TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話   作:ちぇんそー娘

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20.一陽来復 ①

 

 

 

 

「おい見ろよ……鏡に美少女が映ってる……俺か……」

「バカしか映ってないよ」

「は? 美少女だろ」

「じゃあバカの美少女で」

「それならいいよ」

「いいんだ……」

 

 でも、千春と仲直りした方がいいって言ったの夏油じゃん。

 

 だからその為に、仲直りのプレゼントを探しに雑貨屋に入って、いい感じのヘアピンをお揃いで買ったはいいんだけど。

 

「どうやって渡せばいいんだ……?」

「長い付き合いなんだろう? 誕生日とかにプレゼントは渡さなかったのかい?」

「えー、夏油はそういうのどうしてる?」

「私は両親以外に渡す機会がなくてね……。バレンタインですら、全員匿名の菓子しかくれないから返す機会がなくて……」

 

 結構気軽に話してくれてるから忘れてたけど、夏油って呪霊が見えるせいで周りから距離を置かれてたんだった。

 

 それでもバレンタイン貰ってるのはなんなんだよ、雰囲気イケメンすぎるからなのかよ。

 

 

 千春には昔、一度だけ誕生日プレゼントを渡そうとしたことがあったんだよな。

 でもその時、当主の娘が使用人にうんぬんかんぬんとか、すごい怒られたんだよね、千春に。

 思えばあれが初めて千春に怒られた事だったな。信じられないくらい怒ってたものだから、あれ以降千春にプレゼントを渡そうだなんて考えもしないくらいのトラウマになっていた。

 

 そんなわけでプレゼントを渡す時のイメージが浮かんでこない。

 どうすればいいものかと悩んでいると、俺の脳内に一つの『声』が届いた。

 

「どうしたんだい安楽さん。急に黙って」

「千春の声が聞こえた。この先の廃工場だ」

「……それはおかしい。千春さんは今、君の拠点移動に別のホテルへ移動中のはずだ」

「いや、間違いなく千春の心の声だった」

 

 千春の心の声が聞こえた回数は数えられるほどでしかない。

 術式の暴走を除いたらそれこそ、プレゼントを渡した時の『怒り』やこの術式の秘密を知ってしまった時の『隠したい』という感情くらい。

 

 基本的に千春は、俺にほとんど負の感情を向けない。

 術式のことを知っていたんだろうし、元々千春は感情を制御するのが上手な人間だ。

 

「それで、千春さんの声はなんて言っていたんだい?」

「ごめん、って」

 

 聞こえてきた千春の声は、俺への謝罪の声だった。

 彼女の身に何があってそんなことになっているのかは分からない。でも、千春が謝る時はいつも決まって、心を押し殺している時だ。

 

 いつもそうだ。

 言いたいことも、言うべきことも、言ってはいけないことも。千春は全部『ごめんなさい』という言葉に押し殺して、俺に何も話してくれない。心の声でまで俺に謝るなんて筋金入り過ぎる。

 

「夏油、行こう。多分千春の身に何かあった」

「罠の可能性……千春さんを奴が囮として使っている可能性は?」

「なんでもいい。千春を助ける」

「わかった。作戦はあるんだね?」

 

 ぶっちゃけ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油が現在所有している、戦力として最低限数えられる呪霊の数は158体。

 そのうちの85体が、真凜の罠を強行突破する為に消滅、もしくは継続戦闘不能のダメージを受けた。

 

 残り73体の中で、真凜に決定的なダメージや隙を生み出せる呪霊は3体。あとの呪霊は撹乱と防御の為の盾程度に考えるべき。そう判断した恋鈴は、夏油には千春の護衛に専念するようにと伝えていた。

 

「大丈夫? その手と足でアタシを倒せるの?」

「お前こそなんだその肌、紙やすりか? そんな調子で俺に勝てると思ってんの?」

 

 お互い強がっているが、やっぱり前回の戦闘の負傷が尾を引いている。

 恋鈴の脳に届く心の声から、真凜の呪力はまだ最大時の2割にも満たない程度にしか回復していない。

 

 

「無為転ぺ───」

「やらせっかよ」

 

 

 即座に変形しようとした真凜の顎に、狙い済ました恋鈴の投擲が命中する。

 無為転変による変形は、一瞬呪力の溜めが存在する。加えて恋鈴はほとんどの動きを術式により事前に読み取っている。大技を出す隙は絶対に与えない。

 

 ダメージは与えられなくとも、人間の形をしている以上頭部に強い衝撃を受ければ、体勢は大きく揺らぐ。

 

(今だ、一撃! とにかく一撃で殺す!)

