TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
生まれて初めて、自分の姿を認識した時に真凜が思ったことはただ一つ。
アタシってめちゃくちゃ可愛くね?
真凜はこの世のあらゆるものよりも自分が優れていないと我慢ならなかった。
何故と聞かれても、鳥が空を飛ぶ羽を持っているように、人が道具を扱う腕を持つように、真凜はその欲求を持って生まれた、それだけの話なので言葉にするのは難しい。
だから、本能の向くままに人を殺し、自分の性能を磨いた。
魂を変形させるこの術式。極めることで自分は更に強くなれる。いつか誰も届かない地平に辿り着ける。
世界で一番、可愛い存在になれる。
他者を超えたいという人間が持つ心理を色濃く反映したのが、真凜という呪いだった。
故に、真凜にとって最も許せないものは己よりも可愛いと思う存在。そんなもの、生まれてから一度も見たことは無かったが、もし居たとしたら絶対に殺す。何があっても殺して、その魂の美しさを解明し、己に反映する。
「可愛いかったなぁ、恋鈴ちゃん。なんであんなに可愛いんだろう。食べ物とかなのかな? それともお化粧?」
傷を癒しながら、魂の形を練り直し真凜は考える。
可愛さと強さは必ずしも繋がるものでは無いが、何かを極めた時に辿り着く場所は同じではある。可愛さを極めた真凜が辿り着く場所は、間違いなく恋鈴が今いる場所よりも遠い何処かだ。
あの美少女を超えたい。
だが、あの美少女が自分より何を上回っているかを理解しなければ、きっと超えることは出来ない。
「あの黒い呪力も可愛かったなぁ。お姉さんもお友達も可愛かった。そういえばアタシにはお友達って居ないしなぁ」
前回の戦闘。
恋鈴の術式反転の効果は『触れている相手』にしか効果がない。そのせいで黒閃の衝撃が、真凜の体に触れたことで『無為転変』を真凜を対象に発動するよりも先に発生してしまっていた。
故に真凜が受けたのは本来の黒閃の半分にも満たない力。
それでも魂の九割五分を消し飛ばされて、抉るような傷は未だにほとんど回復出来ていない。
相手が殺す気だったら負けていた。それを理解しているからこそ、真凜はひたすらに思考を巡らせていた。
見つかるまでにかかる時間はそう長くない。それまでに、傷はどの程度まで治るだろうか? 最悪、半分以下の調子で戦うことになる。
それでも全力で回復と術式解釈に時間を注ぎ、次の戦闘で確実に恋鈴を上回る。
「なるほど、廃工場ですか。かつて神社がありましたが、火事で全焼。その後工場が建てられるも呪霊の坩堝となり廃業。雑多な呪霊の気配と機械によって霊地の気配が消されて、隠れるのは最適ですね」
真凜の思惑を全て切り裂くように、結界内に侵入者が現れた。
髪の色以外は恋鈴と似通った容姿のその女性が、恋鈴の血縁者であることに、真凜は魂の形からすぐに気がついた。
不可解なのはその女性がどこから侵入してきたかだ。
術師の脳を変形させる過程でその記憶も読んでいた真凜は、結界術についても学んでいた。呪力を持った存在が近づいてくれば間違いなく気付く。非術師ですら多少の呪力を持っているのだ。
「っかしいなぁ……。罠とかもあったはずなんだけど、どうやってここまで来たの?」
「生憎私の取り柄は『目』だけなもので。あの程度の罠ならば無いのとさして変わりません」
銃口が真凜に向けられるが、真凜は表情一つ変えることは無い。
呪霊に通常兵器が効果を発揮することは無い。加えて、『無為転変』により魂を知覚している真凜には、魂を知覚していない攻撃は効かないのだ。
「それで? 目がいいからって勘違いしてここに乗り込んできちゃったってわけ?」
「いえ。私以上に私の無価値さを知る人間などいませんから。ここには交渉に来ました」
「交渉?」
「はい。貴方がお嬢様を助ける代わりに、私はこの場で
千春の言うことに、真凜は疑問しか無かった。
まず恋鈴を助けるとか死んでも嫌だし、自分がその縛りに賛同する理由───見逃すという言葉が理解できなかった。
「見逃すって、こっちのセリフじゃない? あぁ、前に吐いた捨て台詞なら少しでも恋鈴ちゃんの意識を削りたかっただけで、別に本当に君たちを狙ってるわけじゃないよ。ぶっちゃけアタシ、今は恋鈴ちゃん以外あんまり興味無いし」
