TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話   作:ちぇんそー娘

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千春さんの過去話です。






18.千の春

 

 

 

 私の生まれた日は、まるでその生誕を祝うかのように桜が咲き乱れていたらしい。だから私の名前は千春、千の春を迎えたかのようなその様相から取られたらしい。

 

 

 

 

 千の春なんて大層な名前を付けられただけあって、私は特別な子供だった。

 1歳になる頃には自我がはっきりしていたし、2歳になる頃には言語を習熟していた。

 私の両親は親バカで、「千春はきっと天才なんだ……可愛いし」で済ませてしまっていたが、天才とか早熟なんてレベルじゃないと思う。

 

 両親は本当に親バカだったから、私が家の中にある本をどんな風に読もうとも何も文句は言ってこなかった。

 

 

 だから私は、両親の口から伝えられるよりも早く『呪術師』という職業について本の中で知ることになった。

 

 

 安楽家がどういう家なのか、呪術師というものがどういうものなのか。

 それを学んだ時、私は特にその在り方について疑問は持たなかったし、効率的だと思った。

 

 だって、これは普通の人間には荷が重すぎる。

 こんなことを続けていたら、どんな高潔な魂も最後には穢れる。それを一族という言葉が使われるほどに行い続けているのだ。

 

 呪術師なんて全部クソ。

 でも、だからこそ彼らは呪いに打ち勝てるんだと思う。

 

 毒を制するために産まれたより強い毒。

 

 安楽家に生まれた私の役目は、そんなイカれた血筋が絶えないように手助けをすること。オブラートな表現を抜けば孕袋。最低でもその役割を果たせれば、最低限の生活は保証される。

 

 安楽家は呪術師の中では幸福な家だ。

 そんな家に産まれた私も、比較的幸福な人間だ。

 

 

 どれだけクソみたいな環境でも。

 どれだけ腐った思考回路の人間ばかりでも。

 

 私は生きてていいって言われている。

 孕袋としてでも役割がある。賢い女は男を立てられないから嫌われる、というのはマイナスポイントだが、安楽家では男よりも女の方が価値は高い。

 

 私には役割がある。

 それはきっととても幸せなことで、両親だって私の事を──────。

 

 

 

「千春の才能を因習ハウスに押込めるなんてナンセンスだと思わない? 絶対千春にはやりたいことやらせるべきよ。こんなに好奇心旺盛で良い子なのよ?」

「その通りだなぁ。千春は何になりたい? パパのお嫁さんとか?」

「……お嫁さん」

「パパの!?」

「年収3000万以上で、呪術師じゃない人の」

「見ろ! 千春は目標がデカい! きっと将来大物になるぞ!」

「あなた、まずは涙拭いてね?」

 

 おかしい。

 うちにある本に書いてあったことと、両親の態度が全く違う。

 

 安楽家は大した力もない分家。その家の娘にこの先どうこうするなんて選択権、あるわけが無い。五条の家に男児が生まれれば、その子供を産むために妻になる。できるだけ多く産んで、産んで、多分弱って死ぬ。

 

 

「そんなこと考えなくていいのよ。千春が成りたいものを考えれば、私達はそれを応援するから」

「そうだぞ。この家に生まれたからって、お前の生き方の全てが決まるわけじゃないんだ」

 

 

 なのに、私の両親はずっとそう言って私を育ててきた。

 安楽家はここ最近女児に恵まれず、家としての立場もだいぶ悪くなっていた。現当主である父は結構な名家の生まれながらも相伝の術式を持って産まれて来れなかったという理由で、家を追放され母の実家である安楽家の血を絶やさない為に当主に据えられたらしい。

 

 母も似たような経緯で、『女』の術師なんて必要ないと捨てられて、五条の家から父に宛てがわれたらしい。

 

 このクソみたいな呪術界の構造の被害者。

 成り上がるために私を道具として利用すれば、今まで自分たちを苦しめてきていた人間達と同じ立場になれる。得ができる。

 

 それでも私の両親は、子である私に呪いを託さないことを選んだ。

 