 

 戦いが長引けば長引くほど、ただでさえ前回の傷で動きが鈍っている恋鈴は不可逆のダメージを負い続ける。

 

 故に取った行動は、先手の一撃で真凜を行動不能にすること。

 

「へぇ、いいのか、なぁ!?」

 

 それを察知した真凜はあえて防御に回す呪力を減らす。

 下手に一撃を加えてしまえば、真凜を殺してしまいかねないほどにその防御を解く。

 

 千春から聞いた情報と併せて、恋鈴が自分を殺せない理由を真凜は完全に理解していた。だからこそ、選択肢にそれを組み込み、それを利用した。

 

 

「うるせぇ、死ね」

「───ッ、うそっ」

 

 

 削岩機が岩を削るかのような轟音が、廃工場の中に轟く。

 拳を叩き込まれた真凜の体が大きく吹き飛び、口からは大量の血を吐き出しながらも笑みを崩さず目の前の恋鈴を見つめ続けている。

 

 ノーガードになった真凜の腹に向けて、恋鈴は全身全霊。術式反転を交えることによって『無為転変』を併用した打撃を叩き込んだ。

 直前でそれに気づいた真凜が全呪力を防御に回さなければ、その時点で勝負は付いていただろう。

 

「ちょっとぉ、アタシが死んじゃったらどうするつもりだったの?」

「っち、黒閃出せるくらいの気持ちで撃ったんだけどなぁ」

「だから、あの黒いの撃たれたらアタシ、さすがに死ぬからね?」

「そのつもりだったんだよ。こんにゃろ」

 

 神経異常。

 前回の戦闘で無為転変により恋鈴の右腕は、若干の感覚の鈍りを受けていた。その鈍りが影響して、打撃と呪力の衝突の感覚にズレが生じている。

 

 利き腕では黒閃が出せない。

 勝負を早く付けたい恋鈴にとっては、あまりにも大きいハンデだった。

 

 加えて、恋鈴の術式反転で『無為転変』を使えば、その反動として魂の形が若干変形させられる。

 

 恋鈴は背中に焼け付くような痛みを感じていた。

 神経ではなく、どこかの血管が引きちぎれたのだろう。やはり乱用は危険。これもあって一撃で仕留めたかったのだ。

 

 

 

「なんで……今の一撃、下手したら真凜を殺してしまっていましたよ!?」

 

 そして一連の流れを見て一番驚いていたのは千春だった。

 恋鈴の寿命問題解決の為に、無為転変を持つ真凜は必須。だからこそ恋鈴は真凜を最初仕留め損なった。

 

 だと言うのに、今恋鈴は真凜を殺すことを一切躊躇わなかった。

 前回の行動と矛盾している。その理由が千春は分からず、困惑して───。

 

「千春さんなら、理由はわかるでしょう」

「……わかりません。お嬢様は、自分の寿命問題の解決の為あの呪霊が必要なのに、殺すつもりで攻撃なんて」

「本当に、分からないんですか?」

 

 夏油にそう問い掛けられて、千春は言葉に詰まった。

 

 もしかして、という理由は一つある。

 だがそれを口にすることは自分には許されない。そんな事実を夢想することなんて、あまりに烏滸がましい。自分勝手だ。夢の見すぎだ。

 

「恋鈴は貴方の身に何か起きたことを悟ってからここに来るまで、何一つ迷っていませんでした。ここに来た理由は、ただ()()()()()()です」

「貴方に、貴方に私達の問題の何がわかるんですか」

「私には恋鈴や千春さんが背負っているものはわかりません。ですが、恋鈴も、そして千春さんも。お互いを守る為に、お互いの全てを捨てる覚悟がある。───それなのに、ちゃんと言葉を交わさないのはあまりに悲しいことだと、思ったんです」