「鈍いですね。これが見えてないんですか?」
手に持った銃を見せびらかしてくる千春に、真凜は思わずため息を漏らしてしまう。なんでこんなことも理解できないやつが、あれほどの術師のそばに居るのか。
「いいよ、撃ってみなよ。だけどそうしたらアタシは正当防衛するから……」
「では一発。急所は外しますね」
引き金が引かれ、銃弾が真凜の足を貫いた。
弾丸に事前に呪力が込められていたのか、それは呪霊である真凜の肉体を捉え、穿たれた穴から血が溢れ出す。
そして、その傷は
「ッ!? 今の攻撃、魂を……」
「二度は言いません。私の取り柄は目だけであり、私はここに交渉に来ました」
銃弾は呪力が込められているだけで、特別な代物ではない。
だと言うのに真凜に傷を負わせられた理由はただ一つ。
千春に与えられた天与呪縛。
本来持って生まれるはずだった術式と呪力に加え、安楽の女にとって最も大切である生殖能力。
代わりに彼女の瞳は、この世の呪力以外のあらゆるものを捉えている。
魂であろうとも、それは例外では無い。
呪霊にトドメをさせなかった恋鈴の様子を見て、私はなんとなく事情を察知していた。
真凜という女性形の呪霊の術式は、魂に干渉することで自他の肉体を変形させる『無為転変』。
術式と脳の関係についての研究は未だ進んでいない。
だが、私は術式と脳には深い繋がりがあると考えているし、多分恋鈴もそう考えた。
だから、恋鈴は真凜を殺すことができなかった。
自分が助かる可能性である真凜を殺すことに躊躇いがある以上、真凜と恋鈴が再び戦うことになればその弱みを利用される。
恋鈴は優しい子だし、自分が好きだし、何より良くも悪くも純粋な子だ。
あんな最悪の術式を持って生まれたのに、誰かを信じることをやめない時点で私の妹にしては出来すぎた子だ。
だからこそ彼女は『呪い』に勝てない。
彼女のような人間は、この世界では利用され、絞り尽くされ、ゴミのように果てることになる。私の母のように。
「──────すごい。すごいすごいすごい! 非術師で魂を認識できるなんて、一体どんな脳の構造をしてるの!? 目がいいって言ってたけど、それでアタシの痕跡も辿ってきたってこと!? すごいなぁ、すっごく可愛いね!」
「交渉に乗るか乗らないか、答えを言ってください」
驚いた素振りこそしているが、呪霊は冷静さを失っていない。
だがこの呪霊はやはり高い知性を持つ。だから私の特別な目に興味を示し、すぐに殺しにくるという選択はしなかった。
「内容によるけど、言うだけ言ってみて? さすがにここから逃がすだけってのはふかしでしょ?」
「今から話す内容は他言無用。これも縛りです」
「りょーかい」
「こちらが提供するものは三つ。万全な状態まで回復できる程度には安全な隠れ家の提供、この街から脱出する方法、そして今後私はお嬢様に危害が及ばない行為に限り、貴方の命令を
「……へぇ」
恋鈴との戦闘の反応と聞いた話からして、この呪霊は恐らくほぼ無敵に近い防御性能を持っていたはずだ。
ここからは賭けだった。
この呪霊の術式で言うところの『魂』を捉えられるという私の希少性。そしてこの呪霊が持つ恋鈴への執着と、私と彼女の血の繋がり。
「具体的には、どれくらいのことをしてくれるの?」
「私の知る限りの呪術師の動きを全て伝える、違法取引されている呪具の流れを『事故』にして提供すること、貴方が強くなるための『実験体』の提供」
「非術師1人がそんなものどうやって用意するのか……ってのは、その『目』があればなんとでもなる、か。でもいいの?」
心の柔らかい部分を削るように、呪霊の瞳が楽しそうに細まる。
「それって、呪霊に手を貸すってことだよね? そんなことしたら、君は処刑対象でしょ? バレたら大変だよ〜?」
その言葉の答えは、もう出ている。
きっとこの為に父さんは私を安楽の人間では無くしたのだ。私が何をしようが、それは使用人の暴走であり家そのものの罪科にはなり得ない。
25で死ぬのはもしものことか、と問いかけてきましたね。
もちろん、もしものことに入ります。だからどんな手を使っても、私が恋鈴を助ける。
その為ならば私の命も、他の誰の命だってどうでもいい。
