らないのだ。
現在俺は右手の小指を失い、皮膚が焼け爛れたようになって常に激痛を発し、神経に僅かに鈍りを覚えている。
あとは右脚の痛覚がイカれたのか、踏み込む度に激痛を発している。
脚の方は痛いだけなのでまだマシだが、右手は感覚が完全におかしくなってしまっている。向こうも傷が深いとはいえ、早めに見つけないと俺の方が不利なのは明白だ。
「闇雲に探して見つかるものでもない。それに、負傷が簡単に治らないのは向こうも同じだ」
真凜は本来動くことも出来ないほどの負傷具合だったはずだ。
あの傷は放っておいて治るようなものでは無い。呪力の回復しやすい所謂霊地で、長時間の休養を経てようやく本調子になる傷のはずだ。
加えて、アイツは自分のことを可愛いと言っていた。
「いいか夏油。可愛いやつにとって一番嫌いなのは可愛さを認めてこない相手と、可愛さを否定してくる相手だ」
「何の話だい?」
「アイツは必ず俺を殺しにくる。つまり、この街のどこかの霊地で休養しつつ俺にトドメを刺す機会を狙っているんだ」
「最初からそういえば良くないか?」
「…………はい」
「とりあえずそれならば、霊地とやらに襲撃をかけるのがいいんじゃないのかい?」
「それはそうだが、ここで問題が一つある」
霊地はそう多くはない。だから、手当り次第探れば直ぐに見つかりはするだろう。
だが、恐らくこの街に真凜より強力な呪霊はいない、というか居たら困る。とにかくそれによって霊地は元々真凜の拠点のようなモノになっているだろう。
夏油が協力してくれるとは言っているが、それでも奴の『無為転変』はまともに喰らえば1ヒットで即死。相手の本拠地に攻め込むのは幾ら心が読めるからと言って危険すぎる。
「心の声の探査範囲を広げれば半径1kmくらいは網羅できる。その中から真凜を見つけるのはちょっと精神削るが、それも出来なくはない。だが、あの呪霊の本拠地に何があるかまで読むには、100m以内に近づいてアイツの心を直接読む必要がある」
「あの呪霊は知性があった。安楽さんは、あの呪霊はそちらの術式の対策をしてきているはずだと言いたいんだね?」
さすが夏油、呪術に関する勘が良い。
つまり攻めるにしてもこちらに不利がある。
最悪、改造人間100体とか出されたらそのどさくさに紛れて俺か夏油のどちらかが潰され、二人とも殺される可能性だってある。
「夏油、俺が渡した呪霊は……」
「全員取り込んだよ。弱っていたから私一人でも取り込めた」
彼自身、意図した訳では無いだろう。
だが伝わってくるのは、呪霊を飲み込む時のその味の感覚。吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みするかのような不快な体験を思い出しながらも、夏油は表情一つ変えない。
「……悪かったな」
「もしかして、私の感情も読み取れるのかい?」
「負の感情だけな。嫌だとか、隠したいとか、知られたくないとか。そういう感情は無条件に読み取っちまうんだ」
「謝ることは無い。戦力強化のために私が選んだ道だし、何より心を読むことは安楽さんにとってだって辛いことだろう?」
……夏油、幾らなんでも人が出来すぎていないか?
本当につい先日会ったばかりの俺の術式の悩みを察した上で話してくれるし、たまに素で辛辣なことを言うけどそれ以外は優しいし。
「それに、私は安楽さんに勝手に自分を重ねてるんだよ」
「俺可愛いもんな……」
「そこじゃなくてね? 私はナルシストじゃないし。……君はきっと、術式で心が読めることで、誰にも語れないし理解されない。そういうモノがあったはずだって」
「まぁ……俺には千春がいてくれたし。そっちのが辛かっただろ」
「信頼してるんだね、千春さんのこと」
信頼というか、千春は命の恩人みたいなものだからな。
千春と俺の出会いは、同じ家に住んでいるので当然であるが生まれてすぐの頃。
生まれてからずっと俺は死にかけていたらしい。
らしい、というのは俺はその頃の記憶が混濁していて殆どない。前世も病気で死んだので、その苦しみがそのまま続いているような感覚。いつ自分が転生したのかも自覚出来ないくらいにずっと苦しかった。
そんな俺をずっと看病してくれたのが千春だった。
俺の最初の記憶は、傷だらけの手と酷いクマを作って、それでも俺に笑いかけてくれている千春の顔だったのだ。
感覚としてだけど、千春がずっと俺のそばに居て、見守ってくれていた。もう助からないと諦められて、誰も俺を助けてくれなかった前世と違って、千春は俺が苦しいと言わずとも助けてくれたのだ。
その後4歳の頃、術式を自覚した影響で心の声がずっと絶え間なく聞こえてきた時もそうだ。
まだ制御に慣れていなくて、家の外に出ればドロドロの人間の悪意を拾ってしまって、それが怖くて怖くてずっと震えていた。
『大丈夫ですよお嬢様。お嬢様は大丈夫です』
『でも、みんな俺の事を、刺すみたいに、気持ち悪い感情向けて……』
『……大丈夫です。だって、だって……お嬢様は──────』
こんなに、可愛いんですから。
そう言って千春が見せてくれた鏡に映っていた俺は、確かに可愛かった。
『でも、可愛いだけじゃ……』
『大丈夫です。お嬢様は世界一可愛くて、すごくて、だから、何も心配なんて必要ないんです』
『そうかなぁ……そうかも……』