 

 恋鈴はここに、自分を助ける為に来た。

 寿命という問題すら考えるのをやめて、ただ千春を助けることだけを考えて戦っている。

 

 恋鈴にとって、自分がそれだけ大切な人間である事実。

 自分にとって、恋鈴は同じように大切な存在である心。

 

 

「貴方達は、凄く良く似た姉妹だと思いますよ」

 

 

 ずっと、誰かにそう言って欲しかった。

 けれどその言葉を受け入れることは、自分を許すことになってしまう。

 

 だから目を背けていた。

 鏡に映る自分の顔があの子に似ていると感じる度に目を閉じて。あの子が自分に向けてくれる好意を、全部屁理屈で跳ね除けて。憎まれ口を叩いて少しでも嫌われようとして。

 

 それでも、あの子を愛している自分だけは曲げられなかった。

 

「申し訳ありません、私達の問題に、貴方を巻き込んでしまいました」

「いいんですよ。この街の為にもあの呪いは祓わなければなりませんし、私自身もとても救われましたから」

「貴方のような方が、お嬢様の友達になってくれて良かったですよ」

 

 いつの間にか、恋鈴は大きくなっていた。

 身長も伸びて、美しさに磨きがかかり、ようやくまともそうな男友達も出来ていた。

 

 私もいい加減、前に進まなきゃいけない時なんだろう。

 

 

「夏油様、呪霊を使って一瞬足止めを」

「何をするつもりですか?」

「安心してください。私は、あの子の為になることしかしませんから……」

「わかりました。恋鈴っ!」

 

 夏油の声を聞いて、恋鈴は彼の呪力を孕んだ感情を読み取り、その意図を理解して走り出す。

 追いかける真凜を夏油の呪霊数体が足止めしながら、走りよってくる恋鈴に対して千春は何も言わず、手を差し出す。

 

 

「それ、こんな時にやること?」

「せっかくなんだもの、姉妹でしょ?」

「わかったよ。───お姉ちゃん!」

 

 

 パチン、と二人の手が重なって音を鳴らす。

 恋鈴は踵を返して真凜の方へと走り出し、千春はその背を見送りながらも更に先に佇む真凜から目を離さない。

 

「なになに? こんな時にハイタッチなんて、仲良さそうで可愛いね」

「俺達は仲良し姉妹だからな。お前と違って、俺が可愛くいられる理由は、千春が居るからなんだよ」

 

 再び恋鈴と真凜は距離を詰め、近接戦闘の構えを取る。

 真凜にとって気にするべきは、反転術式と術式反転の二つ。だが反転術式は事前の気配で察知しやすく、術式反転はリスクの大きさから必殺の一撃を叩き込むタイミング以外では使用してこないと踏んでいた。

 

 故に、恋鈴の攻撃は基本は体勢を崩す為の代物。

 そう認識していたが故に、その軽いジャブに対してあまり意識を割いていなかった。

 

 

 ──────覚ノ改、()()()()(かくり)』。

 

 

 ドッ、と。

 

 拳が真凜の体を捉える。

 体勢を崩す為の軽い一撃。だが、それを受けて真凜は驚愕に目を見開き、思わずその場から大きく後退した。

 

「どうした? そんなビビるような攻撃だったか?」

「……今の一撃、魂を」

 

 変化は二つ。

 恋鈴の瞳が淡い蒼に煌めき、背後に立つ千春の瞳もまた、同じような輝きを纏っている。

 

 そして、恋鈴の先の一撃に真凜が驚いた理由。

 その拳が間違いなく真凜の()()()()()()()。どういう理屈か、恋鈴は今、真凜の魂を完全に捉えて攻撃することが可能になっている。

 

 

「この土壇場で、どういう理屈?」

「言ったろ? 俺達は仲良し姉妹なんでね」

 

 

 

 

 

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