だからもうこれ以上、あの子から何も奪わせはしない。
「私の命一つで、安楽家の当主の悩みが一つ解消できるなら。───私の命にも価値があったと言えるでしょう」
「キャハ、ハハハハハ! 可愛いねぇ、これが人間の献身ってやつ? アタシは他者を蹴落す人間の本質が滲み出てるからなのか分からないけどさぁ、そういうの全然理解できないの。でもすっごく可愛いと思う!」
「こちらからの要求は一つ。恋鈴の治療、貴方が無為転変で負わせた負傷はもちろんのこと、恋鈴は術式によって自らの精神に負荷をかけて寿命は25歳程と考えられています」
「そんなこと、アタシに教えちゃってもいいの?」
「他言無用の縛りがあります。それに、貴方が寿命で勝ち逃げしようとしてくれるなら、私としては恋鈴が貴方に殺されるよりは幾分マシな選択ですので」
「えぇ〜。恋鈴ちゃんがアタシに勝つって信じてないの?」
「あの子は貴方と違って優しいんです。勝敗以前に、恋鈴は最初から貴方に負けている要素なんて一つとしてありません」
「お、いいのかそんなこと言って? アタシはまだ協力するなんて言ってないけど?」
恋鈴との勝敗について触れると、真凜は分かりやすく機嫌の悪そうな顔を作る。
……最悪、交渉が決裂して私が殺されたとしてもそれだけだ。
少しでも恋鈴お嬢様が勝つ可能性……捕獲できる可能性を上げるために弱らせるまで。
「待って待って、銃を下ろして。その話、割とありだとは考えてるから」
その言葉を聞いて、少し銃口を下げる。
まだ縛りを承認した訳では無い。油断は禁物だ。
「アタシはまだまだ強くなれる。そして恋鈴ちゃんもきっと一緒でしょ? なら、ここで勝敗を決めるより、お互い回復して、成長してから殺し合いたいもん!」
嘘を吐いている様子は無い。
本心でこれならば、縛りを結んでも問題ないはずだ。
久しく忘れていた、心からの喜びが滲み出す。
ようやく私の番が回ってきてくれた。
皆から奪い続けてきた私の命を、恋鈴の為に使うことが出来る。それで私は幸せだし、恋鈴の未来を一つ救うことが出来る。
あの子の辛い運命は、まだまだ沢山あるけれど、それでも私に出来るのはせいぜいがこれだけだ。
「それじゃあ、正式に縛りを結ぼうか、お姉さん?」
強いて言うならば、一つだけ。
あの子の未来を隣でずっと支えてあげたい。
──────あの笑顔をずっと見ていたいけれど、それは私には過ぎた願いだ。
「うひょぉぉぉぉぉぉ!!! 百鬼夜行ってすげぇぇぇぇ!!!」
「安楽さん! 安楽さん! ……恋鈴! 君ほんと危なっかしいからあんまり前に出ないで!」
廃工場の壁が突如として破られる。
現れたのは魑魅魍魎。正しく百鬼夜行と形容されるべき、呪霊の軍勢。
「……え、えぇ、恋鈴に、夏油様!?」
「ちょっとちょっと、話が違くない? というか罠……全部呪霊を盾に最短距離でぶち破ってきたの!?」
その上には恋鈴に夏油様の姿。
それを見た真凜は、私に構うことなく二人と距離を取って己の肉体を変形させ、戦闘態勢になった。
間違いなく、もう縛りは結べない。
恋鈴では勝つならまだしも、この呪霊を捕獲しようとすれば間違いなく殺されてしまうのに。
なんで、どうして。
「どうして、どうして来たの! 恋鈴!」
「千春にプレゼントがあってさ。夏油が選ぶの手伝ってくれたんだけど……どう? お揃いのヘアピン」
そう言って、恋鈴は笑って見せた。
いつものように、この世のものとは思えない美貌の笑みを、私に向けてくれていた。
「まぁまずはそれよりも先に……真凜、テメェに真の可愛さってやつを教えてやるよ」
「キャハハ! 恋鈴ちゃんってホント意味わかんない! でも、だからこそ──────全部を知悉して、もっと可愛くしてあげる」
私の人生は、ずっと呪いが付き纏っていた。私にはその呪いを振り払う力は無かったけれど。
でも恋鈴には力がある。
自分で未来を選び取り掴む力が。
「つまり千春は俺より可愛いけれど俺は千春より可愛いんだよ!」
「なるほど……それはすごく可愛いってコト!?」
それはそれとして恋鈴と真凜の話している内容は全然分からない。
姉妹なのに、たまにあの子の言っていることは本当に分からないなぁ、と。
そう思って、私達は姉妹なんだということを改めて思い出していた。