「呪いが見えない……? まぁそういうこともあるだろ。術式だって必要ない。そんなものなくたって千春は千春だ」

 

 娘に呪術師としての才能がなくても、父さんは全く態度を変えなかった。

 情報と利権を武器に、正真正銘のバケモノだらけの呪術界で私達が生きていくための基盤を作ろうとしてくれていた。

 

「ごめんね千春。やっぱり、一人は子供を産まないとダメみたい。でも、それさえ出来れば貴方は自由になれるわ。何がなんでも、私たちがそうする」

 

 呪いとは廻るモノ。

 幾年月を経て、積み重ねられた呪縛からは誰も逃れられない。それでも私の両親は、私をこの呪いの連鎖から断ち切る茨の道を選んだ。

 

 私の両親は良い人だ。

 子の健やかな成長を祈り、その人生が少しでもマシなモノになるように己の全てを捧げようとしている。

 

「お父さん、私……」

「どうした千春?」

「やりたいこと、まだ見つからない。でも、絶対いつか見つけるね」

「別に無いなら無理に見つけなくてもいいんだよ。千春は、千春でいいんだから」

 

 こんな世界で、私は夢を見ることを許して貰えた。

 

 ──────私は本当に幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天与呪縛──────この子は生まれつき持って生まれるはずだった呪力量と()()()()を失っている。肉体としては全く異常がないのに、決して子をなせない呪いだよ。代わりに、この子は脳と瞳が少々特別なようだねぇ」

 

 そして、その幸せの全てを壊したのも、私だった。

 

 天与呪縛。

 それによって私が生殖能力を持たないことがわかったのは、12歳の誕生日を迎える前だった。

 

 娘を嫁として差し出し、子供を二人は産ませる。

 その条件によって私は学校に通うことも、条件を満たせば家と縁を切る事も許されるはずだった。

 娘の為に何とか父が漕ぎ着けたその縛りを、根本から壊してしまったのは他ならぬ私。

 

「大丈夫。千春ちゃんが悪いことなんて、ひとつも無いんだから」

 

 家を守る為には、生殖能力のある後継者が必要。

 上からの圧力に逆らえず、体の弱い母を無理やり身ごもらせた結果、妹を産んで母さんは死んだ。

 

 母さんが死んですぐ、父さんは私との親子の縁を切り、私に安楽を名乗ることを禁じた。

 私にとってその日から、父さんはご当主様になり、妹はご主人様になった。

 

 両親の娘ではなく、身寄りがなく安楽に引き取られた娘になった私は、外の世界での居場所を失った。そもそも母さんが死んだ日に勉強道具なんて全部捨てたから関係がない話ではあるのだったけど。

 

「お前は私の娘じゃない。だが、お前だけは何としても、たとえ普通の人生を歩めないとしても、絶対に幸せにしてやる」

 

 それでも父は、私を見捨ててくれはしなかった。

 最愛の妻を失い、娘を娘として扱うことも許されなくなった。何もかも失っても、父は私を幸せにすると言って、その為にまずは家が潰されないようにできることを何でもした。

 

 

 多分、それが原因だったんだろう。

 

 

 娘の幸せを第一に考えるような優しい人に、私は自分の娘を家の為の道具として扱うことを強いてしまった。

 

 娘を守る為に、もう一人の娘を捨てる。

 私という役立たずを守るためには、安楽家という居場所が必要だ。そしてそれを守るためには、生まれてきたもう一人の娘を道具のように扱い、五条家との交渉材料にするしかない。

 

 優しい父はその矛盾に耐えられず、徐々に心を壊していった。どっちが本音でどっちが建前だったか、多分今のあの人はもうあまり理解していない。

 

 あの人はただ家を守るために、心を無にした。

 いや、私がそうさせてしまったんだ。

 

 父の心も、母の命も、妹の未来も。

 何もかも私が奪ったんだ。生まれるべきじゃなかった出来損ないで、ゴミクズで、誰も幸せにすることは出来ないくせに、誰かを不幸にすることばかりは一人前の安楽家の汚点。

 

 