『そうですよ。だって、お嬢様はこんなに……可愛いんですから』
そう言って俺を抱きしめて頭を撫でてくれた千春の声は、今にも泣き出してしまいそうだったことをよく覚えている。
俺はその時、すごく安心すると共に、この人には泣いて欲しくないなと、そう思ったんだ。
「まぁそんなわけで、俺は千春がずっと一緒で支えてくれたんだよ」
「なるほど、千春さんの影響だったのか……」
言われてみれば、今の俺がいるのは千春のおかげだったかもしれない。
千春が居てくれなかったら、俺はずっと聞こえてくる心の声に苛まれてもっと卑屈な性格になっていただろうし、25歳で死ぬと言われてもなんとも思わなかったかもしれない。
千春のおかげで、俺は自分を大事にしたいと思えるようになったんだ。
夏油に対して、彼が俺にシンパシーを感じてるように、俺も感じているのは否定しない。
ずっと誰にも理解して貰えない苦しさがあったはずなのに、それでもその苦しさを理由に自分を曲げることはしなかった。
たった一人、呪いと戦い理解されなくても平穏を守る選択をしていたんだ。
俺は彼に自分を重ねているし、彼は俺なんかよりもずっとすごいとわかっている。だからこそ、俺は彼にとっての千春になってあげたいと思っているのかもしれない。
「だけどそれなら、どうして安楽さんは千春さんを遠ざけているんだい?」
「…………遠ざけてる? そんなこと……ないですが……」
「さすがにそれは無理があるだろう。私は君の家の事情等は分からないけれど、君は千春さんのことを信頼しているのに、距離を置いている」
「あんま、そういうのって踏み込まない方が良いとか思わないか?」
「思わなくもないけれど、私は伝えられないことで苦しんだ人間だからね。安楽さんと言う伝えられる人間がいることが今はすごく気が楽だし、伝えられる相手がいるのに伝えないこと。声にしなかったことはきっといつか後悔に───」
「それこそ、呪いになってしまうんじゃないかって」
原作では、夏油傑は呪詛師に堕ちる。
守るべき弱者としていた非術師を猿と罵り、鏖殺する道を選んだ。守りたいものを守るという理想の為に。
その呪いを吐き出すことではなく、親友と道を違えることを選んだのだ。
しかし今の彼はそんなことは知らないし、そんな経験を踏まえての言葉ではない。
俺の事を本気で心配して、真面目に助言をくれている。呪術師として先輩風吹かせていたけれど、前の真凜との戦いと言い助けられてばっかりだ。
「でもさぁ……千春って絶対色々我慢してるじゃん」
「自覚あったんだね」
「え?」
「あ……」
我慢って、呪術界とかのあれこれのつもりだったんだけど……。
「ほら! 絶対こうなるもん! 俺千春にこう扱われたら舌噛み切る自信あるぞ!?」
「いや落ち着いて、確かに安楽さんは面倒くさそうなところとか話の腰を折ってくるところがあるけど」
「お前俺の味方なんだよな!? 呪いの言葉しか吐いてねぇぞ!」
「おかしいな……。私は安楽さんのことかなり信頼しているし感謝をしているんだけど、それはそれとしてどうかなって思う部分が思いついてしまって」
さっきからサラッと言ってくる本音が、悪意とかなくスルスル出てくるあたり直哉とかと話してる時よりキツイんだけど!? 助けてあげた補正入れてこれってこと!?
「とにかく、安楽さんと千春さんは一度腹を割って話すべきだ。そういう悩みを一度捨て去ることも、戦いの前準備としては必要なんじゃないかな?」
「確かに雑念は呪力制御に影響を与えるけど……どうすればいいのか俺わかんないし……」
「悪いがアドバイスはここまでだ。残念ながら、私も人と腹を割って話したのは君が初めてだからね」
千春にずっと言いたかったこと。
音にしたいはずなのに、喉の奥に隠された言葉。
たとえそれが呪いになってしまったとしても。
俺と千春を分かつ決定的なものになってしまったとしても。さすがにそろそろ目を背けている場合ではない、ということなのかもしれない。
「夏油。千春に言う前に、お前に言っておきたいことがある」
「私に?」
「俺は……あの呪霊を祓うつもりは無い。お前に取り込んでもらいたいと思っているんだ」
「……強力な呪霊だ。気持ちはわかるが危険過ぎる。今の私が調伏出来るまで弱らせるのは、祓うことよりも難易度が高いだろう」
「あぁ。でも、あの呪霊の術式が無いと、俺は25歳で確実に死ぬ」
「ッ!? それはどういうことだい、安楽さん」
「理由は後で説明する。とりあえず、力を貸してくれるかだけ……」
「君には恩があるし、そんなものなくても助けるさ」
ほんと、良い奴だな夏油。
突っぱねられるんじゃないかって怖かった。でも言ってみれば、そんだけ心配になるほど嫌われたくないと思うような相手が、理由もなしに突っぱねる方がそうそうない話だってわかるのに。
これを千春に出来ないというのは、俺は自分で思うよりもずっと千春のことが大切ということなんだろう。
真凜の言葉が脳裏に蘇る。
「そっちのお姉ちゃんとお友達、ちゃんと守り切れるといいね!」
アイツは明確に、標的に夏油と千春を出していた。
俺の友人と、大切な千春を狙うと堂々と言いやがったのだ。
よし、ぶちのめそう。
死なない程度にぶちのめして、何がなんでも捕まえる。そしてついでに、俺の方が可愛いって、絶対にアイツにも認めさせてやる。