 生まれた私の妹は、母胎に無理をさせた影響かずっと生死の境をさ迷っていた。

 閉鎖的な環境。病院に連れていくことも許されず、弱った赤子の面倒は全て私に任されていた。

 

 お前らが望んだ子なんだから、お前らが責任もって面倒を見ろ、なんてこと言えば父さんの首が飛ぶ。

 医学の本を読み漁って対処法を探し、下がらない熱にずっと不安にされ、体も拭いてやるし冷えたタオルを頭に乗せてやるためにずっと使われていた手は赤切れで血塗れになっている。

 

 私は、不幸な人間なんだろうか。

 きっとそれは違う。こんなになっても私はまだ生存を許されている。私は生きることを許されてしまっていた。

 

 日に日に別人のようになっていく父さんを、もう変わることの無い遺影の中の母さんの顔も、熱に魘され苦しむ妹の顔も。

 

 私の眼は、必要以上によく見てしまう。

 

 それでも私は幸福だ。

 何もかも私に奪われた、私の家族達と比べれば普通に生きることが出来ている。その事実が堪らなく苦しかった。

 

 もういっその事、妹と一緒に死んでしまえたらどれだけ楽だろうか。

 

 あぁ、それはいいかもしれない。

 きっと私と妹が死んだら、父さんも後を追うだろう。きっと私は地獄にいくけれど、もうこれ以上父さんも妹も苦しむことは無い。

 

 朧気な思考の中で、私はゆっくりと妹の首に手を伸ばす。

 私のような人間だって赤子を殺すくらいは出来てしまう。何せ、人から奪うことに関しては私は最悪なくらいに上手なのだから。

 

 

 そんな私を見て、妹はどんな顔をするのだろうか。

 赤子って意外と鋭いらしいし、案外抵抗したりするのかな。赤子に憎悪や嫌悪を抱かれるとなるとさすがに辛いけれど、辛いのもこれが最後だって思えば止まる理由もない。

 

 ゆっくりと、首をへし折るべく手を伸ばす私に妹が向けた表情は──────。

 

 

 

 

 

「なん……で。なんで、なの?」

 

 

 

 

 

 妹は──────恋鈴は私を見るなり、安心したように微笑んで寝息を立て始めた。

 

 よくよく考えてみたら、それは当然だ。

 生まれてからずっとこの子の面倒は私が見ていた。この子にとって母親は私であり、私はいつだってこの子の為に行動していた。

 

 私を信じて、この子は目を閉じたんだ。

 それがわかってしまえば、もう涙が止まらなくなってしまった。

 

 この子は私を信じてくれたのに、私はなんてことをしようとしたのか。

 そして、私はこの子にどれだけ辛い運命を与えてしまったのか。この子はこれから地獄のような人生を送ることになる。全て私のせいで、私がこの子にその地獄を与えるのに、この子は私を見て、笑ってくれたんだ。

 

「ごめんね、ごめんね恋鈴。ごめんね。お姉ちゃんが、何があっても守るから」

 

 母さんに似た薄い色素の髪に、私によく似た目鼻立ち。

 まだ幼子なのに将来は絶世の美女になることが確約された、本当に愛らしい寝顔。

 

 塵芥にも劣る畜生に成り果てようとしていた私を、最低の人間に留まらせてくれたこの子が、せめて一時でも幸せになれるように祈りたかった。

 

 けれど、祈ることすら私には許されないことを思い出し、それでも私は祈るしかなかった。

 

 

 奪うなら私からにしてください。

 私はもう十分幸せですから、だからもう私の大切な人達から、これ以上何も奪わないでください。

 

 

 

 

 

 

 








安楽 千春
恋鈴の実の姉。本来なら持って産まれてくる安楽の体質と呪力、そして生殖能力と引き換えに『驚異的な視覚とそれを使いこなせる頭脳』を持つ、天与呪縛の持ち主。
基本的に呪術に関わらないことであれば引く手数多の才能であり、安楽家の女として必要なものを何も持たなかった女。

妹が欲しいと小さい頃思っていた時期があったが、子供の作り方を知っていたし母の体が弱いのも知っていたので口に出したことはなかった。


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